判例全文 line
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【事件名】「ウルトラマン」の著作権確認事件
【年月日】平成15年2月28日
 東京地裁 平成13年(ワ)第12140号 著作権確認等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成14年12月6日)

判決
原告 株式会社円谷プロダクション
訴訟代理人弁護士 又市義男
訴訟復代理人弁護士 南かおり
被告 A
訴訟代理人弁護士 山崎順一
同 三輪健志


主文
1 被告が日本において別紙第二目録記載の各著作物についての著作権を有しないことを確認する。
2 被告が日本以外の国において別紙第二目録記載の各著作物についての著作権を有しないことを確認する。
3 被告は、日本国内において第三者に対し、別紙第二目録記載の各著作物につき被告が日本国外における著作権者である旨を告げてはならず、また、別紙第二目録記載の各著作物に関して日本国外において原告と取引をすることは被告の著作権を侵害することになる旨を告げてはならない。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、金1000万円及びこれに対する平成10年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 主文第1項と同旨。
3 被告が日本以外の国において別紙第二目録記載の各著作物についての著作権及びその利用権を有しないことを確認する。
4 被告は、日本国内において第三者に対し、別紙第二目録記載の各著作物につき被告が日本国外における独占的利用権者又は著作権者である旨を告げてはならず、また、別紙第二目録記載の各著作物に関して日本国外において原告と取引をすることは被告の独占的利用権又は著作権を侵害することになる旨を告げてはならない。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 原告は劇場用映画及びテレビ用映画の制作供給等を業とする日本法人であり、被告はタイ王国において映画の制作等に従事するタイ王国人である。
(2) 原告は別紙第二目録記載の各著作物(以下「本件著作物」という。)を制作し、著作権を取得した。
(3) 別紙第一目録添付の契約書(乙4。以下「本件契約書」という。)には、円谷プロド・アンド・エンタープライズ・カンパニー・リミテッド(代表者・B)が、チャイヨ・フィルム・カンパニー・リミテッド(以下「チャイヨ社」という。)の社長である被告に対し、昭和51年(1976年)3月4日付けで、日本を除くすべての国において、期間の定めなく、独占的に本件著作物についての配給権、制作権、複製権等を許諾する旨の記載がある。
(4) 原告は、被告に対し、平成8年(1996年)7月23日付けの書面(乙2。以下「本件書簡」という。)を交付したが、本件書簡には「本状は、円谷エンタープライズ・カンパニー・リミテッド(代表者・B)が、チャイヨ社社長被告との間で昭和51年(1976年)3月4日に締結したライセンス許諾契約に従って、タイ王国を含む領域で、ホーム・ビデオを含むすべてのメディアにおいて、不特定の期間中、ウルトラマン・シリーズ及びジャンボーA・シリーズを含む特定の財産を市場に広める独占的権利をあなたが持っていることを明確にするものです。原告は、平成元年(1989年)9月にウルトラコム・インクと世界的販売及びライセンス代理店契約を締結した時、チャイヨ・フィルムに許諾されていた上記権利を除外しなかったことをここに言及します。それは全くの間違いによるもので、故意で行ったことではありません。(中略)更に、ウルトラコム・インクとタイ王国における特定のライセンシーらとの間で既に締結されている現行の契約をかかる契約が満了となるまで尊重し、タイ王国におけるかかるライセンシーら、ウルトラコム・インク、及び原告に対し請求を行わないというあなたのご親切なお言葉に感謝します。」との記載がある。
(5) 被告は、平成8年11月以降、台湾、マレーシア、香港、シンガポール、タイの各国における原告のライセンシー及びサブライセンシーに対し、原告との取引は本件契約書に記載されている被告の独占的利用権を侵害するものであり、よって上記ライセンシー等が原告との取引を中止しなければ、差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起する旨の文書を送付した。
 また、香港に所在するホルディンズ法律事務所は、平成9年4月、チャイヨ社の代理人として、株式会社バンダイ及び株式会社バンダイと合併交渉中であった株式会社セガ・エンタープライゼスに対し、「チャイヨ社は、本件著作物の著作権を有し、又は原告から独占的に利用を許諾されているから、株式会社バンダイの香港、シンガポール及びタイ王国における子会社が本件著作物を利用する行為は、チャイヨ社の権利を侵害する」旨の警告書(以下「本件警告書」という。)を送付し、そのころ、本件警告書は、日本における上記各社の事務所に到達した(甲1、2)。
(6) 被告は、タイ王国における本件著作物の著作権は被告にあると主張し、タイ王国における原告のライセンシー及びサブライセンシーに対して、被告の著作権侵害を理由に刑事告訴をし、民事訴訟を提起している。
2 本件は、原告が被告に対し、原告は本件著作物の著作権者であり、被告に対して著作権の譲渡又は利用許諾をしていないと主張して、@本件警告書が日本に送付されたことにより原告の業務が妨害されたことを理由とする不法行為又は不正競争防止法2条1項14号、4条に基づく損害賠償、A被告が日本において本件著作物についての著作権を有しないことの確認、B被告が日本以外の国において本件著作物についての著作権及び利用権を有しないことの確認、並びに、C被告が、日本国内において、第三者に対し、本件著作物につき被告が日本国外における著作権者又は独占的利用権者である旨を告げること及び本件著作物の著作権に関して日本国外において原告と取引をすることは被告の著作権又は独占的利用権を侵害することになる旨を告げることの不正競争防止法2条1項14号、3条に基づく差止めを請求する事案である。
3 本件の争点
(1) 被告は日本以外の地域において本件著作物につき著作権又は利用権を有するかどうか
ア 本件契約の成立及び効力の準拠法は日本国法であるかタイ王国法であるか
イ 本件契約書は真正に成立したものであるかどうか
ウ 本件書簡の意思表示によって、原告が本件契約書を承認し又は原被告間に本件書簡の内容どおりの和解契約が成立したかどうか。本件書簡の意思表示は、錯誤又は詐欺によるものであるかどうか。仮に錯誤に当たるとして、原告に重過失があるかどうか
(2) 不法行為及び不正競争行為の成否並びに損害の発生及び数額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)アについて
【被告の主張】
 我が国の国際私法においては、契約準拠法は当事者の意思が不明の場合は行為地法による(法例7条2項)とされているところ、本件契約書には明文による準拠法の指定がないので、まず当事者の合理的意思の解釈を要する。そして、@本件契約締結当時において対象財産権のうち最も直接的、現実的な権利はタイ王国における権利であったから、タイ王国法を選択するのが合理的であること、A本件契約において処分される権利の行使者はタイ王国人である被告であること、B本件契約の準拠法として日本法及びタイ王国以外の第三国法を選択すべき格別の合理的な理由も実益もないこと、C本件契約書上、その対象地域として日本国が除外されていることからすると、本件契約の準拠法はタイ王国法とすべきである。
【原告の主張】 
 本件契約書の作成者は、その権利の範囲を日本以外の全世界としており、タイ王国に限定するとの意思が窺われないし、被告は台湾、香港、シンガポール、マレーシア等における権利も現実に主張していることからすると、被告の主張は失当である。
 本件契約書は、被告の主張によると、Bが東京において被告の面前で署名し作成したというのであるから、本件契約の成立及び効力については、法例7条2項により行為地法である日本法が適用されるべきである。
(2) 争点(1)イについて
【原告の主張】
ア 本件契約書は、以下の理由から被告の偽造により作成されたものであり、真正に成立したものではない。
(ア) 本件契約書のBの英文のサインは同人のサインでない(甲3、4)。
(イ) 原告は、米国及びその他の諸国においてウルトラマン作品の再放送権の許諾を行い、テレビ放送されているし、被告は1991年ころのミラノ・マーケットにおいて、ウルトラマン作品が海外放映を目的として取引対象とされていることを自ら確認している。それにもかかわらず、被告は、Bが死亡した翌年の平成8年に至るまで本件契約書の存在について誰にも述べたことがない。また、被告は、タイ王国における第三者による権利侵害について、何らの権利行使をしていない。
(ウ) 本件契約書の本文中に当事者として記載されている「株式会社円谷プロド・アンド・エンタープライズ」という名前の会社は存在しない。また、本件契約書のような契約書の用紙としてレターヘッドが使われることはあり得ない。
(エ) 本件契約書の末尾には株式会社円谷エンタープライズ(以下「円谷エンタープライズ」という。)の名称を表示したゴム印が押印されているが、同社は本件著作物の著作権を有するものではない。また、原告は円谷エンタープライズに対してその作品の国内及び海外における再放送権を原告に代わって許諾する権限を与えていたが、それは「ウルトラマン」と「ウルトラQ」の2作品を除くものであり、これらの2作品については何らの権限も許諾されていなかったし、再放送権の許諾権限を与えられた場合でも、各作品ごとに放送地域、放送期間、放送の対価等を再放送の希望者と取り決め、原告に報告してその了解を得るという作業を行っていた。したがって、本件契約書のような形での再放送権の許諾は考えられない。
(オ) 本件契約書第1条に記載されているウルトラマン作品の名称及び制作本数に明らかな誤りが存在する。
(カ) 本件契約書の作成日とされている昭和51年当時、原告は既にその取引先である株式会社東京放送(以下「東京放送」という。)に対し、日本国外における本件著作物の利用許諾に関する独占権を許諾しており、東京放送は、その権利に基づいて他社に利用を許諾していたのであるから、それらと矛盾する本件契約書を作成するはずがない。
(キ) ウルトラマン作品についての著作権及びそれに基づく利用権は原告の唯一かつ最大の財産であり、その利用権を明確な対価もなしに被告に許諾することはあり得ない。
(ク) 東宝株式会社(以下「東宝」という。)は、昭和51年当時、原告の60%の株式を所有し、原告に対して常勤役員1名と従業員数名を継続して派遣しており、原告の取締役会と株主総会は東宝の会議室で開催され、原告の代表者印は東宝において常時保管されていた。したがって、東宝の承諾なしに本件契約書のような契約書を作成することはあり得ない。
イ 本件契約書の印影が円谷エンタープライズの印影であったとしても、それは、以下のような事情によるものである。
(ア) 原告は、昭和51年当時、円谷エンタープライズに対し、日本国内及 び海外での作品の再放送権の許諾権限を与えており、円谷エンタープラ イズは海外のテレビ局に対しても再放送権の許諾業務を行っていた。
(イ) 円谷エンタープライズが海外への再放送権を許諾した場合にはフィルムを輸出しなければならず、フィルムの通関手続が必要であったが、同社には複雑な通関手続を行える者がいなかったため、同社は専門の通関業者に対し、あらかじめレターヘッドの下部に円谷エンタープライズの社判と代表者印のみを押したブランクフォームを常時数枚預け、新たな契約ができるとすぐにそれを用いてインボイス等を作成できるようにしていた。
(ウ) 被告は、当時円谷エンタープライズの事務所に劇場用映画制作の打合せ等のために出入りしていたし、当時円谷エンタープライズは被告に対し、テレビ映画のジャンボーグエースのタイ王国における再放送権等を許諾したことがある。被告は、これらの機会に上記ブランクフォームを入手することは不可能ではなかった。
【被告の主張】
ア 本件契約書に記載された独占的利用権の設定は、Bが被告に対して負担していた経済的、倫理的債務を前提としてされたものであり、明確な対価関係が存在する。
(ア) 原告と被告が経営するタイ・ブリン・フィルム・カンパニー・リミテッド(以下「タイ・ブリン社」という。)とは、昭和48年(1973年)10月5日、映画制作契約を締結し、タイ・ブリン社が原告に委託して「ジャンボーA・アンド・ジャイアント」(以下「被告制作映画@」という。)を制作した。
(イ) 原告と被告が経営するチャイヨ社とは、昭和49年(1974年)9月3日、映画制作契約を締結し、チャイヨ社が原告に委託して「ホワイト・モンキーハヌマンとウルトラ6兄弟」(以下「被告制作映画A」という。)を制作した。
(ウ) 原告は、被告及びタイ・ブリン社に無断で、同年10月14日、台湾の映画会社であるフー・ロン・フィルム・カンパニー・リミテッドに対して3万米ドルで被告制作映画@をタイ王国及び日本以外の極東地域で販売、配給する権利を与える旨のライセンス契約を締結し、同額を受領した。
(エ) 原告は、被告に無断で、昭和50年(1975年)2月19日、香港の映画会社であるサザン・カンパニー・リミテッドに対して12万米ドルでタイ王国、台湾、日本等以外の一定の地域で被告制作映画Aの上映を許諾する旨のライセンス契約を締結し、同額を受領した。
(オ) 被告は、(ウ)(エ)の返還を猶予し続け、これ以外にも原告又はBに対し援助を行ってきたが、その後(ウ)(エ)の返還及びその余の援助に対する支払は不可能であるが、その代わりに自己のウルトラマンに関する一切の権利を整理し、日本と日本以外に分け、日本以外のすべての権利を被告に取得させる旨提案し、被告の子のC(以下「C」という。)の誕生日のプレゼントとして本件契約書を交わすこととした。
イ 本件契約書のBの署名は、同人が被告の面前において記入した真正な署名であり、円谷エンタープライズ社名ゴム印、代表取締役名ゴム印及び代表取締役印は真正なものであって、以下のとおり本件契約書は真正に成立した。
(ア) 円谷エンタープライズは少なくとも本件契約が締結された昭和51年ころ、円谷グループの1社として原告作品に基づく権利の各種許諾業務を分担していたし、Bは当時原告及び円谷エンタープライズ双方の代表者であったから、本件契約書文面の作成者が円谷エンタープライズの名前を記入したこと、Bが同社を原告と共に契約当事者とし、その社名ゴム印、代表取締役名ゴム印及び代表取締役印を押捺したことは何ら不自然ではない。
(イ) 本件契約書中の2箇所の「Tsuburaya prod. and Enterprise Co.、 Ltd.」の記載は、当初の文面に「Tsuburaya Enterprise Co.、 Ltd.」とのみ記載されていたところへ、Bが本件契約書の「先生」と呼ばれていた文面作成担当者に指示して「prod.and」を挿入したものである。これは本件契約書の該当する2箇所とも原告の英文社名全部をタイプするスペースがなかったことによる。
 本件契約書の英文表記は原告及び円谷エンタープライズの両者を示すものであり、誤りではない。
(ウ) 本件契約書の作品名表記は、シリーズ作品の特定として内容上の誤りはない。また、Bの人柄からして契約書類作成において過去のシリーズの細かい本数に頓着しなかったとしても不思議ではないし、本件契約書の文書作成は「先生」と呼ばれる人物が行っており、同人は原告又は円谷エンタープライズの従業員ではないから、シリーズ作品の本数や表記の違いは本件契約書が真正に成立したことを左右しない。
(エ) Bは、被告らに対し、本件契約締結の際の会合の中で@署名は原告を代表して行うこと、A社印は円谷エンタープライズの代表者として押捺すること、B署名がなく、印影しかない場合、契約書が海外で信用されないおそれがあること、C社長であるB自身が署名すれば、原告及び円谷エンタープライズとの関係でも問題がないこと、D「Article3.2」は既存のウルトラマンキャラクターを使って映画を制作する権利であるのに対し、「Article3.3」は本件契約締結後新たに制作されたウルトラマンのキャラクターを使用して映画を制作する権利であること等について説明した。
(オ) 東宝が原告の株式を保有していたとしても、本件契約締結当時、原告や円谷エンタープライズの経営は困難な状況にあり、Bは原告から多額の債務の返済を強く要求されており、そのような状況下で東宝に対する配慮を無視してでも本件契約書を作成して事を収めようとしたことは十分にあり得る。
ウ 原告は、フィルム輸出時に通関手続を業者に代行させる必要上、円谷エンタープライズのレターヘッドが印刷され、末尾に円谷エンタープライズの記名印と社印が押捺された、内容ブランクの用紙をインボイス用として複数枚準備していたと主張するが、昭和49年(1974年)に円谷エンタープライズが被告に宛てて発行したインボイス(乙11)には「INVOICE」の表題や必要事項の欄があらかじめ印刷された定型用紙に、発送品明細等の必要事項を記入する方式が採られているし、これにはレターヘッド付きの用紙は使用されておらず、また、上記主張は、本件訴訟で初めてされたもので信用できない。 
(3) 争点(1)ウについて
【被告の主張】
ア 被告は、平成7年にビデオ・スクエア・カンパニー・リミテッドがタイ王国内においてウルトラマン及びジャンボーグ・エースのビデオカセットを複製、販売していることを発見し、同社がアメリカ合衆国所在の原告の子会社であるウルトラコム・インク(以下「ウルトラコム」という。)から上記作品に関する権利の許諾を受けた旨主張していることが判明した。被告は、平成8年5月20日、原告の渉外部門の責任者であったD(以下「D」という。)と面談し、同人は原告及びウルトラコム連名の陳謝文を作成するので訴訟を思いとどまるよう要請し、Eも陳謝状を作成する意向を示した。
 以上の経緯から本件書簡が平成8年7月23日に作成されたものであり、原告が真意かつ自発的な意思に基づいて署名したものである。本件書簡において、原告は被告に対し本件契約書を承認し、又は、被告との間で、その旨の内容を含む和解契約を締結したものというべきである。
イ 原告は、本件契約書の成立の真正に関してほとんど調査することなく、本件契約書が真正に成立したものと漫然と信じて本件書簡を作成したから、仮に原告の本件書簡における意思表示が錯誤によるものであるとしても、重大な過失がある。
【原告の主張】
ア 本件書簡は、被告がタイ王国を含む周辺5か国の代理店となれれば本件書簡の内容は不問にするとの申し出を原告が受け入れ、その申し出の内容を前提として被告の信用を回復するという目的で作成されたものである。しかるに、被告はこの前提条件を否定し、その実現があり得ないことになったのであるから、原告が本件書簡の内容に拘束されるものではない。
イ 本件書簡は、本件契約書が原告によって作成され原告を拘束するものであるとの被告の主張が真実であることを条件として作成されたものである。しかるに、本件契約書は原告が作成したものではなく、原告を拘束するものではないという事実が明らかとなった以上、本件書簡作成の前提条件が消滅したのであるから、原告は本件書簡の内容に拘束されることはない。
ウ 原告は、本件契約書が原告によって作成され原告を拘束するものであるとの被告の主張が真実であると信じて本件書簡を作成したものであるが、被告の上記主張が虚偽であることが判明した以上、本件書簡における意思表示には要素の錯誤があることになり、本件書簡における原告の意思表示は無効である。
エ 本件書簡における原告の意思表示は、本件契約書が原告によって作成され原告を拘束するものであるとの被告の虚偽の説明によって行われたものであるから、被告の詐欺によって行われた意思表示であり、原告は平成9年(1997年)2月11日にこの意思表示を取り消した。
(4) 争点(2)について
【原告の主張】
 本件契約書が偽造である以上、本件契約は効力がなく、このような契約を有効であるとして本件警告状を日本における原告の取引先に送付する行為は、民法709条の不法行為に当たる。また、被告のこのような行為は、不正競争防止法2条1項14号に該当する行為でもある。
 原告は被告の上記行為により、日本において多大な業務上の損害を被っており、本件訴訟における弁護士費用も含めてその損害額は1000万円を下らない。
【被告の主張】
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 事実経過
 上記争いのない事実等並びに証拠(甲6、10、12ないし14、16、22ないし24、乙2、4ないし10、乙12の1ないし9、乙13の1ないし5、乙19ないし22、25、27ないし30、33ないし36、38、44ないし46、49ないし52、59、69ないし72、74、81ないし89、90、99ないし102、104、113、115、121、132、133、135、138、147ないし150、検乙5、証人F、同D、同C、被告本人)と弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(1) 本件契約書に関する経緯
ア 被告は、昭和37年(1962年)ころに来日し、東宝の撮影所で2年間映画の特撮、現像等の勉強をし、そのころGと知り合い、以後、Gの子のBやその子のEとは、Eが被告の自宅に遊びに行ったり、被告がBの自宅に泊まったりする等の家族的で親しいつき合いをするようになった。
イ Gは、昭和45年(1970年)1月に死亡した。同人の事業は、子のBに承継され、Bが原告及び円谷エンタープライズの代表取締役になったが、これらの会社の経営は苦しかった。
 原告と被告が経営するタイ・ブリン社は、昭和48年(1973年)11月26日、映画制作契約を締結し、同社は原告に被告制作映画@の制作を発注し、同社は原告に対し、制作費として少なくとも1万5000米ドルを支払った。原告は、同映画を制作した。
ウ 原告と被告が経営するチャイヨ社は、昭和49年(1974年)9月3日、映画制作契約を締結し、同社は原告に被告制作映画Aの制作を発注し、同社は原告に対し、制作費として9万米ドルを支払った。原告は、同映画を制作した。
エ Bは、同年10月14日、台湾の映画会社であるフー・ロン・フィルム・カンパニー・リミテッドとの間で、被告制作映画@をタイ王国及び日本以外の極東地域で独占的に販売する権利を無期限に与える旨の契約を締結し、同社から3万米ドルを受領した。タイ・ブリン社は、同契約の締結を事後的に承諾した。
オ Bは、チャイヨ社から権限を与えられて、昭和50年(1975年)2月19日、香港の映画会社であるサザン・カンパニー・リミテッドに対し、タイ王国、台湾、日本等以外の極東及び中東の地域において被告制作映画Aを上映する独占的な権利を与える旨の契約を締結し、同社から12万米ドルを受領した。
カ 被告はその知人のHと共に昭和51年(1976年)3月2日に来日し、Bに対して上記フィルムの売却代金の支払を求めた。これに対し、Bは、金員の返済は不可能だが、代わりに海外におけるウルトラマンの権利を被告に与えることを提案した。
 なお、当時は、怪獣ブームが終わった上、景気が悪く、原告は、多額の負債を抱えていた。
キ 本件契約書は、同年3月4日付けのものであるが、同日はCの誕生日であった。
ク 被告は、昭和59年(1984年)ころ、原告から「ウルトラマンZOFFY」のフィルムの提供を受けて「ハヌマン・アンド・ザ・イレブン・ウルトラメン」を制作した。被告は、そのころ、上記フィルムの配給をポー・ウォー・フィルム・カンパニーに許諾するに当たり、同人に対して本件契約書を提示した。この時、C(当時13歳)も本件契約書を見ている。
ケ 被告とCは、平成2年(1990年)にミラノ・マーケット(映画のフィルムを国際的に売買し合うマーケット)に行き、そこで、昭和51年まで円谷エンタープライズに勤めていたF(以下「F」という。)と会った。
コ 原告は、同年10月、Bが同年にアメリカ合衆国において設立したウルトラコムとの間で、ウルトラマン作品のテレビ及び劇場映画のすべてについて日本以外の全世界での配給代理店契約を締結した。
(2) 本件書簡に関する経緯
ア Bは、平成7年(1995年)に死亡し、同人の葬儀には被告も参列した。
イ 被告は、同年、ビデオ・スクエア・カンパニー・リミテッド(以下「ビデオ・スクエア社」という。)がタイ王国内でウルトラマン及びジャンボーグ・エースのビデオカセットを複製、販売していることを知り、その後の調査で同社がウルトラコムから上記作品に関する権利許諾を受けた旨主張していることがわかった。そこで、被告は、同年12月11日、弁護士を通じてウルトラコムの代理人のIに宛ててタイ王国での面談を求める書簡を送ったが、ウルトラコムからの返答がなかったので、平成8年(1996年)5月9日、書簡により10日以内に返信がない場合は2400万米ドルの損害賠償等を求める訴訟をアメリカ合衆国で提起することを通告した。
 これに対し、Iは、同月16日、ウルトラコムが原告の全世界における頒布代理店であること、被告に頒布権があることの証拠をまだ受け取っていない旨の返答をした。
ウ そこで、被告とCは、同月19日(日曜日)、ウルトラコムに対する訴訟提起を準備するためにアメリカ合衆国に向けてタイ王国を出発し、途中日本に立ち寄り、東京在住の被告の旧友の下に滞在した。
エ 被告とCは、翌20日の午後、原告の会議室においてDと面談した。Dは、被告に対し権利主張の根拠となっている証拠書類を見せてほしいと述べたので、被告らは原告に対し、本件契約書の写しを提示し、被告は本件契約書の記載どおり原告から日本国以外のすべての国における本件著作物の著作権について独占的利用権を取得していると述べた。また、被告は、タイ王国でウルトラマンのビデオカセットを販売しようとしたら、それらの作品の許諾権限はウルトラコムが有しており、被告にはないと言われ、それによりタイ王国における被告の名誉が傷つけられたので、ウルトラコムと訴訟をするつもりでいるが、代わりに原告がタイ王国における被告の名誉を回復すれば思いとどまると述べた。この際、Dは本件契約書のコピーをもらいたいと申し出たが、被告らはこれを拒絶した。
 Dは被告らとの会談後、原告代表者のEに会談内容を報告し、ウルトラコムに対しファックスを送信し、被告らと面談したこと、本件契約書を見せられたがそのコピーは入手できなかったこと、本件契約書の内容につきメモを取ったこと等を報告した。
オ Dは、翌21日にキャピトル東急ホテルで被告らと昼食を共にし、同日ころ、被告らは、原告の会議室でEとも面談した。そして、原告が被告らに対し、ウルトラコムの代表者であるJ(以下「J」という。)と連名で被告の名誉を回復するための書面を交付することや新たな契約を締結することが話し合われ、被告らは、同月27日、アメリカ合衆国に行くことを止め、タイ王国に帰国した。
カ Dは、翌28日、Jに対しファックスを送信し、極秘として以下のとおり述べている。
 「被告とCは、(ウルトラコムとビデオ・スクエア社に対する訴訟提起のために米国に行く代わりに)昨日日本からバンコクに発ちました。彼らとBとの間の1970年代初頭の契約に関して原告が有していたすべての誤解は、十分かつ友好裡に議論され口頭で解決されました。彼らの東京滞在中にEの指示により、私は彼らに対して、当事者間の従前のすべての契約に代わる新しい『修正契約書』を作成すること及びチャイヨ・シティ・スタジオがタイ及び(その周辺数カ国)において原告の特定の作品について原告から許諾された最初の権利保持者であることを承認するウルトラコムと原告からの手紙を作成することを約束しました。同時に、私はチャイヨ・シティ・スタジオから、原告又はウルトラコムあるいはそれら両社宛で、チャイヨ・シティ・スタジオがウルトラコムとビデオ・スクエア間の現存の契約を尊重することを述べた正式な手紙を取得する必要があります。また、チャイヨ・シティ・スタジオとの上記の新しい『修正契約書』の締結に関して、私たちはもうひとつの事項を考慮する必要があります。被告は、円谷家との30年以上の個人的関係から、この契約書をウルトラコムとではなく原告と締結することを望んでいます。Eは、原告の社長及びウルトラコムの会長として、その要請を尊重しそのようなゴールに向けて貴殿と協力するよう、私に依頼しました。私は、もしこの手続がとられた場合には、それはウルトラコムの収入に影響を与えるものであろうことを知っております。私は、この問題を最も友好的に解決するために、貴殿の意見及び代替的な提案をいただきたく思っております。」。
キ Cは、同年6月3日、Dに対しファックスを送信し、被告の評価、評判の回復を引き続き図れるように原告とウルトラコムの書簡を送付するよう要請した。
ク Dは、翌4日、Cに対し、ファックスを送信し、被告のタイ王国における名誉の回復のために次の3種類の書類を取り交わすことを述べた。
(ア) 原告とウルトラコムは、ビデオ・スクエア社に対する情報のコピーと共にチャイヨ・シティ・スタジオに対し、被告宛の共同書簡を送付し、被告がタイ王国(東京の会合で話し合ったように、他のいくつかの国も述べる)の地域における一定の作品(原告のプログラム等)の権利保有者であることを確認する。
(イ) 東京の会合での話し合いにしたがい、原告とチャイヨ・シティ・スタジオとの間の変更後の新しい契約を作成する。
(ウ) チャイヨ・シティ・スタジオは、原告・ウルトラコムの書簡の受取状を原告・ウルトラコムに送付し、さらに、チャイヨ・シティ・スタジオがウルトラコムとタイ及びアジアの他の諸国におけるライセンシー(ビデオ・スクエア社を含む。)との間の既存の契約を尊重することに同意することを述べる。
ケ Cは、翌5日、Dに対しファックスを送信し、ウルトラコムのすべてのライセンシーの正確な記録を保有できるためにはすべての契約書の写しが必要であると述べた。
コ Dは、同月10日、Cに対しファックスを送信し、上記ク(イ)の契約に反映させるために本件契約書の写しが必要であること、ウルトラコムに対してタイ、ビルマ、ベトナム、ラオス及びカンボジアにおけるライセンシーとの既存の契約書の写しを提供するように依頼するつもりでいることを述べた。そこで、CはDに対し本件契約書の写しを郵送し、同月24日に原告は受領した。
サ Dは、同年7月2日、Cに対しファックスを送信し、@ウルトラコムのJと共に被告宛の共同書簡を作成し、JとEの署名をもらうつもりであること、A本件契約書に明示された条件のほとんどを尊重したチャイヨ・シティ・スタジオと原告との間の変更後の新しいレター形式の契約書の草案を作成するので御意見をお願いしたい、と述べた。同ファックス送信において、Dは、下記シのアメリカ合衆国行きを「緊急の仕事」であるとしている。
シ Dは、同月8日にホノルルに行き、ウルトラコムの株主の1人であるKにウルトラコムを閉鎖することの了解を得て、翌9日にロサンゼルスで、Jに会い、ウルトラコムを同年8月15日をもって閉鎖することを伝えた。この際、Jは本件書簡にサインすることを拒否した。なお、ウルトラコムは、予定どおり同年8月15日に解散した。
ス 被告は、7月14日来日し、Dと会談した。Dは、Jが自身には非がないと言ってサインを拒んでいるのでE単独名義での書簡しか交付できないと述べた。
セ Eは、同年7月23日、原告の代表取締役として本件書簡に署名した。本件書簡は、原告が同月31日に東京法務局所属公証人の認証を受けてCに交付し、被告の側が同年8月5日にタイ大使館で本件書簡は公証人が真正であることを証明している旨の認証を受けた。
 本件書簡の作成に当たって、Dは原告の役員に交渉経過を説明し、役員会も本件書簡の作成を了解した。
ソ Dは、翌24日、Jに対してファックスを送信し、「最後のパラグラフと最後にある被告の署名でおわかりのように、ウルトラコムの顧客、ウルトラコム並びに原告は充分に保護されていると思います。私どもでは、1996年8月15日以降に原告とチャイヨとの間で締結される予定の『変更後の配給代理店契約ないしライセンス代理店契約』の締結作業を進めています。彼には限定した作品、限定した地域(タイを含む5か国)そして極めて重要なこととして、限定した期間(恐らく延長及び/又は更新の選択肢を伴う5年間)を付与するつもりです。」と述べている。
タ Cは、同年7月30日、Dに対してファックスを送信し、収益の見通し予測のために原告の作品について情報を送るよう要請した。
チ Cは、同年8月26日、Dに対してファックスを送信し、「台湾では、ウルトラコムがJによって、リトル・ジャイアント・カルチャー・エンタープライズを含む独占的ライセンス代理店を指名したようです。私どもの知る限りでは、ウルトラコムは私どもに、彼らが台湾または中華民国に対する権利を保有していない旨、知らせておりました。そうすることによって、タイ市場は、それらの国からの標準以下の品質の商品で占領されてしまいます。また、「共同書簡」は、業界が法律上正当なライセンサーと考えるJの署名がないために、被告の評価あるいは信用の回復にほとんど役立っていません。一番困っていることは、マレーシアの会社が、過去においてタイにおけるすべてのメディアに係る権利を許諾されていたことで、このことは貴殿から一切知らされていないことでした。」と述べている。
ツ Cは、同月30日、Dに対しファックスを送信し、できるだけ早急に収益の見通し予測を送信できるように準備を進めていること、原告の作品についてさらに情報が必要であることを述べた。他方、原告からは被告に対し、タイ王国における同年5月31日現在のアクティブ・ライセンシー・リストが送付された。
テ Cは、同年8月末ころ来日し、Dと会談した。その際、DはCに対し、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、ビルマの5か国についてウルトラマン作品についての独占的代理権を被告側に与えるという内容の契約の提案をしたが、Cはこれを拒否した。
ト 原告は、同年9月1日、株式会社バンダイとの間でライセンス契約を締結し、タイを含む東南アジア9か国を対象にウルトラマン作品の商品化権を与えた。
ナ 被告は、同年10月、香港のホルディンズ法律事務所のL弁護士(以下「L弁護士」という。)に依頼して、リトル・ジャイアント・カルチャー・エンタープライズ社、キャラクター・マーチャンダイジング社及びジュイタ・バイデン社の3社に対して警告書を発送した。
ニ Dは、同年10月末にタイで被告らと会談した。この際、被告はDに対し合弁会社設立を内容とする契約書案を提示した。
ヌ 原告の代理人のM弁護士は、同年11月19日、L弁護士に宛てて上記5か国を対象としてウルトラマン作品につきライセンスする旨の契約書の案をファックスで送信した。
 これに対し、被告はL弁護士を通じて、同月22日、上記提案を拒絶すると共に、2通りの対案を記載した書簡をM弁護士にファックスで送信した。これに対し、同弁護士は、L弁護士に対し本件契約の有効性を争う旨の書簡をファックスで送信した。
ネ Dらは、同年12月9日、タイ王国で被告らと会談し、被告らは合弁会社の設立を内容とする契約書案を提示し、これに対し、Dらは再度5か国を対象とするライセンス契約の締結を提案し、交渉は決裂した。
ノ 被告は、原告から、同年7月から11月にかけて、ウルトラマン作品のMEテープ(Music and Effect Tapeの略で、フィルムの現地語版を作成する場合に必要となるもの)やスチール写真のポジフィルムなどの供給を受けている。
(3) タイ訴訟等
ア 原告は、本訴提起後の平成9年(1997年)12月、タイ王国の裁判所に、被告外3名を相手方として、被告は本件著作物についてタイ王国における著作権を有しておらず、原告から利用の許諾も得ていない、本件契約書は被告が偽造したものであるなどと主張して、本件著作物についてタイ王国における被告外3名の著作権侵害行為の差止め等を求める訴えを提起し、同訴訟は、刑事事件及び刑事に関連する民事事件として一審の知的財産・国際取引裁判所に係属していたが、同裁判所は平成12年(2000年)4月4日、刑事及び民事両事件についての告訴及び請求を却下する旨の判決をし、タイ王国最高裁判所の知的財産・国際取引事件部に係属している(以下「タイ訴訟」という。)。
イ 被告は、平成13年に「ウルトラマン・ミレニアム・ライブショー・イン・バンコク」と題するライブショーを行った。
2 争点(1)アについて
 本件契約は、後記認定のとおり、日本において、日本法人である原告とタイ王国人である被告との間で締結されたものであるところ、本件契約書には準拠法についての規定がないこと、本件契約の対象は日本以外の地域の本件著作物であり、タイ王国のそれに限るものではないことからすると、上記当事者の意思が明らかとはいえないから、法例7条2項により、本件契約の成立及び効力の準拠法は行為地法である日本法であると認められる。
3 争点(1)イについて
(1) 被告は、本件契約書が作成された時の状況につき、次のとおり記載及び供述している(乙10、被告本人)。
 「被告は、昭和51年3月2日に原告の事務所で、Bに対し同人が被告に無断でフィルムを売却したことによって得た金員を返済するよう求めたところ、同人は『借金は返せないけれども、その代わりに海外でのウルトラマンの権利をあげる。』と提案したので、被告はこれを承諾した。翌3日午後4時ころ、円谷エンタープライズの事務所で上記提案につき話し合った。この時の出席者はB、同人が『先生』と呼んでいた人物、被告、チャイヨ・フィルムのパートナーであるHの4名だった。『先生』はBより年上で、眼鏡をかけないで目がちょっとでっぱ目で英語が堪能な人物だった。Bは、既に本件契約書の草稿を用意しており、その草稿にはタイプされたものと手書きのものとがあり、文章は英文で書かれていた。この際、被告は契約書中『HANUMAN』とされるべきところが 『HARUMAN』となっていることに気付き、Bに指摘したが、同人は『同じ映画だとわかるから大丈夫。』と言って取り合ってくれなかった。翌4日、午後4時ころ、上記4人が円谷エンタープライズの事務所に集まった。Bは、サインに当たり『この契約書は、Cへの誕生日プレゼントだ。』と言っていた。また、サインの直前になって、『先生』に対し、『この契約書には円谷エンタープライズしか記載されておらず、原告が抜け落ちてしまっている。』と指摘して、契約書を手直しするように伝えた。手直しの方法は便宜上、全文を打ち直す代わりに、契約書を修正し、スペースが許す限りで『prod. and』という語を挿入すると言う方法を取った。『先生』はこの作業に5分から10分ほどかかった。その後、Bは、被告の面前でサインをすると共に、テーブルの上に置かれていた丸い判子と四角い判子を本件契約書に押した。同人は、本件契約書の作成に当たり、サインは原告を代表して行うものであること、判子は円谷エンタープライズの代表者として行うものであること、判子だけだと契約書が海外で信用されない恐れがあることなどを説明し、『私は円谷エンタープライズと原告の両者の社長なのだから、私がサインをすれば心配ない。』と言っていた。」
(2) 上記(1)の内容について検討すると、被告の記載及び供述は全体的に詳細であり、殊に、本件契約書中に被告の作品が「HARUMAN」とされていたことに対して被告が抗議したことや「prod. and」の語が挿入された経緯について具体的に述べており、その内容自体も特に不自然、不合理なところはない。また、上記1で認定した事実によると、当時被告はBと親しい間柄にあったこと、Bは被告制作映画@、Aについて権利を許諾し、その代金を被告に交付していなかったこと、原告は当時多額の負債を有し、Bは上記代金を返済できない状況にあったことが認められ、かかる事実からすると、本件契約を締結する動機があったものといえる(なお、この点について、原告は、上記映画の代金について借用書等の書面が作成されていないのは不自然である旨主張するが、当時の被告とBの関係を考えれば、借用書等がなくても不自然ではない。)。
(3) 証拠(甲7、乙4、9、検乙1、2)と弁論の全趣旨によると、本件契約書の円谷エンタープライズの代表取締役印の印影と円谷エンタープライズにおいて昭和51年当時印鑑登録の上使用されていた代表取締役印の印影とが一致するので、本件契約書の円谷エンタープライズの代表取締役印は、円谷エンタープライズの真正な印章によるものと認められる。この点について、原告は、円谷エンタープライズが海外への再放送権を許諾した場合にはフィルムを輸出しなければならず、フィルムの通関手続が必要であったが、同社は専門の通関業者に対し、あらかじめレターヘッドの下部に円谷エンタープライズの社判と代表者印のみを押したブランクフォームを常時数枚預け、新たな契約ができるとすぐにそれを用いてインボイス等を作成できるようにしていたし、また、被告は、当時円谷エンタープライズの事務所に劇場用映画制作の打合せ等のために出入りしており、当時円谷エンタープライズは被告に対し、テレビ映画のタイ王国における再放送権等を許諾したことがあるから、被告が上記ブランクフォームを入手することは不可能ではなかったと主張する。しかし、昭和51年当時上記原告が主張するようなインボイスが用いられていたとしても、証拠(乙106、107、証人F)によると、昭和51年当時円谷エンタープライズが発行したインボイスには、上記原告が主張するものとは異なる様式のものがあったことが認められるから、果たして上記原告が主張するようなインボイスがどの程度用いられていたか疑問である上、それを被告が入手したことを認めるに足りる証拠もない(円谷エンタープライズが被告に対しテレビ映画のタイ王国における再放送権等を許諾したことがあったとしても、そのインボイスが上記原告主張のようなものであったことを認めるに足りる証拠はない。)。本件契約書には、印鑑登録された代表取締役印が押されているのであるから、そのような書類については、厳格に管理するのが通常であって(現に、証拠(甲11、証人F)によると、円谷エンタープライズにおいては、この代表取締役印をかぎのかかる金庫に保管していたことが認められる。)、それを入手して目的外に利用することは一般に困難であると考えられる。
 したがって、本件契約書に真正な円谷エンタープライズの代表取締役印が押されていることは、上記(1)認定の被告の供述の信憑性を強く推認させるものということができる。
(4) 原告の本件契約書に関する主張の検討
ア 原告は、本件契約書にある「B」の欧文字の署名はB本人の筆跡と異なると主張する。
 筆跡鑑定書(甲3、4)には、本件契約書の「B」の欧文字の署名は、Bの他の書類における筆跡とは相違し、別人の筆跡である旨の記載がある。
 しかし、@鑑定資料はフォトコピーを使用しており、筆順、筆圧等を含む筆跡の質的要素を必ずしも正確に検査することはできないこと、A対照資料相互間もそれぞれ外観上必ずしも一致するものではないし、それぞれの書写条件も不明であること、B本件契約書の署名と外観上類似する契約書(乙5)のBの署名が存するところ、この契約書は、前記1(1)イ認定の被告制作映画@の制作に関する契約書であること(原告は、甲10が同契約の契約書であると主張するが、被告は、本人尋問において、同契約については、税金対策のため、金額が異なる2通の契約書が存在すると供述している上、他にも前記1(1)オ認定の被告制作映画Aに関するライセンス契約については、ロイヤリティーの金額が異なる複数の契約書が存すると認められる(乙8と乙121)から、1つの契約について金額の異なる複数の契約書が存するとしても不自然ではない。)、C証拠(甲12)によると、検乙4(検乙7)の欧文字のBの署名の上の漢字のBの署名は、同人がふざけて署名するときの署名のやり方であると認められるところ、このように特徴的な署名を偽造することは考え難いから、検乙4(検乙7)はBの署名であると認められるが、検乙4(検乙7)の欧文字のBの署名は、本件契約書の署名と外観上類似し、他にも同様の署名(検乙3、6)が存すること、D外観上鑑定資料と対照資料とは字体が異なる箇所が少なからず存するものの、類似するところも見られることからすると、上記鑑定書の鑑定結果のみで直ちに上記署名がBの筆跡ではないと断ずることはできない。
 また、タイ訴訟における筆跡鑑定人の回答内容(甲8、28)も、文字の一般的特徴を対比し、本件契約書の署名と対照資料との類似点は全くないと述べているにとどまり、これもまた本件契約書の署名の偽造を裏付けるものとはいえない。
イ 原告は、「株式会社円谷プロド・アンド・エンタープライズ」の表記につき、このような会社は実在していないと主張する。
 しかし、上記認定のとおり、「円谷プロド」の部分はBが気づいて後に挿入したものであり、その説明に不自然な点はないし、証拠(乙6 1、103)によると、原告も自らの略称として「Tsubura Prod.」ないし「TSUBURAYA PROD.」の名称を使用していることが認められる。そうすると、上記表記は、原告と円谷エンタープライズの両方を指すものというべきである。
 また、原告は、円谷エンタープライズは本件著作物の著作権を有するものではないし、本件契約書のような形で再放送権を許諾することはないと主張する。しかし、証拠(甲11、12、14)によると、円谷エンタープライズは、原告から委託を受けて、原告のテレビ映画について再放送権の許諾をすることを業務としており、後記のとおり他社に許諾権限を与えていた「ウルトラQ」と「ウルトラマン」を除いては、本件著作物について再放送権の許諾を行っていたことが認められるから、本件著作物の権利の許諾に無関係ではなく、また、証拠(乙12の5)と弁論の全趣旨によると、原告と円谷エンタープライズは、共にBが代表者を務めており、両者の業務は必ずしも截然と区別されていなかったものと認められる(この例は、後記エ認定の事実にも見られる。)から、円谷エンタープライズが当事者になっていることが直ちに不自然であるとはいえない。
ウ 原告は、本件契約書中の本件著作物の作品名及び制作本数が誤っており、原告の代表者であるBがこのような誤りをすることは考えられないと主張する。
 しかし、弁論の全趣旨によると、上記のうち制作本数の誤りは、3作品について各1本にすぎず、おおむね正確であると認められる。また、「ULTRAMAN1“ULTRA Q”」、「ULTRAMAN2」という表記は、弁論の全趣旨によると、「ULTRA Q」、「ULTRAMAN」という作品しか存しないことが認められるから、正確でないが、証拠(乙145)によると、「ULTRAMAN」は、「ULTRA Q」シリーズの第2作と位置づけられるものであると認められるから、これらの表記は、全くの誤りとまでいうことはできない。さらに、弁論の全趣旨によると、「ULTRAMAN SEVEN」という表記は、正確でないものと認められるが、弁論の全趣旨によると、「ULTRA SEVEN」は、「ULTRAMAN」シリーズの1作品であると認められるから、全く誤りであるということはできないし、弁論の全趣旨によると、「RETURN URTRAMAN」という表記は、「OF」が抜けたのみであることが認められる。他に本件契約書の作品名に誤りがあるとは認められない。そうすると、本件契約書中の本件著作物の作品名及び制作本数には、不正確な点があるものの、おおむね正確に記載されており、むしろ、そのことは、本件契約書が真正に成立したことを裏付けているというべきである。
 また、本件契約書中「HANUMAN」とされるべきところが「HARUMAN」となっていることについては、上記認定のとおりである。この点、原告は甲16ないし18(乙135ないし137)の書簡においてCやL弁護士が「HARUMAN」の語を使用していることを指摘しているが、これらは被告自身に関する事実ではないから、直ちに上記認定を覆すに足りるものではない。
エ 原告は、本件契約書のような契約書の用紙としてレターヘッドが使われることはあり得ないと主張する。
 しかし、証拠(甲3、11)によると、円谷エンタープライズにおいては、レターヘッド用紙を使用して契約書を作成することがあったこと、円谷エンタープライズのレターヘッドを使用して、原告の文書が作成されることがあったこと、以上の事実が認められるから、円谷エンタープライズのレターヘッド用紙が使われている点は特に不自然ではない。
オ 原告は、被告が本件契約書作成後20年以上も本件契約書に基づく権利行使をしなかったのは不自然であると主張する。
 しかし、前記1で認定した事実によると、被告は、Bが生存中の昭和59年(1984年)ころ、「ウルトラマンZOFFY」のフィルムの配給をポー・ウォー・フィルム・カンパニーに許諾するに当たり、本件契約書を提示したことが認められるし、証拠(証人C)によると、それ以外に、被告は、タイ王国においてウルトラマンに関するおもちゃや本を販売していたものと認められるから、権利行使していなかったとは認められない。証拠(証人C)によると、タイ王国においては、被告以外にも、ウルトラマンに関するおもちゃや本を販売していた者がいたことが認められるが、証拠(乙142、147)によると、タイ王国では、平成6年(1994年)以前は、著作権法違反に対する取り締まりが厳しくなく、権利行使をしても、実効性がなかったものと認められる。
 また、証拠(甲12)によると、本件著作物のうち一部のものが日本国外においてテレビ放映されたことがあることが認められるが、限られた地域において限られた期間放映されたのみであると認められるから、被告が知らなかった可能性も高く、被告がこれらについて権利行使しなかったとしても不自然ではない。また、前記1(1)ケ認定のとおり、被告とCは、ミラノマーケットにおいて、Fと会っており、Fは、ウルトラマン作品が展示されているブースの前で会った旨証言するが、被告は、本人尋問において、それを否定する供述をしているので、直ちにウルトラマン作品が展示されているブースの前で会ったとは認められないし、仮に、そうであるとしても、そのことのみで、直ちに権利行使をしなかったことが不自然であるということはできない。
カ 原告は、本件契約書の作成日とされている昭和51年当時、原告は既にその取引先である東京放送に対し、日本国外における本件著作物の利用許諾に関する独占権を許諾しており、東京放送は、その権利に基づいて他社に利用を許諾していたのであるから、それらと矛盾する本件契約書を作成するはずがないと主張するところ、証拠(甲9、11ないし14、乙134)と弁論の全趣旨によると、原告から権限を与えられた東京放送は、昭和41年(1966年)に、アメリカ合衆国ユナイテッド・アーティスト社に対して、本件著作物中「ウルトラマン」については、日本以外の全世界におけるあらゆるメディアにおける全権利を20年間許諾し、「ウルトラQ」については、日本以外の全世界におけるあらゆるメディアにおける唯一かつ独占的な配給権を20年間許諾していたこと、ウルトラマン作品の商品化権は、上記ユナイテッド・アーティスト社に対して許諾されたものを除いて、東京放送の子会社である株式会社日音が有していたこと、以上の事実が認められる。そして、本件契約書の許諾内容は、上記認定の各契約の内容と矛盾抵触するものということができる。しかし、ユナイテッド・アーティスト社が、当時実際にどの程度「ウルトラマン」及び「ウルトラQ」について権利許諾等の活動をしていたかは明らかでなく、株式会社日音の日本国外における活動についても同様である。また、証拠(甲9、乙134、証人F)と弁論の全趣旨によると、ユナイテッド・アーティスト社は、上記契約において、「ウルトラマン」の26話を超えて制作されたフィルムの許諾に関する優先的申込権を有していたが、それを行使していないものと認められる。そうすると、昭和51年当時、上記ユナイテッド・アーティスト社との契約は、法的にはともかく、実際上はどの程度実効性を持った契約として存続していたか疑問であるし、株式会社日音との契約についても、日本国外分については、同様である。以上の事実に、上記認定の昭和51年当時のBらの状況を総合すると、上記認定の各契約と矛盾抵触する本件契約書記載の契約を締結することも考えられるということができる。
キ 原告は、ウルトラマン作品についての著作権及びそれに基づく利用権は原告の唯一かつ最大の財産であり、その利用権を明確な対価もなしに被告に許諾することはあり得ないと主張する。
 しかし、上記認定のとおり、本件契約書には、対価が存在しないということはないし、既に認定した事実からすると、昭和51年当時、日本国外において本件著作物に関する事業が成功するかどうかは明らかでなく、日本国外において本件著作物に関する権利がそれほど高い価値を有していたとも考えられないから、原告が主張するようにあり得ないこととはいえない。
ク 原告は、原告の株式の60%を保有していた東宝の承諾なしに本件契約書のような内容の契約を締結するはずがないと主張する。
 しかし、Bは、原告の代表者として、契約締結の権限を有していたのであり、上記認定の昭和51年当時のBらの状況からすると、東宝の了解を得ることなく秘密裡に本件契約書を作成したとしてもあながち不自然ではないから、上記認定を左右する事情とはいえない。
(5) 本件書簡について
 前記1認定の事実からすると、原告が本件書簡を作成した動機には、被告との間で、被告をタイ王国を含む5か国の代理店とする契約を締結して、本件契約書に基づく権利主張を止めさせるために、被告の要請に応じて、被告の名誉信用を回復するという目的があったものと認められる。しかしながら、本件書簡は、被告との間で、被告をタイ王国を含む5か国の代理店とする旨の契約や本件契約書に基づく権利主張を止める旨の契約がされる前に出されており、しかも、その内容は、本件契約書の内容をそのまま認めるものである。また、ウルトラコムの解散についても、前記1(2)認定のとおり、被告と本件書簡をめぐって交渉中の平成8年7月8日に、Dがホノルルに行きKにウルトラコムを閉鎖することの了解を得て、翌9日にJにロサンゼルスでウルトラコムを同年8月15日をもって閉鎖することを伝え、実際にも同日解散していることからすると、被告との交渉と無関係であるとは考えられない。そうすると、当時原告の側に、このような不利益な条件の下に本件書簡を出さざるを得ない事情があったものと推認される。
 なお、証拠(甲13)には、被告は、原告が被告との間でタイ王国を含む5か国の代理店となる契約を締結すれば、本件契約書に基づく権利主張を止めることを了承していた旨の記載があり、証人Dは、その旨の証言をし、原告は、それを裏付ける証拠として、Cが記載したとする、タイ王国を含む5か国の位置関係を示す手書きの地図(甲19、25)を提出する。しかし、前記1(2)認定のとおり、当時の被告の側が送付した文書には、被告の側が上記の案を認めていた旨の記載があるものはなく、かえって、前記1(2)ク認定のとおり、Cは東南アジア5か国に限らずその他の国のウルトラコムのライセンス内容についても原告に開示を求めている。また、証人Cは、上記地図を記載したことを否定しており、上記地図はタイ及び周辺国の位置関係を正確に示すものではないから、それをタイ王国人であるCが作成したことについては、疑問があるが、仮に、それをCが作成したとしても、これをもって直ちに被告が上記の案を認めていたものと認めることはできない。そうすると、被告は、原告が被告との間でタイ王国を含む5か国の代理店となる契約を締結すれば、本件契約書に基づく権利主張を止めることを了承していたとまで認めることはできない。
 以上のような本件書簡をめぐる事情は、本件契約書の成立の判断に当たって、原告に不利益な事情として考慮されねばならない。
(6) 以上述べてきたところからすると、本件契約書は、真正に成立したものと認められ、本件契約は成立しているものといえる。
4 本件契約の内容について
(1) 本件契約書は、ライセンス付与契約書という表題の下に、第1条で映画を特定した上、第2条で「契約地域及び契約期間」として「日本を除くすべての国における無期限の独占権」と記載されており、第3条で「ライセンスの範囲」として「配給権」「複製権」等が列挙されている。そして、第3条の権利が列挙されている中には、「配給権」等と並んで「著作権」が含まれているが、上記認定の事実からすると、本件契約書は、全体としては、第1条で特定した映画についての独占的な利用権をライセンスするものであると認められ、著作権の譲渡契約であるとは解されないから、本件契約書によって、被告に本件著作物の日本国外における著作権まで移転したものと認めることはできない。
(2) 被告は、本件契約締結の際に、原告が被告に対し、本件著作物のみならず、ウルトラマンシリーズの将来の作品の著作権ないし独占的利用権についても与えたと主張し、被告の陳述書(乙10)には、本件契約書の「Article3.3」が新たなウルトラマン作品の制作権を指すとの記載があり、被告は、本人尋問において同旨の供述をする。しかし、これらの記載及び供述は、本件契約書が第1条で映画を特定していることや「Article3.3」の「Reproduction Right(複製権)」という記載とは相容れないから、信用できない。そして、他に上記被告の主張を認めるに足りる証拠はないから、上記被告の主張は認められない。
5 本件著作物の著作権及び利用権の帰属について
 上記第2の1(2)の争いのない事実によると、本件著作物の著作権は原告が取得したものと認められ、上記4(1)のとおり、その後、日本国外における著作権が被告に移転した事実は認められず、また、本件書簡の内容からすると、本件書簡の意思表示によって日本国外における著作権が被告に移転したという余地はなく、日本における著作権が被告に移転した事実も認められないから、被告は、日本及び日本国外において本件著作物の著作権を有しない。
 しかし、本件契約書が真正に成立していることからすると、被告は、日本国外における本件著作物の独占的な利用権を有するものと認められる。
6 争点(2)について
(1) 以上述べたところによると、被告は日本及び日本国外において本件著作物の著作権を有しないのであるから、本件警告書のうちチャイヨ社が本件著作物の著作権を有する旨の記載に関する部分を日本において原告の取引先に送付する行為は、「虚偽の事実」を告知する行為に当たる。そして、原告と被告が競争関係にあることは、当事者間に争いがなく、上記「虚偽の事実」を告知する行為は、その内容からして、原告の営業上の信用を害するものと認められる。したがって、上記行為は不正競争防止法2条1項14号に当たるということができるところ、被告が本訴において本件著作物の著作権を有する旨の主張をしていることからすると、被告は、上記行為を行うおそれがあるものと認められる。よって、上記行為の差止請求は理由がある。
(2) しかしながら、前記認定のとおり、被告は日本国外において本件著作物の独占的な利用権を有するものと認められる。そして、被告はチャイヨ社の経営者であり、本件契約書には、「Article3.8」において、被告に付与された各権利を第三者に譲渡することができる旨規定されていることなどからすると、本件警告書中、チャイヨ社が独占的な利用権を有する旨の記載に関する部分は、「虚偽の事実」であるとまでは認められない。したがって、上記「虚偽の事実」であるとは認められない事実を告知する行為の差止請求は理由がない。
(3) また、上記(1)のとおり、本件警告書のうちに「虚偽の事実」が含まれているので、本件警告書の送付行為は不正競争防止法2条1項14号に当たるが、前記4(1)認定のとおり、本件契約書に「著作権」という文言が含まれていたのであるから、被告に故意又は過失があったとまでは認められない。したがって、不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求は理由がない。不法行為を理由とする損害賠償請求についても同様に理由がない。
7 結論
 以上の次第であるから、原告の請求は主文掲記の限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 内藤裕之
 裁判官 上田洋幸


(別紙)
第一目録
本目録に添付した契約書
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/