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【事件名】ゲームソフト「ファイアーエムブレム(FE)」事件
【年月日】平成14年11月14日
 東京地裁 平成13年(ワ)第15594号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成14年7月16日)

判決
原告 任天堂株式会社
原告 株式会社インテリジェントシステムズ
原告ら訴訟代理人弁護士 青柳ヤ子
同 林いづみ
被告 株式会社エンターブレイン
被告 有限会社ティルナノーグ
被告 A
被告3名訴訟代理人弁護士 宇都宮秀樹
同 小野寺良文
同 早川学
同 末吉亙


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告株式会社エンターブレイン及び被告有限会社ティルナノーグは、プレイステーション版ゲームソフト「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」(発売元 被告株式会社エンターブレイン)を製造、販売、頒布してはならない。
(2) 被告らは、原告任天堂株式会社に対し、連帯して1億2915万円及びこれに対する平成13年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告らは、原告株式会社インテリジェントシステムズに対し、連帯して1億2915万円及びこれに対する平成13年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(5) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第2 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 当事者
ア 原告任天堂株式会社(以下「原告任天堂」という。)は、家庭用ビデオゲーム機及びゲームソフト等の開発、製造、販売等並びにキャラクター商品化業務等を業とする会社であり、原告株式会社インテリジェントシステムズ(以下「原告イズ」という。)は、コンピューターソフトウエアの設計、販売等を業とする会社である。
イ 被告A(以下「被告A」という。)は、昭和63年3月31日から平成11年8月15日まで原告イズの従業員(退職時における役職・開発部部長)であった者であり、被告有限会社ティルナノーグ(以下「被告ティルナノーグ」という。)は、コンピュータソフトウェアの設計、販売等を業とする会社であり、現在、被告Aが代表者を務めている。また、被告株式会社エンターブレイン(以下「被告エンターブレイン」という。)は、株式会社アスキーの子会社として書籍・雑誌の出版、販売、コンピューター関連のソフトウェアの製造販売等を業とする会社である。
(2) 原告らによるゲームソフトの製作、製造、販売
 原告イズは、次のア〜オの各ゲームソフト(以下、アを「暗黒竜と光の剣」、イを「外伝」、ウを「紋章の謎」、エを「聖戦の系譜」、オを「トラキア」といい、ア〜オを併せて「原告ゲーム」と総称する。)をファミコン又はスーパーファミコン用に製作し、原告任天堂は、原告ゲームを製造、販売した。
ア ファミリーコンピュータ用ゲームソフト
 タイトル:「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」
 発売年月日:平成2年4月20日
イ ファミリーコンピュータ用ゲームソフト
 タイトル:「ファイアーエムブレム外伝」
 発売年月日:平成4年3月14日
ウ スーパーファミコン用ゲームソフト
 タイトル:「ファイアーエムブレム 紋章の謎」
 発売年月日:平成6年1月21日
エ スーパーファミコン用ゲームソフト
 タイトル:「ファイアーエムブレム 聖戦の系譜」
 発売年月日:平成8年5月14日
オ スーパーファミコン用ゲームソフト
 タイトル:「ファイアーエムブレム トラキア776」
 発売年月日:平成11年9月1日
(3) 被告らの行為
 被告エンターブレインと、被告Aが代表取締役を務める被告ティルナノーグ(以下「被告エンターブレインら」という。)は、プレイステーション版ゲームソフト「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」(発売元 被告エンターブレイン。以下「被告ゲーム」という。)を共同製作した。被告ゲームの旧名称は、「エムブレムサーガ」であり、被告エンターブレインらは、ゲーム雑誌、インターネットの公式サイト、テレビコマーシャル、販促用ビデオ、ポスター、テレホンカードキャンペーン、体験版、平成13年2月から開始された予約販売等においてこの表示を使用した。その後、被告らは、平成13年4月2日、被告ゲームの名称を、上記の旧名称から現名称である「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」に変更したが、その後においても、プレイステーションドットコムのホームページなど第三者によって「エムブレムサーガ」の表示の使用が続けられている。そして、被告エンターブレインらは、平成13年5月24日以降、被告ゲームを「<C>2001 ENTERBRAIN,INC. <C>2001 TIRNANOG Co.」の表示の下で販売した。
 また、被告Aは、被告ゲームが原告ゲームをプレイステーション版に移植したゲームであるかのように装うために、被告ティルナノーグの代表者として被告ゲームの製作行為に主体的に関与した。
(4) 原告イズの不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「他人」該当性
 原告イズも、原告任天堂と同様、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「他人」に当たり、不正競争防止法に基づく請求権者となるものである。
ア 原告任天堂が販売する商品である原告ゲームについて、その商品の需要者の間で信用、名声を形成している主体は、良質のゲーム内容のゲームソフトを独立して業として製作したゲーム製作会社である原告イズと、これを最終的に監修してカートリッジに複製製造し、宣伝広告して販売をした原告任天堂の両者である。これは、ゲームソフトという商品は、コンピュータープログラム化されたゲームソフトをROMに固定してなる商品であるという、商品としての特質から導かれる。
 このことは、原告らによる商品化事業の展開という点からも首肯される。すなわち、原告イズは、原告任天堂と共同して、原告ゲームにつき平成2年の「暗黒竜と光の剣」の発売時点から商品化事業を開始し、現在に至っている(甲16、204、210、231、247の1〜24、248の1〜8、249の1、2)。
 このように、原告イズは、原告任天堂と共に、原告ゲームの製作、販売、商品化事業の展開を相互に協力して10年以上もの長期にわたって継続し、原告ゲームの商品表示の出所表示機能、品質保証機能、顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に、緊密な営業活動を行ってきたのであるから、原告イズが、原告任天堂と共に、不正競争防止法2条1項1号、2号の「他人」として、同法に基づく請求権を有することは明らかである(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁(以下「プロフットボール事件上告審判決」という。)参照)。
イ なお、裁判例の中には、実用新案権者あるいは著作物使用許諾者であることのみでは不正競争防止法に基づく請求権者たり得ないと判示するものがある(最高裁昭和61年(オ)第30号第31号同63年7月19日第三小法廷判決・民集42巻6号489頁(以下「アースベルト事件上告審判決」という。)、東京高裁昭和7年4月28日判決・無体集14巻1号351頁(以下「タイポス事件控訴審判決」という。))。しかし、これらの裁判例の理由とするところは、これらの事件の実用新案権者、著作物使用許諾者は、自ら商品表示を使用して商品を販売するなどの営業をしていない、というところにある。しかるに、原告ゲームの場合は、原告イズはゲームソフト製作会社としてゲームソフトを製作し、原告任天堂はかかるゲームソフトをカートリッジに複製製造して独占的に販売しているのであって、原告イズは営業を行っていると評価できるものであるから、事案が異なっている。
ウ なお、需要者に原告イズがいかなる状況で知られているかについては、本来不正競争防止法に基づく請求権者たり得るかどうかを判断するためには無関係であると考えるが、念のため付言すると下記(ア)〜(ウ)のとおりである。
(ア) 原告イズが、原告ゲームの製作者であることについては、ゲーム雑誌(甲77、201、219)において原告ゲームのゲームデザイナーを務めた被告Aが原告イズに所属すると記載されており、また、別のゲーム雑誌(甲148)の奥付には、「協力」として原告イズの名称が記載されている。また、攻略本(甲200)においては、その表紙、背表紙、奥付等に「インテリジェントシステムズ完全監修」と明記されている。さらに、ゲーム雑誌の記事(甲219)においては、冒頭に「『FE』開発元 インテリジェントシステムズ」と大書され、記事中において、原告イズが原告ゲームの製作会社であることが記載されている。
(イ) 「トラキア」においては、ゲームソフトのパッケージ、取扱説明書、宣伝広告、ゲーム内容の雑誌記事のいずれにも、原告任天堂の名称と共に原告イズの名称が「<C>1999 INTELLIGENT SYSTEMS」として<C>表示の下に掲載されるに至っている(甲8〜15(枝番省略)、201〜205、208〜213、215〜222、228〜232)。
(ウ) 原告イズは、被告ゲーム発売開始の5年前である平成8年12月16日から原告イズのホームページを運営しており、同ホームページへのアクセス数は、平成13年3月16日の時点(乙1がダウンロードされた時点。被告ゲームの販売開始時の約2か月前の時点)で17万4949件にも及んでいるところ、原告イズは、同ホームページ上において、自らの製作したゲームとして、「暗黒竜と光の剣」、「外伝」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」のゲーム内容を紹介し続けている(乙1)。 
(5) 周知又は著名な商品表示
ア 原告ゲームにおける「ファイアーエムブレム」との表示及びその略称である「エムブレム」との表示並びに原告ゲームであることを示す別紙影像等目録記載の特徴ある影像とその変化の態様は、いずれも原告ゲームの商品表示であり、下記のとおりの長年月にわたる全国的かつ盛大な宣伝広告活動、雑誌記事へのゲーム内容の掲載・紹介、販売本数、商品化事業の展開、第三者の客観的評価等から明らかなとおり、周知性ないし著名性を具備している。
イ 「ファイアーエムブレム」との表示の周知又は著名な商品表示性
(ア) 原告ゲームについて「ファイアーエムブレム」との表示をみると、商品であるゲームソフトに関しては、火を意味する「FIRE」も紋章を意味する「EMBLEM」も何ら関連性のない文字表示であるから、これらを組み合わせてカタカナ表記した「ファイアーエムブレム」との表示は、原告ゲームについて自他商品識別力を有する。
(イ) 原告ゲームについて、「ファイアーエムブレム」の表示が需要者において周知、著名なものとなっていることは、以下の@〜Dから明らかである。
@ 原告任天堂は、原告ゲームの販売に当たり、ゲーム雑誌による宣伝広告活動、ゲーム内容の紹介記事の掲載(甲1〜18(枝番省略)、41〜242)やテレビコマーシャルによる宣伝広告活動(甲243の1〜5)を行い、総額14億1339万円に及ぶ宣伝広告費を投入した(甲250)。
 すなわち、原告任天堂は、ゲーム雑誌の裏表紙やその内側等の最も読者の目をひくスペースにおいて、原告ゲームの全面広告を行ったほか、ゲーム雑誌の表紙に「ファイアーエムブレム」の見出しを掲載した。これらの宣伝広告等を掲載したゲーム雑誌の発行部数は、それぞれ1回当たり数十万部にのぼる(甲314の1〜8)。また、テレビコマーシャルについては、その放映地域は東京地区、大阪地区にわたっており、30秒CMの延べ放映本数は、1070本に及ぶ(甲243の1)。こうした雑誌、テレビにおける宣伝広告活動のため、原告任天堂は、平成8年5月末現在で、総額14億1339万円を支出した(甲250)。また、ゲーム雑誌は、原告ゲームの紹介記事を多数掲載した(甲1〜18(枝番省略)、41〜242)。これらの掲載雑誌の発行部数が、それぞれ1回当たり数十万部にのぼることは、上述したとおりである。
A 原告ゲームの販売本数をみると、「暗黒竜と光の剣」が32万9087本、「外伝」が32万4699本、「紋章の謎」が77万6338本、「聖戦の系譜」が49万8216本、「トラキア」が10万6108本、合計203万4468本という売れ行きを示している(甲244)。これは、「ポケットモンスター」シリーズ、「ドラゴンクエスト」シリーズ、「ファイナルファンタジー」シリーズなどと比較すると、数の上では少ないようにみえる。しかし、原告ゲームは、シミュレーションロールプレイングゲーム(以下「シミュレーションRPG」という。)の分野に属し、「ポケットモンスター」シリーズなどは、ロールプレイングゲームの分野に属する。そして、シミュレーションRPGのユーザーは、ロールプレイングゲームのユーザーの10分の1である。こうした点にかんがみると、周知性、著名性を獲得するのに十分な数の販売本数というべきである。
B 原告ゲームは、ゲーム雑誌において、その売上ランキング等が上位にランクされた(甲47、63、71、75、81、82、84、89、90、93、94、96、101、103〜107、120、121、131、152、153、158、174、185、213、215、216等)。例えば、「暗黒竜と光の剣」は、「ファミコン必勝本」平成2年5月18日号において発売前の読者の期待ランキングが第2位となっており(甲63)、また、「外伝」は、「ファミリーコンピュータMagazine」平成4年4月17日号(甲71)、「ファミコン通信」平成4年4月10日号(甲75)及び「マル勝スーパーファミコン」平成4年4月24日号(甲82)において、売上ランキングが第1位となっている。「紋章の謎」、「聖戦の系譜」、「トラキア」についても、同様に、ゲーム雑誌における売上ランキングが第1位にランクされている。
C 原告ゲームについては、攻略本、コミック、小説、百科、ゲームブック、4コマ漫画、イラスト集、楽譜、CD、LD、オリジナルビデオ、トレーディングカードなど他種類にわたる商品化事業が行われている(甲16、247の1〜24、248の1〜8、249の1、2)。
D 第三者である雑誌記者の記事に、原告ゲームが多数取り上げられている(甲2の1、2、5の1、2、17の1〜3、47、53、64、66、81、82、86、101、105、109〜114、133、134、136、137、145、147、155〜157、163、171、174、175、183、187、190〜193、203、207、208、224、228、234、242)。
ウ 「エムブレム」との表示の周知又は著名な商品表示性
(ア) 原告ゲームにおける「エムブレム」との表示については、英語の「EMBLEM」のカタカナ表記は「エンブレム」であり、「エムブレム」との表記は造語であるから(甲148。被告A自身、このことを自認している。)、このこと自体からも、自他識別力を有することは明らかである。また、商品であるゲームソフトと「エムブレム」との表示との間には、何らの関連性もないから、「エムブレム」は、原告ゲームについて自他商品識別力を有する。
(イ) 原告ゲームについて、「エムブレム」との表示も、商品表示として周知性ないし著名性を取得している。
 すなわち、原告ゲームは、多数のゲーム雑誌、攻略本、百科等に「エムブレム」と略称して掲載又は紹介され、また、数え切れないほどのインターネットサイトで「エムブレム」と略称されて取り上げられている(甲4〜6の各1、2、11、92、101、104、108、109、116、148、186、188、190、197〜201、203、206、234〜242)。このように、「エムブレム」が多用されていることからすれば、「エムブレム」との表示が広く使用され、ゲームを扱う取引者、需要者に周知ないし著名であることは明らかである。
エ 別紙影像等目録記載の影像とその変化の態様は、原告ゲームの商品表示として、周知性ないし著名性を具備している。
 すなわち、ゲームの各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様も、原告らの商品であることを示す出所表示の機能を備えるに至った場合には、商品表示性が認められ不正競争防止法による保護の対象となる(東京地裁昭和57年9月27日判決・無体集14巻3号593頁(スペースインベーダ事件第一審判決)、京都地裁昭和57年7月5日決定(ドンキーコング事件仮処分決定)参照)。しかるに、原告ゲームのゲームソフトであるとして、需要者に認識させる特徴的な影像とその変化の態様は、別紙影像等目録記載のとおりであり、その内容に照らし、原告ゲームが原告らの商品であることを示す出所表示の機能を備えていると十分いうことができる。すなわち、「@同目録1に例示するような、桝目により移動可能範囲を表現するトップビューによる戦闘マップ画面から、自軍を右側に位置せしめ且つ自軍であることを青色系の表示を用いることによって示し、敵軍を左側に位置せしめ且つ敵軍であることを赤色系の表示を用いることによって示す、サイドビューによる1対1のアニメーション切替戦闘画面に移行して戦闘を行い、敗者は影像が薄くなりつつ消滅する影像とその変化の態様、A同目録2に例示するような、主人公の亡国の少年王子の影像、B同目録3に例示するような、女性ユニットがペガサスに騎乗して登場するペガサスナイトの影像」を特徴とする、西洋中世の架空の大陸を舞台とし、設定された物語の進行に伴って主人公が自軍と共に敵軍と戦う、シミュレーションRPGは、原告ゲームが具備する新規な特徴点であり、前記イ(イ)@〜Dで記述したような原告らによる盛大な宣伝広告活動、各種雑誌によるゲーム内容の影像とともにする膨大な紹介記事の掲載、そのシミュレーションRPGとしては大ヒットといえる販売実績、各種ゲーム雑誌等による高い評価と第三者の執筆した記事、多種類にわたる膨大な商品化事業活動等によって、遅くとも「トラキア」が販売された平成11年9月までには、シミュレーションRPGのゲーム分野の需要者の間で、原告ゲームであることを示す商品表示として、周知性ないし著名性を具備するに至っていた。
(6) 原告ゲームの商品表示と被告ゲームの商品表示との類似性
ア 原告ゲームの「ファイアーエムブレム」又は「エムブレム」との表示と被告ゲームの「エムブレムサーガ」との表示との類似性
 原告ゲームの「ファイアーエムブレム」との表示からは、上記(5)に記載したように「エムブレム」が周知性ないし著名性を具備するに至っているから、「エムブレム」が要部である。一方、被告ゲームの商品表示の「エムブレムサーガ」については、「サーガ」がゲーム分野においては一般に「伝説」を意味するものとして認識されており、一方、「エムブレム」は、既に需要者の間に原告ゲームを示す略称として認識されている上、「エムブレム」との表示自体、上記(5)に記載したように原告ゲームの商品表示として周知性ないし著名性を具備しているから、その要部は「エムブレム」である。そして、原告ゲームの「ファイアーエムブレム」又は「エムブレム」の表示の要部である「エムブレム」と被告ゲームの商品表示「エムブレムサーガ」の要部である「エムブレム」とを対比すれば、両者は称呼を同一とするから類似であるというべきである。
イ 被告ゲームの影像及びその変化の態様と、原告ゲームの影像及びその変化の態様との類似性
 被告ゲームの影像及びその変化の態様は、原告ゲームの影像及びその変化の態様と同一又は類似する。例えば、その類似性を例示として示すならば、別紙影像等目録に記載したとおりであり、一見してその類似性は明らかである。
(7) 被告エンターブレインらによる混同を生ぜしめる行為
 上記のとおり、原告らの周知、著名な商品表示に類似する表示を被告エンターブレインらが使用したために、需要者間には、被告ゲームは原告ゲームをプレイステーション版に移植したゲームソフトであるとの誤認が生じ、ひいては、被告エンターブレインらは原告らから原告ゲームのプレイステーション版製作につき何らかの許諾を受けているとの誤認が生じた。これらは、インターネットのホームページ上の記載(甲308)のほか、ゲーム雑誌上の投稿(甲253、260、263、266、270、274〜276、279、281、283、284、286、287)、雑誌記事等に示された混同事例(甲17の1〜3、22の1〜3、33の1、2、285、318)から明らかである。
(8) 原告ゲームの著作権の帰属
 原告らは、「トラキア」及び「外伝」の中の全体マップ部分並びに「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」における登場人物等の影像について、著作権を有する。
ア 原告イズへの著作権の帰属
 原告イズは、著作権法15条1項の「職務上作成する著作物の著作者」との要件を充足している。すなわち、原告ゲームは、原告イズの発意に基づいており、被告Aを含む原告イズの従業員が職務上作成したものであり、将来原告イズの名義の下に公表することについて原告イズと被告Aを含む従業員との間で了解が存在しており、作成時の契約や勤務規則等に別段の定めがないからである。
 なお、著作権法15条1項の「公表」を、発売時にゲームに記載されることがあるいわゆる「<C>表示」の態様によって判断することは誤りである。我が国の著作権法においては、著作権は無方式で発生し、<C>表示には何らの拘束的意味はないし、ゲーム業界等においては、ライセンス営業の状況いかんによって、様々な態様で<C>の著作権表示を使い分けている。原告ゲームのうち、「トラキア」には原告イズと原告任天堂を<C>表示し、それ以外の「暗黒竜と光の剣」、「外伝」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」には原告任天堂のみを<C>表示したのは、単なる営業上の判断によって両者間の商品化契約において定めた結果であるにすぎない。
 そもそも創作と公表の時点にはタイムラグがあるから、法人等の業務に従事する従業者が職務上作成するその創作の時点で、将来それを公表するとすれば、その公表の際には当該法人等と従業者との間でいずれの名義を付すものとして取り扱われていたのかということをもって、「公表」要件の充足性の有無を判断するべきである。すなわち、法人と従業者との間において、創作の時点で、将来、当該法人等の名義のもとに公表するという明示又は黙示の了解があると認められる著作物であれば、作成後の実際の公表が無名か又は他人名義かを問うことなく「公表」の要件を充足すると解するべきである。そして、本件において、原告イズと被告Aを含む従業員との間には、職務上作成したゲームについては、将来、公表する場合は従業者名義ではなく、原告イズの名義のもとに公表するものであることについての了解が存在する。したがって、本件の原告イズは、著作権法15条1項の「公表」要件を充足する。
イ 原告任天堂への著作権の一部譲渡
 原告イズは、平成13年4月17日、原告任天堂に対し、その有する原告ゲームの著作物に関する一切の著作権(著作権法27条及び28条に定める権利を含む)につき、その2分の1の持分を譲渡する旨の合意をした(甲34)。
(9) 原告ゲームの一部と被告ゲームとの類似性
ア 原告ゲームの内容
(ア) 「トラキア」の創作的な表現形式の特徴は、別紙対照表1における左欄(緑色の部分)に記載したとおりである。
(イ) 「外伝」の全体マップの部分の創作的な表現形式の特徴は、別紙対照表2における左欄(緑色の部分)に記載したとおりである。
(ウ) 「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」における登場人物等の影像は、別紙対照表3における左欄(緑色の部分)に記載したとおりである。
イ 被告ゲームの内容
 上記アに記載した原告らの著作物の内容に対応する被告ゲームの内容は、別紙対照表1〜3における右欄(黄色の部分)に記載したとおりである(以下、同対照表1〜3において「イ号物件」とあるのはすべて「被告ゲーム」と読み替える。)。
ウ 原告ゲームと被告ゲームの対比
(ア) 「トラキア」の戦闘マップ部分と被告ゲームの戦術マップ部分との同一性
 被告ゲームの戦術マップ部分の表現形式においては、下記の影像表現の対比等からみて、「トラキア」の表現形式上の本質的な特徴が失われずに同一性が維持されており、これを直接感得することができるから、被告ゲームの戦術マップ部分は「トラキア」の戦闘マップ部分を複製ないし翻案したものというべきである。
 すなわち、被告ゲームの戦術マップ部分と「トラキア」の戦闘マップ部分とを対比すると、別紙対照表1に記載したとおりであって、@ 戦闘マップの画面表示とそれに関連する影像表現、A 戦闘画面の影像表現の仕方とその流れ、B ゲームを進行させあるいはゲームの進行を助ける各種コマンドの影像表現、戦闘に必要な情報を表示するステータス画面・戦闘前パラメータの影像表現、「乗る」コマンドを選択した場合と「乗り物」の種類と影像表現、ゲームの進行を助ける縮小マップの影像表現、ゲームの進行を助けるユニット一覧表の影像表現についての、影像表現と影像の流れ、C ユニットの成長の場合の影像表現、D 会話・イベントの影像表現、E 死亡判断と死にセリフの影像表現、F 「主人公の死亡」によるゲームオーバーの影像表現、G エンディングの影像表現の点において、表現形式が実質的に同一である。
 なお、被告ゲームの全体マップ部分は、「トラキア」と対比する上では除いているが、「外伝」と実質的に同一のものであり、被告ゲームにこのような部分があるからといって、被告ゲームの戦術マップ部分の表現形式についての「トラキア」の著作物にかかる著作権侵害の判断に、何ら影響するものではない。
(イ) 「外伝」の全体マップ部分と被告ゲームの全体マップ部分との同一性
 「外伝」の全体マップ部分と被告ゲームの全体マップ部分とを対比すると、別紙対照表2記載のとおりであり、両者の概要、その影像表現形式及び影像の流れは実質的に同一である。すなわち、被告ゲームの全体マップ部分は、「外伝」の全体マップ部分の創作的な特徴部分が同一性を失うことなく保持されており、これを直接感得することができるから、被告ゲームの全体マップ部分は「外伝」の全体マップ部分を複製ないし翻案したものというべきである。
(ウ) 「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」における登場人物等の影像と被告ゲームにおける登場人物等の影像との同一性
 以下に述べるとおり、「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」における登場人物等の影像に、被告ゲームにおける登場人物等の影像は酷似するから、後者は前者を複製ないし翻案したというべきである。
@ 「トラキア」における登場人物等の影像との対比
 被告ゲームにおける「リュナン」「セネト」「ネイファ」「ヴェガ」「サーシャ」「マルジュ」「ペガサスの静止影像及び連続影像」「ドラゴンの静止影像」は、別紙対照表3の右欄(黄色の部分)に記載したとおりであり、「トラキア」における「リーフの影像」「スルーフの影像」「サラの影像」「シヴァの影像」「ミーシャの影像」「アスベルの影像」「ペガサスの静止影像及び連続影像」「ドラゴンの静止影像及び連続影像」の著作物は、別紙対照表3の左欄(緑色の部分)に記載したとおりである。これらを対比すると、別紙対照表1に記載したとおり、被告ゲームにおける各影像は、対応する「トラキア」の各影像と酷似している。
A 「紋章の謎」における登場人物等の影像との対比
 被告ゲームにおける「リュナン」「オイゲン」「クライス」「アーキス」「サーシャ」「ペガサス三姉妹」「レシエ」「メリエル」「バーツ」「ペガサスの静止影像」は、別紙対照表3の右欄(黄色の部分)に記載したとおりであり、「紋章の謎」における「マルスの影像」「ジェイガンの影像」「カインの影像」「アベルの影像」「カチュアの影像」「ペガサス三姉妹の影像」「ミネルバの影像」「リンダの影像」「バーツの影像」「ペガサスの影像」の著作物は、別紙対照表3の左欄(緑色の部分)に記載したとおりである。これらを対比すると、被告ゲームの各影像は、「紋章の謎」の上記各影像と酷似している。
B 「聖戦の系譜」における登場人物等の影像との対比
 被告ゲームにおける「ロジャー」「リチャード」は、別紙対照表3の右欄(黄色の部分)に記載したとおりであり、「聖戦の系譜」における「トリスタンの影像」「トラバントの影像」の著作物は、別紙対照表3の左欄(緑色の部分)に記載したとおりである。これらを対比すると、被告ゲームの各影像は、「聖戦の系譜」の上記各影像と酷似している。
エ 被告らの主張に対する反論
(ア) 被告らは、原告らが保護を求めているのは、著作権法の保護対象とならない「アイデア」についての保護であると主張するが、失当である。原告らが保護を求めている著作物の創作的な表現形式の特徴は、別紙対照表1〜3の左欄(緑色の部分)に記載されているとおりの具体的な表現形式であり、これらを単に「アイデア」であるなどとする余地はない。被告らは、「場面展開の概念図」なるものを勝手に作成し、かかる「場面展開の概念図」について原告らが著作権による保護を求めていると誤った理解をした上で、これはアイデアに保護を求めるものであると反論しているにすぎない。また被告らは、「フェーダ」「フロントミッション」「ファイナルファンタジータクティクス」は、被告らが作成した「場面展開の概念図」を共通にしているなどと主張するが、原告らは、「場面展開の概念図」などというものを著作物として主張しているのではないのであるから、被告らの上記主張は失当である。
(イ) 被告らは、原告らの主張する各著作物は創作性が極めて乏しいから保護を受けられる幅は極めて狭いと主張し、被告作成の書証(乙39)において、原告ゲームと同種ゲームを挙げるが、失当である。
 まず、上記書証(乙39)の28頁において、「クラスチェンジの場合の画面表示」という項目があるが、同項目においては、いかなる影像表現も影像の流れも示されていない。同書証(乙39)の8〜12頁をみても、「トラキア」における「自軍ユニットにカーソルを合わせると……自軍ユニットが敵軍から攻撃可能な範囲内に存在しているか否かを容易に確認できるようになっている」という具体的な表現形式を持つものは、一切示されていない。また、同書証(乙39)の4頁には、翼を持った白馬の静止影像が示されているが、それぞれが様々な表現形式を持ち得ることが示されているにすぎず、「トラキア」の著作物における「背中に大きな翼を有する白馬であって、……ペガサスナイトの女性騎士を乗せて大きな翼を曲げるようにして飛翔し、頂点の高さに達した位置から左斜め下方の地上にいる敵ユニットめがけて下降し、敵ユニットの右側に対峙して攻撃を開始する」という影像表現に似通った静止画は一切存在しない上、影像の連続の流れとして示されているものは一切存在していない。さらに、同書証(乙39)の5頁には翼を持ったいわゆるドラゴン様の静止影像が示されてはいるが、一部のものはロボットであるし、それぞれが様々な表現形式を持ち得ることが示されているにすぎず、「トラキア」における「恐竜の背中にコウモリの翼のような大きな翼が生えた外観をしており、……ドラゴンナイトの騎士を乗せて大きな翼を曲げるようにして飛翔し、頂点の高さに達した位置から左斜め下方の地上にいる敵ユニットめがけて下降し、敵ユニットの右側に対峙して、攻撃を開始する」という映像表現に似通った静止画が一切存在しない上、影像の連続の流れとして示されているものは一切存在していない。
 また、創作性を論ずるのであれば、原告ゲームの製作された時点より前の公知例と比較するのでなければ、原告の著作物の創作性を論ずることはできないはずであるから、被告らの挙げる「ブリガンダイン グランドエディション」(乙11)、「ブラックマトリクスクロス」(乙20)、「真・三国無双2」(乙39)、「サモンナイト」、「スーパーロボット大戦α」、「フロントミッションザード」、「三国志3」、「テイルズオブエターニア」、「ベアルファレス」(乙40)は、いずれも「トラキア」の発売後のゲームソフトである以上、原告ゲームの創作性を論じるに当たって比較の対象とはならない。
(ウ) 被告らは、上記の(ア)、(イ)に示した各主張を前提として、わずかな違いさえあれば類似しないとの主張をしているが、前提とした(ア)、(イ)の主張のいずれもが成り立たないのであるから、被告らの些末な相違点で類似を免れるとの主張も成り立たない。
 なお被告らは、細部のストーリーの違いによって著作権侵害を免れるかのような主張をしているが、基本ストーリーを維持しつつ細部のストーリーを異にするのは翻案である以上当然である。しかも、ゲームソフトの著作物は、文芸の著作物である小説と異なり、細部のストーリーはゲームの内容の背景としての意味しか有しない。「トラキア」及び被告ゲームにおいて、ゲームソフトの著作物としての本質的な特徴は、プレイヤーによって何度も繰り返して頻繁に影像表示される「戦闘マップ」部分(すなわち、トップビューによる戦闘マップ上に移動範囲と攻撃範囲を表示して自軍ユニットが移動し、「出撃準備メニュー」「戦闘マップ上でのメインメニュー」「自軍ユニット移動後のメインメニュー」等のコマンド画面等を表示し、敵軍ユニットに遭遇するとサイドビューによる切替戦闘シーン等を表示し、戦闘によって自軍ユニットの経験値を高めて成長させるなど)の具体的な影像表現とその具体的な影像の流れである。そして、かかる影像表現とその具体的な影像の流れにおいて、被告ゲームは「トラキア」と実質的に同一の表現形式を維持しているのであり、かつ、被告ゲームは「トラキア」と同一の基本ストーリーを維持している。このように、被告ゲームは、「トラキア」の本質的な特徴の同一性を維持している以上は、たとえ背景たる細部のストーリーに変更を加えたとしても、翻案権の侵害を免れない。
 また被告らは、被告ゲームがリュナン編とホームズ編からなっていることを「トラキア」との相違点であると主張するが、ホームズ編といっても、登場人物がホームズに差し替えられるだけで、被告ゲームの戦術マップ部分の内容はそっくりそのまま繰り返されるのであるから、単に戦術マップ部分の量がその分増えているというだけのことであり、何ら本質的な相違点となりうるものではないし、リュナンとホームズの2本立てというゲームシステム自体も、「外伝」の模倣にすぎない。
 さらに被告らは、被告ゲームにおいて「対戦システム」を付加した点も相違点になると主張するが、これは、「トラキア」では敵のターンをコンピュータが担当しているのに対して、被告ゲームにおいてはもう一人のプレイヤーが担当できるように機能を追加しただけのことにすぎないから、これをもって著作権侵害を免れるとはいえない。
(10) 依拠性について
 被告ゲームは、原告ゲームに依拠して製作されたものである。
 被告らは、原告ゲームの著作者が被告Aであることを前提として依拠性の要件が欠如すると主張するが、原告ゲームは法人著作物であって、その著作者は原告イズであり被告Aではないことを看過した主張であり、失当である。
(11) 被告エンターブレインらの過失
 被告らは、「ファイアーエムブレム」、「エムブレム」、別紙影像等目録記載の影像とその流れという原告らの商品表示と類似した商品表示を使用し、原告ゲームの各ゲームソフトと実質的に同一である被告ゲームを原告ゲームに依拠して製作し販売したものであって、このような不正競争行為又は著作権侵害行為について、故意又は過失がある。
(12) 被告Aの責任
 被告Aは、被告ゲームをもって、原告ゲームをプレイステーション版に移植したものと装うべく、被告ティルナノーグの代表者として前記(11)記載の被告ティルナノーグの行為に製作者として主体的に関与し、自らこれを遂行したものであるから、故意又は重過失がある。したがって、被告Aは有限会社法30条の3第1項により被告ティルナノーグの不正競争行為又は著作権侵害行為について、同被告と連帯して責任を負う。
(13) 原告らの被った損害の額
 原告らは、被告らの行為について、不正競争防止法違反又は著作権侵害を選択的に主張する。そして、不正競争防止法違反による損害賠償については同法5条2項1号により、著作権侵害による損害賠償については同法114条2項により、原告らは、いずれについても使用料相当の損害を被っている。
 被告ゲームは、平成13年5月24日の発売開始以来、同年7月8日現在で、34万5430本が販売されており、被告ゲームの定価(小売価格)は1本当たり6800円である(甲40の1〜3)。また、使用料相当額は、売上高の10%を下回らない。そして、被告ゲームの販売本数である34万5430本に販売単価の6800円を乗じた売上高(23億4892万4000円)に、使用料率である10%を乗じると、2億3489万円(1万円未満切り捨て)となる。
 また、原告らは、被告らの行為によって本訴の提起を余儀なくされたものであり、本訴の性質、内容等に照らせば、本訴の提起、追行のために原告らが要した弁護士費用のうち相当因果関係ある損害額は、2341万円を下回らない。
 したがって、原告らは、前記2億3489万円に2341万円を加えた2億5830万円について、原告らそれぞれに対し、その2分の1である1億2915万円を、被告らが連帯して支払うことを求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)の事実(当事者)は、ア、イのいずれも認める。
(2) 請求原因(2)の事実(原告らによるゲームソフトの製作、製造、販売)及び同(3)の事実(被告らの行為)は、認める。
(3) 請求原因(4)の事実(原告イズの不正競争防止法2条1項1号、2号の「他人」性)については、否認ないし争う。
ア 原告イズが、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「他人」に該当し、不正競争防止法に基づく請求権者となる旨の原告らの主張は、否認し、争う。原告イズは、不正競争防止法2条1項1号、2号の請求主体たり得ない。原告イズが、原告ゲームを製作し、原告任天堂に対して原告ゲームの製造販売を独占的に許諾していたとしても、需要者による「表示」の主体の認識に関していえば、そのような事実関係は無意味である。
イ 商品表示の主体の判断においては、商品に実際に表示されている表示の大小と、その商品の有する特性が考慮されるべきである。
 すなわち、ゲームソフトの商品特性、特にシミュレーションRPG等のストーリー性の強いゲームにおいては、購入時の選択基準として、製作、製造、販売する会社名(メーカー)が必ずしも重視されず、クリエーター(ゲーム作家)個人が重視されるという商品特性を有している(乙80)。そして、このような製作、製造、販売する会社名が重視されない商品の場合には、商品にそれらの会社の商号が大きく記載された場合であっても需要者がその記載に着目しない可能性があり、まして商号が小さくしか記載されていない会社の場合には、需要者がその記載に着目する可能性はほとんどないから、このような会社は、商品表示の主体になり得ない。
 しかるに原告らは、各種媒体等において原告イズの商号が登場する証拠を、少数(甲77、148、200等)しか提出することができず、しかもいずれの証拠においても、原告イズの商号は小さくしか記載されていない。
 なお、原告らは、原告ゲームに関して、原告らの共同事業として商品化事業が行われていると主張するが、同商品化事業は、原告任天堂の単独事業として行われたものであり(甲247の1〜24の証明書には、「任天堂株式会社を窓口とする」と記載されているし、甲249の1の株式会社アスキー作成の提案書の宛名も、「任天堂株式会社」である。)、規模もごく限定的なものである。
 なお、「トラキア」についても、商品表示の主体は原告任天堂のみであって、原告イズは商品表示の主体ではない。まず、「トラキア」に関する表示の態様をみると、雑誌の記載(甲201、209、217、225、229等)においても、パッケージ等の記載(甲301、321〜323)においても、著作権表示とは別に、別途、「トラキア」の商品の出所として原告任天堂の名称が目立つように記載されている。さらに、家庭用ゲーム機向けゲームソフトは、製作、製造、販売する会社自体は必ずしも重視されないという商品特性を有する。これらからすれば、「トラキア」に原告イズに関する著作権表示がされているからといって、原告イズを不正競争防止法の「商品等表示」の主体とみることはできない。
 なお、原告らは、原告イズが原告任天堂と共に不正競争防止法2条1項1号、2号の「他人」として、同法に基づく請求権を有することは明らかであると主張して、「プロフットボール事件上告審判決」を引用するが、同判決は本件とは事案が異なる。
 第1に、プロフットボール事件におけるNFLPとソニー企業は、そもそも商品化契約によって結束したグループそのものであるのに対し、本件における原告イズと原告任天堂は、家庭用ゲーム機向けゲームソフトの製作と製造販売を分業する関係であるにすぎない。敷衍すると、プロフットボール事件におけるNFLPとソニー企業の契約関係は、次のとおりである。まず、商品表示の原使用権者兼使用許諾者であるNFLPは、使用被許諾者兼使用権再許諾者であるソニー企業との間で締結した商品表示に関する商品化許諾契約において、ソニー企業に対し、NFLPによる商品の品質管理に服する義務及び商品表示を第三者に再使用させる場合には再使用権者に対する厳格な品質管理をすべき義務を課している。また、使用被許諾者兼使用権再許諾者であるソニー企業は、第三者との間で締結した商品表示の再使用許諾契約において、当該第三者に対し、ソニー企業による品質管理に服する義務を課すとともに、商品にNFLPとソニー企業の両名の商号及び許諾商品である旨を表示した証紙を添付すべき義務を課している。これに対し、原告ゲームについてのライセンス契約書及び商品化権に関する覚書(甲320の1〜5)を検討してみても、原告イズの品質管理権限は一切規定されていない。また、原告ゲームやその関連商品に原告イズの商号を表示すべき義務も規定されていない。事実としても、原告イズの表示は、わずかに著作権表示や原告ゲームの攻略本等の監修者等として表示されているにすぎず、商品表示の主体として原告イズの商号は一切表示されていない。また、原告らは、原告イズが原告任天堂あるいは第三者に対して、品質管理権限を有している旨も品質管理を果たしている旨も主張立証していない。
 第2に、プロフットボール事件においては、NFLPとソニー企業の商号がいずれも大々的に表示されていたのに対し、本件においては、原告任天堂の商号は表示されているものの、原告イズの商号はほとんど表示されていない事案である。
 第3に、プロフットボール事件においては、ソニー企業は、商品化事業の中核的な立場に立っていたものであるのに対し、原告イズは、前記のとおり、商品化事業の中核的な立場に立っていた者とはいえない。
ウ 「アースベルト事件上告審判決」は、問題となる商品(原告製品)の考案及び製品化を行った上で、自ら会社を設立し、当該会社を通じて販売を行った者についても、当該会社の場合と異なり、不正競争防止法上の請求権を認めなかった。同判決は、販売の主体がだれかを重視したものであり、その趣旨に照らせば、本件における原告ゲームの単なる製作者である原告イズは、不正競争防止法上の請求主体たり得ない。また、「タイポス事件控訴審判決」は、不正競争防止法の請求主体は、「信用の保持者たる商品主体、すなわち、商品の製造、加工、販売、輸出入等の商品取扱業務に従事する業務主体に限られる」と述べ、書体のデザイナーは、たとえ独占的使用許諾を与える立場にあり、販売に際して著作権者であることが表示されていたとしても、なお、不正競争防止法上の請求主体たり得ない旨述べた。同判決の趣旨に照らせば、原告イズは原告ゲームの製造、販売を行っておらず、原告ゲームのほとんど全てにおいて原告イズは著作権者としての表示すらされなかったのであるから、不正競争防止法上の請求主体たり得ない。
 なお、不正競争防止法上の請求主体について、「信用を形成した主体が請求権者たりうる」とする学説があるが、これは、表示が識別している信用の主体を取り上げるものである。しかし、原告ゲームにおいては、そのパッケージ包装においても、宣伝広告においても、原告イズの商号はほとんど記載されておらず、原告任天堂の商号ばかりが記載されているから、原告ゲームの表示が識別している信用の主体は原告任天堂であって、原告イズとなる余地はない。また、「商品表示の使用について固有かつ正当な利益を有する者が請求権者たり得る」とする学説があるが、この考え方では、不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう「他人」性の要件が不要とされるに等しいから、失当である。
エ 需要者の認識について
 原告らの主張する事実関係及び証拠関係を前提としても、需要者は、原告任天堂のみを原告ゲームの表示主体として認識し、原告イズを原告ゲームの表示主体として認識することはない。
(4) 請求原因(5)の事実(周知又は著名な商品表示)については、否認ないし争う。
ア(ア) 「ファイアーエムブレム」との表示は、英語で「火」を意味するありふれた単語である「ファイアー」と、「紋章」を意味するありふれた単語である「エムブレム」との組み合わせにすぎず、しかも、その両単語の組み合わせも容易に考えつくであろうごくありふれた組み合わせにすぎない。したがって、「ファイアーエムブレム」との表示は、出所表示機能を備えるための顕著性ないし自他商品識別力を有していない。
(イ) 「ファイアーエムブレム」との表示は、需要者の間において周知ないし著名な商品表示となっていない。
@ 原告らは、ゲーム雑誌の宣伝広告によって「ファイアーエムブレム」との表示が周知ないし著名なものになったと主張する。しかし、「ファイアーエムブレム」シリーズの各ゲームソフトの宣伝広告が掲載された期間は、「暗黒竜と光の剣」「外伝」「紋章の謎」「聖戦の系譜」「トラキア」のどれをとっても、それぞれ3か月程度の期間である。
A また、原告らは、テレビコマーシャルが行われたことを指摘する。しかし、原告ゲームについて行われたテレビコマーシャルのGRP(Gross Rating Point;延べ視聴率)の値は、他のゲームのGRPと比べて決して高い値ではないし、そもそも株式会社電通作成の調査報告書(甲243の1)自体が、裏付け資料が添付されていないなど信用性に欠ける。
B また、原告らは、原告任天堂が「暗黒竜と光の剣」「外伝」「紋章の謎」「聖戦の系譜」について総額14億1339万円に及ぶ宣伝広告費を支出した(甲250)と主張する。しかし、この金額は、平成2年から平成8年5月までの約6年程度の期間にわたって使用されたものである。一方、「2000CESAゲーム白書」(乙59)によれば、平成9年(1997年)の1年間でのゲームソフトの宣伝広告費は352億円にもなる。そうすると、原告任天堂が使用したという程度の宣伝広告費では、周知性ないし著名性を獲得するには不十分である。そもそも原告任天堂作成の調査報告書(甲250)自体が、本件訴訟の当事者が作成したものであり、裏付け資料も全く添付されていないなど、信用性に欠ける。
C 「ファイアーエムブレム」シリーズの各ゲームソフトの販売本数の合計として原告らが主張する約200万本という本数は、およそ多いものとはいえない。例えば、シリーズもののゲームソフト販売本数の合計の上位を検討すると、「スーパーマリオ」シリーズは約3400万本、「ポケットモンスター」シリーズは約2200万本、「ドラゴンクエスト」シリーズは約2500万本、「ファイナルファンタジー」シリーズは、第3作目から第9作目までの合計だけで約1700万本である(乙3)。また、1タイトルでの販売本数をみても、原告ゲームの販売本数は、およそ多いものとはいえない。すなわち、原告らの主張によっても、「暗黒竜と光の剣」が32万9087本、「外伝」が32万4699本、「紋章の謎」が77万6338本、「聖戦の系譜」が49万8216本、「トラキア」が10万6108本というのであっていずれも100万本を超えていないのに対し、国内における昭和58年から平成12年3月31日までに発売されたゲームソフトのうち、1タイトルでの出荷本数が100万本を超えたものは、123タイトルも存在するのである(乙3)。そして、「ファイアーエムブレム」シリーズは、平成6年に発売が開始された「紋章の謎」をピークに販売本数は減少しており、平成11年に発売が開始された「トラキア」の販売本数はわずか10万6108本である。このように、販売本数が新作ごとに減少している以上、「トラキア」が発売された後である被告ゲーム発売開始の時点(平成13年5月)において、「ファイアーエムブレム」シリーズが需要者に周知、著名であることはあり得ない。
D 原告らは、原告ゲームの各ゲームソフトが、発売前の期待ランキング、発売後の売上ランキング、発売後の評価ランキングという類型ごとのランキングで上位を獲得したと主張する。しかし、ゲームソフト業界においては、ゲームの発売開始時期は他の人気ゲームの発売開始時期と競合しないようにする傾向があるから、必ずしも人気タイトルとはいえないゲームソフトであっても、週次または月次の短期間のランキングにおいて上位を獲得する場合がある。しかも、原告ゲームの各ゲームソフトが1位を獲得した期間は、発売前の期待ランキングと発売後の売上ランキングについていえば、それぞれ、長くても同一の月刊誌において2号分、週刊誌において3号分にすぎない。また、発売後の評価ランキングは、評価が質の問題であり周知著名性が量の問題であることを考えると、周知性ないし著名性の根拠とすることはできない。
E 原告ゲームの商品化事業は小規模であり、しかもゲームの購入者(ユーザー)を対象とするものに限定されている。仮に原告が書証(甲247の1〜24)において挙げる書籍が商品化事業の一環として販売されたことを前提にしたとしても、そのうち、攻略本以外の小説、コミック、楽譜等の販売数量は、ほとんどのものがせいぜい数万部にとどまっている。また、攻略本は、その性質上、「ファイアーエムブレム」シリーズの購入者を対象とするものであるから、周知性ないし著名性の根拠とすることはできない。また、原告ゲームの各ゲームソフトが第三者から高い評価を受けているとしても、前述したように評価が質の問題であり周知著名性が量の問題であることを考えると、周知性ないし著名性の根拠とすることはできない。
イ(ア) 「エムブレム」は、原告ゲームのタイトルである「ファイアーエムブレム」の略称として原告らにより使用されていることも需要者により認知されていることもないから、原告ゲームの「商品等表示」とはいえない。このことは、原告イズがインターネット上に開設しているホームページにおいて、「ファイアーエムブレム」が「エムブレム」でなく「FE」と略され(乙1、2)、原告任天堂が本件訴訟を提起した際のプレスリリースにおいて、「ファイアーエムブレム」が「エムブレム」でなく「FE」と略されている(乙2)ことからも明らかである。
(イ) 原告らは、原告ゲームの開発者、販売者側の人間が、「ファイアーエムブレム」を「エムブレム」と略称することにこだわりと思い入れを持っていたと主張するが、このことと需要者の認識の浸透の度合いである周知・著名性とは無関係である。また、原告らが原告ゲームが「エムブレム」と略称されているとして指摘した証拠は、いずれも、「ファイアーエムブレム」に関する記事の中で、最初に「ファイアーエムブレム」という正式名称が表示された後、10文字もあるその表記の長さを嫌い、雑誌作成の都合から、文字数を少なくするために、「エムブレム」と表記されたにすぎない。
ウ 別紙影像等目録記載の影像とその変化の態様は、原告ゲームの「商品等表示」とはいえない。
 すなわち、別紙影像等目録記載の影像とその変化の態様は、アクションゲームであるインベーダーゲームのような、それ自体が極めて特徴的なものである例外的な場合を除き、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」として保護を受けることはできない。インベーダーゲームの場合は、インベーダーを主体とする単純な各種影像以外には何らの影像も存在せず、インベーダーゲームの全編にわたって常に表示され続けていて、そのインベーダーを主体とする各種影像とその変化の態様が需要者に強い印象を与えるような特徴を有しているものであるが、原告ゲームにおける別紙影像等目録記載の影像とその変化の態様は、インベーダーゲームのそれとは全く異なっている。そもそもシミュレーションRPGである原告ゲームにおいて、ゲームの購入者(ユーザー)はそのストーリーを楽しんでプレイするのであって影像を動かすことだけを目的としてプレイすることはあり得ない。しかも、別紙影像等目録記載の影像とその変化の態様はありふれたものであり、ゲームの全編にわたって常に表示され続けることもなく、インベーダーゲームにおけるインベーダーのように常に主体となっているような影像は存在しない。なお、原告らは、ゲーム「ドンキーコング」に関する仮処分決定(甲319)の存在を指摘するが、「ドンキーコング」はインベーダーゲームと同様にアクションゲームであって、ドンキーコング(ゴリラ)を主体とした各種影像とその変化の態様が単純に展開され、それ以外には背景にはさしたる影像もなく、ドンキーコングを主体とする影像がゲームの全編にわたって表示されているものであるから、その影像が需要者に強い印象を与えるような特徴を有することを考慮した事例判断にすぎない。
(5) 請求原因(6)の事実(原告ゲームの商品表示と被告ゲームの商品表示との類似性)については、否認ないし争う。原告ゲームの「ファイアーエムブレム」又は「エムブレム」の商品表示と被告ゲームの「エムブレムサーガ」との商品表示とを対比すれば、両者は類似しない。
 すなわち、被告ゲームの商品表示の「エムブレムサーガ」は、「エムブレム」と「サーガ」の2つの単語から構成されているところ、この2つの単語を比較すると、識別力を発揮するのは「サーガ」の方である。まず、「サーガ」は、「Sa」「Ga」と同じア音の母音を長母音と短母音とで重ねることにより聴覚に残りやすいものとなっているから、称呼において強い識別力を有するし、「サーガ」の意味する「英雄伝説」という観念は、古来、人を引きつけてやまない永遠のテーマともいうべき概念であるから、「サーガ」は観念についても強い識別力を有している。こうした「サーガ」という言葉の識別力の強さは、例えば、ゲームの分野において、あるゲーム作品のタイトルとなっていたり(「魔界塔士サ・ガ(Sa・Ga)」乙61)、シリーズのタイトルとなっている(「ロマンシング サ・ガ」乙61)ことや、小説の分野において、栗本薫の小説「グインサーガ」シリーズ(乙62の1)でタイトルに使われていることからも裏付けられる。これに対し、「エムブレム」は、外観、称呼、観念ともに目立つものはなく、ありふれた単語であり、識別力は弱い。したがって、「エムブレムサーガ」との表示においては、「サーガ」の部分が要部である。しかるに、「エムブレムサーガ」は、その要部である「サーガ」において、「ファイアーエムブレム」「エムブレム」と、外観、称呼、観念のいずれにおいても異なっているから、両者は類似しないというべきである。
(6) 請求原因(7)(被告エンターブレインらによる混同を生ぜしめる行為)については、否認ないし争う。
 原告らの周知、著名な商品表示に類似する表示を被告エンターブレインらが使用したために、需要者間に、被告ゲームは原告ゲームをプレイステーション版に移植したゲームソフトであるとの誤認を生じ、ひいては、被告エンターブレインらが原告らからゲーム製作につき何らかの許諾を受けているとの誤認が生じたとの原告らの主張は否認し、争う。原告らは、インターネットのホームページやゲーム雑誌等における記載についてそれらが混同を生じた例であると指摘するが、インターネット上の記載、発言には、文脈を離れてその一部を抜き出すことなどから生じる様々な問題点があって類型的に信用性が低いし、「ゲーム批評」(甲318)は「週刊ファミ通」の発行者である被告エンターブレインに対して批判的な立場に立つと考えられる雑誌であるから信用性は低い。
(7) 請求原因(8)(原告ゲームの著作権の帰属)について、原告イズが著作権法15条1項の法人著作の要件を充足すると主張していることに対しては、被告Aを含む原告イズの従業員が原告ゲームを「職務上作成」したこと、原告ゲームが「原告イズの発意に基づき」作成されたことは、認める。しかし、原告イズが原告ゲームをその名義下に公表したことは否認する。原告ゲームは原告任天堂の名義下に公表されたものである(「トラキア」については、原告任天堂と原告イズの共同名義下に公表されたものである。)。
(8) 請求原因(9)(原告ゲームの一部と被告ゲームとの類似性)については、否認ないし争う。
ア 原告らの著作物の内容
(ア)「トラキア」の表現形式の特徴に関する原告らの主張に対する認否は、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」1〜46頁記載のとおりである。
(イ) 「外伝」の全体マップの部分の表現形式の特徴に関する原告らの主張に対する認否は、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」47〜51頁記載のとおりである。
(ウ) 「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」における登場人物等の影像に関する原告らの主張に対する認否は、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」3〜11頁、52〜61頁記載のとおりである。
イ 被告ゲームの内容
 上記アに記載した原告ゲームの内容に対応する被告ゲームの内容に関する原告らの主張に対する認否は、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」記載のとおりである。
ウ 被告ゲームと原告ゲームとの対比
(ア) 被告ゲームの「戦術マップ部分」と「トラキア」の「戦闘マップ部分」との同一性ないし類似性について
 被告ゲームの「戦術マップ部分」の表現形式が、「トラキア」の「戦闘マップ部分」の複製ないし翻案であるとの原告らの主張は否認し、争う。両者を対比すると、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」の「被告らの認否」「被告らの反論」欄記載のとおり、両者は類似していない。
 そもそも、著作権侵害の有無を考えるに当たっては、対比する著作物の種類、特性について考慮する必要がある。そして、シミュレーションRPGの構成要素は、@テーマとストーリー、Aシステム、Bゲームバランス、Cゲームを構成する場面、Dキャラクターである(乙9〜14、20、37、64の1、2、65、66の1、78、79の1〜5)。さらに、上記各構成要素ごとについて、これを構成する更に細分化された構成要素をみると、@のテーマとストーリーについては、作品の性格(ジャンル)、題材、基本的なストーリー、状況設定、具体的なストーリーの展開、エピソード、ボリュームといった要素が挙げられ、Aのシステムについては、基本システム、コマンド、スキル、パラメータ、ユニット、会話イベントによる恋愛関係、対戦モードの有無といった要素が挙げられ、Cのゲームを構成する場面については、場面の種類と展開の順序、全ての場面における影像表現の特徴、タイトル場面、全体マップの場面、戦闘マップの場面、切換戦闘の場面、会話イベントの場面、クラスチェンジの場面、エンディングの場面といった要素が挙げられ、Dのキャラクターについては、人数、名前、主人公または主要人物、個々のキャラクターの人物設定と外見(容貌等)、個々のキャラクターの動き、といった要素が挙げられる。そして、シミュレーションRPGを他のシミュレーションRPGから区別する基本的な特徴は、構成要素のそれぞれとそのバランスに複合的に存するから、対比に当たっては、これらの構成要素のそれぞれとそのバランスとを比較対照する必要がある。
 しかるに、被告ゲームと「トラキア」について、上述した構成要素について対比すれば、両ゲームは全く異なっている。そして、両ゲームの間に類似ないし共通すると原告らが主張する事項は、すべて、アイデアあるいは作風の類似又は共通を主張するか、又は、シミュレーションRPGである以上は避けて通ることができない、ありふれた表現の類似ないし共通を主張するものにすぎない。
 しかも、原告らがその著作権が侵害されたと主張する「トラキア」の各場面の影像の著作物は、その性質上、創作性は低い。なぜなら、移動可能範囲やパラメータを表示する画面のように個々の具体的な画面表示(影像)が果たすべき役割や機能が決まっている場合には、ビジネスソフトウェアと同様、その性質上、表現行為の幅は狭くなるから、限定的な範囲での創作性しか認められない場合が多いし、シミュレーションRPGの各場面の画面表示は、ハード機能の性能という事実上の制約により、色数や動画の速さなどの点において、表現の幅が限定されざるを得ないからである。さらに、こうしたシミュレーションRPGの一般的な傾向に加えて、原告ゲームの各場面の影像表現について個別にみても、その表現の背後にあるアイデアも、影像の著作物の表現そのものも、ありふれたものであって創作性は低い。例えば、「トラキア」における「イベント及び戦闘背景」(トラキア攻略本(乙66の1)参照)は、創作性は認められるもののいわばありふれた背景画とも平凡な絵画とも評すべきものでしかない。原告ゲームの製作に携わった被告A自身も、原告ゲームの画面表示について、原告ゲームの製作以前に製作されていた他のゲームを大いに参考にしたと自認している(乙70の1)。また、各場面の影像は、シミュレーションRPGの一部を構成するものにすぎず、プレイに要する時間に比べると同影像がプレイヤーの目も前で表現されている時間は短いことも、考慮されなければならない。したがって、原告らが著作権侵害を主張しているような「トラキア」の一部分である各場面の影像の著作物が著作権法により保護される範囲は狭くならざるを得ない。
 なお、原告らは、被告らが創作性が低くなる根拠として挙げたゲームソフトの発売時期が原告ゲームの製作時期より遅いことを指摘するが、失当である。
 そもそも、ある作品の創作性の高低が類比との関係で問題となるのは、創作性が高ければ高いほど別の作品に接した場合にもとの作品の本質的な特徴を感得しやすくなるので翻案権侵害が肯定される場面が広がり、他方、創作性が低ければ低いほど別の作品に接した場合にもとの作品の本質的な特徴を感得することが難しく翻案権侵害が肯定される範囲が狭くなるという、事実上の相関関係があるからにすぎない。そうすると、創作性の高低という概念が機能する時点は、もとの作品が製作された当初の時点ではなく、別の作品に接することによってもとの作品の本質的特徴を感得しうるか否かを判断する時点であると考えるべきだからである。
(イ) 被告ゲームの「全体マップ」部分と「外伝」の「全体マップ部分」との同一性ないし類似性について
 両者が類似するとの原告ら主張は否認する。両者を対比すると、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」の「被告らの認否」「被告らの反論」欄記載のとおり、両者は類似していない。
 「外伝」の「全体マップ部分」は、「外伝」の一部を構成するものにすぎず、上記のとおり、その創作性の範囲は低いといわなければならない。そして、被告ゲームの「全体マップ」部分と「外伝」の「全体マップ部分」とを対比すると、以下の@地形の表現、Aユニットの表示、B場面を表すウインドウの点で、両者は全く異なっている。両者の間で類似ないし共通すると原告らが主張する事項は、すべて、アイデアあるいは作風の類似又は共通を主張するか、又は、シミュレーションRPGである以上は避けて通ることができない、ありふれた表現の類似ないし共通を主張するものにすぎない。
@ 地形の表現
 被告ゲームでは、森林、山、海を含め全体がセピア色の濃淡で簡略に描かれているのに対し、「外伝」では、緑色の地面に深緑色の森林、黄色の山、青色の海等が具体的に描かれている。
A ユニットの表示
 被告ゲームでは、主人公の頭上には黄緑色の矢印が表示され、主人公の下には「リュナン軍」と表示されているのに対し、「外伝」では、ユニットの他には説明等の表示が一切なされていない。
B 場面を表すウインドウ
 被告ゲームでは、その全体マップには場面を表すウインドウが画面左下に表示されているが、「外伝」の全体マップには、場面を表すウインドウが表示されない。
(ウ) 被告ゲームにおける人物等の影像と「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」における人物等の影像の同一性
 両者が類似するとの原告ら主張は、否認する。
 「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」における人物等の影像の著作物は、創作性が低い。このことは、原告ゲームの製作に携わった被告Aが、アニメ作品「機動戦士ガンダム」のデザインをした安彦良和氏の絵をイメージしたと述べていることからも裏付けられる(乙70の1)。また、シミュレーションRPGというゲームソフトが、複数の構成要素が複雑かつ微妙に関連し合って成り立っていること、プレイに要する時間が極めて長時間であることから、人物等の影像の著作物が原告ゲームという1個の著作物の中で果たす役割は極めて限定されていることからも裏付けられる。
@ 「トラキア」における人物等の影像との対比
 被告ゲームにおける「リュナン」「セネト」「ネイファ」「ヴェガ」「サーシャ」「マルジュ」「ペガサスの静止影像及び連続影像」「ドラゴンの静止影像」と、「トラキア」における「リーフの影像」「スルーフの影像」「サラの影像」「シヴァの影像」「ミーシャの影像」「アスベルの影像」「ペガサスの静止影像及び連続影像」「ドラゴンの静止影像及び連続影像」の著作物とを対比しても、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」の「被告らの認否」「被告らの反論」欄記載のとおり、両者は類似していない(乙6、69の1、2、70の2)。
A 「紋章の謎」における人物等の影像との対比
 被告ゲームにおける「リュナン」「オイゲン」「クライス」「アーキス」「サーシャ」「ペガサス三姉妹」「レシエ」「メリエル」「バーツ」「ペガサスの静止影像」は、別紙対照表3の右欄(黄色の部分)に記載したとおりであり、「紋章の謎」における「マルスの影像」「ジェイガンの影像」「カインの影像」「アベルの影像」「カチュアの影像」「ペガサス三姉妹の影像」「ミネルバの影像」「リンダの影像」「バーツの影像」「ペガサスの影像」の著作物は、別紙対照表3の左欄(緑色の部分)に記載したとおりである。これらを対比すると、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」の「被告らの認否」「被告らの反論」欄記載のとおり、両者は類似していない。
B 「聖戦の系譜」における人物等の影像との対比
 被告ゲームにおける「ロジャー」「リチャード」は、別紙対照表3の右欄(黄色の部分)に記載したとおりであり、「聖戦の系譜」における「トリスタンの影像」「トラバントの影像」の著作物は、別紙対照表3の左欄(緑色の部分)に記載したとおりである。これらを対比すると、別紙「著作権侵害主張に対する認否及び反論」の「被告らの認否」「被告らの反論」欄記載のとおり、両者は類似していない。
(9) 請求原因(10)の事実(依拠性について)は、否認ないし争う。
 被告ゲームが原告ゲームに依拠して製作されたという原告ら主張は否認し、争う。すなわち、ある著作物と別の著作物について、その製作者が同一である場合には、製作者は製作時ごとに独自に個々の製作行為を行うのであって、自己のものとはいえ既存の著作物に依拠して製作するわけではないから、原則として、同一製作者が著作物を製作する行為は、依拠性の要件を充足しないというべきである。なお、同一製作者の場合であっても、外観上二次的著作物や複製物であることが明らかであり、製作者がこれを認識している場合等例外的な場合においては依拠性を充足するが、本件における被告ゲームは、原告ゲームと対比して、外観上二次的著作物でも複製物でもないことが明らかであり、被告Aの認識としても両者は全く異なる著作物である(乙70の1、2)から、依拠性の要件を充足する例外的な場合には該当しない。
(10) 請求原因(11)の事実(被告らの過失)は、否認ないし争う。
(11) 請求原因(12)の事実(被告Aの責任)は、否認ないし争う。
(12) 請求原因(13)の事実(原告らの被った損害額)については、被告ゲームが、平成13年5月24日の発売開始以来、同年7月8日現在で34万5430本販売されていること、定価(小売価格)が1本当たり6800円であることは認めるが、その余は否認し、争う。

理由
第1 請求原因について
1 請求原因(1)〜(3)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 請求原因(4)(原告イズの不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「他人」該当性)について
 不正競争防止法2条1項1号、2号の規定は、商品表示についていえば、他人の商品との混同を生じさせる行為等を防止することによって、当該商品表示に化体された商品主体の信用の冒用、毀損を防止し、もって、公正な競業秩序の維持、形成を図ろうとするものであると解されるから、この規定によって保護されるべき者は、商品に関する信用の保持者たる主体、すなわち当該商品の製造、販売等の業務に主体的に関与する事業主体に限られるものというべきであり、これを具体的にいえば、原則として、当該表示を付した商品について、その品質等を管理し、販売価格や販売数量を自ら決定する者が、これに該当するものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、証拠(甲320の1、320の1の2、320の2、320の2の2、320の3、320の3の2、320の4、320の4の2、320の5、320の5の2)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゲームに関する原告イズと原告任天堂との間の合意について、次の(1)〜(5)の事実が認められる。
(1)ア 原告イズは、平成元年12月1日、「暗黒竜と光の剣」の著作権者として、原告任天堂との間で、その複製・利用等に関し、次のとおり合意した(ライセンス契約書。甲320の1)。
(ア) 原告イズは原告任天堂に対し、原告イズが創作した「暗黒竜と光の剣」について、原告任天堂が複製、利用等して全世界において製造、販売、頒布する独占ライセンスを許諾する(ライセンス契約書1条、2条)
(イ) 原告任天堂は、「暗黒竜と光の剣」の販売1個につき所定の額のロイヤリティを原告イズに支払う(ライセンス契約書3条)。
(ウ) 原告任天堂は、平成元年12月8日までに、「暗黒竜と光の剣」の最初の10万個分の最低保証に相当する前払金を原告イズに支払う。この前払金は原告任天堂による許諾製品の販売より生じるロイヤリティに充当することのできる返還不能の最低保証ロイヤリティとする(ライセンス契約書4条)。
イ 原告イズは、平成2年6月22日、「暗黒竜と光の剣」の著作権者として、原告任天堂との間で、その商品化事業に関し、次のとおり合意した(覚書。甲320の1の2)。
(ア) 商品化権とは、著作権、著作隣接権又は工業所有権に基づいて、その題名、ストーリー、登場するキャラクターの名称、形状及び音声を各種商品または宣伝、サービス等に使用させる権利のことをいう(覚書前文)。
(イ) 原告イズは、第三者に対し、「暗黒竜と光の剣」の商品化権ライセンス契約を締結することに関する一切の権限を独占的かつ包括的に原告任天堂に委ねる(覚書1条)。
(ウ) 原告任天堂は、「暗黒竜と光の剣」の商品化窓口業務の遂行に当たり、「暗黒竜と光の剣」のイメージアップを図り、イメージダウンにつながるような商品を製造、販売する業者には商品化権ライセンスを与えない(覚書2条イ)。
(エ) 原告任天堂が第三者との商品化権ライセンス契約より収受する全ての
 許諾料は、上記(イ)の合意によりその全ての許諾権限を包括的に原告任天堂に委ねているため、原告任天堂が収受する許諾料の所有権は原始的に原告任天堂に帰属するものであり、その後所定の分配率に従って原告任天堂から原告イズに分配される(覚書3条2項)。
(2)ア 原告イズは、平成3年8月30日、「外伝」の著作権者として、原告任天堂との間で、その複製・利用等に関し、次のとおり合意した(ライセンス契約書。甲320の2)。
(ア) 原告イズは原告任天堂に対し、原告イズが創作した「外伝」について、原告任天堂が複製、利用等して全世界において製造、販売、頒布する独占ライセンスを許諾する(ライセンス契約書1条、2条)。
(イ) 原告任天堂は、「外伝」の販売1個につき所定の額のロイヤリティを原告イズに支払う(ライセンス契約書3条)。
(ウ) 原告任天堂は、平成3年12月末日までに、所定の額の前払金を原告イズに支払う。この前払金は原告任天堂による「外伝」の販売より生じるロイヤリティに充当することのできる返還不要の最低保証ロイヤリティとする(ライセンス契約4条)。
イ 原告イズは、平成4年6月10日、「外伝」の著作権者として、原告任天堂との間で、その商品化事業に関し、次のとおり合意した(覚書。甲320の2の2)。
(ア) 商品化権とは、著作権、著作隣接権又は工業所有権に基づいて、その題名、ストーリー、登場するキャラクターの名称、形状及び音声を各種商品又は宣伝、サービス等に使用させる権利のことをいう(覚書前文)。
(イ) 原告イズは、第三者に対し、「外伝」の商品化権ライセンス契約を締結することに関する一切の権限を独占的かつ包括的に原告任天堂に委ねる(覚書1条)。
(ウ) 原告任天堂は「外伝」の商品化窓口業務の遂行に当たり、「外伝」のイメージアップを図り、イメージダウンにつながるような商品を製造、販売する業者には商品化権ライセンスを与えない(覚書2条イ)。
(エ) 原告任天堂が第三者との商品化ライセンス契約より収受する全ての許諾料は、上記(イ)の合意によりその全ての許諾権限を包括的に原告任天堂に委ねているため、原告任天堂が収受する許諾料の所有権は原始的に原告任天堂に属するものであり、その後所定の分配率に従って原告任天堂から原告イズに分配される(覚書3条2項)。
(3)ア 原告イズは、平成4年12月1日、「紋章の謎」の著作権者として、原告任天堂との間で、その複製・利用等に関し、次のとおり合意した(ライセンス契約書。甲320の3)。
(ア) 原告イズは原告任天堂に対し、「紋章の謎」について、原告任天堂がそのカートリッジを製造の上、全世界の地域において販売、頒布する独占ライセンスを許諾する(ライセンス契約1条)。
(イ) 原告任天堂は原告イズから提出された検収用ROMが、「紋章の謎」の仕様を満足するものであるかどうかについて受領後10日以内に検査するものとし、その結果、「紋章の謎」の仕様を満足するものである場合は、検収完了の旨を書面をもって原告イズに通知する(ライセンス契約3条1項)。
 原告イズは、原告任天堂による前項検査の結果、「紋章の謎」の内容等に関し、改良・修正・変更の必要がある旨通知を受けた場合は、直ちにこれに応ずるものとし、改めて原告任天堂による検収を受けるものとする。なお、前記改良・修正・変更に要する費用は原告イズの負担とする(ライセンス契約3条2項)。
(ウ) 原告任天堂は、独占ライセンスの対価として、「紋章の謎」の販売1個につき一律の所定の額のロイヤリティを原告イズに支払う(ライセンス契約4条)。
(エ) 原告任天堂は、前払いロイヤリティとして、所定の額を所定の期日までに原告イズに支払う。この前払金は、原告任天堂による「紋章の謎」30万個の販売より生じるロイヤリティに充当することができる最低保証ロイヤリティとする(ライセンス契約5条)。
イ 原告イズは、平成6年1月21日、「紋章の謎」の著作権者として、原告任天堂との間で、その商品化事業に関し、次のとおり合意した(覚書。甲320の3の2)。
(ア) 商品化権とは、著作権、著作隣接権又は工業所有権に基づいて、その題名、ストーリー、登場するキャラクターの名称、形状及び音声を各種商品又は宣伝、サービス等に使用させる権利のことをいう(覚書前文)。
(イ) 原告イズは、第三者に対し、「紋章の謎」の商品化権ライセンス契約を締結することに関する一切の権限を独占的かつ包括的に原告任天堂に委ねる(覚書1条)。
(ウ) 原告任天堂は「外伝」の商品化窓口業務の遂行に当たり、「外伝」のイメージアップを図り、イメージダウンにつながるような商品を製造、販売する業者には商品化権ライセンスを与えない(覚書2条イ)。
(エ) 原告任天堂が第三者との商品化ライセンス契約より収受する全ての許諾料は、上記(イ)の合意によりその全ての許諾権限を包括的に原告任天堂に委ねているため、原告任天堂が収受する許諾料の所有権は原始的に原告任天堂に属するものであり、その後所定の分配率に従って原告任天堂から原告イズに分配される(覚書3条2項)。
(4)ア 原告イズは、平成7年3月1日、「聖戦の系譜」の著作権者として、原告任天堂との間で、その複製・利用等に関し、次のとおり合意した(ライセンス契約書。甲320の4)。
(ア) 原告イズは原告任天堂に対し、「聖戦の系譜」について、原告任天堂がそのカートリッジを製造の上、全世界の地域において販売、頒布する独占ライセンスを許諾する(ライセンス契約1条)。
(イ) 原告任天堂が「聖戦の系譜」を平成7年12月に販売するために、原告イズは遅くとも平成7年10月末日までに次条に規定する原告任天堂による検収を完了できるよう「聖戦の系譜」の開発を進めるものとし、そのために最大限の努力を行うことを原告任天堂に約する(ライセンス契約2条)。
(ウ) 原告任天堂は原告イズから提出された検収用ROMが、「聖戦の系譜」の仕様を満足するものであるかどうかについて受領後10日以内に検査するものとし、その結果、「聖戦の系譜」の仕様を満足するものである場合は、検収完了の旨を書面をもって原告イズに通知する(ライセンス契約3条1項)。
 原告イズは、原告任天堂による前項検査の結果、「聖戦の系譜」の内容等に関し、改良・修正・変更の必要がある旨通知を受けた場合は、直ちにこれに応ずるものとし、改めて原告任天堂による検収を受けるものとする。なお、前記改良・修正・変更に要する費用は原告イズの負担とする(ライセンス契約3条2項)。
(エ) 原告任天堂は、独占ライセンスの対価として、「聖戦の系譜」の販売1個につき一律の所定の額のロイヤリティを原告イズに支払う(ライセンス契約第4条)。
(オ) 原告任天堂は、前払いロイヤリティとして、所定の額を所定の期日までに原告イズに支払う。この前払金は、原告任天堂による「聖戦の系譜」の販売によるロイヤリティに充当することができる最低保証ロイヤリティとする(ライセンス契約5条1項)。
 「聖戦の系譜」が原告イズの責めに帰する事由により発売が不可能となった場合は、前払い保証ロイヤリティの一部(所定の額)は法定利息を付して原告任天堂に返還される(ライセンス契約5条2項)。
イ 原告イズは、平成8年3月14日、「聖戦の系譜」の著作権者として、原告任天堂との間で、その商品化事業に関し、次のとおり合意した(覚書。甲320の4の2)。
(ア) 商品化権とは、著作権、著作隣接権又は工業所有権に基づいて、その題名、ストーリー、登場するキャラクターの名称、形状及び音声を各種商品又は宣伝、サービス等に使用させる権利のことをいう(覚書前文)。
(イ) 原告イズは、第三者に対し、「聖戦の系譜」の商品化権ライセンス契約を締結することに関する一切の権限を独占的かつ包括的に原告任天堂に委ねる。
(ウ) 原告任天堂は、「聖戦の系譜」の商品化窓口業務の遂行に当たり、「聖戦の系譜」のイメージアップを図り、イメージダウンにつながるような商品を製造、販売する業者には商品化権ライセンスを与えない(覚書2条イ)。
(エ) 原告任天堂が第三者との商品化ライセンス契約より収受する全ての許諾料は、上記(イ)の合意によりその全ての許諾権限を包括的に原告任天堂に委ねているため、原告任天堂が収受する許諾料の所有権は原始的に原告任天堂に属するものであり、その後所定の分配率に従って原告任天堂から原告イズに分配される(覚書3条2項)。
(5)ア 原告イズは、平成9年7月1日、「トラキア」の著作権者として、原告任天堂との間で、その複製・利用等に関し、次のとおり合意した(ライセンス契約書。甲320の5)。
(ア) 原告任天堂は、「トラキア」の開発期間中必要と認めたときは、原告イズに対して随時「トラキア」の進捗状況について報告を求め、「トラキア」の開発に関し協議を行うことができるものとし、原告イズは、当該協議に基づく原告任天堂の指示、評価に従って「トラキア」の開発を進める(ライセンス契約書3条1項)。
 原告任天堂は、「トラキア」の完成度を高めるため、開発中の「トラキア」について改良・修正・変更の必要があると認められる場合は、原告イズに対してその旨要求することができ、原告イズ、原告任天堂協議の上、原告イズは原告任天堂の合理的な指示に応じる(ライセンス契約書3条2項)。
(イ) 原告イズは、「トラキア」を平成10年3月末日までに完成し、「トラキア」に係るプログラムその他原告任天堂が必要とする仕様書、資料、データ等を原告任天堂の指定する形態により原告イズ、原告任天堂が協議して定めた日までに原告任天堂に引き渡す(ライセンス契約書4条1項)。
 原告任天堂は、前項により原告イズから引き渡された「トラキア」に係るプログラム等を受領後、速やかに検収するものとし、その結果、原告イズ、原告任天堂別途協議の上定める基準を満足する場合は、その旨原告イズに通知する(ライセンス契約書4条2項)。
 原告任天堂は、前項規定の検収の結果、「トラキア」の内容等に関し改良・修正・変更の必要があると判断する場合には、原告イズに対しその旨要求することができ、原告イズ、原告任天堂協議の上、原告イズは原告任天堂の合理的な指示に応じるものとし、その後改めて原告任天堂による前項の検収を受ける(ライセンス契約書4条3項)。
(ウ) 原告イズは、「トラキア」の完成後、原告任天堂に対し、日本を含む全世界において原告任天堂が「トラキア」をゲームキオスクにて販売する独占ライセンスを許諾する(ライセンス契約書5条1項)。
 原告任天堂は、「トラキア」をゲームキオスクにて販売、頒布するにあたり、原告イズから引き渡された「トラキア」のマスターROMを自由に無償で複製できる(ライセンス契約書5条2項)。
(エ) 原告任天堂は、独占ライセンスの対価として、ゲームキオスクにおける「トラキア」の販売により顧客から徴収した金額のうち所定の割合の金員を、ロイヤリティとして原告イズに支払う(ライセンス契約6条1項)。
(オ) 原告任天堂は原告イズに対し、前条(ライセンス契約5条)のロイヤリティに充当することのできる返還不能の最低保証ロイヤリティとして所定の額の金員を支払う(ライセンス契約7条1項)。
 原告イズに責めに帰すべき事由により4条1項所定の開発期限内に「トラキア」が完成しなかった場合は、原告イズは、支払われた最低保証ロイヤリティの全額を直ちに原告任天堂に返金する(ライセンス契約7条3項)。
(カ) 「トラキア」に係る商品化権(「トラキア」に係る著作権、著作隣接権又は工業所有権に基づいて、その題名、ストーリー、登場するキャラクターの名称、形状及び音声を各種商品または宣伝、サービス等に使用させる権利をいう。)の取り扱いについては、原告イズ、原告任天堂協議の上別途定める(ライセンス契約9条)。
イ 原告イズは、平成11年11月1日、「トラキア」の著作権者として、原告任天堂との間で、その商品化事業に関し、次のとおり合意した(覚書。甲320の5の2)。
(ア) 原告イズは、第三者に対し、「トラキア」の商品化権ライセンス契約を締結することに関する一切の権限を独占的かつ包括的に原告任天堂に委ねる。「商品化権」とは、上記ア(カ)に定めるものである(覚書1条)。
(イ) 原告任天堂は、「聖戦の系譜」の商品化窓口業務の遂行に当たり、「聖戦の系譜」のイメージアップを図り、イメージダウンにつながるような商品を製造、販売する業者には商品化権ライセンスを与えない(覚書2条イ)。
(ウ) 原告任天堂が第三者との商品化ライセンス契約より収受する全ての許諾料は、上記(ア)の合意によりその全ての許諾権限を包括的に原告任天堂に委ねているため、原告任天堂が収受する許諾料の所有権は原始的に原告任天堂に属するものであり、その後所定の分配率に従って原告任天堂から原告イズに分配される(覚書第3条2項)。
 上記の(1)〜(5)の各事実を総合すれば、原告イズは、単に原告ゲームの著作権者として、原告任天堂に対してその独占的使用についての許諾を与え、その対価として、契約に定められたロイヤリティを受領しているにすぎないものであって、商品としての原告ゲームの製造、販売等の業務に主体的に関与する事業主体ということはできない。すなわち、原告イズの受領すべきロイヤリティについては、原告ゲーム1本当たりの所定額とされており、その販売数量の増大に応じてロイヤリティの額も増大するように定められているものであるが、売れ残りの在庫等による債務の危険を負担するものではなく、かえって、ロイヤリティのうちの相当の額(例えば「暗黒竜と光の剣」では10万個、「紋章の謎」では30万個の販売に相当する額)については販売数量の多寡にかかわりなく原告任天堂からその支払を保証されている。他方、原告ゲームの販売価格、製造・販売の数量等はすべて原告任天堂において決定しており、また、その商品化事業においても、専ら原告任天堂が再使用許諾権に基づいて、原告ゲームの登場人物のキャラクター等に関し、再使用許諾先の業者に対して、その使用態様や商品の品質等についての管理統制を行っているものであって、原告イズは、商品としての原告ゲームの販売価格や販売数量の決定に何ら関与しておらず、また、商品化事業の展開について原告任天堂や再使用許諾先の業者に対して管理統制を行う立場にもないものである。
 したがって、本件における事実関係の下においては、被告らの行為によって原告ゲームの商品表示の出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれがある者として不正競争防止法2条1項1号、2号の「他人」に該当し、同法に基づく請求の主体となり得るのは、原告任天堂のみであって、原告イズはこれに該当しないというべきである。
 原告らは、「プロフットボール事件上告審判決」を引用して、自己の主張の正当なことをいうが、同判決の事案は、米国のプロフットボールチームの名称及びシンボルマークについて、その商業的利用のためにこれを管理する目的で設立された米国法人と、同法人から我が国における独占的な使用権と商品化事業の実施権限を与えられて、我が国において再使用許諾先の業者に対して表示の使用態様や商品の品質等についての統制管理を行っていた日本法人を、同一の表示の商品化事業を営むグループに属する者として、不正競争防止法上の請求の主体となることを認めたものであって、本件とは事案を異にするものである。したがって、原告らの主張は、採用できない。
 また、原告らは、ゲームソフトという商品がコンピュータプログラム化されたゲームソフトをROMに固定してなる商品であるという特質を持つことを指摘し、需要者の間での原告ゲームの信用、名声を形成している主体に原告イズも含まれると主張する。たしかに、コンピュータのビジネスソフトウェア、ゲームソフトウェアやテレビゲームのゲームソフトのようなプログラムの著作物が商品となっている場合には、当該ソフトウェアの動作の確実性や操作性等の点は、バグの有無等を含めたプログラムの内容に係る点が少なくないものであって、その意味では当該商品の性能・品質には著作物の内容と密接に関連する部分がある。しかし、そうであるとしても、そのことから、プログラムの著作物の著作権者が商品に関する信用の保持者たる主体と解されるものではない。商品の性能・品質に関する上記のような事情は、特許権や意匠権等の実施品が商品となっている場合にも同様に認められるものであるが、そのような場合に特許権者や意匠権者が直ちに不正競争防止法上の請求の主体と解されるものではない。原告らの主張が採用できないことは、この点に照らしても、明らかである。さらに、原告らは、「トラキア」のパッケージ(甲321〜323)やゲーム中のタイトル表示(甲313)、ゲーム雑誌、攻略本等において原告イズの名称が記載されていることを指摘するが、「トラキア」のパッケージやゲーム中のタイトル表示における原告イズの表示は、<C>マークと共に著作権者として表示されているにすぎず、ゲーム雑誌や攻略本等においても原告イズは「トラキア」の著作権者として記載されているにすぎない。原告らの主張は、著作権者と商品に関する信用の保持者たる主体とを区別しないで論ずるものであって、採用できない。
3 請求原因(5)の事実(周知又は著名な商品表示)について
(1)「ファイアーエムブレム」との表示の周知性ないし著名性
(ア) 証拠(甲244)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゲームの各ゲームソフトの販売本数は、「暗黒竜と光の剣」が32万9087本、「外伝」が32万4699本、「紋章の謎」が77万6338本、「聖戦の系譜」が49万8216本、「トラキア」が10万6108本であることが認められる。
(イ) 証拠(甲4、47、63、71、75、81、82、84、85、89、90、92〜94、96、101、103〜107、120、121、131、152、153、158、174、185、213、215、216、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゲームの各ゲームソフトは、その発売前から発売後約2〜3か月の時期において、相当多数のゲーム雑誌における売上ランキング、発売前の読者の期待ランキング、発売後の読者の評価ランキングにおいて、上位にランクされていることが認められる。その一部を具体的に挙げると、次のとおりである。
@ 「ファミコン必勝本」平成2年5月18日号の「読者がえらんだほしいソフト」のランキング(甲63)では、「暗黒竜と光の剣」(平成2年4月20日発売)が第2位になっているが、同ランキングにおける第1位は「ファイナルファンタジーV」、第6位は「ドラゴンクエストW」(平成2年2月11日発売)である。
A 「ファミリーコンピュータMagazine」平成4年4月17日号の売上ランキング(甲71)では、3月9日〜3月15日の「外伝」(平成4年3月14日発売)の売上が第1位になっているが、同ランキングの第6位は「スーパーマリオブラザーズ3」(昭和63年10月23日発売)である。
B 「ファミコン通信」平成4年4月10日号の売上ランキング(甲75)では、「外伝」(平成4年3月14日発売)が第1位になっているが、同ランキングにおける第4位は「ドラゴンボールZ 超サイヤ伝説」(平成4年1月25日発売)、第6位は「スーパーマリオワールド」(平成2年11月21日発売)である。
C 「マル勝スーパーファミコン」平成4年4月24日号の売上ランキング(甲82)では、「外伝」(平成4年3月14日発売)が第1位になっているが、同ランキングの第11位は「ドラゴンクエストW」(平成2年2月発売)、第20位は「信長の野望 武将風雲録」(平成3年12月発売)である。
D 「ファミコン通信」平成5年11月26日号の発売前の期待ランキング(甲92)では、「紋章の謎」(平成6年1月21日発売)が第2位になっているが、同ランキングにおける第3位は「ドラゴンクエストY」(平成7年9月4日発売)、第4位は「ドラゴンクエストT・U」(ファミリーコンピュータ移植版。平成5年12月18日発売)である。
E 「ファミコン通信」平成6年2月25日号の売上ランキング(甲4)では、「紋章の謎」(平成6年1月21日発売)が第1位になっているが、同ランキングにおける第2位は「スーパーマリオランド3 ワリオランド」(平成6年1月21日発売)である。
(ウ) 証拠(甲1〜18(枝番省略)、41〜243の1〜5、250、314の1〜8、315)及び弁論の全趣旨によれば、原告任天堂は、原告ゲームの各ゲームソフトの販売のため、平成8年(1996年)までに総額14億1339万円の宣伝広告費を使って、テレビコマーシャル、ゲーム雑誌等による宣伝広告活動を行ったこと、その規模は、30秒テレビコマーシャルの東京地区、大阪地区での放映延べ本数が1070本であること、株式会社電通作成の調査報告書(甲243の1)に記載された「ファイアーエムブレム」シリーズの各ゲームソフトのGRP(Gross Rating Point;延べ視聴率)は東京地区で2249.7であって、これは他ゲームのGRPと比較しても決して小さい値ではないこと、「ファイアーエムブレム」シリーズの各ゲームソフトについての記事が掲載されたゲーム雑誌は、発行部数が1号当たり数十万部に及ぶものが少なくないことが、認められる。
(エ) 他方、乙3(社団法人コンピュータエンターテインメントソフトウェア協会発行「2001 CESAゲーム白書」)によれば、シリーズもののゲームソフトの合計販売本数としては、上位に属するものとして、「スーパーマリオ」シリーズは約3400万本、「ポケットモンスター」シリーズは約2200万本、「ドラゴンクエスト」シリーズは約2500万本、「ファイナルファンタジー」シリーズは第3作目から第9作目までの合計だけで約1700万本であり、これらに比べると、「ファイアーエムブレム」シリーズの各ゲームソフトの合計販売本数203万本は、多いものとはいえない。また、1タイトルでの販売本数をみても、原告ゲームの販売本数が上記のとおり、いずれも100万本を超えていないのに対し、乙3によれば、国内における昭和58年から平成12年3月31日までに発売されたゲームソフトのうち、1タイトルでの出荷本数が100万本を超えたものは、123タイトル存在することが認められる。また、乙59によれば、平成9年の1年間におけるゲームソフト全体の宣伝広告費は、約352億円であったことが認められる。
 上記の(ア)〜(エ)を総合すれば、「ファイアーエムブレム」との表示については、著名な商品等表示とまでは認めることができないものの、遅くとも「トラキア」が発売された平成11年9月までには、原告任天堂のゲームソフトであることを示す商品表示として、需要者である一般消費者の間に広く認識されていたものと認めるのが相当である。
 なお、被告らは、「ファイアーエムブレム」のうち「ファイアー」は英語で火を意味するものであり「エムブレム」は英語で紋章を意味するものであってともにありふれた単語であり、両者の組合せもありふれているから自他商品識別力を有さないから、「商品等表示」となり得ないと主張するが、「ファイアー」及び「エムブレム」の語、並びにこれらを組み合わせた「ファイアーエムブレム」の語は、いずれも商品であるゲームソフトとの関係で言えば、商品の普通名称でも、商品の品質、材料、効能、用途、形状を表示する語でもないから、商品の自他識別力を有するものとして、商品等表示となり得るものである。
(2) 「エムブレム」との表示の周知性ないし著名性について
 上記のとおり、「ファイアーエムブレム」との表示は、需要者の間に広く認識された商品等表示と認められるところ、原告らは、「ファイアーエムブレム」との表示のみならず、「エムブレム」との表示も、周知性又は著名性を備えた商品等表示に該当すると主張する。すなわち、原告らは、原告ゲームの各ゲームソフトが多数のゲーム雑誌、攻略本、百科等に「エムブレム」と略称して掲載又は紹介され、また、多くのインターネットサイトで「エムブレム」と略称されていると主張し、甲4〜6の各1、2、11、92、101、104、108、109、116、148、186、188、190、197〜201、203、206、234〜242、308、316を提出する。
 しかし、原告らが、「エムブレム」と略称して掲載又は紹介されたと主張し、その裏付けとして提出した上記各証拠は、いずれも「エムブレム」との表示が周知性ないし著名性を獲得していることを認めるに足りるものではない。すなわち、これらはいずれも、「エンブレム」の語が独立して用いられている例ではなく、標題部分などに「ファイアーエムブレム」と記載された記事等において、その略称として「エンブレム」の語が用いられているもので、記事自体の中で「ファイアーエムブレム」のことを「エムブレム」と略称する旨を断った上で「エンブレム」の語を使用しているもの(甲11、201)もある。また、原告らが、インターネットサイトにおける「エムブレム」の語の使用例として甲308、316を挙げるが、これらは、原告ゲームの購入者の間で、原告ゲームの内容についてやりとりをした内容であるから、このような購入者の間でのやりとりにおいて、原告ゲームの略称として「エムブレム」の語が用いられていることから、「エムブレム」の語が需要者の間で周知性を獲得していたと認めることはできない。
 原告ゲームの各タイトルをみると、「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」「ファイアーエムブレム外伝」「ファイアーエムブレム 紋章の謎」「ファイアーエムブレム 聖戦の系譜」「ファイアーエムブレム トラキア776」というものであって、各タイトルに共通する語は、「エムブレム」ではなく、「ファイアーエムブレム」である。また、証拠(甲17の2、219、242)によれば、ゲーム雑誌の記事等においては、原告ゲームは「FE」と略記されており、また、証拠(乙1、2)によれば、原告イズがインターネット上に開設しているホームページにおいても「ファイアーエムブレム」が「FE」と略記され、原告任天堂が本件訴訟を提起した際のプレスリリースにおいても「ファイアーエムブレム」が「FE」と略記されていることが認められる。上記の「FE」のうち、「F」は「ファイアー」の、「E」は「エムブレム」の、それぞれ頭文字であるから、この点に照らせば、原告ゲームの「ファイアーエムブレム」の名称については、「ファイアー」の部分を省略して「エムブレム」と略称することは行われていなかったと認められる。
 加えて、「エムブレム」は紋章を意味する英単語「Emblem」をカタカナ表記したものであるところ、証拠(甲246、乙25、29)によれば、原告ゲームの発売前に既に複数の会社から「紋章」の語をタイトルに使用したゲームソフトが発売されていた(「勇士の紋章」(昭和62年5月30日発売。ハミングバード)、「ガイアの紋章」(昭和62年7月発売。日本コンピュータシステム)など)ものであって、、ゲームソフト業界においては、「エムブレム」ないし「紋章」というだけでは、自他商品を識別することが困難な状況にあったと認められる。
 したがって、「エムブレム」との表示が周知性又は著名性を備えるに至っているとの原告らの主張は、採用できない。
(3) 別紙「影像等目録」記載の影像とその変化の態様についての商品表示性
 原告らは、別紙「影像等目録」記載の影像とその変化の態様は、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当すると主張する。
 たしかに、ゲームソフトの表示画面が他に例を見ない独創的な特徴を有する構成であり、そのような特徴を備えた表示画面の構成が特定のゲームソフトに特有のものとして、需要者の間に広く認識されているような場合には、当該表示画面が同号にいう「商品等表示」に該当することがあり得るものと解される。例えば、インベーダーゲームのように、画面に登場するインベーダー等の影像の形状及びゲームの進行に応じた影像の変化の態様に従来のテレビゲームの影像に見られない独創的な特徴があり、そのような影像及びその変化の態様がゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示され、かつ、当該影像の形状及びその変化の態様が一般消費者の間に広く知られている場合には、当該影像の形状及びその変化の態様自体が商品等表示に該当するということができる。
 しかしながら、ゲームソフトの表示画面は、通常は、需要者が当該ゲームソフトを購入して使用する段階になって初めてこれを目にするものであり、また、この種類のゲームソフトにおいてありふれた画面の構成は「商品等表示」となり得ないものと解されるものであって、ゲームソフトの表示画面の構成や影像の変化の態様が「商品等表示」に該当するのは、極めて例外的な場合に限られるというべきである。
 本件においては、証拠(乙10、12〜14、21、28、33、34、36、39〜41)及び弁論の全趣旨によれば、別紙影像等目録1〜3の各表示画面は、いずれも、シミュレーションRPG又はロールプレイングゲーム等のゲーム分野に属するゲームソフトにおいてありふれた画面の構成の域を出ないものであり、また、原告ゲームのこれらの表示画面自体が需要者の間に広く知られていると証拠上認めることもできない。
 したがって、別紙影像等目録記載の影像とその変化が、「商品等表示」に該当するとの原告らの主張は、採用できない。
(4) 以上によれば、請求原因(5)の事実に関しては、「ファイアーエムブレム」との表示について、著名な商品等表示とまでは認められないものの、周知の商品等表示に該当すると認めることができる。しかしながら、原告らが挙げるその余の表示については、いずれも、周知の商品等表示にも、著名な商品等表示にも、該当するとは認められない。
4 請求原因(6)の事実(「ファイアーエムブレム」との商品表示と、被告ゲームの「エムブレムサーガ」との商品表示との類似性)について判断する。
(1) 上記3で認定したとおり、原告ら主張の表示については、このうち「ファイアーエムブレム」が周知の「商品等表示」に該当すると認められる。
 そして、被告ゲームについては、そのパッケージに「エムブレムサーガ」の表示を付して販売されたことはないが、発売前に「エムブレムサーガ」の表示を用いて宣伝広告がされ、予約販売がされたものであるから、「ファイアーエムブレム」との商品表示と被告ゲームの「エムブレムサーガ」との商品表示との類否を検討する。
(2)ア ある商品表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものにあたるか否かについては、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(「プロフットボール事件上告審判決」参照)。
イ これを本件の「ファイアーエムブレム」との商品表示についてみると、同商品表示は、「ファイアー」と「エムブレム」という2つの語を組み合わせたものである。「ファイアー」は火を意味する英単語「Fire」をカタカナ表記したものであり、「エムブレム」は紋章を意味する英単語「Emblem」をカタカナ表記したものであるところ、「ファイアー」も「エムブレム」もともにありふれた単語であって、需要者においてその意味を理解できるものである。「火」及び「紋章」のいずれの語も、ゲームソフトという商品との関係でその性能、用途等と何らかの関連性を有する語ではないが、単なる普通名詞であって商品の出所を示すものであるとの印象を見る者に特に与える語ということはできないから、そのどちらかが特に見る者の目をひく部分として自他識別力を有すると認めることはできない。また、上記3において説示したとおり「エムブレム」との表示が原告任天堂の商品を示す表示として周知であるといった事情も認められず、かえって、既に「紋章」の語をタイトルに使用したゲームソフトが複数の会社から販売されていた(「勇士の紋章」「ガイアの紋章」等)ことから、ゲームソフト業界においては、「エムブレム」ないし「紋章」というだけでは、自他商品を識別することが困難な状況にあった。したがって、「ファイアーエムブレム」との商品表示については、「ファイアー」の部分又は「エムブレム」の部分のみから出所の識別標識としての称呼、観念を生ずるものではない。これに対して、「ファイアーエムブレム」全体からは、「火の紋章」「炎の紋章」の意味を読みとれるから、特定の紋章として、商品の出所を示すものであるとの印象を見る者に与えるということができる。したがって、「ファイアーエムブレム」との商品表示は、全体として出所の識別表示としての称呼、観念を生ずるというべきである。
 原告らは、「エムブレム」との表示が略称として既に周知性又は著名性を獲得していることを前提として、「ファイアーエムブレム」との表示の要部が「エムブレム」であると主張するが、「エムブレム」との表示が周知性も著名性も獲得していないことは前記3に認定したとおりであるから、原告らの主張はその前提を欠き、失当である。
ウ 他方、被告ゲームについて使用された表示は、「エムブレムサーガ」というものであって、「エムブレム」と「サーガ」という2つの語を組み合わせたものである。「エムブレム」は英語で紋章を意味する単語「Emblem」をカタカナ表記したものであり、ありふれた単語として需要者においてその意味を理解できるものであるが、前記のとおり「紋章」という普通名詞は商品の出所を示すものであるとの印象を見る者に特に与える語ということはできず、既に「紋章」の語をタイトルに使用したゲームソフトが複数の会社から販売されていたことから、ゲームソフト業界においては、「エムブレム」ないし「紋章」というだけでは、自他商品を識別することが困難な状況にあった。他方、「サーガ」については、一族物語、年代記(一家一門または一社会を伝記(歴史)的に述べた長編小説)を意味する英単語である「Saga」をカタカナ表記したものであるが、我が国における英語の普及度から考えると、ゲーム需要者のこの分野における知識の豊富さを考慮しても、一般的に需要者がその意味を理解することができるとはいえないから、これを見る者が、「サーガ」の語が造語あるいは何らかの固有名詞として商品の出所を示すものであるとの印象を受けることがあり得るものである。また、証拠(甲78、79、乙3、61)によれば、ゲーム業界においては、株式会社スクウェアから、「魔界塔士 サ・ガ(Sa・Ga)」(平成元年12月発売。売上109万本)、「ロマンシング サ・ガ(Romancing Sa・Ga)」(平成4年発売)、「ロマンシング サ・ガ2(Romancing Sa・Ga2)」(平成5年12月発売。売上117万本)、「ロマンシング サ・ガ3(Romancing Sa・Ga3)」(平成7年発売。売上130万本)という、「サ・ガ」シリーズと呼ばれる一連のゲームソフトが発売されており、ゲームソフトの分野においては、「サ・ガ」ないし「サガ」「Saga」の語は、特定のシリーズに属するゲームソフトを意味する語として需要者の間に広く知られていたものと認められる。そうすると、「エムブレムサーガ」については、このうち「サーガ」の部分が見る者の注意をひき、商品の識別力を備えた部分となり得るものと認められる。したがって、「エムブレムサーガ」の表示については、このうち「サーガ」の部分又は「エムブレムサーガ」全体から、出所の識別標識としての称呼、観念を生ずるものというべきである。
エ 上記を前提として、原告任天堂の周知の商品表示である「ファイアーエムブレム」と被告ゲームについて被告らの用いた表示である「エムブレムサーガ」との類否を検討する。
 上記のとおり、「ファイアーエムブレム」については、自他識別力のある部分として称呼、観念を生ずるのは「ファイアーエムブレム」全体であり、「エムブレムサーガ」については、「サーガ」の部分又は「エムブレムサーガ」全体であるから、両者を対比すると、両者は外観、称呼を異にすることが明らかであり、観念についても、前者が「火の紋章」「炎の紋章」の観念を生ずるのに対して、後者は必ずしも明確な観念を生じない(強いて言えば、英語の知識の豊富な者には「紋章物語」との観念を生じ得る)ものであるから類似するものではない。以上によれば、「ファイアーエムブレム」との商品表示と「エムブレムサーガ」の表示とは、類似しないというべきである。
(3) 以上によれば、請求原因(6)は、認められない。
3 したがって、請求原因(7)(混同を生ぜしめる行為の有無)について判断するまでもなく、原告らの不正競争防止法に基づく請求は、いずれも理由がない。 なお、証拠(甲17の2、20の2、21の2、22の1〜3、77、201、 219)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゲームはいずれも、被告Aが原告イズに従業員(退職時における役職・開発部部長)として勤務していた際にゲームデザイン、監修等を手がけて製作の総指揮をとったものであり、被告ゲームは原告イズを退職した被告Aが、被告ティルナノーグにおいて企画、シナリオ等を手がけてその製作を行ったものであって、このような経緯から、ゲーム雑誌の記事のなかには、被告ゲームを、原告ゲームの作風等を継承する内容のものとして、原告ゲームの事実上の続編であるかのように紹介するものが存在する(甲17の2など)。本件においては、あるいは、このような経緯から、テレビゲーム愛好者、殊に原告ゲームの愛好者の間に、被告ゲームについて、これが被告Aの製作に係るものであることに着目して、原告ゲームと同程度の技術水準を備え、共通の作風の下に製作されたゲームソフトであることへの期待が生じ、そのことから、被告ゲームにつき一連の原告ゲームの系譜を継承するものと認識が生じて、結果として市場において何らかの混乱を生じたことはあり得ることと推測される。しかしながら、このような混乱は、その内容の多くの部分を製作を担当するゲームクリエイター個人の感性に依存するゲームソフトの性質上、避けられないことであり、同様の混乱は、同じように個人の感性に依存する面の多いファッション業界において有名デザイナーが移籍する際にも生ずるものである。本件において、このような事情から、市場において何らかの混乱が生じているとしても、上記のとおり、被告らにおいては原告任天堂の周知の商品表示に類似した表示を使用していないのであるから、不正競争防止法上の問題を生ずるものではない。
6 請求原因(8)の事実(原告イズへの著作権の帰属)について
 そこで、次に、原告らの著作権法に基づく請求について判断する。
 著作権法15条1項は、法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする旨を規定する。
 本件においては、原告ゲームが原告イズの発意に基づき作成されたこと、被告Aを含む原告イズの従業員が原告ゲームを職務上作成したことは、当事者間に争いがない。
 被告らは、原告ゲームについては、「トラキア」については原告任天堂と原告イズの共同名義の下に、その余のゲームソフトについては原告任天堂の名義の下に公表されたことを挙げて、原告イズが原告ゲームの著作者であることを争う。
 しかしながら、著作権法15条1項は「公表したもの」ではなく、「公表するもの」と規定しているものであるから、当該著作物の作成時において、法人等の名義で公表することを予定しているものであれば、職務著作として法人等がその著作者となるものと解するのが相当である。本件においては、証拠(乙70の1)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゲームの作成の際には、完成したゲームソフトを作成に関与した従業員の名義で公表することは、原告イズにおいてはもちろんのこと、作成に関与した従業員においても、全く予定しておらず、むしろ原告イズの名義で公表することが合意されていたと認められる。したがって、原告ゲームについては、「トラキア」以外のゲームソフトを含めて、すべて職務著作として原告イズを著作者と認めるのが相当である。
 そして、証拠(甲34)及び弁論の全趣旨によれば、原告イズは、平成13年4月17日、原告任天堂に対し、原告ゲームの各ゲームソフトの著作権(著作権法27条及び28条に定める権利を含む)につき、その2分の1の持分を譲渡したことが、認められる。
7 請求原因(9)の事実(原告ゲームと被告ゲームとの著作物としての類否)について
(1) ゲームソフトにおける表示画面の著作物性等
 本件において、原告らは、原告ゲームのうち別紙対照表1〜3の左欄(緑色の部分)記載の「トラキア」の戦闘マップ部分、「外伝」の全体マップ部分及び「トラキア」「紋章の謎」「聖戦の系譜」の登場人物等の影像(以下「原告ら著作権主張部分」という。)の著作権(複製権ないし翻案権)を、これと対応する被告ゲームの別紙対照表1〜3の右欄(黄色の部分)記載の各部分が侵害したと主張する。そこで、別紙対照表1〜3の左欄(緑色の部分)をみると、原告らは、それぞれの表示画面(静止画面又は一定の動画としての画面)について、著作権侵害を主張していると解される。
ア 一般に、電子計算機に対する指令(コマンド)により画面(ディスプレイ)上に表現される影像についても、それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)である場合には、著作物として著作権法による保護の対象となるものというべきである。すなわち、美術的要素や学術的要素を備える場合には、美術の著作物(著作権法10条1項4号)や図形の著作物(同項6号)に該当することがあり得るものというべきところ、本件のようないわゆるコンピュータゲームないしテレビゲームにおいて画面上に表示される影像などには美術の著作物に該当するものが存在すると考えられる。
イ 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうから、ある物が既存の著作物の複製に当たるといえるためには、これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することができる程度に再現されていることを要する。したがって、既存の美術の著作物に依拠して作成された物があるとしても、その物が、思想、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製に当たらない。
 また、著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう。したがって、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案に当たらない。
ウ 原告ゲームの表示画面に何らかの著作物性が肯定される場合には、被告ゲームの表示画面がその複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては、原告ゲームの表示画面における創作的特徴が被告ゲームの表示画面においても共通して存在し、被告ゲームの表示画面から原告ゲームの表示画面の創作的な特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。そして、この場合、原告ゲームの表示画面の特徴的構成の一部分が被告ゲームの表示画面においても共通して見られる場合であっても、@共通する当該一部分のみで表示画面における創作的特徴を基礎付けるには足りないときや、あるいは、A被告ゲームの表示画面に原告ゲームの表示画面にない構成部分が新たに付加されていることにより、表示画面の構成を異にすることとなり、これを見る者が表示画面から受ける印象を異にすることとなったときは、被告ゲームの表示画面から原告ゲームの表示画面の創作的特徴を直接感得することができないから、被告ゲームの表示画面をもって原告ゲームの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
(2) 著作権侵害の有無についての判断
ア 概説
 前記(1)において述べたところを前提に、検討する。
(ア) 証拠(甲1の2、2の2、17の2、乙63の2、82の2)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゲーム及び被告ゲームは、いずれもシミュレーションRPGと呼ばれるゲーム分野に属するゲームであるところ、シミュレーションRPGとは、シミュレーションゲーム(経営、戦略、恋愛、育成などの分野において、現実に存在する物や空想上の対象物をゲーム上のルールに従って操作して事件等をゲームで再現するもの)とロールプレイイングゲーム(RPG。物語性があり、キャラクターを成長させながら物語に参加してゲームの結末をめざすもの)とを融合させたタイプのゲームである。そして、証拠(甲35〜39、乙63の2、86の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゲーム及び被告ゲームには、全体の地図を示す全体マップと個々の戦闘場面を示すマップがあり、この2種類のマップを交互に繰り返すことでゲームが進行する。全体マップは、地図の形態をとったマップになっており、目的地となる場所(街など)の位置の確認、アイテム(武器等)の売買、データの保存や読み出しなどを行うことができる。戦闘場面を示すマップ(原告ゲームでは「戦闘マップ」、被告ゲームでは「戦術マップ」と呼ぶが、本判決では、便宜上、以下、双方のゲームにおいて「戦闘マップ」という。)は、その場所の特徴を簡略化したマップになっており、敵との戦闘がメインとなる。全体マップで「移動」のコマンドを選択して目的地へと移動すると、会話を初めとするさまざまなイベントが発生する。移動した場所に敵がいなければイベント終了後に次の目的地へと向かうことになるが、敵がいた場合は全体マップから戦闘マップへと画面が切り替わり戦闘へと突入する。戦闘マップは原告ゲーム、被告ゲームとも数十という規模で存在し、このすべてをクリアすることでエンディングを迎えられる。
(イ) 前記(ア)に認定したとおり、原告ら著作権主張部分を含む原告ゲームはシミュレーションRPGというゲーム分野に属するものであるが、一般に、シミュレーションRPGの分野に属するゲームソフトは、将棋ゲーム、麻雀ゲーム等のゲームソフトと異なり、基本的なストーリーの枠内においてプレイヤーの操作により複数の表示画面の展開が生じ得るように構成されており、その表示画面も、ゲームの展開状況を明らかにする補助として、プレイヤーがユニット(登場人物)をどのように操作したいかについての情報を入力したり、プレイヤーが操作しうるユニット全体の位置や個々のユニットの状況を確認したり、味方ユニットが敵ユニットと戦闘している状況を表示したりするためのものである。このような表示画面は、プレイヤーによるユニットの交戦状況の確認の便宜や、プレイヤーによる入力や状況確認の容易性等の観点からその構成が決定されるものであって、当該ゲームソフトの影像表示の性能、ハードウエアの性能やプレイヤーのユニット操作の利便性(例えばこの観点からは、マップ上における各ユニットは桝目に小さく表示されざるを得ない。)の観点からの制約があり、作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は、通常の映画と異なり、限定的なものとならざるを得ない。
 このような点を考慮すると、原告ら著作権主張部分の各表示画面については、各表示画面におけるユニットの表示の仕方や情報項目の並べ方などの点において、作成者の知的活動が介在する余地があり、作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえないが、上述のような多様な制約が存在することから、作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており、創作的要素が認められる余地は少ないというべきである。
イ そこで、証拠(甲309〜311、313)及び弁論の全趣旨に基づき、原告ら著作権主張部分と被告ゲームにおけるこれと対応する表示画面を対比して、両者の間の共通点を抽出し、これらの共通点が創作的要素を有するものであって、原告ゲームにおける創作的表現ないし創作的特徴を感得させるものかどうかを、以下、検討する。
(3) 「トラキア」の戦闘マップ部分と対応する被告ゲームの部分との対比
ア ゲームソフトの概要
 「トラキア」と被告ゲームのゲームソフトの概要が、「戦略性の高い戦闘システムと壮大なシナリオを満喫できるシミュレーションRPG(SRPG)であり、西洋中世をモチーフとしてペガサス、ドラゴン、魔法等も登場するファンタジーの世界を背景とし、架空の大陸における架空の小王国・小公国・小領主国を舞台とする。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。また、「トラキア」のゲームソフトの概要が、「架空の大陸における架空の小王国・小公国・小領主国間の戦乱を舞台とする。プレイヤーは、主人公の少年王子と自軍ユニットを、シナリオに従って順次表示される西洋中世風の堅固な要塞、山岳地帯、領主館内、峡谷、森林地帯、民家の点在する村、城内、祭壇等の影像からなる複数のマップ画面上を移動させ、各マップに用意された『戦闘画面』(トップビューによるオンマップバトル画面及びサイドビューによる1対1のアニメーション切換戦闘画面)と『イベント画面』をプレイし、戦闘等を行って仲間を増やし、成長させ、敵側を制圧する。死亡したユニットは原則として生き返らず、主人公の死亡によってゲームオーバーとなる。」というものであることは、当事者間で争いがないところ、原告らは、この点についても「トラキア」は被告ゲームと共通すると主張する。
 しかし、原告の主張する上記の点は、ゲームの基本的な構成に関するアイデアの段階にとどまるものであって、小説のあらすじと同様、表現それ自体ではない部分であるから、このような部分が共通するからといって表現の創作的特徴が共通して感じられるということはできない。また、上記のような構成は、証拠(乙10、12〜15、19、22、23、25)及び弁論の全趣旨によれば、「ファースト・クィーン」(平成元年12月ころ発売)、「エルスリード」(昭和62年3月発売)、「ガイアの紋章」(昭和62年8月ころ発売)、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)、「ドラゴンクエストV」(昭和63年2月発売)といったゲームにおいても採用されているごくありふれたものにすぎない。
 以上によれば、被告ゲームの概要をもって、「トラキア」の概要の複製ないし翻案ということはできない。
イ ゲームソフトの登場人物等
(ア) リーフとリュナン
 「トラキア」の登場人物であるリーフと被告ゲームの登場人物であるリュナンについては、その顔の影像、その全体の容姿と剣のイラストは、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表1の1頁記載のとおりと認められ、両者を同一人物ということはできないが、両者が「顔は目鼻立ちが整い、口を真一文字に結んでいる。髪の色は茶色で長さはショート、前髪をたらしている。全体の容姿は、丈の長いマントを着ており、マントの裏地は赤色である。長剣を持ち、その柄には中央に赤い宝石が嵌め込まれ、左右対称の突起が装飾されている。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。また、両者の人物設定が、「主人公であり、敵国に祖国を追われた王子で、祖国のため立ち上がる。兵種は主人公専用のものであり、イベントにより変化する。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点のうち、両者の顔の影像、全体の容姿のイラストの共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきであり、剣のイラストの共通点も、証拠(乙18、36)及び弁論の全趣旨によれば、「ドラゴンクエスト・ファンタジアビデオ」(昭和63年12月発売)、「ゲームブックドラゴンクエストV」(平成元年2月ころ発売)といったビデオないしゲームブックにおいても採用されているごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分であるというべきである。また、両者の人物設定の共通点、すなわち、敵国に祖国を追われた主人公が祖国にために立ち上がるという点は、単なる筋立てであってアイデアの段階にとどまり表現それ自体ではない上、多くの冒険譚や歴史物語等において見られる筋立てであって、証拠(乙12、17)及び弁論の全趣旨によれば、ゲームソフトの分野においても、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ドラゴンスレイヤー」(平成2年2月ころ発売)といった他のゲームにおいても採用されているごくありふれたものであり、その他の、兵種が主人公専用のものであり、イベントにより変化するという点なども、アイデアにすぎず表現それ自体でない部分というべきであるから、これらの点が共通するからといって、表現の創作的特徴が共通して感じられるということはできない。
 以上によれば、被告ゲームのリュナンが「トラキア」のリーフの複製ないし翻案であるということはできない。
 原告らは、原告ゲームの各ゲームソフトは、登場する主人公の少年王子のキャラクターが似通った容姿になっているという特徴があり、シリーズとしての連続性をもたせるものとなっていて、「トラキア」の主人公であるリーフの容姿も「紋章の謎」の主人公であるマルスに似通ったものとなっていると主張するが、この主張は、個別の具体的な表現である「トラキア」のリーフと被告ゲームのリュナンとの対比を論ずる上で意味のない主張である。
(イ) スルーフとセネト
 「トラキア」の登場人物であるスルーフと被告ゲームの登場人物であるセネトについては、その顔の影像は、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の2頁記載のとおりと認められ、両者を同一人物ということはできないが、両者が「鼻筋がとおった整った顔立ちであり、凛とした表情をしている。耳を出した、首にかかる程度の短髪である。髪の分け目は真ん中で、耳の横には一房だけ髪をたらしている。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきであるから、被告ゲームのセネトがそのような点において「トラキア」のスフーフと共通点を有するとしても、複製ないし翻案に当たるということはできない。
(ウ) サラとネイファ
 「トラキア」の登場人物であるサラと被告ゲームの登場人物であるネイファについては、その顔の影像と上半身のイラストは、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の2頁記載のとおりと認められ、両者を同一人物ということはできないが、両者が「容姿は、まだあどけなさの残る顔立ちであり、緩めのウェーブが波打つようにかかったロングヘアである。前髪を中央で左右に分けており、その分け目から額飾りをつけているのがみえる。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。また、両者の人物設定についても、「女性専用の兵種『シスター』であり、乗り物はない。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点のうち、その顔の影像の共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画、アニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。両者の人物設定の共通点も、アイデアにすぎず表現それ自体でない部分というべきである。したがって、上記のような点において共通点を有するとしても、被告ゲームのネイファが「トラキア」のサラの複製ないし翻案に当たるということはできない。
(エ) シヴァとヴェガ
 「トラキア」の登場人物であるシヴァと被告ゲームの登場人物であるヴェガについては、その顔の影像と全身のイラストは、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の3頁記載のとおりと認められ、両者を同一人物ということはできないが、両者が「顔の輪郭はシャープで鋭い目つきをしており、冷徹な印象の顔立ちである。髪は黒色で長目である。鎧を着けず、東洋的要素を含む服装をしている。白色のズボンをはき、黒色の丈の長い上着を着用していて上着は胸のあたりまではだけている。上着は布帯を巻きつけ腰のあたりにとめられている。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。また、両者の人物設定についても、「敵として登場するが、仲間となり得る。ダメージを与えた分だけ自分のHP(ヒットポイント。体力を示す値)が回復するスキルをもつ。兵種はソードファイター(剣士)であり、ソードマスター(剣豪)にクラスチェンジ可能である。使用できる武器は剣であり、乗り物はない。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点のうち、その顔の影像、全身のイラストの共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画、アニメーションないし格闘ゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきであるし、両者の人物設定の共通点も、アイデアにすぎず表現それ自体でない部分というべきである。したがって、上記のような点において共通点を有するとしても、被告ゲームのヴェガが「トラキア」のシヴァの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者の人物設定上の共通点として、味方の女性キャラクターと接触することにより仲間となることをあげるが、仮にこのような点が共通しているとしてもそれは表現それ自体ではない部分において共通しているにすぎないというべきであるから、上記のような点において共通点を有するとしても、複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。
(オ) ミーシャとサーシャ
 「トラキア」の登場人物であるミーシャと被告ゲームの登場人物であるサーシャについては、その顔の影像と全身のイラストは、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の4頁記載のとおりと認められ、両者を同一人物ということはできないが、両者が「髪は肩までのセミロングであり、額に鉢巻をしている。鎧は肩当てと胸当てのみで、どちらも白色である。大腿の高さまである白色のロングブーツを履いている。また、ひじ上まである白色の手袋をしている。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画、アニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。したがって、上記のような点において共通点を有するとしても、被告ゲームのサーシャが「トラキア」のミーシャの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者の人物設定上の共通点として、兵種がペガサスに乗る飛行兵たるペガサスナイトであること、弓による攻撃に弱いこと、使用できる武器は剣と槍であることをあげるが、弁論の全趣旨によれば、被告ゲームの登場人物であるサーシャの当初の兵種はプリンセスであり、その場合、弓による攻撃に弱くなく、槍を使用することはできないと認められるものであるから、共通点とまでいうことは困難であるし、仮にサーシャがペガサスナイトにクラスチェンジした後の状態をとらえて以上のような点が共通しているとみたとしても、それは表現それ自体ではない部分において共通しているにすぎないというべきであるから、上記の複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。
(カ) アスベルとマルジュ
 「トラキア」の登場人物であるアスベルと被告ゲームの登場人物であるマルジュについては、その顔の影像は、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の4頁記載のとおりと認められ、両者を同一人物ということはできないが、両者が「耳をだした、首にかかる程度の短髪の少年である。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。また、両者の人物設定が、「風魔法を得意とする少年で自身専用の風魔法を持っている。登場時の兵種は魔道書で攻撃魔法を専門に使う下位の兵種である。」という点で共通することも、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点のうち、顔の影像の共通点については、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画、アニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきであるし、人物設定の共通点も、アイデアにすぎず表現それ自体でない部分というべきである。したがって、上記のような点において共通点を有するとしても、被告ゲームのマルジェが「トラキア」のアスベルの複製ないし翻案に当たるということはできない。
(キ) ペガサス
 「トラキア」に登場する動物であるペガサスと被告ゲームに登場する動物であるペガサスの影像は、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の5頁記載のとおりと認められ、両者を同一の影像ということはできないが、両者が「背中に大きな翼を有する白馬である。ペガサス全体が白色である。頭部に仮面をつけている。翼を左右にはばたくように大きく広げて戦う。女性のユニットを背中に乗せている。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点は、証拠(乙19、31、39)及び弁論の全趣旨から、ペガサスはギリシア神話の有翼の天馬として一般に知られており、「ヘラクレスの栄光」(昭和62年6月発売)、「ミッド・ガルツ」(平成元年12月ころ発売)、「フェリオス」(平成元年2月発売)、「テイルズオブファンタジア」(平成7年12月発売)といったゲームにおいても採用されているありふれたものと認められることからすると、表現上の創作性がない部分というべきである。したがって、被告ゲームのペガサスをもって「トラキア」のペガサスの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者の共通点として、ペガサスが、兵種がペガサスライダー又はペガサスナイトの女性騎士だけが乗って闘うことができる乗り物であること、別紙対照表1の5頁記載のように、ペガサスナイトの女性騎士を乗せて大きな翼を曲げるようにして上下に大きくはばたかせて飛翔し、頂点の高さに達した位置から左斜め下方の地上にいる敵ユニットめがけて下降し、敵ユニットの右側に対峙して攻撃を開始することもあげるが、両者のペガサスについて仮に上記のような点が共通するとしても、乗り物としての性格付けは表現それ自体ではない点について共通するにすぎないものであり、飛翔形態もありふれたものとして表現上の創作性がない部分において共通しているにすぎないというべきであるから、上記の複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。なお、原告らは、ペガサスが原告ゲームを特徴付けるキャラクターとなっていると主張するが、これは具体的な表現である「トラキア」のペガサスと被告ゲームのペガサスとの類否判断に影響しない事項である。
(ク) ドラゴン
 「トラキア」に登場する動物であるドラゴンと被告ゲームに登場する動物であるドラゴンの影像は、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の6頁記載のとおりと認められ、両者は同一の影像ということはできないが、両者が「恐竜の背中にコウモリの翼のような翼が生えた外観をしている。翼はかなり大きく、翼をはばたかせて空を飛ぶ。頭部に2本の角を有している。胴体はぼってりと大きめで、太い後ろ足と後ろ足に比べて一回り小さい前足が生えている。また、太くて長い尾が生えている。首と尾を下方にたらしている。人間を肩から首のあたりに乗せている。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点は、証拠(乙19、22〜26、36、39)及び弁論の全趣旨から、ドラゴンは西洋の神話で翼を持つ大型爬虫類の形で表される想像上の動物として一般に知られており、「ミッド・ガルツ」(平成元年12月ころ発売)、「エルスリード」(昭和62年3月発売)、「ガイアの紋章」(昭和62年8月ころ発売)、「ドラゴンバスター」(昭和62年9月ころ発売)、「マスターオブモンスターズ」(平成元年3月ころ発売)、「フェーダ」(平成6年10月発売)、「パンツァードラグーン」(平成7年3月発売)といったゲームにおいても採用されているありふれたものと認められることからすると、表現上の創作性がない部分というべきである。したがって、上記のような点について共通点を有するとしても、被告ゲームのドラゴンが「トラキア」のドラゴンの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者の共通点として、ドラゴンが、兵種がドラゴンライダー又はドラゴンナイトの騎士だけが乗って闘うことができる乗り物であること、別紙対照表1の6頁記載のように、人を載せて大きな翼を曲げるようにして上下に大きくはばたかせて飛翔し、頂点の高さに達した位置から左斜め下方の地上にいる敵ユニットめがけて下降し、敵ユニットの右側に対峙して攻撃を開始することもあげるが、両者のドラゴンについて仮に上記のような点が共通するとしても、乗り物としての性格付けは表現それ自体ではない点について共通するにすぎないものであり、飛翔形態もありふれたものとして表現上の創作性がない部分において共通しているにすぎないというべきであるから、上記の複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。なお、原告らは、ドラゴンが原告ゲームを特徴付けるキャラクターとなっていると主張するが、これは具体的な表現である「トラキア」のドラゴンと被告ゲームのドラゴンとの類否判断に影響しない事項である。
ウ ゲーム内容
(ア) タイトル・デモンストレーション画面の表示
 「トラキア」のタイトル・デモンストレーション画面の表示と被告ゲームの同画面の表示は、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の7頁記載のとおりと認められ、両者が「ゲームのストーリーの紹介後に、タイトル画面が表示される。タイトル画面では、ゲームタイトルに併せて、著作権表示(発行年と著作権者)される。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、以上の共通点は、証拠(乙38、39)及び弁論の全趣旨によれば他の同種ゲームにおいても採用されているごくありふれたものと認められることからすると、表現上の創作性がない部分というべきである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
(イ) 戦闘マップの画面表示とそれに関連する画面表示
@ 戦闘マップのスクロールと出撃準備画面表示
 「トラキア」の戦闘マップのスクロールと出撃準備画面表示及び被告ゲームの戦術マップのスクロールと出撃準備画面表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の8頁記載のとおりと認められ、両者がスクロール前の画面表示、スクロール中の画面表示、スクロール後の画面表示の点において、次のとおりであることは、当事者間で争いがない。すなわち、両者は、スクロール前の画面表示が、「戦闘マップの画面表示は、トップビューによる二次元画像で表示される。同マップの1面は画面サイズより大きく、1画面だけでは戦闘マップの全体を把握できないので、戦闘開始前に戦闘マップの全範囲を見せるために、スクロール表示が自動的に行われる。スクロール前は、同マップの左上が画面に表示される。」という点、スクロール中の画面表示が、「スクロールは、戦闘マップの左上を基点として右(時計)回りで順次行われる。同マップが画面サイズの縦横それぞれ2倍(全体で4倍)ある場合は、当初の左上の画面から順次、右上、右下、左下の順でスクロールして画面表示がされる。」という点、スクロール後の画面表示が、「スクロール終了後は、スクロール前の画面に戻り、それに加えて出撃準備メニューが表示される。なお、スクロール表示を見たくない場合は、スクロール途中でスタートボタンを押すと、出撃準備メニューが直ちに表示される。」という点で共通していると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れた抽象的な特徴にすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、戦闘マップの画面表示がトップビューによる二次元画像で表示され、戦闘マップの1面は画面サイズより大きいことは、証拠(乙10、12〜16、21〜25、28、33、35、36)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)、「ガイフレーム」(昭和63年3月ころ発売)、「ガイアの紋章」(昭和62年10月ころ発売)、「ネクタリス」(平成元年2月ころ発売)、「エルスリード」(昭和62年3月発売)、「マスターオブモンスターズ」(平成元年3月ころ発売)、「三国志中原の覇者」(昭和63年7月発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであるし、その他の共通点も、この種類のゲームにおいてありふれたものであって創作性は認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
A 吹出しの画面表示
 「トラキア」の戦闘マップの吹き出しの画面表示と被告ゲームの戦術マップの吹き出しの画面表示は、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の9頁記載のとおりと認められ、両者が「戦闘マップ画面において、カーソルをユニットに合わせると、当該ユニットの名前とヒットポイント(HP)が吹出画面として表示される。これによって、戦闘前のユニットの状態を確認できる。吹出画面表示は、上段にユニットの名前、下段にHPを表示し、HPは、分母にユニットの持っている最大値、分子に現在の値を表示する。」ことについては当事者間で争いがないから、両者はその点において共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れた抽象的な特徴にすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、戦闘マップ画面において、カーソルをユニットに合わせると、小画面が開いて当該ユニットの名前、HPなどが表示されることは、証拠(乙13、14、39)及び弁論の全趣旨によれば、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであり、その他の共通点も、この種類のゲームにおいてありふれたものであって、創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
B 移動可能範囲と攻撃可能範囲の画面表示
 「トラキア」の戦闘マップの移動可能範囲と攻撃可能範囲の画面表示と被告ゲームの移動可能範囲と攻撃可能範囲の画面表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の10頁記載のとおりと認められ、両者が、自軍ユニットからみた場合の画面表示、敵軍ユニットからみた場合の画面表示において、以下のとおりであることについては、当事者間で争いがない。すなわち、自軍ユニットからみた場合の画面表示が、「自軍ユニットにカーソルを合わせると、自軍ユニットの移動可能な範囲を背景とは異なる色の桝目で表示し、移動可能範囲の外側に攻撃可能な範囲の桝目を黄色で表示する。これによって、自軍ユニットが移動可能な範囲と攻撃可能な範囲を知ることができる。」というものである点、敵軍ユニットから見た画面表示が、「敵軍ユニットにカーソルを合わせると、敵軍ユニットの移動可能な範囲を背景とは異なる色の桝目で表示し、移動可能範囲の外側に攻撃可能な範囲の桝目を黄色で表示する。これによって、自軍ユニットが敵軍から攻撃可能な範囲内に存在しているか否かを容易に確認できる。」というものである点において、両者が共通していると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れた抽象的な特徴にすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、ユニットの移動範囲や攻撃範囲を桝目で色分けして表示することは、証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであり、桝目を黄色で表示することなどその他の共通点についても、創作性は認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
C 戦闘マップ画面上における、カーソルによるユニット移動の画面表示
 「トラキア」の戦闘マップ画面上におけるカーソルによるユニット移動の画面表示と被告ゲームの戦術マップ画面上におけるカーソルによるユニット移動の画面表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の11頁記載のとおりと認められ、両者が、カーソルを合わせたとき及び自軍ユニットの移動後において、以下のとおりであることについては、当事者間で争いがない。すなわち、カーソルを合わせたときの画面表示が、「戦闘マップ画面(戦術マップ画面)が桝目で移動可能範囲を表示しているとき、カーソルを合わせてユニットの移動先を指定する。指定できる移動先は、移動可能範囲内に限られる。」というものである点、自軍ユニットの移動後において、「操作ボタンを押して、移動先を決定すると、選択された自軍ユニットが移動先へ移動される。その後、移動先に敵軍ユニットが存在しかつ『攻撃』コマンドが選択された条件で、敵軍ユニットとの戦闘が開始する。このとき、予め『支援効果』が設定されている特定のユニットが3ブロック内にいれば、命中率などの各種攻撃計算値が予め設定した値分だけ上昇する。」というものである点において、両者が共通していると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、戦闘画面において、ユニットにカーソルを合わせて移動先を決定する点は、証拠(乙10、12〜14)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであり、予め「支援効果」が設定されている特定のユニットが一定の距離内にいれば、各種計算値が予め設定した値分だけ変動する点は、証拠(乙34、35、39)及び弁論の全趣旨によれば、「ネクタリス」(平成元年2月発売)などのゲームにおいても採用されておりごくありふれたものであり、創作性も認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
D オンマップバトル画面の場合の戦闘の影像表示
 「トラキア」のオンマップバトル画面の場合の戦闘の影像表示と、被告ゲームのオンマップバトル画面の場合の戦闘の影像表示は、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の12頁記載のとおりと認められ、両者が、以下のとおりであることは当事者間で争いがない。すなわち、両者は、「オンマップバトル画面は、出撃準備メニューなどにおいて『設定』コマンドを選び、『戦闘アニメ設定』において、オンマップバトルの設定を行うことにより、設定される。」ものであり、@「自軍ユニット移動後のメニューで『攻撃』を選択し、攻撃する武器にカーソルを合わせて操作ボタンを押すと、カーソルを合わせた敵軍ユニットと攻撃する自軍ユニットの『戦闘前のパラメータ』が画面表示される。『戦闘前パラメータ表示』は、中央の比較項目(HP〔ヒットポイント〕、攻撃等)を挟んで、左に敵ユニットを右に自軍ユニットを対比して出す。」、A「戦闘マップ(戦術マップ)上で敵ユニットと味方ユニットが対峙して表示される。同じ画面には、敵ユニットと自軍ユニットの名前の下に、両者のHP〔ヒットポイント〕が棒グラフと数値で表示され、自軍ユニット欄は青系色、敵ユニット欄は赤系色で色分けされている。」、B「戦闘を終了すると、戦闘により獲得した経験値がそれまでの経験値に加算されて、戦闘後の現在の経験値として棒グラフと数値で画面上に表示される。」というものであり、両者は、これらの点において、共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、オンマップバトルの画面を設定する点、戦闘前パラメータを表示する点、マップ上で敵ユニットと味方ユニットを対峙して表示する点については、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、他のゲームにおいても採用されているごくありふれたものと認められ、それ以外の点についても、個性が発揮された部分とはいえず、創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
E アニメーション切換戦闘画面の場合の戦闘の影像表示
 「トラキア」のアニメーション切換戦闘画面の戦闘の影像表示と、被告ゲームのアニメーション切換戦闘画面の戦闘の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の13頁記載のとおりと認められ、両者が、以下のとおりであることは当事者間で争いがない。すなわち、両者は、「切換戦闘画面は、出撃準備メニュー等で『設定』を選び、以降『戦闘アニメ設定』の『リアルアニメ』の項目で『すべて』を選択して設定される。」ものであり、@「切換戦闘画面は、自軍ユニットと敵軍ユニットの側面から見たサイドビューのアニメ画面で表示される。切換戦闘画面においては、左に相手ユニットが、右に自軍ユニットが対峙して表示される。各ユニットの下方には、自軍ユニットは青色系の欄内に、敵軍ユニットは赤色系の欄内に、それぞれ名前、使用する武器名が表示されるとともに、攻撃能力(攻撃パラメータ)の記号とその数値が表示される。各ユニットのHPは棒グラフと数値で表示され、攻撃パラメータは、命中率、守備力、攻撃力を含む。」、A「自軍ユニットと敵軍ユニットが近づき、戦闘が開始する。」、B「いずれかのユニットが相手のHPを0にさせることに成功すると、相手に勝ったことになる。負けたユニットの画像は半透明で表示され、徐々に消えるように画面表示される。」、C「自軍ユニットが生き残った状態で戦闘が終了すると、経験値が付与され、付与された経験値が戦闘前の経験値に加算されて、戦闘後の経験値が求められ、現在の経験値として棒グラフと数値で画面表示される。」というものであり、両者は、これらの点において、共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、サイドビューのアニメーション画面で表示される切換戦闘画面を有することは、証拠(乙10、14、21、28、33、34、36、39)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)、「ネクタリス」(平成元年2月発売)、「ハラキリ」(平成元年12月ころ発売)、「マスターオブモンスターズ」(平成元年3月発売)、「三国志中原の覇者」(昭和63年7月発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであって、それ以外の点についても個性が発揮された部分とはいえず、いずれも創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
F 敵軍ターンの場合の影像表示
 「トラキア」の敵軍ターンの場合の影像表示と、被告ゲームの敵軍ターンの場合の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の14頁記載のとおりと認められ、両者が、「自軍ターンの画面の終了後、敵軍ターンの場面に変わる。敵軍ターンの場面では、自軍ターンの場面で対戦した敵軍ユニットが自軍ユニットに対して自動的(プログラムに従って)に攻撃を仕掛けてくる。なお、自軍ターンと敵軍ターンによる戦闘は、自軍ユニットと敵軍ユニットの数だけ交互に攻撃又は行動するターン制として画面表示される。」というものであることは当事者間で争いがないから、両者は、以上の点で共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、ターン制を設定していることは、証拠(乙10、13、14)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
G マップ終了の画面表示
 「トラキア」のマップ終了の場合の影像表示と、被告ゲームのマップ終了の場合の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の14頁記載のとおりと認められ、両者が、「そのマップにおいて、敵軍のボスを倒して勝利を収め、主人公が城等に入ると、自軍ユニット移動後のメニューが画面表示される。」というものであることは当事者間で争いがないから、両者は、以上の点で共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点は具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎないし、この種類のゲームにおいてありふれたものであって、創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者は、「『制圧』コマンドを選択すると、当該マップのクリアとなり、マップを終了し、『制圧』後の会話・イベントの影像が表示される。」という点についても、両者は共通すると主張する。しかし、仮にこれらの点が共通するとしても、表現それ自体ではない点が共通するにすぎないし、また、「制圧」コマンドを選択すると当該マップがクリアとなる点については、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「機動戦士ガンダムギレンの野望」(平成10年4月発売)、「グローバルフォース新・戦闘国家」(平成11年3月発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであり、創作性も認められないから、上記の複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。
(ウ) ゲームの進行を助ける画像・情報・コマンドの表示等の影像表示
@ 戦闘マップ開始前における出撃準備メニューの画面表示
 「トラキア」の戦闘マップ開始前における準備メニューの画面表示と、被告ゲームの戦術マップ開始前における出撃準備メニューの画面表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の15頁記載のとおりと認められ、両者が、「戦闘マップ画面(戦術マップ画面)におけるスクロール終了後に自動的に、又は、戦闘マップ(戦術マップ)確認中にカーソルがユニットの存在しない座標位置を指しかつ操作ボタンを押したとき、同マップ画面の背景の上に、出撃準備のためのコマンドが画面表示される。出撃準備コマンドはマップ、アイテムなどのコマンドを表示する。コマンドの中の『マップ』は戦闘マップ(戦術マップ)を確認するために選択され、『アイテム』はユニットの所持しているアイテムを編集したいとき選択される。」というものであることは当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、出撃準備のためのコマンドを設定する点については、証拠(乙12、39)及び弁論の全趣旨によれば、「ラングリッサー」(平成3年4月発売)、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであり、それ以外の点についても、創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者は、「ゲーム途中のデータをセーブするときに選択されるコマンド(『記録』又は『セーブ』)を有する。」という点についても、共通すると主張する。しかし、仮にこの点が共通するとしても、表現それ自体ではない点が共通するにすぎないし、ゲームにおいてごくありふれており創作性も認められないから、上記の複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。
A 戦闘マップ画面上のメインメニューの影像表示
 「トラキア」の戦闘マップ画面上のメインメニューの画面表示と、被告ゲームの戦術マップ画面上のメインメニューの画面表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の15頁記載のとおりと認められ、両者が、「戦闘開始後、自軍ターンにおいて、メインメニューを画面上に表示させて、状況、設定等のコマンドを選択できる。コマンドの中の『状況』は現在の戦闘マップ(戦術マップ)の情報を表示させたいときに選択され、『設定』はゲーム中の戦闘場面の設定等を行う場合に選択される。」というものであることは当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、戦闘画面においてメニューを表示させ、各種コマンドを選択する点については、証拠(乙10、12〜14)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであるし、それ以外の点についても、創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者は、「自軍ユニットの一覧表を表示させたいときに選択されるコマンド(『部隊』又は『ユニット』)、自軍ターンの操作を終了するときに選択されるコマンド(『終了』又は『ターンエンド』)を有する。」という点についても、共通すると主張する。しかし、仮にこの点が共通するとしても、表現それ自体ではない点が共通するにすぎないし、ゲームにおいてごくありふれており創作性も認められないから、上記の複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。
B 自軍ユニット移動後のメインメニューの画面表示
 「トラキア」の自軍ユニット移動後のメインメニューの画面表示と、被告ゲームの自軍ユニット移動後のメインメニューの画面表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の16頁記載のとおりと認められ、両者が、「移動後に画面上に表示させることができるメインメニューには、各種コマンドが表示される。コマンドのうち、『攻撃』は、攻撃する武器、敵ユニットの選択と戦闘前パラメータを比較表示させるために選択されるものであり、『杖』(『杖を使う』)は、回復などの様々な効果を発揮する杖を使用するときに選択されるものであり、『持ち物』(『アイテム』)は、アイテムを選択して、そのアイテムを『装備』、『使う』、『捨てる』場合に選択されるものである。さらに、『訪ねる』を選択すると、会話メッセージが表示されたり、イベントが発生したりし、『話す』は、隣接するユニットに話しかけるときに選択されるものであり、『のる』(『乗る』)は、乗り物に乗ることのできるユニットが馬、ペガサス、ドラゴンの何れかに乗るときに選択されるものであり、『おりる』(『降りる』)は、乗り物に乗ることのできるユニットが馬、ペガサス、ドラゴンに乗っているとき、乗り物から降りるときに選択されるものであり、『武器屋』は、武器屋に入り、武器を売買したいときに選択されるものであり、『道具屋』は、道具屋に入り、アイテムを売買したいときに選択されるものであり、『闘技場』は、闘技場に入りたいときに選択されるものであり、『制圧』は、勝利条件を満たし、マップをクリアするときに選択されるものである。」というものであることは当事者間で争いがなく、両者は、以上の点において共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、戦闘画面においてメニューを表示させ、各種コマンドを選択する点については、証拠(乙10、12〜14)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであり、それ以外の点についてもその内容自体からみて、ゲームにおいてはありふれたものであって、創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「トラキア」は、「自軍ユニットの移動後に画面上に表示させることができるメインメニューには、主なコマンドとして、攻撃、杖、持ち物、物交換、訪ねる、話す、のる、おりる、武器屋、道具屋、闘技場、制圧を表示したメインメニュー表示がある。」のに対し、被告ゲームは、「自軍ユニットの移動後に画面上に表示させることのできるメインメニューには、主なコマンドとして、攻撃、杖を使う、アイテム、訪ねる、話す、乗る、降りる、武器屋、道具屋、闘技場、制圧を表示したメニュー表示がある。」ものであると主張するが、仮にこれらを前提として考えても、表現それ自体ではない点が共通するにすぎないし、両者が共通する点である「『攻撃』、『杖』(『杖を使う』)、『持ち物』(『アイテム』)、『訪ねる』、『話す』、『のる』(『乗る』)、『おりる』(『降りる』)、『武器屋』、『道具屋』、『闘技場』、『制圧』を影像表示したメインメニューの影像表示」は、この種類のゲームにおいてありふれたものというべきであって、創作性が認められないから、このような点が共通することをもって、上記の複製ないし翻案に当たらないとの認定を左右することはできない。
C ステータス画面の画面表示
 「トラキア」のステータス画面の画面表示と、被告ゲームのステータス画面の画面表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の17頁記載のとおりと認められ、両者が、「自軍ターン画面において、戦闘マップ(戦術マップ)上でカーソル操作して、ステータス表示を選択することにより、画面上に表示される。ステータス画面は、画面を上下に2分割し、さらに上段を横方向に3分割してなっており、上段の中央にユニットの顔が表示され、左に名前、兵種、HP(ヒットポイント)、LV(レベル)、経験値が表示され、右に攻撃パラメータが表示される。下段の左側に戦闘能力が表示され、右にアイテム(武器、道具、杖等のアイテム名称、アイテムを表すアイコン、耐久度)が表示される。ユニットの能力・状態・アイテムを知り、有利な条件で攻略するための戦略を立てることを容易にする。」というものであることは当事者間で争いがなく、これによれば、両者は以上の点で共通していると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、戦闘マップ上でカーソル操作をすることによりステータス画面を表示させる点については、証拠(乙10、12〜14)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであるし、それ以外の点についても創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「トラキア」は、「ステータス画面の下段の左側に戦闘能力(力、魔力、技、速さ、幸運、守備、体格)が表示される。」のに対し、被告ゲームは、「ステータス画面の下段の左側に戦闘能力(ちから、魔力、わざ、ラック、はやさ、ぶきL、守備力、戦闘力)が表示される。」ものであると主張するが、仮にこれらを前提として考えても、表現それ自体ではない点が共通するにすぎないし、両者が共通する点である「『力』(『ちから』)、『魔力』、『技』(『わざ』)、『速さ』(『はやさ』)、『幸運』(『ラック』)、『守備』(『守備力』)、『体格』(『戦闘力』)が表示されること」は、この種類のゲームにおいてありふれたものというべきであって、創作性が認められないから、このような点が共通することをもって、上記の複製ないし翻案に当たらないとの認定を左右することはできない。
D 戦闘前パラメータの影像表示
 「トラキア」の戦闘前パラメータの影像表示と、被告ゲームの戦闘前パラメータの影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の17頁記載のとおりと認められ、両者が、「戦闘マップ(戦術マップ)画面上で、自軍ユニットの移動後のメニュー表示において『攻撃』コマンドが選択され、武器が選択され、相手が選択されたあとに、画面上に表示される。戦闘前パラメータには、相手と自軍の各ユニットの攻撃パラメータが比較表示される。比較表示は、中央の縦方向に攻撃パラメータの項目を配置し、それを挟んで左に敵ユニットのパラメータ値が表示され、右に自軍ユニットのパラメータ値が表示される。左右のパラメータ値に対応して、対戦する敵ユニットと自軍ユニットの名前が表示される。」というものであることは当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、戦闘前パラメータの画面表示を設定する点については、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「タクティクスオウガ」(平成7年10月発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものであるし、それ以外の点についても、この種類のゲームにおいてごくありふれたものであって、創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「トラキア」の攻撃パラメータの項目は、レベル、HP(ヒットポイント)、攻撃力、守備力、命中率、必殺率、攻速(攻撃の速さ)であるところ、被告ゲームの攻撃パラメータの項目は、HP(ヒットポイント)、攻撃力、ヒット率、必殺率、守備力、そくど(攻撃の速さ)であり、両者は攻撃パラメータの項目で共通すると主張するが、仮にこれらを前提として考えても、表現それ自体ではない点が共通するにすぎないし、HP(ヒットポイント)、攻撃力、守備力、必殺率、攻速(そくど)の各項目この種類のゲームにおいてはありふれた項目であって、創作性が認められないから、上記の複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。
E 乗り物の影像表示
 乗り物の影像表示について、「トラキア」と被告ゲームの両者が、「ユニットが乗ることのできる乗り物は、馬、ペガサス、ドラゴンの3種類の動物である。これらの乗り物は、自軍ユニットの兵種によって乗ることのできる種類が決まる。」という点で共通することは当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、ユニットの乗り物として馬、ペガサス、ドラゴンを用いる点は、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「天地を喰らう2」(平成8年9月発売)、「フェリオス」(平成元年2月発売)、「テイルズオブファンタジア」(平成7年12月発売)、「フェーダ」(平成6年10月発売)、「パンツァードラグーン」(平成7年3月発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
a 馬の画面表示
 「トラキア」における馬の影像表示と、被告ゲームにおける馬の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の18頁記載のとおりと認められ、両者が、「馬は、栗毛や白毛の馬であり、男性又は女性の騎士が乗ることができる。移動後のメニューにおいて、コマンド『のる』(『乗る』)を選択する前は、馬に乗っていない自軍ユニットの画像が表示される。コマンド『のる』(『乗る』)を選択すると、自軍ユニットが馬に乗った状態の画像が表示される。自軍ユニットは、馬に乗った状態で敵軍ユニットと対戦する。設定コマンドにより、バトルアニメ画面表示が設定されている場合は、馬に乗った状態でのアニメーションバトル画面が表示される。」という点で共通することは当事者間で争いがない。
 しかし、かかる共通点のうち、ユニットの乗り物として馬を用いる点は、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎないし、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「天地を喰らう2」(平成8年9月発売)などのゲームにおいても採用されているごくありふれたものである。それ以外の点も、表現上の創作性がない部分というべきである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
b ペガサスの画面表示
 「トラキア」におけるペガサスの影像表示と、被告ゲームにおけるペガサスの影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の19頁記載のとおりと認められ、両者が、「兵種(クラス)がペガサスナイトの女性騎士が乗ることのできる羽が生えた白馬のペガサスを、乗り物として登場させている。移動後のメニューにおいて、コマンド『のる』(『乗る』)を選択する前は、ペガサスに乗っていない自軍ユニットの画像が表示される。コマンド『のる』(『乗る』)を選択すると、自軍ユニットがペガサスに乗った状態の画像が表示される。自軍ユニットはペガサスに乗った状態で敵軍ユニットと対戦する。設定コマンドにより、バトルアニメ画面表示が設定されている場合は、ペガサスに乗った状態のアニメーションバトル画面が表示される。」というものであることは当事者間で争いがないから、両者は、以上の点において共通すると認められる。
 しかし、かかる共通点のうち、ユニットの乗り物としてペガサスを用いる点は、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎないし、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「フェリオス」(平成元年2月発売)、「テイルズオブファンタジア」(平成7年12月発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものである。それ以外の点も、表現上の創作性がない部分というべきである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、ペガサスが原告ゲームの特徴となる動物(乗り物)であると主張するが、表現それ自体でない部分ないし表現上の創作性がない部分を特徴的部分と位置付けたからといって、被告ゲームを「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできないとの認定を左右することはできない。
c ドラゴンの影像表示
 「トラキア」におけるドラゴンの影像表示と、被告ゲームにおけるドラゴンの影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の20頁記載のとおりと認められ、両者が、「兵種(クラス)がドラゴンライダー又はドラゴンナイトの騎士が乗ることのできる羽が生えた恐竜であるドラゴンを、乗り物として登場させている。移動後のメニューにおいて、コマンド『のる』(『乗る』)を選択する前は、ドラゴンに乗っていない自軍ユニットの画像が表示される。コマンド『のる』(『乗る』)を選択すると、自軍ユニットがドラゴンに乗った状態の画像が表示される。自軍ユニットはドラゴンに乗った状態で敵軍ユニットと対戦する。設定コマンドにより、バトルアニメ画面表示が設定されている場合は、ドラゴンに乗った状態のアニメーションバトル画面が表示される。」というものであることは当事者間で争いがないから、両者は、以上の点において共通すると認められる。
 しかし、かかる共通点のうち、ユニットの乗り物としてドラゴンを用いる点は、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎないし、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「フェーダ」(平成6年10月発売)、「パンツァードラグーン」(平成7年3月発売)といったゲームにおいても採用されているありふれたものである。それ以外の点も、表現上の創作性がない部分というべきである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、ドラゴンが原告ゲームの特徴となる動物(乗り物)であると主張するが、表現それ自体でない部分ないし表現上の創作性がない部分を特徴的な部分と位置付けたからといって、被告ゲームを「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできないという前記認定を左右することはできない。
d 縮小マップの影像表示
 「トラキア」における縮小マップの影像表示と、被告ゲームにおける縮小マップの影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の21頁記載のとおりと認められ、両者が、「戦闘マップ(戦術マップ)上のどの位置に敵軍と自軍のそれぞれのユニットが配置されているかを容易に認識するために、縮小マップ画面を表示することができる。縮小マップ画面は、現在いる1画面分の戦闘マップ(戦術マップ)画面の上に、戦闘マップ(戦術マップ)全体の縮小版を重ねて表示される。縮小マップにおいては、赤マークで敵軍ユニット、青マークで自軍ユニットの配置を示している。他の色(緑、茶)は、地形のイメージに似た色を示している。縮小マップの表示条件は、出撃準備メニューで『マップ』コマンドを選択してマップを確認中にスタートボタンが押されたとき、又は自軍ターン中においてスタートボタンが押されたときである。」というものであることは当事者間で争いがないから、両者は、以上の点において共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、縮小マップを表示するという点は、証拠(乙13、39)及び弁論の全趣旨によれば、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「大戦略」(昭和63年10月発売)、「ラングリッサー」(平成3年4月発売)、「シャイニングフォース神々の遺産」(平成4年3月発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものであり、それ以外の点も創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
e ユニット一覧表の影像表示
 「トラキア」におけるユニット一覧表の影像表示と、被告ゲームにおけるユニット一覧表の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の21頁記載のとおりと認められ、両者が、「ユニットの一覧表は、出撃準備メニューの表示又は戦闘マップ上でのメインメニューの表示において、『部隊』コマンドが選択されたときに画面上に表示される。一覧表は、縦軸をユニット別とし、横軸をステータス画面の表示項目別としている。表の横方向左端欄は、ユニットの名前を示す欄であり、右方向へ順次にクラス(兵種)、LV、経験値、HP(最大値と現在値)等の欄が設けられている。ユニット一覧表は、左端のユニットの名前欄を固定的に表示した上で、横方向の項目欄を切り換えて表示することができる。別紙対照表1の21頁の最下段に示されているのは、スキル欄を表示している状態である。キーの上下を操作すると、自軍ユニットの名前順に上下にスクロールして表示され、上又は下の部分を押すことを止めると、スクロールが停止する。」というものであることは当事者間で争いがないから、両者は、以上の点において共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、ユニット一覧表を設定するという点は、証拠(乙10、13)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものであり、それ以外の点も、創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
F ユニットの成長についての影像表示
a レベルアップの場合の影像表示
 「トラキア」におけるレベルアップの場合の影像表示と、被告ゲームにおけるレベルアップの場合の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の22頁記載のとおりと認められ、両者が、「ユニットがレベルアップする場合の画面表示は、順次、次の@〜Cのように画面表示される。」「@ 切換戦闘シーンにおいて、自軍ユニットと相手(敵軍)ユニットが対戦する。」「A 戦闘後に自軍ユニットに経験値が付与される。経験値は数値と数値の右側に棒グラフで画面表示され、経験値が付与されると、数値は徐々に増え、棒グラフは画面の右へ向かって伸びる画面表示が為される。経験値が100を超えると、数値は0となり、棒グラフはグラフがない状態に戻り、引き続き経験値が付与される画面表示がなされる。」「B 経験値が100を超えた自軍ユニットは、レベルアップし、顔の画像とともに、戦闘能力データが表示される。」「C 戦闘能力パラメータのうちのランダムに選ばれる項目が基本的に1だけ上昇するように設定されており、上昇した項目には、上昇した数値が新たに表示される。」というものであることは当事者間で争いがないから、両者は、以上の点において共通すると認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、ユニットがレベルアップするという点は、証拠(乙12、13、36)及び弁論の全趣旨によれば、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「マスターオブモンスターズ」(平成元年3月ころ発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものであり、ユニットの経験値が100を超えるとレベルアップするという点も、証拠(乙10、14)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものであるし、それ以外の点についても創作性が認められない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 なお原告らは、両者の共通点として、「経験値が付与される条件が、自軍ユニットが生き残っている状態で相手を倒した場合、相手を倒さなくてもダメージを与えた場合、杖を使用した場合、踊った場合である。」という点も挙げるが、この点はアイデアないしゲームのルールにすぎないから、仮にこの部分が共通するとしても、表現それ自体でない部分が共通するにすぎない。したがって、上記の複製ないし翻案に当たらないという認定を左右することはできない。
b クラスチェンジの場合の影像表示
 「トラキア」におけるクラスチェンジの場合の影像表示と、被告ゲームにおけるクラスチェンジの場合の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の23頁記載のとおりと認められ、これによれば、両者が、次の(a)→(b)→(c)→(d)の順に画面表示され、この点で共通することが認められる((a)、(d)の画面表示については、当事者間で争いがない。)。
(a) 戦闘シーンにおいて、レベルアップして、レベルが10以上になりかつレベルアップ可能にすることを条件付ける所定のアイテムを使用しているとき、クラスチェンジできることが判断される。
(b) クラスチェンジ状態を演出し表示するために、まず背景と自軍ユニットが、目立つように外観上明るい感じになるように表示される。
(c) クラスチェンジの進行状態を表示するために、背景と自軍ユニットの、目立つように外観上明るい感じが徐々に通常の状態に戻っていき、やがてクラスチェンジしたユニットが現れる。このときのユニットは、クラスチェンジ後の服装をしており、向きが左右逆となる。
(d) クラスチェンジが完了すると、クラスチェンジ後のユニットの画像が鮮明に現れ、当該ユニットの顔画像とともに、クラスチェンジ後の戦闘能力パラメータが表示され、パラメータがアップする場合もある。
 しかし、かかる共通点のうち、ユニットがクラスチェンジするという点は、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎないし、また、証拠(乙12、13、32)及び弁論の全趣旨によれば、ラングリッサーT&U(平成9年発売)、ファーランドストーリー(平成7年発売)、ファイナルファンタジー(昭和62年12月ころ発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものである。(a)〜(d)の各画面もこの種のゲームにおいてありふれたものであって表現上の創作性がない部分といわなければならない。(a)→(b)→(c)→(d)という画面の変化も同一であるが、その表示順序自体も独創的なものとはいい難く、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
G 会話・イベントの影像表示
a ユニット間の会話の場合の影像表示
a-1 仲間になる場合の影像表示
 「トラキア」における仲間になる場合の影像表示と、被告ゲームにおける仲間になる場合の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の24頁記載のとおりと認められ、両者が、「ユニットの会話は、『話す』コマンドを選択することによって行われる。話しかけたユニットの種類によって、当該ユニットが仲間になる場合と寝返る場合がある。自軍ユニットの話しかけた相手が中立軍ユニットであるとき、当該中立軍ユニットが自軍ユニットになる場合がある。これをゲームでは『仲間になる』という。その後、ゲームにおいて自軍ユニットとして使用できる。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、話しかけたユニットの種類によって当該ユニットが仲間になる場合があるという発想は、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「伝説のオウガバトル」(平成8年9月発売)などのゲームにも採用されているありふれたものである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
a-2 寝返りの場合の影像表示
 「トラキア」における寝返りの場合の影像表示と、被告ゲームにおける寝返りの場合の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の24頁記載のとおりと認められ、両者が、「自軍ユニットの話しかけた相手が敵軍ユニットであるとき、当該敵軍ユニットが寝返って自軍ユニットになる場合がある。その後、ゲームにおいて自軍ユニットとして使用できる。このように会話することによって、敵軍ユニットを自軍ユニットに組み入れることができ、敵軍ユニットの数を減少させることができる。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、かかる共通点についてみても、これは敵軍ユニットから自軍ユニットへ、話しかけることにより寝返ることがあるという部分を初めとして、すべて具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールそのものであって表現それ自体ではない部分といわなければならない。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
b 闘技場の影像表示
 闘技場とは、掛け金を払って自ら戦うギャンブル場であり、戦闘に勝つと賞金を稼ぐことができ、対戦により経験値を増加できる場所であることは当事者間で争いがないところ、「トラキア」における闘技場の影像表示と、被告ゲームにおける闘技場の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の25頁記載のとおりであると認められ、これによれば、両者が、コマンドのメニューにおいて「闘技場」を選択して闘技場に入ったとき、次の(a)〜(e)の画面表示が影像表示されるで共通すると認められる。
(a) 闘技場を選択すると、古代ローマの闘技場の建物の外観画像が背景として画面表示され、背景画像に闘技場の「おやじ」の顔とメッセージが表示される。メッセージは、ここが闘技場であるという趣旨の内容である。
(b) 次に、現在の所持金と掛け金が画面表示され、闘うかどうかの選択が問われる。
(c) 対戦を選択した後、闘技場の中に入り、相手が登場して、対戦を開始する。戦闘中はHP(ヒットポイント)が棒グラフと数値で画面表示され、プレイヤー側のユニットのHPが0になりそうなときは、戦闘を中断してユニットの死亡を防止することもできる。
(d) 対戦相手のHPを0にすることに成功すると、プレイヤーの勝ちとなり、経験値を増加させることができる。対戦後の増加した経験値が棒グラフと数値で画面表示される。
(e) 対戦が終了すると背景画面が闘技場の建物外の画面に変わり、闘技場の「おやじ」が画面に登場して賞金が示され、獲得賞金が所持金に加算されて画面に表示される。
 しかし、かかる共通点についてみても、闘技場を設けるという発想自体は、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールそのものであって表現それ自体ではない部分といわなければならないし、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「エンドセクター」(平成10年9月発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものである。(a)〜(e)の各画面表示の共通部分も、いずれもごくありふれたものであって表現上の創作性がない部分というべきである。また、(a)→(b)→(c)→(d)→(e)という画面の変化も同一であるが、その表示順序自体も独創的なものとはいい難く、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。そして、両者の具体的な画面表示を比較すると、両者が全く異なることは明らかである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
c 武器屋の影像表示
 武器屋とは、自軍ユニットが所持している不要な武器を売却したり、欲しい武器を購入できる場所であることは当事者間で争いがないところ、「トラキア」における武器屋の影像表示と、被告ゲームにおける武器屋の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の25頁記載のとおりであると認められ、両者が、コマンドのメニューにおいて「武器屋」を選択して入ると、武器屋の主人の顔とメッセージが表示され、在庫している武器のリストと当該武器の価格が画面表示され、「買う」コマンドを選択し、カーソルを操作して、欲しい武器を選択すると、所持金から武器の代金が差し引かれて画面表示される、という点で共通することは当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、武器屋を設けるという発想は、証拠(乙10、13、14、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)、「勇士の紋章」(昭和62年5月ころ発売)、「ヘラクレスの栄光」(昭和62年5月発売)などのゲームにも採用されているありふれたものである。上記の両者の影像における共通点も創作性がない部分といわなければならない。そして、両者の具体的な画面表示を比較しても、両者が全く異なることは明らかである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
d 道具屋の影像表示
 道具屋とは、自軍ユニットが所持しているアイテムで不要なものを売却したり、欲しいアイテムを購入できる場所であることは当事者間で争いがないところ、「トラキア」における道具屋の影像表示と、被告ゲームにおける道具屋の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の26頁記載のとおりであると認められ、両者が、コマンドのメニューにおいて「道具屋」を選択して入ると、道具屋の主人の顔とメッセージが表示され、在庫している道具等のリストと価格が画面表示され、「買う」コマンドを選択し、カーソルを操作して、欲しい道具等を選択すると、所持金から代金が差し引かれて画面表示される、という点で共通することは当事者間で争いがない。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、道具屋を設けるという発想は、証拠(乙10、13、14、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー」(平成7年発売)、「ファーランドストーリー2」(平成7年発売)、「勇士の紋章」(昭和62年5月ころ発売)、「ヘラクレスの栄光」(昭和62年5月発売)などのゲームにも採用されているありふれたものである。上記の両者の影像における共通点も創作性がない部分といわなければならない。そして、両者の具体的な画面表示を比較しても、両者が全く異なることは明らかである。したがって、被告ゲームがそのような点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
e 秘密の店の影像表示
 秘密の店とは、自軍ユニットが所持しているアイテム等で不要なものを売却したり、欲しい珍しいアイテム等を購入できる場所であることについては当事者間で争いがなく、秘密の店への入り方については、証拠(甲35、39、309)によれば、「トラキア」においては、特定のアイテムを持った自軍ユニットがマップ上の秘密の店の存在する場所へ移動するとコマンドメニューに「秘密店」が画面表示され、コマンド「秘密店」を選択すると秘密の店に入ることができること(これについては、当事者間で争いがない。)、被告ゲームにおいては、特定の民家の奥に秘密の店が存在することがあり、自軍ユニットがコマンド「訪ねる」で民家を訪ねたとき、そのユニットがアイテムとして「ギルドのカギ」を持っていれば、秘密の店に入ることができること、が認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、秘密の店を設けるという発想は、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、「スターオーシャン2ndストーリー」(平成10年7月発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものである。
 次に、「トラキア」における秘密の店の影像表示と、被告ゲームにおける秘密の店の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表1の26頁記載のとおりであると認められ、両者が、秘密の店に入ると主人の顔とメッセージが表示され、在庫している複数の珍しいアイテム等のリストとその価格が画面表示されること、「買う」コマンドを選択し、カーソルを操作して欲しいアイテム等を選択すると、所持金から代金が差し引かれて画面表示されること、については当事者間で争いがないから、それらの点において両者は共通すると認められる。
 しかし、上記の影像における共通点もいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールそのものであって表現それ自体ではない部分であるか、その内容自体からみて表現上の創作性がない部分といわなければならない。そして、両者の具体的な画面表示を比較すると、両者が全く異なることは明らかである。
 したがって、被告ゲームがこれらの点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
H 死亡判断と死にセリフの影像表示
 「トラキア」におけるユニットの死亡判断と、被告ゲームにおけるユニットの死亡判断とを対比すると、両者が、戦闘シーンにおいて戦闘している自軍ユニットのHP(ヒットポイント)が0になると死亡と判断され、当該ユニットが死亡することは当事者間で争いがない。また、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば、「トラキア」においては、一度死亡したユニットは、原則として生き返らず、リセットしない限り、再びゲームに登場させることができないこと(これについては、当事者間で争いがない。)、被告ゲームにおいては、一度死亡したユニットは、原則として生き返らず、リセットしない限り、再びゲームに登場させることができないが、死亡したユニットを生き返らせるアイテムが存在すること、が認められる。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、ユニットのHPがゼロになると戦闘に負けたことになり、死亡と判断されて当該ユニットが死亡すること、戦闘に負けたユニットがセリフをいうことについては、証拠(乙10、12、39)及び弁論の全趣旨によれば、「リトルマスター」(平成7年発売)、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「フェーダ」(平成6年10月発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものである。
 次に、「トラキア」における死にセリフの影像表示と、被告ゲームにおける死に死にセリフの影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表1の27頁のとおりであると認められ、両者が、当該ユニットが死亡すると、当該ユニットの顔の影像及び顔の影像の横に吹き出しで表示された当該ユニットの死にセリフが画面上に表示されること、死にセリフは、ユニットの種類によって異なっていること、については当事者間で争いがないから、それらの点において両者は共通すると認められる。
 しかし、上記の影像における共通点もいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールそのものであって表現それ自体ではない部分であるか、その内容自体からみて表現上の創作性がない部分といわなければならない。そして、両者の具体的な画面表示を比較しても、死にセリフ自体がユニットの種類によって異なっているなど、両者が全く異なることは明らかである。
 したがって、被告ゲームがこれらの点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
I ゲームオーバーの影像表示
 「トラキア」においても、被告ゲームにおいても、主人公の死亡によりゲームオーバーとなることについては当事者間で争いがないが、この点はゲームのルールにほかならず表現それ自体でない部分であるから、著作権法による保護の対象とならない部分というべきである。また、「トラキア」におけるゲームオーバーの影像表示と、被告ゲームにおけるゲームオーバーの影像表示を対比すると、両者は、主人公が死亡すると主人公の顔の影像及び顔の影像の横に吹き出しで表示された主人公の死にセリフが画面上に表示されること、主人公が死亡すると、自軍ユニットの顔の影像及び吹き出しで表示された主人公の死に対する無念の気持ちを伝える言葉が画面上に表示されること、については当事者間で争いがなく、また、両者の影像表示は、証拠(甲35、39、309)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表1の28頁のとおりであると認められ、主人公ユニットの死亡となる、同ユニットのHP(ヒットポイント)が0になったことを、「トラキア」においては棒グラフのバーの明るい表示をすべて暗くすることにより画面表示する(この点は、当事者間で争いがない。)のに対し、被告ゲームにおいては黄色の棒グラフの数字がすべて消えることで画面表示すると認められる。
 しかし、以上から認められる共通点をみても、それらは具体的な表現を離れた抽象的なアイデアであって表現それ自体ではない部分であるか、その内容自体からみて創作性がない部分といわなければならない。そして、両者の具体的な画面表示を比較しても、両者が全く異なることは明らかである。したがって、被告ゲームがこれらの点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
J エンディングの影像表示
 「トラキア」及び被告ゲームの両者において、最終マップをクリアするとエンディング画面が一定の順序に従って表示されることについては当事者間で争いがない。
 そして、「トラキア」におけるエンディングの影像表示は、証拠(甲35、309)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表1の29頁の左欄(緑の欄)のとおりであり、下記の(a)→(b)→(c)→(d)→(e)の順序で表示されると認められる。
(a) 第1番目の画面は、主人公がゲームクリアに感動し、満足して呟いている画面である(これは、当事者間で争いがない。)。
(b) 第2番目の画面は、ゲームクリアした経過を文字で説明した画面であり、画面には、クリアしたマップのタイトル、クリアしたターン数が、クリアした順番に、画面の下から上へスクロールして画面表示され、最後にクリアしたターン数の合計も表示される(これは、当事者間で争いがない。)。
(c) 第3番目の画面は、ゲーム製作に携わったスタッフを表示する画面である。
(d) 第4番目の画面は、各ユニットのその後のストーリーを表示した画面である。
(e) 第5番目の画面は、ゲームが終了したことを示す「終わり」の意味のフランス語(Fin)を表示した画面である。
 これに対し、被告ゲームにおけるエンディングの影像表示は、証拠(甲39、309)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表1の29頁の右欄(黄色の欄)のとおりであり、下記の(a)→(b)→(c)→(d)→(e)→(f)の順序で表示されると認められる((c)以下の画面の内容が以下に記載するとおりであることは、当事者間で争いがない。)。
(a) 第1番目の画面は、大地母神ミラドナが現れ、この世界の成り立ちを語る画面である。
(b) 第2番目の画面は、主人公であるリュナン及びホームズと、これに次ぐセネト及びティーエのそれぞれのパートナー4人(エンテ、カトリ、ネイファ、リチャード)が、ミラドナの奇跡によって蘇る画面である。
(c) 第3番目の画面は、ゲーム製作に携わったスタッフを表示する画面である。
(d) 第4番目の画面は、各ユニットのその後のストーリーを表示する画面である。
(e) 第5番目の画面は、ゲームクリアした経過を文字で表示する画面である。画面には、クリアしたマップのタイトル、クリアしたターン数がクリアした順番に、画面の下から上へスクロールして画面表示され、最後にクリアしたターン数の合計も表示される。
(f) 第6番目の画面は、ゲームが終了したことを示す、「終わり」の意味のフランス語(fin)を表示した場面である。
 これらによれば、エンディングの影像表示については、個々の画面を対比しても、その画面表示の順序をみても、全く類似していないことが明らかであるから、被告ゲームのエンディングの影像表示から「トラキア」のエンディングの影像表示の創作的特徴を直接感得することができず、その複製ないし翻案ということはできない。
 原告らは、被告ゲームのエンディングの影像表現形式は、「クリア直後の会話の影像」「クリアターンの数の影像」「スタッフロールの影像」「その後のストーリーの影像」「フランス語の終わりを意味するfinの言葉で終了を表す」という5つの影像表現形式を組み合わせてなる点で、「トラキア」のエンディングの表現形式と実質的に同一であると主張するが、これらの点は特に独創的なものとは認められず、表現上の創作性がない部分というべきである。また、原告らは、「クリアターン数の影像」と「その後のストーリーの影像」において複数の影像を用意しているいわゆるマルチエンディングの表現形式をとっている点でも実質的に同一であると主張する(被告らは、「トラキア」がマルチエンディング方式を採用していることは否認している)が、仮に両者がこの点で共通するとしても、このような点はアイデアにすぎず表現それ自体でない部分である。さらに、原告らは、両者は「クリアターン数の影像」として、「ゲームクリアした経過を文字で説明した影像表示であり、画面にはクリアしたマップのタイトル、クリアしたターン数がクリアした順番に、画面の下から上へスクロールして表示され、最後にクリアしたターン数の合計も影像表示される」との同一の表現形式をとっており、終了をフランス語で表示する表現形式も同一であると主張するが、これらの点も、アイデアであって表現そのものではないし、映画等においても採用されているごくありふれたものである。したがって、上記のような点を指摘して、被告ゲームが「トラキア」の複製ないし翻案であるとする原告らの主張は、採用することができない。
エ まとめ
 以上に認定したとおり、被告ゲームの戦術マップ部分を「トラキア」の戦闘マップ部分の複製ないし翻案ということはできない。
(4) 「外伝」の全体マップ部分と被告ゲームとの対比
ア 全体マップの概要について
 「外伝」が、高い戦闘システムを満喫できるシミュレーションRPGであり、「外伝」のゲームの著作物中には、ゲーム内容の表現形式として、「戦闘マップ」に加えて、主人公等が移動できる全範囲を、全体マップ画面で設定している(縦横3×2画面の計6画面分)こと、全体マップ画面は戦闘が行われるポイントとそれを結ぶルートからなっており、主人公等が移動して敵と遭遇すると直ちに「戦闘マップ」画面に移行すること、敵と遭遇するまでは、全体マップ上で、メインメニューによる行動を選択することができることについては、当事者間で争いがなく、加えて原告らは、「外伝」は、壮大なシナリオを満喫できるものであり、ファイアーエムブレムシリーズの世界観を共通にするゲームの著作物であると主張する。
 しかし、上記の共通点はいずれも具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体ではない点における共通性をいうものにすぎない。また、戦闘マップに加えてゲーム全体のマップを表示する点については、証拠(乙15、22〜25、27、28、33、39)及び弁論の全趣旨によれば、「ガイフレーム」(昭和63年3月ころ発売)、「エルスリード」(昭和62年3月発売)、「ガイアの紋章」(昭和62年8月ころ発売)、「キングオブマジック」(昭和63年11月ころ発売)、「第二次欧州大戦」(平成元年10月ころ発売)、「ハラキリ」(平成元年12月発売)、「三国志中原の覇者」(昭和63年7月発売)などのゲームにおいても採用されているありふれたものである。
 したがって、被告ゲームがこれらの点において「トラキア」と共通点を有するとしても、「トラキア」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
イ 全体マップの表現形式について
 「外伝」における全体マップの表現形式及び被告ゲームにおける全体マップの表現形式は、証拠(甲36、39、310)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表2記載のとおりと認められ、両者が、全体マップにおける地形の形状及び色、ユニットの表示、場面を表すウインドウの有無等の点で全く異なっており、類似するといえないことは明らかである。
 また、「外伝」における全体マップ画面の内容と、被告ゲームにおける全体マップ画面の内容とを対比し、両者の共通点が著作権法上保護される部分といえるかどうかについてみると、次の(ア)〜(オ)のとおりである。
(ア) 両者は、ゲームを開始すると,ゲーム全体のマップ(以下、「全体マップ」という。)のスタート点(「外伝」では画面左下の半島であり、被告ゲームでは画面の略中央である。)からゲームが開始することについては当事者間で争いはないから、両者はこの点で共通するといえる。しかし、このような共通点は、具体的な表現を離れたアイデアにすぎず、また、証拠(乙38、39)及び弁論の全趣旨によれば、同種類のゲームでも採用されているごくありふれたものにすぎない。
(イ) 両者は、操作キーを操作して全体マップ画面上でカーソルを移動させて、移動先を決定することにより、全体マップ上で自軍部隊が移動すること、ゲーム開始から所定数の戦闘マップをクリアするまでの間に自軍を移動できる範囲が決められていること(「外伝」は全体マップの1.5画面分、被告ゲームは全体マップの1画面分)、カーソルを自軍部隊に合わせて操作ボタンを押すと、全体マップ上のメインメニューが表示され、このメニュー画面は戦闘マップへ連れて行くことのできるユニットに関する情報を表示するユニット表示窓と、コマンド表示窓であることについてはいずれも当事者間で争いがないから、両者はこれらの点で共通するといえる。しかし、このような共通点は、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、また、全体マップにおいてコマンド表示窓を設定することは、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、ファイナルファンタジータクティクス(平成9年6月発売)、タクティクスオウガ(平成7年10月発売)、伝説のオウガバトル(平成8年9月発売)などのゲームでも採用されているごくありふれたものであるにすぎない。
(ウ)−1 「外伝」のコマンド表示窓について
 「外伝」において、コマンド表示窓には、選択可能なコマンドとして、「いどう」、「ならびかえ」、「もちもの」、「データ」、「たいき」、「きろく」が表示されること、「いどう」は、全体マップ上で自軍部隊を移動させたい場合に選択され、「ならびかえ」は、自軍ユニットを並び替える場合に選択され、「もちもの」は、ユニットの所持しているアイテムを編集する場合に選択され、「データ」は、自軍ユニットのステータス画面を確認したい場合に選択され、「たいき」は何もしない場合に選択されるものであることは、当事者間で争いがない(なお、原告らは、「きろく」はゲーム途中のデータをセーブしたり、セーブデータを読み出して前回の続きをプレイする場合に選択されると主張し、「きろく」がゲーム途中のデータをセーブする場合に選択されるところまでは弁論の全趣旨により認められるが、同「きろく」がセーブデータを読み出して前回の続きをプレイする場合に選択される点については、これを認めるに足りる証拠はない。被告らも、セーブデータの読み出しは全体マップ画面ではできないとして、この点について否認している。)。
(ウ)−2 被告ゲームのコマンド表示窓について
 被告ゲームにおいて、コマンド表示窓には、選択可能なコマンドとして、「移動」、「情報」、「市街」、「編成」、「システム」が表示されること、「移動」は全体マップ画面上で自軍部隊を移動させたい場合に選択され、「情報」は自軍部隊のユニットの一覧表を表示させたい場合に選択され、「市街」は、市街のマップにおいて武器屋、道具屋、やどやに入る場合に選択され、「編成」は「アイテム」又は「並びかえ」のコマンドを表示させてこれらのコマンドを選択した場合に選択され、「アイテム」はユニットの所持しているアイテムを編集する場合に選択され、「並びかえ」は自軍ユニットの順番を変更する場合に選択され、「システム」はゲーム途中のデータをセーブしたり、セーブデータを読み出してゲーム機本体内にロードしたり、ゲーム中の戦闘シーンアニメを切り替える場合に選択されるものであることは、当事者間で争いがない。
(ウ)−3 対比
 両者は、「いどう」と「移動」、「ならびかえ」「もちもの」と「並びかえ」「アイテム」、「データ」と「情報」、「きろく」と「システム」(ただし、ゲーム途中のデータをセーブする場合に選択されるという点のみにおいて。)というように、機能の点においてそれぞれ対応するコマンドを有していることは認められるものの、このような共通点は、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、また、「外伝」に「たいき」、被告ゲームに「市街」、「編成」という他方にはないコマンドが存在する以上、被告ゲームから「外伝」のコマンド表示窓の創作的特徴を感得できるとは到底いえない。
(エ)−1 「外伝」のコマンド「ならびかえ」について
 「外伝」においてコマンド「ならびかえ」が選択されると、自軍ユニットのリストと、各ユニットの名前別のレベル(LV)、経験値(EXP)、ヒットポイント(HP)が表示される。
(エ)−2 被告ゲームのコマンド「並びかえ」について
 証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、被告ゲームにおいてコマンド「並びかえ」が選択されると、自軍ユニットのリストと、「ヒット」等の数値が表示されると認められる。
(エ)−3 対比
 両者は、コマンド「ならびかえ」(「並びかえ」)が選択されると、自軍ユニットのリストと、ヒットポイント(HP)等が表示される点で共通し、ヒットポイント(HP)とヒットというように、対応するコマンドを有していることは認められるものの、このような共通点は、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、また、被告ゲームにおいてコマンド「並びかえ」が選択されたとき、レベル(LV)、経験値(EXP)が表示されると認めるに足りる証拠はないから、両者は表現として全く異なっているというべきであり、被告ゲームから「外伝」のコマンド「ならびかえ」の選択後の画面表示の創作的特徴を感得できるとは到底いえない。
(オ) 両者は、全体マップ画面から「戦闘マップ画面」に移行して、敵軍部隊と対戦し、戦闘マップクリア条件を満たし、所定数の戦闘マップのクリアを達成すると、それまで制限されていた次の全体マップ画面へ進むことができるものであることは当事者間で争いがないから、両者はこの点において共通するということができるが、この共通点はまさに具体的表現を離れたゲームのルールたるアイデアにほかならず、著作権法上保護される部分といえない。
エ まとめ
 以上からすれば、「外伝」の全体マップ部分と被告ゲームの全体マップ部分とを対比したとき、両者が共通する部分はいずれも表現それ自体ではない部分であって著作権法上保護される部分といえない上、両者が影像として全く相違していることが明らかであるから、被告ゲームの全体マップ部分が「外伝」の全体マップ部分を複製ないし翻案したということはできない。
(5) 「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」の登場人物等の影像と被告ゲームの影像との対比
 「トラキア」における登場人物等の影像と被告ゲームとの対比は、前記(4)イで検討したとおり、「トラキア」における登場人物等の影像を、被告ゲームが複製ないし翻案したということはできない。
 また、原告らは、「紋章の謎」における登場人物であるマルス、ジェイガン、カイン、アベル、カチュア、ペガサス三姉妹、ミネルバ、リンダ、バーツ、ペガサスの各影像に、被告ゲームの登場人物であるリュナン、オイゲン、クライス、アーキス、サーシャ、ペガサス三姉妹、レシエ、メリエル、バーツ、ペガサスの影像が酷似すると主張し、被告ゲームが「紋章の謎」の人物等の影像の著作権を侵害していると主張する。また、原告らは、「聖戦の系譜」における登場人物であるトリスタン、トラバントの各影像に、被告ゲームの登場人物であるロジャー、リチャードの各影像が酷似すると主張し、被告ゲームが「聖戦の系譜」の人物等の影像の著作権も侵害していると主張する。そこで、以下検討する。
ア マルスとリュナン
 「紋章の謎」の登場人物であるマルスと被告ゲームの登場人物であるリュナンについては、その顔の影像、その全体の容姿と剣のイラストは、証拠(甲309)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の7頁記載のとおりと認められ、両者を同一人物ということはできないが、両者が「顔は目鼻立ちが整い、口を真一文字に結び、凛々しい印象の顔立ちである。髪の長さはショートで、前髪をたらしている。全体の容姿は、丈の長いマントを着ており、マントの裏地は赤色である。長剣を持ち、その柄には中央に赤い宝石が嵌め込まれ、左右対称の突起が装飾されている。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。また、両者の人物設定が、「主人公であり、敵国に祖国を追われた王子で、祖国のため立ち上がる。兵種は主人公専用のものである。」という点で共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、以上の共通点のうち、両者の顔の影像、全体の容姿のイラストの共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性に極めて乏しいというべきであるし、両者を対比すると、マルスが頭にサークレットのようなものを付けているのに対しリュナンはバンダナのようなものを巻いていること、マルスの髪の色が青色であるのに対しリュナンの髪の色は茶色であること、顔と比較した瞳の大きさが、マルスは大きくリュナンは小さいこと、下半身の着衣の色が、マルスは青色であるのに対しリュナンは白色であること、手足の長さについてマルスは短いがリュナンは長いこと、などの各点において両者は全く相違しているのであって、両者の共通点と相違点とを総合すると、リュナンの顔の影像、全体の容姿のイラストが、マルスの顔の影像、全体の容姿のイラストの本質的特徴を感得できるものということは到底できない。
 また、剣のイラストの共通点は、証拠(乙18、36)及び弁論の全趣旨によれば、「ドラゴンクエスト・ファンタジアビデオ」(昭和63年12月発売)、「ゲームブックドラゴンクエストV」(平成元年2月ころ発売)といったビデオないしゲームブックにおいても採用されているごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分であるというべきである。また、上記に認定した両者の人物設定の共通点は、単なるアイデアにすぎず表現それ自体でない部分というべきであり、しかも、敵国に祖国を追われた主人公が祖国のために立ち上がるという点は、単なる筋立てであってアイデアの段階にとどまり表現それ自体ではない上、多くの冒険譚や歴史物語等において見られる筋立てであって、証拠(乙12、17)及び弁論の全趣旨によれば、ゲームソフトの分野においても、「ラングリッサーT&U」(平成9年発売)、「ドラゴンスレイヤー」(平成2年2月ころ発売)といった他のゲームにおいても採用されているごくありふれたものである。
 原告らは、被告ゲームの主人公であるリュナンは、当初はマルスと同じく青色の髪であったが、発売直前の時期に、ゲームタイトル名の変更と同時に茶色の髪に変更されたことを取り上げ、この髪の色の変更は、ユーザー間に大きな反響を呼んだものであり、かかる被告らの行為は被告らがマルスとリュナンとの実質的同一性を認めていたからだと主張する。しかし、「紋章の謎」の登場人物のマルスと被告ゲームの登場人物であるリュナンとを、リュナンの髪の色が青色の状態で対比したとしても、上述した他の相違点に照らせば、リュナンの顔の影像、全体の容姿のイラストが、マルスの顔の影像、全体の容姿のイラストの本質的特徴を感得できるとは到底いえない。
イ ジェイガンとオイゲン
 「紋章の謎」の登場人物であるジェイガンと被告ゲームの登場人物であるオイゲンの顔の影像は、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の8頁記載のとおりと認められ、両者の容貌は、肌の色、顔のしわの有無等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのオイゲンを創作した行為を、「紋章の謎」のジェイガンの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者の人物設定が「すでに一線を退いているが、いくつもの戦場を駆け抜けてきた経験があり、今は主人公のよき相談役である。」という点で同じであり、両者の容姿の影像が「顔は目つきが鋭く、貫禄がある。髪は白髪であり、後髪を肩まで長く垂らし、横髪を耳が隠れないようにし、前髪をはねるように垂らしている」という特徴を有する点で同じであるから、オイゲンはジェイガンの複製ないし翻案に当たると主張する。
 しかし、被告らが否認する上記の両者の人物設定について、仮に両者が共通することを前提としたとしても、上記のような人物設定自体はアイデアにすぎず表現それ自体ではない部分というべきであるし、同様に被告らが否認する上記の両者の容姿の影像についても、仮に両者が共通するとしても、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。原告らの主張は、採用できない。
ウ カインとクライス
 「紋章の謎」の登場人物であるカインと被告ゲームの登場人物であるクライスの容姿の影像及びそのイラストは、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の8頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、髪の色、髪型、衣装の色、マントの着用の有無等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのクライスを創作した行為を、「紋章の謎」のカインの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「紋章の謎」のカインの人物設定が「主人公に忠信的に仕える立場であり、物語序盤から主人公とともに登場する。兵種はソシアルナイトであり、パラディンにクラスチェンジ可能である。使用できる武器は槍で、乗り物は馬である。」というものであると主張しており、その容姿の影像の特徴点が、「顔は顎が尖り、鼻筋がとおった顔をしており、赤色系の鎧を身につけている。」というものであることは当事者間で争いがないところ、被告ゲームのクライスも、人物設定、容姿の影像の特徴点においてカインと同じであると主張する。そして、被告ゲームのクライスが、顎が尖り、鼻筋がとおった顔をしており、赤色系の鎧を身につけていること、物語序盤から主人公とともに登場し、兵種はルークナイトであり、コマンドナイトにクラスチェンジ可能であること、については、当事者間で争いがない。
 しかし、被告らは被告ゲームのクライスが主人公に忠信的に仕える立場である点は否認しているところ、上記の両者の人物設定について、被告らが否認する点も含めて両者が共通することを前提としたとしても、上記のような人物設定自体は具体的な表現を離れたアイデアにすぎず表現それ自体ではない部分というべきであるし、上記の両者の容姿の影像について両者が共通するとしても、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。原告らの主張は、採用できない。
エ アベルとアーキス
 「紋章の謎」の登場人物であるアベルと被告ゲームの登場人物であるアーキスの容姿の影像及びイラストは、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の8頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、髪型、着用している鎧、マントの有無等の点において全く異なり、両者は全く別人物を描いたというべきであって、酷似しているともいえないことは明らかであるから、被告ゲームのアーキスを創作した行為を、「紋章の謎」のアベルの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「紋章の謎」のアベルの人物設定が「主人公に忠信的に仕える立場であり、物語序盤から主人公とともに登場する。兵種はソシアルナイトであり、パラディンにクラスチェンジ可能である。使用できる武器は槍で、乗り物は馬である。」というものであると主張しており、その容姿の影像の特徴点が、「顔は前髪が片目にかかるほど長く、量も多く、後髪が肩まで長く、色が緑である。緑色系の鎧を身につけている。」というものであることは当事者間で争いがないところ、被告ゲームのアーキスも、人物設定、容姿の影像の特徴点においてアベルと同じであると主張する。そして、被告ゲームのアーキスが、髪は前髪が片目にかかるほど長く、量も多く、後髪が肩まで長く、色が緑であること、緑色系の鎧を身につけていること、物語序盤から主人公とともに登場し、兵種はルークナイトであり、コマンドナイトにクラスチェンジ可能であること、については、当事者間で争いがない。
 しかし、被告らは被告ゲームのアーキスが主人公に忠信的に仕える立場である点は否認しているところ、上記の両者の人物設定について、仮に被告らが否認する点も含めて両者が共通するとしても、上記のような人物設定自体はアイデアにすぎず表現それ自体ではない部分というべきであるし、上記の両者の容姿の影像について両者が共通するとしても、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。原告らの主張は、採用できない。
 また、「紋章の謎」の登場人物であるカインとアベルは、ともに主人公を支える騎士として物語序盤から登場し、ペアとして取り扱われる点が特徴的であり、また、一方が力に長じ、他方が素早さに長じた身体能力を有し、相補的な関係にあるものとして設定されている点も特徴的なものであることについては当事者間で争いがないところ、原告らは、被告ゲームの登場人物であるクライスとアーキスも、ともに主人公を支える騎士として物語序盤から登場し、ペアとして取り扱われる点が特徴的であり、また、一方が力に長じ、他方が素早さに長じた身体能力を有し、相補的な関係にあるものとして設定されているが、このように両者のペアとしての特徴点が一致することも、「紋章の謎」の「カインとアベル」と被告ゲームの「クライスとアーキス」の影像が酷似することを示すものであると主張する。
 しかし、被告らは被告ゲームの登場人物であるクライスとアーキスが、ともに主人公を支える騎士として物語序盤から登場し、ペアとして取り扱われる点が特徴的であり、また、一方が力に長じ、他方が素早さに長じた身体能力を有し、相補的な関係にあるものとして設定されているという点については否認しているところ、「紋章の謎」の「カインとアベル」と被告ゲームの「クライスとアーキス」の両者について仮に上記の点が共通するとしたとしても、このような両者の相互の関係自体は、具体的な表現を離れたアイデアであって、表現それ自体ではない部分というべきである。原告らの主張は、採用できない。
オ カチュアとサーシャ
 「紋章の謎」の登場人物であるカチュアと被告ゲームの登場人物であるサーシャの容姿の影像及びそのイラストは、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の9頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、瞳の色、着衣等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのサーシャをもって、「紋章の謎」のカチュアの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「紋章の謎」のカチュアの人物設定が「兵種はペガサスにのる飛行兵たるペガサスナイトであり、弓による攻撃に弱く、使用できる武器は槍である。」との人物設定になっているところ、被告ゲームのサーシャの人物設定も「ペガサスに乗る飛行兵たるペガサスナイトにクラスチェンジすることができ、ペガサスナイトは弓による攻撃に弱く、使用できる武器は剣と槍である。」という人物設定になっていると主張する(被告らは、サーシャの兵種がプリンセスであると指摘し、弓による攻撃に弱く、使用できる武器が剣と槍であることについては否認している。)が、このような抽象的な人物設定について仮に両者に共通点があったとしても、それらはいずれもアイデアにすぎず表現それ自体ではない部分というべきである。
 また、「紋章の謎」のカチュアの容姿の影像が、「顔は瞳が大きく、美しく優しい顔立ちであり、髪は青色で、肩までのセミロングであり、額に鉢巻をしている。全体の容姿は、鎧は肩当てと胸当てのみで、どちらも白色である。太ももの高さまであるロングブーツを履いている。また、長い手袋を身につけている。」というものであることは当事者間で争いがないところ、原告らは、被告ゲームのサーシャの容姿の影像も、「肘上まである白色の手袋をしている。」という点のほかは、「紋章の謎」のカチュアの容姿の影像と同一であり、両者は酷似すると主張する。しかし、このような両者の容姿の影像について両者が共通するとしても、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。また、原告らは、原告ゲームの各ゲームソフトに登場するペガサスナイトの女性キャラクターは似通った容姿になっているのが特徴であるところ、「トラキア」のミーシャと「紋章の謎」のカチュアは似通っているため、サーシャは、ミーシャとカチュアのいずれにも酷似していると主張するが、サーシャがカチュアの複製ないし翻案に当たらないことは、上記に説示したとおりである。
カ ペガサス三姉妹
 「紋章の謎」に登場するペガサス三姉妹(パオラ、カチュア、エスト)と被告ゲームに登場するペガサスに乗る3人の姉妹(ヴェーヌ、マーテル、フラウ)は、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の10頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、髪の色、顔の輪郭等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのペガサスに乗る3人の姉妹を創作した行為を、「紋章の謎」のペガサス三姉妹の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「紋章の謎」のペガサス三姉妹の人物設定が「原告ゲーム独特のペガサスナイトという兵種の三姉妹であり、羽の生えた白馬ペガサスに乗ることができ、三姉妹がそれぞれペガサスに乗り、一つの敵ユニットを囲んだ状態でそのうちの一人が攻撃をすると、『必殺』攻撃(トライアングルアタック)ができるという、特異な特徴を持つ登場人物である。三姉妹は青、緑、赤の3色の髪色に分けられていること、髪の毛の長さは長女はロングヘアー、次女はセミロング、三女はショートというように影像表現されていることも特徴的である。長女(パオラ)はペガサスナイトから、レベル10以上で、アイテム『飛竜のムチ』を使いドラゴンナイトにクラスチェンジ可能である。次女(カチュア)は、最初に自軍(主人公のいる軍)と接触し、ペガサスナイトから、レベル10以上で、アイテム『飛竜のムチ』を使いドラゴンナイトにクラスチェンジ可能である。三女(エスト)はペガサスナイトから、レベル10以上で、アイテム『飛竜のムチ』を使いドラゴンナイトにクラスチェンジ可能である。」というものであるところ(ペガサス三姉妹が原告ゲーム独特のものであること、髪色が『青、緑、赤』に分けられることを除き、当事者間で争いがない。)、被告ゲームのペガサスに乗る3人の姉妹(ヴェーヌ、マーテル、フラウ)の人物設定も、「ペガサス三姉妹」と名称を同じくするばかりでなく、ペガサスナイトという兵種の三姉妹であることを初め、上記の「紋章の謎」のペガサス三姉妹の人物設定と全く同一であると主張する(被告ゲームの3人の姉妹が「ペガサス三姉妹」という呼称であること、『必殺』攻撃ができることを除き、当事者間で争いがない。)。しかしながら、このような抽象的な人物設定について仮に両者に共通点があったとしても、三姉妹のそれぞれの対応する影像については、容貌、髪の色、顔の輪郭等の点において全く異なるというほかないのであるから、被告ゲームに登場するペガサスに乗る3人の姉妹(ヴェーヌ、マーテル、フラウ)が「紋章の謎」に登場するペガサス三姉妹(パオラ、カチュア、エスト)を複製ないし翻案したものということはできない。
キ ミネルバとレシエ
 「紋章の謎」の登場人物であるミネルバと被告ゲームの登場人物であるレシエの容姿の影像及びそのイラストは、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の11頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、髪の長さ、髪型、顔の輪郭、額の鉢巻の色及び形状等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのレシエを創作した行為を、「紋章の謎」のミネルバの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「紋章の謎」のミネルバの人物設定が「兵種はドラゴンナイトであり、使用できる武器は槍で、乗り物はドラゴンである。」というものであり、被告ゲームのレシエの人物設定も、「兵種はドラゴンナイトであり、使用できる武器は槍で、乗り物はドラゴンである。」というものであるから(これらの点については、当事者間で争いがない。)、両者は人物設定の点において同一であると主張するが、このような抽象的な人物設定自体はアイデアにすぎず、表現それ自体でない部分というべきである。
 また、原告らは、ミネルバの容姿の影像とイラストは、「瞳の色は髪と同じ赤色であり、額には鉢巻状の飾りをつけており、髪はおかっぱで髪の色は赤であり、中に着ている服の色も赤い。」という特徴を有し、レシエの容姿の影像とイラストも、「瞳の色は髪と同じ赤色であり、額には鉢巻状の飾りをつけており、髪はおかっぱで髪の色は赤色であり、中に着ている服の色も赤い。」という特徴を有している(これらの点は、当事者間で争いがない。)から、両者は容姿の影像及びイラストの点で同一であると主張するが、上記の容姿の影像等の点について両者が共通するとしても、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。原告らの主張は、採用できない。
ク リンダとメリエル
 「紋章の謎」の登場人物であるリンダと被告ゲームの登場人物であるメリエルの容姿の影像及びそのイラストは、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の11頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、髪の色、髪飾りの色及び形状、額のアクセサリーの色及び形状、衣装等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのメリエルをもって、「紋章の謎」のリンダの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、「紋章の謎」のリンダの人物設定が「大司祭の娘であり、『オーラ』という専用の光の魔法が使える。兵種は魔道士で、司祭にクラスチェンジ可能である。乗り物はない。」というものであり、被告ゲームのメリエルの人物設定も「大賢者の孫であり、『スターライト』、『オーレライン』という専用の光の魔法が使える。兵種は魔道士で、賢者にクラスチェンジ可能である。乗り物はない。」というものであるから(被告らが、メリエルが光の魔法でなく聖魔法を使えるとしている点を除き、当事者間で争いがない。)、両者は人物設定の点において酷似していると主張するが、このような抽象的な人物設定自体はアイデアにすぎず、表現それ自体でない部分というべきである。
 また、原告らは、リンダの容姿の影像とイラストは、「茶色の大きい目をしており、髪はとても長く、頭の上の方でポニーテールのように大きめの髪留めでくくっている。前髪は額の中央で分けられ、その分け目から宝石のような飾りのついたアクセサリーが見え、ノースリーブの衣装を着ている。」という特徴を有するところ、メリエルの容姿の影像とイラストも、同様の特徴を有している(これらの点は、当事者間で争いがない。)から、両者は容姿の影像及びイラストの点でも酷似すると主張するが、上記の容姿の影像等の点について両者が共通するとしても、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。原告らの主張は、採用できない。
ケ バーツ
 「紋章の謎」の登場人物であるバーツと被告ゲームの登場人物であるバーツの容姿の影像及びそのイラストは、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の12頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、髪の色、髪型、顔の輪郭、鉢巻の色等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのバーツをもって、「紋章の謎」のバーツの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者の名称が共通するほか、「紋章の謎」のバーツの人物設定が「斧使いの名手であることが特徴の戦士で、使用できる武器は斧であり、乗り物はない。」というものであるところ、被告ゲームのバーツの人物設定も同様である(当事者間で争いがない)から、両者は人物設定の点において同一であると主張するが、このような抽象的な人物設定自体(名称も含む)は、いまだアイデアの域を出るものではなく、表現それ自体でない部分というべきである。
 また、原告らは、「紋章の謎」のバーツの容姿の影像は、「額の上から鉢巻をしていて、前髪が鉢巻で上に持ち上げられている。」という特徴を有するところ、被告ゲームのバーツの容姿の影像も同様の特徴を有するから、両者は容姿の影像の点でも酷似すると主張するが、上記の容姿の影像等の点について両者が共通するとしても、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。原告らの主張は、採用できない。
コ ペガサス
 「紋章の謎」に登場する動物であるペガサスと被告ゲームに登場する動物であるペガサスの影像は、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば別紙対照表3の12頁記載のとおりと認められるところ、原告らは、「紋章の謎」のペガサスの影像が、「背中に大きな翼を有する白馬であって、全体が白色であり、頭部に仮面をつけている。大きな翼を曲げるようにして上下に大きくはばたかせて飛翔する。」というものであり、被告ゲームのペガサスも同様であると主張し、以上の点において共通することは、当事者間で争いがない。
 しかし、以上の共通点は、証拠(乙19、31、39)及び弁論の全趣旨から、ペガサスはギリシア神話の有翼の天馬として一般に知られており、「ヘラクレスの栄光」(昭和62年6月発売)、「ミッド・ガルツ」(平成元年12月ころ発売)、「フェリオス」(平成元年2月発売)、「テイルズオブファンタジア」(平成7年12月発売)といったゲームにおいても採用されているありふれたものと認められることからすると、表現上の創作性がない部分というべきである。したがって、被告ゲームが上記のような点において「紋章の謎」と共通点を有するとしても、「紋章の謎」の複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者の共通点として、ペガサスが、兵種がペガサスライダー又はペガサスナイトの女性騎士だけが乗って闘うことができる乗り物であることも挙げるが、具体的な表現を離れたアイデアないしゲームのルールにすぎず、表現それ自体でない部分というべきであるから、複製ないし翻案に当たらないという上記の認定を左右することはできない。なお、原告らは、ペガサスが原告ゲームの5作を特徴付けるキャラクターとなっていると主張するが、仮にそうであったとしても、それは「紋章の謎」のペガサスと被告ゲームのペガサスとの類否を判断する上で意味のない事項である。
サ トリスタンとロジャー
 「聖戦の系譜」の登場人物であるトリスタンと被告ゲームの登場人物であるロジャーの容姿の影像は、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の13頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、髪の色等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのロジャーをもって、「聖戦の系譜」のトリスタンの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者について「顔の輪郭は逆三角形をしている。鋭く細い目をしている。眉毛は長く直線に上向きにあがっている。髪は、少し上に上げてから下にたらすスタイルをしている。前髪は、額の中央で左右に分けられ、目に少しかかるくらいの長さである。」という点で共通する(当事者間で争いがない。)ことを指摘するが、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである。また、原告らは、「武器は剣で、乗り物は馬である。」という点が共通する(当事者間で争いがない。)ことも取り上げるが、このような抽象的な人物設定自体は、いまだアイデアの域を出るものではなく、表現それ自体でない部分というべきである。原告らの主張は、採用できない。
シ トラバンドとリチャード
 「聖戦の系譜」の登場人物であるトラバンドと被告ゲームの登場人物であるリチャードの容姿の影像は、証拠(甲311)及び弁論の全趣旨によれば、別紙対照表3の13頁記載のとおりと認められ、両者の容姿は、容貌、髪の色等の点において全く異なり、両者を同一人物ということはできないことは明らかであるから、被告ゲームのリチャードをもって、「聖戦の系譜」のトラバンドの複製ないし翻案に当たるということはできない。
 原告らは、両者について「顔は目が細長く、鼻が尖っている。髪は緑色の髪をしており、長さは肩よりもかなり長く、大きくうねる癖毛をしている。」という点で共通する(当事者間で争いがない。)ことを指摘するが、そのような共通点は、証拠(乙40、41)及び弁論の全趣旨によれば、少年・少女漫画やアニメーションないしゲームソフトの登場人物の影像に普通にみられるごくありふれたものであって、表現上の創作性がない部分というべきである(また、「聖戦の系譜」のトラバンドの人物設定は国王であるが、被告ゲームのリチャードの人物設定は王子であって、人物設定上も異なっているというべきである。)。
ス まとめ
 以上に認定したとおり、被告ゲームの影像を「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」の登場人物等の影像の複製ないし翻案ということはできない。
(6) まとめ
 以上によれば、被告ゲームは、「トラキア」の戦闘マップ部分を複製ないし翻案したものとも、「外伝」の全体マップ部分を複製ないし翻案したものとも、「トラキア」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」の登場人物等の影像を複製ないし翻案したものとも認めることができない。
 したがって、請求原因(9)は認められないから、請求原因(10)(依拠性の有無)等のその余の点について判断するまでもなく、著作権侵害を理由とする原告らの請求は、理由がない。
8 結論
 以上によれば、原告らの本訴請求は、不正競争防止法に基づく請求及び著作権に基づく請求のいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 和久田道雄
 裁判官 田中孝一

影像等目録
 下記のとおりの影像とその変化の態様


 目録1に例示するような、桝目により移動可能範囲を表現するトップビューによる戦闘マップ画面から、自軍を右側に位置せしめ且つ自軍であることを青色系の表示を用いることによって示し、敵軍を左側に位置せしめ且つ敵軍であることを赤色系の表示を用いることによって示す、サイドビューによる1対1のアニメーション切替戦闘画面に移行して戦闘を行い、敗者は影像が薄くなりつつ消滅する影像とその変化の態様。
 目録2に例示するような、主人公の亡国の少年王子の影像。
 目録3に例示するような、女性ユニットがペガサスに騎乗して登場するペガサスナイトの影像。
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