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【事件名】セコム偽ステッカー販売事件
【年月日】平成16年5月24日
 東京地裁 平成16年(ワ)第6516号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年4月28日)

判決
原告 セコム株式会社
訴訟代理人弁護士 石田省三郎
同 鎮西俊一
被告 A


主文
1 被告は、別紙商標目録記載の標章を付したステッカーを販売し、販売のために展示してはならない。
2 被告は、その占有に係る別紙商標目録記載の標章を付したステッカーを廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金422万3925円及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決の3項及び5項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文1、2項と同旨
2 被告は、原告に対し、金1172万5905円及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告に対し、被告が製造・販売するステッカーが原告の商標権を侵害するとして、被告の上記行為の差止等と損害賠償を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告の有する商標権
 原告は、警備業法に基づく警備業等を営む株式会社であり、別紙商標権目録(1)及び(2)記載の商標権(以下、順に「本件商標権1」、「本件商標権2」といい、これらを併せて「本件商標権」という。また、本件商標権2の登録商標を「本件商標」という。)を有している。
(2) 被告の行為
 被告は、別紙被告ステッカー目録記載のステッカー(以下「被告ステッカー」という。)を製造し、インターネットのヤフーオークションにおいて販売し、販売のために展示している。
2 当事者の主張
(1) 原告の主張
ア 商標権の侵害
 被告は、本件商標と同一の又は類似した標章を付して被告ステッカーをインターネットを通じて販売している。被告ステッカーは、本件商標権2の指定商品である第16類の商品と同一である。したがって、被告が被告ステッカーを販売し、販売のために展示することは本件商標権の侵害となる。
イ 損害額
 原告は、被告の本件商標権侵害行為により、以下のとおり、合計1172万5905円の損害を被った。
(ア) 財産的損害
 被告は、被告ステッカーを796枚販売し、これにより以下のとおり合計72万5905円の利益を得た。
@ 売上額 合計75万9040円
 Yahoo JAPAN ID(以下「ID」という。)「piano_763」での販売
  販売件数 128件(128枚)
  1件の価格 920円
  売上額 11万7760円(=128×920)
 ID 「h841dtm」での販売
  販売件数 334件(1件2枚で668枚)
  1件の価格 1920円
  売上額 64万1280円
A 販売経費 合計3万3135円
 ヤフーオークション出品費用
  参加費 294円×6か月分=1764円
  出品システム利用料 10円/1件×462件=4620円
  落札システム利用料 75万9040円×0.03=2万2771円
  ステッカー製造費用 5円/1枚×(128+668)=3980円
B 利益 75万9040円−3万3135円=72万5905円
 したがって、原告の被った損害額は72万5905円と推定される(商標法38条2項)。
(イ) 信用毀損による損害
 原告の別紙原告ステッカー目録記載のステッカー(以下「原告ステッカー」という。)は、原告が多大の費用と時間をかけて開発し、広告宣伝及び営業活動を行うことによって築き上げた防犯サービス等の信用力を表象するものであり、世間では同ステッカーの表示をもって、これが貼付された建物等を原告の提供する防犯サービス等の契約建物等であると認識する。
 被告が被告ステッカーを販売したことにより、原告ステッカーの有する世間の評価と信頼は傷つけられ、原告の信用は毀損された。
 原告が被った信用毀損による損害は、1000万円を下らない。
(ウ) 弁護士費用
 被告の本件商標権侵害に対し、原告は、本件訴訟を提起することを余儀なくされ、弁護士費用として100万円の損害を被った。
(2) 被告の反論
ア 被告が被告ステッカーをインターネットのヤフーオークションにおいて販売していたことは認める。被告は、被告ステッカーの販売行為が商標権を侵害するとの認識を有していなかった。
イ 被告は、原告から2度、警告を受け、その都度原告に対して謝罪し、販売した商品を添付して、以下のとおり質問したが、原告から回答を得られなかった。
(ア) 被告は、原告と同様のサービスを偽ってセキュリティサービスを販売しているのではなく、原告が加入者に無料配布しているステッカーを真似たパロディ品を純正品でないことを明記して紹介していた。具体的な違法性を知りたい。
(イ) 被告が製造販売したステッカーは、ロゴタイプとコメントが異なるが、どのような基準で商標権の侵害品と判断されるのか。
(ウ) 被告が製造販売したステッカーは、原告のものとロゴタイプと指定色が異なるが、どのような基準で商標権の侵害品と判断されるのか。
(エ) 被告が製造販売したステッカーは、市販ラミネートフィルムでの市販インクジェットプリンターによる簡易印刷物であるが、全く仕様が異なる品質の物がどの範囲で商標権の侵害品と判断されるのか。
 被告は、以上の点を原告に質問したが、原告から回答がなかったので、違法性がないものと理解し、販売を続けた。
第3 当裁判所の判断
1 商標権侵害の有無
(1) 証拠(甲1の2、甲3)によれば、被告ステッカーは、本件商標権2の指定商品である印刷物又は文房具類に該当すること、被告ステッカーには、別紙被告ステッカー目録記載のとおり、表面の下段約3分の1程度の幅で大きく本件商標と実質的に同一の標章が付されていること、以上の事実が認められる。したがって、被告ステッカーを販売し、又は販売のために展示する被告の行為は、原告の有する本件商標権2を侵害する行為である。
 (なお、原告は、被告の上記行為が、本件商標権1を侵害する行為であるとも主張する。本件商標権1に基づく請求と本件商標権2に基づく請求とは、選択的な請求と解されるので、本件商標権1の侵害の有無については判断しない。)
(2) 被告は、前記第2の2(2)のとおり、被告ステッカーが商標権の侵害品であるとの認識がなかったこと、被告ステッカーを販売する行為について違法性がないと理解したなどと主張する。しかし、被告の主張する事情はいずれも商標権の侵害の成否を左右する事情にはなり得ず、被告の主張は、主張自体失当である。
2 原告の損害額
 そこで、被告の本件商標権2の侵害行為により原告が被った損害額について判断する。
(1) 財産的損害
 証拠(甲7の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成15年8月22日から平成16年2月11日までの間、「piano_763」及び「h841dtm」のIDでインターネットのヤフーオークションに被告ステッカーを出品し、総数796枚を合計75万7060円で販売したことが認められる。
 また、弁論の全趣旨によれば、被告は、被告ステッカーを製造販売するために、前記第2の2(1)イ(ア)A(販売経費)記載のとおり、合計3万3135円の費用を支出したことを認めることができる。本件全証拠によるも、上記経費額の他に被告が被告ステッカーを製造販売するために経費を支出したことを認めることはできない。
 したがって、被告は被告ステッカーの製造販売により、72万3925円の利益を得たものと認められるから、同額が本件商標権2の侵害により原告が被った損害額と推定される(商標法38条2項)。
 75万7060円−3万3135円=72万3925円
(2) 信用毀損による損害
ア 証拠(甲2ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められ、これに反する証拠はない。
(ア) 被告は、平成15年8月下旬ころから、インターネットのヤフーオークションにおいて、IDを「piano_763」と表示して、被告ステッカーを出品した。原告は、直ちに、オークションを運営するヤフーに対して、出品の削除を申し入れ、削除されたが、被告は、その後も、出品を繰り返した。原告は、平成15年9月19日付けの内容証明郵便により、被告に対して、被告ステッカーの販売の中止、販売先の開示等を求める警告書を発し、同警告書は、翌日被告に到達した。これに対して、被告は、同年10月2日、「大変ご迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます」「貴社にこのようなご迷惑がかかる事を想定せず、大変軽率な行動であった事を反省しております。」「現在このような警告を受けましたので販売しておりません。」などと記載した書面を送付し、翌日原告に到達した。
(イ) ところが、被告は、その直後の同年10月11日、IDを「h841dtm」に変更して、夜間、土日を選んで、被告ステッカーの出品を継続した。原告は、平成16年1月29日付けの内容証明郵便により、被告に対して、被告ステッカーの販売の中止、販売先の開示等を求める警告書を発し、同警告書は、翌日被告に到達した。しかし、被告は、その後も、被告ステッカーの出品を続けていた。
 被告が被告ステッカーを販売した数量は、「piano_763」を使用したものが128枚であるのに対して、「h841dtm」を使用したものが668枚に及ぶ。
(ウ) 原告は、長年にわたり、警備業法に基づいた防犯サービスを営んでいる。原告は、顧客との間で防犯サービス、火災監視サービス等の提供契約を締結した場合に、契約者であることを表示し、防犯上の抑止力とすることを目的として、契約者に対し原告ステッカーを貸与している。原告ステッカーは、防犯サービス等の対象となった建物等に貼付され、これにより原告が同サービスを行っている建物等であることが、部外者から一見して分かるものである。このように、原告ステッカーは、広告宣伝及び営業活動を行うことによって築き上げた防犯サービス等の信用力を表象するものであり、同ステッカーの貼付された建物等は原告の提供する防犯サービス等の契約建物等であると認識されている。
イ 以上認定した事実、すなわち、@被告の販売に係る被告ステッカーは、原告ステッカーと同一又は極めて酷似したものであって、被告ステッカーの外観からその出所を判別することは困難であること、A被告ステッカーの販売数量は、合計約800枚であって、極めて多数に及ぶこと、B被告は、原告から警告状を受け取って、詫び状を送付し、販売の中止を約束しながら、 IDを変更して、販売を継続していること、警告書を受け取った後の販売数量が、警告書を受ける前より多数に及ぶこと、C原告ステッカーは、原告が多大の費用と時間をかけて、営業活動及び宣伝活動をすることによって形成した原告の防犯サービス等の信用力を表象するものと評価でき、原告ステッカーの掲示をもって、原告の提供する防犯サービスの契約者であると、一般に認識されていること等の事実に照らすならば、被告による被告ステッカーの販売行為は、原告が形成してきた防犯サービスに対する評価及び信用を著しく低下させる行為であり、その販売態様も悪質であるといえる。そうすると、被告の販売行為により原告が被った信用毀損による損害は300万円と認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用
 原告が本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであるところ、本件訴訟の内容、認容額、難易度その他一切の事情を考慮すれば、被告の行為と相当因果関係のある弁護士費用は50万円が相当である。
(4) 小括
 以上のとおり、原告が被告の本件商標権2の侵害行為により被った損害額は、合計422万3925円となる。
4 結語
 よって、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 山田真紀
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