判例全文 | ||
【事件名】電話帳漫画キャラクター事件(2) 【年月日】平成12年5月30日 東京高裁 平成12年(ネ)第464号 著作権侵害確認請求控訴事件 (原審・東京地裁平成11年(ワ)第20965号) (平成12年4月13日 口頭弁論終結) 判決 控訴人 【A】 被控訴人 日本電信電話株式会社 右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 升永英俊 同 松添聖史 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一 当事者の求めた裁判 一 控訴人 1 原判決を取り消す。 2 東京地方検察庁平成九年検第一九九八七号著作権違反について、平成九年一一月二五日に不起訴処分となった本件に新たな違反が行われたので確認する。 3 被控訴人は、控訴人に対し、金四五四万四八九〇円を支払え。 4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。 二 被控訴人 主文と同旨 第二 事案の概要、争点及びこれに関する当事者の主張 本件の事案の概要、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄及び「第三 争点及びこれに関する当事者の主張」欄記載のとおりであるから、これを引用する(原判決一〇頁三行目に【「〇〇〇〇〇」】とあるのは、【「〇〇〇〇〇」】の誤記であるものと認める。)。なお、当裁判所も、「控訴人漫画」及び「被控訴人イラスト」の用語を、原判決の用法に従って用いる。 一 当審における控訴人の主張の要点 1 被控訴人は、平成九年二月ころ、次のとおり、控訴人漫画に依拠して、これと類似する別紙1の被控訴人のテレビCM(以下「被控訴人CM1」という。)を作成して、テレビで放送しており、右事実からも、被控訴人イラストは控訴人漫画に依拠して製作されたものということができる。 (一) 被控訴人CM1の上から一番目の枠は、控訴人漫画の二段目の中枠に依拠している。すなわち、控訴人漫画の同枠では、手前に一体、後方左右に並んだ二体のキャラクターが配置され、右端の一体のキャラクターの眉毛は、ハの字の上下を反対にした形をしており、さらに後方に一体のキャラクターが配置されているのに対応して、被控訴人CM1の同枠では、手前に一体、後方左右に並んだ二体のキャラクターが配置され、右端の一体の眉毛は、ハの字の上下を反対にした形をしている。 (二) 被控訴人CM1の上から四番目の枠は、控訴人漫画の一段目の左枠に依拠している。すなわち、控訴人漫画の同枠では、背景の本棚の中段にいた眉毛のある一体のキャラクターが飛び出しているのに対応して、被控訴人CM1の同枠では、背景の本棚の中段に眉毛のある一体のキャラクターが存在する。これにより、さらに、同CM1の上から一番目の枠にいる眉毛のある一体のキャラクターは、本棚の中段から飛び出したものであることが伺われる。 (三) 被控訴人CM1の上から三番目の枠は、控訴人漫画の一段目の右枠に依拠している。すなわち、両者は、いずれも三体のキャラクターが上下にずれた並び方をしている点において類似している。被控訴人CM1の同枠は、三体のキャラクターを正面から見たとらえ方であるため、一見異なった並び方に見えるが、前方斜め上から見たとらえ方をすれば、控訴人漫画の同枠のキャラクターの並び方と同様である。 (四) 被控訴人CM1の上から六番目の枠外に記載された企画制作社名等から、被控訴人CM1は、被控訴人イラストの作者である【C】とは別人が制作したことが認められる。 (五) 被控訴人イラストの三体のキャラクターは、被控訴人CM1の上から一番目の枠の三体のキャラクターと配置が同様であり、手前に一体、後方左右に並んだ二体のキャラクターが配置され、後方の右端の一体のキャラクターの眉毛は、ハの字の上下を反対にした形である点が共通していることから、被控訴人イラストは、被控訴人CM1に依拠したものであることが認められる。 (六) 被控訴人CM1は、タウンページの中身のめくりかたの宣伝であるのに、背景の本棚の存在感や机の上、手前に一体、後方左右に二体のキャラクターを配置する等の控訴人漫画と類似するその構成は、右宣伝の性格とは直ちに結び付かない。これも、被控訴人CM1ひいては被控訴人イラストが控訴人漫画に依拠したものであることを根拠付けている。 2 被控訴人は、次のとおり、控訴人漫画と類似する別紙2の「タウンページの新活用」と題する被控訴人のテレビCM(以下「被控訴人CM2」という。)を作成してテレビで放送しており、右事実からも、被控訴人イラストは控訴人漫画に依拠して製作されたものということができる。 (一) 被控訴人CM2の上から二番目の枠は、控訴人漫画の一段目の右枠に依拠している。すなわち、控訴人漫画の同枠では、手前に一体、後方左右に並んだ二体のキャラクターが配置され、右端の一体のキャラクターの眉毛は、ハの字の上下を反対にした形をしており、さらに後方に一体のキャラクターが配置されているのに対応して、被控訴人CM2の同枠では、手前に一体、後方左右に並んだ二体のキャラクターが配置され、右端の一体の眉毛は、ハの字の上下を反対にした形をしている。 (二) 被控訴人CM2の上から三番目の枠は、控訴人漫画の二段目の左枠及び中枠に依拠している。すなわち、控訴人漫画の左枠では、キャラクターが机の上で原稿用紙に向かって右手を上げたままで、左手で作業を進めるために筆記具を立てた状態で持っており、さらに中枠では、手前の一体のキャラクターが机の上で原稿用紙に向かって、口を○形に開け、右手を上げたままで、左手で作業を進めているために筆記具を立てた状態で持っており、後方には左右に並んだ二体とその後方に一体のキャラクターが配置され、左右に並んだうちの一体は眉毛がハの字の上下を反対にした形をしているのに対応して、被控訴人CM2の同枠では、手前の一体のキャラクターが机の上で手帳又はノート類に向かって、口を○形に開け、右手を拡げたままで、右手の側に筆記具を立てた状態であり、後方には左右に並んだ二体のキャラクターが配置され、うち一体は、眉毛がハの字の上下を反対にした形をしている。 (三) 被控訴人イラストは、背景が、被控訴人CM2の上から四番目の枠のものと道路上の部分で一致していることから、これに依拠したものであることが認められる。 (四) 被控訴人CM2は、タウンページの新活用の宣伝であるのに、机の上の手帳又はノート類、左手側に立てた状態の筆記具、手前に一体、後方左右に二体のキャラクターを配置する等の控訴人漫画と類似する構成は、右宣伝の性格とは直ちに結び付かない。これも、被控訴人CM2ひいては被控訴人イラストが控訴人漫画に依拠したものであることを根拠付けている。 3 被控訴人イラストは、アップルコンピュータ社のコンピュータ機種であるマッキントッシュ・ツーを用いれば、容易に作成できるものであるから、独創性があるとは言い難い。 二 当審における被控訴人の主張の要点 1 控訴人は、三体のキャラクターの並び方について論じているが、三体のキャラクターの中の一体に注目を集める場合には、その一体のみを中央手前に描くのは当然すぎる手法であって、アイデアとしてもありふれている単なる「事実」にすぎない。また、控訴人漫画の一段目の右枠のキャラクターのうち手前の三体のキャラクターは水平に並ばず、上下にずれているのに対し、被控訴人イラストにおいても、被控訴人CM1、2の控訴人が問題とするいずれの枠においても、三体のキャラクターは、これとは異なった並び方をしている。 2 逆ハの字の眉毛は、表情に変化を出す際の基本であり、ありふれた表現にすぎない。また、控訴人漫画に登場するキャラクターには、その表情に応じて種々の眉毛がついているのであって、特に逆ハの字の眉毛が控訴人漫画の特徴となっているわけではない。また、控訴人漫画中の逆ハの字の眉毛は、口の形及び台詞と相まって怒りの表現を構成するものであるのに対し、被控訴人イラスト及び被控訴人CM1、2中、控訴人が逆ハの字の眉毛を有すると指摘するキャラクターは、控訴人の逆ハの字の眉毛の角度に比べ水平に近い状態にあり、かつ他のキャラクターとの大きさの対比、鼻の形、大きな口と相まって、厳めしさを表現するものである。 3 控訴人は、本棚の存在を問題とするが、本が本棚にあるのは当然である。 4 控訴人漫画の二段目の左枠では、キャラクターは泣いており、口はひょうたん形であり、鉛筆を抱えていることから、非常に小さいものであると思われる。これに対し、被控訴人CM2のうち上から三番目の枠では、キャラクターは、泣いておらず、口は楕円形であり、鉛筆は持っておらず、手帳との大きさを比較すれば、控訴人のキャラクターよりもはるかに大きい。右両キャラクターは類似していない。 第三 当裁判所の判断 当裁判所も、控訴人の本訴請求のうち、本件著作権侵害行為確認請求は不適法であるから却下を免れず、損害賠償請求は理由がないので棄却すべきであると考える。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第四 当裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。 一 著作権侵害行為確認請求について 原判決一一頁六行目の「特定されていないので、」の次に「原審において、」を加え、七行目の「特定しないので、」を「特定せず、当審においてもこれを特定しないので、」と訂正する。 二 損害賠償請求について 1 甲第七、第一二号証と弁論の全趣旨によれば、被控訴人が、控訴人主張の内容のコマーシャルすなわち被控訴人CM1及び同2を作成し、テレビで放送していたことが認められる。 2 被控訴人CM1について (一) 控訴人は、被控訴人CM1の上から一番目の枠が、控訴人漫画の二段目の中枠と、キャラクターの配置や眉毛の形において類似する旨主張する。 しかしながら、被控訴人CM1の同枠では、キャラクターが一見横一列に並んでいるかのように見える構図であるのに対し、控訴人漫画の同枠では、二体のキャラクターが一体のキャラクターの上方に位置していることが、一見して明白な構図であって、両者の間に類似性は認められない。控訴人は三体のキャラクターのうち手前に一体が配置されている点において共通性が認められると主張するが、複数のキャラクターのうち強調するものを前方に配置することはよくある一般的な手法にすぎず、この程度のことが共通しているからといって、直ちに両者が類似しているとすることはできない。 また、後方右端のキャラクターの眉毛の形については、両者ともハの字を逆にした形をしているとはいえるものの、控訴人漫画の前記枠では、眉毛の角度が急で怒りの感情を表現していると認められるのに対し、被控訴人CM1の前記枠では眉毛の角度がゆるやかで、使命感を帯びた厳めしさを表現しているものと認められ、そこに怒りの感情を読みとることはできないから、両者のキャラクターの表情は、大いに異なるというべきであり、これらが類似しているとはいえない。また、眉毛の形によってキャラクターの感情を表現することはよくある一般的な手法であって、このような手法が共通しているからといって、直ちに両者が類似しているとすることはできない。 (二) 控訴人は、被控訴人CM1の上から四番目の枠は、一番目の枠と合わせて見ると、背景の本棚から本が飛び出すというアイディアを用いたものであると見ることができ、控訴人漫画の一段目の左枠とアイディアが共通している旨主張する。しかし、被控訴人CM1の四番目の枠と、一番目の枠とを対比しても、背景の本棚から本が飛び出したことが表現されていると見ることはできないから、両者が類似しているとは認められない。 (三) 控訴人は、被控訴人CM1の上から三番目の枠が、三体のキャラクターが上下にずれた並び方において控訴人漫画の一段目の右枠と類似する旨主張するが、このような並び方はキャラクターの配置としてはありふれたものであって、この程度のことが共通しているからといって直ちに両者が類似しているとすることはできない。そして、控訴人漫画の同枠では、キャラクターがいずれも正面を向いて別の相手を非難していることを表現しているのにのに対し、被控訴人CM1の同枠では、手前のキャラクターが後ろを向いて後方のキャラクターと話をしていることを表現しており、両者の表現は明らかに異なっている。 (四) 以上によれば、被控訴人CM1は、控訴人漫画と類似しているとは認められないから、控訴人のその余の主張につき検討を加えるまでもなく、被控訴人CM1が控訴人漫画に依拠したものであるとの控訴人の主張は失当なことが明らかである。 3 被控訴人CM2について (一) 控訴人は、被控訴人CM2の上から二番目の枠が、控訴人漫画の一段目の右枠と、キャラクターの配置や眉毛の形において類似する旨主張する。 しかしながら、被控訴人CM2の同枠では、キャラクターが一見横一列に並んだかのように見える構図であり、左端のキャラクターは後方を向いて他の二体と話し合っていることが伺われるのに対し、控訴人漫画の同枠では、キャラクターは横一列に並んでおらず、二体のキャラクターが一体のキャラクターの上方に位置していることが一見して明白なうえ、いずれのキャラクターも正面を向いて別の相手を非難していることを表現しており、両者の間に類似性は認められない。 また、キャラクターの眉毛の形が類似しているとはいえないこと、そもそも、眉毛の形によってキャラクターの感情を表現する手法が共通していることをもって、直ちに両者が類似しているとすることができるものではないことは、前記2(一)で説示したところと同様である。 (二) 控訴人は、被控訴人CM2の上から三番目の枠が控訴人漫画の二段目の左枠及び中枠に依拠している旨主張する。しかしながら、控訴人漫画の前記左枠のキャラクター及び中枠の手前の一体のキャラクターは、泣いた表情をして左手に筆記具を持ち、手前の原稿用紙に文章を記入ないし記入しようとしているのに対し、被控訴人CM2の前記枠では、手前の一体のキャラクターは、泣いた表情をしておらず、手に筆記具を持たずに手前の手帳類を見ており、同手帳に何かを記入しようとするそぶりを全く見せていないことからすれば、控訴人漫画の前記各枠と被控訴人CM2の前記枠とは類似していないというべきである。控訴人は、控訴人漫画の二段目の中枠の手前のキャラクターと被控訴人CM2の上から三番目の枠の手前のキャラクターとは口が丸形をしている点において共通している旨主張するが、イラストや漫画でキャラクターの口を丸で表現することはよく用いられる一般的な手法であるから、このような手法が共通しているからといって、これを両者が類似していることの根拠とすることはできない。 このほか、控訴人は、控訴人漫画の二段目の中枠と被控訴人CM2の上から三番目の枠につき、キャラクターの配置や眉毛の形が共通している旨主張するが、前記2(一)で説示したところと同様の理由から、両者の間に類似性は認められないというべきである。 (三) 以上によれば、被控訴人CM2は、控訴人漫画と類似しているとは認められないから、控訴人のその余の主張につき検討を加えるまでもなく、被控訴人CM2が控訴人漫画に依拠したものであるとの控訴人の主張は失当なことが明らかである。 4 被控訴人イラストの独創性に関する主張について 控訴人は、被控訴人イラストがコンピュータを用いて容易に作成できるもので独創性を欠く旨主張するが、仮に被控訴人イラストが独創性を欠くものであったとしても、そのことが同イラストが控訴人漫画に依拠したとの結論に直ちに結びつくものではないから、右主張は主張自体失当である。 第四 結論 よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第六民事部 裁判長裁判官 山下和明 裁判官 宍戸充 裁判官 阿部正幸 |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |