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【事件名】デール・カーネギー『人を動かす』事件(2)
【年月日】平成14年2月28日
 東京高裁 平成12年(ネ)第5295号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成10年(ワ)第21141号)
 (平成13年11月29日 口頭弁論終結)

判決
控訴人・被控訴人(一審原告) A
控訴人・被控訴人(一審原告) デール・カーネギー・アンド・アソシエイツ・インコーポレイテッド
控訴人・被控訴人(一審原告) パンポテンシア株式会社
控訴人・被控訴人(一審原告)ら訴訟代理人弁護士 森内憲隆
同 左高健一
同 大島葉子
同 増田健一
同 近藤純一
控訴人・被控訴人(一審被告) 株式会社騎虎書房
控訴人・被控訴人(一審被告) 株式会社エス・エス・アイ
控訴人・被控訴人(一審被告) B
控訴人・被控訴人(一審被告)ら訴訟代理人弁護士 本橋光一郎
同 小川昌宏
同 下田俊夫
同 江尻隆
同 浅岡輝彦
同 三森仁


主文
1 一審原告らの控訴を棄却する。
2 一審被告株式会社騎虎書房の控訴を棄却する。
3(1) 一審被告株式会社エス・エス・アイ及び一審被告Bの控訴に基づき、原判決の主文第四項の3を「一審被告株式会社エス・エス・アイ及び一審被告Bは、一審原告デール・カーネギー・アンド・アソシエイツ・インコーポレイテッドに対して、連帯して、金2040万1389円及び別紙遅延損害金一覧表(二)の(3)欄記載の各金員に対する当該行記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と変更する。
(2) 一審被告株式会社エス・エス・アイ及び一審被告Bのその余の控訴を棄却する。
4 訴訟費用の負担については、次のとおり定める。
(1) 原審で生じた費用については、原判決主文第六項の負担割合を維持する。
(2) 当審で生じた費用については、次のとおり定める。
 一審原告らの控訴に関して生じた費用は、一審原告らの負担とする。
 一審被告騎虎書房の控訴に関して生じた費用は、同被告の負担とする。
 一審被告株式会社エス・エス・アイ及び同Bの控訴に関して生じた費用は、各5分の1を一審原告デール・カーネギー・アソシエイツ・インコーポレーテッドの負担とし、その余を同被告らの各自負担とする。
5 この判決の3(1)は仮に執行することができる。 

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 一審原告ら(ただし、一審原告株式会社創元社及び一審原告サイモン・アンド・シュスター・インクを除く)
 原判決を本判決添付の別紙請求の趣旨記載のとおり変更する。
2 一審被告ら
 原判決中一審被告らの敗訴部分を取り消す。
 一審原告らの請求を棄却する。
第2 事案の概要、前提となる事実及び争点
1 事案の概要
 一審原告A(「原告A」)、一審原告デール・カーネギー・アンド・アソシエイツ・インコーポレイテッド(「原告アソシエイツ」)、一審原告サイモン・アンド・シュスター・インク、一審原告株式会社創元社、及び一審原告パンポテンシア株式会社(「原告パンポテンシア」)は、一審被告株式会社騎虎書房(「被告騎虎書房」)、一審被告株式会社エス・エス・アイ(「被告エス・エス・アイ」)及び一審被告CことB(「被告B」)に対し、著作権侵害、著作者人格権侵害、商標権侵害及び不正競争防止法違反を理由として、原判決添付別紙目録(一)記載の書籍(「本件書籍」)及び原判決添付別紙目録(二)記載のカセットテープセット(「本件カセットテープセット」)の発行販売等の差止め及び廃棄、損害賠償並びに謝罪広告を請求した。
 原審は、@本件書籍及び本件カセットテープセットについて著作権侵害及び著作者人格権の侵害を、A本件カセットテープセットについて本件商標権の侵害を、B本件カセットテープセットについて不正競争防止法違反を、それぞれ認め、原告A、原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの請求を一部認容し、その余の請求を棄却した。
 一審原告ら5名のうち原告A、原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアと、一審被告ら3名が、それぞれ原判決中、各当事者の敗訴部分を不服として、控訴した(原被告ら双方から控訴があったので、本判決の事実及び理由の摘示においては、各当事者を原審と同様に「原告A」、「原告アソシエイツ」、「原告パンポテンシア」、「被告騎虎書房」、「被告エス・エス・アイ」、「被告B」と表示し、「原告A」、「原告アソシエイツ」及び「原告パンポテンシア」を総称して「原告ら」、「被告騎虎書房」、「被告エス・エス・アイ」及び「被告B」を総称して「被告ら」という。また、原審の用法に倣って、「本件第一著作物」、「本件第二著作物」、「本件著作権」、「本件商標(一)」、「本件商標(二)」、「本件商標権」、「本件教育事業」、「本件営業表示」、「被告営業表示」などの語を使用する。)。
 原告らの求めた裁判は、「原判決を本判決添付の別紙請求の趣旨記載のとおり変更する。」というものであるが、その内容は原判決事実及び理由の「第一 請求」(但し、その六の3及び4の一審原告サイモン・アンド・シュスターインクの請求及び一審原告創元社の請求に係る部分を除く。)のとおりである。原判決中、一審原告株式会社創元社及び一審原告サイモン・アンド・シュスターインクの被告らに対する不正競争防止法2条1項1号違反に基づく請求を棄却した部分については、同原告らからの控訴がないので、当審の審理対象とはならない。
2 前提となる事実(括弧内に証拠を挙示しない事実は争いのない事実である。証拠の枝番省略)
(1) アメリカ合衆国国民であった故デール・カーネギー(1955年(昭和30年)死亡)は、「Dale Carnegie Course」等の名称による話し方講座ないし能力開発講座の創始者として知られる文筆家・講演家であり、1936(昭和11)年に、「How to Win Friends and Influence People」と題する書籍(本件第一著作物)を著作し刊行した。また、1936(昭和13)年に、「How to Win Friends and Influence People」と題する講演原稿(本件第二著作物)を著作し、アメリカ合衆国において著作権登録をした。
 本件第一著作物の日本語訳版「人を動かす(How to Win Friends and Influence People)」は、1958(昭和33年)に一審原告株式会社創元社から初版が刊行され、以来40年余にわたって増刷を重ね日本国内で約300万部を売り上げた実績を有するロングセラーである(検甲5、弁論の全趣旨)。本件第二著作物は、本件第一著作物と同題ではあるが、内容が異なり、デール・カーネギーがラジオ講座のために書き下ろしたものである。同著作物は、ラジオ放送により公表されたが、複製物として頒布されることはなかった(弁論の全趣旨)。
(2) 原告Aは、デール・カーネギーの子であるアメリカ合衆国国民であり、著作権を含むデール・カーネギーの遺産を相続した。
(3) 原告アソシエイツは、アメリカ合衆国(ニューヨーク州)法人であって、デール・カーネギーの死去後、故デール・カーネギーが行っていた「デール・カーネギー・コース」等の教育事業を承継し、世界各国(日本を含む数十カ国)で同事業を自ら実施するか又はライセンシーを通じて実施してきている(甲42ないし46、弁論の全趣旨)。
(4) 原告アソシエイツは、日本国内において、「デール・カーネギー」の片仮名文字を横書きしてなる本件商標(一)(昭和47年1月14日登録、同57年4月30日及び平成4年10月9日更新登録、指定商品:第26類印刷物等)及び「DALE CARNEGIE」の欧文字を横書きしてなる本件商標(二)(昭和40年4月12日登録、同52年1月18日、同60年5月15日及び平成8年3月28日更新登録、指定商品:第26類印刷物等)に係る商標権(本件商標権)を有していた(甲2、甲3)。
 なお、本件商標(一)及び本件商標(二)の各指定商品中「印刷物」については、平成9年9月29日不使用に基づく登録取消審判の請求があり(同年10月29日予告登録)、平成11年11月11日商標登録を取り消す旨の審決がされて、これに対する審決取消訴訟においても平成13年2月28日審決を維持する旨の判決があり、その判決に対する上告受理の申立てが同年10月12日に却下され、前記取消審決が確定している(甲2、3、27、乙43、44、46、47及び弁論の全趣旨)。
(5) 原告パンポテンシアは、原告アソシエイツから日本国内における独占的ライセンスを受け、1994(平成6)年以降、日本国内において、「デール・カーネギー・トレーニング」の名称により、「デール・カーネギー・コース」等の教育事業(本件教育事業)を実施している(甲1、51弁論の全趣旨)。
(6) 被告騎虎書房は、被告Bが本件第二著作物を日本語に翻訳した原判決添付別紙目録(一)記載の書籍(本件書籍:題号「こうすれば人は動く(How to Win Friends and Influence Peaple)」)を、平成8年5月以降、定価1262円(消費税別)で発行販売している。
(7) 被告エス・エス・アイは、本件第二著作物を日本語訳した原判決添付別紙目録(二)記載のカセットテープセット(本件カセットテープセット:名称「D・カーネギー・ゴールデン・ルール・プログラム(D. Carnegie's Golden Rules Program)」)を、平成8年後半から、本件カセットテープ単体として、又は「D・カーネギー ハイエンド・プログラム(D.Carnegie's High-End Program)」の一部として、発行販売している(上記「D・カーネギー ハイエンド・プログラム(D.Carnegie's High-End Program)」は、本件カセットテープセットと「D・カーネギー パワー パースエイション・プログラム(D.Carnegie's Power Persuasion Program)とを組み合わせた商品である。)。 
(8) 被告Bは、被告騎虎書房及び被告エス・エス・アイの代表者を務めてきたものである。
3 争点
 主たる争点は次のとおりである。 
(1) 原告Aの著作権及び著作者人格権に基づく請求  
 ・本件著作権の日本における保護期間
 ・被告らによる著作者人格権(同一性保持権)侵害行為の有無
(2) 原告アソシエイツの商標権に基づく請求  
 ・被告らによる本件商標権侵害行為の有無
(3) 原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの不正競争防止法に基づく請求
 ・被告らによる原告らに対する不正競争防止法2条1項1号、2号違反行為の有無
(4) 原告らの被った損害等に対する救済 
第3 当事者の主張
1 本件著作権及び著作者人格権に基づく請求(争点(1))に関する当事者の主張  以下のとおり当審における当事者の主張及び反論を補充、付加するほか、原判決事実及び理由欄の第四、一「争点一について」(原判決26頁5行ないし40頁1行)に記載のとおりであるから、これを引用する。
原告Aの主張
(1) 本件著作権等の保護期間
ア 「本件著作権の日本における保護期間は、著作者の死後50年に、連合国特例法による戦時加算3794日を加えた期間となるから、保護期間が終了していないことは明らかである」とした原審の判断は正当であり、本件第二著作物について日本国内における保護期間が満了したという被告らの主張は、失当である。
 万国条約特例法11条は、原判決も認めたとおり、平和条約12条に基づく旧著作権法による保護を受けていた著作物を引き続き同一の条件で保護するために設けられた規定であり、万国著作権条約に基づく保護に関する規定ではない。したがって、本件第二著作物のように、平和条約12条に基づいて保護されていた著作物は、万国著作権条約が適用されるか否かに関係なく、万国条約特例法11条によって、引き続き同一条件で保護されるのである。万国条約特例法は、その附則2条において、同附則2条に該当する著作物(本件第二著作物もこれに当たる。)について、万国著作権条約に基づく保護期間の相互主義を定めた規定(同法3条)及び万国著作権条約とベルヌ条約との適用調整規定(同法10条)の適用を、いずれも明示的に排除している。このことからしても、同附則2条該当著作物については、万国著作権条約・ベルヌ条約に基づく日本国の条約上の義務としての保護ではなく、別の原理での保護(平和条約に基づく外国人著作者の既得権の保護)が、立法裁量として与えられていることが明らかである。
 ベルヌ条約は、同条約が定める最低限の権利を各同盟国が認めることを条約の基盤としているものの、同盟国国民の権利保護を厚くする方向での国内立法は許容しており、保護期間についても、同条約7条(8)で、「その国の法令に別段の定めがない限り」保護期間について相互主義が適用される旨を定めている。万国条約特例法11条は、この「別段の定め」に該当するものであるから、仮に本件第二著作物についてベルヌ条約が適用されるとしても、本件第二著作物について同法11条の適用が排除されるべき理由はない。被告らは、ベルヌ条約の相互主義が同法11条に優先すると主張するが、そもそも、本件第二著作物のような著作物については、同法附則2条によって、ベルヌ条約の優先を規定した同法10条の適用が排除されているのであるから、被告らの主張は成り立つ余地がない。
 したがって、本件第二著作物は、著作者であるデール・カーネギーの死去(1955年)後50年に戦時加算3794日を加えた期間、保護されるものであり、日本国内で現在も著作権保護期間内にある。
イ 本件第二著作物は、発行されていないから、発行のときより10年内にその翻訳物が発行されないときは翻訳権が消滅する旨を定めた旧著作権法7条1項の適用はない。なお、本件カセットテープ発行行為は、翻訳権の枠外の問題であり、翻訳権に特有の戦時加算の有無、自由翻訳制度の適用の有無、旧著作権法7条1項の適用の有無等は、問題となり得ない。
(2) 権利濫用の被告らの主張に対する反論
 原告Aが本件著作権を主張することは権利濫用である旨の主張は争う。本国において著作権の保護期間の満了した著作物が日本国において保護されるという事態は、万国条約特例法11条が予定していたところであるから、かかる事態が実際に生じたからといって、そのことが権利濫用の主張を基礎づける事実となるものではない。被告らの主張は、立法に対する不満の表明にすぎない。また、被告らは、本件第二著作物について、日本において著作権の行使がなかったから、保護すべき既得権の実体がないと主張するが、日本において著作権の行使が顕在化しなかったのは、被告らのような権利侵害行為が当時行われなかったからにすぎず、保護すべき既得権の実体がないということにはならない。
(3) 著作者人格権侵害 
 著作者人格権(同一性保持権)侵害についての原審の判断のうち、本件書籍160頁と161頁との間に「SSI D・カーネギー・プログラムス」宛てのアンケート返信用葉書が挟まれている点、及び本件書籍の巻末に本件カセットテープセットの広告が掲載されている点について、同一性保持権の侵害を否定した部分は誤りである。アンケート返信用葉書や本件カセットテープセットの広告は、「本件第二著作物を翻訳した部分とは明確に区別されている」ということはできず、これらの点について同一性保持権の侵害が認められるべきである。
被告らの主張
(1) 本件著作権の保護期間について
 本件著作権は、アメリカ合衆国においては、公表又は登録後28年を経過した1966(昭和41)年に、保護期間満了により消滅したものであるから、ベルヌ条約の定める相互主義の下で(ベルヌ条約7条(8))、日本においても保護されることはない。原判決は、アメリカ合衆国がベルヌ条約に加盟して発効した(1989年)後であっても、本件第二著作物は、万国条約特例法11条により、同法施行後も著作権の保護期間を含めて、従前と同一の保護を受けると判断したが、法の解釈を誤っている。
ア 万国条約特例法11条は、万国著作権条約の適用があることを前提とした規定である。アメリカ合衆国を本国とする本件著作物については、1989年3月1日以降、ベルヌ条約が万国著作権条約に優先して適用されることとなり、万国著作権条約の適用はないから(万国著作権条約17条に関する附属宣言c)、万国著作権条約の適用があることを前提としている万国条約特例法11条の規定が適用されることはない。
イ 仮に本件第二著作物について万国条約特例法11条の適用があるとしても、本件著作権の保護期間は満了している。
 万国条約特例法11条は、平和条約12条に基づく日米暫定協定によって暫定的に保護されてきた著作物について、4年間の暫定保護期間満了による空白を避ける目的で、同法施行後も「同一の保護」を与えることとしたのであり、同条により保護される著作物は、著作権法が本来的に保護する著作物ではなく、条約上の保護を受ける著作物でもない。このように、条約上、現行法上、例外的規定である同法11条については、保護の範囲を限定する方向で解釈すべきである。
 原判決は、現行著作権法51条2項に基づき、本件著作権の保護期間を著作者の死後50年間プラス戦時加算3794日間と解釈したが、この50年という著作権の存続期間は、相互主義を原則としているベルヌ条約に加盟するために定められたのであるから、保護期間については、相互主義を規定した同法58条が51条2項に優先して適用されるべきである。
 また、万国条約特例法11条の前提となる平和条約においても「内国民待遇」を定めつつ、相互主義の規定が置かれていることからすれば、同法11条の適用に当たっても、保護期間については相互主義(著作権法58条)の規定の適用があると解するべきである。仮に、同法11条の適用に当たって著作権法58条の相互主義の制限が働かないとすれば、本件第二著作物は、同法施行当時の旧著作権法による保護を受けると解すべきであり、現行著作権法により保護期間が延長されるものではないというべきである。
(2) 権利濫用について
 実質的にみても、ベルヌ条約の定める相互主義の下で、アメリカにおいて保護期間の満了した著作権を我が国において保護することは、各国の実定法の相違からくる保護の実質的不平等をもたらし、ベルヌ条約の趣旨に反する。特に、本件第二著作物については、従前日本において著作権の行使がなく、アメリカ合衆国のベルヌ条約加盟前に保護すべき具体的な既得権の実体が存在しなかった。また、著作権者はアメリカにおいて著作権の更新手続をとっておらず、自ら保護を放棄しているに等しい。このような状況の下で、現在になって著作者の相続人が本件著作権を主張すること自体、権利濫用である。
(3) 著作者人格権侵害について
 本件第二著作物の著作者人格権についても、前記のとおり万国条約特例法11条の適用はないから、保護期間は既に満了している。
2 商標権侵害(争点(2))に関する当事者の主張
 以下のとおり当審における当事者の主張及び反論を補充、付加するほか、原判決事実及び理由欄の第四、二「争点二について」(原判決40頁2行ないし48頁6行)のとおりであるから、これを引用する。
原告アソシエイツの主張
(1) 本件書籍
 原判決は、本件書籍中の綴じ込みはがき及び奥付に記載された「SSI D・カーネギー プログラムス」の表示について、商標として使用されているとは認められないとして商標権侵害の成立を否定したが、上記表示は、単に読後感想等の送付先を示すものではなく、本件書籍の販売主体が何者であるかを購入者に示す機能を果たしているのであるから、自他商品識別機能及び出所表示機能を有する態様で使用されている。したがって、本件書籍発行行為について、商標権侵害の成立が認められるべきである。
(2) 本件カセットテープセット
 本件カセットテープセットに付された「SSI D・カーネギー プログラムス」、「D・カーネギー ゴールデンルール・プログラム」、「D・カーネギー ヒューマンモティベーション・システム」等の標章(被告ら標章)について商標権侵害を認めた原審判断は正当である。被告らの主張は争う。
被告らの主張
(1) 本件書籍について
 本件書籍につき商標権侵害を否定した原審判断は正当である。原告らの主張は争う。
(2) 本件カセットテープセットについて
 本件カセットテープセットに付された各標章(被告ら標章)は、本件カセットテープの内容が米国の文筆家・講演家であるデール・カーネギーの思想を伝えるものであることを、同人の名前を冠するというありふれた方法で表示したものであって、記述的標章を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないから、本件商標権の効力は及ばない(商標法26条1項2号)。
 また、本件カセットテープセットに付された各標章の中で原判決が要部であるとする「D・カーネギー」又は「D. Carnegie」の部分は、単に本件カセットテープの内容がアメリカの文筆家・講演家であるデール・カーネギーの思想を伝えるものであることを表示するにすぎず、本件カセットテープの内容を示す題号に準ずるものであるから、出所表示機能を有しない態様で表示されていることが明らかであり、その使用が本件商標権の侵害になるということはできない。
3 不正競争防止法違反行為の有無(争点(3))に関する当事者の主張
 以下のとおり、当審における当事者の主張及び反論を補充、付加するほか、原判決事実及び理由欄の第四、三「争点三について」(原判決48頁7行ないし54頁1行。ただし、「本件商品表示」に関する一審原告サイモン・アンド・シュスター・インク及び一審原告株式会社創元社の請求にかかわる摘示部分を除く。)のとおりであるから、これを引用する。
原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの主張
(1) 本件書籍
 原判決は、本件書籍の奥付部分及び綴じ込みはがきにある「SSI D・カーネギー プログラムス」という記載は、被告らの商品等表示として用いられているとは認められないという理由により、不正競争行為を否定したが、前記2の【原告アソシエイツの主張】(1)で述べたのと同じ理由により、本件書籍についても、被告らに、本件営業表示(「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・トレーニング」)と「同一又は類似の商品等表示」を使用したことによる不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)が認められるべきである。
(2) 本件カセットテープセット
 被告らの主張は争う。本件カセットテープセットについて本件営業表示(「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・トレーニング」)と同一又は類似のものを使用したことによる不正競争行為を認めた原判決は正当である。
(3) 被告らの営業表示
 原判決は、被告らが使用している営業表示のうち、「SSI D・カーネギー プログラムス」の表示以外のものについて、表示使用の差止めを認めなかった。しかし、被告エス・エス・アイは、「デール・カーネギー」に関して22の商標登録出願をして、そのうち6つについては既に商標登録を得ている現状にあり、上記状況からみて、「SSI D・カーネギー プログラムス」の表示そのものでないとしても、その要部である「D・カーネギー」等、デール・カーネギーの氏名の一部又は全部の和文表記又は英文表記を含んだ類似の営業表示を用いて新たな不正競争行為を伴う業務拡張を行う現実的危険性が極めて高い。したがって、原判決主文第五項は、本判決添付別紙の請求の趣旨第五項のとおり変更されるべきである。
被告らの主張
 本件書籍、本件カセットテープセット、被告営業表示「SSI D・カーネギー プログラムス」のいずれについても、不正競争防止法違反は成立しない。
(1) 本件営業表示の非周知性
 原告パンポテンシアらの「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・トレーニング」という営業表示(本件営業表示)が日本国内において周知になっていることは立証されていない。原告ら提出の書証は、いずれも文筆家・講演家である「デール・カーネギー」の周知性又は海外における「デール・カーネギー・コース」等の周知性を表すものにすぎない。原告パンポテンシア及び原告アソシエイツは、特定の協賛企業等を中心に狭い範囲の顧客を対象に講座を開催しており、その営業のやり方は、不特定多数を相手に顧客を開拓するという講座事業の一般的なやり方と大きく相違しているのであって、かかる閉鎖的な営業形態からして、本件営業表示が需要者の間で広く認識されることはあり得ない。
(2) 出所表示機能を有しない態様での表示の使用
 本件カセットテープに付された「D・カーネギー」又は「D. Carnegie」を含む各表示は、カセットテープ等の内容がデール・カーネギーの思想を伝えるものであることを、同人の名前を冠するというありふれた方法で表示したものにすぎず、出所表示機能を有しない態様により表示されているものである。このような表示使用行為は、原告らの商品又は営業と混同を生じさせることがないから、不正競争行為には当たらない。
(3) 表示の非類似性
 被告営業表示「SSI D・カーネギー プログラムス」は、「D・カーネギー」又は「D. Carnegie」を含んでいるが、この部分は原告パンポテンシア及び原告アソシエイツの営業表示と認められるものではない。被告営業表示「SSI D・カーネギー プログラムス」の要部は、冒頭の「SSI」にあるというべきであるから、本件営業表示との間に類似性はない。
4 原告らの被った損害等に対する救済(争点(4))に関する当事者の主張
 以下のとおり当審における当事者の主張及び反論を補充、付加するほか、原判決の事実及び理由欄の第四の四、「争点四について」に摘示されたとおりであるから、これを引用する。
(1) 著作権侵害等による損害賠償請求について
原告Aの主張
ア 損害賠償額については、著作権法114条1項の推定規定が適用されるべきである。本件第二著作物が日本国内で出版されていないからといって、同規定の適用を排除すべき根拠はない。
 また、原判決は、同条2項による損害額について、速聴機にも独立の価値があると認めた上で売上高の10パーセントを相当な実施料と認めたが、速聴機には独立の価値があるとはいえず、また、一審で文書提出命令が下されたにもかかわらず、それを無視して被告らが一切製造原価を示さなかった速聴機の価値を、損害額の算定において考慮する余地はない。
イ 被告らの行為態様及びそれによりデール・カーネギーの名声が著しく損なわれた事実があるから、著作者人格権(同一性保持権)の侵害に基づく損害、慰謝料・信用毀損損害、さらには、弁護士費用の各賠償と謝罪広告が認められるべきである。
被告らの主張
 仮に本件著作権が保護期間の満了により消滅はしていないとしても、本国であるアメリカにおいて、本件第二著作物は、保護期間が1966年に満了し公有のものとなっているのであるから、この事情は、本件著作権が日本において行使される場合に受けるべき金銭の額(著作権法114条2項)の算定において斟酌されるべきである。本件著作権の侵害による損害額は零に等しい。
(2) 商標権侵害による損害賠償請求について
原告アソシエイツの主張
 本件商標権の侵害による損害は、商標法38条2項を適用して算定すべきである。原審認定の損害額は低すぎる。原告アソシエイツに損害が発生していないとの被告らの主張は失当である。
被告らの主張
 本件商標(一)及び(二)については、いずれも不使用を理由に指定商品「印刷物」につきその商標登録を取り消す審決があり、これに対する審決取消訴訟において審決を維持する判決がなされ、同判決に対する上告受理の申立ても却下されて、同審決が確定した。したがって、被告らについて侵害行為を観念することはできず、また、本件商標(一)及び(二)を使用していない原告アソシエイツに損害は生じていないというべきである。
(3) 不正競争防止法違反に基づく損害賠償請求
原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの主張
ア 不正競争防止法5条1項の損害額推定規定の適用
 本件カセットテープ販売による不正競争行為について、不正競争防止法5条1項(以下、単に「1項」ということがある。)の推定規定を適用して損害額を算定した原判決の判断は正当である。原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの事業と被告エス・エス・アイの事業内容とは、共に人間能力開発、ビジネス遂行力向上、自己啓発のための諸活動であることにおいて共通しているから、「同種」の事業である。原告アソシエイツは自ら編集した書籍も出版しており(甲64、65)、他方、被告エス・エス・アイは教室事業も行っている。
 不正競争防止法5条1項は、そもそも営業の同種性を要求するものではない(東京地判平成10年3月30日・判タ970号249頁)。異業種であっても営業の混同が認められれば、1項の推定規定を適用すべきである。
イ 速聴機の販売による利益
 被告らは、1項の推定規定を適用する場合において、速聴機の販売による利益額は控除するべきであると主張するが、速聴機はカセットテープの付属品にすぎず、必ずカセットテープと抱き合わせて販売されていることからみても、独立の商品価値を有するものでないから、速聴機の販売による利益額を控除すべき理由はない。
ウ 利益の算定方法(販売費・一般管理費の不控除)
 1項の利益額の算定において、販売費・一般管理費等は控除すべきでない。被告エス・エス・アイの全売上高に対するデール・カーネギー事業の売上高比率は0.68パーセント程度であり、この程度では、デール・カーネギー事業の開始により販売費・一般管理費等がさほど増加することはないのであるから、その控除が問題となる余地はない。仮に、控除を認めるとしても、販売費・一般管理費として売上高の45パーセントにも相当する額を控除することは、控除率として高すぎる。適正な控除率の算定に当たっては、「売上原価 対 販売費・一般管理費」という枠組みで、すなわち同じ費用項目との比率によることが正当であり、かかる算定方法に従った場合には、販売費・一般管理費として控除される金額は原判決よりも格段に低くなる。結局、利益の額としては、原審における原告アソシエイツ及び原告パンポテンシア主張の金額が正当である。
被告らの主張
ア 1項の推定規定の不適用
 原判決は、被告エス・エス・アイによる本件カセットテープセットの販売事業は、本件教育事業と目的において重なるという理由により、損害額の算定につき1項の推定を適用したものと思われるが、この推定を適用するためには、営業上の利益を侵害された者が自ら「同種」の営業又は商品の販売若しくは役務の提供を行っていることが必要である。原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアは、教室教育事業を営む者であり、書籍、カセットテープ及び速聴機を販売する事業を行っていなかったから、被告エス・エス・アイとは営業を異にするのであって、被告エス・エス・アイがカセットテープセット等を販売して得た利益を原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの蒙った損害と推定することが経験則に反することは明らかである。したがって、本件において、1項の推定を適用することはできない。なお、不正競争防止法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」が「広義の混同惹起行為」を含むという解釈(最判平成10年9月10日)の下でも、損害額の推定規定は現実に競争関係がない場合には適用されないと解される。
 仮に、原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアがカセットテープの販売を行う可能性があるとしても、速聴機を販売することはあり得ない。このように営業形態の大きく異なる事業を行っている者に1項の推定を適用すべきではない。また、原告パンポテンシアは資本金1000万円程度の会社にすぎず、資本金3億2000万円の被告エス・エス・アイと規模が大きく異なることからしても実際に原告パンポテンシアに1億円以上の損害があったとは到底考えられない。
 本件カセットテープセットの販売について、通常受けるべき金銭の額(不正競争防止法5条2項)は、被告標章が付された本件カセットテープセットの売上合計額の2パーセントが相当である。
イ 推定覆滅事由(速聴機の販売による利益は控除されるべきこと)
 1項の推定を適用するとしても、原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアは、従前、速聴機の販売事業を行っていなかったのであるから、被告エス・エス・アイが本件速聴機の販売によって得た利益が原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの現実の損害たり得ないことは明らかである。したがって、利益の算定に当たっては、本件カセットテープセットの売上額から速聴機の分に相当する売上額を控除すべきであり、速聴機の販売によるものまで含めた利益を1項で推定される損害額とすることはできない。
 仮に速聴機の販売による利益について1項を適用する場合でも、速聴機は独自の価値を有する商品であって、本件営業表示が利益に寄与した割合はごく僅かであるから、速聴機の販売による利益については、推定が覆滅されるというべきである。
なお、本件営業表示に類似すると主張された「デール・カーネギー」の文字を含む標章の付された速聴機の販売数は、530台にすぎない。
ウ 利益の算定方法
 被告の速聴機は、原判決も認定するとおり(原判決124頁)、本件カセットテープセットとは別個独立の単体でも商品価値を有する商品であり、速聴機の販売事業は、先人思想に依拠する啓蒙商品とは別個独立の「能力開発プログラム」に関する販売事業の一環である。それゆえ、本件カセットテープセットの販売による被告エス・エス・アイの利益額を算定するときには、本件カセットテープの売上額から速聴機の価格を控除すべきである。速聴機の価格を控除しない場合には、速聴機の製作費用を控除する必要があるが、この場合、未販売部数を含めた製作費用を控除すべきである。また、原告らが従前、速聴機の製造販売を行っていないことからして、その製造販売事業を行うためには多額の設備投資を要し、製造原価が被告らより高くなることは明らかであるから、控除すべき製作費用として被告らの製作費用よりも高額を認めるべきである。
 また、原審は、被告エス・エス・アイにおける販売費及び管理費の売上高に対する割合が平均約57パーセントであると認定しながら、販売費及び管理費として売上高の45パーセントしか控除していないが、これが妥当でないことは明らかである。
5 その他の主張
原告らの主張
(1) 本件書籍及び本件カセットテープセットの発行差止及び廃棄請求
 被告騎虎書房及び被告エス・エス・アイは、いずれも被告Bの全面的支配下にあり、本件書籍発行行為、本件カセットテープ発行行為及び本件営業表示使用行為はいずれも被告Bが立案し、有機的に結合した上で、「SSI D.カーネギー・プログラムス」の名の下に統一的事業として行っているのであるから、被告Bの行為と同視することができ、さらには、被告ら三者が共同の意思の下に行っている共同不法行為というべきである。したがって、原判決主文第一項及び第二項(差止め及び廃棄)は、いずれも被告ら三者全員を名宛人とするように変更されるべきである。
(2) 本件著作権侵害及び商標権侵害については、謝罪広告の請求が認容されるべきである。また、信用毀損による損害賠償が認められるべきである。
第4 当裁判所の判断
1 著作権及び著作者人格権侵害について(争点(1))
 当裁判所も、本件第二著作物については、本件口頭弁論終結時において、日本国内における著作権の保護期間内にあり、被告騎虎書房による本件書籍の発行行為及び被告エス・エス・アイによる本件カセットテープの発行行為は、本件著作権の侵害及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害(著作権法60条)に当たり、被告らは、原判決の事実及び理由中の「第五 当裁判所の判断」の一、5「被告らの損害賠償責任等について」の(一)第1行ないし第8行(原判決93頁3行ないし9行)に説示した限度で、損害賠償等の責任を負うものと判断する。すなわち、被告騎虎書房及び被告Bは、本件書籍の発行による本件著作権侵害行為によって、また、被告エス・エス・アイ及び被告Bは、本件カセットテープセットの発行による本件著作権侵害行為によって、それぞれ原告Aが被った損害を賠償する責任がある。
(1) 本件第二著作物の保護期間について
ア 本件著作権の保護期間
 当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実に基づき、以下のとおり認定・判断する。
(ア) 1905(明治38)年11月10日に締結され、1906(明治39)年5月11日に公布された日米著作権条約は、日米両国民の内国民待遇(1条)及び翻訳自由(2条)の規定を置いており、その後、1952(昭和27)年4月28日に発効した平和条約7条(a)により、日米著作権条約は失効したが、平和条約12条に基づいて締結された日米暫定協定により、アメリカ合衆国を本国とし、同国国民を著作者とする著作物は、昭和27年4月28日から4年間、翻訳権を含めて、引き続き内国民待遇を与えられ、それまでと全く同様に保護されることとなった。また、平和条約に基づいて制定された旧著作権法の特別法である「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」(昭和27年8月8日法律第302号、以下「連合国特例法」という。)4条に基づき、昭和16年12月7日に連合国及び連合国民が有していた著作権は、著作権法に規定する著作権の存続期間にいわゆる戦時加算3794日間を加算した期間継続することとなった。
 1956(昭和31)年4月28日、日本について万国著作権条約が発効し、これにより、同日以降、万国著作権条約の加盟国であったアメリカ合衆国と日本との間では万国著作権条約が適用されることとなったが、万国著作権条約の実施に伴い著作権法の特例を定めることを目的として、昭和31年4月28日に施行された万国条約特例法は、その11条で、「日本国との平和条約25条に規定する連合国でこの法律の施行の際万国著作権条約の締結国であるもの及びその国民は、この法律施行の際日本国との平和条約12条の規定に基く(旧)著作権法(明治32年法律第39号)による保護を受けている著作物については、この法律施行後も引き続き、その保護(著作権法の施行の際当該保護を受けている著作物については、同法による保護)と同一の保護を受ける」旨規定しており(注.括弧内は、旧著作権法から現著作権法への移行の際の改正により付加された部分)、この規定により、日米著作権条約の内国民待遇の原則に従い旧著作権法により保護されていたアメリカ合衆国国民の著作物は、昭和27年4月28日から4年間の経過後も、引き続き、万国条約特例法11条に基づき、内国民待遇等の従来と同一の保護を与えられた。
 その後、1971(昭和46)年1月1日、現行著作権法が施行され、その施行の際、保護期間の満了していない著作物は、現行著作権法の規定する保護期間(戦時加算がある場合には3794日を加えた期間)を享受することとなった。
(イ) 本件第二著作物は、1938(昭和13)年、アメリカ合衆国国民であるデール・カーネギーによって著作され、アメリカ合衆国において著作権登録されたものであるから、日米著作権条約1条(内国民待遇)の規定に基づき、旧著作権法によって保護される著作物であったところ、平和条約12条に基づく日米暫定協定により、平和条約の発効後も、引き続き旧著作権法による保護を受け(保護期間は、当時の旧著作権法による著作権の保護期間である著作者の死後30年に連合国特例法による戦時加算3794日を加えた期間)、さらに、日米暫定協定の失効後は、万国条約特例法11条により、引き続き、同一の保護を受けていたものと認められる。デール・カーネギーは、1955(昭和30)年、死亡した。
 そうすると、本件著作権は、現行著作権法の施行(昭和46年(1971年)1月1日)の際に、その保護期間(当時の旧著作権法52条による著作者の死後38年プラス戦時加算3794日)が満了することなく存続していたものであり、現行著作権法51条により、その保護期間は、著作者の死亡の年(1955年・昭和30年)の翌年の1月1日から起算して(同法57条)50年に連合国特例法による戦時加算3794日を加えた期間となるから、本件口頭弁論終結時において、本件著作権は、保護期間が満了していないことが明らかである。
(ウ) 被告らは、本件第二著作物は、本国であるアメリカ合衆国において既に保護期間が終了しているから、日本において保護される余地はないと主張し、その理由として、@アメリカ合衆国が1989(平成元)年、ベルヌ条約に加盟したことにより、日本とアメリカ合衆国との間ではベルヌ条約が適用され、万国著作権条約は適用されない(万国著作権条約17条に関する附属宣言c)こととなったところ、ベルヌ条約7条(8)は、著作物の保護期間は本国において定められる保護期間を超えることはないと規定しているから、本国たるアメリカ合衆国において保護期間満了により消滅している本件著作権は、日本においても保護されない、A万国条約特例法11条は、当該著作物について万国著作権条約の適用があることを前提としているから、ベルヌ条約により本件第二著作物への万国著作権条約の適用が排除される以上、万国条約特例法11条が適用される余地はない、などと主張する。しかし、被告らの主張は、以下の理由により、採用することができない。
@ 万国条約特例法は、「万国著作権条約の実施に伴い、著作権法の特例を定めることを目的とする」(1条)と規定されているとおり、著作権法の特別法であると解されるから、同法11条に基づいて与えられる著作権の保護(保護期間を含む。)は、著作権保護の独立の根拠となり得るものと解される。本件第二著作物は、万国条約特例法の施行の際に「平和条約12条の規定に基づく旧著作権法による保護を受けている著作物」(同法11条)に該当するから、同法11条によって、保護される著作物である。そして、万国条約特例法11条は、万国著作権条約に基づく条約上の義務として万国著作権条約の加盟国民の著作物に与えられる保護とは独立に、平和条約12条により保護されてきた著作物の今後の保護を国内立法として定めたものと解されるのであり、ベルヌ条約と万国著作権条約が競合する場合における後者の不適用について定めた万国著作権条約17条に関する附属宣言c によって消長をきたすものではないというべきである。
A 我が国とアメリカ合衆国との間に、ベルヌ条約が適用されることとなっても、従来平和条約12条に基づき旧著作権法の保護を受けていた著作物について、保護期間を含めて既得権が保護されると解することは、万国条約特例法各条の全体の文理に忠実な解釈といい得る。すなわち、万国条約特例法は、3条から9条で万国著作権条約に基づく保護に関する特例を規定し、10条でベルヌ条約加盟国を本国とする著作物については同法は適用されない旨を規定し、11条で「日本国との平和条約25条に規定する連合国でこの法律の施行の際万国著作権条約の締結国であるもの及びその国民は、この法律施行の際平和条約12条の規定に基づく旧著作権法による保護を受けている著作物については、この法律施行後も引き続き、その保護(著作権法の施行の際当該保護を受けている著作物については、同法による保護)と同一の保護を受けるものとする。」と規定する。そして、同法の附則2条で「この法律(第11条を除く)は、発行されていない著作物でこの法律の施行前に著作されたもの及び発行された著作物でこの法律の施行前に発行されたものについては、適用しない。」と規定することによって、万国著作権条約に基づく保護の特例に関する規定及びベルヌ条約との適用調整について定めた規定(3条ないし10条)が万国条約特例法施行前に著作又は発行された著作物(同法附則2条該当著作物)には適用されないことを定める一方で、同項括弧書に「第11条を除く」と規定することより、同法施行前に連合国国民が著作又は発行をした著作物(附則2条該当著作物)であって、平和条約の規定に基づく旧著作権法による保護を受けている著作物(11条該当著作物)には、11条が適用されることを明確にしている。
 そして、これらの規定に照らすと、万国条約特例法11条は、平和条約12条に基づいて保護されていた連合国国民の著作物を、我が国において万国著作権条約が発効した後も、引き続き、同一の条件で保護するために設けられた規定と解するのが相当であり、当該連合国がベルヌ条約に加盟したことにより当該国との間で万国著作権条約ではなくベルヌ条約が適用されることとなっても、それ以前に平和条約12条に基づく旧著作権法による保護を受けていた連合国民の著作物については、その保護期間等を、ベルヌ条約に基づき、従来よりも著作権者に不利益に変更することは予定していないものといわざるを得ない。
B ベルヌ条約7条(8)は、著作権の保護期間は、本国において定められる保護期間を超えることはない旨規定しているが、国内法によって本国において定められる保護期間よりも長い保護期間を定めることを禁止しているものではないから、本件第二著作物が、万国条約特例法11条の規定に該当する著作物として、同条により、本国における著作権の保護期間よりも長い期間保護されることを排除するものではない。また、万国条約特例法は、万国著作権条約の実施を目的として制定された(同法1条)、旧著作権法の特別法であると解されるものであるから、本件第二著作物に同法11条が適用されるか否かは、本件第二著作物に万国著作権条約が適用されるか否か(ベルヌ条約が適用されることにより万国著作権条約の適用がないことになるか否か)とは関係がないというべきである。
C その他、被告らは、万国条約特例法11条は、例外的な保護を定めた規定であるから、相互主義の原則に沿って保護期間を限定する方向で解釈すべきであるなどと主張するが、同法11条の解釈、適用については、関係する条約、法律の体系の下においては既に説示したとおりであって、所論は採用することができない。
イ 翻訳権について
 前記ア(ア)で述べたとおり、平和条約12条に基づく日米暫定協定による保護は、翻訳権を含むから、万国条約特例法11条による保護にも翻訳権が含まれている。
 ところで、前記第2の2(前提となる事実)(1)のとおり、本件第二著作物はラジオ放送により公表されたが、複製物として頒布されたことはなかったのであるから、旧著作権法7条の「発行」があったということはできない。したがって、本件第二著作物については、旧著作権法7条により翻訳権が消滅することはない。
 そうすると、本件第二著作物の翻訳権についても、他の権利と同様に、万国条約特例法11条によって、現行著作権法の保護を受けるということができる。
 なお、日米著作権条約には、翻訳自由の規定(2条)が設けられていたから、本件第二著作物の翻訳権については、連合国特例法による戦時加算の適用はないが、本件口頭弁論終結時点において、保護期間が終了していないことは明らかである。
(2) 著作者人格権の保護について
 万国条約特例法11条によると、本件第二著作物には、現行著作権法による保護が与えられるから、本件第二著作物について、現行著作権法による著作者人格権の保護が与えられる。
(3) 被告らによる著作権侵害行為について
 前記第2の2(前提となる事実)の(6)及び(7)のとおり、本件書籍及び本件カセットテープセットの各内容は、本件第二著作物を日本語訳したものであるから、被告騎虎書房による本件書籍の発行行為及び被告エス・エス・アイによる本件カセットテープセットの発行行為は、本件著作権を侵害する行為である。
(4) 被告らによる著作者人格権(同一性保護権)侵害行為について
ア 本件書籍について
 証拠(検甲6)及び弁論の全趣旨によると、本件書籍の160頁には、本文中に、デール・カーネギー自身が読者に直接話しかける形で、「このようなノウハウを皆さんにお伝えして本当にうれしいのは、全国のさまざまな人々から『成功ノウハウ』を家庭や職場で利用して成果をあげている、という手紙をいただくことです。このような私の紹介するノウハウを使って、こんないいことがあったということがありましたら、その経験を手紙でお寄せ下さい〔日本での宛先・・・SSI D・カーネギー・プログラムス係〕。」との記載があること(注.表示の住所は、奥付頁下部に記載された被告騎虎書房の住所と同一である。)、上記記載は本件第二著作物中には存在しないこと、以上の事実が認められる。この「SSI D・カーネギー プログラムス」は、後記3(2)ウのとおり、被告エス・エス・アイが本件カセットテープセットの販売事業について使用している名称であり、故デール・カーネギーとは何の関係もないから、かかる者への読者体験談募集のために前記のごとき記載を付け加えることは、故人の意に反する態様でなされた原著作物の改変であり、著作者であるデール・カーネギーが生存しているとしたならば、その著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条違反)であるといわざるを得ない。
 被告らは、本件書籍と本件第二著作物との間に若干の異同があっても、同一性保持権を侵害したとはいえないと主張するが、本件書籍の160頁と161頁の間には、「SSI D・カーネギー プログラムス」宛の読者アンケート返信用はがきが綴じ込まれていることや本件書籍の巻末に4頁にわたり本件カセットテープセット、速聴機などの広告、紹介文が掲載されていること等の事実(検甲6)をも考慮して本件書籍160頁の前記記載をみると、前記記載が被告らの主張のように本件第二著作物の内容、趣旨を変更することなく同著作物の思想、主張を広く伝える必要に応じてなされたものであるとは到底認めることができず、この点に関する被告らの主張は採用することができない。
 なお、前記アンケート用はがきと本件書籍の巻末に掲載された本件カセットテープ等の広告は、本件第二著作物を翻訳した部分とは区別されていると認められるから、これらの部分について著作者人格権(同一性保持権)の侵害を認めることはできない。
イ 本件カセットテープセットについて
 本件カセットテープセットは、後記2(3)ア(ア)のような構成のものであるところ、証拠(甲4、5、41の1ないし13、検甲1の1ないし23、検甲4の1ないし13)及び弁論の全趣旨によると、本件カセットテープセットは、被告Bの提唱に係る「脳(能)力開発」プログラム実践用教材の一つとして宣伝、販売されていること、本件カセットテープセットに入っているカセットテープ及びマニュアルは、本件第二著作物と比較して章の構成が大幅に異なっていること、また、EXトランプは、本件第二著作物の一部を抜粋して各トランプに記載したものであること、以上の事実が認められる。そして、これらの内容が、被告Bの提唱に係る「脳(能)力開発」プログラム用に本件第二著作物の構成を変えたものであることからすると、上記カセットテープ、マニュアル及びEXトランプの各内容は、本件第二著作物を著作者の意に反する態様で改変したものというべきであり、被告エス・エス・アイによる本件カセットテープセットの発行行為は、故デール・カーネギーが生存しているとしたならば、その著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条違反)であると認められる。
(5) 原告Aに対する被告らの責任
 当裁判所も、被告らの原告Aに対する責任について、原判決と同様、以下の@ないしBのとおり判断する。その判断の詳細及び理由は、原判決事実及び理由の「第五 当裁判所の判断」の一、5(原判決93頁2行ないし96頁6行)のとおりであるから、これを引用する。なお、被告らは、本件著作権の行使は権利の濫用である旨主張するが、本件全証拠によっても権利の濫用となるべき事情が存在するとは認められない。
@ 被告騎虎書房及びその代表者である被告Bは、本件書籍の発行による本件著作権侵害行為によって、また、被告エス・エス・アイ及びその代表者である被告Bは、本件カセットテープセットの発行による本件著作権侵害行為によって、それぞれ原告Aが被った損害を賠償する責任がある。しかし、被告騎虎書房は、本件カセットテープセットの発行による本件著作権侵害行為について責任があるとは認められず、また、被告エス・エス・アイは、本件書籍の発行による本件著作権侵害について責任があるとは認められない。 
A 著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為が存したことを理由とする原告Aの被告らに対する損害賠償請求は、著作権法上これを認めることができない。
B 原告Aの被告らに対する謝罪広告の請求は、デール・カーネギーの社会的な名誉声望を毀損する行為があったとは認定し難いから、これを認めることができない。
2 商標権侵害について(争点(2)) 
(1) 本件商標(一)及び(二)について
 証拠(甲2、3)によれば、原告アソシエイツは、第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの付属品」を指定商品とし「デール・カーネギー」の片仮名文字を横書きしてなる商標(本件商標(一))、及びこれと同一のもの(ただし、著作物の表題(題号)として使用される場合を除く。)を指定商品とし「DALE CARNEGIE」のアルファベット文字を横書きしてなる商標(本件商標(二))について商標権を有していたことが認められる。本件商標(一)及び本件商標(二)の各指定商品中「印刷物」については、平成9年9月29日に不使用に基づく登録取消審判の請求があり(同年10月29日予告登録)、平成11年11月11日商標登録を取り消す旨の審決がなされ(平成9年審判第16499号及び同第16497号)、これに対する審決取消訴訟において平成13年2月28日審決を維持する旨の判決(東京高裁平成12年(行ケ)第117号、同109号)があり、その判決に対する上告受理の申立てが同13年10月12日に却下されて、前記審決が確定したことにより、審判請求の予告登録の日である平成9年10月29日をもって両商標に係る商標権は消滅したものとみなされた(甲2、3、27の1、2、乙43、44、46、47及び弁論の全趣旨)。
(2) 本件書籍についての商標権侵害の有無 
ア 証拠(検甲6)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 本件書籍の表紙には、大きな太い黒文字で「こうすれば人は動く」と記載され、その下にそれよりも小さいアルファベットの色文字で「How to Win Friends and Influence People 」、さらにその下に、上記アルファベット文字よりもやや小さい黒文字で「デール・カーネギー著」との記載がなされている。
(イ) 本件書籍奥付頁上部には、〈本書へのお問い合わせ先〉として、住所(同頁下部に記載された被告騎虎書房の住所と同一である。)と「SSI D・カーネギー・プログラムス」という記載がある。
(ウ) 本件書籍に綴じ込まれている感想等を書いて送付するはがきには、住所(前記被告騎虎書房の住所と同一)と「SSI D・カーネギー・プログラムス」という記載がある。
イ 前記ア認定の各事実によると、本件書籍の表紙にある前記ア(ア)の記載は、書籍の題号及び著者を示すものと認められるから、本件商標権の侵害が問題となる余地はない。また、同(イ)及び(ウ)の本件書籍奥付部分及び綴じ込みはがきにおける記載は、いずれも本件書籍を読んだ感想等を送付するための送付先を示すものであることが明らかであり、表紙の下部、奥付及び帯に出版社を示す「騎虎書房」の表示がなされていることをも考慮すると、自他商品識別機能、出所表示機能を発揮する態様で表示されているものとは認められないから、これを商標としての使用ということはできず、商標権侵害は認められない。
ウ 以上によると、本件商標権侵害を理由とする原告アソシエイツの請求は、本件書籍に関しては、理由がない。
(3) 本件カセットテープセットについての商標権侵害の有無
ア 証拠(甲41の1ないし13、甲53の1ないし7、検甲4の1ないし13)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(ア) 本件カセットテープセットの構成
 本件カセットテープセットは、本件第二著作物を日本語に翻訳、翻案したものを録音したオーディオカセットテープ12巻、その収録内容をそのまま記載したマニュアル12冊、カセットテープ2巻とマニュアル2冊を収納することのできるケース6個、カセットテープの収録内容及びマニュアルの内容の抜粋を記載したカード(「EXトランプ」)、速聴機、木製ラック、プログラムガイドのカセットテープとそのケース等から成るもので、これらが納品明細書、説明書、ユーザー登録用はがき等と一緒に収納ケースに入った状態で、一体の商品として販売されている。
(イ) 本件カセットテープセットを構成する、オーディオカセットテープ、マニュアル、収納ケースその他の構成品には、以下の『 』内に示す表示(総称して「被告各標章」ということがある。)が付されている。
@ 本件カセットテープセットとマニュアル、EXトランプ等が入っている収納ケース:蓋の外側中央に『D. Carnegie's Golden Rules Program』、蓋の内側に大きな文字で『D. Carnegie's Golden Rules Program』、その下に白文字で『SSI D・カーネギー プログラムス』(検甲4の4)
A 木製ラック:『D. Carnegie's Human Motivation Systems』(検甲4の3)
B カセットテープ及びマニュアルの収納ケース:右上隅に小さな白文字で『D. Carnegie's Human Motivation Systems』、中央に大きな文字で『D. Carnegie's Golden Rules Program』、底部中央に白文字で『SSI D・カーネギー プログラムス』(検甲4の7)
C カセットテープ:テープのラベルに大きく『D. Carnegie's Golden Rules Program』、ラベル下段に小さな文字で『D・カーネギー ゴールデンルール・プログラム』(検甲4の1)
D マニュアル:表紙上部左隅に『D. Carnegie's Human Motivation Systems』、表紙中央に『D. Carnegie's Golden Rules Program』、表紙の裏に当たる頁の最下欄に『SSI D・カーネギー プログラムス』(検甲4の2)
E 説明書:上端部に『SSI D・カーネギー プログラムス』、お取り扱い上の注意と書いた説明の下に「お問い合わせ先 SSI D・カーネギー プログラムス係」(検甲4の10)
F 速聴機:『SSI D・カーネギー プログラムス』、『D. Carnegie's Human Motivation Systems』(検甲4の13)
 上記各表示(被告各標章)は、いずれも自他商品識別標識としての機能を発揮する態様で、本件カセットテープセットについて用いられているものと認められる。
イ 本件商標(一)及び(二)と被告各標章の類似性について  
(ア) 証拠(甲21ないし40、42ないし46,48ないし51)によると、デール・カーネギーは、文筆家・講演家として、アメリカ合衆国のみならず、日本においても、その著書を通じて広く名前を知られており、同人の創設した人材能力開発講座は、「デール・カーネギー」の名称を冠した「デール・カーネギー コース」、「デール・カーネギー プログラム」等の名称で、世界各国で実施され、日本においても、同名称による講座は、1963年に開設されて以来30数年余の実績を有し、6万名余りの受講修了者を世に送り出しており、雑誌等にも繰り返し紹介されて、広く知られていることが認められる。
(イ) 本件商標(一)及び(二)と、前記ア(イ)の被告各標章とを対比すると、被告各標章には、「デール・カーネギー」又は「Dale Carnegie」の冒頭部分を頭文字で表示したものと一見して認識し得る「D・カーネギー」、「D. Carnegie('s)」の文字部分(語)の外に、本件商標には存在しない「SSI」、「プログラム」、「ゴールデンルール・プログラム」、「Golden Rules Program 」、「ヒューマンモティベーション・システム」、「Human Motivation Systems 」などの文字部分(語)が存することが認められる。
 しかしながら、前記(ア)のとおり、「デール・カーネギー」の名前及びその名を冠した「デール・カーネギー プログラム」等の能力開発講座は、日本において周知となっていて、「D・カーネギー(D. Carnegie)」は識別力の高い部分であると認められるのに対し、「プログラム」、「システム」の語は、それぞれ「計画、手順」、「系統、体系、仕組み」などを意味する語として日常的に親しまれ、教育や教育に関連する印刷物の分野において「プログラム学習」「○○プログラム」、「○○学習システム」などのように学習・教授方法や教育内容等を指して多く使われており(当裁判所に顕著な事実)、テープ等からなる教材セットに使われた場合に「プログラム」「システム」の語はもともと自他商品識別力の弱いものであると考えられる。そうすると、被告各標章は、取引者・需要者に「デール・カーネギー(Dale Carnegie)」を想起させるものであって、その要部は、「D・カーネギー」、「D. Carnegie('s)」の部分にあるというべきである。
 そして、本件商標(一)及び(二)と、前記アで認定した本件カセットテープセットについて使用されている被告各標章とを対比すると、その称呼が類似しているうえ、両者はいずれも、文筆家、講演家であるデール・カーネギーの観念を生じさせると認められる。
 したがって、前記ア(イ)で認定した被告各標章は、本件商標(一)及び(二)との間で商品の出所の誤認混同を生じさせるおそれがあり、本件商標と類似しているというべきである。
 なお、本件カセットテープセットについては、その販促用資料として配付されているパンフレットに「・・・発売5周年記念といたしまして、社会教育家として世界的に有名な、あのデール・カーネギーのヒューマンモティベーション・システムを特別価格にてご提供させて頂くことになりました。」と記載され(甲39)、「SSI D カーネギー プログラムス B」と記名された「ご挨拶」と題するパンフレットには「ここにD・カーネギー ヒューマンモティベーション システムをお贈りする真意があります。・・・デール・カーネギーのノウハウが、世界中の人々に支持され続けているのは・・・」とも記載されて(甲53の2)、故デール・カーネギー及び同人の創設に係る教育講座への積極的言及がなされている事実も認められるのであって、これらの事情に照らしても、本件カセットテープセットに被告各標章(とりわけ、本件カセットテープの収納ケース等に付された「SSI D・カーネギー プログラムス」の標章)が使用されていることによって商品主体の混同を生じさせるおそれは大きいものといわざるを得ない。
 被告らは、「SSI D・カーネギー プログラムス」という標章は「SSI」の部分に識別力があると主張するが、「SSI」の文字は、それのみでは直ちに被告の会社名を示すことを認識させるものとは認め難く、上記「SSI」の文字が存在することによって、混同のおそれについての上記認定が左右されるものではない。
ウ 商品の類似性について
 本件カセットテープセットには、前記ア(ア)の認定のとおり、カセットテープの収録内容をそのまま記載したマニュアルや、内容の抜粋を記載したカード(「EXトランプ」)が含まれており、印刷物と認められるマニュアル類は、本件カセットテープセットという一体の商品の商品価値を構成する重要な一部をなしているものと認められる。そして、本件カセットテープセット自体は、もっぱら通信販売により販売されていると一応認められるものの、一般に、カセットテープとその録音内容を印刷したマニュアル等をセットにした商品は、例えば英会話等の教材のように、出版社から発行され書店で販売されることも多いのであり(現に本件第一著作物の日本語版「人を動かす」は、その内容を録音したカセットテープ8本をワンセットにしたものが、一審原告株式会社創元社から発売されていた(検甲3)。)、このような販売元、流通経路の共通性と、教材用カセットテープセットと印刷物の形態をした学習教材や書籍とは用途及び購入者層において共通することが多い等の事情を考慮すると、同一又は類似の商標が付された印刷物とカセットテープセットとの間で商品の出所の誤認混同が生ずるおそれは大きいと考えられる。
したがって、本件カセットテープセットは本件各商標の指定商品である「印刷物」と類似する商品であるというべきである。
エ 商標的使用及び商標法26条1項2号該当性について
 本件カセットテープに付されている被告各標章は、前記アで認定したその使用態様からすると、単に題号として使用されていると認めることはできず、その他、被告各標章が商品の品質を普通に用いられる方法で表示したものというべき事情も認めることはできない。したがって、被告各標章について、商標法26条1項2号の適用はない。
(4) 商標権侵害による損害賠償責任等
ア 被告エス・エス・アイ及び被告Bの責任
 被告エス・エス・アイが本件カセットテープセットに被告各標章を付して販売する行為は、前記(2)のとおり、本件商標権を侵害する。そして、その侵害行為について、被告エス・エス・アイには過失があったことが推定される。また、被告Bは、被告エス・エス・アイの経営・事業を支配し、本件カセットテープセットを同人の提唱する「脳(能)力開発」プログラム用教材の一つとして、被告エス・エス・アイを通じて販売しているものと認められる(甲4、5、弁論の全趣旨)。したがって、被告Bは、被告エス・エス・アイによる本件カセットテープセットの発行販売に関して、共同行為者に当たるというべきであり、同被告の過失も推定される。
 したがって、被告エス・エス・アイ及び被告Bは、本件商標権の消滅に至るまでの期間中になされた商標権侵害行為(本件カセットテープセットの販売)によって原告アソシエイツが被った損害を賠償する責任がある。
イ 被告騎虎書房の責任   被告騎虎書房については、原告らは、被告エス・エス・アイと代表者が同じであり、被告ら三者が一体となって組織として本件カセットテープ販売事業を行っている旨主張するが、被告騎虎書房として本件カセットテープセット販売事業を行っているものとは認められず、上記商標権侵害行為について責任があるということはできない。
ウ 謝罪広告請求権の存否   前記(3)アで認定した本件カセットテープセットについての本件各商標の使用状況及び本件全証拠によって認められる諸般の事情を考慮しても、被告各標章の使用によって原告アソシエイツの信用が毀損されたとまでは認めることができず、本件商標権の侵害に基づく信用回復措置としての謝罪広告の請求は、理由がないというべきである。
3 不正競争防止法違反について(争点(3))
(1) 本件営業表示の周知性
ア 証拠(甲1、21ないし35、40、42ないし46、48ないし51、53)及び弁論の全趣旨によれば、以下の@ないしBのとおりの各事実が認められる。
@ 故デール・カーネギーは、「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・トレーニング」等の名称で知られる話し方講座ないし能力開発講座の創始者として、世界的に有名であり、同人の著作に係る「How to Win Friends and Influence People」(本件第一著作物)は1936年以来、35カ国語で出版され、現在なお版を重ねているロングセラーである。我が国においても、同書の日本語版「人を動かす」は、1958(昭和33)年に一審原告株式会社創元社によって初版が発行されて以来、40年以上にわたって増刷を重ね、日本国内で約300万部を売り上げた実績を有する。
 前記書籍とデール・カーネギー・コースが創設した前記講座は、ビジネスマン向けの雑誌等に繰り返し取り上げられており、例えば、「故D・カーネギーの話し方教室のテキストとして、40年も前に出版されたこの本、今日までに欧米各国では約1千万部以上、また日本においても昭和33年に全訳が出てからすでに153万部売れているのは事実。・・・その主な対象は企業の中間管理層であり、・・・などの会社・官庁では部課長らミドルたちの必読書となっている。・・・この成人教育と人間関係による能力開発をめざすビジネス哲学は、デール・カーネギー・コースと呼ばれる世界的組織のセミナーを通じて、約280万人のカーネギアンを育て、そのなかにはケネディ、ジョンソン元大統領も顔を並べていると言われている。」(昭和53年、「週刊現代」記事)、「カーネギーは、・・・全世界で心の持ち方や話し方、成功術などの教祖的扱いを受け、現在もデール・カーネギー・コースが、日本はじめ世界中で開かれている。1912年にカーネギーがニューヨークのYMCAで最初の講座を開いてから、50年以上もこのコースは継続され、最近では年に8万人が話術や処世術を学んでいるという。・・・『道は開ける』と並んで『人を動かす』という著作がカーネギーの代表作であり・・・」(昭和54年、雑誌「特選街」記事)、「デール・カーネギーは、著述、講演、放送と多方面に活動、「カーネギー言語能率・人間関係研究所」を主宰し、アメリカ、ヨーロッパ各地に300カ所あまりの分教室を経営。ケネディ元大統領をはじめ、政界、実業界に多数の卒業生を送り出す。その著書「人を動かす」は聖書に次ぐロングセラーといわれ、20カ国以上の何百万人の人々にいまなお愛読され続けている。」(昭和60年、雑誌「BIGMAN」)、「デール・カーネギー・トレーニングは、世界74カ国、24カ国語で行われている世界最大の成人教育機関。・・・日本でも、有名な大企業を始め、多くの企業が社員研修などに導入している。芝浦工大に導入されるきっかけとなったのは、・・・プレゼンテーションの授業への導入が決められたそうだ。」(1997年、雑誌「中学受験合格レーダー」)、「・・・『人を動かす』は全世界で3000万部以上・・・、卒業生は340万人・・・現在、受講対象者や目的に合わせて6つのコースが置かれており、高校生から大企業の経営者までバラエティに富んだ人たちが参加している。特徴的なのはほとんどが企業派遣でありながら先輩や知人の薦めによって研修に参加しているということだ。中にはこれまでに数千人の受講者を送り込んでいる企業もある。」(1998年、雑誌「仕事の教室」)などと紹介されているほか、潮(1991年)、週刊ポスト(1995年)、日経ビジネス(1995年、1997年)などに同コースを受講した著名人(企業経営者等)による紹介文が掲載されている。
 デール・カーネギーが創設した「デール・カーネギー・コース」等の講座教育事業は、1955(昭和30)年のデール・カーネギーの死去後は、原告アソシエイツに承継され、同原告は、同事業を自ら実施するか、又は日本を含む世界70数カ国のライセンシーを通じて実施してきている。「デール・カーネギー・コース」等の修了者は、世界中で400万人を超え、米国では93の大学等がカーネギー・コースを振替え単位(トランスファー・クレジット)として単位認定している。
A 日本においては、昭和38年から、「デール・カーネギー・コース」等の各コース(本件教育事業)が、全国の各地において継続して開講され、その修了者はこれまでに6万人以上に達している。上記各コースは、コミュニケーション能力の向上、リーダーシップの養成等を目的とするものであり、受講者は、主としてビジネスマンであるが、各コースの内容等により、高校生から企業の経営者まで幅広いものであり、官公庁や企業の研修にも多く利用されている。平成6年からは、原告パンポテンシアが、原告アソシエイツの許諾の下に、本件教育事業を行っており(売上金額の12パーセントのロイヤリティを支払うとの約定)、事業を総称するものとして、「デール・カーネギー・トレーニング」の名称を使用している。
B デール・カーネギーの著書及び同人が創設した能力開発等の講座については、被告B及び被告エス・エス・アイも、その訳書、発行物等の中で、これを有名な書籍・講座として紹介している。例えば、被告Bは、その訳書「運命を動かした男 デール・カーネギー」(甲40)中の訳者あとがきの中で、「彼(注、デール・カーネギー)は、それらのノウハウを基にして、今では世界的にその名を知られている「話し方コース」という講座を開講し、多くの受講生がそこで学んだ。・・・D・カーネギーは「話し方コース」を通じて、あらゆる職業に従事する何百万という人々に影響を与えてきた」と記述している。また、被告エス・エス・アイが発行したものと認められる本件カセットテープセットの販促用資料(甲53の3)には、デール・カーネギーの肖像スケッチ画とともに、デール・カーネギー「デール・カーネギーは、・・1912年、ニューヨークで「話し方講座」の開講を実現した。以来、ジョン・F・ケネディーやリー・アイアコッカなど、世界的に名だたる成功者を養成してきたことでも知られる。また、・・・・著書「人を動かす」は、1936年に出版されるや世界的なベストセラーとなった。現在、D・カーネギーが残した能力開発講座は、世界でもっとも権威のある成人教育機関のひとつとして、世界72カ国で運営されている。」という記述がある。
イ 以上の@ないしBの事実を総合すると、「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・トレーニング」の各表示(本件営業表示)は、原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの本件教育事業を表示するものとして、日本国内で広く知られていたものと認められる。しかし、それが著名であるとまでは認めることができない。
(2) 被告らの行為とその不正競争行為該当性について
ア 本件書籍について
 前記認定のとおり、@被告騎虎書房が発行販売する本件書籍には、「こうすれば人は動く」、「How to Win Friends and Influence People」、「デール・カーネギー著」という各表示が付されていること、A本件書籍の奥付部分及び綴じ込みはがきに「SSI D・カーネギー プログラムス」という記載が存することが認められる。しかしながら、原判決の説示のとおり(原判決109頁7行ないし110頁末行)、本件書籍の前記@の表示は、デール・カーネギーの著作であること、その英語の原題が「How to Win Friends and Influence People」であること、それを日本語に訳した題号が「こうすれば人は動く」(この訳は、直訳ではないが、英文を訳したものでないとまではいえない。)であることを示すにすぎず、専ら商品の内容、特徴等を表現するために用いられているものであって、商品又は営業を表示するもの(商品等表示)ということはできないから、本件営業表示と同一又は類似の商品等表示の使用に該当するということはできない。また、本件書籍中の前記Aの各記載は、専ら本件書籍を読んだ感想等を送付するための送付先を示すものであって、商品等表示として用いられているものとは認められない。
イ 本件カセットテープセットについて
(ア) 前記2(3)ア(イ)の認定のとおり、被告エス・エス・アイが発行販売する本件カセットテープセットには、その収納ケースに「SSI D・カーネギー プログラムス」という表示が付されているほか、上記収納ケースに入れられた個々の構成品に「D・カーネギー ゴールデンルール・プログラム」、「D. Carnegie's Golden Rules Program」、「D・カーネギー ヒューマンモティベーション・システム」、「D. Carnegie's Motivation Systems」、「SSI D・カーネギー プログラムス」などの表示が付されている。そして、これらの表示は、その表示態様からみて、商品又は営業を示す機能を有していると認められるところ、前記2(3)イ(イ)の認定のとおり、これらの表示のなかで自他識別力を発揮するのは「D・カーネギー」又は「D.Carnegie 」の部分であると認められる。
(イ) 原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの本件営業表示は、「デール・カーネギー」と「コース」又は「トレーニング」を組み合わせたものであるが、「コース」や「トレーニング」は、課程や訓練を意味する語であって、教育関連の事業においてごく一般的に用いられるものであり、このことと、「デール・カーネギー」が文筆家・講演家として、また、世界的に有名な教育事業の創始者として、広く知られていること等の事情を考慮すると、本件営業表示において自他識別力を発揮するのは、「デール・カーネギー」の部分であると認められる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によると、本件営業表示と本件カセットテープセットに付された前記(ア)認定の表示(被告各標章)とは、類似しているというべきである。
(エ) 証拠(甲53の1ないし3)によると、本件カセットテープセットは、コミュニケーション能力の向上、指導力の形成等を目的とした学習プログラムの教材として販売されており、本件教育事業と目的において重なるものであると認められる。このことと、一般的に、授業の内容がカセットテープや書籍として販売されることがあり得ること、前示のとおり「デール・カーネギー」が「人を動かす」「こうすれば道は開ける」等の著者として、また、現在原告アソシエイツ及びそのグループ構成員により世界各国で展開されている講座事業の創始者として広く知られていること、被告エス・エス・アイ自身も本件カセットテープセットの資料請求者向けの資料(甲53の1)で、「『D・カーネギー・ヒューマン・モティヴェーション・システム』は、デール・カーネギーの実践と研究によって構築した数々のノウハウを集大成し」、「これらのプログラムがデール・カーネギーの手によって作成されてから、すでに数十年の歳月が経ちますが、今なおアメリカはもちろん、世界中の人々に支持され、愛されているのは・・・」などとデール・カーネギー及び同人の創始した教育事業について言及し、販促資料(53の3)中で「現在、D・カーネギーが残した能力開発講座は、世界でもっとも権威のある成人教育機関のひとつとして、世界72ヵ国で運営されている。」と説明するなど、世界的に展開されている原告アソシエイツ等の「デール・カーネギー・コース」を想起させる態様で宣伝活動を行っていること等の事実を総合すると、被告エス・エス・アイが本件カセットテープセットに前記表示を使用していることにより、需要者をして、本件カセットテープの営業主体と原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアとの間に、何らかの緊密な営業上の関係又は同一の事業を営むグループに属する関係があると誤信させるおそれが大きいと認められる。
 したがって、被告エス・エス・アイが本件カセットテープセットについて、被告各標章を使用する行為は、不正競争行為に当たる。
(オ) 以上に認定した不正競争行為の内容、態様によれば、原告パンポテンシア及び原告アソシエイツが被告エス・エス・アイの本件カセットテープセット販売による不正競争行為によって営業上の不利益を被っていることは容易に推認することができ、これを覆す証拠はないから、同原告らは、営業上の利益を侵害されたものと認められる。
ウ 被告営業表示について
(ア) 証拠(甲53の1ないし7、甲57)及び弁論の全趣旨によると、被告エス・エス・アイは、本件カセットテープセットの販売に当たって、その営業上の施設又は活動に、「SSI D・カーネギー プログラムス」の表示を使用していることが認められる。また、被告騎虎書房が発行する本件書籍には、奥付部分及び綴じ込みはがきに「SSI D・カーネギー プログラムス」という記載が存すること(検甲6)からすると、被告騎虎書房も、本件書籍の販売に当たって、その営業上の活動に、広く「SSI D・カーネギー プログラムス」の表示を使用しているものと推認することができる。
(イ) 前記イ(ウ)で認定したとおり、「SSI D・カーネギー プログラムス」の被告営業表示は、本件営業表示と類似する。そして、前記イ(エ)で説示したのと同様の理由により、上記表示を付したことにより、需要者をして、被告エス・エス・アイ及び被告騎虎書房と原告パンポテンシア及び原告アソシエイツとの間に何らかの緊密な営業上の関係又は同一の事業を営むグループに属する関係が存在すると誤認させるおそれがあるものと認められる。
 したがって、被告エス・エス・アイ及び被告騎虎書房が「SSI D・カーネギー プログラムス」の被告営業表示を使用する行為は、不正競争行為に該当する。
(ウ) 先に認定した被告エス・エス・アイ及び被告騎虎書房の不正競争行為の内容、態様によれば、原告パンポテンシア及び原告アソシエイツが上記不正競争行為によって営業上の不利益を被っていることは容易に推認することができ、これを覆す証拠はないから、同原告らは、被告営業表示の使用による不正競争行為によって、営業上の利益を侵害されたものと認められる。
(3) 不正競争行為による各被告の責任等
ア 以上によれば、被告エス・エス・アイに関しては、本件カセットテープセット販売及び被告営業表示の使用について、被告騎虎書房に関しては、被告営業表示の使用について、それぞれ原告パンポテンシア及び原告アソシエイツに対する不正競争行為の成立が認められ、これらの不正競争行為によって同原告らの営業上の利益が侵害されたことが認められる。よって、被告エス・エス・アイ及び被告騎虎書房に対して、同原告らは、それぞれの不正競争行為について、損害賠償請求権及び差止等請求権を有する。
 被告Bは、被告エス・エス・アイ及び被告騎虎書房の代表者であり、これら両被告を実質的に支配しており、両被告各々の不正競争行為について共同行為者であると認められるものであり、また、その行為について少なくとも過失があったと認められるから、被告エス・エス・アイ及び被告騎虎書房の各々の不正競争行為について、各被告と共同して責任がある。
 なお、本件カセットテープセットの販売についての被告騎虎書房の責任に関しては、被告騎虎書房を含む被告ら三者の共同意思の下に本件カセットテープセットが販売されている旨の原告主張を支持するに足りる事情を認めることはできず、被告騎虎書房に関しては本件カセットテープセットの販売による上記不正競争行為についての責任を認めることはできない。 
イ 原告パンポテンシア及び原告アソシエイツが、被告エス・エス・アイ及び被告騎虎書房の右の上記不正競争行為によって業務上の信用を害されたというべき具体的な事情は認められないから、信用回復措置としての謝罪広告の請求は認められない。
4 原告らの被った損害等
(1) 本件著作権侵害による損害賠償について(原告A)
 当裁判所も、本件著作権侵害(前記1、(3))により原告Aが被った損害の額は、本件著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当すると認められる金額、すなわち、本件書籍の発行販売行為については、本件書籍の売上合計額(消費税を含む)に10パーセントを乗じて得られる金236万8345円、本件カセットテープセットの発行販売行為については、本件カセットテープセットの売上合計額(消費税を含む)に10パーセントを乗じて得られる金3538万2374円(月別の内訳は、本判決添付の別紙本件カセットテープセット売上表(1)の「著作権侵害分」欄記載のとおり)であると認める。その理由は、原判決事実及び理由の第五、四、1「本件著作権侵害による損害賠償請求について」(原判決118頁3行ないし125頁7行)に説示されているとおりであるから、これを引用する。
(2) 本件商標権侵害による損害賠償請求について(原告アソシエイツ) 
ア 当裁判所も本件商標権の侵害(前記2(4))により原告アソシエイツが請求することのできる損害賠償額は、平成10年法改正前の商標法38条2項による本件商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額であるとするものであり、その額については、平成8年9月から本件商標権が消滅したとみなされる同9年10月29日より前の期間の本件カセットテープの売上合計額(消費税を含む)に2パーセントを乗じた金432万4221円(月別の内訳は、本判決添付の別紙本件カセットテープセット売上表(1)の「商標権侵害分」欄の平成8年9月から同9年10月(10月分については日割り計算)の欄に記載のとおり)と認める。売上合計額の2パーセントを相当とする理由は、原判決事実及び理由の第五、四、2「本件商標権侵害による損害賠償請求について」の(一)及び(二)(原判決の125頁8行ないし127頁3行)のとおりであるから、これを引用する。ただし、127頁1行の「本件カセットテープセットの売上合計額」を「本件カセットテープセットの平成8年9月から同9年10月28日までの売上合計額」と訂正し、同頁2行の「707万6474円(月別の内訳は、別紙本件カセットテープ売上表(1)記載のとおり)」を「432万4221円(月別の内訳は、本判決添付の別紙本件カセットテープ売上表(1)の「商標権侵害分」欄の平成8年9月から同9年10月の欄に記載のとおり)」と訂正する。
イ 証拠(甲60の1、2、乙27、43、44(枝番省略))及び弁論の全趣旨によると、本件商標は指定商品「印刷物」に使用されていなかったことが認められることのほか、本件カセットテープセットに付された被告各標章の使用態様などに照らし、本件商標権侵害に基づく信用毀損を理由とする損害賠償の請求は、これを認めることができない。
(3) 不正競争防止法違反による損害賠償について
ア 不正競争防止法5条1項による損害額算定の可否
(ア) 原告らの営業上の損害について
 前記3(1)ア及び同(2)イ、ウの事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告アソシエイツは、故デール・カーネギーの創設に係る「デール・カーネギー・トレーニング」、「デール・カーネギー・コース」等の名称で知られる教育事業を承継し、同事業を世界の70数カ国において、自ら実施するか又はそのライセンシーを通じて実施してきていること、原告パンポテンシアは、原告アソシエイツから日本国内における独占的ライセンスを受け、原告アソシエイツが展開する教育事業グループの一員として、本件教育事業を行っていること、原告パンポテンシアは前記ライセンスの対価として原告アソシエイツに対し本件教育事業の売上額の12パーセントの支払いを約していること、日本における「デール・カーネギー・コース」等の教育事業は、1963(昭和38)年に講座が開設されて以来、30数年余の実績を有し、実業界を中心に名声と信用を獲得していること、一方、被告エス・エス・アイは、「脳(能)力開発」を謳った本件カセットテープセットの宣伝パンフレットや広告等において、故デール・カーネギーによって開設された「デール・カーネギー・コース」等の人材能力開発講座に積極的に言及し、「社会教育家として世界的に有名な、あのデール・カーネギーのヒューマン・モティベーション・システムを特別価格にてご提供」などと宣伝していること、以上の事実が認められる。
 これらの事実に照らすと、被告エス・エス・アイは、原告アソシエイツを中心とする、原告パンポテンシアの所属するグループが、長年の普及活動と営業努力によって日本において獲得した「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・トレーニング」の信用と名声を利用して、本件カセットテープセットの販売事業を行っているといわざるを得ない。そして、原告パンポテンシアの本件教育事業と被告エス・エス・アイが行っている録音テープの学習プログラム提供事業とは、教室事業かテープを利用した自己学習かという学習形態の違いがあるにしても、共に能力開発、自己啓発のための教育事業であるという点において共通するものであるから、原告パンポテンシア及び原告アソシエイツは、被告エス・エス・アイの上記不正競争行為によって、本件教育事業について築いてきた名声、信用に基づく顧客吸引力を不当に利用され、その名声、信用を損なわれかねない地位に置かれているという意味において、営業上の損害を被っていると認められる。
(イ) 推定規定の適用について(本件カセットテープセットの販売による利益を損害額と推定することの可否)
 不正競争防止法5条1項の損害額の推定規定は、不正競争防止法の平成5年改正で新設されたものであるところ、その範とされた特許法の旧102条1項(現行法102条2項)は、侵害行為に起因して権利者が被った売上減少による利益喪失額(逸失利益)について、その額が侵害行為によって侵害行為者の得た利益額に等しいと推定することを定めた規定であると解される。ところで、このような推定規定は、経験則に基礎を置くものであり、侵害行為により侵害者が得た利益額を権利者の失った利益額(得べかりし利益額)と推定することに何らかの合理性があるといえる程度の競業関係ないし事業の同種性が存在することを、経験則を根拠づける事情として、前提にしているものと解される。そうすると、1項の推定規定を適用するには、少なくとも経験則を成り立たしめるのに不合理でない程度の事情が存在することが前提となるというべきであり、両当事者の事業相互間に、一方の売上が増加することによって他方の売上が減少するという対応関係を認め得る程度の事業内容の同種性が存在しない場合には、侵害行為者の得た利益額を権利者の損害額と推定することは、不適切な場合が多いと考えられる。特許権侵害や商標権侵害等の場合と必ずしも同一視し得ないにしても、この理は、不正競争防止法5条1項の推定規定の適用についても当てはまるというべきである。
 そこで、上記見解に立って、本件の事実関係を検討するに、原告パンポテンシアの本件教育事業は受講者に対する教室講義が主であること、原告パンポテンシアは、講義用教材として講義内容を収録した書籍を配布・販売することはあっても、授業内容やデール・カーネギーの著作等を録音したカセットテープを販売したことはなく、カセットテープの販売事業は行っていないことが認められる。
 そうすると、本件教育事業と被告エス・エス・アイの営業とは、共に能力開発等を目的とする教育事業であるという点で共通性を認め得るとしても、原告パンポテンシア及び原告アソシエイツにおいて現実にカセットテープの販売事業を行っていない以上、本件の具体的事実関係の下で本件カセットテープセット販売によって得た利益額を直ちに原告パンポテンシアの損害額(逸失利益額)に等しいと推定することは、推定規定の前提である経験則に基礎づけられているということができず、推定は働かないというべきである。
 したがって、不正競争防止法5条1項を適用して、被告エス・エス・アイが本件カセットテープセットの販売によって得た利益額を原告パンポテンシアらの損害額と推定すべきであるという主張は、採用することができない。
イ 不正競争防止法5条2項による算定
 そこで、原告らの損害を、同法5条2項によって算定することとし、被告エス・エス・アイの不正競争防止法違反行為に対し「通常受けるべき金銭の額に相当する額」について検討する(なお、同法1項による損害算定ができない場合、弁論に顕出された事実に基づいている限り、同法2項により損害額の算定をすることが許されると解される。被告らは、本件において、「通常受けるべき金銭の額」は売上額の2パーセントが相当であると主張している。)。
(ア) 「通常受けるべき金銭の額」は、侵害行為(不正競争行為)によって営業上の損害を被った者に対して回復されるべき客観的に相当な対価であると解されるところ、その額は、当該事案の具体的事実関係を踏まえ、権利者(不正競争行為の被害者)側の事情、不正競争行為者側の事情、市場の状況等を算定要素として考慮して認定することが相当であると考えられる。その際に、不正競争行為を行った者がその不正競争行為によって得た利益の額は、他の諸事情と相俟って、相当な対価額を認定するための重要な算定要素として考慮されてよい。
(イ) そこで、被告エス・エス・アイの利益及びその他の諸事情について検討する。証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認めることができる。
@ 被告エス・エス・アイは、各種著作の内容を録音したカセットテープセットと速聴機とを組み合わせた商品を販売する事業を行っており(乙32、33、45)、「D・カーネギー ゴールデンルール・プログラム」(本件カセットテープセット)もその営業品目の1つである。本件カセットテープセットについていえば、速聴機は、本件カセットテープセットを構成する一品目として、カセットテープセットと抱き合わせで販売されており、単独で販売されることはない。
A 被告エス・エス・アイの売上額(全品目)に対する一般的な販売費・管理費の割合は、約57パーセントである(甲62の1ないし3、乙26)。
B 本件カセットテープセットの平成8年9月から平成10年5月末までの売上合計額4億0385万5400円(本件カセットテープセット単体での売上額791セット分と「D・カーネギー ハイエンド・プログラム」の売上額150セット分の合計額。消費税を含む)から、その製作費用合計額4118万4732円を控除したうえ、販売費及び管理費として売上合計額の45パーセントを控除し、さらに、上記期間中に、原告Aに対して支払われるべきであった著作権使用料(本件カセットテープセットの売上と認められる金額の10パーセント)及び原告アソシエイツに支払われるべきであった商標使用料(本件カセットテープセットの売上と認められる金額の2パーセント)を控除して求めた被告エス・エス・アイの本件カセットテープセット販売による利益額は、1億1872万6404円(月別の内訳は、本判決添付別紙本件カセットテープセット売上表(2)の「利益」欄記載のとおり)である。その算定の基礎となる資料、計算式及び計算の根拠については、原判決128頁2行ないし134頁末行の摘示のとおりである。
 なお、原判決は、上記利益額の算定において、@売上合計額の計算において、本件速聴機の価格を控除せず、A本件カセットテープの売上合計額から控除すべき制作費用として販売部数に対応する製作費用のみを認め、未販売部数も含めた製作費用はこれを控除せず、B販売費及び管理費として売上合計額の45パーセントを控除し、C著作権使用料10パーセント及び商標使用料2パーセント(但し、算定の基礎となる売上合計額は本件カセットテープセットの単体での売上合計額と、「D・カーネギー ハイエンド・プログラム」の売上合計額中の本件カセットテープ単体の相当する売上合計額とを合計した額である)を控除している。原判決の採用した算定方法は、証拠及び弁論の全趣旨によって認められる本件事案の具体的事情の下では、「通常受けるべき金銭の額」を認定するための資料となる利益額の算定方法として、一応の合理性があり、その算定方法及び算定結果を不相当とする理由は認められない。
 被告らは、本件カセットテープセットは、被告エス・エス・アイの速聴機ビジネスにおける1営業品目であるにすぎず、本件カセットテープセットの売上は、速聴機自体の持つ商品価値に依存するから、速聴機の価格を売上高から控除すべきであると主張する。しかし、既存の速聴機ビジネスに対する関係で本件カセットテープセットが売れた原因が速聴機自体のもつ商品価値にあるという関係は、本件全証拠によってもこれを認めることが困難であり、かえって、既に認定したところからすれば、本件カセットテープセットの販売には本件営業表示に化体された「デール・カーネギー コース」の信用が大きく貢献していることが明らかである(このことは、被告エス・エス・アイが原告らの「デール・カーネギー コース」等を需要者に想起させることを意図した態様で宣伝広告を行っていることからも裏付けられる。)。してみると、本件カセットテープセットの一構成品として販売されている速聴機の価格を、本件カセットテープセット販売による利益額の算定に際して控除する必要はないというべきである。また、被告エス・エス・アイにおける一般的な販売費及び管理費が57パーセントであることからすると、本件著作権及び本件商標権の使用料相当額を控除することを前提として本件カセットテープセットの販売について販売費及び管理費として45パーセントを売上合計額から控除することにも一応の合理性があるというべきである(なお、本件商標(一)及び(二)の商標登録が指定商品「印刷物」につき不使用により取り消されて本件商標権が遡って消滅した平成9年10月29日以降の商標使用料についても、不使用取消審決が確定する(平成13年10月12日)前の期間中においては被告エス・エス・アイに支払義務があったものであるから、当該期間における利益額を算定するときに商標使用料の支払義務があることを前提とした算定をしても問題はない。)
(ウ) 上記ア(ア)認定のとおり、本件営業表示は、原告アソシエイツ及び原告パンポテンシアの営業努力と実績によって名声、信用を獲得してきた周知営業表示であり、その名声、信用ゆえに、高い顧客吸引力を有していると認められる。そして、原告パンポテンシアは、本件営業表示について、その日本国内における独占的使用を原告アソシエイツから許諾された地位にあり、本件営業表示に付随する名声、信用といった利益を独占的に享受し、これを活用して国内において本件教育事業を実施する地位を脅かされないという利益を保有していたものである。これらの事情の下で、被告エス・エス・アイの速聴機事業ないし「脳(能)力開発」プログラム事業について、本件営業表示の使用が許されるという事態は、およそ想定することができず、前記のような独占的地位ないし利益を何らかの対価の支払と引き替えに放棄せざると得ないとすれば、被告エス・エス・アイに本件カセットテープセット販売事業を継続することの経済的意味を実質上失わしめる程度の対価、すなわち本件営業表示の使用による利益額に匹敵する額の支払が条件となったと考えられる。
 上記の点に加えて、本件教育事業の市場開拓及び維持のために相当額の費用を投じていると推認される原告パンポテンシア及び原告アソシエイツの間において本件営業表示の使用等に対する対価額が売上額の12パーセントであること、被告らの表示使用行為により本件営業表示のイメージの低下、顧客吸引力の低下等が生じるリスクも否定し得ないこと等の諸般の事情をも併せ考慮すると、当裁判所は、本件の具体的事情の下では、原判決認定の被告エス・エス・アイの利益額を「通常受けるべき金銭の額に相当する額」(不正競争防止法5条2項)と認めることが相当であると考える。
 したがって、被告エス・エス・アイ及び同被告の不正競争行為について共同行為者と認められる被告Bは、原判決認定の利益額に等しい合計金1億1872万6404円を、不正競争防止法5条2項の損害賠償額として、原告パンポテンシア及び原告アソシエイツに対し連帯して支払う義務がある(上記金額中、原告パンポテンシア及び原告アソシエイツが各々支払を受けるべき金額は、原判決140頁7行ないし141頁5行のとおり、原告パンポテンシアが1億0447万9236円であり、原告アソシエイツが1424万7168円である。)。
ウ 被告騎虎書房の損害賠償責任について
 前示のとおり、被告騎虎書房は、その営業活動について本件営業表示と類似する被告営業表示を使用していると認められるが、これによって原告アソシエイツ又は原告パンポテンシアに現実の損害が生じたことを認めるに足りる事情は認められず、同被告の上記行為について「通常受けるべき金銭の額」を認定し得る資料がないから、被告騎虎書房の不正競争行為を理由とする損害賠償請求は、これを認めることができない。なお、同被告が本件カセットテープセットについて被告エス・エス・アイと共同して責任を負うべき事実関係が認めれられないことは前示のとおりである。
エ 信用毀損による損害賠償について
 原告パンポテンシア及び原告アソシエイツが、被告エス・エス・アイ及び被告騎虎書房による不正競争行為によって業務上の信用を害されたというべき具体的な事情は認められないから、信用毀損による損害賠償は認められない。
5 原告らの各請求について(まとめ)
 以上によれば、原告らの本件各請求は、本件商標権の侵害に基づく請求に関して以下の(1)及び(2)のとおり原判決を訂正するほか、原判決事実及び理由の第五の四、4「原告らの各請求について」(原判決135頁6行ないし143頁3行)に説示する限度で理由がある。
 原判決中、上記「原告らの各請求について」に説示された判断については、原告アソシエイツの本件商標権侵害による損害額及び差止請求権についての原判決説示を以下の(1)及び(2)のとおり改め、原告らの差止め及び廃棄請求に関する主張に対する判断を以下の(3)のとおり付加するほか、当審も原判決と同様に判断するものであるから、原判決の説示を引用する。
(1) 原判決138頁10、11行の「707万6474円」を「432万4221円」と、139頁3行の70万円を「43万円」と、同頁4行の「777万6474円」を「475万4221円」とそれぞれ訂正する。
(2) 原判決139頁末行ないし140頁3行の「原告アソシエイツが、本件商標権に基づき、被告エス・エス・アイ及び被告Bに対して、本件カセットテープセットの発行、製作、販売又は頒布の差止め及び本件カセットテープセットの廃棄を求める請求は理由がある。」を、「原告アソシエイツが、本件商標権に基づき、被告エス・エス・アイ及び被告Bに対して、本件カセットテープセットの発行、製作、販売又は頒布の差止め及び本件カセットテープセットの廃棄を求める請求は、本件各商標の登録を取り消す旨の審決の確定により本件商標権が平成9年10月29日(不使用取消審判の予告登録日)をもって消滅したことにより、理由がない。」と改める。
(3) 原告らは、本件書籍については、被告エス・エス・アイをも名宛人として、また、本件カセットテープセットについては、被告騎虎書房をも名宛人として、本件書籍及び本件カセットテープセットの発行販売等の差止め及び廃棄請求が認められるべきであると主張するが、被告エス・エス・アイは本件書籍の発行販売等の行為を行っておらず、それらの行為を行うおそれがあるとまでは認めることができないし、被告騎虎書房は本件カセットテープセットの発行販売等を行っておらず、それらの行為を行うおそれがあるとまでは認めることができないから、原告らの上記主張は、採用することができない。よって、原告らの被告エス・エス・アイに対する本件書籍の発行販売等差止め及び廃棄請求及び原告らの被告騎虎書房に対する本件カセットテープセットの発行販売等差止め及び廃棄請求は、いずれも理由がない。
6 結論
 以上のとおり、被告エス・エス・アイ及び被告Bの控訴は一部理由があるから、原判決主文第四項の3を本判決主文3(1)項のとおり変更する。原判決のその余の部分は相当であって、被告エス・エス・アイ及び被告Bのその余の控訴並びに原告ら及び被告騎虎書房の各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとする。
 よって、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第18民事部
 裁判長裁判官 永井紀昭
 裁判官 古城春実
 裁判官 橋本英史
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