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【事件名】楽曲の使用料事件(ケーブルテレビ3社) 【年月日】平成16年5月21日 東京地裁 平成13年(ワ)第20747号 著作権使用差止等請求事件(甲事件)、 同年(ワ)第20745号 著作権使用料請求事件(乙事件) (口頭弁論終結の日 平成16年3月1日) 判決 原告(甲事件・乙事件) 社団法人日本音楽著作権協会 原告訴訟代理人弁護士 藤原浩 同 石島美也子 同 市村直也 甲事件被告 成田ケーブルテレビ株式会社 甲事件被告 銚子テレビ放送株式会社 乙事件被告 行田ケーブルテレビ株式会社 被告ら訴訟代理人弁護士 中田祐児 同 島尾大次 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求 1 甲事件被告成田ケーブルテレビ株式会社は、同被告が行う有線テレビジョン放送のうち、別紙1の(1)記載の地上波アナログ放送、同(2)記載のBSアナログ放送及び同(3)記載のBSデジタル放送の各同時再送信を除く有線テレビジョン放送(ラジオ放送の同時再送信その他の音声放送を含む。)において、映画、ドラマ、音楽、ニュース、スポーツ、クイズ、バラエティその他すべての番組中に使用されている別添楽曲リスト記載の音楽著作物を使用してはならない。 2 甲事件被告銚子テレビ放送株式会社は、同被告が行う有線テレビジョン放送のうち、別紙2の(1)記載の地上波アナログ放送、同(2)記載のBSアナログ放送及び同(3)記載のBSデジタル放送の各同時再送信を除く有線テレビジョン放送(ラジオ放送の同時再送信その他の音声放送を含む)において、映画、ドラマ、音楽、ニュース、スポーツ、クイズ、バラエティその他すべての番組中に使用されている別添楽曲リスト記載の音楽著作物を使用してはならない。 3 甲事件被告成田ケーブルテレビ株式会社は、原告に対し、889万7598円及びうち776万4363円に対する平成13年10月1日から支払い済まで年5分の割合による金員を支払え。 4 甲事件被告銚子テレビ放送株式会社は、原告に対し、98万9954円及びうち87万4770円に対する平成13年10月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 乙事件被告行田ケーブルテレビ株式会社は、原告に対し、226万9601円及びこれに対する平成13年10月12日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 請求の趣旨に対する答弁 1 本案前の答弁 原告の訴えを却下する。 2 本案の答弁 原告の請求をいずれも棄却する。 第3 事案の概要 原告は、著作権等管理事業法に基づき著作権等管理事業者としての登録を受けた社団法人であり、別添「楽曲リスト」記載の音楽著作物について、著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて著作権を管理している(以下、原告が著作権の管理を行う音楽著作物を「管理著作物」という。)。被告らは、いずれも有線テレビジョン放送法に基づく有線放送事業等を行う株式会社である。 本件において、原告は、甲事件被告成田ケーブルテレビ株式会社(以下「被告成田」という。)及び甲事件被告銚子テレビ放送株式会社(以下「被告銚子」という。)が、原告との間で著作物利用許諾契約を締結しないまま有線放送に管理著作物を使用していると主張して、両被告に対して、別添「楽曲リスト」記載の音楽著作物を有線放送に使用することの差止めを請求するとともに、不法行為に基づく使用料相当の損害金又は不当利得返還(侵害行為の後である平成13年10月1日からの遅延損害金ないし利息を含む。)を請求(選択的)している。 また、原告は、乙事件被告行田ケーブルテレビ株式会社(以下「被告行田」という。)が、原告との間に締結された著作物使用許諾契約に定められた使用料の支払いを怠っていると主張して、同被告に対して著作物使用許諾契約に定められた使用料(及び訴状送達の日の翌日である平成13年10月12日からの遅延損害金を含む。)の支払いを請求している。 原告の請求に対し、被告成田、被告銚子及び被告成田(以下「被告ら」という。)は、@CS放送の同時再送信は原告と被告らとの間で別途締結された著作物使用許諾契約の対象となっているから、原告の請求は二重起訴であり、本件訴えは却下されるべきであるが、仮に二重起訴に当たらないとしても、差止・損害賠償請求及び使用料請求はいずれも理由がない、A被告らが有線放送するテレビ番組は映画の著作物であって、原告は独自に請求の根拠となる権利を有しておらず、原告の請求は理由がない、BCS放送(通信衛星[Communication Satellite]を使用する衛星放送)の同時再送信については、原告が独自に使用料等を請求できる立場にない、C原告による請求を認めると実質的な二重取りを許すことになる、D原告の請求は著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(以下「仲介業務法」という)及び著作権等管理事業法、あるいは私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に違反する、E原告の請求権は時効消滅しているなどと主張して、これを争っている。 1 前提となる事実関係(証拠により認定した事実については、末尾に証拠を掲げた。) (1) 当事者 ア 原告 原告は、著作権等管理事業法に基づき音楽著作物についての著作権等管理事業者としての登録を受けた社団法人であり、内・外国の音楽著作物の著作権者からその著作権ないし支分権(演奏権、上映権、公衆送信権等)の移転を受けるなどして、これを管理し(内国著作物についてはその著作権者と著作権信託契約を締結することによる。外国著作物については我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約を締結している。)、国内のラジオ、テレビの放送事業者をはじめとして、レコード、映画、出版、興業、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し利用者から著作物使用料を徴収して、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である(なお、原告は平成13年10月1日の著作権等管理事業法の施行前においては、仲介業務法に基づき著作権に関する仲介業務をなすことの許可を受けた著作権仲介団体であった。)。 そして、別添「楽曲リスト」に記載の音楽著作物は、いずれも原告の管理著作物である。 イ 被告成田 被告成田は、有線テレビジョン放送法(以下「有テレ法」という。)による有線放送事業等を目的として、昭和62年4月3日に設立された株式会社であり、平成元年9月8日、有線テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成2年10月28日から加入者向けサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。 ウ 被告銚子 被告銚子は、有線による音声、映像放送の再送信及び自主的な番組、広告の送出等を目的として、昭和62年4月20日に設立された株式会社であり、平成元年9月8日、有テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成2年4月24日から加入者向けサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。 エ 被告行田 被告行田は、有テレ法による有線テレビジョン放送事業、有線テレビジョン施設を利用する音楽放送及びエフエム放送事業等を目的として、平成元年1月13日に設立された株式会社で、平成3年2月5日、有テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成4年4月1日から加入者向けサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。 (2) 原告の使用料規程 原告においては、管理著作物の使用に関し、文化庁長官の認可を受けた使用料規程(以下、「本件使用料規程」という。)を定めていたが(仲介業務法2条)、有線テレビジョン放送に管理著作物を使用する場合の使用料については、同規程の「第10節有線放送」の「2有線テレビジョン放送(CATV)」の項において、以下のとおり定められている(甲3)。 ア 基本的な算定方法 有線テレビジョン放送に管理著作物を使用する場合の使用料は、当該有線テレビジョン放送事業者(以下「有線テレビ事業者」という。)の営業収入(受信料収入及び広告料収入(消費税額を含まないもの)をいう。)の1/100とする。 イ 具体的な算定方法 具体的な算定方法については、「有線テレビジョン放送の備考」として、以下の@ないしBが定められている(以下、それぞれ「備考@」などという。)。 @ 有線テレビ事業者が、無線テレビジョン放送を受けて行うテレビジョン放送の再送信において管理著作物を使用する場合の使用料は、原告を含む著作権・著作隣接権団体が当該事業者と協議して定める料率によることができる。 A 有線テレビ事業者が、再送信のほかに有線テレビジョン放送により管理著作物を使用して自主放送を行う場合の使用料は、次の算式により算出する。 (営業収入×自主放送時間/全放送時間)×1/100 B 有線テレビ事業者の営業収入が算出できない場合、当該有線テレビ事業者の受信世帯数、放送時間その他の使用状況を参酌して使用料額を定めることができる。 (3) 原告と被告らとの契約 原告は、平成4年3月31日、被告行田との間で、管理著作物の有線テレビジョン放送の自主放送及び音声放送(音声自主放送及びラジオ放送の同時再送信をいう。以下同じ)に使用することに関し、次の13条からなる使用許諾契約(以下「本件行田使用許諾契約」という。)を締結した。なお、本件行田使用許諾契約は原告の定める統一書式によるものであり、原告は他の有線テレビジョン放送事業者とも本件使用許諾契約と同内容の契約を締結することがあるが、被告成田及び被告銚子との間には使用許諾契約を締結していない(甲4、31、弁論の全趣旨。以下、上記統一書式に基づく契約を「本件使用許諾契約」という。)。 (使用許諾) 第1条 原告は、被告行田が、別紙音楽著作物使用許諾申請書(省略)記載の使用条件の範囲内において、管理著作物を有線放送使用することを許諾する。 2 被告行田は、前項の許諾に基づく管理著作物を使用する権利を他に譲渡することはできない。 (使用料の算出) 第2条 原告は、本契約期間に該当する年度(年度区分は4月から翌年3月までとする。以下同じ。)の前年度における被告行田の営業収入(受信料収入及び広告料収入(消費税額を含まないもの)をいう。以下同じ。)に基づいて、次の算式により算出して得た金額を本契約期間に該当する年度の使用料とする。 @ 有線テレビジョン放送の自主放送に管理著作物を使用する場合 本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入×自主放送時間/全放送時間×1/100+消費税相当額=使用料 A 音声放送に管理著作物を使用する場合 本契約期間に該当する年度の前年度における音声放送に係る営業収入×1/100+消費税相当額=使用料 2 被告行田において本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入がない場合は、原告は被告行田と協議のうえ使用料を定めることができる。 (営業収入及び放送時間の報告義務) 第3条 被告行田は、本契約期間に該当する年度の前年度における1年間の次に掲げる営業収入及び放送時間を原告所定の報告書に記入し、証憑書類を添付して当該年度終了後3か月以内に原告に提出するものとする。 @ 有線テレビジョン放送の自主放送及び音声放送に係る営業収入 A 有線テレビジョン放送の自主放送時間及び全放送時間並びに音声放送の放送時間 (営業収入及び使用状況等の調査) 第4条 原告は、被告行田の本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入及び管理著作物の使用状況等を確認するために、被告行田の営業時間中に被告行田の事務所において関係書類を閲覧し、調査することができる。ただし、日時については、原告は被告行田に対して1週間前までに通知する。 (使用曲目の報告義務) 第5条 被告行田は、各四半期(4月から6月まで、7月から9月まで、10月から12月まで、翌年1月から3月まで)ごとに被告行田が有線テレビジョン放送及び音声自主放送において原告があらかじめ指定する1週間に使用した管理著作物について、原告所定の報告書に記入して原告の指定する期日までに原告に提出する。 (使用条件の変更) 第6条 被告行田は、別紙音楽著作物使用許諾申請書記載の使用条件を変更する場合は、その都度遅滞なく書面をもって原告に通知し、原告の承認を受けるものとする。 (著作者人格権の遵守) 第7条 被告行田は、管理著作物を使用する場合、著作者に無断で著作物の題名を変更し、又は著作物に改ざんその他の変更を加えるなどして著作者人格権を侵害してはならない。 (契約の解除) 第8条 原告は、被告行田がこの契約の全部又は一部を履行しないときは、10日以内の期限を定めてその履行を請求し、その期限内になお履行されないときは、原告はこの契約を解除することができる。 (信義則) 第9条 原告、被告行田双方は、この契約に定める各条項を誠実に履行しなければならない。 2 原告、被告行田双方は、本契約に定めのない事項又は契約条項の解釈に疑義が生じたときは、誠意をもって協議し、その解決にあたるものとする。 (契約期間) 第10条 本契約の有効期間は、平成4年4月1日から平成5年3月31日までの1年間とする。 (契約の更新) 第11条 本契約の契約期間満了時に当事者のいずれからも本契約について特に異議を述べないときは、契約期間満了時の契約内容と同一の条件をもって契約を更新したものとする。 (管轄裁判所) 第12条 (省略) (契約の変更) 第13条 本契約に関する修正又は変更は、文書によらなければその効力がないものとする。 (4) 協同組合日本脚本家連盟等と被告らとの契約 被告成田は平成3年6月12日に、被告銚子は平成3年7月16日に、被告行田は平成4年7月6日に、それぞれ、原告、協同組合日本脚本家連盟(以下「日脚連」という。)、協同組合日本シナリオ作家協会、社団法人日本文芸著作権保護同盟及び社団法人日本芸能実演家団体協議会の5団体との間で、次の約定を含む許諾契約(以下「5団体契約」という。)を締結した。その後、社団法人日本文芸著作権保護同盟は、平成15年10月1日付けで社団法人日本文芸家協会に対して契約上の地位を譲渡した(以下、原告、日脚連、共同組合日本シナリオ作家協会、社団法人日本文芸著作権保護同盟及び社団法人日本芸能実演家団体協議会(契約上の地位承継後の社団法人日本文芸家協会を含む。)の5団体をまとめて単に「5団体」という。)(甲15、16、弁論の全趣旨)。 第1条(使用許諾) 甲ら(5団体のうち社団法人日本芸能実演家団体協議会を除く4団体をいう。)は丙(被告ら各自をいう。)に対し、第2条に掲げる使用料(消費税を含まない。以下同じ。)を支払うことを条件として、甲らがコントロールを及ぼし得る範囲に属する著作物を使用して製作された放送番組を、ケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する。 2 乙(社団法人日本芸能実演家団体協議会をいう。)は、丙が第2条に掲げる補償金(消費税を含まない。以下同じ。)を支払うことを条件として、乙の会員の実演によって製作された放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する。 第2条(使用料、補償金の支払い) 前条の使用料と補償金の合計金額は、丙が当該年度に受領すべき利用料総額に、各々次の料率を乗じて算出した額とする。 A 区域内再送信は、1波について 0.015% B 区域外再送信は、1波について 0.09% 2 使用料及び補償金に課される消費税は、別途添付の上、丙から甲ら及び乙に支払う。 第3条(利用料収入の報告) 丙は、当該年度の利用料収入を甲ら及び乙に報告するものとし、当該年度終了後2か月以内に有線テレビジョン放送施行規則第36条の規定による業務運営状況報告書の写しにより、甲ら及び乙の代表者である日脚連(以下「甲ら及び乙の代表者」という。)に報告する。 第4条(使用料、補償金の支払い) 丙は、甲ら及び乙に対し、第2条の使用料、補償金を当該年度終了後2か月以内に、甲ら及び乙の代表者の事務所に持参または送金して支払う。 第5条(契約の解除) 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は1か月間の通知催告の上、本契約を解除することができる。 第6条(差し止め請求と損害賠償請求) 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は、丙に対し当該違反行為の停止と損害賠償を請求することができる。 2 争点及び当事者の主張 (1) CS放送の同時再送信は5団体契約の対象となっているか−原告は、CS放送の同時再送信について、5団体契約の存在にかかわらず差止め・損害賠償等を請求し、5団体契約とは別途に使用料の支払を請求をすることができるか (原告の主張) ア 有線放送において管理著作物を使用する場合の権利処理システム 有線放送において管理著作物を使用する場合における、原告、放送事業者及び有線放送事業者の関係は、次のとおりである。 (ア) 原告と放送事業者との間の契約関係 a まず、原告と放送事業者は、管理著作物を放送に使用することについての許諾契約(以下「放送許諾契約」という。)を締結している。この放送許諾契約には、放送以外の使用を禁止する条項があり、別に契約がある場合を除き原告の承諾を得ないで、当該放送事業者の放送以外の用途に利用し、又は利用させてはならないと定められている。 著作権法上、著作物の利用について著作権者の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内においてのみその著作物を利用することができるのであり(著作権法63条2項)、また、放送についての許諾は、契約に別段の定めがない限り、当該著作物の録音又は録画の許諾を含まないものとされている(同条4項)から、放送許諾契約だけでは、放送事業者は、自己の放送用の番組製作のためであっても、同法44条で認められる一時的固定の範囲を超えて原告の管理著作物を録音することは許されない。 b 放送事業者が、放送のための番組に管理著作物を録音すること及び当該放送番組を利用することについては、上記aの放送許諾契約とは別に、許諾契約が締結され、放送使用料とは別に許諾の対価が発生する。この契約において、管理著作物を録音して製作した放送番組について、一定の範囲で第三者に利用させることについても、併せて許諾している。 c 上記a及びbの許諾契約の方式は、基本的には、日本放送協会、一般放送事業者及び委託放送事業者のいずれの放送事業者に対するものも同様であり、原告は、放送事業者に対し、放送番組への管理著作物の使用等を許諾しているにすぎず、著作権の譲渡などはしていない。 また、放送事業者が、原告に対し支払う使用料には、有線放送事業者による有線放送を許諾する対価は含まれていない。 したがって、放送事業者は、第三者に対して原告の管理著作物の使用について再許諾を与える権利を有していないのであるから、有線放送事業者は、放送事業者から有線放送の許諾を受けても、原告の管理著作物について利用許諾を得たことにはならない。 (イ) 放送事業者と有線放送事業者との契約関係 放送事業者は、自己の放送について有線放送権(著作隣接権)を有し(著作権法99条1項)、また、放送番組が映画の著作物に該当する場合には、著作権を有することもある(同法29条2項)。このため、有線放送事業者は、放送事業者の放送を受信して再送信する場合、放送事業者からの利用許諾が必要となる。 一般に、有線放送事業者は、放送事業者から「再送信同意書」を得ているが、これは、有テレ法13条2項に基づく同意であると同時に、著作権法上の許諾を兼ねている。 (ウ) 原告と有線放送事業者の契約関係 原告は、有線放送事業者に対し、管理著作物の使用について、2つのルートで許諾手続を行っている。 a 5団体と各有線放送事業者との契約 5団体と各有線放送事業者は、5団体契約を締結することで、テレビの同時再送信に係る権利処理を簡便に行うことができるルールが構築されている。被告らも、それぞれ、5団体契約を締結しており、同契約で定められている使用料を支払うことを条件として、著作権の権利者団体のそれぞれが「コントロールを及ぼしうる範囲に属する著作物を使用して製作された放送番組を、ケーブルによって変更を加えないで同時再送信すること」を適法に行うことができる(同契約1条1項)。なお、「コントロールを及ぼしうる範囲に属する著作物」とは、原告に関しては、管理著作物を意味する。 b 原告と各有線放送事業者との契約 上記aの使用許諾の対象は、地上波テレビジョン及びBSテレビジョンの同時再送信についてのみであり、その他の有線放送、すなわちラジオの同時再送信、CS放送のチャンネルの同時再送信、自主製作番組等(以下「CS放送の同時再送信等」という。)については、原告と各有線放送事業者との別の契約による許諾手続が必要となる。原告と被告行田との間に締結された本件行田使用許諾契約は、この許諾手続のための契約であるが、本件行田使用許諾契約の契約書は、他の有線放送事業者との間でも定型的に利用されているものである。また、本件使用許諾契約の条項については、昭和63年3月31日付け「覚書」(甲5、以下単に「覚書」という。)及び「確認書」(甲6、25、26、27、28。以下これらを総称して「確認書」という。)において、有線放送事業者の団体である社団法人日本ケーブルテレビ連盟と原告との間で詳細な取決め合意をしたものである。 イ 5団体契約に基づく請求と本訴請求の関係 本訴請求は、5団体契約の対象となっていないラジオの同時再送信、CS放送の同時再送信等において、被告成田及び被告銚子が原告と許諾契約を締結することなく管理著作物を使用していることについて、同被告両名の著作権侵害を、被告行田が許諾契約に定められた使用料を支払わないまま管理著作物を使用していることについて、同被告の本件使用許諾契約上の使用料債務の不履行を、それぞれ主張するものである。 ウ 被告らの主張に対する反論 (ア) 被告らは、5団体契約第1条1項で、使用許諾の範囲が「放送番組を、ケーブルによって変更を加えないで同時再送信すること」と定められていることから、CS放送を受信して同時再送信することも、ここでいう「放送番組」の「同時再送信」に該当するとの理解の下に、CS放送を受信して同時再送信することも5団体契約によって権利処理されることになっている以上、原告の本訴請求は、別件訴訟と二重起訴になっていると主張し、あるいは原告には請求権がない旨を主張する。 しかし、5団体契約の条項は、CS放送の誕生など想像すらできなかった昭和48年に、権利者5団体と有線放送事業者の団体が、有線テレビジョン放送における著作権等の権利処理方法について初めての合意をした際に定められたものなのである。被告らは、当該合意に基づく統一的契約書式により契約締結をしているのであり、かつ被告らが契約を締結した平成3年においてもなお、日本にCS放送は存在していなかったのである。 そもそも、契約の意味内容は、その契約書が作成された当時の社会的状況、合意形成までの交渉経緯、その後における当事者間での協議内容等諸般の事情を踏まえた上で、当事者が合意形成時にどのような目的を意図していたのかを合理的に解釈して確定されなければならないところ、被告らは5団体契約による許諾の範囲について、以下に述べる事情を全く無視し、単に契約文言のみから解釈して誤解に基づく主張をするものである。 (イ) まず、5団体契約による権利処理システムができあがったころの放送メディアの状況とその後の進展、これに伴う有線放送内容の変遷等は以下のとおりである。 a 現行著作権法が施行された昭和46年ころ、放送といえば地上波放送に限られていた。また、そのころの有線放送の多くは、主に電波障害地域において、難視聴対策としてテレビ放送の同時再送信を行うことを主たる目的としていた。当時すでに、日本放送協会(放送法7条。以下「NHK」という。)は、難視聴の解消を目的として人工衛星を中継器とする放送を計画していたが、BS放送(放送衛星[Broadcasting Satellite]を使用する衛星放送)の本放送が実現したのは、はるか後の平成元年のことであった。 b 有線放送事業者は、昭和40年代後半以降、空いているチャンネルを利用して、地元以外のテレビ局の放送を流したり、地域ニュースや地域密着情報を提供するコミュニティ番組などを自主製作して流すことが多くなり、有線放送の内容が多様化していった。 さらには、自主製作には限度があることもあって、番組製作会社から番組を購入し、これを有線放送することも多くなっていった。 c CS(通信衛星)は平成元年に初めて打ち上げられたが、当初はBS(放送衛星)とは異なり、一般家庭での直接受信はできず、特定の企業や有線放送事業者に対する送信のみしか認められていなかった。これは著作権法2条1項8号で定義される「放送」、すなわち「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行うこと」には該当しないものであった。 有線放送事業者は、それまで、第三者の製作する番組を、番組製作会社からパッケージ等で購入していたが、CS経由で配信を受けることができるようになり、多チャンネルの都市型CATVと呼ばれる型の有線放送が発達することとなった。 d また、平成元年、放送法の改正により、放送設備を所有しなくても放送事業者の免許を取得できる「委託放送事業者」の制度が整備され、これに伴って、従来、番組の製作や販売を行っていた番組供給事業者が、次第に委託放送事業者の免許を取得するようになった。 e 平成4年に、一般家庭向けのCSアナログ放送が開始されるに至り、初めてCS放送は、著作権法上の「放送」の一つとして位置づけられることとなった。その後、さらに平成8年にCSデジタル放送が開始され、ますますCS放送によるコンテンツの供給は多量化かつ多様化する一方となっている。 (ウ) 以上のような放送メディアの進展状況等を踏まえて、著作権者等の団体と有線放送事業者の団体とは、以下のとおり著作権等の権利処理に関する協議を進めてきた。 a 昭和47年2月、権利者団体(5団体に社団法人レコード協会(以下「レコ協」という。)を加えた6団体(日脚連についてはその前身である放送作家協会。)と有線放送事業者の団体である全国有線テレビ組合連合会(以下「連合会」という。)とは、有線放送における著作権等の処理について協議を開始した。 同年6月、有テレ法が成立し(昭和48年7月1日施行)、同法13条に、有線放送事業者が行う放送の再送信に関する規程が設けられた。当時の有線放送は、難視聴対策の意味合いを有していたものの、昭和61年法律第64号による改正前の著作権法38条1項(現行法における同条2項)により著作権の制限される非営利・無料の条件を満たすものではなく、著作権等使用料支払いの必要があることについては、連合会としても認識し、同年7月以降、両者の間で使用料の定め方について協議が重ねられた。 なお、連合会は、同年中に公益法人日本有線テレビジョン放送協会設立準備委員会(以下「準備委」という。)を発足させた。 b 上記権利者団体のうち、社団法人レコード協会を除く5団体は、約2年半の協議を経て、昭和48年8月、準備委との間で、テレビ放送の同時再送信についての権利処理方法及び使用料の定め方について合意に達し、5団体と各有線放送事業者との間で締結する統一的な契約書式(以下「契約書式」という。)を定めた。この契約書式は、現在もほぼ同じものが使用されており、その第2条に定める使用料の料率も変更されていない。 両団体間で合意が形成された昭和48年当時は、テレビジョン放送には地上波放送しか存在せず、衛星を使用した放送は計画自体はあったものの、近い将来に実現する予定ではなかった。したがって、当事者双方ともこの契約書式の第1条にある「放送番組」の「同時再送信」という文言が意味する内容は、地上波テレビジョン放送の同時再送信であると理解していたことは明白である。そして、同第2条の使用料率についても、地上波局の免許取得に際して決められる放送サービスエリアを判断基準として、区域内再送信と区域外再送信に分けて定められた。 c 原告は、昭和50年4月1日、本件使用料規程の「第10節有線放送」の「2有線テレビジョン放送(CATV)」の規定について文化庁長官の認可を受け、現在まで当該部分の内容は変更されていない。同規定中「有線テレビジョン放送の備考@」は、上記のとおり5団体と有線放送事業者とが契約するシステムができたことを踏まえたものである。 d 昭和50年代半ばになると、有線放送の内容としてテレビジョン放送の同時再送信以外の番組が急激に増加してきたため、5団体契約の許諾の対象外である有線放送について、権利処理のシステムを作ることが要請されることとなった。 そこで、原告は、昭和55年9月に認可された有線放送事業者の団体である社団法人日本有線テレビジョン放送連盟(その後、「社団法人日本シーエーティーヴィ連盟」、さらに「社団法人日本ケーブルテレビ連盟」に名称変更。以下これらを総称して「連盟」という。)との間で、昭和58年に交渉を開始した。そして、昭和59年7月19日、連盟の所属する各有線放送事業者が原告との間で締結する管理著作物の使用許諾契約書の統一書式について合意するとともに、その内容に関する覚書を締結した。この覚書及び統一書式は、昭和63年3月31日に改訂され、現在の統一書式(甲4)及び覚書(甲5)となった。 最初の合意があった昭和59年だけでなく、改定時の昭和63年当時も、なお地上波放送しか存在しなかったため、覚書の1条1で定める「自主放送」の範囲として想定されていたのは、自主製作番組や番組販売会社からの購入番組に限られていた。 なお、有線放送事業者は、連盟に加入すると同時に委任状を提出することになっており、連盟は、この受任に基づき各種権利者団体との交渉権限を有し、連盟と各権利者団体との合意事項が、連盟加入の有線放送事業者にも適用される仕組みとなっている。 e 平成元年以降、有線放送番組が、有線放送事業者に対しCS経由でも供給されるようになったが、CSは「放送」には該当しなかったため、CS経由で供給を受けた番組の有線放送は、文字どおり「放送の同時再送信以外」に該当するものであった。したがって、原告と有線放送事業者は、以前と変わりなく統一書式の契約書による権利処理を行っていた。 f 平成4年に、一般家庭向けCS放送が開始され、CS放送は著作権法上「放送」の仲間入りをしたが、有線放送事業者がCS放送経由で番組供給を受け、これを同時再送信するという実態には何ら変わりがないため、原告と連盟との間で、CS放送の同時再送信について、5団体契約の使用料の中で権利処理済みであるかどうかという問題が提起されたことはなく、引き続き統一書式の契約書による権利処理が行われてきている。 番組供給業者からパッケージで供給を受けていたのが、CS経由で供給を受けるようになったからといって、使用料の支払いが不必要になると考えるべき理由は何もないのであるから、これは至極当然のことである。 (エ) ところで、被告成田は平成3年6月12日、被告銚子は平成3年7月16日に、被告行田は平成4年7月6日に、それぞれ5団体契約を締結しているが、被告らが締結した5団体契約は、上記のとおり5団体と準備委との合意に基づくものである。したがって被告らが締結した契約の意味内容も、合意形成当時の当事者団体間における契約意思の合理的解釈により判断されるべきであるから、同契約第1条の「放送番組」の「同時再送信」にCS放送の同時再送信が含まれていないことは明らかである。 (オ) 平成4年以降、5団体と連盟とは、CS放送の同時再送信という当初の合意時には互いに想定し得なかった有線放送が可能になり、さらには、法改正に伴い委託事業者の出現、多チャンネル都市型CATVの一般化等社会的経済的事情の変化が生じてきたことを踏まえ、有線放送に関する権利処理の在り方を新たに協議することとなった。 5団体のうち、原告を除く4団体は、5団体契約と同様に、5団体が一括して有線放送事業者と契約を締結する方式により処理する方向での協議を希望していたが、原告は、従来と同様、原告との契約により処理する方向での協議を進めたため、以後CS放送の同時再送信については、原告とその他の4団体では交渉方針が異なることとなった。 原告は、連盟と協議を重ねた結果、平成7年9月13日、平成5年度及び平成6年度の使用料について、確認書を締結するに至った。これは、CS放送の同時再送信について、前記の昭和63年締結の覚書及びこれと同時に定められた統一書式により権利処理することを前提として、同覚書で定めた「全放送時間」についての督促を合意したものである。また、同時に本件使用料規程の有線テレビジョン放送に関する規定改定の協議を行うことを確認している。 上記確認書について、連盟は、当時加盟する有線放送事業者に対し、注意事項を書き添えて周知徹底のための通知文を送付しているが、同通知文においては、「今回の使用料については、従来の処理ルールでお支払い下さい。」「CS委託放送は自主放送として計算してください。」との説明が記載されている。 (カ) その後、原告と連盟は、本件使用料規程の改定をめざしつつ協議を継続し、平成8年から平成12年まで、ほぼ毎年暫定的合意をしてその都度確認書を取り交わしてきた。 これらの確認書では、CS放送の同時再送信についての使用料計算をする上で算定要素となる「収入」を減額する特約、有線放送事業者に有利な「放送時間」の決め方などを、協議の結果定めている。このように、原告と連盟との間では、CS放送の同時再送信に関するものを含む使用料について、その詳細な算出方法についても明確な合意が存在する。 なお、被告らは、被告らと別法人である連盟と原告との合意に被告らが拘束されるいわれはないと主張するが、連盟は、連盟加入事業者からの委任を受け、それらの事業者を代表して原告との交渉に臨んでおりそのことは連盟自身標榜しているのである。したがって、原告と連盟との合意に基づく確認書の内容が連盟加入事業者に適用されることについて、被告らが異議を唱える理由が理解できない。 (キ) 原告と連盟とは、5団体契約の対象外の有線放送に関する使用料の算出方法が複雑であることから、よりよい権利処理方法を模索すべく協議を継続してきているが、連盟側から、CS放送の同時再送信についての使用料は従来の5団体契約で処理済みであるから、別途請求するのは二重請求であるという被告らのような主張が出されたことは一度もない。前述のような交渉経緯に鑑みれば、そのような主張がされないのは当然である。 (ク) 以上のとおり、5団体契約について関係団体間で合意が形成された当時の社会的状況、当該合意形成前後から今日に至るまでの関係者間の交渉経緯等に関する事実を踏まえれば、被告らが統一書式によって締結した契約の第1条1項が定める使用許諾の範囲、すなわち「放送」の「同時再送信」にCS放送の同時再送信が含まれていないことは明らかである。 被告らの主張は、文言のみに拘泥し、CS放送が現在では「放送」である以上、CS放送の同時再送信は「放送」の「同時再送信」以外の何者でもなく、これを「自主放送」と呼ぶのはおかしいといった極めて表面的な理由で、契約の解釈を誤るものである。 (ケ) なお、被告らは、原告の請求が5団体契約に基づく請求に比較して著しく高いのは不合理であり納得できないとの主張をするが、5団体契約は、有線放送において、難視聴対策用の地上波テレビ放送の同時再送信と限られた数の自主放送しか行われていなかった時代に合意されたものであるにもかかわらず、その時の使用料率が現在もなお適用されているという事情を全く看過している。 その後の放送メディアの状況変化を踏まえれば、本来、5団体契約の使用料率こそ見直されるべきであるにもかかわらず、権利者団体側が譲歩してこれを据え置きのままとしているものである。 有線放送の番組の中で爆発的にその比重が高まっているCS放送の同時再送信についての使用料が5団体契約による使用料より高くなっても、これを不合理とする理由は全くない。しかも、連盟との確認書では、使用料の計算方法に関して、営業収入の算出方法や放送時間の定め方において、より有線放送事業者に有利な方法を合意しているのであって、連盟との協議に基づく確認書の内容が不合理という理由もない。 (コ) 被告行田については、5団体契約のほか、原告との間に本件行田使用許諾契約を締結しているが、被告らも、これが、原告と連盟間で昭和63年に合意した覚書に定める「自主放送」についての契約であることを認めている。上記(ウ)において述べたように、昭和63年当時、CSは存在せず、番組供給事業者の供給番組は、録音・録画物(パッケージ)で供給されていたが、原告と被告行田は、そうした供給番組の有線放送を「自主放送」として権利処理することを合意したものである(連盟は、連盟発行に係る「ケーブルTV著作権ハンドブック」(以下「ハンドブック」という。)の中で、平成3年当時の契約内容について説明している。)。その後、番組供給事業者(一部は委託放送事業者)による供給方法が多様化していったにすぎないのである。 また、被告らは、原告と連盟との確認書に拘束される理由はないと主張するが、確認書は、CS放送の同時再送信が5団体契約の対象外であることを当然の前提として、自主放送としての使用料の算定方法について有線放送事業者に有利な取決めをしているものであって、その適用を拒絶するのであれば、結果として支払うべき使用料の額がより高額となるものである。 エ BSアナログ放送の同時再送信に関する取り扱いが、CS放送の同時再送信と異なっている理由について 上記のとおり、CS放送の同時再送信が5団体契約おいて処理済みであるということはできないのであるが、被告らは、BSアナログ放送の同時再送信が5団体契約により処理されるにもかかわらず、CS放送の同時再送信について5団体契約による処理が行われないのは不当であるなどと主張するので、この点についても説明する。 (ア) 有線テレビジョン放送に管理著作物を使用する場合の使用料は、本件使用料規程の第2章第10節2の本文により、営業収入の100分の1と定められている。これは、本来、放送の同時再送信にも自主放送にも等しく適用される料率であるが、本件使用料規程の認可申請に先立ち、昭和48年、原告ら5団体と準備委との間において、地上波放送の同時再送信については、特別に低い料率によることを合意するに至ったため、これを踏まえて、本件使用料規程に備考の@が特則として入れられたものである。すなわち、備考の@は、5団体契約により、使用料の料率の特例を適用することができる旨を定めたものである。 これに伴い、備考のAとして、@以外の場合については原則どおり営業収入の100分の1を適用することについて明記したものである。本件使用料規程中の同規定は、昭和50年に認可され、原告は、以後この定めに基づき権利処理を行ってきている。 (イ) 備考@により、5団体契約を締結して、特別に低い料率の適用を認めたのは、地上波の同時再送信が、昭和48年当時、主として難視聴対策を目的として行われていたことを考慮した結果である。 放送法第2条の2第6項は、放送事業者(受託放送事業者、委託放送事業者及び委託国内放送業務等を行う場合の日本放送協会を除く。)は、「その行う放送に係る放送対象地域において、当該放送があまねく受信できるように努めるものとする。」と定めている。NHKは、この法の要請に基づき昭和30年前後から全国において順次難視聴対策に努めてきた。具体的には、難視聴地区へ共同受信アンテナを設置し地上波放送を受信し、これを有線により各家庭に送信するものであり、これが有線放送の始まりともなった。 しかし、設置必要箇所は膨大な数にのぼるため、難視聴問題を抜本的に解決することを目的に、BSによる放送が国家的政策として計画された。長年の実験や試験放送を経て、実際にNHKの衛星放送の本放送(衛星第1・第2放送)が開始されたのははるか時代を下った平成元年であったが、BSアナログ放送は、引き続き地上波の難視聴解消に有用であることには変わりがなかった。 (ウ) NHKは、BSアナログ放送の開始により、有線放送事業者に対し、地上波放送に加え、BSアナログ放送の同時再送信を同意し、これに伴い、原告ら5団体は、この再送信における著作物等の利用についても、地上波放送の同時再送信と同様に5団体契約による低い料率を適用して処理することを了解したものである。 BSアナログ放送は、CS放送のように、供給番組の有線放送事業者への供給方法から発展したという性格のものではなく、放送局自身が難視聴対策として地上波放送のほか衛星放送も実施するようになったものであるという点において、その沿革に大きな違いがある。 また、BSアナログ放送は、放送施設を所有する放送事業者でないと行うことができなかったため、放送事業者は、NHKと平成3年に本放送を開始した日本衛星放送株式会社(以下「WOWWOW」という。)の2事業者のみで、チャンネル数もアナログであるためNHK2チャンネルとWOWWOWの計3チャンネル以外に増える見込みはなかった。 (エ) これに対して、CS放送の再送信の沿革、目的、放送内容等は、BSアナログ放送の再送信とは全く異なっている。CS放送を行っている委託放送事業者は、もともと番組供給事業者であって、有線放送事業者に対して、録音・録画物というパッケージの提供により番組を供給していた。それが平成元年以降、CSの出現により、CSを経由する通信により番組を配信することが可能となり、他種類かつ大量の番組を供給することが容易となった。これにより有線テレビジョン放送の多チャンネル化が促進されることとなった。 さらに、放送法の改正により、放送施設を持たずに放送事業者となることを認める受託・委託放送制度が創設され、番組供給事業者の一部が順次委託放送事業者の免許を取得するようになった。これと時を同じくして、CSによる放送が認められることとなり、委託放送事業者の免許を取得した番組供給事業者は、これまで有線放送事業者に配信していた番組を編成してCS放送を開始するに至った。これにより、有線放送事業者だけでなく一般家庭も当該番組供給事業者の供給する番組を直接受信できることとなった。 たとえば、被告らがいずれも受信している「スペースシャワーTV」という音楽専門番組は、委託放送事業者である株式会社スペースシャワーネットワークの供給する番組である。同社の前身は番組供給事業者であり、もともと有線放送事業者に番組をパッケージで供給していた。その後、「スペースシャワーTV」という番組をCS通信による配信で供給するようになり、さらに平成4年に委託放送事業者の免許を取得した後はこれをCS放送により供給するようになった。 (オ) 加えて、委託放送事業者の免許は、放送施設を所有することなく取得できるため算入が容易であり、現在では、CS放送の委託放送事業者はすでに120社余りにのぼっている。 また、CS放送は、当初アナログ放送で開始されたが、平成8年にデジタル化されることにより、チャンネル数が飛躍的に増加し、いまやCSデジタル放送のプラットフォーム事業者である「スカイパーフェクTV!」が提供するチャンネル数は約300にも達する勢いである。さらに、平成10年には、有線放送についてもデジタル化が始まり、CS放送の再送信チャンネル数も一気に増加してきている。また、平成14年からは、新規に統計110度CSデジタル放送(通信衛星N−SAT110を利用)が開始され、新たなプラットフォーム事業者(プラットワン等)の下、新しいチャンネルが提供されている。 このように、CS放送は、平成4年に開始されて以来10年の間に驚異的な進化を遂げ、今後は、放送と通信の融合によるさらなる発展が期待されているところでもあり、CS放送の再送信による有線放送における管理著作物の利用量も増加の一途をたどることが予想されている。 (カ) ところで、一般家庭がCS放送番組を視聴する方法は2とおりある。ひとつは、「スカイパーフェクTV!」といったプラットフォーム事業者と契約し、プラットフォーム事業者を通じて委託放送事業者から提供される番組をパラボラアンテナで受信する方法、もうひとつは、居住地域の有線放送事業者と契約し受信する方法である。 しかし、当該有線放送事業者が、目的のCS放送チャンネルを再送信していない場合もある。すなわち、各有線放送事業者は、CS放送のチャンネルの中から、いくつかの限られたチャンネルを選択し、それを提供する委託放送事業者との契約によりそのチャンネルの再送信を行っているにすぎない。有線放送事業者によって再送信しているチャンネルは様々であり、被告らの再送信するCS放送も、それぞれ同じではない。 つまり、CS放送は、すべてのチャンネルについて公衆に向けて一斉に送信されるものであるが、有線放送事業者は、プラットフォーム事業者と契約して受信可能なすべてのCS放送チャンネルを再送信しているのではなく、営業上の判断によりチャンネルを選択してごく限られた一部について再送信しているにすぎない。被告らの再送信しているチャンネルもせいぜい20チャンネル前後にすぎないのである。まさに、CS放送を利用して必要な番組の供給を受けているというのが実態である。 (キ) なお、平成12年12月から、新たにBSデジタル放送が開始されたが、これは新たに認定を受けたBS委託放送事業者(NHKについては委託国内放送業務)により実施されるため、難視聴対策という趣旨を含まず、有線放送事業者にとっては番組供給というCS放送類似の性格を有するものと考えられる。したがって、現在のところ、5団体は暫定的に本件使用料規程の備考@による特別の料率を適用することを了解し、現時点では、5団体契約に基づく使用料の計算式において波数として加算計上して処理しているが、今後の取扱いについては協議中であり未確定である。 (ク) 以上のとおり、CS放送やその同時再送信については、難視聴対策という公益目的は全くなく、有線放送事業者の同時再送信において、権利者側が特別に低い料率を了解すべき理由が一切ないという点において、BSアナログ放送の同時再送信とは全く事情が異なっている。 したがって、CS放送の同時再送信が開始された後、原告を含む権利者5団体は、当然のことながら従来の5団体契約により処理することを了解せず、それぞれ別途権利処理の方法について関係者と協議を開始したものである。 BSアナログ放送の同時再送信について、5団体契約による低い料率の適用が認められてきたのは、昭和48年当時に合意した統一書式による契約文言の解釈上、「放送番組の同時再送信」に「BSアナログ放送の同時再送信」が合意当時の契約意思として含まれているからではないのである。契約解釈上は、あくまで合意当時に存在した地上波放送の同時再送信でしかあり得ないのであるが、BSアナログ放送の開始後に、その目的や番組内容等に鑑みて、地上波放送の同時再送信と同様の扱いをすることについて、5団体が譲歩して了解したことによるのである。 CS放送の同時再送信については、その経緯、目的、番組内容等から、BSアナログ放送のように特別扱いをする必要はないため、5団体は、いずれも従来の5団体契約による低い料率の適用を了解しなかったのである。そして、原告は、平成5年以降連盟との交渉を行い、平成7年9月13日に本件使用料規程の原則的料率に従うことを前提とした合意が成立するに至ったものである。 なお、原告以外の権利者団体のひとつである日脚連については、番組製作・供給会社との間で、CS放送への使用及び有線放送による同時再送信における使用について使用料を定める方法により、委託放送事業者及び有線放送事業者に対する権利をいわゆる「元栓処理」しているようである。しかしながら、原告については、これとは異なり、番組製作・供給会社との権利処理手続において、CS放送及び有線放送事業者によるCS放送の同時再送信についての許諾を併せて行っていることはなく、すべて末端の利用者との関係で権利処理を行っていることは、前記(1)の「原告の再反論」ウにおいて述べたとおりである。 オ 以上のとおり、CS放送の同時再送信は5団体契約の対象となっていないから、原告は、被告成田及び被告銚子に対して管理著作物についての著作権侵害を理由として管理著作物の使用の差止め及び損害賠償・不当利得返還を請求し、被告行田に対して本件使用許諾契約に基づく使用料の支払を請求することができる。 したがって、被告らに対して5団体契約に基づく使用料等の支払を求めている別件訴訟(東京地裁平成14年(ワ)第4002号、第4003号、第4006号)との関係で、本件訴訟が二重起訴に当たらないことも明らかである。 (被告らの主張) 原告はCS放送の同時再送信が、5団体契約の対象とならず、本件使用許諾契約の対象となる旨の主張をするが、以下に述べるとおり誤りであり、否認する。 ア CS放送の同時再送信が本件使用許諾契約の対象である旨の原告の主張は、別個の法人である被告らと連盟とを混同し、また、同連盟も認めていないものであり、何らの法的根拠もなく、失当である。 原告の請求は、別件訴訟との関係で二重起訴に当たり、却下を免れないものと解されるが、仮にそうでなくとも、何ら理由のないものであることは明らかである。 (ア) まず、原告は、原告と被告行田がCS放送の同時再送信が本件使用許諾契約の対象となる「自主放送」として権利処理することを合意した旨の主張をするが、理由がない。原告は連盟の発行した旧版のハンドブックの記載を根拠に、原告と被告行田との間で原告主張のごとき合意をした旨主張するが、全く理由がない。被告らは、連盟とは独立の法人であり、原告と連盟との間でいかなる合意が成立しようが、それが被告らに及ぼされる法律的根拠は一切存在しない。のみならず、被告行田は同連盟に加入していないのである。さらに、このような合意の存在を裏付ける被告行田作成の書面も存在しない。 そもそも、被告行田が本件行田使用許諾契約に拘束されるとすれば、それは契約締結時に契約の内容を理解し、その内容の適用を受ける旨了承したことに法的根拠が存在するのである。しかるに、仮に、事後的に、原告と連盟がCS放送の同時再送信について別個の合意をしたからといって、被告らがかかる合意に拘束されるいわれはない。 (イ) 本件使用許諾契約の前文から明らかなとおり、本件使用許諾契約の対象となる行為は、「有線テレビジョン放送の自主放送」である。 そこで、上記本件使用許諾契約にいう「自主放送」の意味が問題となるが、原告と連盟が、昭和63年3月31日、本件使用許諾契約と同型の契約書の解釈について合意した覚書には、次のとおり記載されている。 「1 自主放送 放送の同時再送信以外のものをいい、例示すると、おおむね次のとおりである。 (1) 丙が製作する報道番組、教育・教養番組、娯楽番組、音楽番組、スポーツ番組、広告番組、テストパターン、情報番組等による放送。 (2) 丙以外の者が製作した録音物又は録音物による番組の放送」 すなわち、原告は、昭和63年の時点で、「自主放送」について、有線放送事業者が自ら製作する番組及び有線放送事業者以外が製作した録音物又は録音物による番組の放送と定義していた。 このような状況の下で、平成4年、原告と被告行田は、「自主放送」について著作権使用料を支払う内容の本件行田使用許諾契約を締結したのであり、原告及び被告行田とも上記覚書の定義を念頭に置いていたものである。 ところで、被告らが行うCS放送の同時再送信は、放送を受信すると同時に有線で再送信するものであり、自ら番組を製作するのではなく、また、録音物に固定されたものを放送するものでもないから、これが契約上の「自主放送」に当たらないことは明らかである。 (ウ) この点、原告は、連盟と原告との間で交わされた確認書の記載を取り上げ、「確認書は、CS放送の同時再送信が5団体契約の対象外であることを当然の前提として、自主放送としての使用料の算定方法について有線放送事業者に有利な取決めをしているものであって、その適用を拒絶するのであれば、結果として支払うべき使用料の額がより高額となるものである。」などと主張する。 しかし、同連盟と、被告らとは別の法人である上、被告行田のように同連盟に加入していない被告もいるのであるから、被告らが、連盟と原告との確認書に拘束される法的根拠は何も存在しない。 また、原告が指摘する確認書は、「CS放送の同時再送信が5団体契約の対象外であることを当然の前提として」いないし(むしろ、後述のとおり、連盟は、CS放送の同時再送信は5団体契約の対象であると理解している。)、5団体契約の方が料率が低く、かつ、原告は5団体の1名にすぎず、被告らは計算額の5分の1しか支払うべき義務はないから、「その適用を拒絶するのであれば、結果として支払うべき使用料の額がより高額となる」という原告の主張は、失当である。 以上のとおり、CS放送の同時再送信が本件使用許諾契約の対象である旨の原告の主張は、全く失当である。 イ ケーブルテレビ連盟は、CS放送の同時再送信が5団体契約に含まれる旨主張してきたのであり、本件使用許諾契約の解釈を巡って、CS放送の同時再送信が当然に本件使用許諾契約の対象になることは争いがない旨の原告の主張は事実に反する。 (ア) まず、原告の連盟に対する平成6年3月15日付「通信衛星受信番組(CSテレビ)の著作権処理に関する件」と題する書簡(乙25)によれば、原告と連盟との間で、CS放送の同時再送信が5団体契約と本件使用許諾契約のいずれに含まれるかについて完全に認識の違いがあることが分かる。 すなわち、原告は、CS放送の同時再送信が覚書第1条1項の自主放送の(2)に該当するとして、本件使用料規程の第10節2の規程中の備考Aを適用して、本件使用許諾契約の対象としたい旨主張した。これに対し、連盟は、CS放送の同時再送信は放送の同時再送信に該当するとして、同備考@を適用して、5団体契約の対象である旨反論した。 したがって、CS放送の同時再送信が5団体契約の対象ではなく、本件使用許諾契約の対象であることはこれまで争いになったことがない旨の原告の主張は、明らかに事実に反する。 (イ) 原告の上記書簡(乙25)に対し、連盟は、原告に対する平成6年3月22日付け「委託放送の音楽著作権処理の扱いについて」と題する書簡(乙26)をもって直ちに反論した。この反論書簡には、「当連盟は、貴協会との『覚書』通りに放送(再送信)番組として処理すべきと解釈し」との記載がある。 すなわち、同連盟は、覚書の当然の文理解釈としてCS放送の同時再送信が5団体契約の対象であると理解し、その旨原告に申入れているものである。このように、5団体契約及び覚書の文理解釈によれば、CS放送の同時再送信は5団体契約の対象と解するのが自然である。 (ウ) さらに、これに対する原告の平成6年3月25日付け「通信衛星受信番組(CSテレビ)の著作権処理に関する件」と題する書簡(乙27)には、「貴連盟との現行覚書に、CS受信番組の放送の(再送信)を表現した条項は、無いが、貴書簡では、『覚書』通りに放送(再送信)番組として処理すべきと解釈しておられること。」との記載がある。すなわち、原告は、連盟がCS放送の同時再送信について5団体契約の対象である旨主張していることを認めた上で、覚書上はCS放送の同時再送信についての記載がない旨反論するものであるが、そのことは、覚書上はCS放送の同時再送信が本件使用許諾契約に含まれる旨の表現がないことを原告が認めていることを示している。 したがって、平成6年当時、CS放送の同時再送信が、本件使用許諾契約と5団体契約のいずれの対象かは、原告と連盟との間で熾烈な争いとなり、かつ、原告は、従前の覚書にはいずれと解すべき記載もない旨自認していたのである。 (エ) これらの経緯を踏まえて、連盟は、平成6年9月27日付けの会員向け通知書(乙28)をもって、連盟の5団体契約の解釈の正当性を再確認し、原告の主張の不合理性を批判するとともに、会員に対し、原告に対する支払いを見合わすように通達した。この間、原告は、連盟に無断でCS放送を自主放送扱いで計算した額を使用料として、個別の有線放送事業者に請求書を送付するなどした。 (オ) その後、連盟と原告との間で交渉が続けられたが、CS放送の同時再送信が本件使用許諾契約と5団体契約のいずれに含まれるかについての合意は成立せず、平成7年に確認書において、「暫定措置」として「平成5、6年度の使用料計算に当たっては、委託放送事業者のチャンネルは自主放送時間として扱う。」ことになったが、これはあくまでも暫定措置であり、平成7年以降将来にわたって、CS放送の同時再送信が本件使用許諾契約に含まれることを当然に認めたものではなく、その後の協議に委ねられたにすぎない。 (カ) このように、連盟は、CS放送の同時再送信が5団体契約に含まれる旨一貫して主張してきた。平成5、6年度分の使用料の計算と支払いも暫定措置として妥協的に行われたにすぎず、CS放送の同時再送信が当然に本件使用許諾契約の対象になることは争いがない旨の原告の主張は、事実に反する。 のみならず、原告が連盟との交渉の当事者であるのに対し、被告らはかかる交渉に直接関与しておらず、交渉の経緯、内容を知ることができない立場にあることを考えると、原告は、被告らが交渉の経緯、内容について情報的に劣った立場にあることを奇貨として、自己の有利になるように事実に反する虚偽の主張をしたとも考えられる。 ウ CS放送の同時再送信は、5団体契約に含まれることが明らかであり、原告の一方的な都合で本件使用許諾契約に含まれる旨契約内容を変更することはできない。 (ア) 原告の本件使用料規程は一見して明らかなとおり、まず「有線テレビジョン事業者が、無線テレビジョン放送を受けて行うテレビジョン放送の再送信において著作物を使用する場合」を原則として備考@で規定し、それ以外の場合(「再送信のほかに」と明記されている。)を例外として備考Aで規定するという形になっている。 そして、CS放送の同時再送信は、有線テレビジョン放送事業者が、委託放送事業者の「無線テレビジョン放送を受けて行うテレビジョン放送の再送信」にほかならないから、本件使用料規程の文理解釈として、当然に備考@の適用となる。これに対し、備考Aは、原則である備考@が適用にならない場合の例外的規定であるから、備考@の適用を受けるCS放送の同時再送信について適用される余地はない。 (イ) 他方、原告の本件使用料規程は、その公共性に鑑み、その変更については、文化庁長官に届出をしてから公表されることとされており、本件使用料規程の解釈を被告らの意向を無視して原告が一方的に変更することは許されない。 また、本件使用料規程、5団体契約及び本件使用許諾契約は、約款たる性質を有するものであるが、約款による契約の安定性という観点からすれば、客観的に文理に従った解釈が行われるべきであり、不明確な点があれば、作成者に不利に解するのが適切であるというべきである。かかる観点からすれば、CS放送の同時再送信は5団体契約の対象と解すべきである。 (ウ) 原告は、本件使用許諾契約が締結された平成3年当時に、CS放送が存在しなかったとして、これを前提に5団体契約の対象となる「同時再送信」にCS放送の同時再送信が含まれず、本件使用許諾契約の対象となることは当然である旨の主張をする。 しかし、まず、本件使用料規程、5団体契約及び本件使用許諾契約の文言を素直に読めば「放送の同時再送信」は5団体契約の対象とする旨明記されているのであるから、CS放送が本件使用許諾契約の締結当時存在していなかったとしても、CS放送の同時再送信が5団体契約の対象となることは何の疑問を生じる余地もない。 この点、平成元年にBS放送が開始されるようになったが、原告を含む5団体は、BS放送の同時再送信について5団体契約の対象に含まれることを認めている。BS放送もCS放送も衛星放送であるという性質は全く同じであり、両者を別異に取り扱わなければならない理由はなく、しかも、BS放送もCS放送もほぼ時を同じくして放送を開始していることからすると、CS放送の同時再送信も、BS放送のそれと同様に、5団体契約の対象となることは明らかである。 にもかかわらず、原告がCS放送の同時再送信について単独契約にこだわるのは、平成4年以降の交渉に際して、5団体のうちで、原告と他の4団体とが利害対立したためにすぎない。このような原告の都合によって、被告らとの契約内容が変更されなければならない理由はないというべきである。 エ 以上のとおり、CS放送の同時再送信は5団体契約の対象となっているから、原告が、被告成田及び被告銚子に対して管理著作物についての著作権侵害を理由として管理著作物の使用の差止め及び損害賠償・不当利得返還を請求し、被告行田に対して本件使用許諾契約に基づく使用料の支払を請求することは、いずれも許されない。 原告は、日脚連等と共に被告らに対して別件訴訟(東京地裁平成14年(ワ)第4002号、第4003号、第4006号)を提起して5団体契約に基づく使用料等の支払いを請求しているものであるから、本件訴訟は別件訴訟と二重起訴に当たるものとして許されず、却下されるべきであるが、仮に二重起訴に当たらないとしても、原告の被告らに対する請求は理由がない。 (2) 被告らの有線放送する番組が映画の著作物であることから、原告は著作権の主張をすることができないか。 (原告の主張) ア 有線放送における管理著作物の使用状況 一般に、有線放送事業者が加入視聴者に送信している番組には次のようなものがあるが、そのほとんどの番組において何らかの形で音楽が使用されている。原告の許諾を得ることなく、管理著作物を有線放送において使用することは、管理著作物の著作権者の公衆送信権を侵害するものとなるため、有線放送事業を行う以上、原告の管理著作物についての権利処理手続が必要となる。 @地上波テレビ放送の同時再送信 ABS(放送衛星)テレビ放送の同時再送信 B地上波ラジオ放送・BSラジオ放送の同時再送信 CCS(通信衛星)放送のチャンネル(委託放送事業者)の同時再送信 D自主製作番組の送信 E番組供給事業者等からテープなどに固定された個別番組を購入し送信 F音楽を使用しない文字放送その他の番組の送信 イ 被告らが有線放送している番組の内容について 被告成田及び被告銚子が有線放送している番組は、別表1−@「被告成田・銚子の有線放送の内容と、JASRACから放送事業者への放送許諾の有無」記載のとおりであり、被告行田が有線放送している番組は、別表1−A「被告行田の有線放送の内容と、JASRACから放送事業者への放送許諾の有無」記載のとおりである。これらによれば、被告らにおいては、少なくとも上記アの@ないしDに該当する各種番組が有線放送されていることが明らかである。 上記アの@ないしDの番組のうち、@ないしBについては、一般新聞のテレビ・ラジオ番組欄等にその内容が掲載されており、ほとんどの番組において音楽の著作物が使用されていることは周知の事実である。そして、CS放送のチャンネルについても、以下に例を挙げて説明するとおり、原告の管理著作物が使用されているものである。なお、以下に挙げるチャンネルは、いずれも、被告らが、CS放送を受信して、そのうち当該チャンネルについて、これをそのまま同時再送信しているものである。 (ア) スペースシャワーTV 委託放送事業者である株式会社スペースシャワーネットワークが供給している音楽専門チャンネルで、日本のロック・ポップスを中心に、様々なジャンルの音楽が24時間放送されている。例えば、平成12年4月から平成13年3月までの間に、原告の管理楽曲である「桜の時」が37回使用されたことが、株式会社スペースシャワーネットワークから原告に対して報告されている。 (イ) 衛星劇場 委託放送事業者である株式会社衛星劇場が供給している映画専門チャンネルで、日本映画を中心に、あらゆるジャンルの映画が、1か月100タイトルのプログラムで放送されている。例えば、平成12年5月19日に放送された映画「釣りバカ日誌スペシャル」には、原告の管理楽曲である背景音楽「釣りバカ日誌スペシャルBGM」が収録されている。 ウ 以上のとおり、被告らは、その有線放送に管理著作物を使用しているものであるが、被告成田及び被告銚子は、それぞれ、有線放送のサービス開始以来現在に至るまで、原告との間で、管理著作物の使用許諾契約を締結することなく、有線放送に管理著作物を使用し、原告の管理著作物の公衆送信権を侵害している。また、被告行田は、本件使用許諾契約に定められた使用料の支払いをしないまま管理著作物を有線放送に使用している。 (被告らの主張) 原告の主張は争う。以下に述べるとおり、原告はそもそも被告らに対して著作権の主張をなし得る立場にない。 ア テレビ番組は「映画の著作物」であること テレビ番組は、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」、かつ、生放送番組を除き、ビデオテープ等の「物に固定されている著作物」であるから、著作権法にいう「映画の著作物」に該当する。そして、著作権法においては、映画の著作物について、著作権者は「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」と定められるとともに、「その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物」の著作者が、映画の著作物の著作者に当たらないことを明確にしている(著作権法16条)。 ところで、著作権法16条が映画の著作物について著作者を「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」と定めたのは、著作権法が著作によって著作権が発生するという無方式主義(17条2項)と、著作者に著作者人格権を認めていることから必然的に生じた結論であるが、著作権法16条がそのまま適用されれば、映画の著作物について複数の著作権者が存在し、著作物の利用が著しく困難になる。また、著作権法の本質は、所有権と同様に、「一定の著作物の利用を直接に支配して利益を受ける排他的の権利」ということにあるから、共同著作物のような場合を別とすれば、複数の著作権者が存在することは著作権の本質に反する。 そこで、著作権法29条においては、「映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する」と定めている。その結果、映画の著作物については、他の著作物と異なり、著作権は映画製作者に帰属し、著作者は著作人格権のみを行使することになった。そして、映画著作者が行使する著作権は、映画の著作物を一般的、全面的に支配する権利であり、客体に対する種々の権能の束ないし総合とはみなされない。 イ 映画の著作物において音楽の著作者に留保されている権利はないこと このように、著作権法は、「映画の著作物」という概念を認め(著作権法2条3項など)、一般的な著作物とは異なった扱いをしている。すなわち、それは映画の著作物の著作者を法定し(16条)、著作権が映画製作者に帰属する(29条1項)と定めている点である。このような著作権法上の特別な扱いは、映画の著作物の特殊な性格、すなわち、その製作に多数の関係者が関与し、しかも、莫大な費用がかかることから、投下資本の回収を容易にし、映画製作の意欲をかき立てる目的で、その権利関係を明確、単純化するためである。 ところが、映画の著作物に使われた音楽その他の著作物の著作者が当該映画の著作物について何らかの権利を留保し、映画の著作物の著作権とは別に、自らの権利を主張することができるということになれば、著作権法がわざわざ映画の著作物という概念を認め、映画の著作者を「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」と法定し、著作権が映画製作者に帰属すると定めた意味が全く失われてしまう。さらに、映画の中身を構成する音楽その他の著作者は、当該映画の製作に当たり、著作物を使用することを許諾しているのである。それにもかかわらず、なお権利の留保を認める必要性がどこにあるのか理解できない。 被告が有線放送するテレビ番組は、いずれも多数のスタッフが関与しているものである。原告主張のように一部のスタッフについて著作権の主張が認められるとすると、そのいずれもが権利を留保することになり、放送をはじめ映画の著作物としての利用が不可能になる。また、原告が主張する音楽など一部の著作者に限って権利の留保を認めるとすれば、なぜ、それ以外のスタッフには権利の留保が求められないのか、その合理的区別が明らかではない。実質的に考えても、わずか1分程度しか流れない主題歌の作詞・作曲者、編曲者が、1時間の番組の全体について権利を行使し得るというのは妥当とは思われない。また、複数の楽曲が利用されている場合、いずれの音楽スタッフが権利を有するのかも不明確となってしまう。 このように、原告の主張を認めると、一つの映画の著作物について、あまりに多数の権利者が存在することになり、複雑極まりない権利関係を生ずる。しかも、原告が請求する使用料等を支払ったとしても、原告らの団体に加盟していない権利者からは、被告らの同時再送信を差止めされる場合もあることになってしまう。すなわち、原告に使用料等を支払うことは本件の問題を何ら解決することにならず、かえって、映画の著作物の利用関係、権利関係を複雑にし、その利用を不可能ならしめるだけなのである。 原告の主張は、著作権の権利としての本質に反する考え方であり、このような複雑な権利関係の発生を否定するために、映画の著作物という概念を想定し、その著作者を限定し、かつ、著作権を映画製作者に帰属せしめた著作権法の規定とも相容れないものであって、到底認められない。 ウ 最高裁判決の趣旨に照らしても、原告は、他の権利者との合意によらなければその権利を行使できないものであること (ア) 最高裁平成12年(受)第798号同13年10月25日第一小法廷判決・裁判集民事203号285頁(以下「キャンディ・キャンディ事件上告審判決」という。)は、二次的著作物に関し、二次的著作物の著作者は、原著作物の著作者の合意によらなければその権利を行使できないと解されることを明らかにした。この最高裁判例は、二次的著作物について共有著作物に関する著作権65条の規定を事実上、類推適用または準用して、二次的著作物の著作者と原著作者との合意によらなければ権利を行使できないことを明らかにしたものと評価し得る。 この最高裁判例の趣旨は、映画の著作物における音楽関係の著作者についても及ぼすことが可能と思われる。なぜなら二次的著作物である映画の著作物について、複数の権利者の権利が併存している状況は、まさに共有著作物の共有著作権者の関係や、原著作者と二次的著作物の著作者の関係と異なるところがないからである。 (イ) 最高裁判例を映画の著作物と音楽の関係について当てはめたとき、権利行使の方法は次のとおりとなる。 @ まず、音楽を原著作物とし、これを映画的に翻案、複製して放送事業者が映画の著作物を製作した場合、二次的著作物である映画の著作物については、音楽家と放送事業者の二者の合意により行使しなければならない。 A 次に、音楽と脚本の両方を原著作物とし、これらを映画的に翻案、複製して放送事業者が映画の著作物を製作した場合、二次的著作物である映画の著作物については、音楽家と脚本家の放送事業者の3者の合意により行使しなければならない。 @の場合、放送事業者は、映画の著作物を利用しようとする場合、音楽家との合意による必要があり、Aの場合にはさらに脚本家との合意による必要があるから、結局、放送事業者を介して、音楽家と脚本家と放送事業者の3者の合意によらなければ、二次的著作物である映画の著作物は利用できなくなる。 B また、たとえば漫画家の漫画を原著作物とし、これを翻案して脚本、音楽が製作され、更にこの脚本、音楽を映画的に翻案、複製して放送事業者が映画の著作物を製作した場合、三次的著作物である映画の著作物については、漫画家(原著作者)、音楽家(二次的著作物の著作者)、脚本家(同)、放送事業者(三次的著作物の著作者)全員の合意により行使しなければならない。 他方で、音楽、脚本は、漫画の二次的著作物に当たる以上、それぞれ漫画家と音楽家、漫画家と脚本家の合意によらなければ権利行使できない。 (ウ) 以上のとおり、上記判例の趣旨に照らすならば、映画の著作物たるテレビ番組について、原告は、他の権利者との合意によらなければ権利行使することができないものと解される。 エ 以上のとおりであって、原告は、そもそも被告らに対して著作権の主張をなし得る立場になく、被告らは、放送番組を有線放送するに対して、原告から許諾を得る必要はないというべきである。 (原告の再反論) ア 被告らは、テレビ番組はすべて「映画の著作物」に該当するとして、テレビ番組の構成要素である音楽の著作物の著作権者が公衆送信禁止権や使用料等請求権を行使することはできないとするが、このような被告らの見解は、以下に詳細に述べるとおり、著作権法の理解を誤るものである。 (ア) テレビ番組が、ビデオテープ等に固定されている場合に、それが著作権法2条3項にいう「映画の著作物」に該当する場合もあるが、すべての番組が「映画の著作物」に該当するわけではない。また、そもそも被告らの有線放送において送信されている番組は、放送事業者が放送するテレビ番組に限られているわけでなく、自主製作番組や、番組供給事業者から購入する番組も含まれているのである。 (イ) 著作権法16条は、「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、製作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と定めており、小説、脚本等の原作品の著作者や映画に使用された音楽等の著作者については、映画自体の著作者ではないため、映画の著作物の著作者には含まれていない。 こうした映画の原作者や映画に使用された音楽の著作者は、二次的著作物である映画の著作物の原著作物の著作者として(著作権法11条)、あるいは映画の著作物において利用されている著作物の著作者として、それぞれ映画の著作物の利用について別途権利を留保している。すなわちこれらの著作物は、映画の著作物とは分離して権利処理が必要な独立の著作物として位置付けられているのである。 また、著作権法29条2項は、同法16条で定められた映画の著作物の著作者が有する著作権を、映画著作者としての地位に立つ放送事業者に帰属させることを定めたものであって、小説、脚本、音楽等映画の原作品又は映画に収録されている作品の著作権者が有する権利に関する規定ではないから、これらの作品の著作権は、契約によって放送事業者に譲渡されない限り、当該著作権者に残っていることはいうまでもない。 有線放送事業者は、放送事業者から、放送の再送信について許諾を受ける必要があるが、これは、放送事業者が有する著作隣接権たる有線放送権(著作権法99条1項、103条、63条1項)に基づくものであり、その許諾を受けたことで、テレビ番組に使用されている音楽等の著作権者との関係で利用許諾を受けたことにはならない。 (ウ) 以上のような解釈の正当性は、著作権法の立法過程における議論に照らしても明らかである。すなわち、現行著作権法の制定過程においては昭和37年から同41年にかけて著作権制度審議会及び同審議会の小委員会において議論が重ねられたが、映画の著作物に利用された著作物の著作者が、当該映画の利用について、利用された自己の著作物の著作権を行使できることについては、利用される著作物が既存作品か否かを問わず、当然の前提として議論されたのである。 その上で、映画の著作者としての地位も併存させるべきか、あるいは権利譲渡推定規定を置くべきかということが検討され、結論的には、映画の著作者からは除外すること、また、映画の利用権の処分については、当該著作者と映画製作者との個別契約に委ねることが適切であるとされた。なお、同審議会等における議論において、原作者等の取扱いについて、利用された著作物と映画の著作物が原著作物と二次的著作物の関係にあるかどうかということを区別して議論されたことはない。一般的には、小説や脚本は翻案して利用されるのに対し(原著作物となる)、音楽は複製して利用される(原著作物ではない)ことが多いと考えられるが、それを区別することなく、「映画的に翻案又は複製された小説、脚本、音楽等」といった表現が用いられている。 こうした議論を踏まえて、著作権法16条及び29条が作成されているのであるから、その解釈上、映画の著作物の利用について、映画において利用された脚本、音楽等の著作物の著作者が著作権を行使できることについては、全く異論がないのである。 (エ) 著作権法16条、同法29条2項の正しい解釈は以上のとおりであるから、有線放送事業者が有線放送する番組が、映画の著作物に該当するかどうか、映画の著作物に該当する場合にその著作権が放送事業者に帰属するかという問題とは何ら関係なく、当該番組に使用されている音楽の著作物について別途著作権処理が必要となるのである。 イ 被告らは、また、被告らの有線放送で再送信されている劇場用映画及びテレビジョン放送用番組について、それらに使用されている管理著作物についての権利処理は、劇場用映画あるいは番組製作時において有線放送の分まで含めて行われている旨の主張をするが、以下に述べるとおりかかる主張は誤りである。 (ア) 劇場用映画について a 劇場用映画の映画製作者が行う権利処理手続 劇場用映画の映画製作者は、映画に管理著作物を使用した場合には、あらかじめ原告に対し、映画用の「音楽著作物使用許諾申請書」を使用楽曲明細書を添えて提出し、管理著作物を映画のために録音すること及びこれを上映することについての許諾を受けることとなっている。 録音使用料及び上映使用料は、それぞれ本件使用料規程の第2章第4節「映画」に記載された方法で算定される。ここでの「上映」がスクリーンに映写することをいい、ラジオ放送及びテレビジョン放送を含まないことについては、同規程の備考に明記されている。 また、上記映画用の「音楽著作物使用許諾申請書」に記載されている録音及び上映の使用許諾条件には、次の条項が含まれている。 ・ この使用許諾はいかなる意味においても使用される著作物に関する権利の譲渡を含まない。 ・ 申請者は、許諾の範囲を超えて使用する場合、別に使用許諾を受けること。 b 委託放送事業者が劇場用映画をCS放送に使用するために行う権利処理手続 映画製作者が製作に当たり原告との間で行う前記aの権利処理手続のみでは、管理著作物を使用した劇場用映画をCS放送することについては許諾されていないため、委託放送事業者(放送法2条3号の5)は、原告から別途管理著作物のCS放送への使用について許諾を得る必要がある。 このため、原告と委託放送事業者で構成される衛星放送協会(旧CS放送協議会)とは協定書(以下「協定書」という。)を締結し、その権利処理に関するルールを定めている。原告と各委託放送事業者とは、この協定書に基づき「放送・放送用録音の許諾契約」を締結しているが、この契約においても、原告は管理著作物のCS放送への使用を許諾しているのみで、著作権の譲渡は一切行われていない。そして、委託放送事業者が第三者に対し、自己の放送番組を利用させる場合には、当該第三者に対し、原告との間で権利処理を行うよう指示する必要のあることが、念のため定められている。 c 被告らと委託放送事業者との契約 被告ら有線放送事業者は、CS放送を受信してこれを再送信することについて、委託放送事業者と許諾契約を締結しているが、それは、放送事業者の著作隣接権である有線放送権(著作権法99条1項)の処理を行うものであり、原告との間で必要な権利処理を含むものではない。このため、委託放送事業者と有線放送事業者の間の許諾契約においては、規制音楽著作物の有線放送使用についての権利処理は、有線放送事業者側の責任において行う必要のあることが、明記されており、被告らも、CS放送の受信及び同時再送信について、原告に対する権利処理が別途必要であることを十分認識しているはずである。 d 以上の点から明らかなとおり、被告ら有線放送事業者が、有線放送の番組として劇場用映画を使用する場合には、映画製作者や委託放送事業者が原告との間で行う権利処理とは別に、当該劇場用映画の中で使用されている管理著作物の使用について、原告との間で著作権(公衆送信権)の権利処理を行うことが必要である。 (イ) テレビジョン放送用番組について a NHK及び一般放送事業者が行う権利処理手続 NHK及び一般放送事業者(放送法2条3号の3)が、テレビジョン放送を目的として管理著作物を使用した番組を製作することについては、原告との間で締結している「放送・放送用録音許諾契約」によって権利処理されている。ここでも、前記(ア)の映画製作者との契約同様、いかなる意味においても管理著作物の著作権譲渡は行われていない。その点は、放送事業者が外部の製作プロダクション等に委託して番組を製作する場合も同様である。 b 被告らとNHK及び一般放送事業者との契約 被告らを含む有線放送事業者は、地上波テレビジョン放送及びBSテレビジョン放送を受信して、これを同時再送信することについて、NHK及び一般放送事業者との間で許諾契約(再送信同意契約)を締結しているが、その内容は、前記(ア)cに記載した委託放送事業者との契約と同様である。再送信に関して、第三者の権利の処理を必要とする場合は、その権利処理は有線放送事業者の責任と負担において行う必要があることが契約中に明記されていることも同様である。 c 以上の点から、被告らは、地上波テレビジョン放送及びBSテレビジョン放送を受信して同時再送信することについて、番組製作者でもある放送事業者が原告との間で行う権利処理手続とは別に、原告との間で著作権(公衆送信権)の権利処理を行う必要があることは明らかである。 ウ 被告らは、さらに、原告が著作権者としてCS放送の同時再送信による有線放送への管理著作物の利用を許諾するためには、当該CS放送の番組について権利を有するすべての者と合意をしなければならず、原告が単独で権利行使することはできない旨主張する。 しかし、被告らが引用するキャンディ・キャンディ事件上告審判決は、著作権法28条により、二次的著作物を利用しようとする者は原著作物の著作者及び二次的著作物の著作者双方の許諾を得なければならないだけでなく、二次的著作物の著作者自身がその二次的著作物を利用する場合にも、原著作物の著作者から許諾を得る必要があることを判示したものにすぎず、その点の判断に特に目新しい点があるわけではない。 被告らは、著作権者の公衆送信権(有線放送権)、放送事業者の著作隣接権としての有線放送権その他自らの有線放送を行うに当たって必要な権利処理を、各権利者と個別に行う必要があるのであって、関係する権利者側が被告ら利用者のために使用の許諾についての合意をする必要はなく、各権利者はそれぞれ権利行使すれば足りるのである。 したがって、原告が単独で権利行使できないという被告らの主張は、上記最高裁判決の趣旨を誤解するものである。 (3) 原告は、CS放送の同時再送信について委託放送事業者とは別に被告らからも使用料の徴収ができるか (原告の主張) ア 被告らは、CS放送の同時再送信であっても、有線放送に管理著作物を使用する以上、委託放送事業者とは別に原告に対して使用料を支払う必要がある。被告らは、原告が、CSの委託放送事業者が被告らに対して同時再送信を許諾することに反対していないことをもって、原告が委託放送事業者に対して同時再送信のための送信を許諾していることの裏付けである旨の主張をするが、失当である。委託放送事業者が被告らに対してCS放送の同時再送信を許諾するのは、自らが有する有線放送権(著作隣接権)に基づく権利行使であって、原告の著作権を行使しているのではないから、原告がそのことに反対するいわれはない。また、原告は委託放送事業者に対して放送の許諾をしているのであって、被告らの同時再送信についてまで許諾していないことは、上記(1)の「原告の主張」に述べた原告と委託放送事業者間の契約の内容に照らせば、明らかである。 イ 被告らは、原告と委託放送事業者との契約において、使用料の算定要素である「放送収入」に、委託放送事業者が有線放送事業者から受ける番組販売収入の50%を入れていることをもって、委託放送事業者が有線放送事業者に対し番組販売を行うことについての権利処理を行っているとし、よって、原告が有線放送事業者にも使用料を請求するのは、二重請求であると主張する。 しかし、原告と委託放送事業者との間の契約関係及び委託放送事業者と有線放送事業者との間の契約関係については、上記ア記載のとおりであって、原告は、委託放送事業者に対し、放送及び放送用の録音について許諾しているのみであり、有線放送事業者が委託放送事業者の行うCS放送を受信して再送信することについての許諾はしていない。 原告と委託放送事業者の団体である社団法人衛星放送協会(以下「協会」という。)とは、平成11年12月1日付けで協定書を締結し、協会会員が行う管理著作物の放送及び放送用録音についての許諾条件を合意している。 同協定書では、委託放送事業者の放送1チャンネルあたりの年間使用料は、当該チャンネル当たりの放送収入に所定の料率を乗じた額又は、所定の年額使用料のいずれか多い額(消費税別)と定めている。そして、その算定要素となる「放送収入」については、「年間総放送収入から、顧客管理費の実費、広告代理店手数料として広告料の20/100、CATV番組販売収入の50/100の額及びイベント収入等放送以外による収入を、それぞれ控除して得た額とする」と定めている。 その結果、使用料の算出方法を次のような式で表している。 使用料=放送収入×料率 放送収入=(受信料収入−顧客管理費)+(広告収入×80/100)+(CATV番組販売収入×50/100) 使用料算定要素となる放送収入の範囲をどのようにとらえるかということについては、権利者側と利用者側において、常に協議を要する問題となっている。 上記の協定書を締結するまでの交渉においても、その点についての協議を重ね、結果として、適用期間を平成13年3月31日までと限定して、使用料の定め方を合意したものである。 しかし、これは、委託放送事業者が原告に支払う使用料を算出する際の、算定要素の定め方に関する協議であって、放送収入にCATV番組販売収入を含めることで、有線放送事業者がCS放送番組を再送信することについての許諾料を委託放送事業者が肩代わりして支払うことになるという考え方は、同協定書の当事者間には全くない。すなわち、原告も委託放送事業者側も、同協定書に基づく使用料支払いをもって、原告に対する権利処理をいわゆる「元栓処理」しているという認識は持っていない。 このため委託放送事業者は、有線放送事業者との間の契約書において、原告の管理著作物の使用については、有線放送事業者側で処理する責任のあることを明記していると聞いている。 また、有線放送事業者が委託放送事業者に対し、CS放送の同時再送信について対価を支払っているのは、放送事業者の有する著作隣接権としての有線放送権を使用することについて権利処理しているものであって、著作権者の有線放送権の使用料を支払っているものではない。 したがって、被告らの二重請求であるとの主張も誤解に基づくものである。 (被告らの主張) 原告の主張は否認し、かつ争う。 ア 有線放送事業者による同時再送信は、著作物の新たな利用ではないし、原告も同時再送信を前提に委託放送事業者に課金しているから、CS放送の同時再送信は原告が委託放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれている。 (ア) 同時再送信は、委託放送事業者が放送するテレビ番組の電波について、有線放送事業者が委託放送事業者の許諾を得た上で、受信すると同時に有線で送信する行為である。つまり、有線放送は、委託放送事業者の範囲内の行為であって、実質的には放送の中継行為にすぎない。 (イ) このような同時再送信の性質に鑑み、欧米等の諸外国においても、放送を直接受信できる地域内において放送を受信して行う有線伝達は、通常の家庭用受信機による放送の受信と同じであり、公の伝達に該当しないという議論があり、また、放送を直接受信できる地域内における有線伝達は、放送事業者が著作権者から得ている放送の許諾によってカバーされており、公の伝達として別個に許諾を得る必要はないという議論がなされ、現に同時再送信が著作権侵害に該当しないという制度、判例法が構築されている。 このような諸外国の例は、我が国も加盟しているベルヌ条約の下における公衆送信の解釈として、我が国の著作権法の解釈と直接かつ密接な関連性を有するのであり、基本的に我が国でも妥当する。 (ウ) 上記のような諸外国の状況を受けて、我が国においても学説上同様な議論がされているところであり、区域内再送信については新たな許諾は不要との議論がなされているところである。我が国の著作権法はベルヌ条約の中の体系に位置づけられることからすれば、当然である。 また、著作権者の合理的意思という観点から見ても、著作権者は、放送事業者に対して、その著作物を使用した映画の著作物たる番組の放送を許諾しているが、その際に受領する著作権料は、その局の放送エリア(ネット放送する場合はそのネット局の放送エリア内も含む。)のすべての視聴者が視聴する対価として支払われているのであり、著作権者は、放送事業者の放送エリア内の視聴者が、放送か有線放送かを問わず、公衆送信により当該番組を受信することを許諾しているものと解されるのである。 そして、有線放送事業者の行うCS放送の同時再送信は、放送の届く範囲の視聴者を対象とした、本質的には中継にほかならないものであるから、有線放送事業者の同時再送信と放送事業者の放送のいずれにしても、放送事業者の放送エリア区域内の視聴者が、当該番組を視聴したという実態には何ら変わりがないのであって、このような実態に鑑みて、同時再送信の概念を実質的に再構成すれば、同時再送信は、著作権者が許諾した放送事業者の放送の範囲内における視聴手段の1つにすぎず、著作物の新たな使用には当たらず、著作権者等の当初の許諾の範囲内に含まれるというべきである。 (エ) なお、BS放送事業者であるWOWWOWの場合、WOWWOWが有線放送事業者に対して番組を「放送」し、有線放送事業者がこれを「同時再送信」するという仕組みは全く異ならない。しかし、WOWWOWと有線放送事業者の間の契約は、業務委託契約とされ、有線放送事業者が加入者数に応じてWOWWOWから手数料を受領することになっている。 ところで、原告は、WOWWOWの同時再送信については使用料を徴収していない。つまり、原告は、有線放送事業者が同時再送信することを前提に、同時再送信を含めてWOWWOWに著作物の利用を許諾している。そうであるならば、原告は、CS放送についても、全く同様に、同時再送信を許諾しているといえる。CS放送とWOWWOWとでは、同時再送信の実態は全く異ならない。それなのに、WOWWOW又は委託放送事業者と有線放送事業者という原告にとっては第三者間の契約の内容によって、有線放送事業者の同時再送信行為が著作権侵害行為になったり、適法な著作物の利用になったりすることは、法的にあり得ないというべきである。 (オ) 以上によれば、CS放送の同時再送信は原告が委託放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれているものであって、原告が被告らに対して別途権利主張をなし得るものではないというべきである。 イ 仮にそうでなくとも、以下に述べるとおり、原告は委託放送事業者に対して同時再送信の分まで含めて著作物使用料を課金しており、被告らに対してさらに公衆送信権を主張し、課金するのは二重請求であり、原告の請求は、権利の濫用であって許されない。 (ア) 原告は、委託放送事業者の放送に対し、著作物使用料を課金しているが、その課金は、一般の視聴者が自ら衛星アンテナを立てて受信する場合と、有線放送事業者が衛星アンテナを立てて受信する場合とで計算方法が異なる。原告は、一般の視聴者が自ら衛星アンテナを立てて受信する場合、個別受信者1名を1名分として計算し、委託放送事業者に課金しているが、有限放送事業者が衛星アンテナを立てて受信する場合、有線放送事業者を1名分として計算せず、加入者数分として計算し、委託放送事業者に課金している。 つまり、有線放送事業者は、委託放送事業者に対する課金計算において、単なる個別受信者として扱われず、同時再送信を視聴する加入者数に応じた団体受信者として扱われているのである。 (イ) しかし、委託放送事業者の「放送」という観点で考えれば、一般の視聴者が自ら衛星アンテナを立てて受信する場合と、有線放送事業者が衛星アンテナを立てて受信する場合とで、その「放送」としての実態は何ら異ならない。一般の視聴者が立てるアンテナも、有線放送事業者が立てるアンテナも、物理的な意味ではいずれも1個のアンテナであり、委託放送事業者が送信した電波を、1個のアンテナが受信するという関係は全く同じだからである。 しかるに、原告が、あえて課金について一般の視聴者と有線放送事業者とで異なる扱いをしているのは、有線放送事業者は1個のアンテナで受信しているとはいっても、これを多数の加入者に同時再送信して結局は多数の加入者が視聴するから、その人数に応じた課金をしたいとの考え方に基づくものと思われる。 言い換えれば、原告は音楽を最終的に利用、消費する末端の視聴者(ユーザ)を基準にして、一般の視聴者と、有線放送事業者を別個に取り扱っているのである。 (ウ) 上記のような事情からすれば、原告が、有線放送事業者の同時再送信について、これが「有線放送」として新たな著作物の利用に当たるとの理由で、使用料を要求することは許されない。 なぜならば、原告は、委託放送事業者と有線放送事業者の間の「放送」について、これが「同時再送信」されることを前提に、一般の視聴者が衛星アンテナを立てて受信する場合とは全く異なる扱いをして既に課金しているからである。 すなわち、「同時再送信」を前提に、「放送」段階で課金を行っている以上、有線放送事業者の同時再送信を「有線放送」と評価して課金するのは、二重請求にほかならない。 CS放送の同時再送信をケーブルテレビの加入者多数が視聴するという意味で著作物の経済的な利用ととらえるとしても、原告は、「放送」段階で経済的評価を行い、委託放送事業者に同時再送信を前提とした課金を行っているから、「有線放送」段階で新たに課金することはできない。 (エ) また、前記キャンディ・キャンディ事件上告審判決の趣旨に照らしても、原告は、有線放送事業者がCS放送の同時再送信を行うことを許諾したものというべきである。 すなわち、原告と委託放送事業者は、映画の著作物である当該番組について、共同で権利行使を行う必要があるが、もし、委託放送事業者が原告に無断で、有線放送事業者に対して同時再送信をした場合であれば、原告は、委託放送事業者については同時再送信を許諾する行為、有線放送事業者については同時再送信を実施する行為をそれぞれ差し止めることができる。 しかし、原告が、委託放送事業者に対して、同時再送信を前提とした課金を行い、委託放送事業者が有線放送事業者に「放送」することを許諾した以上は、原告は、委託放送事業者が同時再送信を許諾する行為を差し止めることができない。その理由は次のとおりである。 a 同時再送信は、委託放送事業者が有線放送事業者に同時再送信を許諾する行為と、有線放送事業者が同時再送信を実施する行為とからなる共同行為であるから、万一、有線放送事業者の同時再送信が著作権侵害の不法行為であれば、それは委託放送事業者と有線放送事業者の共同不法行為になる。 b 複数の共同不法行為者の一方(委託放送事業者)の行為は適法なのに、他方(有線放送事業者)の行為が違法などということは法的にあり得ないから、結局、原告は、同時再送信を前提とした委託放送事業者に対する許諾をもって、有線放送事業者が同時再送信することをも許諾したというべきである。 c また、もし、原告が同時再送信を許諾していなければ、有線放送事業者は、著作権侵害の共同不法行為による損害賠償について委託放送事業者に求償できることになるから(共同不法行為の不真正連帯債務性)、結局、委託放送事業者が原告に損害賠償を請求することになってしまうからである。 (オ) ところで、原告が、委託放送事業者の有線放送事業者に対する「放送」について加入者数に応じた課金をしているのは、音楽を最終的に利用、消費する末端の視聴者(ユーザ)の数を基準にしていることは、既に述べたとおりである。 そして、委託放送事業者の「放送」も、有線放送事業者の「同時再送信」も、結局は、末端の視聴者が番組をテレビジョンで視聴することを目的とした一連、一体の行為である。放送と有線放送とで、テレビジョンを見るという利用形態は全く変わらない。 このように、放送と有線放送とで著作物の利用形態が全く同じであるとすれば、同時再送信における有線放送事業者の地位、役割は、書籍販売における流通業者と同様、単なる情報の媒介者、流通者にすぎない。 また、著作物使用料は、最終的に末端の視聴者に転嫁されるが、末端の視聴者にとっては、自らアンテナを立てて「放送」を視聴すれば1回しか課金されないのに、同時再送信で視聴すれば2回課金され、結局はより高額の使用料を支払わされることになってしまう。 つまり、テレビジョン視聴という全く同じ形態の著作物の利用、消費でありながら、その流通ルートによって、視聴者の使用料の負担が異なることになり、同時再送信の視聴者に不公平を強いることになるのであって、視聴者の理解は到底得られない。 (4) 原告の請求は仲介業務法及び独占禁止法に違反するか (被告らの主張) ア 原告の請求は仲介業務法に違反する。 (ア) 仲介業務法及び同法施行規則においては、著作物使用料規程において定めるべき事項が厳格に定められ、一定の手続を経た後に文化庁長官の認可を受けるべきこととされていた。仲介業務法にこのような定めがおかれたのは、原告が、我が国において音楽著作権に関し、仲介業務をなすことの許可を受けた唯一の仲介団体であったことからも明らかなように、国の政策として特定の団体の著作権に関する仲介業務を独占させていたため、仲介団体に使用料規程を自由に作成させたのでは、仲介団体にとって一方的に有利で、利用者にとって不利な使用料規程が作成されるおそれがあり、このようなことを防止するために、文化庁長官に契約内容及び使用料率のチェックをさせ、その内容の合理性を確保し、使用者の利益を保護するためである。したがって、認可を受けていない使用料規程に基づいて請求を行うことは、仲介業務法に違反することになる。 ところで、本件使用料規程においては、その備考の規定から明らかなとおり、「有線テレビ事業者が、無線テレビジョン放送を受けて行うテレビジョン放送の再送信において著作物を使用する場合の使用料」は、備考@に基づき締結された5団体契約の使用料率に従って計算され、「再送信を除いた自主放送」の場合にのみ備考Aの使用料率によることが明らかである。そして、そのようなものとして文化庁長官の認可を受けているのである。 そして、本件使用料規程においては、地上波であれ衛星波であれ、電波を受信すると同時に有線放送する場合を「同時再送信」といい、有線放送事業者が自ら番組を製作してこれを放送する場合、及び第三者が製作した「録音物又は録音物による番組の放送」を「自主放送」と定めていることは明らかである。 原告の本訴請求は、仲介業務法に反し、文化庁長官の認可を受けた使用料規程に反する請求を行うものであり、認められない。 (イ) ところで、5団体と原告は、いずれも同じ受信料収入を基礎として、5団体は0.0027という使用料率を、原告は0.0051という使用料率を乗じて、使用料を算出するものである。 ところが、日脚連の計算の対象となっている被告の収入は、CS放送の売上も含まれている。そして、この中には原告が「コントロールを及ぼしうる範囲に属する著作物」である管理著作物の使用料が含まれている。したがって、管理著作物の使用料という観点からいえば、5団体契約に基づく請求と原告の請求は完全な二重請求となっているのであり、仲介業務法及び著作権等管理事業法がこのような不合理な事態を容認しているとは考えられない。 しかも、原告の請求する使用料の使用料率は、5団体契約に基づく使用料率のほぼ2倍になっている。5団体の請求は、原作、シナリオ、脚本、俳優の演技及び音楽を含めた使用料率であるのに、原告のそれは音楽だけに限定されているにもかかわらず、ほぼ倍になっている。 それゆえ、原告の使用料請求額も、1団体であるにもかかわらず、5団体の使用料請求額の倍以上となっているのである。しかも、原告は、5団体が使用料算定の基礎から除いている広告料収入まで算定の基礎として、請求額の高額化を図っている。このようなことは全く不合理であって、仲介業務法や著作権等管理事業法の趣旨に反するものというべきである。 イ 原告の請求は独占禁止法に違反するものである。 (ア) 原告は、仲介業務法の下で、我が国における唯一の音楽著作物の管理団体であったものである。そのような独占的地位にあった原告の定める使用料規程は、文化庁長官の認可を受けることによって、その内容の適法性、合理性が担保されていたものである。しかるに、原告は、原告が主張するごときCS放送の同時再送信の使用料算定方式については、前述のとおり、文化庁長官の認可を受けておらず、その内容についてチェックを受けていないことから、極めて不合理な内容になっている。 (イ) 独占禁止法19条の規定を受けて定められた不公正な取引方法に関する公正取引委員会告示(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)においては、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商習慣に照らして不当に「相手方に不利益になるように取引条件を設定し、又は変更すること」を不公正な取引方法として規制の対象としている(一般指定14条3号、4号)。 仲介業務法の下において、原告が我が国における唯一の音楽著作権管理団体であるにもかかわらず、文化庁長官の認可を経ていない、しかも、その内容が極めて不合理な使用料の算定方式に基づいて被告行田をはじめとする有線放送事業者に使用契約を締結させることは、優越的地位に基づく不利な取引条件の設定であり、上記一般指定及び独占禁止法に違反するものである。 独占禁止法に違反する行為は、その限りにおいて無効と解すべきであるから、原告の請求は理由がないことが明らかである。 (原告の主張) 被告らの主張はいずれも争う。 ア 被告らは、原告の請求が文化庁長官の認可を受けていない使用料算定方法による請求であると主張するが、原告は、管理著作物を有線テレビジョン放送に使用することについての使用料を問題にしているのであって、CS放送に使用することの使用料は、被告らには請求しておらず、被告らの主張は前提において失当である。 原告が、被告らに対して主張する使用料の根拠は、本件使用料規程第10節2である。有線テレビジョン放送の内容が、地上波テレビジョン放送の同時再送信だけの時代から、自主製作番組、パッケージ供給番組、BSアナログ放送の同時再送信、CS通信による供給番組、CSアナログ放送の同時再送信、デジタル放送(地上波・衛星)の同時再送信等々、技術の発展とともに多様化しても、それは有線テレビジョン放送に著作物を使用する際の番組の入手経路が変化しているだけであって、本件使用料規程を変更しなければならない必要性は全くない。 イ なお、原告が、法に基づき文化庁長官の認可を受けた使用料規程の使用料の定め方について、利用の許諾を求める者は、その内容の当不当を主張する権利を有しないのであって、ましてや許諾を受けずに無断で著作物を利用し、著作権侵害に基づく損害賠償請求を受ける者が、使用料相当損害金の算定に当たって、基ととなる使用料規程の定めが不当であるなどと主張することは許されないというべきである。 (5) 原告の請求権は時効消滅しているか (被告らの主張) ア 被告成田、同銚子について 原告の不法行為に基づく請求は、本件訴訟提起(平成13年10月1日)より前の分は、消滅時効が成立している。なお、原告は、不当利得に基づく請求を主張するが、仮に被告らが原告の著作権を侵害したとしても、それは原告に損害を発生させただけで被告らが使用料を利得したものではないから(被告らは使用料を取得する権限もなく、現に利得もしていない。)、原告の請求は失当である。 そもそも、不法行為債権が時効消滅した後も不当利得返還請求権の行使ができるとする原告の主張が認められるならば、不法行為訴訟における損害賠償請求権を短期3年間の消滅時効に服させることによって、法的関係の早期安定を図った民法724条の趣旨が没却されるのであって、この点からも原告の請求は理由がないというべきである。 被告成田及び被告銚子は、平成13年11月6日の口頭弁論期日において上記消滅時効を援用した。 イ 被告行田について 被告行田と原告の間の契約は、商人間の商行為であるから、原告の同被告に対する使用料請求は5年間に商事時効にかかる。同被告に対する訴訟は、平成13年10月1日に提起されているので、平成8年10月1日以前の使用料請求権は時効消滅している。 なお、仮に、同被告について不法行為構成、不当利得構成をとったとしても、3年の消滅時効に服することは、上記アと同様である。 被告行田は、平成14年9月12日の弁論準備手続期日において上記消滅時効を援用した。 (原告の主張) ア 被告らの主張は争う。仮に不法行為に基づく損害賠償請求権の一部が時効消滅しているとしても、原告は同額の不当利得返還請求権を有しているものであり、不法行為に基づく損害賠償請求権が時効消滅した分については、対応期間につき不当利得として請求し得るものである。 イ 被告行田について (ア) 被告行田は、本件行田使用許諾契約に基づく原告の使用料請求権の消滅時効期間は5年であるから、平成8年10月1日以前の使用料請求権については消滅時効が完成しているとの主張をする。 しかし、本件行田使用許諾契約では、当年度の使用料は、前年度の営業収入を基準として年額で算出するものと定められ(第2条1項)、また、その支払時期に関する定めは特に設けられていない。 このような場合、使用収益の対価という著作物使用料の性質上、後払いの原則により(民法614条参照)、当年度使用料の履行期は、当該年度の末日となる。 したがって、被告行田の平成8年度分の使用料について、その履行期は平成9年3月31日であり、その請求権についての消滅時効の起算点も同日であるから、本訴提起までに5年を経過しておらず、時効は完成していない。 (イ) なお、原告と連盟は、本件使用許諾契約に基づく使用料の算出方法について、平成7年以降、各年度ごとに有線テレビジョン放送事業者に有利な特約の合意をし、確認書の締結をしており、原告は、使用料の額をこれに基づいて算出している。 平成8年度の使用料については、平成9年3月31日付けで確認書を締結しているため、原告は、実際上も、各事業者(連盟加入・非加入を問わず)に対して、同年4月1日以降に請求を行っている。 (6) 原告の損害等 (原告の主張) ア 被告行田に対する請求について 被告行田が原告に対して支払いを怠っている平成8年度から平成12年度までの使用料の総額は226万9601円であり、その計算根拠は末尾添付の別表1−@、1−Aのとおりであるが、算定要素となる各数値について説明を加えると次のとおりである。 (ア) 受信料収入 各前年度の「利用料」収入(被告行田が郵政大臣に提出した「有線テレビジョン放送施設運用状況及び業務運営状況報告書」(以下「業務運営状況報告書」という。)に記載されているもの) (イ) 広告料収入 広告料収入に関する証拠は、被告行田は、平成12年度の「その他収入」の科目に関する補助元帳しか保存していないとして、平成7年度から平成11年までの資料を提出しないので、平成12年度の補助元帳の摘要欄の記載から広告料収入に該当すると判断した伝票の金額の合計640万6905円の同年度の受信料収入1億0599万4000円に対する割合を6.04%と算出し、これを各年度の受信料収入に乗じて各年度の広告料収入の推定値を算出した。 (ウ) 営業収入 上記(ア)(イ)により算出した受信料収入と広告料収入との合計額を営業収入として計上した。確認書に従えば「営業収入」から控除可能な金額について、被告行田はその証拠を提出しないため、控除しない。 (エ) 放送時間 チャンネルごとの放送(有線放送)の時間は、別表1−Aのとおりである。有線テレビジョン放送されているチャンネルの種類は、上記「業務運営状況報告書」及び被告行田発行の受信契約者向けガイド誌記載の内容から把握し、放送時間については確認書に定める時間を採用した。 使用料算定において用いられる「自主放送時間/全放送時間」は、各年度ごとに別表1−Aの表の最下欄に記載されており、これが別表1−@に転記されている。 (オ) 有線テレビジョン放送の自主放送に係る使用料の額 本件使用料規程の有線テレビジョン放送部分の本則及び備考Aに基づき定められている本件行田使用許諾契約第2条1項@に定める算式により、上記(ウ)の金額に(エ)の「自主放送時間/全放送時間」を乗じ、その100分の1を各年度ごとに算出しこれに消費税を加算した(別表1−@)。 (カ) 音声放送に係る使用料の額 音声放送(音声のみの有線放送。以下同じ)については、覚書第2条で、音声放送の営業収入がテレビジョン放送の営業収入から区分できない場合等には、本件行田使用許諾契約第2条1項Aの計算式を用いず、別表に定める定額使用料が適用されることが定められている。 被告行田についても、音声放送の営業収入が区分できないため、各年度ごとの契約世帯数に応じて別表に定める定額を使用料の額とし、これに消費税を加算した(別表1−@)。 (キ) 被告行田に対し請求する使用料の額 上記(オ)と(カ)により算出された使用料の合計額(消費税込み)が、被告行田に対する請求額である。 イ 不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求について 被告成田及び被告銚子が、平成3年度から平成12年度までの間に各々行った有線テレビジョン放送のうち、本訴の対象となっているチャンネルの有線テレビジョン放送において原告の管理著作物が使用されたことは、被告らが郵政大臣に毎年提出している業務運営状況報告書や被告らの受信契約者向けガイド誌に記載されたチャンネルの内容、当該チャンネルの番組の内容等から明らかである。被告らの有線テレビジョン放送には、音楽専門チャンネルや映画専門チャンネルが存在するほか、ドラマ、ニュース、スポーツその他多彩なCS放送の番組が同時再送信により有線放送されているのであるから、大量の音楽著作物が毎日頻繁に使用されていることは顕著な事実であり、かつ、それらのCS放送番組において使用される音楽著作物のほとんどが原告の管理著作物であることはこれまでの実績から明白である。 よって、平成3年度から平成12年度までの間、被告成田及び被告銚子により原告の著作権が継続的に侵害されていたことは明らかであり、これにより原告は使用料相当額の損害を被ったものである。 その使用料相当損害金は、少なくとも管理著作物の許諾を受けて使用する者が原告に対して支払うべき使用料の額と同額であるとみなされる(著作権法114条3項)。 ウ 被告成田に対する請求について 被告成田が、原告に対して本来支払うべきであった平成3年度から平成12年度までの使用料の合計額(税込み)は、別表2−@の「使用料相当額(税込)」欄記載のとおり、503万4781円であるが、算定要素となる各数値について説明を加えると次のとおりである。 (ア) 受信料収入 平成2年度から平成11年度の各損益計算書記載の「利用料収入」 (イ) 広告料収入 平成3年度から平成11年度までの各年度ごとに元帳記載の「広告売上」の税抜き前残高から、被告成田が主張する紙媒体広告料及び製作費として計上されている金額の合計額を減じて消費税抜きの金額を算出した。被告成田は、元帳の「広告売上」に記載されているものの一部が広告料収入ではないと主張するが、記載内容により広告料に該当することが明らかであるからすべて算入する。 (ウ) 営業収入 上記(ア)(イ)により算出した受信料収入と広告料収入との合計額を営業収入として求め、確認書の定めに基づき、各年度ごとに証拠によって認められるコンバータリース料(HTリース料)及びペイチャンネル購入費を控除し、これを「控除後営業収入」として別表2−@に記載した。 なお、確認書による控除に関する合意は、平成7年度ないし平成12年度の使用料に関する合意であるから、何ら合意の存在しない平成6年度分以前の営業収入については控除しない。 (エ) 放送時間 チャンネルごとの放送(有線放送)の時間は、別表2−Aのとおりである。平成2年度から平成4年度については、被告成田が5団体契約に基づき日脚連に提出した業務運営状況報告書に記載されたチャンネルプラン一覧表、その他の年度については、業務運営状況報告書に記載された周波数一覧、1週間当たりの放送時間、受信契約者向けのガイド誌記載の内容、確認書に基づき、チャンネルの種類及び各放送時間を確定した。 本件使用料規程記載の算定式において用いられる「自主放送時間/全放送時間」は、各年度ごとに別表2−Aの表の最下欄に記載されており、これが別表2−@に転記されている。 (オ) 有線テレビジョン放送の自主放送に係る使用料相当額 本件使用料規程の有線テレビジョン放送部分の本則及び備考Aに基づき、上記(ウ)で求めた「控除後営業収入」の金額に、(エ)の「自主放送時間/全放送時間」を乗じ、その100分の1を各年度ごとに算出し、これに消費税を加算した。 (カ) 音声放送に係る使用料相当額 音声放送については、覚書第2条で、音声放送の営業収入がテレビジョン放送の営業収入から区分できない場合等には、本件使用許諾契約第2条1項Aの計算式を用いず、別表に定める定額使用料が適用されることが定められている。 被告成田についても、音声放送の営業収入が区分できないため、各年度ごとの契約世帯数に応じて別表に定める定額を使用料の額とし、これに消費税を加算した(別表2−@)。 (キ) 使用料相当損害金の合計額 上記(オ)と(カ)により算出された使用料相当損害金の合計額(消費税込み)を、別表2−@の「使用料相当額計」欄に記載した。 (ク) 既経過遅延損害金 上記(キ)の使用料相当損害金は、被告成田による著作権侵害が行われた日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金が発生しているので、各年度ごとの使用料相当損害金(税込み)について、履行期後である各年度終了日の翌日(4月1日)から平成13年9月30日までを遅延期間とし、年5分の割合による金額を算出し、これを、別表2−@の「遅延損害金」欄に記載した。 (ケ) 弁護士費用 原告は、本件訴訟追行を弁護士に依頼せざるを得なかった。そのための弁護士費用は、別表2−@「弁護士費用」欄記載の額を下らない。 (コ) 損害金合計額 原告は、被告成田に対して、同被告の著作権侵害行為を理由として、(キ)、(ク)及び(ケ)の合計額を損害金として賠償を請求する。 (サ) 不当利得返還請求 原告は、被告成田に対して、不当利得返還請求権として、(コ)と同額の利得金及び悪意受益者の利息金の返還を求める。 なお、(コ)と(サ)の各請求は選択的に主張するものである。 エ 被告銚子に対する請求について 被告銚子が、原告に対して本来支払うべきであった平成3年度から平成12年度までの使用料の合計額(税込み)は、別表3−@の「使用料相当額(税込)」欄記載のとおり、568万0453円であるが、算定要素となる各数値について説明を加えると次のとおりである。 (ア) 受信料収入 各年度の業務運営状況報告書中「利用料」として記載された金額 (イ) 広告料収入 証拠上、広告料収入はないものと推定した。 (ウ) 営業収入 上記(ア)の金額を営業収入とした。確認書により、「営業収入」のうち控除が可能な金額について、被告銚子はその証拠を提出しないため、控除しない。 (エ) 放送時間 チャンネルごとの放送(有線放送)時間は、別表3−Aのとおりである。チャンネルの種類及び各放送時間については、被告銚子の業務運営状況報告書の記載内容及び確認書によった。 本件使用料規程において用いられる「自主放送時間/全放送時間」は、各年度ごとに別表3−Aの表の最下欄に記載されており、これが別表3−@に転記されている。 (オ) 有線テレビジョン放送の自主放送に係る使用料相当額 本件使用料規程の有線テレビジョン放送部分の本則及び備考Aに基づき、上記(ウ)の「営業収入」の金額に、(エ)の「自主放送時間/全放送時間」を乗じ、その100分の1を各年度ごとに算出し、これに消費税を加算した(別表3−@)。 (カ) 音声放送に係る使用料相当額 音声放送については、覚書第2条で、音声放送の営業収入がテレビジョン放送の営業収入から区分できない場合等には、本件使用許諾契約第2条1項Aの計算式を用いず、別表に定める定額使用料が適用されることが定められている。 被告銚子についても、音声放送の営業収入が区分できないため、各年度ごとの契約世帯数に応じて別表に定める定額を使用料の額とし、これに消費税を加算した(別表3−@)。 (キ) 使用料相当損害金の合計額 上記(オ)と(カ)により算出された使用料相当損害金の合計額(消費税込み)を、別表3−@の「使用料相当額計」欄に記載した。 (ク) 既経過遅延損害金 上記(キ)の使用料相当損害金は、被告銚子による著作権侵害が行われた日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金が発生しているので、各年度ごとの使用料相当損害金(税込み)について、履行期後である各年度終了日の翌日(4月1日)から平成13年9月30日までを遅延期間とし、年5分の割合による金額を算出し、これを、別表3−@の「遅延損害金」欄に記載した。 (ケ) 弁護士費用 原告は、本件訴訟追行を弁護士に依頼せざるを得なかった。そのための弁護士費用は、別表3−@「弁護士費用」欄記載の額を下らない。 (コ) 損害金合計額 原告は、被告銚子に対して、同被告の著作権侵害行為を理由として、(キ)、(ク)及び(ケ)の合計額を損害金として賠償を請求する。 (サ) 不当利得返還請求 原告は、被告銚子に対して、不当利得返還請求権として、(コ)と同額の利得金及び悪意受益者の利息金の返還を求める。 なお、(コ)と(サ)の各請求は選択的に主張するものである。 オ 使用料相当損害金を算出するに当たっては、算定要素となる「営業収入」及び「放送時間」について、本件使用許諾契約書、覚書及び確認書に定める算出方法による「前年度の数値」を用いるべきではなく、「当該年度の数値」を用いるべきであるという考え方について 不法行為に基づく損害金ないし不当利得に基づく利得・損失(以下この項においては両者を併せて「損害金等」という。)を算定する場合には、あくまで不法行為等があった当該年度の「営業収入」が算定の要素となるべきであるという考え方が裁判所から示されたので、各年度の使用料の額を、当該年度の「営業収入」及び「放送時間」の数値を用いて算出した(被告成田について、別表2−B、被告銚子について別表3−B。)。 この計算方法によると、被告成田及び被告銚子はいずれも営業収入が継続的に増加してきているため、損害金等の額も前年度の金額等を基準にする場合よりも増加することになる。 本件においては、結果として、正規の使用料の額より多い金額が損害金等として算出されることになるが、営業収入が減少傾向にある有線テレビジョン放送事業者が著作権侵害行為を行った場合には、逆に正規の使用料の額より損害金等の額が下回る結果となる。 原告としては、管理著作物の使用に先立ち誠実に使用許諾契約を締結して使用料を支払うより、無断で使用して著作権侵害の事実を指摘されてから初めて損害賠償に応じて支払う方が有利となるような結果が生ずることは、音楽著作物の適法利用を促進するために断固許されるべきではないと考えている。この点は、連盟も同様の考え方を示し、有線テレビジョン放送事業者に対して、常日ごろから契約締結の促進と適法利用について啓蒙活動を行っているところである。 仮に、損害金等の算定基礎として、侵害行為のあった当該年度の営業収入の額を用いた上で、使用料規程に定める料率より高い料率で計算して、正規の使用料よりも大幅に高額な損害額が算出されるべきであるという考え方であれば格別、そうではなく同じ料率で計算するべきであるという前提であれば、事案によっては使用料より損害金が低くなる可能性があるといわざるを得ない。 この考え方は、侵害の有無や程度は、侵害のあった当該年度の営業収入にこそ反映しているのであるから、当年度実績を基準として損害金の額を算定すべきであるとするものと思われる。 しかし、たとえば、有線テレビジョン放送事業者が、平成10年度末で事業を廃止した場合は、そもそも平成11年度には侵害行為が存在しないのであるから不法行為は発生しておらず、損害金算定の根拠を欠くのであって、原告としても、この場合にまで平成11年度分の損害金として平成10年度の収入を基準とした使用料相当額を請求することを主張するものではない。また、逆に、平成5年度から開局した場合、平成4年度の収入がなくても平成5年度の侵害行為は発生しているのであるから、正規の使用料の計算同様、当該年度の収入を 使用料相当損害金を算定するという考え方である。 以上のような懸念はあるものの、裁判所の示唆に従い、原告は、この考え方に基づく算出方法についても選択的に主張し、被告成田及び被告銚子に対しては、当該金額(別表2−B、別表3−B)を上限として請求することとする。 カ 被告らは、広告の有線放送に原告の管理著作物を使用していないから、使用料相当損害金の算定基礎として「広告料収入」を含めることが不当である旨主張する。 本件使用料規程において、営業収入を受信料収入と広告料収入の合計額に限定した上、これを基礎として一定の料率を乗じて使用料を定めることとしているのは、有線テレビジョン放送事業者の事業規模が、その行う有線放送において使用する音楽著作物の量に反映するという実態を踏まえ、事業規模を表す営業収入に見合った形で使用料を定めようという考え方に基づくもので、国際的にも一般的な方法である。 したがって、有線テレビジョン放送事業者が行う広告において原告の管理著作物が使用されているかどうかということは、本件に全く関係がないのであって、被告らの主張は、その前提において失当である。 キ 被告らは、被告らの得た広告料収入は、原告の逸失利益に当たらないとの主張もしている。しかしながら、原告は著作権法114条3項に基づき使用料相当額の請求をしているのであって、本件において被告らの広告料収入が原告の逸失利益に当たるか否かという命題は立てようもなく、被告らの主張はその前提において失当である。 ク 被告らは、消費税分を損害額に含めることはできないと主張する。しかしながら、消費税法基本通達5−2−5は、損害賠償金のうち、実質的に資産の譲渡等(資産の譲渡、資産の貸し付け及び役務の提供)の対価に該当するものについては、課税対象になると定め、その事例の一つとして「(2)無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」を列記している。 著作権の使用料は資産の貸付けの対価であり、その使用料相当損害金は、実質的に資産の貸し付けの対価に該当するとされている。 よって、原告の請求する著作権使用料相当損害金が消費税の課税対象となることは明らかであり、請求額に消費税額を含めるのは当然である。 (被告らの主張) 原告の主張は、争う。仮に、本件において本件使用許諾契約に定める使用料相当額を支払うべき義務が被告らにあるとしても、その額は、被告成田について別表4の合計欄、被告行田について別表5の合計欄、被告銚子について別表6の使用料相当額合計欄に記載する額が限度とされるべきであるが、、以下に述べるとおり、原告はそもそも広告料収入を損害額算定の基礎にはできないものと解される。 ア 原告は著作権法114条3項に基づき、原告の被った損害は、有線放送事業者が原告との間で締結すべきである本件使用許諾契約の契約書、覚書及び確認書に基づき算定されるとして、広告料収入をも基礎とした使用料相当損害金の請求をしている。 しかし、被告らの広告料収入の基になっているのは、被告らによる広告の有線放送行為(CM等)であるが、被告らは、広告を有線放送するに際して管理著作物を使用していないし、広告の有線放送自体CS放送の同時再送信とは別のいわゆるコミュニティーチャンネル内でしか行われていない。このように、被告らが広告を有線放送する行為によって得た対価である広告料収入は、被告らの著作権侵害行為と何の関係もないものであって、そもそもこれを逸失利益算定の基礎にすることは誤りというべきである。 イ 原告は、著作権法114条3項に基づく請求である以上、使用料算定の基礎となる個別の要素が因果関係を有するかどうかという点は問題となり得ないと主張するようであるが、同項は、使用料契約等がありさえすればその内容の適否を問わずに同契約に基づいて算定した金額を損害として認める旨の規定ではない。同項は、平成12年法律第56号による改正前の著作権法114条2項における「通常受けるべき金銭の額」という文言のうち「通常」を削除し、その著作権又は著作隣接権の行使につき「受けるべき相当の額」を損害の額とするとしているが、この改正の趣旨は、当事者間の業務上の関係等、当該事件の具体的事情を考慮した相当な使用料の認定ができるようにするためである。 このような同項の趣旨からすれば、使用料契約等をそのまま適用して損害額を算定すれば実体に反して低廉となってしまう場合だけでなく、使用料契約等をそのまま適用して損害額を算定すれば実体に反して高額となってしまう場合にも、客観的に相当な使用料相当額をもって「受けるべき金銭の額」とし、妥当な損害額を認定しなければならない。すなわち、同項は、使用料契約等の内容の合理性、妥当性を斟酌しながら、客観的に相当な使用料相当額をもって「受けるべき金銭の額」を定める旨の規定である。このように解しないと、同条2項において侵害行為の寄与度を参酌して損害額の算定をすべきと解されていることとバランスを失することにもなる。 それゆえ、著作権侵害行為ではない広告の有線放送行為によって得られた広告料収入までをも使用料算定の基礎とする使用料契約が存在しているとしても、本件において、その契約の内容をそのまま適用する筋合いはなく、裁判所は、独自の判断で、合理的かつ客観的に相当な使用料相当額を算定することができるものである。 ウ そして、上記のとおり、被告らの広告料収入は、侵害行為と何ら因果関係を有するものではなく、そのような収入を基礎として著作権の使用料を支払うことが合理的であるとは到底いえないのであるから、原告の損害額の算定に当たっては、被告らの広告料収入はその基礎から除くべきである。 エ 原告は、被告成田及び被告銚子に対する損害額に消費税額を上乗せした額を主張している。消費税法4条1項は課税の対象について、「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する」と定めている。また、同法2条1項8号では、「資産の譲渡等」について、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう」と定めている。 ところが、本件において、原告の被告成田及び被告銚子に対する請求は、著作権侵害行為(不法行為)に基づく損害賠償の請求であり、これは消費税の対象にならないと考えられる。よって、原告の消費税相当損害金の請求は失当である。 第4 当裁判所の判断 1 被告らの本案前の主張について 被告らは、原告が日脚連等と共に被告らに対して提起している別件訴訟(当庁平成14年(ワ)第4002号、第4003号、第4006号)との関係で、本件訴訟は二重起訴に当たると主張する。しかしながら、別件訴訟は、原告を含む5団体が5団体契約に基づく著作物使用料の支払いを請求している事案であることは当裁判所に顕著であるところ、原告が被告成田及び被告銚子に対して著作権侵害を理由とする損害賠償・不当利得返還請求をし、被告行田に対して本件使用許諾契約に基づく著作物使用料請求をしている本件とは、訴訟物を異にしているものである。したがって、本件訴訟が二重起訴に当たらないことは明らかである。 上記のとおり、被告らの本案前の主張は理由がない。 2 争点(1)(CS放送の同時再送信は5団体契約の対象となっているか−原告は、CS放送の同時再送信について、5団体契約の存在にかかわらず差止め・損害賠償等を請求し、5団体契約とは別途に使用料の支払を請求をすることができるか)について (1) 前記前提となる事実関係(第3、1)に、証拠(甲1ないし6、12、13、15ないし17、19、20、22ないし29、31ないし35、37ないし62、乙23ないし30、34、35、40、58ないし63。枝番号は省略、以下同じ)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。 ア 5団体契約及び本件使用料規程の有線テレビジョン放送に関する規定の制定 (ア) 我が国の有線テレビジョン設備は、昭和30年代に設置され始め、最初は温泉町などの辺地の難視聴対策用の共同受信施設として設置されていたが、昭和40年ころからは、高層ビルの建設ラッシュにより発生した難視聴に対応して、都市部にも有線テレビジョン放送の設備が設置されるようになった。 このような状況を受け、昭和47年2月、5団体にレコ協を加えた6団体は、有線放送事業者が行う有線放送についても著作権等の権利処理が必要であるとの認識から、有線放送事業者の事業者団体である連合会との間で協議を開始した。 (イ) 昭和47年6月、有テレ法が成立し(翌年7月1日施行)、同法13条に、有線放送事業者が行う再送信に関する規定が設けられた。 そして、上記有テレ法の規定を受けて定められた、有線テレビジョン法施行規則(昭和47年郵政省令第40号。以下「有テレ法施行規則」という。)2条(昭和57年郵政省令第73号による改正前のもの。以下同じ。)においては、「同時再送信」とは、「放送事業者のテレビジョン放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで同時にこれを再送信する有線テレビジョン放送をいう。」(有テレ法施行規則2条1号)、「自主放送」とは、「同時再送信以外の有線テレビジョン放送をいう。」(同2条3号)との定義規定が置かれている。 (ウ) 連合会は、昭和47年中に準備委を発足させたため、6団体と準備委の間で有線テレビジョン放送における著作権等の権利処理の問題に関する協議が続けられていたが、上記権利者団体6団体のうち、レコ協を除く5団体は、昭和49年3月ころ、準備委との間で、テレビジョン放送の同時再送信についての権利処理方法及び使用料の定め方について合意に達し、5団体と各有線放送事業者との間で締結する統一的な契約書式を定めた。この契約書式は現在もなおほぼ同じものが使用されており、その第2条に定める使用料の料率も変更されていない。 (エ) 現在の契約書式には以下の規定が置かれている。 「第1条(使用許諾) 甲ら(5団体のうち社団法人日本芸能実演家団体協議会を除く4団体をいう。)は丙(被告ら各自をいう。)に対し、第2条に掲げる使用料(消費税を含まない。以下同じ。)を支払うことを条件として、甲らがコントロールを及ぼし得る範囲に属する著作物を使用して製作された放送番組を、ケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する。 2 乙(社団法人日本芸能実演家団体協議会をいう。)は、丙が第2条に掲げる補償金(消費税を含まない。以下同じ。)を支払うことを条件として、乙の会員の実演によって製作された放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する。 第2条(使用料、補償金の支払い) 前条の使用料と補償金の合計金額は、丙が当該年度に受領すべき利用料総額に、各々次の料率を乗じて算出した額とする。 A 区域内再送信は、1波について 0.015% B 区域外再送信は、1波について 0.09% 2 使用料及び補償金に課される消費税は、別途添付の上、丙から甲ら及び乙に支払う。 第3条(利用料収入の報告) 丙は、当該年度の利用料収入を甲ら及び乙に報告するものとし、当該年度終了後2か月以内に有線テレビジョン放送法施行規則第36条の規定による業務運営状況報告書の写しにより、甲ら及び乙の代表者である日脚連(以下「甲ら及び乙の代表者」という。)に報告する。 第4条(使用料、補償金の支払い) 丙は、甲ら及び乙に対し、第2条の使用料、補償金を当該年度終了後2か月以内に、甲ら及び乙の代表者の事務所に持参または送金して支払う。 第5条(契約の解除) 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は1か月間の通知催告の上、本契約を解除することができる。 第6条(差し止め請求と損害賠償請求) 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は、丙に対し当該違反行為の停止と損害賠償を請求することができる。 (オ) 原告は、仲介業務法に基づき本件使用料規程を定め、一部変更をした場合には、その度ごとに文化庁長官の認可を受けていたが、昭和50年4月1日、本件使用料規程中の「第10節有線放送」、「2 有線テレビジョン放送(CATV)」の規定(以下この部分の規定を「本件使用料規定」という。)について、文化庁長官の認可を受けた。その後、本件使用料規定の内容は変更されていない(ただし、平成13年10月1日施行の著作権等管理事業法13条においては、使用料規程は文化庁長官への届出で足りることとされたが(同法附則2条により仲介業務法は廃止された。)、この制度変更後の原告の使用料規程は仲介業務法に基づき定められたものとは異なる。)。 (カ) 本件使用料規定には、以下の規定が置かれている。 「2 有線テレビジョン放送(CATV) 有線テレビジョン放送に著作物を使用する場合の使用料は、当該有線テレビジョン放送事業者(以下「有線テレビ事業者」という。)の営業収入(受信料収入及び広告料収入(消費税額を含まないもの)をいう。)の1/100とする。 (有線テレビジョン放送の備考) @ 有線テレビ事業者が、無線テレビジョン放送を受けて行うテレビジョン放送の再送信において著作物を使用する場合の使用料は、原告を含む著作権・著作隣接権団体が当該事業者と協議して定める料率によることができる。 A 有線テレビ事業者が、再送信のほかに有線テレビジョン放送により著作物を使用して自主放送を行う場合の使用料は、次の算式により算出する。 (営業収入×自主放送時間/全放送時間)×1/100=使用料 B 有線テレビ事業者の営業収入が算出できない場合、当該有線テレビ事業者の受信世帯数、放送時間その他の使用状況を参酌して使用料額を定めることができる。 C 有線テレビジョン放送法第9条に基づき、他の有線テレビ事業者から施設の提供を受けて、有線テレビジョン放送により著作物を使用して自主放送を行う場合の使用料は、施設の提供を行なう有線テレビ事業者が自主放送を行なう場合の使用料に準じて定めることができる。」 イ 覚書及び統一書式の合意 (ア) 上記の5団体と準備委との間で合意された契約書式に基づく5団体契約は、放送番組の同時再送信を対象とするものであったが、昭和40年代以降、有線テレビジョン放送事業者は、空いているチャンネルを利用して地元以外のテレビ局の放送を流したり、番組製作会社の製作した番組を流したり、地域ニュースや地域密着情報を提供するコミュニティ番組などを自主製作して流すことが多くなり、有線放送の内容が多様化してきたことから、上記5団体契約で定められていない有線放送について、著作権等の権利処理のシステムを作ることが必要となった。 (イ) そこで、原告は、昭和58年に連盟との間で、5団体契約の範囲外の有線放送における管理著作物の権利処理の在り方に関する協議を開始した(連盟は、事業者団体としての立場で事業者の意見を集約し、各種権利者団体との交渉を行っている。)。そして、昭和59年7月19日、原告及び連盟は、連盟に所属する各有線放送事業者が原告との間で締結する本件使用許諾契約の契約書の統一書式について合意するとともに、その内容に関する覚書を締結した。この統一書式及び覚書は、昭和63年3月31日に改訂されたが、改訂後の統一書式には以下の規定が置かれている。 「(使用許諾) 第1条 甲(原告)は、乙(連盟加盟の有線テレビジョン放送事業者)が、別紙音楽著作物使用許諾申請書(省略)記載の使用条件の範囲内において、管理著作物を有線放送使用することを許諾する。 2 乙は、前項の許諾に基づく管理著作物を使用する権利を他に譲渡することはできない。 (使用料の算出) 第2条 甲は、本契約期間に該当する年度(年度区分は4月から翌年3月までとする。以下同じ。)の前年度における乙の営業収入(受信料収入及び広告料収入(消費税額を含まないもの)をいう。以下同じ。)に基づいて、次の算式により算出して得た金額を本契約期間に該当する年度の使用料とする。 @ 有線テレビジョン放送の自主放送に管理著作物を使用する場合 本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入×自主放送時間/全放送時間×1/100+消費税相当額=使用料 A 音声放送に管理著作物を使用する場合 本契約期間に該当する年度の前年度における音声放送に係る営業収入×1/100+消費税相当額=使用料 2 乙において本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入がない場合は、甲は乙と協議のうえ使用料を定めることができる。 (営業収入及び放送時間の報告義務) 第3条 乙は、本契約期間に該当する年度の前年度における1年間の次に掲げる営業収入及び放送時間を甲所定の報告書に記入し、証憑書類を添付して当該年度終了後3か月以内に甲に提出するものとする。 @ 有線テレビジョン放送の自主放送及び音声放送に係る営業収入 A 有線テレビジョン放送の自主放送時間及び全放送時間並びに音声放送の放送時間 (営業収入及び使用状況等の調査) 第4条 甲は、乙の本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入及び管理著作物の使用状況等を確認するために、乙の営業時間中に乙の事務所において関係書類を閲覧し、調査することができる。ただし、日時については、甲は乙に対して1週間前までに通知する。 (使用曲目の報告義務) 第5条 乙は、各四半期(4月から6月まで、7月から9月まで、10月から12月まで、翌年1月から3月まで)ごとに乙が有線テレビジョン放送及び音声自主放送において甲があらかじめ指定する1週間に使用した管理著作物について、甲所定の報告書に記入して甲の指定する期日までに甲に提出する。 (使用条件の変更) 第6条 乙は、別紙音楽著作物使用許諾申請書記載の使用条件を変更する場合は、その都度遅滞なく書面をもって甲に通知し、甲の承認を受けるものとする。 (著作者人格権の遵守) 第7条 乙は、管理著作物を使用する場合、著作者に無断で著作物の題名を変更し、又は著作物に改ざんその他の変更を加えるなどして著作者人格権を侵害してはならない。 (契約の解除) 第8条 甲は、乙がこの契約の全部又は一部を履行しないときは、10日以内の期限を定めてその履行を請求し、その期限内になお履行されないときは、甲はこの契約を解除することができる。 (信義則) 第9条 甲乙双方は、この契約に定める各条項を誠実に履行しなければならない。 2 甲乙双方は、本契約に定めのない事項又は契約条項の解釈に疑義が生じたときは、誠意をもって協議し、その解決にあたるものとする。 (契約期間) 第10条 本契約の有効期間は、平成4年4月1日から平成5年3月31日までの1年間とする。 (契約の更新) 第11条 本契約の契約期間満了時に当事者のいずれからも本契約について特に異議を述べないときは、契約期間満了時の契約内容と同一の条件をもって契約を更新したものとする。 (管轄裁判所) 第12条 (省略) (契約の変更) 第13条 本契約に関する修正又は変更は、文書によらなければその効力がないものとする。」 (ウ) また、上記の覚書は全10条の規定からなり、以下の規定が置かれている。 「(定義等) 第1条 本覚書及び契約書において使用される用語の意義又は内容は、次に定めるところによる。 1 自主放送 放送の同時再送信以外のものをいい、例示するとおおむね次のとおりである。 (1) 丙(連盟に所属する有線テレビジョン放送事業者)が製作する報道番組、教育・教養番組、娯楽番組、音楽番組、スポーツ番組、広告番組、テストパターン、情報番組等による放送。 (2) 丙以外の者が製作した録音物又は録音物による番組の放送。 2 音声放送 ラジオ放送の同時再送信及び音声による自主放送をいう。 3、4(略) 5 全放送時間 当該年度のすべてのチャンネルから放送した総延べ時間をいう。ただし、音楽を全く使用しない放送(文字ニュースなど音のない情報伝達のみの放送など)がある場合は、そのチャンネル又はその放送の時間は、全放送時間及び自主放送時間から除くことができる。 有線テレビジョン放送の全放送時間は、次によって算出したものをその時間とすることができる。 17(テレビ再送信の1日当たりの平均放送時間)×30(1か月の平均日数)×12(1か年の月数)×テレビ再送信のチャンネル数+自主放送時間 6 (略) (音声放送の使用料) 第2条 丙が音声放送において管理著作物を使用する場合の使用料は、次の算式により算出するものとする。 音声放送に係る営業収入(広告代理店手数料が計上されているときは、15/100の額を控除して得た額)×1/100 ただし、前項によって算出された額が別表(省略)の「音声放送」の区分にそれぞれ定める額を下回る場合は、その額をもって定額の使用料とする。 音声放送の営業収入がない場合若しくは音声放送の営業収入がテレビジョン放送の営業収入から区分できない場合も、同様とする。 (音声放送の過去分の使用料) 第3条 (略) (有線テレビジョン放送の使用料) 第4条 有線テレビジョン放送において管理著作物を使用する場合の使用料は、次の算式により算出するものとする。 有線テレビジョン放送の営業収入(広告代理店手数料が計上されているときは15/100の額を控除して得た額)×自主放送時間/全放送時間×1/100 ただし、前項によって算出された額が別表(略)の「有線テレビジョン放送」の区分にそれぞれ定める額を下回る場合は、その額をもって定額の使用料とする。(以下省略)」 (エ) 一方、有線放送とは別に、抜本的な難視聴対策及び多様なメディアの実現等を目指して、衛星を中継器とする放送の実現が、国や放送事業者等によるプロジェクトとして進められ、昭和53年に日本初の実験用放送衛星が打ち上げられ、その後昭和59年に実用化放送衛星であるBS−2aが打ち上げられ、同年NHKが試験放送を開始し、昭和62年には24時間の試験放送を行うようになった(本放送の開始は平成元年)。 さらに、BSとは別に平成元年にCSが打ち上げられたことから、CSを用いてテレビジョン番組の配信を行う事業者が出現し、平成元年の放送法改正(受託・委託放送制度創設)及び平成4年の放送法改正を受けて、平成4年にこのような事業者の一部が委託放送事業者の免許を取得して放送事業者となり、CSを中継器として放送を行うようになった。 (オ) 上記(エ)のとおり、遅くとも契約書式及び覚書の改訂が行われた昭和63年ころには、既に24時間のBS放送の試験放送が開始されるなど、衛星を中継器とする放送の実現に向けた取り組みが本格的に行われていたが、統一書式及び覚書では、BS放送その他の衛星を用いた放送の同時再送信を統一書式の対象とするかどうかは明記されなかったし、その後において統一書式及び覚書が改訂されることもなかった。 (カ) 平成元年にNHK衛星放送の本放送が開始され、平成3年にはWOWWOWの放送が開始され、さらに平成10年にはBSデジタル放送を行う委託放送事行うようになった業者が放送事業者としての免許を取得し、平成12年にBSデジタル放送の本放送が開始され、有線テレビジョン放送事業者においてこれらの放送の同時再送信を行うようになった。 原告は、被告らが行うNHK衛星放送、WOWWOW及びBSデジタル放送の同時再送信については、5団体契約に基づき使用料の請求を行っており、本件使用許諾契約に基づく使用料等の請求は行っていない。 ウ 確認書の作成及び確認書の作成に至る経緯 (ア) 平成6年3月ころ、原告は、「通信衛星受信番組(CSテレビ)の著作権処理に関する件」と題する平成6年3月15日付けの書簡を連盟に対して送付した。同書簡中においては、@原告としては、CS放送の同時再送信は覚書第1条1項に定める自主放送の(2)に該当する番組に相当するので本件使用料規定の備考Aを適用したい旨説明したこと、Aしかしながら、連盟は、同番組は放送の同時再送信であるとして本件使用料規定の備考@を適用するように要望したこと、Bその後、連盟からは、さしあたり平成5年度分についてだけは原告の説明どおりの取り扱いを了解するとの答えがあったが、これに対して、原告は、本件使用料規程の一時的な解釈による適用はできかねる旨回答したこと、Cこのため、原告が使用料を請求した連盟に加盟している有線テレビジョン放送事業者のうち、60余社が支払いを履行しない状況にあること等の事情が述べられている。 (イ) 上記原告の書簡に対し、連盟は、原告に対する平成6年3月22日付「委託放送の音楽著作権処理の扱いについて」と題する書簡(以下「連盟書簡」という。)をもって反論した。同書簡中においては、@上記(ア)の原告の書簡については、若干の誤認があると思われること、A委託放送事業者が送信する放送番組の取扱いについては、連盟は覚書どおりに放送(再送信)番組として処理すべきと解釈し、原告においては上記(ア)の書簡のように解釈し、双方の主張の間には隔たりがあること、Bこの事態を打開すべく、連盟は、平成5年8月31日の折衝において、(a)両者の解釈に相違がでてしまうような覚書は新しい時代に対応できないので、この際、新しいルールを協議したいこと、(b)協議には若干の時間を要しそうなので、平成5年度は暫定措置として委託放送は自主放送時間に組み入れて計算し、また、再送信放送時間は1日当たり23時間として計算すること、(c)協議は平成6年度の支払に間に合うように行う、という3点を提案したこと、Cこの提案について、原告からは、内部で協議の上、後日正式に返答する旨の回答がなされたが、現在まで協議が調っていないこと等の事情が述べられている。 (ウ) 上記(イ)の連盟からの返答の書簡に対し、原告はさらに平成6年3月25日付け「通信衛星受信番組(CSテレビ)の著作権処理に関する件」と題する書簡を連盟に対して送付した。同書簡においては、連盟書簡の内容には事実と異なる点があるとして、原告の認識する事実として概要次の4点を主張した。 @ 連盟書簡では、覚書どおりに再送信番組として処理すべきと解釈しているが、覚書には、CS放送の再送信を表現した条項はないこと A 連盟書簡では、平成5年8月31日の折衝で、既存波再送信時間を1日当たり23時間と改めることを連盟から提案したとあるが、提案したのは原告であって、同年8月10日の原告と連盟との折衝において提案したものであること B 上記Aの平成5年8月10日の折衝において、原告は、原告の提案が連盟加盟事業者の自主放送に係る著作物使用料の軽減になることを説明したものであり、同年8月31日の折衝は、事務局双方が数値の確認をするための場として設定されたものであり、原告からの提案に対し、連盟は持ち帰って回答する旨の返事をしたこと C 上記Bの連盟の返事を受けて、原告としては、連盟からの正式の回答を待っていたが、同年10月6日、連盟の考えが、平成5年度のみの暫定的な取扱いを求めていることが明確にされたこと (エ) 上記(ア)ないし(ウ)等の経緯を踏まえ、連盟は、平成6年9月27日付け「自主放送の音楽部分にかかる著作権処理に関するJASRACとの協議について」と題する文書を加盟事業者あてに発出し、CS放送の同時再送信については5団体契約の対象であるとする連盟の主張の正当性を再確認し、原告の主張の不合理性を批判するとともに、会員に対し、現在自主放送に係る音楽著作権の処理の問題については原告と連盟との間で折衝中であるので、原告に対する支払いを見合わせることが妥当である旨の意見を述べた。 (オ) その後も、連盟と原告との間の協議は続けられたが、結局CS放送の同時再送信の扱いに関する本件使用料規定の解釈及び覚書の改訂について両者間で協議が調うことはなかった。 その一方において、原告と連盟は、平成7年9月13日、平成5年度分及び平成6年度分の使用料として加盟事業者が原告に支払うべき金額の算定方法について確認書を締結して暫定的に合意し、平成5年度分及び平成6年度分については、覚書で定める全放送時間の算出方法(第1条5項)のうち、テレビ再送信の1日当たりの平均放送時間の17を24として計算すること、CS放送の同時再送信についても原告の主張する算定方法に従って算定することが確認された。 (カ) さらに、原告と連盟は、平成8年5月23日、平成7年度分の使用料として加盟事業者が原告に支払うべき金額の算定方法について暫定的に合意し、地上波放送及びBS放送の放送時間は、当分の間、一週間当たり168時間とすること、文字放送等音楽を全く使用しないチャンネルについては算出の対象から除くこと、CS放送の同時再送信に関して各チャンネルごとにみなし放送時間を定めて自主放送として使用料を算定すること等が確認された。 その後、原告と連盟は、平成9年3月31日には平成8年度分の使用料として加盟事業者が原告に支払うべき金額の算定方法について、平成10年3月31日には平成9年度分の使用料として加盟事業者が原告に支払うべき金額の算定方法について、平成12年5月26日には平成10年度から同12年度分の使用料として加盟事業者が原告に支払うべき金額の算定方法について、それぞれ確認書を締結し、暫定的に合意したが、これらの各確認書において、使用料算定の基礎となる放送時間の算出については、上記の平成8年5月23日に締結された確認書と同様の確認がされた。 (キ) また、連盟とケーブルテレビ番組供給者協議会が共同発行人となって平成11年11月に発行された「ケーブルテレビと著作権2000」と題するガイドブックの「テレビ自主放送における音楽著作権処理」の項においては、ケーブルの多チャンネルサービスを構成するコンテンツの分類として、「再送信」に地上波、BS放送が、「自主放送」に、自主製作、購入番組、CS放送が、それぞれ分類されるとの記載があるほか、自主放送時間の求め方について、CS放送の番組については連盟と原告とで適宜協議し、確認することとされている旨の解説がされている。また、同ガイドブック83頁には、「注JASRACとの計算式改定交渉の現状について」として、CS利用の番組配信が通信から委託放送事業に変わった等々の環境変化を受けて、平成9年に連盟と原告は抜本的な計算式改定交渉を開始することに合意したが、平成11年10月現在まだ合意に至っていないことが紹介されている。 エ 被告らによる5団体契約の締結 被告成田は平成3年6月12日(対象期間については平成2年10月1日に遡って適用)に、被告銚子は平成3年7月16日(対象期間については平成2年4月24日に遡って適用)に、被告行田は平成4年7月6日(対象期間については平成4年4月1日に遡って適用)に、それぞれ5団体との間で5団体契約を締結し、いずれもその後更新を繰り返して現在に至っている。 オ 被告行田による本件行田使用許諾契約の締結 平成4年3月31日、被告行田は、原告との間で本件行田使用許諾契約を締結した。 (2) 以上認定の各事実を総合すると、次の各事実を認定することができる。 @ 5団体と準備委との間で5団体契約の契約書式が合意された際には、有テレ法に再送信の規定が設けられたこと、有テレ法施行規則に「同時再送信」に関する規定が置かれたことは5団体及び準備委ともに認識しており、同契約の対象となる「同時再送信」については、有テレ法施行規則2条に定める「同時再送信」に含まれる有線テレビジョン放送と異なった範囲の有線テレビジョン放送が同契約の対象となる旨が合意されたものではなく、同条に定める「同時再送信」に含まれる有線テレビジョン放送はすべて5団体契約の対象とすることが前提とされていたこと、 A 本件使用料規定の備考@の規定は、先に5団体と準備委との間で合意されていた5団体契約の契約書式を踏まえ、5団体契約による権利処理の対象となる有線テレビジョン放送については同契約によって権利処理を行うことが確認的に規定されたものであること、 B 昭和63年の統一書式及び覚書の改訂時において、当時すでに本放送を目前にしていたBS放送の同時再送信を自主放送に含めることとはされなかったこと、 C その後WOWWOWを含むBSアナログ放送、平成12年12月に開始されたBSデジタルの委託放送の同時再送信についても、原告を含む5団体は、5団体契約に従った権利処理を行っているものであること、 D CS放送事業者は、沿革的には番組供給事業者の一部が委託放送事業者の免許を取得して放送事業者となったものであるが、地上波放送及びBSを中継器として行う委託放送の同時再送信だけでなく、CSを中継器として行う委託放送の同時再送信も、上記有テレ法施行規則に定める「同時再送信」に含まれるものであること、 E 原告と連盟及び有線放送事業者の間においては、平成5年ころからCS放送の同時再送信について、本件使用料規定の備考@が適用されるものか、備考Aが適用されるものかについて議論となり、原告と連盟との間で協議が続けられたが、この点についての協議は現在に至るまで調っていないこと、 F 5団体のうちで、原告以外の他の団体が、被告らの行うCS放送の同時再送信について5団体契約とは別に被告らに対して権利行使をした事実はないこと 上記認定の@ないしFの各事実を総合して、契約当事者の合理的意思に基づいて5団体契約の趣旨を解釈すれば、CS放送の同時再送信については、5団体契約の対象とされていると認めるのが相当である。すなわち、CS放送の同時再送信については、本件使用料規定の備考@の「テレビジョン放送の再送信」に該当し、5団体契約の契約の対象として権利処理されるものに該当するというべきである。 (3) この点に関し、原告は、本件使用料規定の備考Aの「自主放送時間」とは、有線放送の全放送時間のうち、備考@に基づく協議の結果合意が成立し、その対象となった放送の再送信を除く有線放送の放送時間を指すものであって、CS放送の同時再送信については、本則と異なる特別の料率を適用することについて、合意が成立したことはない以上、備考Aの計算式が適用になるものであると主張する。しかしながら、まず、備考Aの規定は「再送信のほかに」と規定されているのであって、本則と異なる特別の料率が合意された場合以外がすべて含まれるとは規定されていないものであるから、再送信については、すべて備考@の規定の対象となることが予定されているものと解されること、上記(1)認定の事実経緯から明らかなとおり、備考@の規定は、先に5団体と準備委との間で合意に至っていた5団体契約の統一書式の内容を踏まえて規定されたものであるところ、5団体契約における「同時再送信」の内容については、有テレ法施行規則に定義される同時再送信のことであり、備考@及び備考Aにいう「再送信」も同内容のものであると解されること、CS放送の同時再送信が有テレ法施行規則の定める「同時再送信」に含まれるものと解されることといった事情に照らすならば、本件使用料規定を原告の主張するように解釈することはできず、CS放送の同時再送信も本件使用料規定の備考@に定める「再送信」に含まれるものと解するのが相当である。 原告は、5団体と準備委の間の5団体契約の契約書式の合意時、さらにその後の原告と連盟との間の本件使用許諾契約の統一書式及び覚書の合意時及び同統一書式及び覚書の改訂時においても、CS放送の同時再送信が出現することは想定していなかった以上、5団体契約の対象にCS放送の同時再送信が含まれることはあり得ない旨主張する。しかしながら、上記認定のとおり、5団体契約の統一書式を合意した時点において、原告及び準備委は当時の有テレ法施行規則に定める「同時再送信」に含まれる再送信については、すべて5団体契約の対象とする意思を有していたものであるところ、昭和63年の統一書式及び覚書の改訂時に既に本放送を目前に控えていたBSアナログ放送について、本件使用許諾契約による権利処理の対象とする扱いとはされず、現にBSアナログ放送の同時再送信に関する使用料も5団体契約によって権利処理されていたものであり、その後に5団体契約の対象を一定の範囲に制限することの合意が原告と連盟との間で成立したこともなかったのであるから、このような状況を前提として、その後の平成3、4年に5団体契約を締結した被告らとの関係においても、CS放送の同時再送信は除くという特段の合意がなされていない限り、有テレ法施行規則に定める「同時再送信」はすべて5団体契約の対象とする旨の合意がなされていたと認めるのが相当であって、原告の主張を採用することはできない。 原告はさらに、地上波放送の同時再送信については、難視聴対策という公益目的があったから特別に5団体契約に定める低い使用料率で使用料を算定することを合意したものである旨主張する。たしかに、有線テレビジョン放送事業者による地上波放送の同時再送信が難視聴対策の意味合いをもって行われる場合もあることはそのとおりであるが、5団体契約においては、有テレ法13条1項に定める義務再送信かどうかを問わずに、一律に契約に定める権利処理の対象としているものであって、5団体契約に定める使用料率が原告の主張するように、ことさら難視聴対策という公益目的に着目して定められたものと認めることはできない。むしろ、同契約の使用料率を決めるに当たっては、5団体の中には、放送事業者との間における契約において、放送事業者による放送への使用の許諾及び有線放送による同時再送信に関する再許諾権限の付与の双方を行い、その使用料を定める方式(いわゆる「元栓処理」)を原則としている団体もあるなどの5団体側の事情が強く影響したものと推認されるところであって、上記の原告の主張を採用することもできない。 (4) 原告は、5団体契約に従ってCS放送の同時再送信についての使用料を定めることとした場合、使用料の上限が定められている以上、チャンネル数がいくら増えても使用料は上限を超えることはないことになってしまい、不合理であり、このような扱いは当事者の合理的意思に反する旨主張する。しかしながら、被告ら各自と5団体との間でそれぞれ5団体契約が締結された当時の当事者の合理的意思として、放送の同時再送信に該当するものはおよそ5団体契約によって処理するとの合意がされたものと認められることは上記認定のとおりであり、原告の主張を採用することはできない。原告の主張は、被告らそれぞれとの間の5団体契約締結時に存在しなかったCS放送の出現は重大な事情変更であるから、その同時再送信は5団体契約の対象から外すべきであるとの主張にも解される。しかし、契約締結後の事情の変化によって、当事者間の明示的な合意がないにもかかわらず、原告主張のとおり契約内容が変更されたといえるためには、CSを利用した委託放送事業者の出現という事態を当事者が予見し得ず、かつ5団体契約に従ってCS放送の同時再送信に関する権利処理を行うことが信義則に反するという事情が認められなければならないところ、本件においてはこのような事情を認めることはできないのであって、かかる原告の主張を採用することもできない。 (5) また、原告は、原告と連盟との確認書において、CS放送の同時再送信については、自主放送として放送時間を計算することの合意がなされた以上、被告らもその合意に拘束されるものであると主張する。しかしながら、連盟はケーブルテレビ事業者の事業者団体であって、個別の有線テレビジョン放送事業者の契約に関する交渉権限を与えられているものではないから、連盟が原告と合意した内容について、加盟各事業者にそれに従った権利処理を行うように推奨し、加盟事業者がその合意内容を受け入れる限りにおいてそれに従った契約処理が可能となるとしても、被告らがその合意内容に当然に拘束されるということはないというべきである。しかも、上記(1)認定のとおり、連盟と原告との確認書の内容は、使用料規定の解釈や本件使用許諾契約の対象となる契約について合意したものではなく、あくまで、暫定的に、確認書が対象とする年度について、加盟ケーブルテレビ事業者が原告に支払う使用料の額の算定方法について合意したにすぎないものであるから、これらの確認書によって、本件使用料規定の備考Aの「自主放送」にCS放送の同時再送信を含めることが合意されたということができないことはもちろんのこと、これらの確認書の存在によって、そのような合意の存在が推認されるということもできない。 したがって、この点に関する原告の主張も採用することができない。 (6) 以上のとおりであって、CS放送の同時再送信における被告らの管理著作物の利用は、5団体契約の対象となっているものであり、同契約によって処理されるものというべきである。 被告成田及び被告銚子は、5団体契約を締結しているものであり、同被告両名の管理著作物の利用については同契約により原告の許諾がされているものというべきであるから、同被告両名の管理著作物の利用が著作権侵害を構成するということはできない。したがって、被告成田及び被告銚子に対して差止め及び損害賠償ないし不当利得返還を求める原告の請求は、理由がない。また、CS放送の同時再送信における管理著作物の利用が本件使用許諾契約の対象となることを前提として使用料の支払いを求める被告行田に対する請求も、理由がない(原告は、本件訴訟において5団体契約に基づく使用料の請求を行っているものではない。第15回弁論準備手続における原告の陳述)。 また、本件訴訟において原告が管理著作物の使用差止め並びに損害賠償ないし不当利得返還及び使用料支払を求めている有線放送については、当事者双方から提出された全証拠によっても、被告らがCS放送の同時再送信以外の有線放送を行って原告の管理著作物を使用した具体的事実を認めるに足りないし、今後使用されるおそれがあると認めるにも足りない。 3 結論 以上のとおりであるから、その余の点につき検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村量一 裁判官 松岡千帆 裁判官 大須賀寛之は、転任のため署名押印できない。 裁判長裁判官 三村量一 |
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