判例全文 | ||
【事件名】小林亜星『どこまでも行こう』事件(JASRAC)(2) 【年月日】平成17年2月17日 東京高裁 平成16年(ネ)第806号、第2708号 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件 (原審・東京地裁平成15年(ワ)第8356号) (平成16年12月22日 口頭弁論終結) 判決 控訴人・附帯被控訴人(被告) 社団法人日本音楽著作権協会 訴訟代理人弁護士 田中豊 同 藤原浩 同 鈴木道夫 同 市村直也 被控訴人・附帯控訴人(原告) 有限会社金井音楽出版 訴訟代理人弁護士 井上準一郎 同 大石忠生 同 佐藤隆男 主文 原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。 被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。 本件附帯控訴を棄却する。 被控訴人(附帯控訴人)が当審で拡張した請求を棄却する。 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(附帯被控訴人)の求めた裁判 主文同旨 2 被控訴人(附帯控訴人)の求めた裁判 (1) 本件控訴に対する答弁 本件控訴を棄却する。 (2) 附帯控訴 原判決を次のとおり変更する。 控訴人は、被控訴人に対し、2303万4000円及びこれに対する平成15年4月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 当審で拡張した請求 控訴人は、被控訴人に対し、2338万9710円及びこれに対する平成16年6月23日(請求拡張申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本判決においては、原判決と同様の意味において、「仲介業務法」、「本件使用料規程」、「本件分配規程」、「本件信託契約約款」、「A」、「甲曲」、「B」、「記念樹」、「乙曲」、「ポニーキャニオン」、「フジパシフィック」、「フジテレビ」、「別件訴訟」との略称を用いる。 1 本件は、甲曲の作詞作曲者であるAからその著作権等の信託譲渡を受けた被控訴人が、控訴人が音楽著作権管理団体として、平成4年12月1日から平成15年3月13日までの間、乙曲を継続的に音楽著作物利用者に対して利用許諾し、その許諾を受けた利用者をして、放送、録音、演奏等をさせた行為が、甲曲に係る著作権法27条(編曲権)又は28条の権利を侵害するものであったと主張して、控訴人に対し、不法行為又は控訴人と被控訴人間で締結された本件著作権信託契約の債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案である。 (1) 原審においては、被控訴人(原告)は、控訴人(被告)に対し、乙曲の利用許諾に関する平成15年3月期、6月期及び9月期の3期分の分配保留額を基にした損害として、合計2303万4000円(弁護士費用を含む。)及び遅延損害金の支払いを求めた。 (2) 原判決は、著作権法27条の権利侵害を理由とする請求については、理由がないとしたが、同法28条の権利侵害を理由とする請求については、「原告は、編曲権を侵害して創作された乙曲を二次的著作物とする法28条の権利を有し、乙曲を利用する権利を専有するから、原告の許諾を得ることなく乙曲を利用した者は、原告の有する法28条の権利を侵害したものであり、上記利用者に乙曲の利用を許諾した被告は、上記権利侵害を惹起したものというべきである。」とした。そして、原判決は、「本件において損害を請求されている平成15年3月期以降の著作物使用料分配保留分の利用許諾行為については、別件訴訟が提起された後であり、一部は編曲権侵害を肯定する別件訴訟控訴審判決が言い渡された後でもあるのであるから、被告としては、乙曲が甲曲の著作権を侵害するものであるか否かについてとりわけ慎重な検討をして著作権侵害の結果を回避すべき義務があった。しかるに、被告は、これを怠り、別件訴訟の控訴審判決前に関しては、利用者に対して、格別に注意喚起すら行っておらず、控訴審判決後も漫然と乙曲の利用許諾をし続けたのであるから、過失があったといわざるを得ない。」として、控訴人(被告)の過失責任を肯定した。その上で、原判決は、被控訴人(原告)の損害について検討し、180万3294円(弁護士費用を含む。)及び遅延損害金を認定し、この限度で被控訴人(原告)の前記請求を認容し、その余の請求を棄却した。 (3) 控訴人(被告)は、原判決中の上記認容部分を不服として控訴を提起し、これに対して、被控訴人(原告)は、上記棄却部分について附帯控訴を提起した。 そして、被控訴人(原告)は、当審において、2338万9710円分の請求を拡張し、合計で4642万3710円及び遅延損害金を請求するものである。 2 「争いのない事実等」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。 3 当審における控訴人の主張 (1) 責任論について (a) 著作権法28条の権利の譲渡について 被控訴人の主張は、被控訴人が甲曲に関する著作権法28条の権利を有していることを前提とするものであるところ、甲曲に関する同法28条の権利は、本件著作権信託契約により被控訴人から控訴人に譲渡されているから、その余の点を検討するまでもなく理由がない。控訴人は、これを権利喪失の抗弁として主張するものである。 原判決(12頁21行目以下)は、控訴人が「法28条の権利の譲渡を受けているから、…乙曲の利用許諾は、権限に基づく有効なものであ(る)」という主張をしているものと取り違えており、誤った結論を導く原因の一つとなっている。 原判決は、同法28条の権利の譲渡を否定した根拠のその1として、本件著作権信託契約には同法28条の権利が譲渡の目的として特掲されていない点を挙げる。しかし、本件著作権信託契約は委託者のために行う自益信託であり、著作権の譲渡人と譲受人との間に同法61条2項が予定する利害の対立は全く存在しない上、音楽著作物の編曲は、言語の著作物を映画化する場合等とは異なり、二次的著作物となった後でもその利用態様や利用者の市場は基本的に同一であり、同法61条2項が前提とする「あらかじめ予想することが不可能な将来の付加価値」を生み出すようなものではない。したがって、同法61条2項の推定は本件著作権信託契約に及ばないものというべきである。 原判決は、上記根拠のその2として、編曲届に原著作物の著作権者の承認を必要としていることからすれば、被控訴人のみならず、控訴人においても原著作物の著作権者の許諾のない二次的著作物に関する同法28条の権利について信託契約の対象とする意思を有していないと認められるとの点を挙げている。しかし、編曲届は、編曲著作物を二次的著作物としての権利関係に基づき管理する手続、換言すれば、使用料取分が減少することになる原著作物の著作権者等の承諾を得た上で使用料の分配対象権利者に編曲者を加えるための手続であるから、編曲届に原著作物の著作権者の承認を要求していることをもって、同法28条の権利が信託契約の対象とされていないことの根拠とはならない。逆に、編曲届の提出の有無を問わず同法28条の権利が信託の対象とされていると解さなければ、控訴人による合理的で効率的な著作権管理は不可能となってしまうこと、控訴人は昭和14年の設立以来60年余にわたり一貫して編曲届の提出のない編曲著作物に関する同法28条の権利の信託を受けていることを前提とした管理業務を行ってきているが、編曲著作物の管理方法について委託者から一切のクレームを受けたことがないこと、控訴人は被控訴人及び訴外Aから管理委託を受けている作品についても編曲届の提出の有無にかかわらずその編曲著作物の利用許諾を行い使用料を徴収して同人らに分配してきたが、同人らは何らの異議なく分配された使用料を受け取り続けていることなどからすれば、本件著作権信託契約を締結する当事者の通常の意思は、編曲届の届出の有無にかかわらず、同法28条の権利を信託するものと解するほかない。 原判決は、上記根拠のその3として、原著作物の著作権者の許諾なく編曲された二次的著作物に関する権利が譲渡されたとすると、原著作物の著作権者の保護に欠ける結果となりかねないとの点を挙げる。しかし、管理委託を受けた作品の著作権を侵害する楽曲が利用されようとする場合において控訴人がとるべき措置の内容は、同法28条の権利の譲渡の有無によって変わらないし、同法28条の権利を控訴人に譲渡していても、委託者が編曲権侵害行為によって創作された二次的著作物の利用行為を阻止することが可能であるから、本件著作権信託契約によって同法28条の権利が譲渡されたものと解しても、何ら委託者の保護に欠けることはない。かえって、同法28条の権利が譲渡されていないとすると、控訴人において現に社会に流通する膨大な数の編曲届の提出のない編曲著作物の利用から使用料を徴収することも、無断利用であるとして差し止めることもできなくなり、著しく委託者の利益が損なわれることとなる。 以上のとおり、甲曲に関する同法28条の権利は、本件著作権信託契約により控訴人に譲渡されていることが明らかであるから、被控訴人の同法28条侵害の不法行為に基づく請求は、その余の点を検討するまでもなく理由がない。 (b) 過失(帰責事由)の不存在について 原判決が判示するような結果責任を控訴人が負わねばならない理由は、どこにも存在しないから、原判決の判断は誤りである。 信託受託者は、信託行為の定めるところに従い信託財産の管理処分を行う義務を負うのであり(信託法4条)、信託行為(信託契約)の定めが受託者の行為を規定する。そして、信託行為により受託者に裁量権が与えられている場合においては、受託者のする裁量権の行使に裁判所が介入することは許されないのであって、受託者に義務違反の問題は生じない。この場合、公平義務が受託者が裁量権を行使する指針となるものである。 本件著作権信託契約においては、委託者間に著作権侵害の成否をめぐる紛争が生じた場合、受託者に対して分配保留の措置(第20条)又は管理除外の措置(第29条)をとる権限が与えられており、その具体的な運用については受託者の合理的な裁量に委ねられている。そこで、控訴人においては、信託法上の公平義務(多数の委託者の著作権を公平に管理すべき義務がある。)や利用者に対する応諾義務(正当な理由がなければ利用許諾を拒むことができない。)に配慮しつつ、委託者の不利益を極小化させる観点から、両措置の具体的運用について、著作権が侵害されていることが客観的に明白であり、かつ、委託者から管理除外措置について明示の要請がある場合には管理除外措置を、それ以外の場合には分配保留措置をとることとしている。そして、本件においては、著作権侵害の成否の判断が裁判所においても一審と二審とで分かれるほど微妙であり、かつ、被控訴人からは、平成10年9月18日付けの内容証明郵便により、別件訴訟を提起したことを理由に、乙曲について、管理除外の措置ではなく分配保留の措置をとるよう明示の要求があったことから、控訴人としては、上記運用基準と被控訴人の要求とに従って、平成10年12月期から別件訴訟の最高裁決定があった平成15年3月13日まで、乙曲の使用料の分配保留の措置を講じたのである。なお、被控訴人からは、分配保留措置の中止や管理除外措置への変更の要請などは一度もなく、むしろ、適切な措置と感謝されていた。 本件における控訴人の措置が、信託契約によって控訴人に与えられた裁量権の範囲内のものであることは明らかである(原判決は、判断部分において、分配保留の措置が被控訴人自身の要求に従ってとられたものであるという重要な事実を過失の評価障害事実から落とすという重大な誤りを犯している。)。 なお、著作権侵害の有無に関する司法判断が確定しておらず、著作権侵害が不明確であるのに、最終的法的判断権限を有しない控訴人において、安易に管理除外措置を講じたのでは、利用者においては当該著作物の利用が事実上不可能となり、委託者の音楽家としての表現が故なく封殺され、表現の自由が著しく制約されるという重大な権利侵害の結果を生じさせる危険がある。控訴人において分配保留の措置をとることにより、後に権利侵害の事実が肯定されたときにも、権利侵害を受けた委託者としては、少なくとも侵害楽曲の利用による使用料相当額の損害賠償金を確実に受け取ることができる。したがって、著作権侵害の有無について当事者間に真摯な争いがあるような場合、控訴人としては、分配保留措置という、より制限的でない他の選び得る手段を講じるべきであるのは当然で、適正なものである。 本件において、分配保留措置をとるか管理除外措置をとるかが巨大な集団信託業務の受託者である控訴人の裁量に属するものであることは前述のとおりであるから、控訴人が分配保留措置をとったことが委託者の一人である被控訴人との関係において違法とされるのは、控訴人の裁量権の行使がその権限を定めた本件著作権信託契約の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く場合に限られるものというべきである。既に詳述した本件の具体的な事実関係の下において、このようにいうことができないことは明らかである。 なお、控訴人における著作権侵害の結果回避措置として、委託者から作品届を受け付ける際に歌詞付き譜面の提出を求めた上で、新たな作品届が提出される都度、それが既存の管理著作物の著作権を侵害するものか否かを個別に調査するようなことは、音楽著作権の合理的かつ効率的な管理という本件著作権信託契約の目的に背向する上、物理的にも到底実行不可能なものである。 以上のとおり、本件において控訴人が管理除外の措置ではなく分配保留の措置をとったことには、何らの注意義務違反は認められず、不法行為の請求における過失も、債務不履行の請求における帰責事由も、認めることはできない。 (2) 損害論について (a) 被控訴人は、原判決が、損害金の算定に当たり作詞者分及び編曲者分を控除したのは誤りであるという。しかし、著作権法114条3項の使用料相当損害金においても、被侵害権利が侵害物とされる対象の一部のみを侵害するにすぎないときは、全体に対する当該侵害部分の寄与割合によって使用料相当額が按分して算定されるのは当然である。仮に、乙曲が甲曲の著作権を侵害して編曲されたものであるとしても、被控訴人の権利を侵害するのは乙曲の楽曲部分のうちの原著作物の著作権者としての権利部分にすぎない。 (b) 被控訴人は、乙曲の利用は、甲曲とその歌詞が一体となった結合著作物の著作権を侵害するものであるから、控訴人の使用料規程上、楽曲だけ又は歌詞だけが利用される場合の使用料が定められていない利用形態については1曲分全部の使用料相当損害金を認めるべきであるという。しかし、「結合著作物」は、利用の場面においては一体とされることが多いが、法律上はそれぞれ独立した別個の著作物であるものを説明するために講学上用いられる概念である。歌詞と楽曲が法律上別個の著作物である以上、楽曲の著作権侵害が歌詞に及ぶことはない。 (c) 控訴審において拡張された請求の大部分は、フジパシフィックらを被告とする訴訟において棄却され、存在しないことに確定した損害である。被控訴人は、これを控訴人に対する請求に仕立て直して紛争を蒸し返そうとするものであって、訴権の濫用ともいうべき違法なものである。また、上記拡張部分は、その大部分が別件訴訟の控訴審判決以前、すなわち、乙曲について著作権侵害の紛争が生じていなかった期間、及び甲曲と乙曲の関係について、別件訴訟の一審裁判所が乙曲は甲曲の著作権を侵害するものではないとの判断を示していた期間におけるものであり、上記損害が問題とされることはおよそあり得ない。なお、被控訴人の主張する損害金の算定方法は証拠との対応関係が不明な点が少なくないが、特に被控訴人が独自に利用回数等を推計して使用料相当額を算定している部分(通信カラオケ送信・演奏等)は、何ら合理的な裏付けがない。 (d) 被控訴人は、著作権法114条3項の規定に基づく損害論を主張し、債務不履行による損害賠償としてもこれと同様の損害を請求すると述べる。しかし、上記規定は、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求における特則であり、債務不履行の請求に適用されることはない。したがって、被控訴人は、債務不履行によっていかなる現実の損害を被ったのかを明らかにした上、その損害と債務不履行との間に相当因果関係があることを主張・立証しなければならない。被控訴人が主張する債務不履行の内容に照らしても、本件において被控訴人に積極損害は存在しない。使用料相当損害金が認められるためには、債務不履行がなければ使用料相当額の利益を被控訴人が得られたと認めることが相当といえる必要があるところ、テレビ番組「あっぱれさんま大先生」において、乙曲の代わりに甲曲が放送されたり、中学校の卒業式において甲曲が歌われるといったことはおよそ想定できない。 4 当審における被控訴人の主張 (1) 責任論について (a) 著作権法27条に反する二次的著作物に関する同法28条の権利を控訴人に信託譲渡していると考えることはできない。同法28条は、二次的著作物が原著作物の著作権者を無視して利用されることを防止することを定めるのであるが、この利益を保護するためには、それ以前に二次的著作物が27条に違反していないことを前提とするはずである。二次的著作物が27条に違反している場合には、28条以前にまず27条違反を問題にする必要がある。 (b)(b-1) 控訴人は、控訴人と被控訴人との間で締結された甲曲についての本件著作権信託契約上、甲曲について被控訴人の有する利益を守る義務があり、かつ、その手段を有していたのに、この義務に違反して甲曲の盗作である乙曲の管理を継続した。 控訴人と被控訴人の間の著作物委託契約の主たる内容は、著作権信託契約約款第3条1項に記載してあるように、委託者はその有する著作権を信託財産として受託者に移転し、受託者は委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配することである。控訴人は、多数の委託者から委託を受けることは許されるが、既存の著作物と同一の又は類似の著作物が委託され、かつ、控訴人がそれらを管理しないようにするための最低限度の具体的措置をとる債務を負担している。問題は、控訴人の特殊な立場を前提にして、どの程度の行為が要求されるかである。まず、作品届をする際に歌詞付き譜面の提出を求めることは、控訴人に過重な負担を強いるとは思えない。次に、控訴人の経済的規模及び1日当たりの作品届の数量から見て、届出される作品の譜面をチェックするための機関を設置することを要求することも過重とは思えない。仮に、これらの具体的措置をとる債務を負担していないとしても、控訴人は、上記同一曲又は類似曲、同一曲に別個の歌詞が付けられて作品届がされて控訴人がそれらを管理するに至ることを防止するための何らかの債務を負担していることは明らかである。 控訴人が、譜面の提出を要求し、かつ、常時譜面のチェック機関を設けているなら、乙曲の作品届がされて控訴人がこれを管理するに至ることは防止できたはずである。ところが、控訴人はこれらをことごとく怠り、本件著作権侵害事件を引き起こしているのであるから、過失があるといわなければならない。控訴人に予見可能性があったことも明らかである。なお、平成10年7月28日に、甲曲の著作者Aが乙曲が甲曲の著作権を侵害しているとして別件訴訟の提訴をし、Aとともに被控訴人が記者会見をした後は、甲曲と乙曲の関係を認識している控訴人の利用許諾行為は、確定的故意に基づくものであることは明白である。 (b-2) 不法行為としても、平成10年7月28日以後の控訴人の乙曲の利用許諾行為は、確定的故意に基づくものであるが、それ以前の利用許諾行為についても、甲曲が有名曲であり、かつ、乙曲が甲曲に極めて類似した楽曲であったことを考慮すると、控訴人が作品届の際に譜面の提出を求め、かつ、常時チェック機関を設置していたなら、著作権侵害の危険性のあることを発見でき、真面目に著作権侵害か否かを検討していたなら、控訴人が著作権侵害の危険性が高いとの判断に至り、乙曲の利用許諾を開始したり、継続することはあり得なかった。ところが、控訴人は、作品届について譜面の提出の要求を怠り、また、控訴人にとって容易になし得たにもかかわらずチェック機関を設けなかったために、乙曲のような露骨な編曲権侵害楽曲の利用許諾を開始し、利用許諾を継続したのである。控訴人は、保証条項を設けるだけにとどまらず、著作権侵害楽曲の管理の開始を防止するための譜面の提出及びチェック機関の設置という結果回避措置を取るべきであった。 控訴人の主張によれば、分配保留措置と管理除外措置のどちらを採用するかは控訴人の裁量に委ねられており、利用許諾を継続したまま、使用料を徴収し、分配さえ留保すれば、控訴人に落ち度はなく、原著作物の著作者に損害はないということになる。しかし、控訴人が著作権侵害楽曲の利用許諾を継続すると、著作権侵害の被害は拡大される。控訴人の主張は、我が国の権威ある音楽著作権管理機関として、無責任である。また、フジテレビのように、控訴人の利用許諾に藉口して盗作の利用を継続する者もいるのであり、それを助長させる控訴人の責任は大きい。控訴人が、乙曲について管理除外措置を取らなかったことに重大な落ち度がある。 別件訴訟の一審と二審の判断が違うことを理由に最高裁の判決まで待つのは当然であるということはできず、それによって控訴人の責任は軽減されない。仮に、権利侵害が明白でなかったとしても、著作権侵害の予測可能性がある場合に、控訴人は、これを知りながらあえて利用許諾を続けたのであり、しかも、それによって大規模な著作権侵害が発生することを容易に予測し得たのであるから、控訴人は、乙曲を管理除外すべきであった。 被控訴人は、乙曲の利用許諾の継続を望むはずがない。当初、控訴人が直ちに乙曲の利用許諾を中止するであろうと考えていたのであるが、その後、控訴人が開き直って乙曲の利用許諾を継続しているのを見て、控訴人の内部事情を知る被控訴人としては、乙曲の管理除外を書面などで要求しても無駄であると判断したのである。 (2) 損害論(当審で拡張された請求の損害額を含む。)について (2-1) 侵害行為と損害の因果関係について 被控訴人は、控訴人の著作権侵害行為として、「平成4年12月1日から平成15年3月13日までの間、乙曲の利用許諾行為をすることにより、利用者をして甲曲に対する著作権侵害をなさしめたのであるから(共同不法行為)、この期間のすべての乙曲の利用許諾行為が、控訴人の著作権侵害行為である。」と特定する。この主張で足りるのであり、あえて控訴人が利用者の著作権侵害に対して注意喚起しなかったなどという不作為をもって著作権侵害であるなどと主張する必要はない。 本件は、乙曲の放送、演奏、録音等の利用という侵害行為により、甲曲の著作権法27条、28条の権利が侵害された。侵害の内容は、甲曲の無断使用であり、乙曲の放送、演奏、録音等は、二次的著作物の放送、演奏、録音等と評価されるべきではなく、甲曲が無断で放送、演奏、録音等されていると評価すべきである。 甲曲は、歌詞と一体となった楽曲であり(歌曲)、結合著作物である。したがって、乙曲の放送、演奏、録音等は、甲曲とその歌詞の結合著作物の著作権を侵害するのであり、損害は、結合著作物の著作物使用料により決定すべきである。 原判決は、作詞者分及び編曲者分の著作物使用料相当額を控除した。この方法は、二次的著作物に関する同法28条侵害における損害賠償請求については妥当なものであるが、本件は、同法27条侵害であり、27条侵害のない二次的著作物と同列に扱うのは28条の規定の趣旨に反する(27条に違反する二次的著作物の利用行為については、27条と28条が一体となって適用されるとすべきである。)。編曲者の権利を考慮する必要はない。同じ理由により、侵害楽曲と結合している歌詞及び編曲についても考慮する必要はない。 甲曲は、甲曲の歌詞と不可分の結合著作物(歌曲)であり、甲曲及びその歌詞の著作権はいずれも被控訴人が著作権者であり、甲曲とその歌詞は一体のものとして扱われ、甲曲だけ又は歌詞だけが利用されることは予定されていない。乙曲の放送、演奏等の利用は、甲曲とその歌詞が一体となっている結合著作物の著作権を侵害しているのであり、控訴人の著作物使用料規程に楽曲と歌詞に別個に著作物使用料を定めている映画音楽の録音、出版及びインタラクティブ配信送信以外については、一曲分全部の著作物使用料を使用料相当額とすべきである。 B、乙曲の作詞者、編曲者、フジパシフィック、控訴人及びフジテレビなどの利用者は、乙曲の利用について客観的関連共同性があるため、共同不法行為における加害者であり、控訴人の乙曲の利用許諾により利用者が放送、演奏、録音等を行っているのであるから、控訴人による乙曲の利用許諾と利用者の利用行為及び損害の発生との間には相当因果関係がある。 以上の点は、不法行為と債務不履行による損害賠償において、共通する。 (2-2) 損害額について 被控訴人は、控訴人に対して、控訴人が音楽著作権管理団体として、平成4年12月1日から平成15年3月13日までの間、継続的に被控訴人の専有する甲曲(原審においては、楽曲だけを意味していたが、控訴審では楽曲と歌詞が一体となった著作物を意味するものとして主張する。)に係る編曲権を侵害する乙曲(同様に楽曲と歌詞が一体となった著作物として主張する。)を、その利用者に対して利用許諾した行為により発生した損害額として次のとおり主張する。 (a) 放送による使用料相当額 平成5年3月14日から平成14年9月1日まで、テレビ番組「あっぱれさんま大先生」又は「やっぱりさんま大先生」の放送において乙曲が放送された。放送されたテレビ局ごとに、控訴人の著作物使用料規程記載の1曲1回当たりのテレビ放送の著作物使用料に各局の放送回数を乗じて使用料相当額を求めた上、これら全国32局分を合計すると、2137万1600円(甲64、89、103)となる。 このうち、Bが支払済みの63万9333円、フジテレビが支払済みの236万9000円及びフジパシフィックが支払済みの457万8166円を控除すると、控訴人に請求する未払金は、1378万5101円となる。 (b) 放送用録音による使用料相当額 平成5年6月期から平成15年3月期までの分配額又は保留額から計算された損害額合計は、控訴人の著作物使用料規程によれば、「テレビジョン映画」における一曲一回の使用料単価は、240円(甲64)であり、作成されたテープ本数の合計は、2380本(甲89、101、102)であるから、これを乗じると57万1200円となる。これからBが支払済みの11万6280円、フジテレビが支払済みの14万4180円及びフジパシフィックが支払済みの16万2180円を控除すると、控訴人に請求する未払金は、14万8560円となる。 (c) 録音による使用料相当額 平成5年3月期から平成15年6月期までの分配額又は保留額の合計額は、149万5341円であるが(甲52、55、56、乙8)、これからBが支払済みの40万5937円、フジパシフィックが支払済みの11万9365円を控除すると、控訴人に請求する未払金は、97万0039円となる。 (d) 出版による使用料相当額 平成6年9月期から平成15年9月期までの分配額又は保留額の合計額は、158万6309円(甲52、55、56、乙8)であるが、これからBが支払済みの38万5007円、フジパシフィックが支払済みの18万0053円を控除すると、控訴人に請求する未払金は、102万1249円となる。 (e) 通信カラオケ送信(インタラクティブ配信送信を含む)による使用料相当額 (e-1) 平成10年3月期から平成14年12月期までの分 通信カラオケ送信における一曲一回当たりの単価について、平成13年ころに40円と定められているが、変更された時点が不明であるので、平成14年12月期までの分についてはそれ以前の著作物使用料規程に従って録音の一曲一回当たり8円10銭で計算する(甲64)。平成12年12月期の乙曲の送信回数が1万3906回(甲51)で、分配保留額が2万3990円(甲52)であるから、送信単価は、1725円となる。 平成10年3月期から平成14年12月期までの乙曲についての分配額及び分配保留額の総額は、54万6498円(甲52、55、56)であるから、これを1725円で除した31万6810回が総送信回数となる。単価8円10銭に総送信回数を乗じると、256万6161円となる。これから、フジパシフィックが支払済みの101万5772円を控除すると、控訴人に請求する使用料相当額の未払金は、187万5458円となる。 (e-2) 平成15年3月期ないし9月期の分 カラオケ送信については一曲一回当たり40円、インタラクティブ配信送信については20円として計算する(甲53)。 通信カラオケ送信に関する平成15年3月期の分配保留額は3万4174円(乙8)であり、それ以降の分配保留額がないが、平成15年6月期の分配保留額を同年3月期の分配保留額の6分の5である2万8478円と推認すべきである。この合計6万2652円を1725円で除した3万6320回を送信回数とすべきである。インタラクティブ配信送信については、平成15年3月期及び9月期の分配保留総額は3万5053円(乙8)であり、これを1725円で除した2万0320回をこの間の送信回数とすべきである。 よって、通信カラオケ送信については、単価40円に送信回数3万6320回を乗じた145万2800円、インタラクティブ配信送信については、単価20円に2万0320回を乗じた40万6400円であり、これらの合計額である185万9200円が控訴人に請求する使用料相当額となる。 (f) 演奏による使用料相当額 控訴人の著作物使用料規程において、演奏の一曲一回当たりの著作物使用料は90円と定められている(甲64)。 演奏回数を正確に立証することは性質上極めて困難であるので、著作権法114条の4により、裁判所において相当な損害額を認定すべきであるが、被控訴人としては、次のように主張する。 演奏に関する平成7年9月期から平成15年3月期までの分配額と分配保留額の総合計額が82万0553円であること(甲52、55、56、乙8)、その他の事情を総合するなら、平成7年9月期から平成15年9月期ころまでの分配期に対応する演奏回数は、少なくとも35万回とすべきである。35万回に90円を乗じた3150万円が演奏に係る使用料相当額である。これから、フジパシフィックが支払済みの1125万円を控除した2025万円が控訴人に請求する使用料相当額となる。 (g) 控訴人に請求する使用料相当額の合計額は、3990万9607円である。 (h) 弁護士費用は、損害額の約1割7分として651万4103円を請求する。 (i) 以上の請求合計額は、4642万3710円である。なお、このうち2303万4000円は原審以来請求しているもので、控訴審で拡張した分はその余の2338万9710円である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、控訴人には、不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任があるとはいえず、損害賠償責任は存しないから、当審において拡張された請求も含め、被控訴人の本訴請求は、理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。 その理由は、以下に判示するとおりである。 2 争点(2)(過失の有無)及び争点(3)(債務不履行の有無)について検討する。 (1) 前記引用に係る原判決部分(争いのない事実等)並びに証拠(甲1、2、5、39、41ないし43、49、50−1、53、54、64、69、70、80、90、93、94、99、乙1−1・2、2ないし8、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (a) 被控訴人は、音楽の著作権、出版権又は使用権に関する代理業務等を主たる目的とする会社であり、控訴人は、平成13年9月30日までは、仲介業務法により文化庁長官から許可を受けた音楽著作権に関する我が国唯一の著作権管理団体であり、同年10月1日からは、著作権等管理事業法に基づき文化庁長官の登録を受け、音楽著作権を管理している公益社団法人である。控訴人の業務の内容は、音楽著作物の著作権者から著作権の信託譲渡を受け、その利用の求めに応じてこれを許諾し、かつ、著作物使用料規程(本件使用料規程)に基づく著作物使用料等を徴収し、控訴人の管理手数料を控除した後、著作物使用料分配規程(本件分配規程)等に従って各著作権者に分配することである。 (b) Aは昭和41年に歌曲「どこまでも行こう」を作詞作曲し、被控訴人は、昭和42年2月27日、Aからその歌詞及び楽曲(甲曲)の各著作物の著作権をその編曲権を含めて信託譲渡を受けた。そして、被控訴人は、同月28日、控訴人に対し、著作権信託契約約款(本件信託契約約款)に従い、甲曲の著作権を信託譲渡して管理を委託した。 (c) ポニーキャニオン及びフジパシフィックは、共同で、フジテレビ及びその系列下の地方放送局で放送するテレビ番組「あっぱれさんま大先生」のCDアルバム「キャンパスソング集」を制作することを企画した。ポニーキャニオンは、アルバム中の「記念樹」につき、その作曲を作曲家であるBに依頼した。 Bは、平成4年、歌曲「記念樹」に係る楽曲(乙曲)を作曲した。乙曲は、同年12月2日、Cを作詞者、Dを編曲者、ポニーキャニオンをレコード製作者(原盤制作者)、「あっぱれ学園生徒一同」を歌手とする曲として、「『あっぱれさんま大先生』キャンパスソング集」との題号のCDアルバムに収録される形で公表された。Bは、乙曲についての著作権を、Cはその歌詞についての著作権を、それぞれフジパシフィックに対して譲渡し、フジパシフィックは、同年12月21日、控訴人に乙曲の作品届を提出し、同月1日付けで、控訴人に対し、乙曲及びその歌詞についての著作権を信託譲渡して管理を委託した。 (d) 控訴人は、音楽著作権管理団体として、平成4年12月1日から平成15年3月13日までの間、継続的に音楽著作物利用者に対して「記念樹」(乙曲)の利用許諾をすることにより、その許諾を受けた利用者をして、放送、録音、演奏等をさせた。 (e) Aは、平成10年7月28日、Bを被告として、損害賠償請求訴訟を提起し、引き続いて記者会見をした。また、被控訴人も、同年9月18日、Bを被告として、損害賠償請求訴訟を提起し、両事件は併合審理された。A及び被控訴人の主張は、乙曲が甲曲を複製したものであり、被控訴人の著作権(複製権)及びAの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するというものであった(東京地方裁判所平成10年(ワ)第17119号、第21285号等。別件訴訟。)。 被控訴人は、控訴人に対し、上記訴え提起と同日である平成10年9月18日受付けの内容証明郵便(代理人弁護士作成)を送付した。同内容証明郵便の記載内容は、被控訴人が甲曲の著作権者として、乙曲を作曲したBに対する訴えを提起したこと(第一項)、本件信託契約約款15条1項(判決注:当時の規定)に著作権侵害について訴訟の提起があった場合に控訴人が著作物使用料等の分配を保留するすることができるとの定めがあること(第二項)、平成10年9月25日に予定されている使用料分配に際しては、Bに対する乙曲の著作物使用料分配を保留するよう求めること(第三項)を通知するというものであり、乙曲の利用許諾の中止を求めること等のその余の記載は一切存在しない。 (f) 控訴人は、上記通知を受けて、平成10年9月30日付けで、乙曲につき、平成10年12月期以降の著作物に関する使用料等の分配を保留する措置をとった。 (g) 東京地方裁判所は、別件訴訟につき、平成12年2月18日、乙曲は甲曲を複製したものではないとして、A及び被控訴人の請求を棄却する旨の第一審判決を言い渡した。 (h) A及び被控訴人は、同判決を不服として控訴し(東京高等裁判所平成12年(ネ)第1516号事件として係属)、控訴審において、乙曲が甲曲の二次的著作物であるとして、著作権法27条の権利(編曲権)侵害の主張を追加し、複製権侵害の主張は撤回した。 (i) 被控訴人代表者は、上記控訴審裁判所に宛てた平成14年1月15日付けの陳述書(乙6)において、被控訴人が控訴人に対し、乙曲について徴収した著作権使用料の分配停止を申し入れたことを述べた上、「同協会(判決注:控訴人)も当社の要求を認めて、「記念樹」(判決注:乙曲)の一切の使用料の分配を凍結するなどの適切な措置をとってくれました。」と陳述している。 (j) 別件訴訟につき、東京高等裁判所は、平成14年9月6日、Bによる乙曲の創作が甲曲に係る編曲権を侵害するとして、第一審判決を変更し、A及び被控訴人の請求を一部認容する旨の控訴審判決を言い渡した。 (k) フジテレビは、平成14年9月6日、乙曲の放送を中止した。 (l) 控訴人は、平成14年9月19日、インターネット上の乙曲の作品詳細表示欄に「注:訴訟継続中」(後に「訴訟係属中」と訂正)との表示をした。 (m) 平成14年11月20日開催の控訴人の通常評議員会において、ある評議員から、「重大な訴訟の判決が出た」とした上、「国の判断が出た以上、控訴人は、乙曲の許諾を中止すべきと思うが、…どう考えるか聞きたい。」との発言があり、別の評議員からも、「高裁判決が出た以上、…許諾はいったん停止し、最高裁の判決が出た場合に改めて取扱いについて判断して欲しい」との発言があった。これに対し、常務理事らは、最高裁で争われており確定判決ではないこと、「控訴人は中立の立場で」あり、「係属中に何かを言って、それが影響を与えることを恐れている。」、「三審制度だから、最高裁の決定を待たなければならない」こと、「乙曲の管理については、徴収は続けているが分配を保留している」こと、「訴訟係属中」との表示をしたことなどが述べられた。なお、Aは、評議員として出席していたが、乙曲の扱いに関する上記の議論に関しては、特段の発言はない。 平成15年2月19日開催の控訴人の通常評議員会において、Aは、公益法人制度の抜本的改革に向けた動きに関する質疑応答の中で、定款や約款は、いくら改革しても守らなければ何もならないとした上で、質問として、控訴人が乙曲の信託を受託したままとなっているが、約款上は、保証義務に違反したときは信託契約を解除することができると記載され、また、著作権の侵害又は著作権の帰属等について訴訟の提起があったときは、受託者は著作物の使用料の徴収を必要な期間行わないことができると定められており、控訴人としては、この2つしか選択肢がないと思うこと、フジテレビは放送を中止しているのに、控訴人だけが最高裁があるからと頑張っていることを指摘した。そして、Aは、Bとの裁判のことを言いたいのではなく、新しい定款を作ろうとしても、それを守らなければ何にもならないということを言いたいと述べた。これに続けて、Aは、著作権侵害の判決が出たのに、乙曲を収録したCDの製造・販売の許諾を続ける理事会の決定が控訴人から出ていることになると発言し、さらに、ある理事の利益相反状態をも指摘した上で、控訴人は、こういう違法行為をいつまで続けるのか、やめた方がいいのではないかと発言した。Aは、最高裁でひっくり返ることはあるかもしれないが、そうしたら考え直すことでいいと思う、一応の責任は取らなければいけない、とも発言した。これに対し、理事長らは、係争中である限りは現在の状況を続けるつもりであることを述べ、分配保留についての説明をするなどした。 (n) Bは、別件訴訟の上記控訴審判決に対して、上告及び上告受理の申立てをしたが、最高裁判所第三小法廷は、平成15年3月11日、Bの上告を棄却し、かつ上告審として受理しない旨の決定をし、上記控訴審判決が確定した。 (o) 控訴人は、平成15年3月13日、乙曲の利用許諾を中止する措置をとった。 (2) 以上の事実に基づいて、Aが別件訴訟を提起した平成10年7月28日以降、控訴人が乙曲の利用許諾を中止した平成15年3月13日までの期間において、控訴人に何らかの注意義務違反等があったか否かについて検討する。 (2-1) 控訴人が音楽著作物著作権の管理を実施するに際して負うべき注意義務ないし契約上の債務に関し、次のような一般的要素が考えられる。 (a) 控訴人は、「音楽著作物の著作権者の権利を擁護し、あわせて音楽の著作物の利用の円滑を図り、もって音楽文化の普及発展に資することを目的とする」社団法人である(乙7)。控訴人は、上記目的を達成するため、音楽の著作物の著作権に関する管理事業、音楽の著作物に関する外国著作権管理団体等との連絡及び著作権の相互保護、特別の委託があったときは、音楽の著作物以外(小説、脚本を除く。)の著作物の著作権に関する管理事業、私的録音録画補償金に関する事業、著作権思想の普及に関する事業及び音楽の著作物の著作権に関する調査研究、音楽文化の振興に資する事業、会員の福祉に関する事業、その他目的を達成するために必要な事業を行うものであることとされている(乙7)。 (b) 控訴人の本件信託契約約款においては、委託者が控訴人に著作権の管理を委託する著作物について他人の著作権を侵害していないことを保証する(第7条1項)ものと定められ、受託者(控訴人)は、著作権の侵害について、告訴、訴訟の提起又は受託者に対し異議の申立てがあったときには、著作物の使用料等の分配を保留することができる(第20条1号)こととされ、さらに、受託者(控訴人)は、著作権の侵害について、告訴、訴訟の提起又は受託者に対し異議の申立てあったときには、著作物の使用許諾、著作物使用料等の徴収を必要な期間行わないことができる(第29条1号。「管理除外」との名称が付されている。以下「管理除外」ともいう。)こととされている(乙3)。なお、上記の各条項は、平成13年10月2日のもの(ただし、平成14年7月11日一部変更)であるが、それ以前においても、同旨の内容の約定が存在したものと認められる(甲54、乙4、5、8、弁論の全趣旨)。 ところで、著作権侵害の疑いのある音楽著作物の利用許諾中止という措置は、著作権を侵害されるおそれのある者に対しては、より手厚い保護手段であるといえるが、一方で利用許諾を中止される音楽著作物としては、利用者の判断を経ることなく、控訴人の判断で楽曲が表現されることが差し止められるのであり、極めて重大な結果をもたらすものであって、後に侵害でないと判断された場合の利用許諾を中止された側の損害の回復は困難である(後に判示する保留された分配金のように、実質的に担保となるものがない。前記保証の制度から、このような場合の損害回復の必要性がないと推論することはできない。)。 一方、使用料分配保留という措置は、著作権侵害であることが争われている音楽著作物の利用許諾を中止することなく、控訴人が使用料を利用者から徴収し、これを分配せずに控訴人の下に保留しておく措置である。著作権侵害を主張する側にとっては、当該侵害によって受ける損害が分配を保留された手数料を大きく上回るときは、利用許諾中止の措置よりは不十分な救済方法となるが、侵害が争われている音楽著作物の使用料相当の金額が保留されており、実質的に担保といい得るものとなっているので、仮に著作権侵害であるとされた場合でも、回復し難い損害でも生じない限り、侵害された側の損害回復は、通常は基本的に確保されているといえる。したがって、全体としてみて、使用料分配保留という措置は、特段の事情がない限り、利用許諾中止という措置に比べて、より穏当で、かつ、合理的な措置であるということができる。 (c) 以上によれば、著作権の侵害について、訴訟の提起や異議の申立てがあった場合には、控訴人として、使用料分配保留措置又は利用許諾中止措置をとることができることとされているが、必ずいずれかの措置をとるべきであるとする条項は上記のとおり存せず、また、いずれの措置をとるべきかについての条項も存しない。 しかしながら、控訴人は、多くの音楽著作物の著作権の信託譲渡を受け、それを管理するものであるが、控訴人の上記の目的や業務の性質、内容に照らせば、著作権の管理を実施するに当たっては別の著作権を侵害することがないように注意する一般的な義務があるところ、著作権侵害の紛争には、事案ごとに種々の事情があることが想定されるので、控訴人としては、事案に応じて、合理的に判断して適切な措置を選択することが求められているものと解される。 そして、上記のようなとり得る各措置の特質を考えた場合、いずれの措置をとるべきか、換言すれば、一方の措置をとったことに不法行為責任又は債務不履行責任があるといえるか否かは、著作権侵害の明白性や侵害の性質など、事案ごとの諸般の事情を勘案して判断するのが相当である。 (2-2) 被控訴人は、控訴人の著作権侵害行為として、控訴人の乙曲の利用許諾行為であると特定するところ、以上の点をふまえて、本件の具体的事情に照らして検討するに、Aが別件訴訟を提起した平成10年7月28日以降、控訴人が乙曲の利用許諾を中止した平成15年3月13日までの期間において、控訴人が乙曲の使用料分配保留措置をとりつつ、利用許諾を続けた行為は、控訴人の措置としてやむを得ないものと評価し得るのであり、控訴人に不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任があるとはいえない。その理由は、以下のとおりである。 (a) 前認定のとおり、Aは、平成10年7月28日、Bに対して、乙曲が甲曲を複製したもので著作者人格権を侵害するなどと主張して、損害賠償請求訴訟を提起し、記者会見をしたのであり、さらに、被控訴人も、同年9月18日、Bに対して、著作権侵害を理由に損害賠償請求訴訟を提起し、直ちに、その旨を控訴人に通知したのであるから、控訴人としては、この時点において、既に乙曲による著作権侵害の有無や乙曲の扱いに関する対応を検討すべき事態に至ったものというべきである。 (b) そこで、まず、問題となるのは、乙曲による甲曲の著作権侵害の可能性である。 別件訴訟についてみると、前認定のとおり、Bは、上記A及び被控訴人の請求を争い、別件訴訟の第一審判決では、被控訴人及びAの請求が棄却され、後に第二審判決により、請求が認められ、最高裁への上告及び上告受理申立てが排斥されて、請求の一部認容が確定したのであって、第一、二審でA及び被控訴人の主張に変動はあったものの、司法判断が分かれたものであった。そして、請求を一部認容した第二審判決をみても、判断が分かれたのは、事実の存否というようなものではなく、多くの音楽関係の専門家から意見書等が出され、種々の見解があった中から、最も相当な見解が選択されたことによるものであったことが推認される。 これらの事情に照らせば、著作権侵害が明白であったとはいい難く、侵害の可能性についての控訴人の判断は、困難な状況にあったといえる。なお、別件訴訟の控訴審判決が請求を一部認容した後については、一般的には、著作権侵害等が肯定される可能性が高まったといえるであろう。しかし、上記の事情に加え、第二審判決は、異なる楽曲として公表された各楽曲間において編曲権侵害の成否が争われてその判断を示したものであって(甲1)、先例も乏しい分野の争点であることなどにもかんがみれば、最高裁の判断を見極めようとした控訴人の対応を直ちに非難するのは困難である。 (c) 上記のような状況下で判断を迫られていた控訴人に対し、被控訴人から次のような対応がされた。 前認定のとおり、被控訴人は、平成10年9月18日付けの内容証明郵便において、控訴人に対し、乙曲の著作物使用料分配を保留するよう求め、乙曲の利用許諾の中止は求めていない。そして、控訴人は、前記のとおり、これを受諾するものとして、同月30日付けで乙曲の使用料分配保留措置をとった。 また、前認定のとおり、被控訴人代表者は、別件訴訟の控訴審裁判所に宛てた平成14年1月15日付けの陳述書(乙6)において、上記使用料分配保留措置に言及し、「(控訴人が)適切な措置をとってくれました。」と陳述している。 そして、本件全証拠によっても、被控訴人は、控訴人に対し、控訴人自らが乙曲の利用許諾中止の措置をとるまでの間に、乙曲の本件使用料分配保留措置が不当であることや、利用許諾中止措置をとるべきことを申し入れた事実は認められない。むしろ、上記の経緯に照らせば、本件使用料分配保留措置は、被控訴人の要求に沿って開始されたものであり、3年3か月以上もの間、乙曲の利用許諾が中止されることなく、使用料分配保留措置がとられ続けている状況の下で、被控訴人代表者自身が裁判所に対し、使用料分配保留措置が「適切な措置」であると評価する見解を表明しているのである。 被控訴人代表者は、上記陳述書(乙6)の記載について、本件第一審における平成15年11月20日付け陳述書(甲50−1)において、控訴人が利用許諾を続けることを変えない措置は不適切であるどころか違法であると解釈していたが、被控訴人の当初の要請である分配の保留を控訴人が行ったことのみに対し、控訴人の正会員としての礼を紳士的に言ったまでであり、それが本件の論点となることは、的はずれであるなどと陳述している。しかし、乙6の陳述書の前後の文脈に照らし、また、前判示の被控訴人の一連の対応にかんがみても、陳述書(甲50−1)における上記陳述は、到底首肯し得ない。被控訴人は、また、被控訴人が乙曲の利用許諾の継続を望むはずがないのであるが、控訴人の内部事情を知る被控訴人としては、乙曲の管理除外を書面などで要求しても無駄であると判断したなどと主張するが、この主張を裏付けるに足りる証拠がないだけでなく、上記認定事実に照らして到底採用し得ない。 (d) ところで、乙曲について管理除外措置や使用料分配保留措置をとるか否かということは、控訴人と乙曲を管理委託したフジパシフィックとの間の契約関係に係るものであり、それ自体は、控訴人と被控訴人との間の本件著作権信託契約における債権債務関係の対象となるものではない。したがって、被控訴人としては、甲曲の著作権侵害行為を回避する手段として、控訴人に対し、フジパシフィックとの間の契約関係に基づいて、乙曲の管理除外措置や使用料分配保留措置をとるように権限行使の発動を求めるという関係になる。 そこで、上記(c)の被控訴人の行為をみると、被控訴人は、前記状況下にある控訴人に対し、乙曲の管理除外措置をとることなく利用許諾を継続することになる「使用料分配保留措置」をとることを申し入れて、その後も了承していたものというべきである。乙曲による甲曲の著作権侵害の有無について係争中であるという状況下における控訴人の対応方について、上記の申入れ及び了承がある以上、その申入れ等の内容が一見して明白に不合理であり、この申入れ等に従った場合には、申入れ等をした権利者に回復し難い損害を生じるなどの特段の事情がない限り、控訴人としては、上記申入れ及び了承に従って、乙曲の使用料分配保留措置をとりつつ利用許諾を継続すれば、後に判決で著作権侵害が確定しても、不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任を負うものではないというべきである(法的評価としては、違法性の問題か過失の問題かなどということはあり得るが、これを基礎付ける事実関係は、当事者が主張するところである。)。 特段の事情についてみるに、全体としてみて、使用料分配保留という措置は、利用許諾中止という措置に比べて、より穏当で、かつ、合理的な措置であるということができることは、前記(2-1)(b)のとおりであること、上記の内容証明郵便による被控訴人の申入れは、代理人弁護士によってされたものであり、利用許諾中止措置(管理除外措置)を求めた場合には、仮に被控訴人が別件訴訟で敗訴したときに相当額の賠償責任を負うという危険があったことも考慮すれば、別件訴訟の判決が未確定のうちは、使用料分配保留措置を求めるとの方針で申し入れたとしても決して不合理ではないといえること、被控訴人が主張する損害について、別件訴訟の控訴審判決(甲1)によって検討するも、著作権侵害による通常の財産上の損害にすぎず、決して回復困難な損害であるということはできないことなどに照らせば、特段の事情があるとはいえない。 なお、前記のように、平成14年11月20日開催の控訴人の通常評議員会において、ある評議員から、控訴人としては、乙曲の許諾を中止すべきではないかとの意見が述べられたことが認められるが、控訴人内における一意見があったことを示すものにすぎず、被控訴人から使用料分配保留措置をやめて、利用許諾中止措置をとることの要求があったわけではない。また、平成15年2月19日開催の控訴人の通常評議員会において、Aは、乙曲に関する信託契約の解除か、使用料の徴収を必要な期間行わない措置をとるべきとの趣旨の発言をしたことが認められるが、前認定のとおり、その発言は、Bとの裁判のことを言いたいのではなく、新しい定款を作ろうとしても、それを守らなければ何にもならないということを言いたい、との趣旨であることを自ら述べているとおりであるし、平成14年11月20日開催の控訴人の通常評議員会には、Aも出席しているが、乙曲の扱いに関する上記の議論に関しては、特段の発言はない。そして、そもそも控訴人と甲曲について著作権信託契約の当事者関係にあるのは被控訴人であり、甲曲の著作権を有するのも被控訴人であって、Aではない。よって、上記控訴人の通常評議員会の議論が控訴人の責任を直ちに導くものとはいえない。むしろ、上記通常評議員会は、率直な議論と慎重な検討の末、結論に至ったものであり、問題視すべき点は見当たらない。 (e) 上記のほか、使用料分配保留措置の開始が訴え提起後約2か月経過してからであったことは、双方の言い分を検討する必要性なども考えれば、遅きに失したとはいえず、また、利用許諾の中止が別件訴訟の最高裁決定の日付けの2日後であった点も、決定がその日付けにおいて言い渡されるものではないこと(郵送により申立人に告知されるのが、実務の通常の扱いである。)も考えれば、遅きに失したとはいえない。 (f) 被控訴人は、控訴人が、乙曲について管理除外措置を取らなかったことで、フジテレビのように控訴人の利用許諾に藉口して盗作の利用を継続することを助長することになり、控訴人の責任は大きいと主張する。しかし、仮に、フジテレビがそのような主張をしたとしても、被控訴人との関係では失当であることは明らかであって、控訴人が使用料分配保留措置をとりつつ管理除外措置をとらなかったために、盗作の利用が助長されたとまではいい難い。被控訴人の上記主張が控訴人の不法行為責任又は債務不履行責任を根拠付けるものとはいえない。 (g) 以上によれば、平成10年7月28日以降、平成15年3月13日までの期間において、控訴人が乙曲の使用料分配保留措置をとりつつ利用許諾を続けた行為について、控訴人に不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任があるとはいえない。 (3) 被控訴人は、当審で請求を拡張した結果、平成4年12月1日の乙曲の利用許諾の当初に遡って、損害賠償請求をしている。そこで、平成4年12月1日からAの別件訴訟提起日の前日である平成10年7月27日までの期間における控訴人の不法行為責任又は債務不履行責任の有無について検討する。 控訴人が乙曲の利用許諾を開始した以上、前判示のような注意義務を負うことに変わりはない。そして、この期間においては、控訴人は、使用料分配保留措置をとることなく、単に、乙曲の利用許諾をしたことが認められる。 そして、被控訴人は、控訴人において、譜面の提出を要求し、かつ、常時譜面のチェック機関を設けるべきである旨を主張し、この義務を尽くしておれば、乙曲を控訴人が管理することは防止できたはずであるなどと主張する。 しかしながら、別件訴訟提起日までに、控訴人に対し、乙曲について著作権侵害の問題が提起されたことを認めるに足りる証拠はない上(甲78によれば、この問題が発覚したのは平成10年3月末ころであり、提訴前にBとの間で内容証明郵便の送付などがされた程度であると認められる。)、別件訴訟提起後の期間に係る(2)に判示したところにも照らせば、平成4年12月1日から平成10年7月27日までの期間における控訴人の利用許諾を続けた行為(前記のとおり、被控訴人は、控訴人の著作権侵害行為として、控訴人の乙曲の利用許諾行為であると特定した。)について、控訴人に不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任があるとはいうことはできない。 3 以上判示したとおり、控訴人には、不法行為責任も債務不履行責任もないというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の請求は、当審で拡張した部分を含め、すべて理由がないというべきである。 なお、被控訴人が控訴人と共同不法行為の関係にあると主張するポニーキャニオン、フジパシフィック及びフジテレビに対しては、被控訴人一部勝訴の第一審判決が確定しているが、控訴人においては、前判示のような固有の事情が存在する。また、控訴人は、営利を目的とする法人ではなく、仲介業務法の下においては、業務は文化庁長官の許可制で、使用料の定めは文化庁長官の認可制となっていたのであり、著作権等管理事業法の下においては、業務を行うには登録で足りることになり、使用料規程も文化庁長官への届出制となったものの、その内容の適正さを確保すべき種々の制度上の担保が存在するのであって、控訴人の定款(乙7)では、決算において収入が支出を超過する場合の収支差額金があるときは、必ず著作物使用料の関係権利者に分配することとされており(第49条1項)、営利企業のように処分することはできない。このようなことからすると、レコード会社、音楽出版会社、テレビ局等の営利企業は、音楽著作物を利用することで収益を上げ、仮に利用した音楽著作物が結果として他の著作権を侵害する事態となった場合でもリスクを分散し得る方策を有するのに対し、控訴人は、そのような組織原理を有しておらず、両者を直ちに同列に論ずることは困難である。よって、上記ポニーキャニオンなどに対する請求が一部認容されたからといって、本件における控訴人の責任を肯定すべきことにはならない。 4 結論 本件控訴は理由があるので、原判決中、被控訴人の請求を一部認容した部分を取り消した上で、請求を棄却すべきであり、一方、被控訴人の本件附帯控訴は、理由がないので棄却されるべきであるとともに、被控訴人が当審で拡張した請求も理由がなく棄却されるべきである。 東京高等裁判所知的財産第4部 裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 田中昌利 裁判官 佐藤達文 |
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