判例全文 line
line
【事件名】ダンス教室の音楽著作権侵害事件(2)
【年月日】平成16年3月4日
 名古屋高裁 平成15年(ネ)第233号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・名古屋地裁平成14年(ワ)第2148号)

判決


主文
1 一審原告の控訴に基づき、原判決主文第3項を、次のとおり変更する。
(1) 一審被告株式会社ツゲは、一審原告に対し、193万5360円を支払え。
(2) 一審被告Aは、一審原告に対し、302万4000円を支払え。
(3) 一審被告亡H訴訟承継人Bは、一審原告に対し、362万8800円を支払え。
(4) 一審被告Cは、一審原告に対し、201万6000円を支払え。
(5) 一審被告D及び一審被告Eは、一審原告に対し、連帯して302万4000円を支払え。
(6) 一審被告Fは、一審原告に対し、241万9200円を支払え。
(7) 一審被告Gは、一審原告に対し、287万8848円を支払え。
(8) 一審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 一審原告のその余の控訴及び一審被告らの各控訴をいずれも棄却する。
3 原判決主文第1項及び第2項中、一審被告Hに関する部分の「H」を「亡H訴訟承継人B」と変更し、一審被告Eに関する部分の「I」を「E」と、一審被告Fに関する部分の「J」を「F」とそれぞれ更正する。
4 訴訟費用は、 1、2審を通じてこれを5分し、その1を一審原告の負担とし、その余を一審被告らの負担とする。
5 この判決の主文第1項の(1)ないし(7)は、仮に執行することができる。ただし、一審被告株式会社ツゲが125万円の、一審被告Aが200万円の、一審被告亡H訴訟承継人Bが240万円の、一審被告Cが130万円の、一審被告D及び一審被告Eが各々100万円の、一審被告Fが160万円の、一審被告Gが190万円の各担保を供するときは、供託した者に対するこの判決主文第1項の(1)ないし(7)及び原判決主文第2項の(1)ないし(7)の仮執行を免れることができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
(一審原告)
1 原判決主文第2項及び第3項を、次のとおり変更する。
2 一審被告ら(ただし、一審被告Kを除く。)は、原判決別紙差止請求一覧表記載の各自の社交ダンス教授所施設から、原判決別紙物件目録記載の録音物再生装置及び関連機器を撤去せよ。
3(1) 一審被告株式会社ツゲ及び一審被告Kは、一審原告に対し、連帯して422万6707円及びうち344万3675円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 一審被告Aは、一審原告に対し、719万5957円及びうち594万8550円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 一審被告H訴訟承継人Bは、一審原告に対し、866万7765円及びうち713万8260円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 一審被告Cは、一審原告に対し、481万5403円及びうち396万5700円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 一審被告D及び一審被告Eは、一審原告に対し、連帯して660万4350円及びうち538万0752円に対する平成14年12月14日から各支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
(6) 一審被告Fは、一審原告に対し、660万4350円及びうち538万0752円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 一審被告Gは、一審原告に対し、1322万1679円及びうち1214万5335円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、1、2審とも、一審被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
(一審被告ら)
1 原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。
2 上記取り消しにかかる一審原告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、1、2審とも、一審原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、音楽著作物の管理等を業とする一審原告が、社交ダンス教授所(社交ダンス教室)を経営する一審被告ら(ただし、一審被告Kを除く。もっとも、以下においては、ダンス教授所の経営主体を示す場合、法人の取締役である一審被告Kを除くその余の一審被告らを単に「一審被告ら」ということもある。)に対し、著作物の無許諾使用行為を理由として、著作権法(以下「法」という。)112条に基づき、一審原告が管理する音楽著作物の使用差止め(同条1項)と録音物再生装置等の撤去(同条2項)を求めるとともに、一審被告ら(一審被告Kを含んでおり、同人に対する請求の根拠は、法人の責任に加え、商法266条の3第1項に基づくものである。)に対し、主位的には不法行為に基づき、@使用料相当損害金、Aこれに対する履行期後の日である各翌月1日から平成14年11月30日まで民法所定の年5分の割合による既経過遅延損害金及びB弁護士費用並びに@とBの合計額に対する同年12月14日から支払済みまで同割合による遅延損害金の各支払を、予備的には(主位的請求について時効の抗弁が認められることに備えて)不当利得に基づき、上記と同額の利得金及び悪意受益者の利息金の返還を求めた事案であるが、原審が一部認容の判決を言い渡したので、これに不服がある当事者双方が控訴したものである。
 なお、一審被告Hは、控訴後の平成15年2月17日に死亡し、同人の権利義務をBが承継した。
2 前提事実は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2」の「1」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
 原判決6頁12行目の末尾に、次のとおり加える。
 「また、同一覧表の施設番号3の施設は、一審被告Hが平成15年2月17日に死亡するまで経営し、その後は同人の訴訟承継人であるBが経営している。」
3 本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2」の「3」及び「4」に摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、同「3」を「2」に、同「4」を「3」と訂正する。)。
 原判決24頁18行目の末尾に、次のとおり加える。
 「例えば、一審被告Gの経営する原判決別紙差止請求一覧表の施設番号7は、平成10年6月開設後、レッスン数が徐々に増えていること、一審被告Fの経営する同施設番号6は、平成13年1月に長年勤務していたダンス教師が独立し、生徒の約8割がそちらに移ったため、生徒数が急減したが、その後生徒数は増加していったこと、一審被告Cが経営する同施設番号4は、2年前から専属スタッフが増えたことなどから、受講者数が増えたことなどの事情がある。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、一審被告Kを除く一審被告らが、それぞれが経営する本件各施設において、営業時間中、本件物件を操作して、CD等に録音された管理著作物を再生する行為は、@法22条が規定する公衆に対する演奏に該当し、A法38条が規定する非営利の演奏には該当せず、B著作物の公正な使用(フェア・ユース)に該当することを理由とする一審被告らの権利濫用の主張は認めることができないから、一審被告らの行為は一審原告の演奏権を侵害するものであり、C一審被告らに対して、一審原告が使用料規程等に基づいて著作物の使用料を請求することも、権利濫用とはいえず、D平成14年3月31日まで演奏権を制限していた法規の下でも、法附則14条が適用されない例外に該当し、一審原告が演奏権を行使できるものと判断するが、その理由は、次のとおり削除訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「1」ないし「5」に説示のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決30頁20行目の「甲5の1ないし7」を「甲5の1ないし7、乙43の1ないし7、44」と改める。
(2)同頁21行目から22行目の「受講を希望する者は、」の後に「ある程度社交ダンスの経験を積んでいてさらに研鑽を積むために受講を申し込む者が多いという傾向が見られるものの、全くの初心者であっても」と改める。
(3)同32頁1行目の「@」及び3行目の「こと、A」から8行目の「考えられる」までを、いずれも削除する。
(4)同36頁12行目の「社会通念上許容されていると考えられる上」を「社会通念上許容されており、一審原告が一審被告らに対して、許諾契約締結にあたって、過去の無許諾利用分について精算を求めたとしても、正当な権利の行使であると考えられる上」と改める。
(5)同39頁末行の「被告らの論法に従えば、」から40頁4行目の「事実が認められる。」までを、「甲12の4によれば、著作権問題を所管する文化庁は、昭和45年の法改正に伴う施行令の制定に当たって、ダンス教授所と同義であると考えられる「ダンス教習所」は法施行令附則3条2号に該当するものと解釈していたことが認められる。」と改める。
2 一審被告らの上記著作権侵害行為に基づく損害について検討するに、
 不法行為に基づく損害については、@1曲1回当たりの使用料相当損害金、A本件各施設におけるダンス教授所の平均月間営業日数、B1日当たりの管理著作物の利用数については、いずれも、原判決の判断と同様に、以下のとおりであると認められ、その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「6」の「(1)」の「ア」の「(ア)」及び「(イ)」に説示のとおりであるから、これを引用する。

  @ A B
(1)一審被告株式会社ツゲ 60円 12日 32曲
(2)一審被告A 60円 24日 25曲
(3)亡一審被告H 60円 24日 30曲
(4)一審被告C 40円 24日 25曲
(5)一審被告D、E 60円 20日 30曲
(6)一審被告F 60円 20日 24曲
(7)一審被告G 60円 24日 119曲

 そして、以上の数値をもって一審原告の損害算定の基礎とし得る侵害期間は、後記のとおり、一審被告Gを除けば、10年間であるというべきであるが、不法行為に基づく損害賠償請求については、一審被告らが、本訴提起から3年前以前の不法行為に基づく損害賠償請求権は、3年の消滅時効(民法724条)にかかっていると主張して、消滅時効を援用しており、証拠(甲5の1ないし7、16の1ないし3の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告は、昭和52年8月、名古屋市内の5か所のダンス教授所において、音楽著作物のCD等の再生について調査しており、その中には、原判決別紙差止請求一覧表の施設番号2ないし4のほか、同施設番号1の本校に当たる桜山本校の実態調査が行われたこと、同施設番号1については、上記のとおり、桜山本校があるほか、笠寺分校があるし、同施設番号5についても、四日市及び津に教室が、同施設番号6についても、丸の内及び本山に教室が、同施設番号7についても、大府及び熱田に教室がある上、同施設番号7については、教師の数が22名と、他のダンス教授所に比べて、相当多数であることが認められ、これらの事実を勘案すれば、著作権等管理事業者として普段から音楽著作権の侵害行為に注意を払っていた一審原告は、本件訴訟提起の3年以上前から、一審被告らがダンス教授所において音楽著作物を許諾なく使用するという不法行為を知っていたものと推認することができる。すると、一審被告らによる時効消滅の主張、すなわち、本訴提起から3年前以前の一審原告の一審被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、3年の消滅時効(民法724条)にかかっているから、一審被告らが、本訴において、同時効を援用することによって消滅したとする主張は理由があるというべきである。すると、不法行為に基づく損害賠償をなし得る期間は、本訴提起時から遡って3年前の時点である平成11年6月1日以降、一審原告が終期とした平成14年11月30日までの42か月となり、一審被告らが一審原告に支払うべき@使用料相当損害金、A確定遅延損害金、B弁護士費用の各金額は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「6」の「(1)」の「ア」の「(エ)」、「イ」及び「ウ」に説示のとおりであるから、これを引用するが、これらの内の@及びBの金額は、次のとおりである。

  @ B
(1)一審被告株式会社ツゲ 101万6064円 10万円
(2)一審被告A 158万7600円 15万円
(3)亡一審被告H 190万5120円 19万円
(4)一審被告C 105万8400円 10万円
(5)一審被告D、E 158万7600円 15万円
(6)一審被告F 127万0080円 12万円
(7)一審被告G 755万6976円 75万円

 さらに、一審原告が予備的に請求している不当利得に基づく利得の返還請求について検討するに、前記認定・判断を前提とすれば、一審被告らは、一審原告の許諾を受けず、かつ、使用料を支払わずに管理著作物を使用したことによって、法律上の原因なく使用料相当額の利得を受け、これによって一審原告は同額の損失を被ったと認められる。そして、平成4年6月1日から平成11年5月31日までの7年間における使用料相当損害額は、証拠(甲5の1ないし7、13、14、16の1ないし3の1及び2、19)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告は、昭和52年8月、原判決別紙差止請求一覧表の施設番号2ないし4のダンス教授所において、音楽著作物のCD等の再生について調査しており、いずれも、平成13年9月若しくは10月における調査よりも、管理著作物の利用件数が多かったこと、ダンス教授所における受講者は、初心者から上級者まで、その実力は様々であり、その実力に応じた指導がなされるものの、その際にCD等によって再生された音楽の利用曲数は、受講者の実力の違いに基づいて、顕著な差が生じるものではないこと、同一フロアに複数の受講生がいても、一時に演奏することのできる楽曲は1曲であること、昭和59年にNHKが「レッツダンス」を放映したことを契機に一般人にも社交ダンスが浸透しはじめ、社交ダンスの人口は増加したものの、映画「Shall we ダンス?」が大ヒットした平成8年をピークに、バブル経済の崩壊に伴う経済状態の悪化もあって、社交ダンス教室の生徒数は漸次減少の傾向が見られること、財団法人自由時間デザイン協会が発行している「レジャー白書2001」によれば、「洋舞・社交ダンス」の余暇活動参加人口は、平成4年から平成12年までの各年において万人の単位で、200、260、190、230、260、250、240、180、200で推移していることなどが認められ、これらの事情を総合勘案すれば、一審被告Gを除く一審被告らは、毎月いずれも前記不法行為が成立した使用料相当額の利得を受けていたというべきである(なお、一審被告Fについては、平成13年1月に長年勤務していたダンス教師が独立し、生徒の約8割がそちらに移ったため、生徒数が急減したことを主張するが、平成13年11月若しくは12月にはある程度回復していたこと(乙39)を考慮に入れると、上記認定を左右するものではないし、一審被告Cについても、2年前から専属スタッフが増えたことなどから受講者数が増えたことを主張するが、これを裏付ける的確な証拠はなく、上記認定に影響を及ぼすものではない。)が、一審被告Gについては平成10年6月にダンス教授所を開設しており、同人が原判決差止請求一覧表の施設番号7において、ビルの2階と3階とを使用していることを考慮に入れても、開設当初から平成14年2月に調査した結果に基づいた利用回数を平成10年6月1日から平成11年5月31日までの2年間についても妥当するとは考えがたいので、本件に顕れた一切の事情を斟酌して、前記不法行為が成立した使用料相当額の7割をもって利得額と推認するのが相当である。以上によれば、一審被告らの不当利得の額は、次のとおりである。
(1)一審被告株式会社ツゲ
 60円×32×12×12×7=193万5360円
 (曲) (日) (月)(年)
(2)一審被告A
 60円×25×24×12×7=302万4000円
(3)亡一審被告H
 60円×30×24×12×7=362万8800円
(4)一審被告C
 40円×25×24×12×7=201万6000円
(5)一審被告D、E
 60円×30×20×12×7=302万4000円
(6)一審被告F
 60円×24×20×12×7=241万9200円
(7)一審被告G
 60円×119×24×12×2×0.7=287万8848円
 なお、一審原告は、上記一審被告らが悪意の受益者であるとして利息金の支払を請求するが、一審被告らが、ダンス教授所におけるCD等に録音された音楽著作物を再生する行為が著作権の侵害になると知っていたことを認めるに足る的確な証拠の提出はないので、利息金請求は棄却するほかない。また、不当利得については、不法行為に基づく損害賠償請求とは異なり、確定遅延損害金や弁護士費用を請求できる根拠を欠くので、これを請求することはできない。
3 一審被告Kの責任については、一審被告株式会社ツゲの不法行為責任と同額の責任を、商法266条の3第1項に基づいて、負うべきであり、その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「7」に説示のとおりであるから、これを引用する。
4 本件物件を本件各施設から撤去することを求める請求については、本件物件が法112条2項が規定する「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に該当するとは認められないので、同請求を認めることはできないが、その理由は、以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「8」に説示のとおりであるから、これを引用する。
 原判決48頁21行目の「趣旨」を「趣旨や一審原告が控訴審において提出した書証」と改める。
5 以上によれば、一審原告の本件控訴については、不法行為に基づく損害賠償請求や本件物件の撤去請求は理由がないから棄却すべきであるが、不当利得の返還請求については上記限度で認容すべきであるから、この限度で原判決を変更し、一審被告らの本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、さらに、一審被告Hの死亡に伴う訴訟承継に基づいて、原判決の同人に関する部分の「H」を「亡H訴訟承継人B」と変更し、一審被告の内の2名につき、従来芸名を用いていたところを本名に更正(「I」を「E」、「J」を「F」)し、職権により仮執行免脱宣言を付することとし、主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所民事第4部
 裁判長裁判官 小川克介
 裁判官 鬼頭清貴
 裁判官 濱口浩
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/