判例全文 | ||
【事件名】「父よ母よ!」和解事件 【年月日】平成9年1月22日 東京地裁 平成7年(ワ)第11117号 著作権に基づく損害賠償請求事件 当事者間に次のとおり和解成立 原告 甲野太郎 右訴訟代理人弁護士 中川明 右同 喜田村洋一 右同 二関辰郎 被告 乙山春男<ほか一名> 右被告両名訴訟代理人弁護士 菊池武 当裁判所は、本件について、左記の理由により和解勧告し、当事者は、右和解勧告の理由を受け入れ、別紙三和解条項のとおり、本件訴訟を終了させることを合意した。 記 一 当裁判所は、文芸書及びルポルタージュ等の書籍の題号に関して、日本文芸家協会の「文芸作品の題名に関する見解」(昭和59年4月発表)が尊重に値する見解であり、同一題号の書籍の出版が、場合によっては著作者の人格的利益の侵害となる場合があると考える。 二 当裁判所は、本件については、次のとおり考える。 1 題号の独創性について 原告は、その書籍「父よ母よ!」の内容を考慮し、熟慮の結果、その題号を決定したものであり、同題号はシンプルではあるが、同書に登場する少年達の心の叫びでもあり、同書の内容を象徴するにふさわしい題号となっているものと認められる。しかしながら、右題号は、その書籍の内容と離れて題号のみを客観的に検討すると、「父よ」「母よ」という使用頻度の高いシンプルで重要な言葉を組み合わせたものであり、その意味で題号そのものとしてみた場合に、高度の独創性があるものということはできず、このようなシンプルで重要な言葉の組合せからなる題号を特定の人にのみ独占させる結果となることは、不正の目的が認められる等の特段の事情がない限り、表現の自由の観点から見て相当ではない。 2 不正の目的について 被告書籍は、原告の書籍「父よ母よ!」を原作とした木下恵介監督の同名の映画に感銘を受けて、高校の教師である被告乙山がその授業の中で、生徒に「一行詩」の形式で父と母について記載させた一行詩の中から秀作を集め、「父よ」、「母よ」で始まるものを多数含む一行詩集であり、その題号を、「一行詩父よ母よ」とすることについては、十分に合理的理由が存在したこと、また、原告の書籍「父よ母よ!」と被告の右書籍とは、その内容、表現形式については、顕著な差異があり、書籍の内容を相互に誤認混同するおそれはほとんどないこと、被告らは、「一行詩父よ母よ」と「一行詩息子よ娘よ」の書籍を同時に販売開始しており、両者セットで企画されたものであること、以上の事実によれば、被告らには、その書籍の題号を決定するにあたって、原告書籍を模倣する意図ないし不正の目的は存在していなかったものと認められる。 三 前記二1,2によれば、被告らの行為は、前記一の見解に照らしても、著作者の人格的な利益を侵害する違法な行為であるということはできないが、被告らの書籍は、前記のとおり、原告の書籍を原作とする映画に感銘を受けたことに端を発し、高校の教師である被告乙山が授業の中で一行詩の形式で父と母について記載させたものを集めた本であり、原告の書籍と深いつながりを有するものであるところ、その題号「一行詩父よ母よ」のうち「一行詩」の部分が、その書籍の装丁や宣伝広告の一部において、題号の一部であることが結果として明瞭には表現されていない一面があったことも否定し得ず、本件の右経緯に鑑みると、被告書籍の装丁や宣伝広告においても、原告の書籍「父よ母よ!」と同一の題号と誤解されないように、道義的に配慮することが望ましかったとも考えられ、原告が本件訴訟を提起するに至ったことも理解し得るものである。 別紙三 和解条項 一 原告及び被告両名は、本和解によって本件訴訟が終了し、本件に関し原告と被告両名との間には本和解条項に定めるほか何らの債権債務もないことを相互に確認する。 二 訴訟費用は各自の負担とする。 裁判官 設楽隆一 裁判官 長谷川恭弘 |
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