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【事件名】レストランのピアノ演奏事件 【年月日】平成19年1月30日 大阪地裁 平成17年(ワ)第10324号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成18年11月16日) 判決 原告 社団法人日本音楽著作権協会 訴訟代理人弁護士 田中豊 同 北本修二 同 七堂眞紀 被告 A 訴訟代理人弁護士 豊田泰史 主文 1 被告は、和歌山市所在の「レストランカフェデサフィナード」において、別添楽曲リスト(平成4年8月1日発行のもの1冊及び平成17年10月20日発行のもの1冊)記載の音楽著作物を、「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏について、次の方法により営業のため使用してはならない。 (1) 楽器奏者によるピアノ、ウッドベース、ドラムセット、パーカッション、ギター、ベース等の楽器演奏をさせる方法 (2) 歌手をして歌唱させる方法 2 被告は、前項の「レストランカフェデサフィナード」から、ピアノを撤去せよ。 3 被告は、第1項の「レストランカフェデサフィナード」に「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏においては、ピアノその他の楽器類を搬入してはならない。 4 被告は、原告に対し、191万6318円及び別紙利息・遅延損害金目録の元本欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各年月日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告の被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用はこれを5分し、その4を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 7 この判決は、第4項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、和歌山市所在の「レストランカフェデサフィナード」(以下「本件店舗」という。)において、別添楽曲リスト2冊(平成4年8月1日発行及び平成17年10月20日発行)記載の音楽著作物を、次の方法により営業のため使用してはならない(「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏、披露宴・その二次会・ピアノ発表会・各種パーティ等の「貸切営業」における客による演奏のいずれをも含む。)。 (1) ピアノ、ウッドベース、ドラムセット、パーカッション、ギター、ベース等による楽器演奏 (2) 歌唱 2 被告は、前項の「レストランカフェデサフィナード」から、別紙物件目録記載の物件を撤去せよ。 3 被告は、第1項の「レストランカフェデサフィナード」にピアノその他の楽器類及びマイク等の音響装置を搬入してはならない。 4 被告は、原告に対し、256万2308円、及び別紙遅延損害金目録の元本欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各年月日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、被告が、その経営する本件店舗において、歌手、楽器奏者及び客をして、歌唱と楽器演奏により、原告が著作権を管理する別添楽曲リスト(平成4年8月1日発行のもの1冊及び平成17年10月20日発行のもの1冊)記載の音楽著作物(以下「管理著作物」という。)の演奏をさせ、これを来店した不特定多数の客に聴かせているところ、原告は、被告の上記演奏行為は原告の管理著作物の著作権(演奏権)を侵害するものであると主張して、被告に対し、管理著作物に対する著作権(演奏権)に基づき、本件店舗における管理著作物の使用(演奏)の差止め、その演奏に利用される別紙物件目録記載の楽器及び音響装置の本件店舗からの撤去と、本件店舗への楽器及び音響装置の搬入の禁止を求めるとともに、主位的に、上記著作権(演奏権)侵害による不法行為に基づき、管理著作物の使用料相当額及び弁護士費用の損害賠償(不法行為の後の日である別紙遅延損害金目録記載の各起算日以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求め、予備的に、管理著作物の使用料相当額の不当利得の返還(不当利得の後の日である別紙遅延損害金目録記載の各起算日以降の悪意の受益者に対する利息支払請求を含む。)を求めた事案である。 これに対し、被告は、請求の趣旨第1項の請求が特定を欠く不適法なものであるとして訴え却下の判決を求めるとともに、後記のとおり主張して請求棄却の判決を求めている。 1 前提となる事実(末尾に証拠の掲記のない事実は、争いのない事実である。) (1) 原告 原告は、「著作権等管理事業法」(平成12年法律第131号)に基づき、文化庁長官の登録を受けた音楽著作権等管理事業者(ただし、平成13年9月30日までは「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号)に基づき、著作権に関する仲介業務をなすことの許可を受けた国内唯一の音楽著作権仲介団体)、であり、内国著作物については管理委託契約により国内の多くの音楽の著作物の著作権者からその著作権又は支分権(演奏権、録音権、上映権等)につき信託を受け、外国の著作物については、本邦が締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約によるなどしてこれを管理し、国内の放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場及び有線放送等各種の分野における音楽の著作物の利用者に対して、その利用を許諾し、その対価として利用者から著作物使用料を徴収し、これを内外国の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。 (2) 管理著作物 管理著作物は、いずれも、原告が各著作権者から著作権の信託を受けて著作権を管理しており、これらは、レストラン・カフェ等の飲食店において演奏・歌唱された利用実績を有する主要な曲目であり、日常的に反復使用されている楽曲である(甲1ないし4、18、19、37ないし40、弁論の全趣旨)。 (3) 被告 被告は、平成13年5月30日以降、肩書地において、本件店舗を経営している。被告は平成17年9月5日に定年退官するまで航空自衛隊に勤務していたが、その後は被告自身が本件店舗において接客にも当たっている(被告本人)。 (4) 本件店舗における演奏等 ア 本件店舗の1階には、客席及び演奏ステージが、2階には客席及び音響装置や照明装置が配置され、これらの装置を操作する部屋が設けられている。本件店舗内には、ピアノ、ウッドベース、ドラムセット、ギター、パーカッション、ベース等の楽器及びマイク、アンプ、ミキサー等の音響装置が設置されている(甲5の1、14の3・6、弁論の全趣旨)。 イ 被告は、平成13年5月30日の開店後、平成17年2月末日までの間、本件店舗の営業時間中にピアノリクエスト、ピアノBGM、ピアノ弾き語りなどの備え付けのピアノによる演奏(以下、「ピアノ演奏」と総称することもある。)や、ライブを開催して(ただし、被告以外の者が主催する場合に被告が管理著作物の利用主体であるかは、後記のとおり争いがある。)歌手及び楽器奏者を出演させ、マイク、アンプ、ミキサー等の音響装置を用いて、歌唱や、備え付けの楽器又は楽器奏者が持ち込む楽器による演奏を行わせ、あるいは結婚披露宴の二次会やパーティーのための貸切営業を行う際に、来店した客に対し、歌唱や備え付けの楽器又は楽器奏者が持ち込む楽器による演奏を行わせている(ただし、常に来店した不特定多数の客に聴かせているかについては、後記のとおり争いがある。)。 ウ 被告は、本件店舗における管理著作物の利用について、原告の許諾を受けていない(弁論の全趣旨)。 (5) 仮処分手続等の経緯 ア 仮処分決定 原告は、被告が、その経営する本件店舗において、歌手及び楽器奏者を出演させて、歌唱とピアノ等の楽器の生演奏により管理著作物の演奏を行わせ、客に聴かせて管理著作物を利用する行為が、管理著作物の著作権(演奏権)を侵害するとして、同著作権(演奏権)に基づき、管理著作物の使用の差止めと本件店舗における管理著作物の演奏の差止め及び本件店舗に設置されたピアノ、ウッドベース、ドラムセット、ギター、ベース、ミキサー、アンプ、マイクの執行官保管の仮処分を大阪地方裁判所に申し立てた(同裁判所平成16年(ヨ)第20036号著作権侵害差止等仮処分命令申立事件。以下「本件仮処分事件」という。)。同裁判所は、平成17年4月6日、原告に被告のため300万円を供託させる方法による担保を立てさせた上で、@本件店舗における管理著作物の使用の差止め(ただし、ピアノ演奏及びライブ演奏の差止めを命じる趣旨であり、貸切営業において客等が行う演奏を除くものである。)、A本件店舗に設置されたピアノ、ミキサー、アンプ、マイクの執行官保管を命ずる旨の仮処分決定を行った(甲20。以下「本件仮処分決定」という。)。 イ 仮処分異議決定 被告は、平成17年4月16日、大阪地方裁判所に対して保全異議を申し立てた(同裁判所平成17年(モ)第59015号保全異議申立事件。)。同裁判所は、同月25日、同異議申立てについて、本件仮処分決定を変更し、@本件店舗における管理著作物の演奏の差止め(ただし、ピアノ演奏及びライブ演奏を差止めを命じる趣旨であり、貸切営業において来店客等が行う演奏を除くものである。)、A本件仮処分決定と同じ物件の執行官保管、B本件店舗において行われる結婚披露宴等の開催時間中及びその準備のために必要な時間中に限り、Aの物件の使用を許さなければならない旨の保全異議決定を行った(甲21。以下「本件保全異議決定」という。)。 ウ 保全抗告決定 被告は、平成17年4月30日、大阪高等裁判所に対して保全抗告を申し立てた(平成17年(ラ)第559号仮処分変更決定に対する保全抗告事件)。同裁判所は、平成17年9月1日、本件保全異議決定及び本件仮処分決定を取り消し、原告の本件仮処分命令申立事件における仮処分命令の申立てを却下するとの決定をした(以下「本件保全抗告決定」という。)。その理由は、被告は従前演奏権侵害行為を行ってきたが、本件が本案判決によって解決するまで、原告の利用許諾がない限り、本件店舗において営利目的で管理著作物の演奏を一切しないとの意思が客観的に担保される措置が講じられていると認められるから、今後管理著作物の演奏権侵害のおそれがあるとの疎明がなく、したがって、保全の必要性もない、というものであった(甲22)。 エ 仮処分執行 大阪地方裁判所執行官は、平成17年4月15日、本件仮処分決定中の執行官保管の執行を行ったが、その後、本件保全抗告決定を受けて、同執行は取り消された(弁論の全趣旨)。 2 争点 (1) 請求の特定の有無(争点1) (2) 著作権(演奏権)侵害の有無 ア 本件店舗における演奏の態様、状況(争点2) イ 被告は本件店舗で演奏される管理著作物の利用主体か否か。(争点3) ウ 本件店舗における演奏に著作権法38条1項が適用されるか否か。(争点4) (3) 差止めの必要性(争点5) (4) 損害額又は不当利得額(争点6) (5) 消滅時効の成否(争点7) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(請求の特定の有無)について 【被告の主張】 本件訴えの請求の趣旨第1項は、被告のいかなる行為をどの範囲まで制限しようというのか明確でなく、請求が不特定であり、訴えとして不適法である。すなわち、原告は、本件店舗の営業時間中は、それがいかなる形態の楽器演奏や歌唱であれ演奏主体が被告本人であって、本件店舗での管理著作物の使用が一切禁じられるかのような主張をしているが、同請求の趣旨には営業中と営業外の区別もなく、また、本件店舗の営業の中には結婚披露宴の二次会や学生の演奏会その他「貸切営業」という営業形態があるが、その区別さえなされていない。このような不特定な請求をもって個人の重要な表現の自由を制限することは相当でない。よって、本件訴えは却下されるべきである。 【原告の主張】 争う。 2 争点2(本件店舗における演奏の態様、状況)について 【原告の主張】 (1) 演奏日数等 ア 平成13年5月30日、同月31日、同年6月1日、同月2日、同年11月30日、同年12月8日及び同月22日 上記営業日に、本件店舗においてライブが開催された。 イ 平成14年1月 (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 6日 なお、上記のように演奏回数を特定したのは、被告が本件仮処分事件で提出した陳述書(平成16年12月7日付け)の記載に基づくものである。 (イ) ライブ1日 ウ 平成14年2月から平成14年10月まで (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 1か月当たり12日 なお、上記のように演奏日数を特定したのは、被告が原告大阪支部に送付した書簡(甲28)において、平成14年から週3回から4回の頻度でミュージシャンに演奏場所として本件店舗を提供していたと回答しているので、その少ない方の週3回、月間12日としたことによる。 (イ) ライブ 1か月当たり1日 平成14年1月から平成17年1月まで、1か月当たり平均1回以上のライブが開催されている。このことは、地元のタウン情報誌「アガサス」(以下「アガサス誌」という。)や本件店舗の予定表より明らかである。 エ 平成14年11月から平成15年9月まで (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 1か月当たり12日 なお、上記のように演奏日数を特定したのはアガサス誌の記事に基づく。 (イ) ピアノリクエスト 1か月当たり8日 なお、上記のようにピアノリクエストの演奏開始時期を平成14年11月と特定したのは、被告が本件仮処分手続において提出した陳述書で、「平成14年10月14(日)以前は全く実施していない」と主張し平成14年10月15日以降に実施したことについては争わなかったことによる。 また、1か月当たりの演奏回数は、アガサス誌の記事に基づいて特定した。 (ウ) ライブ 1か月当たり1日 オ 平成15年10月から平成17年1月まで (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 1か月当たり21日 なお、上記のように演奏日数を特定したのは、アガサス誌の記事及び本件店舗の予定表に基づく。 (イ) ピアノリクエスト 1か月当たり8日 (ウ) ライブ 1か月当たり1日 カ 平成17年2月 (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 21日 (イ) ピアノリクエスト 7日 (ウ) ライブ 2日 キ 平成17年3月 (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 20日 (イ) ライブ 3日 なお、上記演奏日数は、本件店舗の平成17年3月予定表によって特定した。なお、同予定表では、「ピアノリクエスト」が行われることになっているが、被告はこれを中止したというので、これを除外した。 ク 平成17年4月1日から同月14日まで (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 7日 (イ) ライブ 1日 なお、同月15日、本件店舗内の楽器、音響装置に対し、執行官保管の仮処分が執行されたので、同日以後、本件店舗の平成17年4月予定表記載の演奏はされなかったものとして演奏日数を特定した。 ケ 平成17年5月31日 同日の演奏は「P1ライブ」であり、原告の実態調査によって18曲の利用を確認している。 コ 平成17年7月31日 同日の演奏は「万葉ジャズフェスタ前夜祭」であり、原告の実態調査により10曲分の利用を確認している。 なお、被告は「万葉ジャズフェスタ前夜祭」の主催者である「和歌之浦ルネサンス実行委員会万葉ジャズフェスタプロジェクトチーム」が原告から管理著作物の演奏許諾を得て行われたと主張するが、同団体が管理著作物の利用許諾を得た事実はない。 サ 平成17年9月19日 同日の演奏は「アフタヌーンライブ」であり、原告の実態調査により11曲の利用を確認している。 シ 平成18年4月29日 同日は、本件店舗において結婚披露宴の二次会が開催され、管理著作物が2曲演奏された。 ス 平成18年6月17日 同日は、本件店舗において「P2 HOMETOWN LIVE [」が行われ、管理著作物が22曲演奏された。 セ 平成18年6月18日 同日は、本件店舗において「サッカーワールドカップ第2回観戦会」が行われ、管理著作物が1曲演奏された。 ソ 平成18年6月23日 同日は、本件店舗においてバンド発表会が行われ、管理著作物が18曲演奏された。 タ 平成18年7月1日 同日は、本件店舗においてピアノ教室発表会が行われ、管理著作物が8曲演奏された。 チ 平成18年7月16日 同日は、本件店舗において結婚披露宴の二次会が行われ、管理著作物が6曲演奏された。 (2 ) 各演奏態様における演奏日数1日当たりの演奏曲数 本件店舗における演奏態様のうち、ピアノ弾き語り・ピアノBGMにおける管理著作物の演奏曲数は、いずれも1日平均15曲を下らず、ピアノリクエストにおける管理著作物の演奏曲数は1日平均20曲を下らない。また、ライブにおける管理著作物の演奏曲数は1日平均10曲を下らない。 【被告の主張】 (1) 演奏日数等 ア 平成13年5月30日、同月31日、同年6月1日、同月2日、同年11月30日、同年12月8日及び同月22日 上記年月日に本件店舗でライブが開催されたことは認める。ただし、後述のとおり管理著作物の演奏曲数については争う。 イ 平成14年1月 (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 本件店舗においてピアノBGMが定期的に行われるようになったのは、P3がスタッフとして入った平成15年10月以降のことである。また、平成15年10月以降も多くて週に4日位であった。 原告は、被告が本件仮処分事件で提出した平成16年12月7日付け陳述書(乙6)の記載を根拠に演奏日数を特定したと主張するが、これは、被告が原告の主張するような違法行為はしていないという意味で記載したものであるし「月、 間6回前後」という記述はあるが、管理著作物を演奏していたとは一言も述べていない。なお、このころ本件店舗でピアノの練習をしていたのはP4であり、同人が弾いていたのはクラシック曲であって管理著作物ではなかった。 (イ) ライブ 原告が本件店舗において平成14年1月26日にライブが開催された根拠とする資料はアガサス誌(甲29)のみであるが、同じページに平成13年12月23日のライブの記載があるにもかかわらず、同ライブは除外されている。これは、本件店舗で開催されるライブにおいて、必ずしも管理著作物が演奏されてはいないことを原告自らが認めていることを示すものである。 ウ 平成14年2月から同年10月まで (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 原告は、被告の書簡(甲28)を根拠に、上記期間の演奏日数を特定しているが、被告が同書簡で述べているのは、あくまでも地元ミュージシャンにオリジナル曲の練習場所として場所を提供してきたことであって、管理著作物を演奏していたということは一言も述べられていない。 当時の演奏者はP4やP5らであって、同人らはクラシック曲を演奏していたのであり、管理著作物を演奏していたのではないことを述べているにすぎない。 (イ) ライブ 原告は、上記期間にライブが月1回開催されていたと主張するが、その根拠であるアガサス誌平成14年2月号(甲30)には、「JAZZNIGHT」と「サルサパーティー」の予告が記載されているにすぎず、この期間に月平均1回以上のライブが開催されていたという証拠にはならない。また、管理著作物が演奏されていたという証拠もない。 エ 平成14年11月から平成15年9月まで (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM 原告が上記期間にピアノ弾き語り及びピアノBGMが月間12日行われたと主張する根拠は、アガサス誌平成15年5月号(甲31)の記事のみであり、その他の時期にピアノの演奏が行われた根拠とはならない。 本件店舗においてピアノBGMが定期的に行われるようになったのは、P3がスタッフとして入った平成15年10月以降のことである。 (イ) ピアノリクエスト ピアノリクエストに関しては、P6が自己の楽しみとして始めたものであり、レストランにいる人からリクエストを受けてその場でピアノ演奏をするというものであったが、P6が本件店舗においてピアノを弾き始めたのは平成15年4月末ごろからである。当初はたまに来て弾く程度で、火曜日と木曜日の午後の演奏という形になったのは平成15年10月以降のことである。 (ウ) ライブ ライブに至っては、月に1回開催されていたとの証拠さえ示されていない。 オ 平成15年10月から平成17年1月まで (ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM ピアノ弾き語りをしていたのは本件店舗のスタッフであるP3であるが、もともと同人はオリジナルソングのピアノ弾き語りをしていた者であり、本件店舗でのスタッフの仕事を終えてから、練習として弾いていたにすぎない。 さらに、P5のピアノ演奏は即興のオリジナル曲であり、P4のピアノ演奏はクラシック曲が中心で管理著作物は弾いていない。 したがって、管理著作物を弾かないP5とP4を除くと、上記期間になされたピアノ弾き語り及びピアノBGMは、多くても1か月に12、13日程度にすぎない。 (イ) ピアノリクエスト ピアノリクエストが月に8日行われていたとの主張は否認する。ピアノリクエストを行っていたのはP6であり、同人は個人的趣味として本件店舗でピアノを弾いていたにすぎず、被告から依頼したものではない。演奏する、しないもP6の自由であり、多くても月に5日程度のものであった。 (ウ) ライブ 管理著作物が演奏されるライブが月1日行われていたとの主張は否認する。本件店舗ではプロやアマチュアのバンドによるライブも行われてきた。当初は年3、4回程度であったが、平成15年10月ころから月に1回位の割合で開催するようになった。しかし、このうち管理著作物の演奏されるライブというのは半分の年間6回程度にすぎず、半分はオリジナル曲のライブであった。 カ 平成17年2月 原告主張の演奏日に、管理著作物が演奏されたことは否認する。その理由は、上記オと同じである。 キ 平成17年3月 被告は、本件仮処分事件の平成17年2月23日の審尋期日において、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗でのピアノ演奏等において管理著作物は一切演奏しないとの方針を表明した。そのため被告は、@店内に管理著作物の演奏をしない旨掲示し、Aその趣旨をマネージャーにも徹底し、Bインターネットを検索して管理著作物以外の楽曲を抽出したリストを作成し、これをピアノ演奏者に交付してこの範囲内で選曲するように求め(その結果、リクエスト演奏を楽しんでいたP6は、本件店舗におけるピアノ演奏を断念した。)、C平成17年3月1日以降は、ピアノ演奏者から毎日その日の演奏曲目の一覧を提出させる等の措置をとった。ただし、貸切営業は継続している。 ク 平成17年4月1日から同月14日まで 上記キと同様の理由により、原告の主張は否認する。 ケ 平成17年5月31日 同日の演奏は、原告がP1側からの管理著作物の演奏許諾を違法に拒否したため、ライブは中止となり、その代わりに被告が友人たちを集め「P1を囲む会」を催したものである。 コ 平成17年7月31日 同日行われた「万葉ジャズフェスタ前夜祭」は、「和歌之浦ルネサンス実行委員会万葉ジャズフェスタプロジェクトチーム」が主催したものであり、同団体が原告から管理著作物の演奏許諾を得て行われたので、被告としては何らの違法行為も行っていない。いずれにしても、これは被告が主催したものではなく、被告とは関係がない。 サ 平成17年9月19日 同日行われた「アフタヌーンライブ」は、P7が主催したものであり、被告とは関係がない。同人は、事前に被告と当日は管理著作物を演奏しないとの協議を行って演奏したもので、いずれもパブリックドメインの曲ばかりであり、管理著作物は演奏されていない。 シ 平成18年4月29日 否認する。 また、結婚披露宴の二次会でのこのような演奏は、非営利行為である。 ス 平成18年6月17日 否認する。同日、本件店舗で行われたのは、仲間内でのパーティである。ライブ開催の申込みがあったが、被告代理人が一旦断ったところ、申込者から「予定していたライブは中止し、仲間内のパーティにするので会場を貸してもらいたい。」との申入れがあったので、被告代理人が会場貸しを了承したものである。 なお、甲第55号証のウェブサイトは、当初予定していたライブのものであって、実際には開かれていない。 セ 平成18年6月18日 否認する。同日、本件店舗で行われた「サッカーワールドカップ第2回観戦会」も、本件店舗の通常営業時間外に会場を貸しただけであり、被告は管理著作物の利用主体ではない。また、この観戦会での演奏といってもサッカーを応援する人たちが君が代斉唱の前に盛り上がって何かの曲を歌ったようなもので、それ自体非営利行為であり、原告が関与すべき筋合いのものではない。 ソ 平成18年6月23日 否認する。同日、本件店舗で行われたのは、和歌山県立医科大学の音楽研究部の学生によるバンド発表会であって、被告は本件店舗を会場として貸しただけである。 このバンド演奏も非営利行為であって、原告が関与すべき筋合いのものではない。 タ 平成18年7月1日 否認する。同日、本件店舗で行われたのはピアノ教室の発表会であり、被告は本件店舗を会場として貸しただけである。 チ 平成18年7月16日 否認する。被告は、同日、本件店舗を結婚披露宴の二次会の会場として貸しただけである。 (2) 各演奏態様における管理著作物の演奏曲数 ア ピアノ弾き語り・ピアノBGMにおける演奏曲数 前述のとおり、P4やP5が演奏していたのはクラシック曲であり、管理著作物ではない。また、P3が演奏していたのはオリジナル曲であり、管理著作物ではない。 イ ピアノリクエストにおける演奏曲数 ピアノリクエストについては、本件店舗の客からのリクエストも少なく、1日当たり10曲程度演奏し、そのうち管理著作物は5曲程度のものであった。 ウ ライブにおける演奏曲数 ライブといってもオリジナル曲が大半を占め、管理著作物の演奏されないライブもある。原告が、アガサス誌に掲載されていながら、ライブ演奏回数に含ませていないライブがあることは、原告も管理著作物が演奏されないライブがあることを自認することを示す。原告がライブの演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数を平均10曲とする根拠は、甲第9号証1及び2の調査報告書であるが、これは当該ライブにおいて、1ステージ45分の2ステージ(90分)全部で12曲が演奏され、そのうちたまたま10曲が管理著作物であったというだけである。ライブによって演奏時間も異なるのであるから、これをもって1日当たり平均10曲の管理著作物が演奏された根拠とすることはできない。 現に、平成13年5月30日、同月31日、同年6月1日、同月2日の4日間に行われたオープニング演奏会は、1回30分のステージが1日2回行われ、オリジナル曲だけで構成されており、管理著作物は一切演奏されなかった。演奏時間からみても、甲第9号証の1及び2は、上記演奏会において、10曲の管理著作物が演奏された根拠とはならない。その他のライブについては、せいぜいアガサス誌の記事が証拠として提出されているのみであり、それぞれのライブにおいて各10曲の管理著作物が演奏されたことを示す証拠は何もない。 エ 平成17年3月以降の演奏曲目について 前記(1)キのとおり、被告は、平成17年3月以降、ピアノ弾き語り・ピアノBGM、ライブにおいて管理著作物は演奏していない。P6によるピアノリクエストも行われていない。 3 争点3(被告は本件店舗で演奏される管理著作物の利用主体か否か。)について 【原告の主張】 以下に述べるすべての生演奏は、本件店舗の重要な営業政策として被告によって取り入れられたものである。被告は、生演奏を利用して店の雰囲気を醸成し、そのような雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図してきた。生演奏は、本件店舗の営業上不可欠の要素となっており、この点は、開店以来一貫していて、何ら変わりはない。 (1) ピアノ演奏(ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM)について 本件店舗においては、営業時間中、スタッフにより周期的にピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGMが行われ、定休日である毎週水曜日を除いて連日、生演奏が行われている。これらのピアノ演奏において演奏される楽曲は、いわゆるスタンダードナンバーであり、そのほとんどが管理著作物である。スタッフのほとんどはプロの演奏者である。ピアノリクエストでは、客にリクエスト用紙を配り、客からリクエストを受けてリクエスト曲がその場でピアノ演奏される。 以上のとおり、ピアノ演奏が被告の管理下に行われており、かつ被告にそれによる営業上の利益が帰属していることが明らかである。 (2) ライブにおける演奏について 被告は、スケジュール・出演者等についての企画を立て、外部からプロの演奏者を招聘し、1か月に1回程度、定期的に「ライブ」と称する催物を開催しており、これを本件店舗の営業形態の一部としている。被告は、ライブの日程を本件店舗のちらしやアガサス誌等に掲載し、宣伝している。被告は、ライブにつき、客から飲食代金に加えてライブチャージの支払を受けている。 以上のとおり、ライブにおける演奏が被告の管理の下に行われており、かつ被告にそれによる営業上の利益が帰属していることが明らかである。 (3) 貸切営業における演奏について ア 被告は、本件店舗で結婚披露宴やその二次会、演奏会、ピアノ発表会、各種パーティ等のための「貸切営業」を行っているが、その際、被告の顧客又は従業員によって音楽の生演奏がされている。 本件店舗での「貸切営業」は、レストラン営業又はカフェ営業の一環として、同一の時間帯の顧客を1グループ又は2グループの者とする営業形態を採用しており、そのような営業をもって「貸切営業」と称している。 イ 被告は、本件店舗での「貸切営業」における顧客による演奏という形態での音楽著作物の利用行為につき、以下のとおり様々な関与をして管理している。 (ア) 本件店舗に「Restaurant cafe Desafinado Live」の名称が付せられていることからも明らかなように、本件店舗の基本的経営方針は、飲食とともに音楽の生演奏を提供するところにあり、被告は、これを「デサフィナードは、ジャズやボサノバを中心にここちよい音楽を楽しみながら、お食事やお酒を味う贅沢な空間です。」とウェブサイトにおいて表現している。 (イ) 被告は、そのウェブサイトやパンフレット等で、本件店舗において結婚披露宴やその二次会、演奏会、ピアノ発表会、各種パーティ等を行うことができ、その際には、下記(オ)のとおり自らが設置した演奏ステージ、楽器、音響装置、ステージ照明装置、VTR機器等を顧客において利用できることを広告宣伝し、顧客がこれら楽器等を用いて音楽の生演奏をすることを勧奨している。 (ウ) 被告は、上記(イ)のうち本件店舗をピアノ発表会や各種スクールの公開練習の会場として使用する場合には、通常営業とすることもできるとして、発表会等の参加者にとっては日ごろの練習の成果を発揮することができ、かつ他の不特定の顧客にとっては音楽の生演奏を楽しむことができるという形での勧誘をもしている。 (エ) 被告は、上記(イ)のうち本件店舗を結婚披露宴やその二次会、各種パーティの会場として使用する場合には、本件店舗の「ピアノリクエスト」の企画に出演している演奏家を斡旋して演奏させることもできるという形での勧誘をもしている。 (オ) 被告は、本件店舗内に、演奏ステージを設置した上、ピアノ・ウッドベース・ドラムセット・パーカッション・ギター等の楽器、アンプ・マイク・スピーカー等の音響装置、スポットライト等のステージ照明装置、ビデオ撮影のためのVTR等の機器を備え置き、これらの設備、装置、機器等を利用することによって、顧客が音楽の生演奏をすることができるよう物理的な環境を整えている。 (カ) 被告は、上記(イ)の「貸切営業」については、予約を受け付けた上、あらかじめ定められた場所(本件店舗内の1階又は2階の客室)において、あらかじめ定められた時間の範囲内において、上記(オ)の設備、装置、機器等を顧客の利用に供して音楽の生演奏を許している。 (キ) 被告は、上記(オ)の設備、装置、機器等の装置をすることができる従業員等を配置して、必要に応じて音響装置、照明装置、ビデオ機器の操作に当たらせている。 上記(ア)ないし(エ)の各事実は、飲食店経営者による演奏の勧誘に、上記(オ)の事実は飲食店経営者による音楽演奏の道具の備え置きによる音楽演奏の実行の勧誘と支援に、上記(カ)の事実は飲食店経営者による音楽演奏の時間的・空間的制約に、上記(キ)の事実は飲食店経営者による音楽演奏の道具の管理による音楽演奏の実行の勧誘と支援にそれぞれ相応するものである。 ウ 本件店舗での「貸切営業」における顧客による演奏という形態での音楽著作物の利用行為によって、レストラン(ないしカフェ)経営者である被告に営業上の利益が帰属すること又は利益の帰属が意図されていることは、以下のとおり明らかである。 被告は「広いスペースでおしゃれな曲を聴きながら、ゆったりとお二人の門出を祝う事ができますよ!ステージと機材も揃っているので生演奏を楽しむ事もできますね。」、「デサフィナードならではのピアノ発表会は、弾く方も聴く方もゆったりリラックスしながら楽しむ事ができます。また、通常営業とさせていただきますので、一般のお客様も演奏を楽しめます。かわいいピアニスト達も腕をふるってくださいね。」などと広告宣伝し、集客に努めている。このことからすれば、被告が、「貸切営業」における顧客による生演奏を本件店舗の営業政策の一環として取り入れ、「被告の用意した演奏家による生演奏を聞いて楽しむという通常営業だけでなく、被告の用意した設備、装置、機器等を利用して顧客自身が生演奏をすることによって音楽を楽しむことができる貸切営業をもしているレストラン(カフェ)」としての雰囲気を醸成し、このような雰囲気を好む顧客の来集を図っていることは明らかである。 また、本件店舗での「貸切営業」は、レストラン営業又はカフェ営業の一環として行われ、顧客から飲食料金を収受している。つまり、顧客による生演奏が可能であることを売りにする「貸切営業」が増加すればするほど、被告の本件店舗の売上収入が増加するという関係が存する。 エ さらに、原告の調査によれば、本件店舗における前記2【原告の主張】(1)のシ、ソ、タ、チの各「貸切営業」において、被告の用意した設備、装置、機器等を用いて、多数の管理著作物が生演奏されている。 オ 以上のように、本件店舗での「貸切営業」における顧客による演奏が本件店舗の経営者である被告と無関係にされているわけではなく、上記ア、イの各事実を総合的に評価すると、顧客による演奏も著作権法上の規律の観点からは被告による演奏と同視し得るものである。 【被告の主張】 (1) ライブにおける演奏について プロの演奏者あるいはアマチュアの演奏者等が本件店舗を貸し切ってライブを開催したいと申し込んだ場合に行われるライブの主催者は、演奏者等であって被告ではない。 この形態のライブでは、通常客からライブチャージを徴収し、徴収されたライブチャージは全額が演奏者等に交付される。被告は演奏者等に対して演奏料を支払わず、楽器等もピアノ等を除いて演奏者が本件店舗に持ち込むことが多い。ライブチケットの販売も演奏者等が行う。 なお、被告がプロやアマチュアの演奏者に対してライブ開催を依頼して行われるライブについては、被告が主催者であることは認める。 (2) 貸切営業における演奏について 争う。 4 争点4(本件店舗における演奏に著作権法38条1項が適用されるか否か。)について 【被告の主張】 (1) ピアノ演奏(ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM)における演奏について 本件店舗は、被告が実家の厩舎跡地に、趣味である楽器を演奏できるステージを備えた自宅兼店舗を建築することを思い立ち、建てられたものである。 本件店舗に設置された楽器類や音響装置は、もともとは被告の趣味で被告自身が演奏するためのものであって、店舗の装飾を兼ねていたものにすぎなかったが、ピアノ好きの客のピアノを弾きたいとの要望に応じているうちに、スタッフの中にピアニストが入るようになり、定期的なピアノ演奏も行われるようになった。ピアノリクエストも、このように本件店舗でピアノを弾きたいというP6の申し出に応えて演奏の場を提供したものであり、営利行為に結びつくものではなかった。したがって、同人によるピアノリクエストにおける演奏は、著作権法38条1項に該当し、著作権侵害を構成しない。 また、被告は、ピアノ弾き語り・ピアノBGMを行ってきたP3らピアニストに、地域音楽文化振興を願って演奏場所を提供してきたものであり(被告はP3らの演奏に対して対価を支払っていない。)、公的な非営利行為であった。 (2) 平成17年5月31日について 同日の「P1ライブ」は、原告が管理著作物の演奏許諾を違法に拒否したため、ライブが中止となり、その代わりに被告が友人たちを集め「P1を囲む会」を催したもので、プライベートな会であり、著作権法38条1項に該当する。 (3) 平成18年6月17日について 前記2【被告の主張】(1)スにおいて主張したとおり、同日、開催予定であったライブは中止となり、仲間内でのパーティが行われ、被告は会場を貸しただけである。したがって、同パーティにおける歌唱等については、被告は利用主体ではないし、このようなパーティにおける歌唱は非営利行為である。 (4) その他、原告が指摘する貸切営業(前記2【原告の主張】(1)のシ、ソ、タ、チ参照)は、結婚披露宴の二次会、バンド発表会であり、これら及び「サッカーワールドカップ第2回観戦会」における演奏はいずれも非営利行為である。 【原告の主張】 (1) ピアノ演奏(ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM)における演奏について 争う。 (2) 平成17年5月31日について 被告は、同日の「P1ライブ」は中止となり、代わりに被告が友人たちを集め「P1を囲む会」を催したもので、プライベートな会であり著作権法38条1項に該当すると主張する。 しかし、上記ライブは約60名の聴衆が集められていたから「公の演奏」(著作権法22条)に当たることが明らかであり、著作権法38条1項の要件を充足するものではない。 (3) 平成18年6月17日について 同日、本件店舗において行われた「P2 HOMETOWN LIVE[」という名称の催し物は、多数の客を集め、プロ歌手がピアノ伴奏によって歌唱するという典型的なライブであり、単なる仲間内のパーティなどではない。 (4) 貸切営業における演奏が非営利行為であるという被告の主張は争う。 5 争点5(差止めの必要性)について 【原告の主張】 (1) 請求の趣旨第1項について 被告の著作権侵害行為は、その営業の性質上将来にわたって反復継続されることが明らかである。被告は、本件店舗における演奏全般につき、一貫して著作権法38条等を持ち出して著作権は及ばないとの立場を堅持した上で、原告による本件仮処分事件及び本件訴訟において有利な判断を得ることを目的に、暫定的に管理著作物の演奏をしていないというにすぎない。 現在も、本件店舗には、演奏ステージ、音響装置、楽器等が備え付けられたままである。被告は「貸切、 営業」について、本案訴訟の係属中であっても管理著作物を演奏するとの方針を公言している。 これらの事実からすれば、本件訴訟の判決主文において演奏の禁止が命じられない限り、被告は、本件店舗において管理著作物の演奏をいつでも行うことは必定である。 (2) 請求の趣旨第2項について 被告が別紙物件目録記載の楽器、音響装置を利用して著作権侵害行為を反復継続してきた事実にかんがみると、これらが本件店舗内に存置されている限り、本件店舗において管理著作物の無断演奏が行われるおそれがあることは明らかであり、著作権侵害の停止又は予防のために上記各物件を本件店舗から撤去することが必要である。 (3) 請求の趣旨第3項について 被告は、原告の再三にわたる警告を無視し、著作権侵害行為を継続してきたのであり、差止命令を受けても別のピアノ等を搬入して、管理著作物の演奏権侵害を継続するおそれが高い。 また、ライブにおいては、演奏者に自己の楽器を搬入させて演奏させることもあるから、将来においてもライブが行われる都度、楽器や音響装置が搬入され、演奏に使用されるおそれが高い。現に、本件仮処分決定を執行した平成17年4月15日以降に本件店舗で行われたライブにおいては、楽器や音響装置が新たに搬入されて著作権侵害行為に使用された。 【被告の主張】 被告は、本件仮処分決定後、ピアノ等が本件仮処分の執行により使用できなくなり、本件仮処分異議決定後、被告は本件店舗に音声付き監視カメラを24時間設置し、いつでも原告が本件店舗における演奏を監視できる態勢をとるなどした。その後、本件保全抗告決定により同執行は取り消されたものの、本件店舗は、営業形態の変更を余儀なくされている。 本件仮処分決定の執行により、ピアノ演奏者及び被告は原告に失望し、従前のピアノ演奏を行うことができなくなり、現在も行っていない。被告は、原告との間の紛争が解決するまで、本件店舗でピアノ演奏は行わない方針である。 また、被告自身、生涯の仕事として原告に対する抗議運動を展開していくことを決意し、活動をしている。そのことは、本件店舗に来る客にも理解され、認知されてきている。そして、被告は、被告主催のライブについては、一切管理著作物を演奏しないとの方針を堅持し、管理著作物を演奏していない。 被告は、これまで航空自衛隊の隊長として名古屋に居住し、週末等に本件店舗を見回る程度であったが、平成17年9月5日に自衛官を退職した後は、本件店舗の上の居宅に居住し、オーナーとして本件店舗の日々の運営をしており、本件店舗は原告の不当なやり方に抗議をする店として、従業員にもその旨教育し、利用客にも日々訴えている状況にある。 本件店舗には、地域の音楽愛好家等からライブ開催の申入れが数多くなされているが、被告は、これら第三者主催のライブについては、徹底して事前に原告に管理著作物の利用許諾を文書で求め、回答を得るよう求めている。現状は、原告は、これらライブについても被告も共同主催者であるといい、すべての利用許諾を拒否している。 したがって、第三者主催のライブで、管理著作物を演奏する者については、一切本件店舗を利用してもらえない現状にある。 以上のとおり、原告の差止請求は、差止めの必要性を欠くものであって、棄却されるべきである。 6 争点6(損害額又は不当利得額)について 【原告の主張】 (1) 請求の根拠 原告は、被告が原告の許諾を得ることなく本件店舗において管理著作物を演奏して著作権を侵害したことにより、少なくとも使用料相当額の損害を被り(主位的請求)、あるいは被告の不当利得によって使用料相当額の損失を被った(予備的請求)。被告は、ポピュラー音楽の提供を営業方針とする飲食店を経営する者であるから、管理著作物を店舗において営業のために利用するには原告の許諾が必要であることを認識していた。したがって、被告は民法704条にいう悪意の受益者である。 (2) 使用料相当額の算定の根拠となる使用料規程について ア 請求始期である平成13年5月30日時点では、「平成12年12月18日認可著作物使用料規程」が適用される。同規程第2章第2節「演奏等」「5 社交場における演奏等」「別表16の1」に基づき、生演奏1曲1回使用時間5分までの使用料は140円であり、消費税相当額が加算される。 イ 平成13年10月2日、「著作権等管理事業法」が施行され、従前の「著作物使用料規程」は「使用料規程」となったが、生演奏の使用料については平成12年12月18日認可の著作物使用料規程の内容と同様で変更はない。 (3) 使用料相当額の算定 ア 平成13年5月30日、同月31日、同年6月1日、同月2日、同年11月30日、同年12月8日及び同月22日の使用料相当額 上記営業日に、本件店舗においてライブが開催されたので、下記計算式により使用料相当損害額は1万0290円である。 140円×10曲×7×1.05(消費税率)=1万0290円 イ 平成14年1月の使用料相当額 平成14年1月の使用料相当損害額は下記計算式により1万4700円である。 (140円×15曲×6日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=1万4700円 ウ 平成14年2月から平成14年10月までの使用料相当額 上記期間の使用料相当損害額は下記計算式により25万1370円である。 (140円×15曲×12日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=2万7930円(1か月当たりの使用料相当額)2万7930円×9か月=25万1370円 エ 平成14年11月から平成15年9月までの使用料相当額 上記期間の使用料相当損害額は下記計算式により56万5950円である。 (140円×15曲×12日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×8日〔ピアノリクエスト演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=5万1450円(1か月当たりの使用料相当額)5万1450円×11か月=56万5950円 オ 平成15年10月から平成17年1月までの使用料相当額 上記期間の使用料相当損害額は下記計算式により114万0720円である。 (140円×15曲×21日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×8日〔ピアノリクエスト演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=7万1295円(1か月当たりの使用料相当額)7万1295円×16か月=114万0720円 カ 平成17年2月の使用料相当額 平成17年2月の使用料相当損害額は下記計算式により6万9825円である。 (140円×15曲×21日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×7日〔ピアノリクエスト演奏日数〕+140円×10曲×2日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=6万9825円 キ 平成17年3月の使用料相当額 平成17年3月の使用料相当損害額は下記計算式により4万8510円である。 (140円×15曲×20日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×10曲×3日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=4万8510円 ク 平成17年4月1日から同月14日までの使用料相当額 上記期間の使用料相当損害額は下記計算式により1万6905円である。 (140円×15曲×7日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=1万6905円 ケ 平成17年5月31日の使用料相当額 同日開催された「P1ライブ」では管理著作物が18曲利用された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により2646円である。 140円×18曲×1.05=2646円 コ 平成17年7月31日の使用料相当額 同日開催された「万葉ジャズフェスタ前夜祭」では管理著作物が10曲分利用された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により1470円である。 140円×10曲×1.05=1470円 サ 平成17年9月19日の使用料相当額 同日開催された「アフタヌーンライブ」では管理著作物が11曲利用された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により1617円である。 140円×11曲×1.05=1617円 シ 平成18年4月29日 同日開催された結婚披露宴の二次会では、管理著作物が2曲演奏された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により294円である。 140円×2曲×1.05=294円 ス 平成18年6月17日 同日開催された「P2 HOMETOWN LIVE[」では管理著作物が22曲演奏された。 ただし、うち1曲については、訳詞のみが管理著作物であるので、使用料は2分の1となる。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により3160円である。 140円×21.5曲×1.05=3160円 セ 平成18年6月18日 同日開催された「サッカーワールドカップ第2回観戦会」において管理著作物が1曲演奏された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により147円である。 140円×1曲×1.05=147円 ソ 平成18年6月23日 同日開催されたバンド発表会において管理著作物が18曲演奏された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により2646円である。 140円×18曲×1.05=2646円 タ 平成18年7月1日 同日開催されたピアノ教室発表会において管理著作物が8曲演奏された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により1176円である。 140円×8曲×1.05=1176円 チ 平成18年7月16日 同日開催された結婚披露宴の二次会において管理著作物が6曲演奏された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により882円である。 140円×6曲×1.05=882円 (4) 弁護士費用相当損害金 被告が、原告の再三の説得、警告にもかかわらず、管理著作物の無断演奏を継続し、使用料相当額の支払にも応じない。そのため、原告は、弁護士に本件訴訟の提起を委任したものであり、被告による著作権侵害の不法行為と相当因果関係にある損害としての弁護士費用相当額は、使用料相当額の約20%に相当する43万円を下らない。 (5) 損害合計額 以上により、損害の合計額は256万2308円である。 (6) 遅延損害金及び利息 主位的請求である損害賠償請求に係る遅延損害金としては、各月の使用料相当額(別紙遅延損害金目録の元本欄記載の各金員)に対する不法行為の後である各翌月1日(別紙遅延損害金目録の起算日欄記載の各年月日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、及び弁護士費用相当損害金43万円に対する不法行為の後である平成17年10月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する。 予備的請求である不当利得返還請求に係る利息としては、被告は悪意の受益者であるから、不当利得を生じた日の後である各翌月1日(別紙遅延損害金目録の起算日欄記載の各年月日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を請求する。 【被告の主張】 すべて否認又は争う。 原告は、使用料相当額として、本件店舗の座席数を「40席を超えて80席まで」に該当するとして、生演奏1曲1回使用時間5分までの使用料金140円を適用して損害額を算定している。 しかし、本件店舗の座席数は、P8がピアノ演奏を始めるようになった平成16年3月末ころまでは1階は23席、2階を入れても35席しかなかった。ただし、2階は客席ではなく、被告とスタッフらの控え室であった。 座席数が40席未満の場合、生演奏1曲1回使用時間5分までの使用料金は90円である。 また、原告は、本件訴訟においては、使用料相当額の算定について、包括的利用許諾契約を締結していない場合であることを前提としているが、使用料規程に定める使用料は、実際に通用している使用料ではないし、原告が被告に対して送付した平成15年6月13日付けの請求書では、著作物使用料規程の別表4を根拠として、平成13年6月から平成15年6月までの25か月間の使用料相当額として月額使用料相当額を2万円とし、合計で52万5000円(消費税を含む。)を請求していた。 したがって、裁判所が使用料相当額を算定する場合には、同規程の別表4を用いるのが相当である。 したがって、仮に本件において被告による著作権侵害行為があったとしても、損害額の算定は平成16年3月までは同規程の別表4によって月額使用料相当額を2万円、同年4月以降は、座席数が「60席まで」に該当するので、同規程の別表5により、月額使用料相当額を2万7000円として算定するべきである。 また、原告は使用料相当額すなわち損害額に消費税相当額を含めているが、相当ではない。 7 争点7(消滅時効の成否)について 【被告の主張】 原告が主張する不法行為に基づく損害賠償請求権については、原告は各不法行為の日にその行為(つまり損害)を知ったので、原告による本件訴訟提起の3年前(平成14年10月20日)以前の演奏行為については、各不法行為の日から3年が経過しているから、被告は消滅時効を援用する。 【原告の主張】 (1) 被告は、原告が各不法行為の日に損害を知ったとしてこれを消滅時効の起算日であると主張するが否認する。 (2) 原告が本件訴訟において請求している不法行為に基づく損害賠償債権につき、被告を債務者とする不動産仮差押申立てをし(大阪地方裁判所平成17年(ヨ)第20022号)、平成17年7月11日、同裁判所は仮差押決定を発令した結果、さいたま地方法務局北埼出張所平成17年7月13日受付第8327号により仮差押えの登記が完了した。 したがって、原告が本件訴訟において被告に対して請求する不法行為に基づく損害賠償債権の消滅時効は、平成17年7月13日をもって中断し、その効力は現在もなお継続している。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(請求の特定の有無)について 被告は、請求の趣旨第1項が請求の特定を欠く旨主張するが、同請求の趣旨には、具体的な演奏態様が例示的に列挙されるとともに、本件店舗におけるあらゆる演奏態様による管理著作物の使用を営業時間の内外を問わず差し止めることを求める趣旨であることは明らかであるから請求の趣旨としての特定に欠けるところはないというべきである。被告は、被告の営業形態には「貸切営業」という形態があるがその区別さえなされていないなどと主張するが、本件店舗におけるいかなる形態の演奏態様をもって被告を利用主体とする管理著作物の利用に当たるかなどということは、請求の当否に関する本案の問題であって、使用態様による限定がされていないからといって、上記請求の趣旨が特定を欠くものということはできない。したがって、被告の上記主張は採用できない。 2 争点2(本件店舗における演奏の態様、状況)について (1) 本件店舗における演奏日数等について 前記前提となる事実、証拠(甲5ないし11〔各枝番も含む。〕、12、13、14の1ないし9、15、16の3、23、29ないし36、41ないし60、乙7、8、30、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 本件店舗は、その名称を「レストラン・カフェデサフィナードライブ」といい、自己のウェブサイトに「ジャズやボサノバを中心にここちよい音楽を楽しみながら、お食事やお酒を味う贅沢な空間です。」とし、「デサフィナードのコンセプト」を「音楽を愛するすべての人に心から楽しんでいただく素敵な空間です」と明示して、ランチ、カフェ、ディナー及びバーの営業をしている。なお、本件店舗の店名の主要部分である「DESAFINADO(デサフィナード)」は、「ポルトガル語で『音痴』『調子はずれ』」を意味し、「ブラジル音楽ボサノバの名曲」であるとの説明が上記ウェブサイトに掲載されている。 本件店舗は2フロアーから成り、1階には玄関、バーカウンター、客席フロアーのほか演奏ステージが設けられ、2階には客席フロアーが設けられている。1階の演奏ステージには、ピアノ、ドラムセット、ウッドベース、エレキギター、エレキベースが置かれている。そのほか、本件店舗内にはミキサー、アンプ、マイク等の音響装置と照明装置が設けられている。 本件店舗の定休日は水曜日であり、営業時間は午前11時から午後11時までである。 本件店舗の経営者は被告である。被告は平成13年5月30日に本件店舗を開店した後、平成17年9月5日に自衛隊を定年退官するまでは本件店舗の日常的な営業をマネージャーに委ねていたが、定年退官後は被告自身が本件店舗の営業に直接携わるようになった。 イ 本件店舗において行われていた楽曲の演奏の概要は、次のとおりである。 (ア) ピアノ演奏 a ピアノリクエスト 毎週火曜日と木曜日の午後1時から午後3時の間、P6が、客からリクエストを受けて、リクエスト曲をその場でピアノ演奏をするというものである。 b ピアノBGM・ピアノ弾き語り等 ライブ及び貸切営業の時を除き、営業日の午後7時から3ステージにわたり、P4、P9、P10らによるピアノBGM演奏、P3によるピアノ弾き語り等が定期的に行われている。 c ピアノ演奏の演奏態様 これらの演奏の間、本件店舗では通常のレストラン営業が行われており、客は、ランチやディナーをとりながら、上記a、bのピアノ演奏を聴くことになる。 また、これらの演奏を行う者は、他のライブハウス、レストラン、パーティ、イベント等での演奏活動を行っており、中には自分のオリジナルアルバムを発表している者もある。 本件店舗のウェブサイトでは、これらの演奏者は「スタッフ」として紹介され、また「毎、 火・金・土曜日にはピアノの生演奏がBGMです。」とされている。 これらのピアノ演奏について、本件店舗が客からチャージを別途徴収することはなく、また本件店舗が演奏者に演奏料を支払うこともない。 これらのピアノ演奏の本件店舗での演奏予定は、本件店舗が作成するちらしに掲載されるほか、アガサス誌にも掲載される。 (イ) ライブ演奏 本件店舗では、プロのバンドによるライブ演奏が行われている。 a 演奏者等が主催するライブ プロの演奏者又はその後援会等から、本件店舗でのライブ開催の申込みがされた場合に行われる。 この形態のライブでは、通常、客からライブチャージを徴収し、この徴収事務は本件店舗の従業員が行うが、徴収されたライブチャージは全額が演奏者等に交付される。本件店舗は演奏者等に対して演奏料を支払わず、演奏者等も本件店舗に対して設備等の使用料等を支払わない。 曲目の選定は演奏者等が行い、本件店舗は関与しない。 ライブのチケットは、演奏者等が作成し、本件店舗や他の店舗にチケットを置いてもらい、前売り販売を行う。もっとも、演奏者側にスタッフがいない場合は、本件店舗の従業員が予約を受け付けることがあり、この場合はチケットは作成されない。 ライブの広告は、演奏者等がちらし等を作成して本件店舗や他の店舗に置いてもらうほか、本件店舗が作成したちらしに予定を掲載し、アガサス誌にも本件店舗における予定として掲載される。 本件店舗で行われるライブのほとんどはこの形態のものである。 b 本件店舗が主催するライブ 被告からプロの演奏者にライブ開催を依頼し、又は演奏家等から本件店舗でのライブ開催の申込みがされた場合に行われる。 この形態のライブでも客からライブチャージを徴収するが、徴収したライブチャージは本件店舗が取得し、それとは別に本件店舗が演奏者等に演奏料を支払う。 c これらのライブの際には、本件店舗は通常のレストラン営業と異なり、軽食とドリンク類のみを提供している。 また、本件店舗に備え置かれた楽器は、求めがあれば演奏者に使用を許している。 (ウ) 貸切営業 本件店舗では、結婚披露宴の二次会、ピアノ発表会、パーティ、各種スクール公開練習等のための貸切営業を行っている。被告は、貸切営業において楽曲演奏が行われる場合には、必要に応じて本件店舗に備え置いてある楽器、音響装置、照明装置等を提供している。また、被告は、必要に応じて音響装置、照明装置等の操作を従業員に当たらせている。 本件店舗のウェブサイトには、貸切営業に関し、「また、通常営業とさせていただきますので、一般のお客様も演奏を楽しめます。」あるいは「お客様もプロ顔負けのステージ練習を楽しむ事ができますよ!」との記載があり、貸切営業の場合であっても不特定の顧客が演奏を鑑賞することができることを宣伝している。 被告は、ピアノ発表会の場合には、会場使用料を請求しており、さらに客からの注文に応じて飲食物を提供したときは飲食代金を請求している。他方、バンド発表会などにおいては、会場使用料は請求しておらず、客からの注文に応じて飲食物を提供したときは飲食代金を請求している。 (2) 本件店舗における演奏日数等 ア 平成13年5月30日、同月31日、同年6月1日、同月2日、同年11月30日、同年12月8日及び同月22日 証拠(甲23、24)によれば、@本件店舗が開店した平成13年5月30日から4夜連続で、P11によるピアノ弾き語りと、P12及び女性ピアニストによるコンサートが午後8時と午後10時の1日当たり2回、1回当たり30分間行われたこと、A平成13年11月30日に「シャンソンライブ」、同年12月8日に「JAZZ」ライブ、同月22日に「Love Bradde」ライブがそれぞれ1回ずつ行われたことが認められる。 イ 平成14年1月 (ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM 証拠(甲17の1、乙6)によれば、被告は、原告から送付を受けた損害金計算書添付の平成16年9月8日付け警告書に、平成14年1月以降のピアノ演奏(ピアノリクエスト及びピアノ演奏・弾き語り等を含む。)に係る1日当たりの演奏曲数を20曲とする計算をしたとの記載があることに対する反論を記載した平成16年12月7日付け陳述書において、平成14年1月にはピアノリクエスト及びピアノ弾き語りは実施されていないと明言しながら、自ら「平成14年1月にはピアノ演奏は月間6回前後であったと思われます。」と記載していることが認められる。したがって、平成14年1月には少なくとも月間6回のピアノBGMがあったと認めるのが相当である。 (イ) ライブ 証拠(甲29)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗において、平成14年1月26日に「JAZZ NIGHT」ライブが1回開催されたことが認められる。 ウ 平成14年2月から平成14年10月まで (ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM 証拠(甲28)によれば、被告は、平成16年6月7日に原告大阪支部が受け付けた書簡において、平成14年から週3回から4回の頻度でミュージシャンに演奏場所として本件店舗を提供していたと回答していることが認められる。また、被告は、被告本人尋問において、この時期にピアノを開放するようになったことを認める供述をしている。これらによれば、上記期間において、少なくとも週3回、月間12日、ピアノ弾き語りが実施されたことが認められる。 (イ) ライブ 証拠(甲6の1、8の1、9の1、10の1、30、31ないし36、41ないし50)及び弁論の全趣旨によれば、ライブの開催日数は、平成14年2月が1日、同年3月が1日、同年5月が2日、同年6月が2日、同年7月が3日、同年8月が2日、同年9月が2日であったことが認められる。なお、同年4月及び10月に本件店舗においてライブが開催されたことを示すアガサス誌の記事等はないが、本件店舗が開店時から「ライブハウス&レストランカフェ」、「本格的な舞台と音響装置を備えたライブハウス」と紹介されていたこと(甲23)及び上記認定のとおり、同年2月、3月、5月から9月にかけて、月に1日以上ライブが開催されてきたこと並びにアガサス誌ないし本件店舗の予定表がある限りは必ず毎月1日以上はライブが開催されていることによれば、同年4月及び10月においても、少なくとも毎月1日の割合で、本件店舗においてライブが開催されたと推認される。 したがって、平成14年2月から同年10月までの間、本件店舗において、毎月1日はライブが行われていたものと認めるのが相当である。 エ 平成14年11月から平成15年9月まで (ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM 上記ウ(ア)及び証拠(甲31、47ないし50)によれば、上記期間においても毎週3回、1か月12回の割合でピアノBGMなどが行われていたことが認められる。 (イ) ピアノリクエスト 証拠(甲31、47ないし50)及び弁論の全趣旨によれば、少なくとも平成15年5月から9月にかけて、ピアノリクエストが毎週火曜日と木曜日の2回行われていたことが認められる。 被告は、ピアノリクエストを開始したのは平成15年4月末ころからであり、定期的に毎週火曜日と木曜日の午後に演奏するという形態になったのは、同年10月以降のことであると主張する。 しかしながら、証拠(甲17の1、乙6)によれば、被告は、平成14年1月から平成15年9月までの使用料相当額をピアノリクエストについては演奏日数を1か月当たり8日、1日当たりの演奏曲数を20曲として計算した原告の平成16年9月8日付けの警告書に対する反論を記述した平成16年12月7日付けの陳述書において、「ピアノリクエストに関しては平成14年10月14以前は全く実施していない」、あるいは「平成14年10月以前はピアノリクエストは実施されていません。」と記載していることが認められる。そして、同陳述書には、前記イ(ア)のとおり、ピアノBGMが月間6回前後行われていたと回数を挙げて指摘しているほか、P3によるピアノ弾き語りについて、(後記認定のとおり、実際には平成15年10月から実施されていたのであるが)「平成15年10月以前はピアノ弾き語りは実施されていません。」と、被告の認識が明確に記載されており、内容の正確性につき疑いを生じさせるような事情も見当たらないこと及び一般にこのような書面に記載する場合、損害額を減少させるために控えめに演奏開始時期を記載するのが通常であって、損害額を過大に計算されるようなことを記載するとは考えられないことによれば、上記のピアノリクエストの開始時期に関する記述も、当時の被告のほぼ正確な認識を示したものと推認できる。また、演奏日数についても、ピアノ演奏に関して上記のように回数を指摘していたことによれば、原告の上記警告書にピアノリクエストの1か月の演奏日数が8日と記載されていたにもかかわらず何も反論していないのは、平成14年11月の時点において、ピアノリクエストが週2日、1か月当たり8日行われていたと被告自身が認識していたからであると推認することができる。 したがって、ピアノリクエストは平成14年11月以降、毎週2回、1か月8回の割合で行われていたと認めるのが相当である。 (ウ) ライブ 証拠(甲5の1・2、47ないし50)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年5月30日に「2周年謝恩イベント」が開催され、午後9時過ぎから午後10時15分にかけて、ジャズの生演奏が行われ、さらに、同年6月から8月にかけて毎月1日、同年9月は2日、ライブが開催されたことが認められる。 なお、平成14年11月から平成15年4月に本件店舗においてライブが開催されたことを示すアガサス誌の記事等はないが、前記ウ(イ)で判示した理由により、同期間においても、少なくとも毎月1日の割合で、本件店舗においてライブが開催されたと認めるのが相当である。 したがって、平成14年11月から平成15年9月までの間、本件店舗において、毎月1日の割合でライブが行われていたものと認めるのが相当である。 オ 平成15年10月から平成17年1月まで (ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM a 証拠(甲32)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年10月には、P3によるピアノ弾き語りが毎週2日と第1・第3日曜日に1日につき3回ずつ行われ、その他にBGMピアノ生演奏が毎週3日、3回ずつ行われる予定であり、ライブ開催日数は1日であったことが認められる。 したがって、平成15年10月にはピアノ弾き語りが10日(30回。〔2日×4+2日〕×3=30)、BGMピアノ生演奏が12日(36回。3×4×3=36)、併せて少なくとも21日は演奏されたと認めることができる。 b 証拠(甲6の1)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年4月には、ピアノ弾き語り・ピアノBGMが月に18日、それぞれ3回行われたことが認められる。 c 証拠(甲8の1)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年7月には、ピアノ弾き語り・ピアノBGMが月に22日(ただし、うち1日はサックス演奏との共演)、それぞれ3回行われる予定であり、少なくとも21日は演奏されたことが認められる。 もっとも、本件店舗においてピアノ弾き語り・ピアノBGMが行われる日数は、ライブの開催日数や貸切営業の日数にも左右されるものであって、必ずしも一定しているものではない。しかし、少なく見積もっても、平成15年10月及び平成16年7月には、ピアノ弾き語り・ピアノBGMが1か月当たり21日行われ、その他の月には1か月当たり18日行われたものと認めるのが相当である。 (イ) ピアノリクエスト 証拠(甲7、32)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗においてピアノリクエストは毎週火曜日と木曜日に行われていたと認められるから、ピアノリクエストの演奏日数は、1か月当たり8日であったと認められる。 (ウ) ライブ 平成15年10月から平成16年3月まで、及び平成16年5月、同年6月、同年8月から平成17年1月までの間に、本件店舗においてライブが開催されたことを示すアガサス誌の記事等はないが、証拠(甲6、9、52の各1)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年4月に2日、同年5月に1日、同年7月に3日、ライブが行われたことが認められることに、前記ウ(イ)において判示した点を併せ考慮し、上記期間においても毎月1日はライブが開催されたものと認めるのが相当である。 したがって、平成15年10月から平成17年1月までの間、本件店舗において、毎月1回はライブが行われていたものと認められる。 カ 平成17年2月 (ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM 証拠(甲33)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、ピアノ弾き語りなどが21日(1日当たり3回)行われたことが認められる。 (イ) ピアノリクエスト 証拠(甲33、34)及び弁論の全趣旨によれば、ピアノリクエストは毎週2日行われる予定であったが、平成17年2月23日以降は実施していないものと認められるから、上記期間、本件店舗においてピアノリクエストが7日行われたことが認められる。 (ウ) ライブ 証拠(甲33)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、ライブが2日行われたことが認められる。 キ 平成17年3月 (ア) ピアノ弾き語りなど 証拠(甲35)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、少なくとも20日はピアノ弾き語りなどが行われたものと認められる。 (イ) ライブ 証拠(甲35)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、少なくとも3日はライブが行われたことが認められる。 ク 平成17年4月1日から同月14日まで (ア) ピアノ弾き語りなど 証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、ピアノ弾き語りなどが7日行われたことが認められる。 (イ) ライブ 証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、ライブが1日行われたことが認められる。 ケ 平成17年5月31日 証拠(甲11の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、同日は「P1ライブ」が行われ、管理著作物が18曲演奏されたことが認められる。 コ 平成17年7月31日 証拠(甲12、60)及び弁論の全趣旨によれば、同日は、本件店舗において「万葉ジャズフェス、 タ前夜祭」が開催され、管理著作物が10曲分利用されたことが認められる。 なお、被告は、「万葉ジャズフェスタ前夜祭」は主催者である「和歌之浦ルネサンス実行委員会万葉ジャズフェスタプロジェクトチーム」が原告から管理著作物の演奏許諾を得て行われたと主張し、被告もP13が原告から利用許諾を得たことを確認した旨供述する。また、同人の陳述書(乙43)には、原告の担当者が、平成17年7月中旬ころに、被告(本件店舗)主催ではないライブは本件仮処分決定に基づいては開催を止めることはできないと述べた旨記載されている。しかし、本件仮処分決定は、ライブの主催者が被告であるか第三者であるかを問わず、管理著作物の演奏の差止めを認めるものである(前記第2、1(5)ア、イ)から、原告の担当者が、上記のような説明をP13に対して行うとは考えがたく、上記各証拠(乙43、被告本人供述)は採用できない。むしろ、甲第12号証によれば、「万葉ジャズフェスタ前夜祭」の主催者が原告から管理著作物の利用許諾を得たことはないと認めるのが相当である。 サ 平成17年9月19日 証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、同日は、本件店舗において、P7が主催者となって「アフタヌーンライブ」が行われ、管理著作物が11曲演奏されたことが認められる。 なお、同ライブについて、被告は、被告本人尋問において平成17年9月19日に開催されたP7主催のライブは内輪のパーティーを行ったのであって、公の演奏(著作権法22条)ではなかったとの供述をする。 しかしながら、同ライブが内輪のパーティであることは、被告本人尋問まで被告から一切主張されていない。甲第13号証によれば、同ライブは、ランチ代金込みで3500円のチケットを予約して購入することとされており、出演者への報酬も支払われることとされていたところ、P7は、同月9日に原告大阪支部職員から本件店舗における管理著作物の利用につき被告と係争中であり、同ライブでの管理著作物の利用を許諾することはできないので、演奏曲を管理著作物以外の音楽著作物に差し替えて欲しい、との説明を受けながら、管理著作物の演奏を敢行したことが認められる。 上記事情によれば、同ライブにおける演奏が著作権法22条にいう公の演奏に当たらないとはいえない。ちなみに、被告は、従前は管理著作物の演奏はしていなかったとの主張をしていたにもかかわらず、甲第13号証が提出されるや、主張内容を変遷させたものであると考えられ、被告の上記供述は信用できない。 シ 平成18年4月29日 証拠(甲53)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗において結婚披露宴の二次会が開催され、管理著作物が2曲演奏されたことが認められる。 ス 平成18年6月17日 証拠甲54 及び弁( ) 論の全趣旨によれば、同日、本件店舗において「P2 HOMETOWN LIVE [」が行われ、管理著作物が22曲演奏されたことが認められる。 セ 平成18年6月18日 証拠(甲56)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗において「サッカーワールドカップ第2回観戦会」が行われ、管理著作物が1曲演奏されたことが認められる。 ソ 平成18年6月23日 証拠(甲57)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗においてバンド発表会が行われ、管理著作物が18曲演奏されたことが認められる。 タ 平成18年7月1日 証拠(甲58)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗においてピアノ教室発表会が行われ、管理著作物が8曲演奏されたことが認められる。 チ 平成18年7月16日 証拠(甲59)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗において結婚披露宴の二次会が行われ、管理著作物が6曲演奏されたことが認められる。 (3) 各演奏態様における演奏日数1日当たりの演奏曲数 後掲の各証拠によれば、各演奏態様における1日当たりの演奏曲数については、以下のとおりであったことが認められる。 ア ピアノ弾き語り・ピアノBGMにおける演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数 (ア) 証拠(甲8及び10の各1・2、31、47、48、52の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 a 平成16年3月12日午後7時から午後9時45分までの間に行われたP4のピアノBGMでは、3ステージで24曲演奏され、そのうち曲目不明の曲が5曲、管理著作物でない楽曲が4曲、管理著作物が15曲であった。 b 平成16年7月10日午後6時45分から午後9時36分までの間に行われたP9のピアノBGMでは、3ステージで22曲演奏され、そのうち17曲が管理著作物であった。 c 平成16年7月26日午後6時30分から午後9時40分までの間に行われたP3によるピアノ弾き語りでは、3ステージで26曲演奏され、そのうち22曲が管理著作物であった。 d 本件店舗におけるピアノBGMなどは、平成15年6月までは、演奏日数1日当たり1ステージ演奏されていたが、同年7月からは演奏日数1日当たり3ステージ演奏されるようになった。 (イ) 上記認定事実によれば、ピアノ弾き語り・ピアノBGMが1日当たり3ステージ行われるようになった平成15年7月以降は、1日当たり15曲の管理著作物が演奏され、平成14年1月から平成15年6月までの間は、1日当たり5曲の管理著作物が演奏されていたことが認められる。 (ウ) 他方、証拠(甲20、乙24ないし27、31)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件仮処分事件の平成17年2月23日の審尋期日において、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗では原告の管理著作物を一切演奏しないこととする方針を表明するに至り、そのために被告は、@店内に、管理著作物の演奏をしない旨を掲示し、Aその趣旨をマネージャーにも指示し、Bインターネットを検索して、管理著作物以外の楽曲(ガーシュウィン、クラシック、国内外の民謡、文部省唱歌)を抽出したリストを作成し、これをピアノ演奏者に交付してこの範囲内で選曲をするよう求め、C平成17年3月1日以降は、ピアノ演奏者から、毎日、その日の演奏曲目の一覧を提出させ、Dライブにおいても、事前にマネージャーが演奏曲目を確認する措置をとった旨、同事件の審理において主張したこと、実際に被告は、同年3月1日から本件仮処分決定に基づくピアノ等の執行官保管の仮処分が執行されるまでの間、本件店舗において演奏された楽曲をノートに記録したことが認められ、ノートに記載されている限りでは、管理著作物の演奏はされなかったことが認められる。 もっとも、甲第35号証によれば、同月17日及び同月18日はピアノ弾き語りなどが予定されている営業日であったが、同ノートにはその旨の記帳がない。とはいえ、上記両日のピアノ弾き語り・ピアノBGMについては具体的な演奏態様が不明であるから、上記両日に管理著作物が演奏されたと認めることはできない。 したがって、本件店舗におけるピアノ弾き語り・ピアノBGMについて、平成17年3月1日以降に管理著作物が演奏されたと認めることはできない。 (エ) なお、被告は、P4やP5が演奏していたのはクラシック曲、P3が演奏していたのはオリジナル曲であって、管理著作物ではないと主張する。しかし、上記認定のとおり、P4が演奏した24曲中、不明曲5曲を除いた19曲中15曲が管理著作物であり、著作権の保護期間が満了しているクラシック曲ではなかった。また、P5の演奏ジャンルは、ジャズ、ボサノバ、ポピュラーであると被告のウェブサイトに紹介されている(甲14の7 。原) 告が実施した実態調査では、平成16年7月26日にP3が本件店舗において演奏した26曲中、不明曲を除いた24曲のうち22曲は管理著作物であり、オリジナル曲はほとんど含まれていなかった(甲10の1・2)。 よって、この点に関する被告の主張は採用できない。 イ ピアノリクエストにおける演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数 証拠(甲6の1・2、7)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗において平成16年4月15日に行われたピアノリクエストでは、午後1時から午後3時までの2時間の演奏時間のうち、午後1時40分からの1時間20分の間に18曲が演奏され、そのうち16曲が管理著作物であったことが認められる。そして、ピアノリクエストの演奏時間が本来2時間であることによれば、ピアノリクエストにおいては、1日当たり少なくとも20曲の管理著作物が演奏されたと認めるのが相当である。 ウ ライブにおける演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数 (ア) 証拠(甲5、9、11の各1・2)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗において開催されたライブについて以下の事実が認められる。 a 平成15年5月30日に開催されたライブでは、2ステージ中の1ステージ(演奏時間約1時間)において演奏された9曲すべてが管理著作物であった。 b 平成16年7月17日に開催されたライブでは、午後7時10分過ぎから午後9時20分にかけて2ステージで12曲演奏され、そのうち管理著作物は10曲であった。 c 平成17年5月31日に開催された「P1ライブ」では、2ステージで19曲が演奏され、そのうち管理著作物は18曲であり、残り1曲は演奏曲目が不明であるため管理著作物であるか否かが不明であった。 (イ) 被告は、甲第9号証の1及び2の平成16年7月17日に行われたライブは、2ステージ(1ステージ45分)で管理著作物が10曲演奏されたのであるから、これよりも演奏時間が短いライブの1日当たりの演奏曲数は10曲とはならないと主張する。 しかしながら、甲第51号証によれば、同ライブで演奏された10曲中7曲が5分を超え10分までの演奏時間であったから、使用時間が5分までの場合と比べて2倍の使用料となる(後記7(1)ア)。したがって、同ライブにおいては、演奏時間5分までの管理著作物に換算して17曲分の使用料が必要であったことになる。 このように、1曲当たりの演奏時間が5分を超え10分までとなる場合に2曲分の使用料が必要であることによれば、30分程度の演奏時間においても、演奏時間5分までの曲に換算して少なくとも6曲演奏が可能であったことになる。 そして、本件店舗におけるライブ1日当たりに演奏された全楽曲数及びそのうちの管理著作物数は前記ウ(ア)で認定したとおりであるところ、「P1ライブ」で演奏された管理著作物であるかが不明である曲について、演奏時間が不明であるので、当該楽曲の演奏時間が5分を超え10分まで、残りの楽曲は演奏時間が5分までであったと仮定し、平成16年7月17日に行われたライブにおいては、演奏された12曲中9曲は演奏時間が5分を超え10分までで、9曲中2曲が管理著作物以外の楽曲であったことによれば、前記ウ(ア)の3日間のライブにおいて演奏された全楽曲は、後記7(1)アの著作物使用料規程によれば、9曲分+20曲分(2×1+18)+21曲分(2×9+3)=50曲分に相当するものである。そして、このうち管理著作物が演奏された曲数に相当する割合が、44曲分となる(9曲分+18曲分+17曲分)。したがって、本件店舗におけるライブの実態調査によれば、50曲分の楽曲の演奏中、44曲分が管理著作物に該当することとなるのであるから、これによれば、本件店舗で開催されたライブにおいて演奏された楽曲中、管理著作物が占める割合はおおよそ88%であったと認めることができる。 したがって、上記のとおり、30分程度の演奏時間において少なくとも6曲は演奏が可能であるとすると、少なくともそのうち5曲は管理著作物が演奏されたものと認めるのが相当である。 以上によれば、演奏時間が1日1時間程度であった平成13年5月30日から同年6月2日までの本件店舗開店時のライブも含めて、すべてのライブにおいて1日当たり10曲の管理著作物が演奏されたと認めるのが相当である。 (ウ) なお、被告は、平成17年3月5日、同月26日及び同月27日のライブでは管理著作物が使用されていない旨主張し、被告本人尋問においてこれに沿う旨供述をするが、前記認定のとおり、被告はピアノ演奏に関しては演奏曲目を記録していたにもかかわらず、ライブにおける演奏曲目は記録しておらず、かつ、同年4月以降に開催されたライブにおいても管理著作物が演奏されていたことにかんがみれば、平成17年3月に開催されたライブにおいても、管理著作物が演奏されたと認めるのが相当である。 3 争点3(被告は本件店舗で演奏される管理著作物の利用主体か否か。)について (1) ピアノ演奏について 前記2(1)イ(ア)において認定したとおり、本件において損害賠償請求又は不当利得返還の対象となっているピアノ演奏は、通常のレストラン営業の傍らで定期的に行われるものであって、被告が本件店舗に設置したピアノを用いて行われ、スタッフと呼ばれている複数の演奏者が定期的に演奏を行っていたものであり、ウェブサイトにおいても「毎火・金・土曜日にはピアノの生演奏がBGMです」と宣。伝していることからして、ピアノ演奏は、本件店舗の経営者である被告が企画し、本件店舗で食事をする客に聴かせることを目的としており、かつ本件店舗の「音楽を楽しめるレストラン」としての雰囲気作りの一環として行われているものと認められる。そうすると、ピアノ演奏は、被告が管理し、かつこれにより利益を上げることを意図し、現にこれによる利益を享受しているものということができるのであって、被告の主張するように、これをレストラン営業とは無関係にアマチュアの練習に場所を提供しただけであると見ることはできない。 被告は、客から演奏鑑賞料を徴収していないし、演奏者に演奏料を支払ってもいないとも主張するが、そうであるとしても、被告がピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上、それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図り、現にそれによる利益を得ているものと評価できるから、被告の主観的意図がいかなるものであれ、客観的にみれば、被告がピアノ演奏により利益を上げることを意図し、かつ、その利益を享受していると認められることに変わりはないというべきである。 以上によれば、本件店舗でのピアノ演奏の主体は、本件店舗の経営者である被告であるというべきである。 (2) ライブ演奏について ア 本件店舗が主催するライブについては、前記2(1)イ(イ)bのとおり、本件店舗が最終的に企画し、客からライブチャージを徴収した上で、演奏者等に演奏料を支払うのであるから、その演奏は本件店舗の管理の下に行われるものと評価でき、またそれによる損益は本件店舗に帰属するものであったといえる。したがって、この形態のライブ演奏の主体は、本件店舗の経営者である被告であることが明らかである。 イ 演奏者等が主催するライブについて (ア) この形態のライブでは、本件店舗側が演奏者を招聘するものではなく、本件店舗は演奏する曲目の選定にも関与せず、また演奏者側がチケットやちらしを作成して本件店舗以外でも販売又は配布し、客から徴収するライブチャージも全額が演奏者側に渡されている。このような本件店舗のライブ演奏への関与は、上記アの形態と比べると希薄であることは否めないところである。 さらに、この形態のライブは、出演者による演奏は著作権法38条1項の適用外であることは当然であり、主催者である演奏者等において原告からの管理著作物の利用許諾を得ることも可能である(甲12、13 。また、楽曲の演奏を) 管理し、演奏による営業上の利益が第1次的に帰属するのは主催者である演奏者等であるから、演奏者等において原告からの管理著作物の利用許諾を得ずに管理著作物を演奏した場合には、当該演奏者等が管理著作物の著作権を侵害することになる。 (イ) しかしながら、本件店舗においてライブを開催させるというのは、本件店舗の基本的な営業方針であり、演奏者側が本件店舗にライブ開催を申し込むのも、このような本件店舗の営業方針があってこそのことであると考えられるのであって、本件店舗においてライブが開催されるに当たっては、本件店舗のこのような営業方針が不可欠の要素となっているものといえる。そしてまた実際にも、本件店舗は、ちらしを作成してライブの開催を宣伝するほか、チケットの販売、予約の受付等の事務を行い、求めがあった場合の楽器の提供を行うなど、ライブが順調に開催されるための種々の支援も行っているのであって、ライブ開催に対する被告の関与は決して小さなものではないというべきである。 また、被告は後記6(1)のとおり、平成13年6月末までには本件店舗において管理著作物を演奏するには、原告との音楽著作物利用許諾契約を締結する必要があることを認識していたのであるから(平成17年2月までは、被告がライブ主催者に、原告から管理著作物の利用許諾を得ていたか否かを確認していた形跡がないことによれば、本件店舗のように生演奏を営業政策の一環として取り入れている飲食店においては、むしろ飲食店において音楽著作物利用許諾契約を締結するのが通常であるものと推認される、。) ライブ主催者が原告と音楽著作物利用許諾契約を締結していない場合は、自ら同契約を締結しない限り無許諾で管理著作物の演奏がなされることになり、管理著作物の著作権が侵害されることとなることを認識していたものである。したがって、被告ないし本件店舗は、事前に主催者である演奏者等に対し、演奏曲目が管理著作物である場合には、原告からの利用許諾を得ているか否かを確認することが期待し得たものであり、確認した結果によっては、本件店舗でのライブの開催を断ることができるという意味では、著作権侵害行為を予防し得る立場にあったものである。 加えて、本件店舗は、ライブ開催時には、メニューは簡素なものであるが客に有料で飲食物を提供しており、この売上げは本件店舗の営業収入となるから、ライブ演奏をそのレストラン営業の一部として取り込んでいるものといえる。また、本件店舗は、ライブを開催することによって、「音楽を楽しめるレストラン」という本件店舗のイメージを定着させるのに役立っているということもできる。 (ウ) 以上のような演奏者等の第三者が主催するライブにおける被告の関与の状況及び営業上の利益の帰属状況等にかんがみれば、被告がライブ主催者に対して、原告からの管理著作物の利用許諾を得たか否かを確認もせずに、本件店舗で原告からの管理著作物の利用許諾を得ないままライブを行うことを黙認して、著作権侵害行為をする場を提供することは、いわば、ライブ主催者による著作権侵害行為を利用して、自らの営業上の利益を得ることを図るものであるから、著作権法の規律の観点からは、ライブ主催者である演奏者等と共同して管理著作物の著作権を侵害する行為に該当するというべきである。また、主催者である演奏者等と共同して管理著作物の著作権侵害行為を行うことについて過失も認められる。 よって、この形態のライブ演奏については、本件店舗の経営者である被告も演奏の主体であると評価するのが相当である。 (3) 貸切営業における演奏について 前記2(1)イ(ウ)において認定したとおり、貸切営業において、被告は、場所及び楽器、音響装置及び照明装置を提供しており、本件店舗における演奏を勧誘しているのであるが、結婚披露宴や結婚披露宴の二次会、各種パーティー等において、招待客や参加者が本件店舗内において管理著作物をピアノで演奏したり歌唱したとしても、そもそも演奏するか否か、さらにいかなる楽曲を演奏するか、備付けの楽器を使用するか否か、音響装置及び照明装置の操作等について上記招待客等の自由に委ねられているものであり、その演奏形態は一様ではないといえる。 また、前記認定事実のとおり、本件店舗のウェブサイトには、貸切営業の際に通常営業も行うこともできるとの記載があるが、本件において提出された証拠によっては、貸切営業が実際にいかなる場合に通常営業と並行して行われているのかは明らかではなく、むしろ多くの場合、貸切営業においては本件店舗を訪れる不特定多数の客ではなく、専ら当該結婚披露宴の二次会などの招待客に聴かせることを目的とするものであることが認められる。これらの事情にかんがみれば、貸切営業における招待客や参加者が行う演奏行為は、被告によって管理されていると認めることはできず、むしろ被告とは無関係に行われる場合が多いと認められ、また、被告がその演奏自体を不特定多数の客が来訪する店の雰囲気作りに利用するなどして、これによる収益を得ているとは認められない。 したがって、貸切営業における演奏については、管理著作物の利用主体は本件店舗の経営者たる被告であると認めることはできない。 (4) 小括 以上によれば、本件店舗におけるピアノ演奏及びライブ演奏については、被告が演奏の主体であることから、被告による演奏権侵害の余地がある。 また、証拠(甲53、56ないし59、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗において、平成18年4月29日に行われた結婚披露宴の二次会、同年6月18日に行われた「サッカーワールドカップ第2回観戦会」、同月23日に行われたバンド発表会、同年7月1日に行われたピアノ教室発表会、同月16日に行われた結婚披露宴の二次会は、いずれも貸切営業であると認められ、上記(3)のとおり、貸切営業における管理著作物の利用主体は被告とは認められないから、これらの営業における管理著作物の演奏は、被告による管理著作物の著作権侵害行為には該当しない。 被告は、平成18年6月17日に行われたライブについても仲間内だけでするパーティーのために会場を貸したものであり、いわば貸切営業に切り替えた旨の主張をする。しかし、証拠(甲54、55、71)及び弁論の全趣旨によれば、当日行われたライブは、プロ歌手であるP2及びP14がピアノ伴奏によって歌唱するという形態によるライブであり、事前にワンドリンク付きで3000円のライブチャージを徴収する旨が「2006P2」とタイトルがついているウェブサイトで告知され、かつ同ウェブサイトにおいてライブの参加申込みもできるとされていることが認められるところ、これを単なる仲間内のパーティーに切り替るのであれば、その旨の告知がなされてしかるべきであるが、開催後のウェブサイトにおいてもそのような告知がなされた形跡がない。よって、当日は、有償で不特定多数の客に対してライブが開催されたと認めるのが相当であって、被告の主張は採用できない。 4 争点4(本件店舗における演奏に著作権法38条1項が適用されるか否か。)について 管理著作物であっても、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に演奏することができるが、実演家に対し報酬が支払われる場合はこの限りではない(著作権法38条1項)。そこで、本件店舗における各演奏態様ごとに同条項の適用の有無を検討する。なお、原告が主張する貸切営業(前記第3、2【原告の主張】(1)のシ、ソ、タ、チ参照)における演奏及び「サッカーワールドカップ第2回観戦会」における演奏は、前記3(4)のとおり、被告が演奏主体となって管理著作物を使用しているものとは認められないから、これを前提とする同条項の適用の有無は検討するまでもない。 (1) ピアノ演奏について ピアノ演奏については、前記3(1)において説示したとおり、被告がピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上、それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図っているものと評価できるから、営利を目的としないとはいえない。 したがって、ピアノ演奏について著作権法38条1項は適用されない。 (2) 平成17年5月31日の「P1ライブ」について 被告は、平成17年5月31日の「P1ライブ」は中止となり、代わりに被告が友人たちを集め、「P1を囲む会」を催したもので、プライベートな会であり著作権法38条1項に該当すると主張する。 しかし、甲第62号証によれば、被告は、自ら上記ライブの冒頭において、同ライブの開催日が本件店舗の開店記念日であることを明らかにした上で、本件店舗の宣伝を行い、さらに閉会に際して聴衆に今後も本件店舗への来店を勧誘していることに加え、上記ライブにおいては、P1のファンクラブへの勧誘や、同人のCDの販売の勧誘が行われたことが認められる。これらの事実によれば、上記ライブは、間接的にではあれ本件店舗の宣伝を兼ねて開催されたものであって、営利を目的としないものということはできない。よって、その他の要件について検討するまでもなく、著作権38条1項の適用はなく、被告の上記主張は採用できない。 (3) 平成18年6月17日について 前記3(4)において認定したとおり、当日開催されたライブは客からライブチャージを徴収して行われたものと認められ、聴衆から料金を受けない場合に当たらないし、営利を目的としないものであるとはいえないから、著作権法38条1項の適用はなく、被告の主張は採用できない。 (4) 小括 以上によれば、上記(1)ないし(3)の本件店舗における管理著作物の演奏が著作権法38条1項に該当するとの被告の主張は理由がない。 そして、前記第2、1(4)ウのとおり、被告は、本件店舗における管理著作物の利用について原告の許諾を受けていなかったから、本件店舗におけるピアノ演奏及びライブ演奏で管理著作物を利用することは、原告の管理著作物の著作権を侵害するものであることが明らかである。 5 争点5(差止めの必要性)について (1) 前記前提となる事実、証拠(甲18、20ないし22、28、69、70、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 本件仮処分事件申立てまでに至る経緯 原告大阪支部職員は、平成13年6月5日に、本件店舗にいた従業員に対して、音楽著作物利用許諾契約の締結を申し入れ、同月6日に音楽著作物利用許諾契約の申込書等の書類を送付した。 その後、平成15年7月に、原告大阪支部職員は、本件店舗に電話連絡をし、対応した従業員に、本件店舗内における生演奏について原告の許諾を得るように説明をし、被告は同従業員を通じて原告の説明内容を聞いた。 平成16年5月14日、原告は、本件店舗宛てに督促文書を送付し、被告は、同月20日、書面を郵送した。被告は、同書面において、本件店舗のオーナーであるが経営者ではない、無償でステージを提供しているにすぎないのに著作権侵害になるのか、と記載していた。 その後、原告大阪支部職員は、被告に対して電話で利用許諾契約を締結するよう申し入れるなどしていたが、被告は、原告に宛てた同年6月3日付けの書面においても、利用許諾契約の締結を拒絶した。原告の同年9月8日付けの警告書が送付されたのを受けて、被告は、同月17日付けの書面で管理著作物の使用料を支払う義務があるのは被告が招聘したライブの場合で奏者が同使用料を支払っていない場合に限られると理解しているとの書面を送付し、現時点では包括的利用許諾契約を締結する意向はないとの趣旨の書面を送付した。 原告は、平成16年10月14日、大阪地方裁判所に本件仮処分事件を申し立てた。 イ 本件仮処分申立後の被告の対応 被告は、本件仮処分事件においても、本件店舗における生演奏の利用主体性について争ったほか、著作権法38条1項の適用を主張し、さらに演奏されていた楽曲は管理著作物ではないと主張していた。また、平成17年2月23日の審尋期日において、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗においては管理著作物以外の楽曲のみを演奏すると主張した。 平成17年4月6日に、本件仮処分決定が発令され、同月15日、同仮処分が執行された。 被告は、保全異議を申し立て、同月25日、本件仮処分決定を一部変更する仮処分異議決定がなされると、同月30日、大阪高等裁判所に対して保全抗告を申し立てた。 また、被告は、平成17年5月20日ころ、本件店舗内にインターネット対応の音声付き監視カメラを設置し、その上で、原告に対してそのユーザー名及びパスワード等を開示し、原告が本件店舗内でのステージ演奏の様子を見ることができるようにした。 被告は、本件仮処分事件の平成17年2月23日の審尋期日に、本件店舗における演奏に管理著作物を使用しないと述べていたが、その後、ライブの出演者等が原告から管理著作物の利用許諾を得たことを書面で確認するなどの措置は執っておらず、演奏された楽曲が管理著作物であるか否かも十分に調査してはいなかった。 被告は、平成17年2月23日以降、ピアノリクエストを中止し、その後、ピアノ弾き語り、ピアノBGMも中止した。被告は、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗において管理著作物は演奏しないという意思を表明し、本件仮処分事件以降の各手続を通じてそれを根拠に保全の必要性がないと主張してきたが、前記認定のとおり、プロ歌手によるライブは引き続き開催し、その際には管理著作物の演奏もなされている。 (2) 請求の趣旨第1項の差止請求に関する差止めの必要性について 上記認定事実及び前記2(1)のとおり、本件店舗は、そのウェブサイトに「ジャズやボサノバを中心にここちよい音楽を楽しみながら、お食事やお酒を味う贅沢な空間です。」とし、「デサフィナードのコンセプト」を「音楽を愛するすべての人に心から楽しんでいただく素敵な空間です。」と明示して営業しているレストランカフェであり、原告が行った実態調査によれば、演奏されていた楽曲のほとんどが管理著作物であった。被告は、平成17年2月23日の本件仮処分事件の審尋期日において、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗では管理著作物を演奏しないことを表明したが、これも本件の終局判決が言い渡されるまでの間の措置として管理著作物を演奏しない旨を表明しているにすぎないものであることが、その主張の趣旨に照らし明らかであり、その後の対応については態度を明らかにしていない。 そして、かかる意見表明後も、ライブにおいて主催者が原告から管理著作物の利用許諾を得ているか否かを書面で確認することもせず、被告自身が管理著作物であるか否かを判断することもできない中で(被告自身がこのことを認める供述をしている。被告本人供述)、本件店舗におけるライブ演奏において、管理著作物が演奏され続けているものである。 これらの状況に加えて、原告の管理著作物である日本国内外の楽曲は、原告によれば460万曲以上にも及ぶこと(甲18)からすると、被告は、将来においてなお本件店舗において管理著作物を演奏するおそれがあるというべきである。 被告は、現在、ライブ主催者が原告から管理著作物の利用許諾を得ようとしても原告が不当に拒否するため、結局ライブを開催することができず、その他のピアノ演奏も中止しているから、管理著作物の使用の差止めを命ずる必要性はないと主張するが、現にライブ演奏による著作権侵害行為は継続しており、ピアノ演奏も暫定的に中止しているにすぎないから、上記差止めの必要性は優に認められる。 したがって、請求の趣旨第1項については、本件店舗における「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏について、ピアノ、ウッドベース、ドラムセット、パーカッション、ギター、ベース等の楽器演奏及び歌唱による管理著作物の使用差止めの請求は、理由がある。 (3) 請求の趣旨第2項の差止請求に関する差止めの必要性について 証拠(甲6、8、10の各1・2)によれば、本件店舗におけるピアノ演奏で演奏された楽曲のほとんどは管理著作物であったことが認められるから、本件店舗に備え置かれたピアノは、主として原告の演奏権を侵害する管理著作物の無断演奏に使用されていたと認められる。もちろん、ピアノは、本来、管理著作物以外の楽曲の演奏の用にも供し得るものではあるが、現実の使用態様が主として管理著作物の無断演奏に供されるもので、その状態が今後も継続するおそれがある場合に、原告がその撤去を求めることは、本件店舗における被告による演奏権の侵害を停止又は予防するために必要な行為に該当する(著作権法112条2項)。 前記(1)のとおり、たとえ被告が現時点においてはピアノリクエスト、ピアノ弾き語り及びピアノBGMを中止していたとしても、今後、これらの演奏が再開されれば管理著作物が無断で演奏されるおそれがあることは否定できない。よって、ピアノについては、請求の趣旨第2項の差止請求を認める必要がある。 他方、原告が撤去を求めるその他の楽器、すなわちウッドベース、ドラムセット、ギター、パーカッション、ベースについては、ライブ奏者であれば自ら使用する楽器を持参する場合も多いと推認され、これらの楽器が貸切営業においても使用される可能性が否定できず、専ら著作権侵害の行為に供された機械又は器具であるとまでは認めることができない。 ミキサー、アンプ、マイクなどの音響装置については、ピアノ演奏、ライブ、貸切営業のいずれの演奏態様においても用いることがあるものである。そして、貸切営業の営業日数は、月によっては1か月に7日ある場合もあり(甲36)、営業日数全体に占める割合がごくわずかであるとまでいうことはできない。また、上記のとおりピアノの撤去請求が認められ、かつ、後記のとおりピアノを含むその他の楽器の搬入禁止請求が認められる(ただし、貸切営業を除く。)ことによれば、ライブの出演者がこれらの楽器を持ち込むことも禁止されるのであるから、被告による著作権の侵害行為の予防の観点からも、被告による管理著作物の利用行為に当たらない貸切営業にも使用され得る音響装置の撤去まで命じる必要はないというべきである。 よって、請求の趣旨第2項のうち、本件店舗からピアノの撤去を求める部分は理由がある。 (4) 請求の趣旨第3項の差止請求に関する差止めの必要性について 前記(1)のとおり、被告は、原告が再三にわたって音楽著作物利用許諾契約の締結を促しても、これに応じなかったばかりか、自ら本件店舗においては管理著作物は演奏しないという方針を明らかにした後も、管理著作物の演奏を継続してきたものである。このような経緯に照らせば、被告が判決により管理著作物の使用を差し止められても、これに従わず、また、ピアノを撤去されても、ピアノその他の楽器を搬入して、管理著作物の使用を継続するおそれが高いものといわざるを得ない。 ただし、マイク等の音響装置の搬入禁止を求める部分は、上記(3)のとおりマイク等の音響装置の撤去を禁じていない以上、搬入禁止を命じる必要はないというべきである。 よって、請求の趣旨第3項のうち、本件店舗に「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏において、ピアノその他の楽器の搬入禁止(ただし、貸切営業を除く。)を求める部分は理由がある。 6 争点7(消滅時効の成否)について 事案の内容にかんがみ、争点6に先立ち、争点7について判断する。 (1) 証拠(甲25、26)によれば、原告は、被告に対する平成13年5月30日から平成17年4月14日までの間の本件店舗において管理著作物の著作権を侵害したことによる損害賠償請求権を被保全権利として、被告が持分10分の9の割合で所有する不動産に対して大阪地方裁判所に仮差押申立てをしたところ、同裁判所は、平成17年7月11日、110万円の担保を原告に立てさせて仮差押決定を発令し、さいたま地方法務局北埼出張所平成17年7月13日受付第8327号により仮差押えの登記が完了したことが認められる。 上記認定事実によれば、上記被保全権利は本件訴訟における請求中、上記期間における損害賠償請求に係る請求権と同一であるから、その消滅時効は、平成17年7月13日をもって中断し、その効力は現在も継続している(最高裁平成10年11月24日第三小法廷判決・民集52巻8号1737頁)。そうすると、上記被保全権利中、平成14年7月12日以前に生じた損害賠償請求権は上記時効中断前に時効期間が経過することにより時効消滅したが、同月13日以降に生じた損害賠償請求権はいまだ時効により消滅していないことになる。 証拠(甲18、23)及び弁論の全趣旨によれば、平成13年5月18日及び同年6月1日に発行された「わかやま新報」に、本件店舗を紹介する記事が掲載され、原告は、これにより被告が本件店舗を開店したことや、本件店舗において生演奏が行われること等の事実を確認し、同月5日に原告大阪支部職員が本件店舗に電話連絡をして、応対に出た男性従業員に対し、本件店舗内で行われる生演奏について原告の許諾を得て適法に音楽を利用するため音楽著作物利用許諾契約の締結が必要であることを説明し、同月6日には同契約の締結のために必要な申込書等手続書類一式を送付したことが認められる。したがって、原告は、本件店舗の開店当初から、損害賠償請求が事実上可能な程度に被告による管理著作物の著作権侵害行為を知っていたものと認められる。 また、甲第69号証によれば、被告は本件店舗のオーナーとして週末には本件店舗にも立ち寄っていたことが認められ、同事実によれば、被告は、遅くとも平成13年6月末日までには、本件店舗における管理著作物の使用が著作権の侵害に当たることを認識していたものと認めるのが相当である。 したがって、被告は、本件店舗における管理著作物の著作権侵害につき、故意又は過失があったから、原告に対して、使用料相当額の損害賠償義務を負うものである。 以上のとおり、被告は、原告に対し、平成14年7月13日から平成18年6月17日までの間の本件店舗における著作権侵害行為に関しては、不法行為に基づく使用料相当額の損害賠償義務を負うものである(著作権法114条3項)。 なお、被告は、平成17年3月以降、ライブ演奏者に対して原告からの管理著作物の利用許諾を得ることを求めたと主張し(ただし、実際にはライブ演奏者が原告から管理著作物の利用許諾を得たことはなかった。)、この主張は、同月以降の本件店舗におけるライブ演奏による管理著作物の著作権侵害につき過失がなかったことを主張する趣旨のものであると解する余地もあるが、被告本人尋問の結果によれば、被告は、演奏者が原告からの利用許諾を得たことを示す書面の提示を求めることもなく、演奏された曲目が管理著作物であるか否かの確認も十分にせずに本件店舗においてライブ演奏をさせていたことが認められるから、被告は、本件店舗において、管理著作物の著作権を侵害することを知りながら、又は少なくとも過失によりこれを知らないで管理著作物の著作権を侵害したものである。よって、被告は、原告に対し、平成17年3月以降に開催されたライブ演奏による著作権侵害行為についても、不法行為に基づく損害賠償義務を免れるものではない。 (2) 平成13年5月30日から平成14年7月12日までの間の本件店舗における著作権侵害行為については、消滅時効が成立したことにより、不法行為に基づく損害賠償請求は認容されないから、その範囲で、予備的請求である被告に対する不当利得返還請求の可否について判断するに、被告は、上記期間中、原告の許諾その他何らの法律上の原因なく、管理著作物を本件店舗の営業に利用して使用料相当額の利益を受け、原告に同額の損失を及ぼしたものである。したがって、被告は、原告に対し、同額の不当利得返還義務を負うものというべきである。 7 争点6(損害額又は不当利得額)について (1) 管理著作物1曲当たりの使用料 ア 証拠(甲3、4、60)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 使用料相当の損害額の請求始期である平成13年5月30日時点では、原告が文化庁長官から平成12年12月18日に認可を受けた「著作物使用料規程」が適用される。本件店舗は、同使用料規程の「第2章著作物の使用料率に関する事項」、「第2節演奏等」、「5 社交場における演奏等」の「(2) 使用料の適用区分」のうち「業種4 レストラン、グリルなど料理の提供を主たる目的とするもの」に該当し、標準単位料金(社交場をその営業の目的に従って利用する場合に客1人当たりにつき通常支払うことを必要とされる税引き後の料金相当額をいい、著作物使用料規程取扱細則に基準が定められている。)は5000円までに該当するから、生演奏又はカラオケ伴奏による歌唱での管理著作物1曲1回5分までの使用料は、同使用料規程の別表16の1により、座席数が40席であれば90円、80席であれば140円に消費税相当額を加算した額であると認められる。なお、同使用料規程の「5 社交場における演奏等」には「(生演奏等)H 1曲1回の使用時間が5分を超え10分までの場合の使用料は、使用時間が5分までの場合の使用料の2倍の額とする。」旨が規定されている。 なお、平成13年10月2日、著作権等管理事業法の施行に伴い、原告が同法に基づいて定め、文化庁長官に届け出た「使用料規程」においても、本件店舗は、同使用料規程の「第2章著作物の使用料」、「第1節演奏等」、「5 社交場における演奏等」の「(2) 使用料の適用区分」のうち「業種4 レストラン、グリルなど料理の提供を主たる目的とするもの」に該当し、標準単位料金5000円までに該当するから、同使用料規程の別表16の1により、生演奏又はカラオケ伴奏による歌唱での管理著作物1曲1回5分までの使用料は、座席数が40席であれば90円、80席であれば140円に消費税額を加算した額であると認められる。同使用料規程の「5 社交場における演奏等」には、「(生演奏等)H1曲1回の利用時間が5分を超え10分までの場合の使用料は、利用時間が5分までの場合の使用料の2倍の額とする。」旨が規定されている。また、「(歌曲)D歌曲において楽曲に著作権がない場合又は本協会の管理外の場合の使用料は、1曲の使用料の6/12の額とする。」、「E 歌曲において歌詞が本協会の管理外の場合の使用料は、1曲の使用料の6/12の額とする。」とも規定されている。なお、原告においては、歌詞において著作権がない場合にも、上記「E」と同様の取扱いをしている。 イ 平成13年10月2日届出の使用料規程の「5 社交場における演奏等」の「(座席数及び面積)」には、「@座席数とは、社交場に設備されている客席の総数をいう。」と定められているところ、被告は、本件店舗の座席数は、平成16年3月末ころまでは1階に23席、2階を合わせても35席しかなく、かつ、2階は客席ではなく、被告とスタッフらの控え室であったと主張し、同時期までの間の使用料相当額は、座席数が40席未満の場合であることを前提として算定すべきであると主張する。 確かに、本件店舗を紹介するウェブサイトの店内の透視図には、1階に4人座れる角テーブルが4個、2人座れる丸テーブルが2個、2階に角テーブルが3個描かれており(甲14の3ないし7)、このテーブル数を単純に基礎とすれば、座席数は32個ということになる。しかし、証拠(甲5、6、8、9、10、52の各1)及び弁論の全趣旨によれば、原告が行った実態調査の結果、@平成15年5月30日の実態調査では、43席(1階31席、2階12席)、A平成16年3月12日の実態調査では、45席(1階33席、2階12席)、B平成16年4月15日の実態調査では45席(1階33席、2階12席)、C平成16年7月10日の実態調査では、1階だけで39席あることが確認され、2階には10名程度の団体客が着席していた、D平成16年7月17日の実態調査では、1階だけで35席あることが確認された上、2階には被告とのその親族らが着席していたこと、E平成16年7月26日の実態調査報告書には、「席数」として42席と記載され、店内見取図には44席(1階34席、2階10席)ある旨記載されていることがそれぞれ認められ、これらによれば、いずれも40席を超えていることになる。また、本件店舗開店当時の「わかやま新報」には、「六十人が座れる収容力も魅力。」と記載されていること(甲23)によれば、本件店舗の座席数は、開店当時からほぼ現在と同数であったと認められる。 被告は、被告本人尋問において、平成17年8月に角テーブルを追加購入したと供述するが、平成16年4月に座席数が増えたという主張と整合しない供述であるほか、平成15年5月30日の実態調査においてすら角テーブルは1階と2階合わせて8個ある旨記載されており(甲5の1)、その後の実態調査においても角テーブルが8個を超える数だけ設置してあるとの調査報告がなされたことはあっても(甲11、52の各1)、7個に減ったとの調査報告がなされたとは認められない。また、座席数は、使用料相当額を決定する要素であるからこそ、調査報告書にも座席数を書くための欄が設けてあるのであり、複数の調査報告書において40席を超える座席数が記載されていることによれば、その信用性を肯定すべきであり、被告の主張は採用できない。 被告は、原告が被告に送付した平成15年6月13日付け送付文書(甲68)に本件店舗の座席数が「40席まで」と記載されていたことも、本件店舗の座席数が40席以下であったことの根拠として主張しているが、当時はまだ実態調査が十分なされていない時期であり、このような状況下で計算根拠等を控え目にして請求することは十分あり得ることであるから、同文書の記載をもって、本件店舗の座席数が40席以下であったと認めることはできない。 なお、被告は、2階は客席ではなかったとも主張するが、被告のウェブサイトにおいても2階が客席として利用できる旨記載されており(甲14の3・6 、客に対して2階) は使用できないとの表示がされていたこともないこと(被告本人供述)によれば、被告の主張は採用できない。 ウ また、被告は、上記使用料規程に記載されている使用料金は、現実に通用している使用料金ではないから、実際に原告が徴収しているレストランにおける生演奏の包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料を上限とすべきであると主張する。 被告の上記主張は、雑誌(週刊ダイヤモンド2005年9月17日号)に掲載された原告に批判的な記事(乙2)に基づくものであると解され、なるほど同記事には「だが、実際の使用料は必ずしも規定どおりではない。月に2万円払っている店もあれば、2200円の店もある。なぜか1年間で8000円という格安契約を結んでいる店もある。いったいどういう基準で使用料が決められているのか。店主やオーナーに対する明確な説明はない。」との記載がある。しかし、同記事では取材対象や取材方法が明らかにされておらず、具体的な裏付けを有するかどうかが明らかではないから、同記事内容を容易に信用することはできない。また、仮にそのような事例があったとしても、そのような使用料規程に基づかない使用料とされた具体的事情も上記記事からは一切明らかではないから、これをもって直ちに上記使用料規程が一般的、現実に通用している使用料金ではないと断定できるものではない。したがって、本件において被告が管理著作物を使用したことによる使用料相当額を上記使用料規程に基づいて算定することが相当でないとはいえない。 エ さらに、被告は、原告が平成15年6月13日付け送付文書(甲68)において、1曲1回利用時間5分ごとの使用料ではなく、包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料を請求したことを根拠に、少なくとも当該請求の対象となった期間については、包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料を前提に、使用料相当額を算定すべきであると主張する。 しかし、被告は原告と包括的利用許諾契約を締結していないから、原告が1曲1回利用時間5分ごとの使用料相当額と包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料相当額との差額について債権放棄をしない限り、その支払を免れるものではないところ、被告の主張事実のみをもって、原告が被告に対し上記債権放棄をしたとは認められず、他に同事実を認めるに足りる証拠はない。そうである以上、損害金のうち一部を請求するか、全部を請求するかは債権者である原告の自由であって、損害金のうち一部を請求したことがあったからといって、損害金全部の請求ができなくなるとする根拠はない。また、包括的利用許諾契約を締結した場合には、1曲1回の使用料を算定する場合に比べて低額になることは、使用料徴収の便宜を考慮すれば合理性があるというべきであり、同契約を締結していない被告による管理著作物の利用行為について、包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料相当額を適用する理由はない。したがって、被告の上記主張は理由がない。 オ なお、被告は、消費税相当の損害金は認めるべきでないとも主張する。前記使用料規程には、消費税相当額を加算した額を使用料とする旨規程していることは前記のとおりであるところ、消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等を課税の対象とするものであり(消費税法4条)、ここにいう「資産の譲渡等」とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう(同法2条1項8号)のであり、著作権侵害による使用料相当損害金は、その実質は著作物の(無断)使用料に相当するものであるから、資産の譲渡等の対価に相当するというべきある(消費税基本通達5−2−5(損害賠償金)参照)。したがって、原告の被った使用料相当損害金に消費税相当額も含めるのが相当であり、これに反する被告の主張は採用できない。 (2) 使用料相当損害金又は不当利得金の額 各演奏態様における演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数は、前記2(3)認定のとおり、@ピアノ弾き語り・ピアノBGMについては、平成14年1月ないし平成15年6月までは1日当たり5曲、同年7月から平成17年2月までは1日当たり15曲、Aピアノリクエストについては、1日当たり少なくとも20曲、Bライブについては、1日当たり10曲の管理著作物が演奏されたと認められる。 ア 平成13年5月30日、同月31日、同年6月1日、同月2日、同年11月30日、同年12月8日及び同月22日の使用料相当額 上記営業日に本件店舗においてライブが開催されたので、下記計算式により使用料相当損害額は1万0290円である。 140円×10曲×7×1.05(消費税率)=1万0290円 イ 平成14年1月の使用料相当額 平成14年1月の使用料相当損害額は下記計算式により5880円である。 (140円×5曲×6日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=5880円 ウ 平成14年2月から平成14年10月までの使用料相当額 上記期間の使用料相当損害額は下記計算式により9万2610円である。 (140円×5曲×12日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=1万0290円(1か月当たりの使用料相当額)1万0290円×9か月=9万2610円 エ 平成14年11月から平成15年9月までの使用料相当額 上記期間の使用料相当損害額は下記計算式により42万4830円である。 (ア) 平成14年11月から平成15年6月までの使用料相当額 (140円×5曲×12日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×8日〔ピアノリクエスト演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=3万3810円(1か月当たりの使用料相当額)3万3810円×8か月=27万0480円 (イ) 平成15年7月から同年9月までの1か月当たりの使用料相当額 (140円×15曲×12日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×8日〔ピアノリクエスト演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=5万1450円(1か月当たりの使用料相当額)5万1450円×3か月=15万4350円 (ウ) (ア)及び(イ)の合計額 27万0480円+15万4350円=42万4830円 オ 平成15年10月から平成17年1月までの使用料相当額 上記期間の使用料相当損害額は、下記計算式により104万8110円である。 (ア) 平成15年10月及び平成16年7月の使用料相当損害額(140円×15曲×21日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×8日〔ピアノリクエスト演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=7万1295円(1か月当たりの使用料相当額)7万1295円×2か月=14万2590円 (イ) 平成15年11月ないし平成16年6月、平成16年8月ないし平成17年1月の使用料相当損害額 (140円×15曲×18日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×8日〔ピアノリクエスト演奏日数〕+140円×10曲×1日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=6万4680円(1か月当たりの使用料相当額)6万4680円×14か月=90万5520円 (ウ) (ア)及び(イ)の合計額 14万2590円+90万5520円=104万8110円 カ 平成17年2月の使用料相当額 平成17年2月の使用料相当損害額は下記計算式により6万9825円である。 (140円×15曲×21日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×7日〔ピアノリクエスト演奏日数〕+140円×10曲×2日〔ライブ演奏日数〕)×1.05=6万9825円 キ 平成17年3月の使用料相当額 平成17年3月の使用料相当損害額は下記計算式により4410円である。 140円×10曲×3日(ライブ演奏日数)×1.05=4410円 ク 平成17年4月1日から同月14日までの使用料相当額 上記期間の使用料相当損害額は下記計算式により1470円である。 140円×10曲×1日(ライブ演奏日数)×1.05=1470円 ケ 平成17年5月31日の使用料相当額 同日は「P1ライブ」が行われ、前記認定のとおり、管理著作物が18曲利用された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により2646円である。 140円×18曲×1.05=2646円 コ 平成17年7月31日の使用料相当額 同日は「万葉ジャズフェスタ前夜祭」が行われ、前記認定のとおり管理著作物が10曲分利用された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により1470円である。 140円×10曲×1.05=1470円 サ 平成17年9月19日の使用料相当額 同日は「アフタヌーンライブ」が行われ、前記認定のとおり管理著作物が11曲利用された。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により1617円である。 140円×11曲×1.05=1617円 シ 平成18年6月17日 同日は「P2 HOMETOWN LIVE [」が行われ、前記認定のとおり、管理著作物が22曲演奏された。 ただし、うち1曲については、訳詞のみが管理著作物であるので、使用料は2分の1となる。 よって、同日の使用料相当額は、下記計算式により3160円である。 140円×21.5曲×1.05=3160円(小数点以下切捨て) ス 合計額 上記アないしシの合計額は、166万6318円である。 (3) 弁護士費用 弁論の全趣旨によれば、原告は、弁護士に仮処分手続及び本件訴訟の追行を委任せざるを得なかったものと認められ、前記5(1)イの仮処分手続等の経緯、本件訴訟の事案の性質、審理の経過等にかんがみると、被告による著作権侵害と相当因果関係のある損害としての弁護士費用相当額は、25万円をもって相当と認める。 (4) また、不法行為に基づく損害賠償請求に対する附帯請求(債務不履行に基づく遅延損害金)は、すべて演奏日の存する月の翌月の1日(不法行為の後の日)を起算日とするものであるから、いずれも理由がある。 また、前記認定事実及び被告が本件店舗のオーナーとして週末には本件店舗に立ち寄っていたこと(甲69)によれば、被告は平成13年6月末日までには、本件店舗における管理著作物の演奏等に原告の許諾が必要であることを認識していたものと認められるから、遅くとも同年7月1日以降の本件店舗における管理著作物の演奏による同使用料相当額の不当利得については、悪意の受益者(民法704条)に当たると認められる。それ以前のライブ演奏に関する管理著作物使用料相当額に関する不当利得返還債務についても、同日以降は、返還すべきことについて悪意となったと認められるから、平成13年6月末日までの演奏に関する著作物使用料相当額の不当利得返還債務についての利息(民法704条)は、同年7月1日に発生したものである。 よって、平成13年5月30日及び同月31日のライブ演奏に関する利息請求は、同年7月1日を起算日とする限度で理由がある。原告のその他の利息請求は、すべて演奏日の存する月の翌月の1日(不当利得の後の日)を起算日とするものであるから、いずれも理由がある。 8 結論 (1) 被告は、本件店舗におけるピアノリクエスト、ピアノ弾き語り、ピアノBGMにおける演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏において、管理著作物を使用して著作権侵害行為を継続しており、将来においても著作権侵害行為がなされるおそれがあるから、その使用を差し止める必要があるというべきである。ただし、貸切営業における演奏については被告を利用主体とする著作権侵害行為ということができず、また、その他の演奏態様があることについては原告は何ら主張・立証をしない。したがって、原告は、著作権法112条1項に基づき、被告に対し、本件店舗におけるピアノリクエスト、ピアノ弾き語り、ピアノBGMにおける演奏、入場料を徴収する「ライブにおける演奏による管理」著作物の使用差止めを求めることができる(主文第1項)。 (2) 前記5(3)のとおり、別紙物件目録記載の物件のうち、ピアノは、専ら管理著作物の演奏に使用されるものであるから、その撤去を求めることは、著作権(演奏権)の侵害を停止又は予防するために必要な行為に該当するというべきである。したがって、著作権法112条2項に基づき、被告に対し、本件店舗からのピアノの物件の撤去を求めることができる(主文第2項)。 (3) 前記5(3)のとおり、本件店舗内にピアノその他の楽器類を搬入することの差止めを求めることは、著作権(演奏権)の侵害を停止又は予防するために必要な行為に該当するというべきである。ただし、貸切営業においては、被告を利用主体とする著作権侵害行為がなされるものとは認められないから、原告は、著作権法112条2項に基づき、被告に対し、ピアノリクエスト、ピアノ弾き語り、ピアノBGMにおける演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏において、それらの楽器の搬入の差止めを求めることができる(主文第3項)。 (4) 前記6において判示したとおり、被告は、原告に対し、平成14年7月13日から、平成18年6月17日までの間の本件店舗における著作権侵害行為に関しては、不法行為に基づく使用料相当額の損害賠償義務を負い、平成13年5月30日から平成14年7月12日までの間の本件店舗における著作権侵害行為については、不当利得返還義務を負うものである。 したがって、原告の被告に対する、平成13年5月30日から平成14年7月12日までの間の本件店舗における著作権侵害行為についての使用料相当額(別紙利息・遅延損害金目録1ないし14の元本欄参照)の不当利得返還請求及び各月の使用料相当額(別紙利息・遅延損害金目録の元本欄記載の各金員)に対する不当利得の後の日である各翌月1日(別紙利息・遅延損害金目録の起算日)から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による利息請求は理由がある。なお、平成13年5月30日及び同月31日の本件店舗における著作権侵害行為についての使用料相当合計額の不当利得返還請求に対する利息請求は、平成13年7月1日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による利息を請求する限度で理由がある。 原告の被告に対する、平成14年7月13日から平成18年6月17日までの間の著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は、同期間の本件店舗における著作権侵害行為についての使用料相当額(別紙利息・遅延損害金目録14ないし50、52の元本欄参照)及び各月の使用料相当額(別紙利息・遅延損害金目録の元本欄記載の各金員)に対する不法行為の後である各月翌月1日(別紙利息・遅延損害金目録の起算日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 また、弁護士費用相当損害金については、25万円及びこれに対する平成17年10月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(別紙利息・遅延損害金目録51の元本欄及び起算日欄参照)。 第5 結論 よって、原告の本訴請求は、前記第4の8記載の限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。なお、主文第1ないし第3項については、相当でないから仮執行宣言を付さないこととする。 よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次 裁判官 西理香 裁判官 西森みゆき |
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