判例全文 line
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【事件名】ネット上の音楽無料配信事件(2)
【年月日】平成17年3月31日
 東京高裁 平成16年(ネ)第405号 著作隣接権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成14年(ワ)第4237号)
 (平成17年2月14日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 有限会社日本エム・エム・オー
控訴人 X
控訴人ら訴訟代理人弁護士 小倉秀夫
被控訴人 社団法人日本音楽著作権協会
訴訟代理人弁護士 藤原浩
同 市村直也
同 田中豊


主文
1 本件各控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
3 原判決主文第1項中「MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル」とあるのを「MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル(同楽曲リスト記載の音楽著作物の複製に係るもの以外のものを除く。)」と訂正する。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文1、2項と同旨
第2 事案の概要
 本件は、被控訴人が、控訴人有限会社日本エム・エム・オー(以下「控訴人会社」という。)に対し、同社が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにより、被控訴人が管理等する音楽著作物のMP3形式に係る電子ファイルが送受信されることが、同音楽著作物の著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)を侵害するとして、その差止めを求めるとともに、控訴人会社及びその代表者取締役であるX(以下「控訴人X」という。)に対し、同音楽著作物の著作権の侵害に基づく損害賠償を請求した事案である。
 原審は、原判決添付の楽曲リスト(以下「本件楽曲リスト」という。)記載の楽曲の音楽著作物(以下「本件管理著作物」いう。)について、控訴人会社が被控訴人の著作権を侵害していると認定した上で、MP3形式に係るファイルの送受信の差止めを命じ、控訴人らに対する損害賠償請求についてその一部を認容した。そこで、控訴人らが敗訴部分について控訴した。
1 当事者双方の主張は、次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」記載(その引用する中間判決の記載を含む。)のとおりであるから、これを引用する。
 (以下、本判決においても、原判決の用法に従って、「本件サービス」、「本件クライアントソフト」、「本件使用料規程」などの語を用いることとする。なお、引用部分を除いて、「被告サーバ」は「控訴人会社サーバ」と、「被告サイト」は「控訴人会社サイト」と言い換える。)
2 当審における控訴人らの主張
【本件システムの認定の誤り】
 原判決は、前提となる送信可能化の態様として、「本件サービスは、ユーザーID及びパスワードを登録すれば誰でも利用できるものであり、既に4万人以上の者が登録し、平均して同時に約340人もの利用者が被告サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして、送信者が、電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して、本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続すると、送信者のパソコンは、被告サーバにパソコンを接続させている受信者からの求めに応じ、自動的に上記電子ファイルを送信し得る状態となる。」(中間判決34頁)ことから、「電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは、被告サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(法(判決注・著作権法)2条1項9号の5イ)に当たるということができ、また、その時点で、公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ、当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができる。」(同34頁〜35頁)と認定している。
 しかし、送信者のクライアント機(パソコン)は、本件クライアントソフトが起動している状態でインターネットに接続することによって、「公衆送信用記録媒体」(共有フォルダ)に記録されている情報を自動公衆送信する機能を有している。すなわち、控訴人会社サーバと一体とならなくても、単体で自動公衆送信装置となり得るものである。例えば、WinMXを用いれば、ファイルの送受信は可能である。
【控訴人会社を送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害の主体とした認定の誤り】
(1) 本件サービスの性質の認定の誤り
 原判決は、本件サービスが、MP3ファイルの交換に係る部分については、利用者をして、市販のCD等を複製したMP3ファイルを送信可能化及び自動公衆送信させるためのサービスという性質を有するとしている(中間判決38頁)。しかし、この判断は誤りである。
ア そもそも、本件サービスのうち、MP3ファイルの交換をする部分に限って、その性質を論じることが相当でない。
 本件サービスは、機能的にはパソコン通信、Google等の(ロボット型)検索エンジンサービスとウェブブラウザとを組み合せたもの、あるいはMS−Windows等のネットワーク対応のOSのファイル共有機能と大差ないものであり、かつ、交換の対象となる電子ファイルを、その種類や内容等で全く区別していない。また、添付ファイル送信機能を有する電子掲示板や、ひいてはインターネット(NTTのBフレッツ等回線提供サービスや、インターネットサービスプロバイダ(以下「ISP」という。)の提供するサービス)そのものと同じであるともいえる。
 これらにおいて、MP3ファイルの交換に関する部分についてのみ対象を絞ってその性質を判断することは非常識といえるから(被控訴人は、控訴人会社に対してしているような要求をNTTに対してはしていない。)、本件サービスにおいても、そのような判断はされるべきでない。
イ 以下のとおり、本件サービスにおいて、MP3ファイル(なかんずく市販のCD等の複製に係るMP3ファイル)の交換がなされた程度は不明である。本件サービスはそのような利用を目的とするものではなく(控訴人会社はそのような利用ではなく、別の利用態様を予測していた。)、逆にそのような利用に全く向かないものである。
 したがって、本件サービスが、市販のCD等を複製したMP3ファイルの送受信を可能にするためのサービスという性質を持つとはいえない。
(ア) 実態として、本件サービスにおいて、市販のCD等とほぼ同一内容のMP3ファイルがどれほど送受信されていたか、ダミーファイルの数がどれほどであったかは全く不明である。控訴人会社が、そのようなファイルが送受信されるという状態を作り出すために積極的な働きかけをしたこともない。
 この点、原判決は、「実際にも、前記前提となる事実のとおり、被告サーバが送受信の対象としているMP3ファイルの約96.7パーセントが、市販のレコードを複製した電子ファイルに関するものである。」(中間判決37頁)と認定している。しかし、この認定の根拠となる証拠は、控訴人らや第三者がその真実性を検証することが不可能な報告書以外にない。
(イ) 本件サービスは、楽曲名とアーティスト名とで複合検索(AND検索)をかける機能も、ダミーファイルを除外する機能も有していない。本件サービスは、市販のCD等の楽曲ファイルのコピーを手軽に取得したいと考える者にとっては、全く使い勝手の悪い、魅力の低いものである。
(ウ) 原判決は、自ら著作した音楽等のMP3ファイルを不特定多数の者に無償で提供する利用者、また、そのようなファイルの取得を希望する利用者が、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの取得を希望する者に比較するとかなり少ないとしている(中間判決37頁)。しかし、これも証拠に基づかない単なる憶測である。
 プロ・アマを問わず、自分の楽曲をインターネット上で公開することを選択ないし希望する者は少なからず存在し、それにより一定の成果を収めた例もある。本件サービスは、それを実現するための一つの方法として、インスタントメッセージサービス(メールサーバー等を介することなく、隔地者間で直接テキスト文書をやりとりするサービス)の機能を実装している。これにより、口コミでアマチュアやセミプロの演奏家の楽曲が広まることが可能である。
 この点からも、本件サービスが、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を内容としていたとはいえない。
ウ ある特定の期間における利用状況(本件では平成13年12月ころから平成14年3月ころまで)から、本件サービスの性質を断定することは不当である。本件サービスが相当期間継続して運営されていれば、適法な利用形態がいくつか立ち上がったはずである(前記イ(ウ)で述べたとおり、音楽ファイルに限っても、インスタントメッセージサービスにより、ネット上での公開を選択する演奏家の楽曲が広まることが可能である。)。そして、そのような可能性が少しでもある以上、本件サービス自体を停止するか否か(後記のとおり、原判決の命じる差止めを実現するためには、本件サービス自体を停止せざるを得ない。)の判断において、その性質を安易に決定することは許されない。
 また、原判決は「市販のレコードを複製したMP3ファイルのほとんどすべてのものが、その送信可能化及び自動公衆送信について著作権者の許諾を得ていないものであり、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法な複製に係るものであることが明らかである。」(中間判決37頁〜38頁)としている。しかし、本件サービスの送信者と被控訴人との間で本件管理著作物の許諾契約が締結されているか否かは、控訴人らのあずかり知らぬことである。
エ 原判決は、本件サービスの性質の判断において「被告エム・エム・オーは、本件サービスの開始当時から上記事態(判決注・本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法な複製に係るものである事態)に至ることを十分予想していたものと認められる(この点、前記前提となる事実のとおり、被告エム・エム・オーは、本件サービスの利用規約において、著作権を侵害する電子ファイルの送信可能化行為を禁止しているが、本件サービスを利用する者の身元確認をしていないのであるから、同規約の実効性が低く、本件全証拠によっても、他に、著作権侵害を防ぐに足る措置を講じていると認めることはできない。)。」(中間判決38頁)としている。しかし、この認定は、証拠に基づかないものである。
 まず、控訴人会社は、本件サービスの利用者が、どのような種類・内容の情報を送受信するかを予想する立場になく、実際に予想していなかった。
 前記のとおり、本件サービスは、複合検索機能もダミーファイルの除去機能も持たないため、市販のCD等の複製に係る電子ファイルの交換に用いるのには使い勝手の悪いものであり、それどころか、送信者のIPアドレスが公開されているため、その住所及び氏名が警察に把握される危険があるから、利用者はそのような利用態様は忌避するものであって、控訴人会社はそのように認識していた。しかも、控訴人会社はいわゆるノーティス・アンド・テイクダウンの手続を用意しており、これにより違法なファイルの交換は排除できると考えていたから、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルの約96.7パーセントが、市販のCD等の複製に係る電子ファイルになるという事態を全く予想もしていなかった。
 なお、他の電子掲示板やホームページ提供サービスにおいて、利用者の身元確認はしないのが通常であり(そのようなことを要求するのは、IT技術の普及を妨げるものであり、妥当でない。)、利用者の身元を確認しないことが、著作権侵害行為の発生を予想できると認定させる根拠となるものではない。
(2) 管理性の不存在について
ア 著作権法2条1項9号の5の「送信可能化」の権利の侵害の責任を問われるべき者は、著作物、実演、レコード等を自動公衆送信し得る状態に置いたのは誰かという観点から判断すべきものであり、そして、通信設備を設置、管理、運営する者については、単に設備の運営を行っているに過ぎないと解される限り、送信可能化に関する責任を負うとされるべきではない。ISPなど、自動公衆送信装置の設置、管理、運営等を行う者については、情報の記録やネットワークの接続等を単純に依頼を受けて機械的に行うだけであれば、自ら著作物等を送信可能化するための行為を行っていないと考えるべきである。
 控訴人会社は、送信者のクライアント機の共有フォルダに蔵置されている電子ファイルのカタログデータを、控訴人会社サーバの検索用データベースに機械的に記録するとともに、受信者からのリクエストに応じて、その検索条件に適合する電子ファイルの情報を受信者に機械的に送信しているだけであるから、送信可能化権及び自動公衆送信権に関する権利侵害の責任を負わない。
イ 原判決は、最判昭和63年3月15日(民集42巻3号199頁、以下「クラブキャッツアイ事件」という。)において示された、自ら著作物の利用行為をしていない者を、著作権法上の規律の観点から利用主体であるとみなす法理(利用主体拡張の法理)に基づいている。この法理は、明言はされていないものの、「(クラブ経営者の)経済的な利益に音楽の利用が直接的に寄与していることが否定できない場合には当該利益の一定部分は音楽の著作物の創作者に還元すべきである。」というルールに基づいているものと推測できる。
 しかし、著作権法はそのようなルールを一般的な原則として採用していないし、まして、そのルールに基づく禁止権まで認めるか否かを決定する裁量権を裁判所に付与していない。上記利用主体拡張の法理は、変更されるべきである。
 知的財産権に関する諸法において、「その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている」(最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁)のであり、各法律により定められている排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を超えて、知的財産権を行使することは許されない。
ウ 著作権法には、特許法101条のような間接侵害を定めた規定はなく、本件サービスを他人による著作権侵害行為に用いられるとして著作権侵害行為とみなし、その排他的効力を及ぼすことは、財産権法定主義を定めた憲法29条2項にも反し許されない。仮に、著作権につき特許法101条の類推適用があるとしても、本件サービスは、他人による著作権侵害行為にも用いられ得るというものに過ぎないから、当てはまらない。
 著作物の利用主体は、間接正犯に類似するような場合を除き、規範的な概念として把握すべきではない。
エ 仮に、この利用主体拡張の法理を採用するとしても、原判決は、明らかにその解釈・適用を誤っている。
 クラブキャッツアイ事件において、クラブ経営者が著作物の利用主体であるとした判断は、クラブ経営者(の従業員)の客に対する歌唱の勧誘、その備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、設置されたカラオケ装置の従業員による操作という事実に基づくものであり、これをもって、クラブ経営者が、客による歌唱の主体と認めるに足りるほどの「管理」をしていると判断したものである。本件サービスには、そのような意味での管理はない。
 この点、原判決は、本件サービスにより送信可能化ないし自動公衆送信をする際、本件クライアントソフト及び控訴人会社サーバが必要であること、本件クライアントソフトを用いると簡単にファイルの交換ができること、控訴人会社サイトで本件クライアントソフトの使用方法を説明していることを根拠に管理性を肯定している。しかし、これらの事実で管理性を基礎付けることはできない。
 本件において、管理性が否定される最大の根拠は、控訴人会社が、どの著作物を自動公衆送信(送信可能化)させるかについて、現実に決定していないということである。なぜなら、控訴人会社は、本件サービスで交換される電子ファイルの範囲を限定できないのであるから、著作権者等に適切な利用許諾を求めることができず、また、望まない著作物等の利用も排除できない以上、差止めを求められた場合本件サービス自体の提供を中止せざるを得なくなり、これは明らかに不当だからである。
 この点、原判決は、本件サービスにおいて、「送信の対象となる電子ファイルを選択するのが、専ら利用者であったとしても、前記認定した諸事実を総合すれば、利用者の自動公衆送信行為及び送信可能化行為が被告エム・エム・オーの管理の下にされているとの認定、判断を左右するものではな」い(中間判決41頁)としている。しかし、その根拠は全く明らかではない。送受信の対象への組入れや除外を具体的に管理できないものが、その主体とされることはあり得ない。
(3) 控訴人会社の利益の不存在について
ア 原判決は、クラブキャッツアイ事件において示された図利性の判断の枠組みから大きく逸脱している。
 「その経済的な利益に第三者による著作物の利用が寄与していることが否定できない場合に当該利益の一定部分を音楽の著作物の著作者に還元する」という著作権法上の規律に基づき、利用主体拡張の法理が認められるのであれば、現実に得ている経済的利益を超えた金額を著作権者に還元させるということは、利用主体拡張の法理の趣旨に反することになるから、現実的かつ実質的な利益を得ていない者について、利用主体拡張の法理を適用してこれを利用主体であるとするべきではない。そして、本件において、控訴人会社は現実的かつ実質的な利益を得ていない。
イ 原判決は、本件サービスにおいてより多くのMP3ファイルの送信可能化をさせることは、利用者の数を増大させることとなり、本件サービスを有料化させた際の控訴人会社の営業上の利益に資するとし、また、控訴人会社サーバに接続したパソコンに対して広告を送信することもでき、本件サービスは広告媒体としての価値も有する、としている。
 しかし、控訴人会社は、被控訴人等の権利者の許諾を得たあかつきには、本件サービスを有料化する構想を有していたものの、そうでない限り、本件サービスにおいて送信可能化されるMP3ファイルの数を増やす必要はなく、意図もしていなかった。現実に、送信可能化されるMP3ファイルの数を増やそうとする行為はしていない。
 また、控訴人会社には本件サービスを広告媒体として利用するとの実体はおろか、意図もなかった。控訴人会社サイトに広告バナーはあったものの、利用者が同サイトを閲覧するのは、基本的に本件クライアントソフトをダウンロードするときだけであり、そのほかは、利用者が、本件サービスに関する疑問を解消するために時として閲覧するぐらいである。それらの際広告バナーをみることがあっても、その程度で広告料を得られるとは、控訴人会社も含めて誰も考えない。
 控訴人会社が営利法人であるとしても、必要な許可等が得られないうちに営利活動を行わないというのは何ら不自然なことではない。
【差止を命じた主文の誤り】
(1) 原判決は「被告有限会社日本エム・エム・オーは、被告有限会社日本エム・エム・オーが「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙楽曲リストの「原題名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「アーティスト」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報に係る、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない。」との主文(以下「本件差止主文」という。)を採用している。
 しかし、被控訴人は、著作権を有する実演をMP3形式にて複製したファイル以外の電子ファイルについては、それがたとえ利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに本件楽曲リストの「原題名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「アーティスト」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイルであっても、本件サービスによる送受信の対象から除外することを求めていないから、原判決の本件差止主文は、被控訴人の請求の範囲を超えるものである。本件差止主文によると、意図的にせよそうでないにせよ、市販のCD等に収録されている楽曲と同じ原題名及びアーティスト名をファイル名としたMP3ファイル、例えば「P1、P2、P3、P4」といったありふれた姓と、「桜」というタイトルをファイル名とした楽曲、「P5、P6、P7、P8」等の姓と、「卒業」のタイトルをファイル名とした楽曲は、被控訴人が著作権を有しないものであっても、本件サービスによる送受信の対象とすることができなくなることになる。請求の趣旨の変更をさせることなしに、このような主文を採用することは、処分権主義に反するものであり、本件訴訟の訴訟物による保護の範囲を逸脱するものである。
(2) 控訴人会社は、本件差止主文により、送受信されるファイル全体のわずか10数パーセントしかない、被控訴人の著作権等を侵害するMP3ファイルの送受信を防止するため、本件サービス全体を停止することを余儀なくされることになる(ISPも、本件差止主文のような内容の不作為義務を課されれば、サービスの提供そのものを停止せざるを得なくなる。)。
 ところで、著作権法112条に基づく差止請求権は債権であり、民法415条後段によれば、債務の履行が不可能な場合、履行請求権は消滅し、履行が不可能となったことについて債務者に帰責事由があったときに限り損害賠償請求権が発生するとされ、この履行不能とは、単に物理的に不能であることに限らず、社会通念ないし取引通念に従って、債務者による履行の実現が期待し得ないことを意味すると解されている。
 本件差止主文を実行すること(そこに特定されたMP3ファイルの送受信だけを防止すること)は不可能であり、そうすると、結局本件サービス全体を中止しなければならなくなるのであるから、本件差止主文は控訴人会社に対し過大な負担をかけるものであって、履行不可能なものであるから取り消されるべきである。
【損害賠償を認めた判断の誤り】
(1) 過失の不存在
 原判決は「被告エム・エム・オーは、遅くとも、本件サービスの運営を開始した直後には、本件サービスによって、他人の音楽著作物についての送信可能化権及び自動公衆送信権が侵害されていることを認識し得た。」(中間判決45頁〜46頁)としている。しかし、このような抽象的な予見可能性だけで過失を認定することは許されない。
 本件サービスにおいて、ノーティス・アンド・テイクダウン手続が定められていることから、控訴人会社の注意義務は尽くされていると控訴人らが主張したのに対し、原判決は、「本件サービスにおいては、利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等、本人確認のための情報の入力は要求されておらず、被告エム・エム・オーが講じたこのような措置は、著作権侵害行為を防止するための十分な措置であるということは到底できず、この点の被告らの主張は採用できない」(中間判決46頁〜47頁)としている。
 しかし、ISP、ホームページのレンタルサーバ、パソコン通信等のインフラサービス提供業者も、利用者の戸籍上の氏名及び住民票上の住所は把握していない(クレジット会社はそれらを把握していても、外部に開示はしていない。)。なお、リアルタイムで、送受信されている情報を把握したり他人の権利を侵害する情報のスクリーニングをしたりする措置を講じている業者もない。
 控訴人会社は、著作権侵害行為を防止するために他の同種業者がとっているのと同程度の措置を講じているのだから、過失があるとはいえない。
(2) 「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任制限法」という。)の免責規定の適用
ア 原判決は、控訴人会社がプロバイダ責任制限法における「発信者」に該当するから免責規定の適用はない、としている。
 プロバイダ責任制限法上の「特定電気通信役務提供者」とは、同法3条1項による免責の対象となると共に、同法4条に基づく発信者情報開示請求の対象となる者である。そして、ここで開示請求者が開示を求めるのは、著作権法上の規律の観点から、自動公衆送信の主体と認められる関係役務提供者の氏名及び住所ではなく、特定電気通信設備を利用して自己の権利を侵害する情報を送信した利用者の氏名及び住所であることは明らかである(関係役務提供者の氏名及び住所は当然わかっているから、必要がない。)。そうすると、著作権法上の規律の観点から発信者と認められる関係役務提供者は、プロバイダ責任制限法の「発信者」に該当しないことになる。
イ プロバイダ責任制限法は、他人の権利を侵害する情報を流通過程に置いた者(一義的に私法上の責任を負うべき者)以外の者で情報の流通に関与した者である特定電気通信役務提供者の私法上の責任が制限される場合を規定したものであるから、他人の権利を侵害する特定の情報の発信者が誰なのかを判断するに当たっては、当該情報を流通過程に置く意思を有していたのは誰かの点が重視されるべきである。
 控訴人会社は、情報の流通システムを提供しているだけであり、個々のMP3ファイルを、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった控訴人会社サーバに記録も入力もしていないのであるから、利用者と情報発信行為を共同して行ったとして「発信者」とされるべきではない。
ウ 利用者の身元を確かめることや著作権侵害行為を防ぐための措置を講じていることは、プロバイダ責任制限法3条1項に基づく免責を受けるための要件とはなっていない。
エ プロバイダ責任制限法は、特定電気通信設備とその記録媒体とを別のものとして規定しているから、原判決がいうように、「電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった被告サーバ」を同法にいう「記録媒体」と認定することはできない。いいかえると、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった控訴人サーバを、「特定電気通信設備」と認定した場合であっても、記録媒体はあくまで送信者のパソコンのハードディスクであって、控訴人会社サーバが記録媒体とされることはない。したがって、控訴人会社が情報を記録したり、入力したりしたとして、「発信者」とみなされることもない。
(3) 損害額の認定の誤り
ア 原判決は「本件サービスにおいて、本件各MP3ファイルが送信可能化ないし自動公衆送信されたことによって、原告の受けた使用料相当の損害額については、特段の事情のない限り、本件使用料規程の定める額を参酌して算定するのが合理的であるといえる」(原判決29頁)とした上で、「著作権者は、自動公衆送信される電子ファイルの数に比例して、許諾料を得る機会が失われることになるのであるから、自動公衆送信された回数を把握できない場合における本件使用料規程の「同時に送信可能化する曲数」とは、電子ファイルの自動公衆送信数(以下では「ダウンロード数」ということもある。)と相関関係(対象となるものの送信可能化数が増えれば、それに応じて自動公衆送信される電子ファイル数も増えるという関係)の認められるもの(著作物数又は電子ファイル数)の送信可能化数を意味すると解すべきである。そして、本件サービスのようなピア・ツー・ピア方式のネットワークによる自動公衆送信の場合は、自動公衆送信される電子ファイル数は、送信可能化されている著作物数に比例するのではなく、送信可能化されている電子ファイルに比例するものと認められる。」(同33頁)として、「本件サービスに対する使用料相当額を算定する際に参酌する場合の本件使用料規程の「同時に送信可能化する曲数」の意味については、「送信可能化されていた電子ファイルの数」と解するのが相当である。」(同33頁〜34頁)としている。
 しかし、本件サービスにおいて、ある電子ファイルが複数のクライアント機に蔵置されていたとしても、それをダウンロードしたいと考える利用者は、ネットワーク上のどれかひとつのクライアント機に対し送信要求をすればよい。すなわち、ピア・ツー・ピアシステム(以下「P2Pシステム」ということもある。)のネットワーク全体につながっているクライアント機の総体が、非P2Pシステムの巨大サーバコンピュータと等価なのである。原判決のいうダウンロード数(電子ファイルの自動公衆送信数)と、P2Pシステムのネットワーク上のファイル数との間に相関関係はない。
 このことは、次のことからも明らかである。すなわち、ある電子ファイルについて、P2Pシステムのネットワーク上のファイル数が増えるということは、そのファイルを持っているユーザーの数が増えるということであり、それだけ当該電子ファイルをダウンロードして取得しようとすることが少なくなる、ということである。実際、一つの電子ファイルが、1か月当たり90.9回もダウンロードされるなどということは、実体から乖離した議論である。
イ 本件使用料規程第12節では「本節において「曲」とは、歌詞、楽曲、及び歌詞を伴う楽曲をいい、いずれの利用の場合も1曲とみなす。」としており、曲数イコールファイル数とはしていない。また、送信可能化について使用料規程を策定する際に被控訴人がネットワーク音楽著作権連絡協議会(以下「NMRC」という。)と行った協議では、「同一著作物でも、受信する機種・データのバージョン・音質の異なる形で複数のファイルを用意してインタラクティブ配信することはあるため、この場合は別々の著作物として取り扱うこと」とされていることからは、受信する機種・データのバージョン・音質の異ならない形で複数のファイルが用意されている場合には、規程上1曲として取り扱われるべきである。
【適用法規の誤り】
 本件クライアントソフトは、カナダの企業が開発したものであり、控訴人会社サーバもカナダ国内にある。原判決が差止めの対象とした行為は、すべてカナダ国内で行われている。
 本件のような事件について、サーバ機が存在する国の法律が適用されるというのが多数説であり、カナダでは、自動公衆送信権ないし送信可能化権が法定されておらず、本件サービスによる電子ファイルの送受信は適法である。
3 当審における被控訴人の主張
【本件システムの認定の誤り】に対して
 本件で問題とすべきは、本件サービスによる著作権侵害行為において、控訴人らがどのような役割を負っているかであって、他に著作権を侵害するようなものが存在するか否かは関係がない。控訴人らの主張は詭弁である。
【控訴人会社を送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害の主体とした認定の誤り】に対して
(1) 本件サービスの性質の認定の誤りに対して
ア インターネットが、ファイル形式を問わずに情報の流通を可能にするものであるとしても、それを利用して提供されるサービスの一部が、日常的に膨大な数の他人の権利侵害行為を惹起させるものである場合、その部分だけを法的な検討の対象とすることができるのは当然である。
 一般の検索エンジンサービスが、既に他者によって送信可能化されているウェブサイトを検索した結果を表示するものであるのに対し、本件サービスは、交換対象となるファイルを送信可能化するために不可欠な行為をサーバ管理者(控訴人会社)が実行しているものであって、この点で検索エンジンと異なる。
イ 被控訴人は、報告書(甲第17号証)を、本件訴訟に先立つ仮処分手続において提出していた。控訴人らは、その内容に疑義があるというのであれば、自ら運営している本件サービスの実態を調査して反証を提出することが容易にできたはずである。それをしないで、上記報告書をねつ造したもののようにいうのは、言語道断である。
 この報告書において立証される、MP3ファイルの交換に係る本件サービスの利用状況に鑑みれば、本件サービスが、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換にとって使い勝手の悪いシステムであるとか、そうでない演奏家の楽曲が口コミ等で知られ送受信されるという利用態様もあるとか、控訴人会社が上記利用状況を予測もしていなかったとする主張が、現実からかけ離れたものであることは明らかである。
ウ 現時点における著作権侵害行為の差止めを肯定すべきか否かにあたり、その時点での本件サービスの性質を検討するのは当然である。
エ 原判決が、本件サービスにおいて利用者の身元確認をしていないことに言及したのは、ノーティス・アンド・テイクダウンの手続が、著作権侵害行為の防止措置として全く実効性がなく、そのことがMP3ファイルに係る本件サービスの利用実態を控訴人会社が予想していたと認定することを阻害するものではないことを指摘したものである。「違法な書き込みが約96パーセントを超える」などという利用実態ではない一般の電子掲示板において、身元確認をしないと、著作権侵害をさせるためのサービスと認定されると述べているものではない。
(2) 管理性の存在
ア 原判決は、本件サービスの性質、行為者の行為の性質・内容、結果の重大性、結果を防止できる者が誰か等を総合して、控訴人会社を、送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害主体と認定したものであり、その判断は妥当である。
イ クラブキャッツアイ事件は、控訴人らがいう利用主体拡張法理などという一般的な法理を述べたものではない。原判決が、その法理に反しているとする控訴人らの主張は、前提において誤っている。
 著作物の利用主体は、物理的な利用行為をした者に限られるわけではない。著作権法の「利用者」は、もともと規範的な概念である。著作権の解釈上、控訴人会社を著作権の侵害主体と認めることができることは明らかである。憲法違反の問題など生じない。
ウ 控訴人らの主張は、管理性を認めるためには、行為者が、利用される著作物の範囲を決定するとともに、当該利用に積極的に関与(店員による操作)しているとの要件を満たす必要があるとするものと解される。しかし、常時数万もの本件管理著作物を送信可能化している控訴人会社と、クラブキャッツアイ事件における一カラオケスナックの経営者とを同一視することはできない。
エ 市販のCD等を複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化する本件サービスを自ら構築し、利用者によって送信可能化された著作物の情報を収集し、それをリスト化して提供している控訴人会社が、個々の著作物のタイトルを知らなかったとしても、管理性ありと認められるのは当然である。
(3) 控訴人会社の利益の存在
 著作権侵害行為をしたことにより受ける経済的利益は、利用主体の認定において総合斟酌される要素の一つに過ぎない。原判決が認定した利益は、控訴人会社を利用主体と認定する要素の一つとするのに充分である。
【差止を命じた主文の誤り】に対して
(1) 被控訴人が差止を求めているのは、本件管理著作物の複製に係るMP3ファイルの自動公衆送信及び送信可能化行為である。原判決は、本件管理著作物の複製物以外に係るMP3ファイルの交換の差止めまで命じたものではなく、本件差止主文は、差止の対象となるファイルの特定を、原題名及びアーティスト名をファイル名又はフォルダ名に含むMP3ファイルとして、控訴人会社に命じる差止めの具体的な執行方法を明示したものであって、相当である。
 本件サービスによって送信可能化されたMP3ファイルの90パーセント以上が市販のCD等の複製物であり、本件管理著作物であるという実態に照らせば、本件差止主文により、被控訴人の管理著作物の複製物でないMP3ファイルの交換が差し止められることは、実際上あり得ない。原判決に処分権主義違反などの誤りはない。
(2) なお、被控訴人は、差止めの対象となる電子ファイルについて、「送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙楽曲リストの「原題名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「アーティスト」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報に係る、別紙楽曲リスト記載の音楽著作物がMP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル」と特定されたしても異存はない。
(3) 著作権法112条に基づく差止請求権が債権の一種であるとの控訴人らの主張は争う。また、本件差止主文は履行可能である。
【損害賠償を認めた判断の誤り】に対して
(1) 過失の存在
 控訴人会社の採用するノーティス・アンド・テイクダウンの手続が、著作権侵害行為を防止するのに全く実効性がなかったことは事実である。控訴人会社が結果回避のための義務を尽くしたとはいえない。
(2) プロバイダ責任制限法の免責規定の適用について
ア 本件において問題となっている著作権侵害行為は、プロバイダ責任制限法の施行前のものであるから(本件サービスの停止は平成14年4月16日であり、同法の施行は同年5月27日である。)、同法が適用になることはない。
イ 仮に適用があるとしても、控訴人会社は、他人の通信である情報を、自らの電気通信設備を介して流通させる役務を提供しているわけではないから、そもそもプロバイダ責任制限法にいう「特定電気通信役務提供者」に該当しない(本件においてそのような役務を提供しているのは、ISPである。)。
ウ 仮に控訴人会社が特定電気通信役務提供者に該当するとしても、同法にいう「発信者」に該当するから、免責の規定の適用の余地はない。
 控訴人会社は、被控訴人の管理著作物の複製に係るMP3ファイルが日常的に交換されることを予測しながら、敢えて本件サービスの提供に及んだものであるから、被控訴人の著作権を侵害するMP3ファイルを流通に置く意思があったことは明らかである。
 また、関係役務提供者(特定電気通信役務提供者)が他の発信者と共同で情報発信を行う場合など、発信者が複数存在する場合の1人になっている場合は、プロバイダ責任制限法3条1項の免責を受けることができないと解されている(乙第1号証・「プロバイダ責任制限法−逐条解説とガイドライン−」29頁)。
(3) 損害賠償の額
 被控訴人の本件使用料規程にいう「曲数」は、著作物の数ではなく、送信可能化されているファイルの数である。
 なお、控訴人らの主張は、本件サービスにより送信可能化されたMP3ファイルと同一のファイルが、ことごとく本件サービスのクライアント機に蔵置されることになるという前提に立つものであるが、そのような事態は発生していないし、また、控訴人らが主張する当時のインターネットの回線速度からして、あり得ない。
【適用法規の誤り】に対して
 本件のように、紛争の実質がすべて日本国内に存在する場合、その準拠法は日本法であると解すべきである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人会社は本件管理著作物の著作権の侵害主体であり、本件サービスのうち、原判決主文第1項のMP3ファイルの送受信は差し止められるべきであり、控訴人らは原判決が認容した限度で、被控訴人に対し連帯して損害を賠償するべきであると判断する。その理由は、次のとおり付加補正するほか、中間判決及び終局判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」(その引用する中間判決の記載を含む。)のとおりであるからこれを引用する。
1(1) 原判決32頁下から2行目の「月額の」を「月間の」と改める。
(2) 原判決引用に係る中間判決40頁10行目の「e 本件サービス」から14行目の「付している。」までを削除する。
2 【本件システムの認定の誤り】について
 甲第4号証の1(控訴人会社サイトの一部の写し)には「ファイルローグは、ファイルの種類、大きさに制約が一切ないファイル交換ツールです。・・・
 1)クライアント
 各ユーザーのPCにインストールされるソフトウェアです。ファイルローグ・コミュニティーに参加する時のインターフェイスとなります。ファイルを検索したり、他のユーザーにメッセージを送ったりチャットをしたりするときのアプリケーションです。
 2)サーバー
 クライアント同士が直接やりとりするための案内人の役目を果たしています。サーバーは、メッセージやチャット・セッションを管理するとともに、ファイルローグ・コミュニティーに存在するファイルのリスト化(グローバルカタログ)を進めます。また、クライアントからの検索要求に対して検索結果を送り返す役割を担っています。
 このモデルは、ファイルローグのコミュニティーにログインしているすべてのユーザーを相手に、ファイルの交換やメッセージのやり取りを可能にします。」との記載があり、甲第4号証の2(控訴人会社サイトの一部の写し)には「ファイルローグ・サーバーは、コミュニティー内の有効なすべてのファイル情報、およびすべてのユーザーのログインの有無をリアルタイムで把握しています。ユーザーPC内のクライアントは、サーバーと対話しながら、ファイルの検索やメッセージのやり取りを行います。」との記載がある。
 これらの記載からいっても、本件サービスによりファイルの交換をするには、控訴人会社サーバに接続している必要があることは明らかである。
 利用者において、他の手段によりファイル交換をすることができるとしても、そのことは、本件サービスにおいて控訴人会社サーバへの接続が不可欠であることを否定することにはならない。
3 【控訴人会社を送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害の主体とした認定の誤り】について
 本件で請求されているのは、本件管理著作物の送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害に基づく、本件管理著作物の本件サービスによる送受信の差止め及び損害賠償である。そして、本件サービスのように、インターネットを介する情報の流通は日々不断にかつ大量になされ、社会的に必要不可欠なものになっていること、そのうちに違法なものがあるとしても、流通する情報を逐一捕捉することは必ずしも技術的に容易ではないことなどからすると、単に一般的に違法な利用がされるおそれがあるということだけから、そのような情報通信サービスを提供していることをもって上記侵害の主体であるとするのは適切でないことはいうまでもない。しかし、単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず、本件サービスが、その性質上、具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり、控訴人会社がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して、そのような侵害行為を誘発し、しかもそれについての控訴人会社の管理があり、控訴人会社がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは、控訴人会社はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として、その責任を問われるべきことは当然であり、控訴人会社を侵害の主体と認めることができるというべきである。
(1) 本件サービスの性質について
ア 甲第6号証及び甲第20号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件サービスは、キーワードと拡張子でファイルを検索できるものと認められる。このことと、2で摘示した記載及び前記引用に係る原判決認定の事実(中間判決36頁イ(ア)a)からは、本件サービスは、インスタントメッセージサービス機能もあるものの、基本的にはファイルの交換に特化したものであって、ファイルを特定するための情報の収集・整理(検索のためのデータベースの構築)、検索(特定の語をその名称に含むファイルないしフォルダの検索要求を受付け、その所在を回答する。)、利用者同士の直接のファイルの送受信の仲介という、ファイル交換に必要な基本的機能を一体的に有するものであり、また、この機能を実現するためのハードウェア(サーバ)を備え、ソフトウェア(本件クライアントソフト)を個々の利用者に提供しているものであるということができる。
 また、本件サービスがファイルの交換ツールであると自ら説明し、さらに「ユーザーは、他ユーザーと共有する自分のファイルを任意で選ぶことができ、また、他ユーザーが共有設定しているファイルを検索、閲覧、交換することができます。ファイルローグを利用すれば、どんな種類のファイルも共有可能で、世界中どこにいる相手ともファイル交換をすることができます。」(甲第4号証の1)としていることからすれば、本件サービスは、各ユーザーが単にファイルを取得するだけでなく、自分の有しているファイルを他者に対して提供することをも勧めるものであることは明らかである。
イ 本件サービスの検索機能は、ファイルの拡張子のほかは、各クライアント機の共有フォルダ内のファイル及びフォルダの名称しか対象としないものであるから、多くの人が知っている語がその名称となっているファイル及びフォルダしか検索できないものであり、逆にいうとそのようなファイル及びフォルダの検索に適しているといえる(例えば、文書ファイルのように、あるファイルが検索キーワードをその内容に含んでいても検索により抽出されないから、検索結果がより絞られて利用者に提示されることになる。)。
 楽曲に係る電子ファイルは、基本的に単語をファイル自体の内容として含まないものであり、その内容を他のファイルと区別して端的に表現する語を想起するのは必ずしも容易ではなく、例えば作成日時で特定することも有効でないといえるから、それを管理する(他の同種ファイルと区別する)ための最も典型的な方法は、そのファイル名自体に楽曲名ないしアーティスト名を採用し、あるいはそれを蔵置するフォルダ名にアーティスト名等を付することであることは明らかである(甲第6号証、第17号証及び第20号証によれば、現実にそのように扱われていることが認められる。)。また、楽曲に係る電子ファイルの種類(フォーマット)が複数あるとしても、MP3ファイルが、そのファイル容量と音質のバランスから広く用いられており、かつ、その拡張子がmp3であることは一般的なルールである(甲第6号証、第7号証、第9号証、第17号証、第18号証、第20号証、乙第10号証、第11号証等)。
 以上からは、広く世間に知られた楽曲に係る電子ファイル、すなわち市販のCD等の複製に係るMP3ファイルは、本件サービスによる検索、ひいては送受信されるのに非常に適したファイルの一つといえ、しかも、有償のものが無償で入手できるものであるから、本件サービスはその性質上、利用者にそのような利用をさせる強い誘引力を有しているといえる。
 現実に、本件サービスにより送信可能化されていたMP3ファイルのほとんどが、市販のCD等の複製であったこと(甲第6号証、第17号証、第20号証、なお、控訴人らはこれら各報告書の証明力を否定する主張をするが、具体的な根拠を欠き採用できない。)は、このことを裏付けるものである。
ウ ア及びイで述べたとおり、本件サービスは、ファイルの交換に特化してそのための機能を一体的に備え、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルという特定の種類のファイルの送受信に非常に適したものであり、そのような利用態様を誘引するものであるという事実に鑑みれば、本件サービスは、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を惹起するという具体的かつ現実的な蓋然性を有するものといえるから、MP3ファイルの交換に関する部分について、利用者をして、上記のようなMP3ファイルの送信可能化及び自動公衆送信させるためのサービスとしての性質を有すると優に認定することができる。
 なお、本件サービスが送受信の対象となるファイルをその種類で区別していないことから、例えば著名な作家の小説に係る文書ファイルについても同じようにいえるとしても、そのことは、本件サービスが上記性質を有するとの認定を左右するものではない。しかも、後記ケのとおり、本件サービス開始前後の状況は、本件サービスの上記性質をより強く示すものであったということができる。
エ この点について、控訴人らは、Bフレッツ等の回線提供サービス、ISPのインターネット接続サービス、ウェブブラウザと検索エンジンとの組合せ、あるいはネットワーク対応のOSのファイル共有機能と、本件サービスとは異ならず、これらのサービスにおいて特定の利用形態を採り出してその性質を論じることが一般的になされないのであるから、本件サービスもそのように扱われるべきであると主張する。
(ア) 前記のとおり、本件サービスはファイル交換に特化し、そのための必要な機能を一体的に提供し、かつ、その性質として市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換に適したものであり、そのような利用を強く誘引するものであるのに対し、Bフレッツ等は単に回線を提供するだけのものであり、またISPはインターネットへの接続を提供するだけであり、それら回線の提供、接続の提供を受けた利用者に対し、本件サービスのような特定の種類のファイルの送受信をさせるよう誘引するものではない。さらに、その提供だけでは、ファイルの交換は可能にも便利にもならない。
(イ) ウェブブラウザと検索エンジンとの組合せも、もともとファイルの交換を目的とするものではなく、利用者に対してファイルの提供を勧めるものでもない。また、ウェブサイト中の単語も検索対象となるから、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの所在を必ずしも的確に把握できるものではないのであって、これらは、利用者をして市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を発生させるものとはいえない。
(ウ) ネットワーク対応のOSのファイル共有機能が、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換について、本件サービスと同等の機能を持つとしても、後者がOSに依存せず(甲第4号証2の「ファイルローグはJAVAで記述されており、OSを問わずさまざまなプラットホームで動きます。ファイルローグは、JAVA1.3以上の環境で動作します。」との記載参照)、潜在的にはインターネット接続環境を有する者全てを対象とするものであり、現にサービス開始直後から多数の利用者を獲得して、MP3ファイルだけでも常時数万前後を送信可能化しているのに対し、前者は、当該OSの利用者でかつ特定のネットワーク(LAN)に所属する者だけが利用できるものに過ぎず、そこに集積される市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの数もさほど多くはならないと認められ、また、共有設定したフォルダ内のファイルは常に共有状態となり(本件サービスのように、特定のソフトを起動しているときのみ共有状態になるものではない。)、かつ小規模かつ閉鎖的なネットワークでは違法な行為は発覚しやすいと利用者は考えるのが常識であるから、上記MP3ファイルの交換という利用が生ずる蓋然性の点で、両者を同一に論ずることはできない(甲第16号証)。さらに、特定のネットワークに属する者の間では、仕事等の文書ファイル等も交換されるものであり(同一組織に属することにより持たれる共通の知識等により適切な検索語を設定することが可能である。)、格別市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換だけ有利というわけでもない。
(エ) 電子掲示板やインターネットそのものについて、そこにおける名誉毀損や著作権侵害に該当する情報流通が、一定程度生じることがあるとしても、それが、具体的にどのような形で生じるかは不確定であり必ずしも把握は容易でないのに対し、本件サービスでは、類型的な著作権侵害行為が、具体的かつ現実的な蓋然性をもって生じるものであり、控訴人会社(本件サービスの提供者)は、サーバ管理者として、送受信可能化されているファイルのうちのMP3ファイルの中で、市販のCD等の複製に係るファイルはどれかを、ファイル名ないしフォルダ名から容易にかつかなりの確度をもって認識でき把握できるものであるから、それらと同一視することはできない。
オ 甲第6号証の別紙1ないし9、甲第20号証の別紙2ないし13並びに弁論の全趣旨によれば、本件サービスでは、拡張子と単一キーワードでAND検索をする機能があると認められる。これだけでも、有名な原題名及びアーティスト名をファイル名ないしフォルダ名に持つ、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの探索には充分である。なお、「さらに絞り込む(R)」のボタンの存在からは、複数の語を同時に入力してAND検索をすることができないとしても、逐次入力してのAND検索をすることはできるものと推認できる。
 また、本件サービスにおいてダミーファイルも送信可能化されていると推認できるとしても(乙第34号証ないし第36号証)、その数や送信可能化されるMP3ファイル全体に占める割合は不明であり、本件サービスが市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信にとって使い勝手のよいものであるとの認定を覆すものではない。
カ 本件サービスにより、適法なMP3ファイルの送受信がなされることもあり得ることはそのとおりであり、その割合が将来的には増えていく可能性を否定し得ないとしても、本件全証拠をもってしても、本件仮処分決定時までの本件サービスの利用実態が大きく変わる蓋然性があるとまでは認められない。そうである以上、本件仮処分決定時までの利用実態を基にした、本件サービスの性質(本件サービスが、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルという、特定の種類のファイルの交換をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を持つということ)についての前記認定が覆ることになるものではない。
 なお、本件差止主文は、後記のとおり、本件サービス自体の停止を不可避とするものではない。
キ 本件サービスの利用規約(甲第5号証、以下「本件利用規約」という。)に、「弊社は、予告なくあなたのアカウントを抹消また利用停止とすることができます。また、弊社は、予告なくあなたが入力した情報や中央サーバーにアップロードされたファイル名リストの一部または全部を削除することができます。」(甲第5号証1枚目)、「■権利者からのクレーム あなたは、あなたが送信可能な状態においたファイルにより自己の権利を侵害されたと主張する方から、共有状態の解消の申立てがなされた場合、「ノーティス・アンド・テイクダウン手続規約」にしたがうことに合意します。」(同号証3枚目〜4枚目)として、ノーティス・アンド・テイクダウンの手続が定められているとしても、そもそもこれはあくまで侵害行為が発生した場合に事後的にこれをなくすものであって、予め防止するものではない。
 もっとも、この手続が存在すること及びそれを適切に適用し、事後的にしろ著作権侵害行為を排除していくことにより、結果的にそのような行為の発生が抑止されることはあり得る。しかし、本件利用規約では、「また、弊社は、ユーザーのみなさまが入力した情報や、交換されたファイルの情報について、原則として管理や調査を行いません。」(甲第5号証2枚目)として、控訴人会社が積極的に本件サービスの利用実態について管理・調査を行わないことを明言しており、しかも、控訴人会社は利用者の氏名・住所を申告させていないから、利用者の中には匿名性が保たれ自分の身元が容易には判明せず、民事上ないし刑事上の責任追及を受けないと考える者も少なからず存在するといえるのであって、ノーティス・アンド・テイクダウン手続の存在により、利用者が著作権侵害行為を差し控えるとは認められない。
 また、本件サービスのシステムでは、利用者は、本件クライアントソフトを起動することにより、好む時だけ控訴人会社サーバとの接続状態を形成するものであり、接続を断ってしまえば、その者が送受信の対象としていたファイル情報は検索データベースから除去されるため、個々の利用者が、どのようなファイルを送信可能化ないし自動公衆送信していたかを、控訴人会社サーバを管理していない第三者が把握することは、相当困難であると認められる。したがって、権利者が、ノーティス・アンド・テイクダウン手続を利用することも困難といえる。
 そうすると、本件サービスにおいて、ノーティス・アンド・テイクダウン手続は、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を防止する有効な手段とはいえず、これを講じたことをもって、そのようなMP3ファイルの送受信が少なくなり、本件サービスの性質についての前記認定を変えることになるとはいえない。
 なお、本件利用規約に、「■禁止事項・・・(a) 著作権、著作隣接権、名誉権、プライバシー権その他第三者の権利を侵害するファイルを送信可能な状態とすること」(甲第5号証2枚目)、「■保証 共有設定するファイルが、第三者の権利を侵害しないことをあなたは合意します。・・・違法行為には、著作権のあるファイルを許諾無く自らのコンピュータ内で送信可能な状態にする「送信可能化権」の侵害を含みます。」(同3枚目)との記載があり、著作権侵害に該当するファイルの送受信をしないよう注意しているということを加味しても、本件サービスの性質についての前記認定は左右されない。
ク 本件サービスの利用者のうち、送信可能化ないし自動公衆送信について、被控訴人の許諾を得ていた者がいたのか、あるいはその割合がどれくらいのものかについて、控訴人らは具体的な主張・立証をしない。したがって、そのような者が、全員ではないにせよ相当割合いることを前提に、本件サービスの性質を論じることはできない。
 その他、本件サービスにおいて、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換を防止するに足る措置が講じられているとは認められず、本件サービスが、上記MP3ファイル送受信を可能にするためのサービスという性質を持つという前記認定を覆すに足りる事実は認められない。
ケ ところで、本件サービス開始前、アメリカにおいて、ハイブリット型のP2Pシステムを採用し、音楽著作物の電子ファイルの交換が行われることにより極めて多数の利用者を擁していた「ナップスター」(Napster)と呼ばれるファイル交換サービスが存在し、そのことは日本でも知られ、本件サービスはこのナップスターと同様のサービスを提供するものとして、その開始前後から話題になっていた(甲第9号証)。
 また、平成13年9月28日付の日経産業新聞(甲第10号証)において、「カナダでファイル無料交換サイト(ファイル・ローグ)を運営するITPソリューションズ(カルガリー)は十月中旬、日本でのサービスを開始する。・・・日本エム・エム・オー・・・と提携し、日本語による本格的なファイル交換サイトを立ち上げる計画だ。
 仕組みは音楽無料交換サイトの米ナップスターとほぼ同様。利用者はそれぞれが保有する音楽などのファイルをネットワーク内で共有し、自由に検索してダウンロードする。相手が持ってさえいれば、希望の楽曲を無料で入手することが可能という。」との報道がされた。
 さらに、平成13年11月1日、本件サービスの開始についてテレビ報道があり、そこでは、「無料で新曲をゲット」、「日本の音楽業界を震撼させるサービスが始まりました。」、「人気アーチストの新曲などあらゆるCDの音楽を自宅にいながらにしてしかも無料で手に入れることが出来るというもので、早くも著作権を巡って論議を呼んでいます。」、「アメリカでは2年前ナップスターという会社が同じようなサービスを始めました、利用者はおよそ5000万人、1ヶ月になんと30億曲という音楽が自由に交換されました。」、「ナップスターと違いエム・エム・オー社のサービスは日本語、日本で爆発的に利用者が増えると見られています。サービスは今朝の9時からはじまりましたが、わずか6時間で2万曲もの音楽が登録されました。」との紹介がされた。また、控訴人Xも「少なくとも1年間で、まあ10万人くらいはいるでしょうね。まあ100万曲ぐらいは、あの交換されるじゃないかなと。」と述べ、さらに、本件サービスが著作権を侵害するものとして、これに対し法的措置を執らざるを得ないとの日本レコード協会のコメントに対し、「我々はファイルを自由にやりとりできる、まあ場を提供しているだけでですね。ユーザーが、えーどう使うかっていうところまでは、まあ我々の責任外」と述べている(なお、本件サービスの開始について、同じテレビ局がさらに二回放送し、市販のCDの複製に係るMP3ファイルが取得できるものとして紹介している。)(甲第18号証)。
 以上のような本件サービス開始前後の状況からすれば、多くの者が、本件サービスを市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換ができるものと認識して、そのように利用することは必定であり、前記認定に係る本件サービスの性質を、より強く示すものということができ、また、そのような事態となることは、控訴人会社においても十分予想していたものというべきである。
(2) 管理性について
ア 前記2、3(1)の認定説示及び引用に係る原判決認定の本件サービスのシステム(中間判決39頁から40頁のaないしd、f及びg)からすれば(なお、上記gの事実については、控訴人会社サイトで本件サービスの利用方法を説明している以上、その程度や態様はともかく、何らかの形で利用者がその説明を参考にすることは、経験則に照らして明らかである。)、控訴人会社は、ファイルの交換に必要な機能を有する本件サービスを一体的に提供しており、本件サービスは、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信に適し、それを具体的かつ現実的な蓋然性をもって誘発するものであって、控訴人会社も本件サービスがそのように利用されることを予想していたものということができるから、控訴人会社としては、MP3ファイルに限っては、著作権を侵害するものを除去するよう監視し、必要な措置を講ずべき立場にあるというべきである(侵害の結果の発生を100パーセントは防止することができないとしても、部分的にせよ著作権を侵害するMP3ファイルの交換を阻止できるならば、そのような措置を講じるべきことは当然である。)。
 そして、カナダの会社を介しているにせよ、控訴人会社は、本件サービスにおいて送受信の対象とされているファイルの所在及び内容を把握でき、必要に応じてファイルの送受信を制限(特定のファイルの送受信を禁止する)したり、特定の利用者の利用自体を禁止する等の措置を講じたりすることができるといえるから(前記(1)キにおいて認定した本件利用規約の内容参照)、控訴人会社は、送受信の対象とされているファイルの内容を管理する権能を有していると認められる。
イ 控訴人らは、控訴人会社は本件サービスにおいて送受信の対象となるファイルを決定できないから、本件管理著作物のMP3ファイルが送受信の対象となっても、被控訴人に適切な利用の許諾を求めることができず、被控訴人の著作権を侵害するMP3ファイルを排除することもできないから、管理性は否定されるべきであると主張する。
 本件サービスにおいて、クライアント機の共有フォルダに蔵置するMP3ファイルの数・種類を決定するのは個々の利用者であり、また、本件サーバに接続するか否かも個々の利用者が決定するものである。しかし、控訴人会社は、どの程度の数のMP3ファイルが同時送信可能化されているかは最大値や平均値等で把握可能であり(甲第16号証)、アクセスを制限するなどして同時送信可能化ファイルの最大数をコントロールすることもできること、同時送信可能化されたMP3ファイルのうち本件管理著作物の数がどの程度であるかは、ファイル名及びフォルダ名を基準にして、個別に把握することも、不作為抽出による推計で概数として把握することも可能であること、100パーセントではないにせよ、やはりファイル名及びフォルダ名を頼りに違法なMP3ファイルを除外することもできること(これが可能なことについては後記4参照)からすれば、控訴人会社は送受信の対象となるMP3ファイルの範囲を相当程度コントロールすることができるといえるのであり、その管理性を肯定することができる。なお、これが、送受信の対象とされるファイルの範囲を具体的に決定することができるという意味での管理ではないにしても、そのようなシステムを採用し、提供しているのは控訴人会社自身であり(控訴人会社は、このシステムが有する、多数ないし容量の大きいファイルの交換を、大容量の記憶装置を持たないサーバ等安価な装置と、比較的低速の回線で実現できるというメリットを享受している。)、上記のようなコントロールが可能である以上、送受信されるファイルを決定していないからといって、その管理性を否定することはできない。
ウ 控訴人らは、クラブキャッツアイ事件において示された判断の妥当性や、その本件への適用の誤りなどについて縷々主張するが、控訴人会社が侵害主体と認められることは、前記のとおりである。
 また、著作権法の解釈上、著作権の侵害主体は現実に著作物等の利用それ自体の物理的行為を行っている者に限定されるべきであるとはいえないし、これと異なる前提に立って憲法29条2項違反をいう控訴人らの主張は、その前提を欠き失当である。
エ 本件サービスにおいて、ファイル情報の取得、検索要求の受付と結果の回答、利用者間の直接のファイルの送受信の仲介が機械的かつ自動的に処理されるものであるとしても、そのことは、前記ア及びイで認定した、控訴人会社の管理性を否定するものではない。本件サービスのシステムが、そのような機械的な処理をするものであっても、なお控訴人会社は、手動を含めて、一定程度は送受信されるファイルの内容を把握し、コントロールでき、かつそのようにする責務を負っているのである。
(3) 控訴人会社の利益の存在について
 控訴人会社サイトにある広告バナーをみるのが、基本的にアカウントを取得し(本件利用規約参照)、本件クライアントソフトをダウンロードするときだけであるとしても、それらが本件サービスの利用において不可欠である以上、本件サービスの提供に関し、控訴人会社は広告料という直接の利益を得ているといえるし、本件サービスが広告媒体としての価値を有しないともいえない。
 また、本件サービスにおいて、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信ができることはその利用者を吸引し増やす最も大きな力であり(なお、利用者が増えることと、本件サービスにより送受信されるMP3ファイルの数・種類が増えることは相互にプラスの効果を及ぼし合う、すなわち前者が増えると、MP3ファイルの数・種類が増え、そうなると、ますます本件サービスの魅力が増し利用者が増える。)、利用者が増えれば、将来的には、サービスの有料化ないし広告媒体としての活用等により、本件サービスの商業的価値を増すことは明らかである。
(4) 以上の点を総合考慮すれば、控訴人会社は、本件サービスによる本件管理著作物の送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害主体であると認めることができる。
4 【差止を命じた主文の誤り】について
(1) 被控訴人の請求は、要するに、本件サービスにより、本件管理著作物が送受信の対象とすることを差し止めるというものである。
 そして、本件差止主文が差止の対象としているものもそれであって、本件差止主文が送受信の対象としてはならないとしている「MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル」が本件管理著作物の複製に係るもの以外のものまでも含む趣旨でないことは、前記引用に係る原判決の説示に照らしても明らかであり、本件差止主文が処分権主義に反するということはない。なお、控訴人会社主張のような誤解を避けるために、念のため、本件差止主文の趣旨をより明確にする趣旨で、主文第3項のとおり、本件差止主文の一部を訂正することにする。
(2) 控訴人会社は、本件差止主文を実行することは不可能であると主張する。
 しかし、本件サービスで検索の対象となるファイル名及びフォルダ名は、ほとんどの場合、原題名ないしアーティスト名だけから成り立つものと理解されるから(甲第6号証の別紙1ないし9、甲第20号証の別紙2ないし13)、例えばファイルの頭文字「宇」から始まる原題名及びアーティスト名に絞って(原題名及びアーティスト名を表記する漢字、ひらがな、片仮名及びアルファベットそれぞれについて逐一合致するか否かを判定するなどという処理をする必要はない。)、フィルタリングにより除外すべきものか否かの判断を繰り返す方法などを用いることにより、それ程の時間を要することなく(上記各証拠及び弁論の全趣旨)、本件差止主文で送受信の対象とされているファイルを判定することができるのであり、本件差止主文の実行が不可能であるということはないし、また、そのようなフィルタリングを通過したものを逐次データベースに加えて、受信者からの検索要求に応じることも可能なのであって、本件差止主文を実行するのに、本件サービス全体を停止せざるを得ないことにもならないのである。
5 【損害賠償を認めた判断の誤り】について
(1) 過失の有無について
ア 3で認定したとおり、本件と同じハイブリット型のP2Pシステムであるナップスターが極めて多数の利用者を擁し、そこでは市販の音楽著作物の交換がされており、そのことは日本でも周知となっていたものであり、本件サービスは、このナップスターと同一のシステムを採用するものとして、サービス開始の前後に新聞やテレビニュースで紹介されていたから、日本国内でこれを利用しようとするユーザーも、そのような利用(市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換)をするものと強く予測でき、現実にもそのような利用がされていたものである。
 控訴人らも、具体的な曲数やユーザー数はともかく、上記利用態様がなされることを予測していた(むしろこれを認容していたとも窺われる。)ものであり、このことは、3(1)ケで認定した控訴人Xの言動に加え、以下の事実から明らかである。
(ア) 本件サービスを開始する2か月あまり前の平成13年9月28日付日経産業新聞における、本件サービスの開始を紹介する記事によれば、控訴人Xは、「完全な複製技術は技術革新がもたらした成果であり、人間社会の進化。それに伴って著作権制度も姿を変えていくべきだ」、「音楽家の権利は大切だが、コピーを防げない以上、コンテンツ業界は大量生産方式からコンサートなど生の製品で付加価値を生むビジネスモデルに移行すべき」、「旧来の著作権を巡る利権団体や企業への挑戦」と述べていた(甲第10号証、なお、控訴人Xは、甲第11号証(社団法人日本レコード協会に対する回答書)において、報道内容が正しいことを認めている。)。
(イ) 控訴人Xは、日経ビジネス2002年1月21日号において「日本へサービスを展開する際、グヌーテラ型ではなくナップスター型のサービスを選んだのも、中央サーバーがあって顧客を管理できるからだ。
 権利者はコピーを防ぐことにこだわるが、コピーを完全に防ぐことは難しい。・・・やはりコピーされて当たり前という前提でビジネスを考えるように頭を切り替えないとダメだ。」(甲第9号証)と語っている。
 したがって、控訴人らには、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルが送受信されることにより、被控訴人の有する著作権が侵害されることの予見可能性が十分にあったと認められる。
イ 前記のとおり、本件利用規約においてノーティス・アンド・テイクダウンの手続が定められており、また、著作権を侵害するファイルの送受信を禁じる旨の注意が記載されているとしても、これは実効性のあるものではなく、それら手続の定めないし注意の記載をもって、結果回避義務を尽くしたとするに足りないことは当然である。
 なお、ISP等が利用者の身元確認をしていないとしても、本件サービスはそれらと異なり、その性質上無許可の市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を有するものであり、控訴人会社はそのような違法な利用実態の発生を容易に予見できたといえるのであって、そのようなサービスを提供する控訴人会社が、より高度の結果回避義務を課されるのは当然である。
(2) プロバイダ責任制限法の免責規定の適用について
ア 前記のとおり、本件サービスは、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を惹起させるものであって、控訴人会社はそのことを十分予測していたのみならず、その代表者である控訴人Xは、それを勧めるかのような発言もしていること、控訴人会社は本件サービスにより直接ないし間接の利益を得ていることなどからみても、控訴人会社は、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルを流通過程に置くことに積極的に関わっている者であり、発信者に該当することを免れるものとはいえない。
 控訴人会社が個別にどのような内容のMP3ファイルが送受信されているか認識していなかったとしても、そのことは、上記判断を左右することになるものではない。
イ プロバイダ責任制限法の発信者が、その者に係る情報開示請求の対象となる者であり、この点で関係役務提供者と異なるとしても、同法の免責規定は、関係役務提供者も発信者となることを前提にしているものであり、その場合関係役務提供者が発信者情報開示請求の対象とならないことは当然である。発信者情報開示請求の対象とならないことをもって、発信者となり得ないとはいえない。
ウ プロバイダ責任制限法は、その2条2号で「特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備・・・」と規定し、同条4号で「発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体・・・」と定義している。
 これからは、特定電気通信設備と記録媒体は別のものであることが明らかであるとともに、記録媒体が特定電気通信設備の一部であり得ることもまた明らかである。そうすると、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった控訴人会社サーバが記録媒体といえることも明らかである。
(3) 損害額について
 ハイブリット型P2Pシステムの長所の一つは、サーバがファイル情報だけを持ちファイルそのものを持たないため、アクセスがサーバに集中しないこと、換言すると、ファイルの交換が個別のクライアント機同士で行われ、ファイルを持つコンピュータが特定の、少数のものに限定されない、ということである。そして、本件サービスのシステムも、受信者の出した検索条件に合致するファイルを複数提示し、受信者はそのうちのどれを選択して受信するのも自由である(甲第6号証、第20号証)。すなわち、同一の楽曲に係るものであっても、その電子ファイル数が多いほど、送信可能化の数が増し、その結果、円滑にファイルの送受信ができるという、本件サービスの長所がまさに生かされることになる。したがって、電子ファイル数を基準にして損害額を考慮することは当然である。
 なお、控訴人らは、被控訴人とNMRCとの協議の結果に言及して、楽曲数を基準にすべきであると主張する。しかし、同じ楽曲名・アーティスト名であっても、同一の内容であるとは限らないし、また、仮に全く同一の楽曲であっても、MP3ファイルの音質は様々であるから(エンコードする際に自由にビットレートを設定できることは公知の事実である。なお甲第27号証参照。)、上記協議の結果を斟酌しても、ファイル数を基準に考えるべきであるとする結論は変わらない。
 また、同じ楽曲に係るものであっても、様々な音質、サイズのMP3ファイルが存在し得るものであるから、利用者がより高音質のファイルを求めたり、あるいは再生に用いる機器の記憶容量に適した小さめのサイズのファイルを求めたりすることもあるということができ、あるユーザーが特定の楽曲のMP3ファイルを取得したからといって、それ以後、同一の楽曲に係るMP3ファイルの受信をしなくなるとは必ずしもいえない。
6 【適用法規の誤り】について
 控訴人会社は日本法人であり、控訴人会社サイトは日本語で記述され、本件クライアントソフトも日本語で記述されていることからは、本件サービスによるファイルの送受信のほとんど大部分は日本国内で行われていると認められる。控訴人会社サーバがカナダに存在するとしても、本件サービスに関するその稼動・停止等は控訴人会社が決定できるものである(乙第8号証1)。以上からすると、控訴人会社サーバが日本国内にはないとしても、本件サービスにおける著作権侵害行為は、実質的に日本国内で行われたものということができる。そして、被侵害権利も日本の著作権法に基づくものである。
 上記の事実からすれば、本件においては、条理(差止請求の関係)ないし法例11条1項(不法行為の関係)により、日本法が適用されるものというべきである。
7 結論
 以上のとおりであるから、原判決は相当であって、控訴人らの控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法67条1項、61条、65条1項を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所知的財産第3部
 裁判長裁判官 佐藤久夫
 裁判官 設樂隆一
 裁判官 高瀬順久
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【事件名】ネット上の音楽無料配信事件(2)
【年月日】平成17年3月31日
 東京高裁 平成16年(ネ)第446号 著作隣接権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成14年(ワ)第4249号)
 (平成17年3月31日 口頭弁論終結)

判決
当事者の表示 別紙当事者目録のとおり


主文
1 本件各控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
3 原判決主文第1項中「MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル」とあるのを「MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル(同レコード目録記載の音楽著作物の複製に係るもの以外のものを除く。)」と訂正する。
4 原判決主文第2項中、脱退被控訴人ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社に関する部分を、「控訴人らは、連帯して、被控訴人ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社訴訟引受人株式会社ワーナーミュージック・ジャパンに対し、131万0867円、及びそのうち99万5000円に対する、控訴人有限会社日本エム・エム・オーについては平成14年3月26日から、控訴人Xについては同月21日から、支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と変更する。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文1、2項と同旨
第2 事案の概要
 本件は、被控訴人らが、控訴人有限会社日本エム・エム・オー(以下「控訴人会社」という。)に対し、同社が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにより、被控訴人らが著作隣接権を有する音楽著作物のMP3形式に係る電子ファイルが送受信されることについて、それが同著作隣接権を侵害するとしてその差止めを求めるとともに、控訴人会社及びその代表者取締役であるX(以下「控訴人X」という。)に対し、同著作隣接権の侵害に基づく損害賠償を求めた事案である。
 原判決は、原判決添付の各レコード目録(以下「本件各レコード目録」という。)記載の各楽曲(以下「本件各レコード」いう。)について、控訴人会社が被控訴人らの有する著作隣接権を侵害していると認定した上で、MP3形式に係るファイルの送受信の差止めを命じ、控訴人らに対する損害賠償請求についてその一部を認容した。そこで、控訴人らが敗訴部分について控訴した。
 脱退被控訴人ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社(以下「脱退被控訴人」という。)は、その営業の一部を同訴訟引受人株式会社ワーナーミュージック・ジャパン(以下「訴訟引受人」という。)に承継させるため吸収分割をし、これにより、訴訟引受人は、平成16年3月30日、本件各レコード目録のうち11記載の各レコードについての著作隣接権及び本件訴訟の訴訟物に係る損害賠償請求権を承継し(甲第29号証及び第30号証)、その後、当裁判所の決定により、脱退被控訴人の被控訴人としての地位を承継して、本件訴訟を引き受け、脱退被控訴人は、控訴人らの承諾を得て、本件訴訟から脱退した。
1 当事者双方の主張は、次のとおり当審における主張を付加補正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」記載(その引用する中間判決の記載を含む。)のとおりであるから、これを引用する。
 (以下、本判決においても、原判決の用法に従って、「本件サービス」、「本件クライアントソフト」、「本件使用料規程」などの語を用いることとする。なお、引用部分を除いて、「被告サーバ」は「控訴人会社サーバ」と、「被告サイト」は「控訴人会社サイト」と言い換える。)
2 原判決引用に係る中間判決3頁11行目の「同目録11のについては」を「同目録11のレコードについては」と訂正する。
3 当審における控訴人らの主張
【本件システムの認定の誤り】
 原判決は、前提となる送信可能化の態様として、「本件サービスは、ユーザーID及びパスワードを登録すれば誰でも利用できるものであり、既に4万人以上の者が登録し、平均して同時に約340人もの利用者が被告サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして、送信者が、電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して、本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続すると、送信者のパソコンは、被告サーバにパソコンを接続させている受信者からの求めに応じ、自動的に上記電子ファイルを送信し得る状態となる。」(中間判決34頁)ことから、「電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは、被告サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(法(判決注・著作権法)2条1項9号の5イ)に当たるということができ、また、その時点で、公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ、当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができる。」(中間判決34頁〜35頁)と認定している。
 しかし、送信者のクライアント機は、本件クライアントソフトが起動している状態でインターネットに接続することによって、「公衆送信用記録媒体」(共有フォルダ)に記録されている情報を自動公衆送信する機能を有している。すなわち、控訴人会社のサーバと一体とならなくても、単体で自動公衆送信装置となり得るものである。例えば、WinMXを用いれば、ファイルの共有・送受信は可能である。
【控訴人会社を送信可能化権の侵害の主体とした認定の誤り】
(1) 本件サービスの性質の認定の誤り
 原判決は、本件サービスが、MP3ファイルの交換に係る部分については、利用者をして、市販のCD等を複製したMP3ファイルを送信可能化及び自動公衆送信させるためのサービスという性質を有するとしている(中間判決38頁)。しかし、この判断は誤りである。
ア そもそも、本件サービスのうち、MP3ファイルの交換をする部分に限って、その性質を論じること自体相当でない。
 本件サービスは、機能的にはパソコン通信、Google等の(ロボット型)検索エンジンサービスとウェブブラウザとを組み合せたもの、あるいはMS−Windows等のネットワーク対応のOSのファイル共有機能と大差ないものであり、かつ、交換の対象となる電子ファイルを、その種類や内容等で全く区別していない。また、添付ファイル送信機能を有する電子掲示板や、ひいてはインターネット(NTTのBフレッツ等回線提供サービスや、インターネットサービスプロバイダ(以下「ISP」という。)の提供するサービス)そのものと同じであるともいえる。
 これらにおいて、MP3ファイルの交換に関する部分についてのみ対象を絞ってその性質を判断することは非常識といえるから(被控訴人らは、控訴人会社に対してしているような要求をNTTに対してはしていない。)、本件サービスにおいても、そのような判断はされるべきでない。
イ 以下のとおり、本件サービスにおいて、MP3ファイル(なかんずく市販のCD等の複製に係るMP3ファイル)の交換がなされた程度は不明である。本件サービスはそのような利用を目的とするものではなく(控訴人会社はそのような利用ではなく、別の利用態様を予測していた。)、逆にそのような利用に全く向かないものである。
 したがって、本件サービスが、市販のCD等を複製したMP3ファイルの送受信を可能にするためのサービスという性質を持つとはいえない。
(ア) 実態として、本件サービスにおいて、市販のCD等とほぼ同一内容のMP3ファイルがどれほど送受信されていたか、ダミーファイルの数がどれほどであったかは全く不明であり、控訴人会社が、そのような状態を作り出すために積極的な働きかけをした事実はない。
 この点、原判決は、「実際にも、前記前提となる事実のとおり、被告サーバが送受信の対象としているMP3ファイルの約96.7パーセントが、市販のレコードを複製した電子ファイルに関するものである。」(中間判決37頁)と認定している。しかし、この認定の根拠となる証拠は、控訴人らや第三者がその真実性を検証することが不可能な報告書以外にない。
(イ) 本件サービスは、実演家名と楽曲名とで複合検索をかける機能も、ダミーファイルを除外する機能も有していない。本件サービスは、市販のCD等の楽曲ファイルのコピーを手軽に取得したいと考える者にとっては、全く使い勝手の悪い、魅力の低いものである。
(ウ) 原判決は、自ら著作した音楽等のMP3ファイルを不特定多数の者に無償で提供する利用者、また、そのようなファイルの取得を希望する利用者が、市販のCD等の音楽のMP3ファイルの取得を希望する者に比較すると、かなり少ない、としている(中間判決37頁)。これも、証拠に基づかない単なる憶測である。
 プロ・アマを問わず、自分の楽曲をインターネット上で公開することを選択ないし希望する者は少なからず存在し、それにより一定の成果を収めた例もある。本件サービスは、それを実現するための一つの方法として、インスタントメッセージサービス(メールサーバー等を介することなく、隔地者間で直接テキスト文書をやりとりするサービス)の機能を実装している。これにより、口コミでアマチュアやセミプロの演奏家の楽曲が広まることが可能である。
 この点からも、本件サービスが、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を内容としていたとはいえない。
ウ ある特定の期間における利用状況(本件では平成13年12月ころから平成14年3月ころまで)から、本件サービスの性質を断定することは不当である。本件サービスが相当期間継続して運営されていれば、適法な利用形態もいくつか立ち上がったはずである。そして、そのような可能性が少しでもある以上、本件サービス自体を停止するか否か(後記のとおり、原判決の命じる差止めを実現するためには、結局本件サービス自体を停止せざるを得ない。)の判断において、その性質を安易に決定することは許されない。
 前記のとおり、音楽ファイルに限っても、インスタントメッセージサービスにより、ネット上での公開を選択する者の楽曲が広まることが可能である。
 また、原判決は「市販のレコードを複製したMP3ファイルのほとんどすべてのものが、その送信可能化及び自動公衆送信について著作権者、著作隣接権者の許諾を得ていないものであり、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法な複製に係るものであることが明らかである。」(中間判決37頁)としている。しかし、本件サービスの送信者と被控訴人らとの間で本件各レコードの許諾契約が締結されているか否かは、控訴人らのあずかり知らぬことである。
エ 原判決は、本件サービスの性質の判断において「被告エム・エム・オーは、本件サービスの開始当時から上記事態(判決注・本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法な複製に係るものである事態)に至ることを十分予想していたものと認められる(この点、前記前提となる事実のとおり、被告エム・エム・オーは、本件サービスの利用規約において、著作権を侵害する電子ファイルの送信可能化行為を禁止しているが、本件サービスを利用する者の身元確認をしていないのであるから、同規約の実効性が低く、本件全証拠によっても、他に、著作権侵害を防ぐに足る措置を講じていると認めることはできない。)。」(中間判決37〜38頁)としている。しかし、この認定は、証拠に基づかないものである。
 まず、控訴人会社は、本件サービスの利用者が、どのような種類・内容の情報を送受信するかを予想する立場になく、実際に予想していなかった。
 本件サービスは、複合検索の機能もダミーファイルの除去の機能も持たないため、市販のCD等の複製に係る電子ファイルの交換に用いるのには使い勝手の悪いものであり、それどころか、送信者のIPアドレスが公開されているため、その住所及び氏名が警察に把握される危険があり、そのような利用態様は忌避されるものであって、控訴人会社はそのように認識していた。しかも、控訴人会社はいわゆるノーティス・アンド・テイクダウンの手続を用意しており、これにより違法なファイルの交換は排除できると考えていたから、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルの約96.7パーセントが、市販のCD等の複製に係る電子ファイルになるという事態を全く予想もしていなかった。
 なお、他の電子掲示板やホームページ提供サービスにおいて、利用者の身元確認はしないのが通常であり(そのようなことを要求するのは、IT技術の普及を妨げるものであり、妥当でない。)、利用者の身元を確認しないことが、著作権侵害行為の発生を予想できると認定させる根拠となるものではない。
(2) 管理性の不存在について
ア 著作権法2条1項9号の5の「送信可能化」について権利侵害の責任を問われるべき者は、著作物、実演、レコード等を自動公衆送信し得る状態に置いたのは誰かという観点から判断すべきものであり、そして、通信設備を設置、管理、運営する者については、単に設備の運営を行っているに過ぎないと解される限り、送信可能化に関する責任を負うとされるべきではない。ISPなど、自動公衆送信装置の設置、管理、運営等を行う者については、情報の記録やネットワークの接続等を単純に依頼を受けて機械的に行うだけであれば、自ら著作物等を送信可能化するための行為を行っていないと考えるべきである。
 控訴人会社は、送信者のクライアント機の共有フォルダに蔵置されている電子ファイルのカタログデータを、控訴人会社サーバの検索用データベースに機械的に記録するとともに、受信者からのリクエストに応じて、その検索条件に適合する電子ファイルの情報を受信者に機械的に送信しているだけであるから、送信可能化権に関する権利侵害の責任を負わない。
イ 原判決は、最判昭和63年3月15日(民集42巻3号199頁、以下「クラブキャッツアイ事件」という。)において示された、自ら著作物の利用行為をしていない者を、著作権法上の規律の観点から利用主体であるとみなす法理(利用主体拡張の法理)に基づいている。この法理は、明言はされていないものの、「(クラブ経営者の)経済的な利益に音楽の利用が直接的に寄与していることが否定できない場合には当該利益の一定部分は音楽の著作物の創作者に還元すべきである。」というルールに基づいているものと推測できる。
 しかし、著作権法はそのようなルールを一般的な原則として採用していないし、まして、そのルールに基づく禁止権まで認めるか否かを決定する裁量権を裁判所に付与していない。上記利用主体拡張の法理は、変更されるべきである。
 知的財産権に関する諸法において、「その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている」(最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁)のであり、各法律により定められている排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を超えて、知的財産権を行使することは許されない。
ウ 著作権法には、特許法101条のような間接侵害を定めた規定はないのであり、本件サービスを他人による著作権侵害行為に用いられるとして著作権侵害行為とみなし、その排他的効力を及ぼすことは、財産権法定主義を定めた憲法29条2項にも反し許されない。仮に、著作権につき特許法101条の類推適用があるとしても、本件サービスは、他人による著作権侵害行為にも用いられ得るというものに過ぎないから、当てはまらない。
 著作物の利用主体は、間接正犯に類似するような場合を除き、規範的な概念として把握すべきではない。
エ 仮に、この利用主体拡張の法理を採用するとしても、原判決は、明らかにその解釈・適用を誤っている。
 クラブキャッツアイ事件において、クラブ経営者が著作物の利用主体であるとした判断は、クラブ経営者(の従業員)の客に対する歌唱の勧誘、その備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、設置されたカラオケ装置の従業員による操作、という事実に基づくものであり、これをもって、クラブ経営者が、客による歌唱の主体と認めるに足りるほどの「管理」をしていると判断したものである。本件サービスには、そのような意味での管理はない。
 この点、原判決は、本件サービスにより電子ファイルの送信可能化ないし自動公衆送信をする際、本件クライアントソフト及び控訴人会社サーバが必要であること、本件クライアントソフトを用いると簡単にファイルの交換ができること、控訴人会社サイトで本件クライアントソフトの使用方法を説明していることを根拠に管理性を肯定している。しかし、これらの事実では管理性を基礎付けることはできない。
 本件において、管理性が否定される最大の根拠は、控訴人会社が、どの著作物を自動公衆送信(送信可能化)させるかについて、現実に決定していないということである。なぜなら、控訴人会社は、本件サービスで交換される電子ファイルの範囲を限定できないのであるから、著作権者等に適切な利用許諾を求めることができず、また、望まない著作物等の利用も排除できない以上、差止めを求められた場合本件サービス自体の提供を中止せざるを得なくなり、これは明らかに不当だからである。
 この点、原判決は、本件サービスにおいて、「送信の対象となる電子ファイルを選択するのが、専ら利用者であったとしても、前記認定した諸事実を総合すれば、利用者の送信可能化行為が被告エム・エム・オーの管理の下にされているとの認定、判断を左右するものではな」い(中間判決41頁)としている。しかし、その根拠は全く明らかではない。送受信の対象への組入れや除外を具体的に管理できないものが、送受信の主体とされることはあり得ない。
 なお、本件サービスの利用規約は、著作権を侵害するファイルの交換を禁ずる旨を明記している。交換されるファイルを制限していないということはない。
(3) 控訴人会社の利益の不存在
ア 原判決は、クラブキャッツアイ事件において示された図利性の判断の枠組みから大きく逸脱している。
 「その経済的な利益に第三者による著作物の利用が寄与していることが否定できない場合に当該利益の一定部分を音楽の著作物の著作者に還元する」という著作権法上の規律に基づき、利用主体拡張の法理が認められるのであれば、現実に得ている経済的利益を超えた金額を著作権者に還元させるということは、利用主体拡張の法理の趣旨に反することになるから、現実的かつ実質的な利益を得ていない者について、利用主体拡張の法理を適用してこれを利用主体であるとするべきではない。そして、本件において、控訴人会社は現実的かつ実質的な利益を得ていない。
イ 原判決は、本件サービスにおいてより多くのMP3ファイルの送信可能化をさせることは、利用者の数を増大させることとなり、本件サービスを有料化させた際の控訴人会社の営業上の利益に資するとし、また、控訴人会社サーバに接続したパソコンに対して広告を送信することもでき、本件サービスは広告媒体としての価値も有する、としている。
 しかし、控訴人会社は、被控訴人ら権利者の許諾を得たあかつきには、本件サービスを有料化する構想を有していたものの、そうでない限り、本件サービスにおいて送信可能化されるMP3ファイルの数を増やす必要はなく、意図もしていなかった。現実に、送信可能化されるMP3ファイルの数を増やそうとする行為はしていない。
 また、控訴人会社には本件サービスを広告媒体として利用するとの実体はおろか、意図もなかった。控訴人会社サイトに広告バナーはあったものの、利用者が同サイトを閲覧するのは、基本的に本件クライアントソフトをダウンロードするときだけであり、そのほかは、利用者が、本件サービスに関する疑問を解消するために時として閲覧するぐらいである。それらの際広告バナーをみることがあっても、その程度で広告料を得られるとは、控訴人会社も含めて誰も考えない。
 控訴人会社が営利法人であるとしても、必要な許可等が得られないうちに営利活動を行わないというのは何ら不自然なことではない。
【差止を命じた主文の誤り】
(1) 原判決は「被告有限会社日本エム・エム・オーは、同被告が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録1ないし19の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報に係る、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない。」との主文(以下「本件差止主文」という。)を採用している。
 しかし、被控訴人らは、著作権を有する実演をMP3形式にて複製したファイル以外の電子ファイルについては、それがたとえ利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに本件各レコード目録の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイルであっても、本件サービスによる送受信の対象から除外することを求めていないから、原判決の本件差止主文は、被控訴人らの請求の範囲を超えるものである。本件差止主文によると、意図的にせよそうでないにせよ、市販のCD等に収録されている楽曲と同じタイトル名及び実演家名をファイル名としたMP3ファイル、例えば「P1、P2、P3、P4」といったありふれた姓と、「桜」というタイトルをファイル名とした楽曲、「P5、P6、P7、P8」等の姓と、「卒業」のタイトルをファイル名とした楽曲は、被控訴人らが著作権を有しないものであっても、本件サービスによる送受信の対象とすることができなくなることになる。請求の趣旨の変更をさせることなしに、このような主文を採用することは、処分権主義に反するものであり、本件訴訟の訴訟物による保護の範囲を逸脱するものである。
(2) 控訴人会社は、本件差止主文により、送受信されるファイル全体のわずか10数パーセントしかない、被控訴人らの著作隣接権を侵害するMP3ファイルの送受信を防止するため、本件サービス全体を停止することを余儀なくされることになる(ISPも、本件差止主文のような内容の不作為義務を課されれば、サービスの提供そのものを停止せざるを得なくなる。)。
 ところで、著作権法112条に基づく差止請求権は債権であり、民法415条後段によれば、債務の履行が不可能な場合、履行請求権は消滅し、履行が不可能となったことについて債務者に帰責事由があったときに限り損害賠償請求権が発生するとされており、この履行不能とは、単に物理的に不能であることに限らず、社会通念ないし取引通念に従って、債務者による履行の実現が期待し得ないことを意味すると解されている。
 本件差止主文を実行すること(そこに特定されたMP3ファイルの送受信だけを防止すること)は不可能であり、そうすると、結局本件サービス全体を中止しなければならなくなる。本件差止主文は、控訴人会社に対し過大な負担をかけるものであって、履行不可能なものであるから取り消されるべきである。
【損害賠償を認めた判断の誤り】
(1) 過失の不存在
 原判決は「被告エム・エム・オーは、遅くとも、本件サービスの運営を開始した直後には、本件サービスによって、他人のレコードについての送信可能化権が侵害されていることを認識し得た。」(中間判決45頁)としている。しかし、このような抽象的な予見可能性だけで過失を認定することは許されない。
 本件サービスにおいて、ノーティス・アンド・テイクダウン手続が定められていることから、控訴人会社の注意義務は尽くされていると控訴人らが主張したのに対し、原判決は、「本件サービスにおいては、利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等、本人確認のための情報の入力は要求されておらず、被告エム・エム・オーが講じたこのような措置は、著作権等侵害行為を防止するための十分な措置であるということは到底できず、この点の被告らの主張は採用できない」(中間判決46頁)としている。
 しかし、ISP、ホームページのレンタルサーバ、パソコン通信等のインフラサービス提供業者も、利用者の戸籍上の氏名及び住民票上の住所は把握していない(クレジット会社はそれらを把握していても、外部に開示はしていない。)。また、リアルタイムで、送受信されている情報を把握したり他人の権利を侵害する情報のスクリーニングをしたりする措置を講じている業者もない(そこまでしなくても、IPアドレスが分かれば利用者の特定・警察による摘発は可能である。そして、本件サービスにおいて、IPアドレスは隠されていない。)。
 控訴人会社は、著作権侵害行為を防止するために他の同種業者がとっているのと同程度の措置を講じているのだから、過失があるとはいえない。
(2) 「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任制限法」という。)の免責規定の適用
ア 原判決は、控訴人会社がプロバイダ責任制限法における「発信者」に該当するから免責規定の適用はない、としている。
 プロバイダ責任制限法上の「特定電気通信役務提供者」とは、同法3条1項による免責の対象となると共に、同法4条に基づく発信者情報開示請求の対象となる者である。そして、ここで開示請求者が開示を求めるのは、著作権法上の規律の観点から、自動公衆送信の主体と認められる関係役務提供者の氏名及び住所ではなく、特定電気通信設備を利用して自己の権利を侵害する情報を送信した利用者の氏名及び住所であることは明らかである(関係役務提供者の氏名及び住所は当然わかっているから、必要がない。)。そうすると、著作権法上の規律の観点から発信者と認められる関係役務提供者は、プロバイダ責任制限法の「発信者」に該当しないことになる。
イ プロバイダ責任制限法は、他人の権利を侵害する情報を流通過程に置いた者(一義的に私法上の責任を負うべき者)以外の者で情報の流通に関与した者である特定電気通信役務提供者の私法上の責任が制限される場合を規定したものであるから、他人の権利を侵害する特定の情報の発信者が誰なのかを判断するに当たっては、当該情報を流通過程に置く意思を有していたのは誰かの点が重視されるべきである。
 控訴人会社は、情報の流通システムを提供しているだけであり、個々のMP3ファイルを、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった控訴人会社サーバに記録も入力もしていないのであるから、利用者と情報発信行為を共同して行ったとして「発信者」とされるべきではない。
ウ 利用者の身元を確かめることや著作権侵害行為を防ぐための措置を講じていることは、プロバイダ責任制限法3条1項に基づく免責を受けるための要件とはなっていない。
エ プロバイダ責任制限法は、特定電気通信設備と、その記録媒体を別のものとして規定しているから、原判決がいうように、「電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった被告サーバ」を同法にいう「記録媒体」と認定することはできない。いいかえると、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった控訴人サーバを、「特定電気通信設備」と認定した場合であっても、記録媒体はあくまで送信者のパソコンのハードディスクであって、控訴人会社サーバが記録媒体とされることはない。したがって、控訴人会社が情報を記録したり、入力したりしたとして、「発信者」とみなされることもない。
(3) 損害額の認定の誤り
ア 原判決は「本件使用料規程において、自動公衆送信数を基準とすることができない場合に送信可能化された1曲が1か月に約90.9回自動公衆送信されると想定して送信可能化1曲当たりの使用料を算定する方法が特に不合理とはいえないことに照らせば、必要経費を多めに見積もったとしても、被告エム・エム・オーが本件各MP3ファイルを送信可能化した場合に原告らが受けるべき1ファイル当たりの月額使用料は、原告らの主張に係る2000円を下回ることはないというべきであるから、同額と認めるのが相当である。」(原判決23頁)としている。
 本件の関連事件である東京地裁平成14年(ワ)第4237号事件(以下「関連事件」という。)では、本件サービスにより送信可能化されたファイルが、1か月に90.9回自動公衆送信されるとするのはあまりに過大であるとして、送信可能化1曲当たりの使用料を、月間送信回数が9.09回であるとの前提で、算定している。本件でもそのような算定がなされるべきであり、そうすると、1曲の月額使用料は110円×9.09≒1000円となり、そのうち著作隣接権者たるレコード製作者に払われるのは、その2割である200円程度となる。この額をもとに損害額が計算されるべきである。
イ 原判決は「1曲当たり○○円」という場合の1曲を、1ファイルと読み替えている。
 しかし、社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)の本件使用料規程第12節では「本節において「曲」とは、歌詞、楽曲、及び歌詞を伴う楽曲をいい、いずれの利用の場合も1曲とみなす。」としており、曲数イコールファイル数とはしていない。
 また、送信可能化について使用料規程を策定する際JASRACがネットワーク音楽著作権連絡協議会(以下「NMRC」という。)と行った協議では、「同一著作物でも、受信する機種・データのバージョン・音質の異なる形で複数のファイルを用意してインタラクティブ配信することはあるため、この場合は別々の著作物として取り扱うこと」とされていることからは、受信する機種・データのバージョン・音質の異ならない形で複数のファイルが用意されている場合には、使用料規程上1曲として取り扱われるべきである。
 現に、いわゆるコピーコントロールCDにおいて、同一の楽曲につき、CDプレイヤー等で再生するためのものと、パソコン等で再生するためのものと2つのファイルが収録されていても、定価が2倍となっているわけではない。
ウ ピア・ツー・ピアシステム(以下「P2Pシステム」ということもある。)のネットワークにおいて、共有されている楽曲数が増えるのに比例してダウンロード数が増えるということはあり得ないではないものの、ファイル数が増えるのに比例してダウンロード数が増えるという関係は考えがたい。
 P2Pシステムのネットワーク全体につながっているクライアント機の総体が、非P2Pシステムの巨大サーバコンピュータと等価なのであるから、ファイル数が、ダウンロード数に影響を与えるとはいえない。
 このことは、次のことからも明らかである。1か月あたりのダウンロード数が90.9回とするなら、そのうちのクライアント機の共有フォルダに蔵置されるのが半分程度であったとしても、平成13年12月から平成14年1月までの間に、共有ファイル数は40倍程度になっているはずである。しかし、現実にはかえって微減(6パーセント)している。
【適用法規の誤り】
 本件クライアントソフトは、カナダの企業が開発したものであり、控訴人会社サーバもカナダ国内にある。原判決が差止めの対象とした行為は、すべてカナダ国内で行われている。
 本件のような事件について、サーバ機がある国の法律が適用されるというのが多数説であり、カナダでは、送信可能化権が法定されておらず、本件サービスによる電子ファイルの送受信は適法である。
4 当審における被控訴人らの主張
【本件システムの認定の誤り】に対して
 本件サービスにおいては、利用者は、控訴人会社サーバと接続することにより、はじめて送信可能化を実現することができるものである。
【控訴人会社を送信可能化権の侵害の主体とした認定の誤り】に対して
(1) 本件サービスの性質について
ア 本件サービスが開始する以前から、アメリカのナップスターや、日本のWinMXのように、そこで交換されるMP3ファイルのほとんどすべてが著作権、著作隣接権を侵害するP2Pシステムがあることが広く認識されていた。控訴人Xは、このような状況をみて、同様のサービスを提供して利益を得ようと考え、本件サービスを開始したものである。
 控訴人会社が、本件サービスにより市販のCD等の複製に係るMP3ファイルが交換されることを予想していたことは、本件サービス開始前後の控訴人Xの発言から明らかである。
イ 本件サービスにおいて、検索語として、著名な楽曲名・実演家名を入力すると、その複製に係るMP3ファイル(カセットテープのダビングより高音質である。)を、無料で、極めて容易に入手することができる。しかも、上記のようなファイル検索システムでは、必然的に、多くの人が知っている語により検索できるもの、すなわち市販のCD等に収録されている楽曲が専ら対象となるものである(本件サービスは、ファイル名やフォルダ名しか検索の対象としない。)。
 なお、本件サービスは、ファイル名やフォルダ名しか検索の対象としないという点で、それ以外のものも検索の対象とし検索結果を提示する検索エンジンとウェブブラウザの組み合わせとは異なる。また、ウェブブラウザと検索エンジンとの組み合わせでは、既に送信可能化されているウェブサイトを対象に、その検索結果を表示しているに過ぎず、直接ブラウザにURLを入力するか、他の検索エンジンを用いれば、ウェブサイトへのアクセスは可能である。これに対し、本件サービスでは、ファイルの送信可能化のためには、控訴人会社サーバの存在が不可欠である。
ウ 実際に、本件サービスで交換されたMP3ファイルのうち、その約96.7パーセントもが、市販のCD等の複製物であったことは、本件証拠上明らかである。
 控訴人らの主張は、敢えて本件サービスの利用実態を調査せず、それを覆い隠し、将来における適法な利用形態の可能性を抽象的にいうのみであり、反論になっていない。
エ アで述べた本件サービスの検索システムでは、無名の実演家の楽曲を検索することができない(タイトルも実演家名も分からないのだから、当然である。)。本件サービスは、控訴人らが主張するのとは反対に、無名の実演家が自作の楽曲について情報発信をする用途には全く不向きなものであり、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換以外の適法な用途に用いられることが、実質的に想定できないものである。
オ したがって、本件サービスが、MP3ファイルの交換に係る部分については、利用者をして、市販のCD等を複製したMP3ファイルを送信可能化及び自動公衆送信するためのサービスという性質を有することは明らかである。
(2) 管理性について
ア クラブキャッツアイ事件をはじめとするこの種事件に係る多数の裁判例によって実務上定着しているのは、あくまで、「著作権法上の規律の観点から著作物の利用主体を判断する。」という法理である。クラブキャッツアイ事件の判決において摘示されている要素は「管理・支配」や「利益」を認定できるための例であり、上記法理の一般的な要件ではない。
 そして、原判決が摘示している要素によれば、控訴人会社による管理・支配及び利益を優に認定することができる。
 なお、クラブキャッツアイ事件においては、自然的な観察のもとでは歌唱は顧客のものと解されるのに対し、本件サービスでは、クライアント機と控訴人会社サーバとが接続され、一体となってファイルの送受信が可能となるのであるから、自然的な観察でも、控訴人会社は送信可能化及び自動公衆送信の主体といえる。
イ 控訴人らは、控訴人会社は送受信の対象となる著作物を決定していないと主張する。しかし、クラブキャッツアイ事件において示された「カラオケ業者の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲」という要素は、管理性を肯定するための不可欠の要件ではない。現にそのような要素(演奏される著作物の選択への関与)がない音楽公演の企画者が、演奏の主体であると認められた事例もある。
 もともと、本件サービスでは、送受信の対象となるMP3ファイルに制限はない。無制限に許容されているが故に、管理性が否定されるというのは本末転倒である。
(3) 控訴人会社の利益について
 原判決が指摘している各事実によれば、MP3ファイルの送受信が控訴人会社の営業上の利益を増大させることは明らかである。この営業上の利益があるというために、現実に利益が得られていることや、利益の額が一定以上に達していることが必要とされるものではない。
【差止を命じた主文の誤り】に対して
(1) 原判決は、被控訴人らが具体的に特定した本件各レコードについて、それらの複製に係るMP3ファイルを、本件サービスにより送受信することの差止めを命じており、まさに、被控訴人らが設定した訴訟物について判断しているものであって、処分権主義違反はない。
 また、本件差止主文を採用するにあたっては、控訴人ら及び被控訴人らから充分な主張も行われている。
 なお、被控訴人らは、本件差止主文と同一の主文による差止めを求めるものである。
(2) 控訴人らは、本件差止主文により、被控訴人らが著作隣接権を有しない楽曲の送受信が制限されることもあると主張するが、単なる抽象的・理論的な可能性を指摘するものに過ぎない(なお、本件各レコードの中に、控訴人らが例示する「桜」、「卒業」という名称を含むものはない。)。
 そのような事態があるとしても、本件サービスにより交換されるMP3ファイルの約96.7パーセントが、違法な複製物であったという事実に鑑みれば、本件差止主文による差止めはやむを得ないものとして許容されるというべきである。
(3) 本件差止主文は実現可能である。
 また、著作権法112条は、(準)物権的請求権としての妨害排除又は予防請求権を明文で規定したものである。現に(準)物権に対する侵害が行われている以上、その差止請求が否定されることはない。
【損害賠償を認めた判断の誤り】に対して
(1) 過失の存在
 控訴人会社は、本件サービスにより市販のCD等の複製に係るMP3ファイルが交換されることを企図ないし予測していたものであり、むしろ故意があったとすら考えられる。少なくとも過失があることは明らかである。
 ノーティス・アンド・テイクダウン手続は、例外的に違法な利用がされることがあるような場合においては実効性があるが、本件サービスのように、違法利用が大部分であるようなものでは、個別に削除を求めるのでは対応しきれず、また、権利者に不当な負担をかけるもので適切でない。同手続を採用していたことは、控訴人らの過失を否定するものではない。
(2) プロバイダ責任制限法の免責規定の適用について
ア プロバイダ責任制限法3条1項但書は、その記載から明らかなとおり、関係役務提供者が発信者に該当する場合があることを前提としている。その場合、関係役務提供者が、自らの氏名・住所等を開示する必要がないことは当然である。
 情報開示請求の対象とならない者は、発信者たり得ないとする控訴人らの主張は失当である。
イ 関係役務提供者が、他の発信者と共同で情報発信を行う場合など、発信者が複数存在する場合の1人になっているときも、発信者に該当すると解される。
 控訴人会社は、利用者と共同してファイルの送受信を行っているとみることができるのであるから、情報を流通過程に置いた者としても、発信者に該当するといえる。
ウ プロバイダ責任制限法は、大部分が適法かつ有用な目的に利用されるサービスにおいて、一部の心ない者によって、サービス提供者の意図しない悪用が例外的に発生した場合に、サービス提供者の責任を制限するものである。
 本件サービスは、MP3ファイルの交換を中心的なものとし、その大部分が著作権を侵害する違法なものであり、しかも控訴人会社はそれを予期し、むしろ積極的に認容していたのであるから、プロバイダ責任制限法による制限を認めるべき合理的・実質的な理由はない。
(3) 損害賠償の額について
ア 本件サービスが提供されていた当時、正規の音楽配信サービスではダウンロード一曲当たり300円ないし350円という価格設定がされていた。350円として計算すると、月8.6回程度のダウンロードで、原判決が採用した2000円という月額使用料に達する。
イ 本件使用料規程における、月間総ダウンロード回数が把握できない場合に、月間ダウンロード回数を90.9回として計算する使用料は、一種のみなしである。
 本件において、これが明らかに過大であるということもない。関連事件では、本件サービスにおいて送信可能化されたMP3ファイルのうちの90パーセント(月平均10万個あまり)が、関連事件の原告であるJASRACの管理著作物であると推認した上で、それら全て(平均10万曲余り)について、月間90.9回ものダウンロードがあったとすることがあまりに過大である、とされたものである。これに対し、本件においては、実際に同時に送信可能化されたファイル数(なお、これは、送信可能化されたファイルの総数より少ない。)をもって計算し、かつ、その中には、人気の高い楽曲が多いものであるから、1曲当たり月間90.9回のダウンロードがされることも十分あり得る。
 利用者が、ダウンロードしたファイルを必ずしも共有フォルダに置くとは限らないから(アップロードに関する責任追及を避けるために、そうしないという考えが広まっていた。)、ダウンロード回数が多いと、同一種類のファイルの共有数が増えるとは必ずしもいえない。共有ファイル数が増加していないことをもって、月間ダウンロード回数がもっと少ないはずであるとする控訴人らの主張は誤っている。
ウ 月間総ダウンロード回数が把握されていないときの本件使用料規程は、ファイル毎に算定されるものである。
 JASRACとNMRCとの取り決めについて、被控訴人らは知らないが、それは、ダウンロード回数が把握されているケースに関するものであると思われる。
 また、ダウンロード希望者が多い場合、一つの楽曲に対する送信要求が集中すると、ダウンロードが順番待ちになるか、複数同時ダウンロードが可能であってもかかる時間は長くなる。そうすると、同一楽曲であってもファイル数が増えれば、送信要求が分散し、結果的に容易にダウンロードできることになるのであるから、ファイル数を基準に考えるべきである。
【適用法規の誤り】に対して
 本件で、当事者双方は日本人ないし日本法人であり、行為は日本で行われており、被侵害利益も日本の著作隣接権であるから、日本法が適用になるのは当然である(サーバ機が物理的にどこにあるかは重要ではない。)。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人会社は本件各レコードの著作隣接権の侵害主体であり、本件サービスのうち、原判決主文第1項により特定されるMP3ファイルの送受信は差し止められるべきであり、控訴人らは原判決が認容した限度で、被控訴人らに対し連帯して損害を賠償するべきであると判断する。その理由は、次のとおり付加補正するほか、判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」(その引用する中間判決の記載を含む。)のとおりであるからこれを引用する。
1(1) 原判決21頁下から4行目の「月額の」を「月間の」と改める。
(2) 原判決引用に係る中間判決40頁5行目の「e 本件サービス」から9行目の「付している。」までを削除する。
2 【本件システムの認定の誤り】について
 甲第4号証の1によると、本件サービスにおける公開ファイル数・容量は、現に接続しているユーザー数に左右されるものであり、したがって、本件サービスによりファイルの交換をするには、控訴人会社サーバに接続している必要があることは明らかである。
 利用者において、他の手段によりファイル交換をすることができるとしても、そのことは、本件サービスにおいて控訴人会社サーバへの接続が不可欠であることを否定することにはならない。
3 【控訴人会社を送信可能化権の侵害の主体とした認定の誤り】について
 本件で請求されているのは、本件各レコードの送信可能化権の侵害に基づく、本件各レコードの本件サービスによる送受信の差止め及び損害賠償である。そして、本件サービスのように、インターネットを介する情報の流通は日々不断に且つ大量になされ、社会的に必要不可欠なものになっていること、そのうちに違法なものがあるとしても、情報流通を逐一補足することは必ずしも技術的に容易ではないことなどからすると、単に一般的に違法な利用がされるおそれがあるということだけから、そのような情報通信サービスを提供していることをもって、上記侵害の主体であるとするのは適切でないことはいうまでもない。しかし、単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず、本件サービスが、その性質上、具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり、控訴人会社がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して、そのような侵害行為を誘発し、しかもそれについての控訴人会社の管理があり、控訴人会社がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは、控訴人会社はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として、その責任を問われるべきことは当然であり、控訴人会社を侵害の主体と認めることができるというべきである。
(1) 本件サービスの性質について
ア 甲第4号証の1ないし4及び甲第21号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件サービスは、キーワードと拡張子でファイルを検索できるものと認められる。このことと、前記引用に係る原判決認定の事実(中間判決36頁イ(ア)a)からすれば、本件サービスは、インスタントメッセージサービス機能もあるものの、基本的にはファイルの交換に特化したものであって、ファイルを特定するための情報の収集・整理(検索のためのデータベースの構築)、検索(特定の語をその名称に含むファイルないしフォルダの検索要求を受付け、その所在を回答する。)、利用者同士の直接のファイルの送受信の仲介という、ファイル交換に必要な基本的機能を一体的に有するものであり、また、この機能を実現するためのハードウェア(サーバ)を備え、ソフトウェア(本件クライアントソフト)を個々の利用者に提供しているものであるということができる。
 また、本件サービスが「ファイルローグは、インターネットを通じてファイルローグ・コミュニティ内の仲間とさまざまな種類のファイル交換ができるソフトです。あなたは、コミュニティの仲間と共有したいファイルを決めます。世界中の仲間からそのカタログがアップロードされ、巨大なデータベース「グローバルカタログ」ができあがります。ファイルローグ・ユーザーの皆さんはこの巨大な「グローバルカタログ」を検索して、自分のほしいファイルを世界中の仲間と交換します。」(甲第17号証)としていることからすれば、本件サービスは、各ユーザーが単にファイルを取得するだけでなく、自分の有しているファイルを他者に対して提供することをも勧めるものであることは明らかである。
イ 本件サービスの検索機能は、ファイルの拡張子のほかは、各クライアント機の共有フォルダ内のファイル及びフォルダの名称しか対象としないものであるから、多くの人が知っている語がその名称となっているファイル及びフォルダしか検索できないものであり、逆にいうとそのようなファイル及びフォルダの検索に適しているといえる(例えば、文書ファイルのように、あるファイルが検索キーワードをその内容に含んでいても検索により抽出されないから、検索結果がより絞られて利用者に提示されることになる。)。
 楽曲に係る電子ファイルは、基本的に単語をファイル自体の内容として含まないものであり、その内容を他のファイルと区別して端的に表現する語を想起するのは必ずしも容易ではなく、例えば作成日時で特定することも有効でないといえるから、それを管理する(他の同種ファイルと区別する)ための最も典型的な方法は、そのファイル名自体に楽曲名ないし実演家名を採用し、あるいはそれを蔵置するフォルダ名に実演家名等を付することであることは明らかである(甲第4号証の2ないし4、第16号証、第21号証によれば、現実にそのように扱われていることが認められる。)。また、楽曲に係る電子ファイルの種類(フォーマット)が複数あるとしても、MP3ファイルが、そのファイル容量と音質のバランスから広く用いられており、かつ、その拡張子がmp3であることは一般的なルールである(甲第4号証の1ないし4、第16号証、第18号証、第21号証、乙第10号証、第11号証等)。
 以上からは、広く世間に知られた楽曲に係る電子ファイル、すなわち市販のCD等の複製に係るMP3ファイルは、本件サービスによる検索、ひいては送受信されるのに非常に適したファイルの一つといえ、しかも、有償のものが無償で入手できるものであるから、本件サービスはその性質上、利用者にそのような利用をさせる強い誘引力を有しているといえる。
 現実に、本件サービスにより送信可能化されていたMP3ファイルのほとんどが、市販のCD等の複製であったこと(甲第4号証の2、第16号証、第21号証、なお、控訴人らはこれら各報告書の証明力を否定する主張をするが、具体的な根拠を欠き採用できない。)は、このことを裏付けるものである。
ウ ア及びイで述べたとおり、本件サービスは、ファイルの交換に特化してそのための機能を一体的に備え、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルという、特定の種類のファイルの送受信に非常に適したものであり、そのような利用態様を誘引するものであるという事実に鑑みれば、本件サービスは、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を惹起するという具体的かつ現実的な蓋然性を有するものといえるから、MP3ファイルの交換に関する部分について、利用者をして、上記のようなMP3ファイルの送信可能化及び自動公衆送信させるためのサービスとしての性質を有すると優に認定することができる。
 なお、本件サービスが送受信の対象となるファイルをその種類で区別していないことから、例えば著名な作家の小説に係る文書ファイルについても同じようにいえるとしても、そのことは、本件サービスが上記性質を有するとの認定を左右するものではない。しかも、後記ケのとおり、本件サービス開始前後の状況は、本件サービスの上記性質をより強く示すものであったということができる。
エ この点について、控訴人らは、Bフレッツ等の回線提供サービス、ISPのインターネット接続サービス、ウェブブラウザと検索エンジンとの組合せ、あるいはネットワーク対応のOSのファイル共有機能と、本件サービスとは異ならず、これらのサービスにおいて特定の利用形態を採り出してその性質を論じることが一般的になされないのであるから、本件サービスもそのように扱われるべきであると主張する。
(ア) 前記のとおり、本件サービスはファイル交換に特化し、そのための必要な機能を一体的に提供し、かつ、その性質として市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換に適したものであり、そのような利用を強く誘引するものであるのに対し、Bフレッツ等は単に回線を提供するだけのものであって、またISPはインターネットへの接続を提供するだけであって、それら回線の提供、接続の提供を受けた利用者に対し、本件サービスのような特定の種類のファイルの送受信をさせるよう誘引するものではない。さらに、その提供だけでは、ファイルの交換は可能にも便利にもならない。
(イ) ウェブブラウザと検索エンジンとの組合せも、もともとファイルの交換を目的とするものではなく、利用者に対してファイルの提供を勧めるものでもない。また、ウェブサイト中の単語も検索対象となるから、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの所在を必ずしも的確に把握できるものではないのであって、これらは、利用者をして市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を発生させるものではない。
(ウ) ネットワーク対応のOSのファイル共有機能が、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換について、本件サービスと同等の機能を持つとしても、後者がOSに依存せず(甲第2号証の「同社の技術はJava言語で書かれており、ネット上で交換可能なファイルを音楽に限定しない。利用者は映画や文書などをすべての登録ユーザーと共有し、どんなOSからも自由に交換できる。」との記載参照)、潜在的にはインターネット接続環境を有する者全てを対象とするものであり、現にサービス開始直後から多数の利用者を獲得して、MP3ファイルだけでも常時数万前後を送信可能化しているのに対し、前者は、基本的に当該OSの利用者で特定のネットワーク(LAN)に所属する者だけが利用できるものであり、そこに集積される市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの数もさほど多くはならないと認められ、また、共有設定したフォルダ内のファイルは常に共有状態となり(本件サービスのように、特定のソフトを起動しているときのみ共有状態になるものではない。)、かつ小規模かつ閉鎖的なネットワークでは違法な行為は発覚しやすいと利用者は考えるのが常識であるから、上記MP3ファイルの交換という利用が生ずる蓋然性の点で、両者を同一に論ずることはできない(甲第4号証の1)。さらに、特定のネットワークに属する者の間では、仕事等の文書ファイル等も交換されるものであり(同一組織に属することにより持たれる共通の知識等により適切な検索語を設定することが可能である。)、格別市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換だけ有利というわけでもない。
(エ) 電子掲示板やインターネットそのものについて、そこにおける名誉毀損や著作権侵害に該当する情報流通が、一定程度生じることがあるとしても、それが、具体的にどのような形で生じるかは不確定であり必ずしも把握は容易でないのに対し、本件サービスでは、類型的な著作権侵害行為が、具体的かつ現実的な蓋然性をもって生じるものであり、控訴人会社(本件サービスの提供者)は、サーバ管理者として、送受信可能化されているファイルのうちのMP3ファイルの中で、市販のCD等の複製に係るファイルはどれかを、ファイル名ないしフォルダ名から容易にかつかなりの確度をもって認識でき把握できるといえるから、それらと同一視することはできない。
オ 甲第4号証の1ないし4及び甲第16号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件サービスでは、拡張子と単一キーワードでAND検索をする機能があると認められる。これだけでも、有名なタイトル名及び実演家名をファイル名ないしフォルダ名に持つ、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの探索には充分である。
 また、本件サービスにおいてダミーファイルも送信可能化されていると推認できるとしても(乙第34号証ないし第36号証)、その数や送信可能化されるMP3ファイル全体に占める割合は不明であり、本件サービスが市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信にとって使い勝手のよいものであるとの認定を覆すものではない。
カ 本件サービスにより、適法なMP3ファイルの送受信がなされることもあり得ることはそのとおりであり、その割合が将来的には増えていく可能性を否定し得ないとしても、本件全証拠をもってしても、本件仮処分決定時までの本件サービスの利用実態が大きく変わる蓋然性があるとまでは認められない。そうである以上、本件仮処分決定時までの利用実態を基にした、本件サービスの性質(本件サービスが、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルという、特定の種類のファイルの交換をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を持つということ)についての前記認定が覆ることになるものではない。
 なお、本件差止主文は、後記のとおり、本件サービス自体の停止を不可避とするものではない。
キ 本件サービスの利用規約において、いわゆるノーティス・アンド・テイクダウン手続が定められているとしても、そもそもこれはあくまで侵害行為が発生した場合に事後的にこれをなくすものであって、予め防止するものではない(甲第10号証)。
 もっとも、この手続が存在すること及びそれを適切に適用し、事後的にしろ著作権侵害行為を排除していくことにより、結果的にそのような行為の発生が抑止されることはあり得る。しかし、後記ケにおいて認定するとおり、テレビ報道において控訴人Xは「我々はファイルを自由にやりとりできる、まあ場を提供しているだけでですね。ユーザーが、えーどう使うかっていうところまでは、まあ我々の責任外」と明言しており、しかも、控訴人会社は利用者の氏名・住所を申告させていないから、利用者の中には匿名性が保たれ自分の身元が容易には判明せず、民事上ないし刑事上の責任追及を受けないと考える者も少なからず存在するといえるのであって、ノーティス・アンド・テイクダウン手続の存在により、利用者が著作権侵害行為を差し控えるとは認められない。
 また、本件サービスのシステムでは、利用者は、本件クライアントソフトを起動することにより、好む時だけ控訴人会社サーバとの接続状態を形成するものであり、接続を断ってしまえば、その者が送受信の対象としていたファイル情報は検索データベースから除去されるため、個々の利用者が、どのようなファイルを送信可能化ないし自動公衆送信していたかを、控訴人会社サーバを管理していない第三者が把握することは、相当困難であると認められる。したがって、権利者が、ノーティス・アンド・テイクダウン手続を利用することも困難といえる。
 そうすると、本件サービスにおいて、ノーティス・アンド・テイクダウン手続は、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を防止する有効な手段とはいえず、これを講じたことをもって、そのようなMP3ファイルの送受信が少なくなり、本件サービスの性質についての前記認定を変えることになるとはいえない。
 なお、本件サービスの利用規約において、著作権、著作隣接権、名誉権、プライバシー権その他第三者の権利を侵害するファイルを送信可能な状態とすることを禁ずるとの記載があり、著作権侵害に該当するファイルの送受信をしないよう注意しているとしても、本件サービスの性質についての前記認定は左右されない。
ク 本件サービスの利用者のうち、送信可能化ないし自動公衆送信について、被控訴人らの許諾を得ていた者がいたのか、あるいはその割合がどれくらいのものかについて、控訴人らは具体的な主張・立証をしない。したがって、そのような者が、全員ではないにせよ相当割合いることを前提に、本件サービスの性質を論じることはできない。
 その他、本件サービスにおいて、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換を防止するに足る措置が講じられているとは認められず、本件サービスが、上記MP3ファイル送受信を可能にするためのサービスという性質を持つという前記認定を覆すに足りる事実は認められない。
ケ ところで、本件サービス開始前、アメリカにおいて、ハイブリット型のP2Pシステムを採用し、音楽著作物の電子ファイルの交換が行われることにより極めて多数の利用者を擁していた「ナップスター」(Napster)と呼ばれるファイル交換サービスが存在し、そのことは日本でも知られ、本件サービスはこのナップスターと同様のサービスを提供するものとして、その開始前後から話題になっていた(甲第12号証)。
 平成13年9月28日付の日経産業新聞(甲第2号証)において、「カナダでファイル無料交換サイト「ファイル・ローグ」を運営するITPソリューションズ(カルガリー)は十月中旬、日本でのサービスを開始する。・・・日本エム・エム・オー・・・と提携し、日本語による本格的なファイル交換サイトを立ち上げる計画だ。
 仕組みは音楽無料交換サイトの米ナップスターとほぼ同様。利用者はそれぞれが保有する音楽などのファイルをネットワーク内で共有し、自由に検索してダウンロードする。相手が持ってさえいれば、希望の楽曲を無料で入手する事が可能という。」との報道がされた。
 また、平成13年11月1日、本件サービスの開始についてテレビ報道があり、そこでは、「無料で新曲をゲット」、「日本の音楽業界を震撼させるサービスが始まりました。」、「人気アーチストの新曲などあらゆるCDの音楽を自宅にいながらにしてしかも無料で手に入れることが出来るというもので、早くも著作権を巡って論議を呼んでいます。」、「アメリカでは2年前ナップスターという会社が同じようなサービスを始めました、利用者はおよそ5000万人、1ヶ月になんと30億曲という音楽が自由に交換されました。」、「ナップスターと違いエム・エム・オー社のサービスは日本語、日本で爆発的に利用者が増えると見られています。サービスは今朝の9時からはじまりましたが、わずか6時間で2万曲もの音楽が登録されました。」との紹介がされた。また、控訴人Xも「少なくとも1年間で、まあ10万人くらいはいるでしょうね。まあ100万曲ぐらいは、あの交換されるじゃないかなと。」と述べ、さらに、本件サービスが著作権を侵害するものとして、これに対し法的措置を執らざるを得ないとの日本レコード協会のコメントに対し、「我々はファイルを自由にやりとりできる、まあ場を提供しているだけでですね。ユーザーが、えーどう使うかっていうところまでは、まあ我々の責任外」と述べている(なお、本件サービスの開始について、同じテレビ局がさらに二回放送し、市販のCDの複製に係るMP3ファイルが取得できるものとして紹介している。)(甲第11号証)。
 以上のような本件サービス開始前後の状況からすれば、多くの者が、本件サービスを市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換ができるものと認識して、そのように利用することは必定であり、前記認定に係る本件サービスの性質を、より強く示すものということができ、また、そのような事態となることは、控訴人会社においても十分予想していたものということができる。
(2) 管理性について
ア 前記2、3(1)の認定説示及び引用に係る原判決認定の本件サービスのシステム(中間判決39頁から40頁のaないしd、f及びg)からすれば(なお、上記gの事実については、控訴人会社サイトで本件サービスの利用方法を説明している以上、その程度や態様はともかく、何らかの形で利用者がその説明を参考にすることは、経験則に照らして明らかである。)、控訴人会社は、ファイルの交換に必要な機能を有する本件サービスを一体的に提供しており、本件サービスは、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信に適し、それを具体的かつ現実的な蓋然性をもって誘発するものであって、控訴人会社も本件サービスがそのように利用されることを予想していたものということができるから、控訴人会社としては、MP3ファイルに限っては、著作権を侵害するものを除去するよう監視し、必要な手段を講ずべき立場にあるというべきである(侵害の結果の発生を100パーセントは防止することができないとしても、部分的にせよ著作権を侵害するMP3ファイルの交換を阻止できるならば、そのような措置を講じるべきことは当然である。)。
 そして、カナダの会社を介しているにせよ、控訴人会社は、本件サービスにおいて送受信の対象とされているファイルの所在及び内容を把握でき、特定の利用者の利用自体を禁止する等の措置を講ずることができるといえるから、控訴人会社は、送受信の対象とされているファイルの内容を管理する権能を有していると認められる。
イ 控訴人らは、控訴人会社は本件サービスにおいて送受信の対象となるファイルを決定できないから、本件各レコードのMP3ファイルが送受信の対象となっても、被控訴人らに適切な利用許諾を求めることができず、被控訴人らの著作隣接権を侵害するMP3ファイルを排除することもできないから、管理性は否定されるべきであると主張する。
 本件サービスにおいて、クライアント機の共有フォルダに蔵置するMP3ファイルの数・種類を決定するのは個々の利用者であり、また、本件サーバに接続するか否かも個々の利用者が決定するものである。しかし、控訴人会社は、どの程度の数のMP3ファイルが同時送信可能化されているかは最大値や平均値等で把握可能であり(甲第4号証の1)、アクセスを制限するなどして同時送信可能化ファイルの最大数をコントロールすることもできるといえること、同時送信可能化されたMP3ファイルのうち本件各レコードの数がどの程度であるかは、ファイル名及びフォルダ名を基準にして、個別に把握することも、不作為抽出による推計で概数として把握することも可能であること、100パーセントではないにせよ、やはりファイル名及びフォルダ名を頼りに違法なMP3ファイルを除外することもできること(これが可能なことについて後記4参照)からすれば、控訴人会社は送受信の対象となるMP3ファイルの範囲を相当程度コントロールすることができるといえるのであり、その管理性を肯定することができる。なお、これが、送受信の対象とされるファイルの範囲を具体的に決定することができるという意味での管理ではないにしても、そのようなシステムを採用し、提供しているのは控訴人会社自身であり(控訴人会社は、このシステムが有する、多数ないし容量の大きいファイルの交換を、大容量の記憶装置を持たないサーバ等安価な装置と、比較的低速の回線で実現できるというメリットを享受している。)、上記のようなコントロールが可能である以上、送受信されるファイルを決定していないからといって、その管理性を否定することはできない。
ウ 控訴人らは、クラブキャッツアイ事件において示された判断の妥当性や、その本件への適用の誤りなどについて縷々主張するが、控訴人会社が侵害主体と認められることは、前記のとおりである。
 また、著作権法の解釈上、著作権の侵害主体は現実に著作物等の利用それ自体の物理的行為を行っている者に限定されるべきであるとはいえないし、これと異なる前提に立って憲法29条2項違反をいう控訴人らの主張は、その前提を欠き失当である。
エ 本件サービスにおいて、ファイル情報の取得、検索要求の受付と結果の回答、利用者間の直接のファイルの送受信の仲介が機械的かつ自動的に処理されるものであるとしても、そのことは、前記ア及びイで認定した、控訴人会社の管理性を否定するものではない。本件サービスのシステムが、そのような機械的な処理をするものであっても、なお控訴人会社は、手動を含めて、一定程度は送受信されるファイルの内容を把握し、コントロールでき、かつそのようにする責務を負っているのである。
(3) 控訴人会社の利益の存在について
 控訴人会社サイトにある広告バナーをみるのが、基本的に本件クライアントソフトをダウンロードするときだけであるとしても、それらが本件サービスの利用において不可欠である以上、本件サービスの提供に関し、控訴人会社は広告料という直接の利益を得ているといえるし、本件サービスが広告媒体としての価値を有しないともいえない。
 また、本件サービスにおいて、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信ができることはその利用者を吸引し増やす最も大きな力であり(なお、利用者が増えることと、本件サービスにより送受信されるMP3ファイルの数・種類が増えることは相互にプラスの効果を及ぼし合う、すなわち前者が増えると、MP3ファイルの数・種類が増え、そうなると、ますます本件サービスの魅力が増し利用者が増える。)、利用者が増えれば、将来的には、サービスの有料化ないし広告媒体としての活用等により、本件サービスの商業的価値を増すことは明らかである。
(4) 以上の点を総合考慮すれば、控訴人会社は、本件サービスによる本件各レコードの送信可能化権の侵害主体であると認めることができる。
4 【差止を命じた主文の誤り】について
(1) 被控訴人らの請求は、要するに、本件サービスにより、本件各レコードが送受信の対象とすることを差し止めるというものである。
 そして、本件差止主文が差止めの対象としているものもそれであって、本件差止主文が送受信の対象としてはならないとしている「MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル」が、本件各レコードの複製に係るもの以外のものまでを含む趣旨でないことは、前記引用に係る原判決の説示に照らしても明らかであり、本件差止主文が処分権主義に反するということはない。なお、控訴人会社主張のような誤解を避けるために、念のため、本件差止主文の趣旨をより明確にする趣旨で、主文第3項のとおり、本件差止主文の一部を訂正することとする。
(2) 控訴人会社は、本件差止主文を実行することは不可能であると主張する。
 しかし、本件サービスで検索の対象となるファイル名及びフォルダ名は、ほとんどの場合、タイトル名ないし実演家名だけから成り立つものと理解されるから(甲第4号証の2ないし4、甲第16号証及び甲第21号証)、例えばファイルの頭文字「宇」から始まるタイトル名及び実演家名に絞って(タイトル名及び実演家名を表記する漢字、ひらがな、片仮名及びアルファベットそれぞれについて逐一合致するか否かを判定するなどという処理をする必要はない。)、フィルタリングにより除外すべきものか否かの判断を繰り返す方法などを用いることにより、それ程の時間を要することなく(上記各証拠及び弁論の全趣旨)、本件差止主文で送受信の対象とされているファイルを判定することができるのであり、本件差止主文の実行が不可能であるということはないし、また、そのようなフィルタリングを通過したものを逐次データベースに加えて、受信者からの検索要求に応じることも可能なのであって、本件差止主文を実行するのに、本件サービス全体を停止せざるを得ないことにもならないのである。
5 【損害賠償を認めた判断の誤り】について
(1) 過失の有無について
ア 3で認定したとおり、本件と同じハイブリット型のP2Pシステムであるナップスターが極めて多数の利用者を擁し、そこでは市販の音楽著作物の交換がされており、そのことは日本でも周知となっていたものであり、本件サービスは、このナップスターと同一のシステムを採用するものとして、サービス開始の前後に新聞やテレビニュースで紹介されていたから、日本国内でこれを利用しようとするユーザーも、そのような利用(市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換)をするものと強く予測でき、現実にもそのような利用がされていたものである。
 控訴人らも、具体的な曲数やユーザー数はともかく、上記利用態様がなされることを予測していた(むしろこれを認容していたとも窺われる。)ものであり、このことは、3(1)ケで認定した控訴人Xの言動に加え、以下の事実から明らかである。
(ア) 控訴人Xは、本件サービスを開始する2か月あまり前の平成13年9月28日付日経産業新聞における、本件サービスの開始を紹介する記事において「完全な複製技術は技術革新がもたらした成果であり、人間社会の進化。それに伴って著作権制度も姿を変えていくべきだ」、「音楽家の権利は大切だが、コピーを防げない以上、コンテンツ業界は大量生産方式からコンサートなど生の製品で付加価値を生むビジネスモデルに移行すべき」、「旧来の著作権を巡る利権団体や企業への挑戦」と述べていた(甲第2号証、なお、控訴人Xは、甲第6号証(社団法人日本レコード協会に対する回答書)において、報道内容が正しいことを認めている。)。
(イ) 控訴人Xは、日経ビジネス2002年1月21日号において「日本へサービスを展開する際、グヌーテラ型ではなくナップスター型のサービスを選んだのも、中央サーバーがあって顧客を管理できるからだ。
 権利者はコピーを防ぐことにこだわるが、コピーを完全に防ぐことは難しい。・・・やはりコピーされて当たり前という前提でビジネスを考えるように頭を切り替えないとダメだ。」(甲第12号証)と語っている。
 したがって、控訴人らには、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルが送受信されることにより、被控訴人らの有する著作隣接権が侵害されることの予見可能性が十分にあったと認められる。
イ 前記のとおり、本件サービスの利用規約においてノーティス・アンド・テイクダウンの手続が定められており、また、著作権を侵害するファイルの送受信を禁じる旨の注意が記載されているとしても、これは実効性のあるものではなく、それら手続の定めないし注意の記載をもって、結果回避義務を尽くしたとするに足りないことは当然である。
 なお、ISP等が利用者の身元確認をしていないとしても、本件サービスはそれらと異なり、その性質上無許可の市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を有するものであり、控訴人会社はそのような違法な利用実態の発生を容易に予見できたといえるのであって、そのようなサービスを提供する控訴人会社が、より高度の結果回避義務を課されるのは当然である。
(2) プロバイダ責任制限法の免責規定の適用について
ア 前記のとおり、本件サービスは、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を惹起させるものであって、控訴人会社はそのことを十分予測していたのみならず、その代表者である控訴人Xは、それを勧めるかのような発言もしていること、控訴人会社は本件サービスにより直接ないし間接の利益を得ていることなどからみても、控訴人会社は、市販のCD等の複製に係るMP3ファイルを流通過程に置くことに積極的に関わっている者であり、発信者に該当することを免れるものとはいえない。
 控訴人会社が個別にどのような内容のMP3ファイルが送受信されているか認識していなかったとしても、そのことは、上記判断を左右することになるものではない。
イ プロバイダ責任制限法の発信者が、その者に係る情報開示請求の対象となる者であり、この点で関係役務提供者と異なるとしても、同法の免責規定は、関係役務提供者も発信者となることを前提にしているものであり、その場合関係役務提供者が発信者情報開示請求の対象とならないことは当然である。発信者情報開示請求の対象とならないことをもって、発信者となり得ないとはいえない。
ウ プロバイダ責任制限法は、その2条2号で「特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備・・・」と規定し、同条4号で「発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体・・・」と定義している。
 これからは、特定電気通信設備と記録媒体は別のものであることが明らかであるとともに、記録媒体が特定電気通信設備の一部であり得ることもまた明らかである。そうすると、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった控訴人会社サーバが、記録媒体といえることも明らかである。
(3) 損害額について
ア 控訴人らは、本件サービスにより送信可能化されたファイルが1か月に約90.9回自動公衆送信されるとするのは過大であると主張する。
 しかし、1曲1か月約90.9回の自動公衆送信というのは、前記引用に係る原判決の認定説示のとおり、本件使用料規程で定められている自動公衆送信数を基準とすることができない場合の使用料が、そのような想定回数を基に算定されたものであるということであって、現実にそれだけの送信回数があることを意味するものではない。上記規程は、実際の送信回数が上記想定回数より多くても少なくても、自動公衆送信数を把握していない場合の使用料をそのように設定するということであり、そのような使用料設定の方法が特段不合理といえないことは、前記引用に係る原判決説示のとおりであるから、本件においては、上記規程による使用料の設定などを参酌して、被控訴人らの受けるべき月間使用料相当額を認定するのが相当である。
 ちなみに、米国における音楽配信サービスにおける1曲当たりのダウンロード利用料金110円を基準に、仮に必要経費率を35%(控訴人らは、1ダウンロード当たりの料金を115円と仮定して、それから必要経費を控除して得られる適正な音楽配信サービスの限界利益を求めると約78円となると主張している。)として計算すると、2000÷(110円×(1−0.35))≒27.97となり、月間27.97回以上ダウンロードがされれば、被控訴人らが得られる利益は2000円を超えることになるし、また、平成15年8月当時ではあるが、音楽配信サービスにおいて1曲税込み200円ないし350円の価格のものがあり、その最多価格は210円であるから(乙第31号証。なお、この価格は、本件サービスが運営されていた当時のものではないが、その1年数か月後のものであり、本件侵害行為当時の音楽配信サービスの価格としても、あながち妥当しないものとはいえない。)、この最多価格210円を基準に上記と同様に計算すると、月間14.65回以上ダウンロードがされれば、被控訴人らが得られる利益は2000円を超えることになるのであって、被控訴人らの受けるべき月額使用料相当額2000円は、1か月約90.9回の自動公衆送信がされることを前提としたものでないことはいうまでもない。
 したがって、控訴人らの上記主張は失当であり、本件において、被控訴人らが受けるべき送信可能化1ファイル当たりの月額使用料相当額は、控え目に見積もっても、被控訴人ら主張に係る2000円を下るものではないと認められる。
イ ハイブリット型P2Pシステムの長所の一つは、サーバがファイル情報だけを持ちファイルそのものを持たないため、アクセスがサーバに集中しないこと、換言すると、ファイルの交換が個別のクライアント機同士で行われ、ファイルを持つコンピュータが特定の、少数のものに限定されない、ということである。そして、本件サービスのシステムも、受信者の出した検索条件に合致するファイルを複数提示し、受信者はそのうちのどれを選択して受信するのも自由である(甲第4号証の2ないし4、第16号証、第21号証)。すなわち、同一の楽曲に係るものであっても、その電子ファイル数が多いほど、送信可能化の数が増し、その結果、円滑にファイルの送受信ができるという、本件サービスの長所がまさに生かされることになる。したがって、電子ファイル数を基準にして損害額を考慮することは当然である。
 なお、控訴人らは、被控訴人らとNMRCとの協議の結果に言及して、楽曲数を基準にすべきであると主張する。しかし、同じ楽曲名・実演家名であっても、同一の内容であるとは限らないし、また、仮に全く同一の楽曲であっても、MP3ファイルの音質は様々であるから(エンコードする際のビットレートが広範囲に渡ることは公知の事実である。)、上記協議の結果を斟酌しても、ファイル数を基準に考えるべきであるとする結論は変わらない。
 また、同じ楽曲に係るものであっても、様々な音質、サイズのMP3ファイルが存在し得るものであるから、利用者がより高音質のファイルを求めたり、あるいは再生に用いる機器の記憶容量に適した小さめのサイズのファイルを求めたりすることもあるということができ、あるユーザーが特定の楽曲のMP3ファイルを取得したからといって、それ以後、同一の楽曲に係るMP3ファイルの受信をしなくなるとは必ずしもいえない。
6 【適用法規の誤り】について
 控訴人会社は日本法人であり、控訴人会社サイトは日本語で記述され、本件クライアントソフトも日本語で記述されていることからは、本件サービスによるファイルの送受信のほとんど大部分は日本国内で行われていると認められる。控訴人会社サーバがカナダに存在するとしても、本件サービスに関するその稼動・停止等は控訴人会社が決定できるものである(乙第8号証1頁)。以上からすると、控訴人会社サーバが日本国内にはないとしても、本件サービスにおける著作権侵害行為は、実質的に日本国内で行われたものということができる。そして、被侵害権利も日本の著作権法に基づくものである。
 上記の事実からすれば、本件においては、条理(差止請求の関係)ないし法例11条1項(不法行為の関係)により、日本法が適用されるものというべきである。
7 結論
 以上のとおりであるから、原判決は相当であって、控訴人らの控訴はいずれも理由がない。よって、本件各控訴を棄却することとし、原判決主文第1項の「MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル」の次に「(同レコード目録記載の音楽著作物の複製に係るもの以外のものを除く。)」を加える旨訂正するとともに、脱退被控訴人の脱退及び訴訟引受人の訴訟引受に基づいて、原判決が脱退被控訴人に対してなすべき旨を命じた金員の支払は、控訴人らから新当事者である訴訟引受人に対してなされるべきものとなったから、原判決主文第2項のうち、脱退被控訴人に関する部分について、その旨変更することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法67条1項、61条、65条1項を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所知的財産第3部
 裁判長裁判官 佐藤久夫
 裁判官 設樂隆一
 裁判官 高瀬順久


(別紙)当事者目録
控訴人 有限会社日本エム・エム・オー
控訴人 X
控訴人ら訴訟代理人弁護士 小倉秀夫
被控訴人 コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社
被控訴人 ビクターエンタテインメント株式会社
被控訴人 キングレコード株式会社
被控訴人 株式会社テイチクエンタテインメント
被控訴人 ユニバーサルミュージック株式会社
被控訴人 東芝イーエムアイ株式会社
被控訴人 日本クラウン株式会社
被控訴人 株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ
被控訴人 株式会社エピックレコードジャパン
被控訴人 株式会社ポニーキャニオン
被控訴人ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社訴訟引受人 株式会社ワーナーミュージック・ジャパン
被控訴人 株式会社フォーライフミュージックエンタテイメント
被控訴人 株式会社バップ
被控訴人 株式会社ビーエムジーファンハウス
被控訴人 ジェネオンエンタテインメント株式会社
被控訴人 株式会社バーミリオンレコード
被控訴人 エイベックス株式会社
被控訴人 株式会社プライエイド・レコーズ
被控訴人 株式会社トライエム
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 石田英遠
同 前田哲男
同 城山康文
同 中川達也
脱退被控訴人 ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 市村直也
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/