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【事件名】「聖教グラフ」掲載写真のHP無断使用事件
【年月日】平成19年4月12日
 東京地裁 平成18年(ワ)第15024号 損害賠償請求事件
 (平成19年3月12日 口頭弁論終結)

判決
原告 創価学会
訴訟代理人弁護士 山下幸夫
同 中村秀一
同 田中秀浩
同 清見勝利
同 高柳幸一
被告 A
訴訟代理人弁護士 小川原優之


主文
1 被告は、原告に対し、40万円及びこれに対する平成16年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 原告の請求
1 被告は、原告に対し、440万円及びこれに対する平成16年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、別紙1の写真(以下「本件写真」という。)を著作した原告が被告に対し、被告が、本件写真を複製の上一部切除するなどして作成した別紙2の写真(以下「被告写真」という。)を、自らの開設するホームページに掲載した行為が、複製権侵害(著作権法21条)、公衆送信権侵害(同法23条1項)、同一性保持権侵害(同法20条)に当たるとして、損害賠償金440万円(複製権・公衆送信権侵害に基づく実施料相当額200万円、同一性保持権侵害に基づく慰謝料200万円、不法行為に基づく弁護士費用40万円)の支払及び不法行為の日である平成16年2月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実及び末尾掲記の証拠により認められる事実)
(1) 本件写真は、聖教新聞社が発行する機関誌「聖教グラフ」平成2年7月11日号に掲載された(甲1)。上記「聖教グラフ」には、「The Seikyo Shimbun」が著作権者として表示されている。
(2) 被告は、遅くとも平成16年2月27日から平成18年4月28日ころまで、被告写真を、自らの開設するホームページ(アドレス省略。以下「被告ホームページ」という。)に掲載した(甲2ないし4、弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 本件写真の著作物性とその著作者(争点1)
(2) 被告写真が本件写真の複製物といえるか(争点2)。
(3) 被告写真を被告ホームページに掲載した行為が同一性保持権侵害行為に当たるか(争点3)。
(4) 故意又は過失の有無(争点4)
(5) 被告写真を被告ホームページに掲載した行為が著作権法32条1項の引用に当たるか(争点5)。
(6) 損害の額(争点6)
第3 当事者の主張
1 本件写真の著作物性とその著作者(争点1)
(1) 原告
 本件写真は、原告の機関誌を発行する部門である聖教新聞社の写真局カメラマンであるB(以下「B」という。)が、原告の発意に基づき撮影し、自己の著作名義の下に公表したものである。Bは、本件写真の撮影に際し、被写体であるC(以下「C」という。)の品格やローブ全体の格調の高さを引き立たせるために、撮影場所として絵画や花瓶のある創価女子短期大学本校舎1階の応接室を選び、室内にはライティング・アンブレラセットを使用してストロボのセッティングをし、照明等について入念にテストした上で、背景、構図、照明、光量、絞り等に工夫を加えた。また、Bは、本件写真のために数百カットを撮影し、その中から創作意図が最もよく表現されている写真として、本件写真を選択したものである。
 本件写真が著作物性を有すること、及び、本件写真の著作者が原告であることは明らかである。
(2) 被告
 原告は、Bが本件写真を撮影する際に工夫を加えた旨主張する。
 しかし、Bは原告の方針に従って本件写真を撮影していることから被写体がCであることは当然であって被写体の選択には創作性はない。また、本件写真は、Cの直立した姿を中央に配置してほぼ正面から撮影したものにすぎず、背景や構図に工夫が加えられているとはいえない。被写体の表情及びポーズも、勲章等を身につけて撮影する場合のありふれたものであって、工夫が加えられているとはいえない。ライティング・アンブレラセットを使用してストロボのセッティングを行うことは、肖像写真を撮影する際の一般的な技法であり、照明、光量、絞り等に工夫が加えられているようには見えない。本件写真が数百カットの中から選ばれた一枚であることは、本件写真の創作性を基礎づけるものではない。
 したがって、本件写真は撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず、著作物性を認めることはできない。
2 被告写真が本件写真の複製物といえるか(争点2)。
(1) 原告
 被告写真は、構図、背景、式帽とローブを着用した被写体のポーズなど、本質的特徴において本件写真と同一であることは明白である(甲6)。
 被告が同一性がないとして挙げる理由は、いずれも表現内容全体の中では些細なものにすぎず、同一性が否定されるようなものではない。
(2) 被告
 被告写真は、本件写真の創作上の本質的特徴を再製したものではなく、著作物としての同一性はないのであって、複製権を侵害していない。
 本件写真の本質的特徴は、原告の主張によれば、Cの品格とローブ等の格調の高さを表現するために工夫を加えて撮影している点にあり、B作成の陳述書(甲7)には、ヨーロッパで著名なゴブラン織りの額を背景とし、ローブの腕の部分の刺繍がしっかりと写るようにし、Cの表情も穏やかな表情や唇を閉じた厳粛な表情をお願いした旨が記載されている。しかし、被告写真は、極めて目の粗い白黒写真であり、背景がどのような織物であるかは識別できず、ローブの腕の部分の刺繍がどのようなものかも識別できず、Cの表情もどのような表情かは識別できないのであって、品格や格調の高さは全く表現されていない。
3 被告写真を被告ホームページに掲載した行為が同一性保持権侵害行為に当たるか(争点3)。
(1) 原告
 被告は、本件写真について、左右上下の部分を切除した上、これを白黒で複写する改変を加えて被告写真を作成したものである。
 被告の行為は同一性保持権侵害に当たる。
(2) 被告
 被告は、インターネット上に掲載されていた被告写真をそのままの状態で複製して被告ホームページに掲載しただけであって、原告が主張するような改変行為は行っていない。Cがローブをまとった写真は、様々なメディアに掲載され(乙1ないし17)、インターネット上に氾濫している(乙18)。被告は、インターネットの「自由の砦」と題するホームページ上に掲載されていた被告写真(現在は削除されている。)をそのまま被告ホームページに貼り付けたものである。被告は、本件写真が「聖教グラフ」に掲載されていることを知らなかった。
 被告は、本件写真を何ら改変していないのであって(乙19)、被告が原告の著作者人格権を侵害していないことは明らかである。
4 故意又は過失の有無(争点4)
(1) 原告
 被告は、本件写真が「聖教グラフ」に掲載されたことを知らず、「自由の砦」と題するホームページに掲載されていたものをそのまま貼り付けたにすぎないと主張する。
 しかし、仮に被告の主張が真実であるとしても、「自由の砦」と題するホームページは、原告を批判・中傷する内容のものであるから、このホームページの開設者が本件写真の著作権を有するはずがなく、被告は、本件写真の著作権が原告に帰属していると考えて然るべきである。
 したがって、被告が漫然と被告写真をコピーして貼り付けたことに過失が認められることは明らかである。
(2) 被告
 被告写真は、様々なメディアに掲載されており、被告は、このような状況下において、正当な引用の目的で他のホームページ(「自由の砦」)に掲載されていた被告写真を何ら改変することなくそのまま被告ホームページに貼り付けた。被告は、当時、本件写真が「聖教グラフ」に掲載されていたことを知らなかった。
 被告には、著作権侵害の故意も過失もないことは明らかである。
 原告は「自由の砦」は原告を批判・中傷する内容のホームページであるから、この開設者がCが被写体になっている本件写真の著作権を有しているはずがなく、被告は、同著作権が原告に帰属していると考えて然るべきである旨主張する。しかし、被告が被告写真を被告ホームページに掲載した当時、原告が「自由の砦」のホームページの開設者に対して著作権侵害を理由に提訴しているというような話はまったくなく、また、同様の写真が雑誌やインターネット等に氾濫していたのであるから、そのような状況下で被写体がCであるからといって本件写真の著作権が原告に帰属すると考えて然るべきであるなどとは到底いえない。
5 被告写真を被告ホームページに掲載した行為が著作権法32条1項の引用に当たるか(争点5)。
(1) 被告
 被告は、もともとは創価学会の会員であった。しかし、創価学会が日蓮正宗を不当に誹謗中傷していることから、被告は、創価学会を脱会し、日蓮正宗の熱心な信徒となったものであり、創価学会の不当な活動に対して批評し、批判を加える必要があると考え、平成11年ころ、「創価学会からの脱会を考える会」と題するホームページ(被告ホームページ)を立ち上げた。
 被告は、Cが、名誉や地位を表立っては否定していながら、実際にはそれを追求していることが宗教者としてあるまじき姿勢であり、そのような姿勢を批評・批判する必要があると考えていた。そして、ローブをまとったCの写真が名誉や地位を追求していることを端的に示していることから、被告は、インターネット上に掲載されていた被告写真を、そのまま被告ホームページに貼り付けた上で「名誉も地位も要りません。そのような人間が世界に一人ぐらいいてもいいでしょう。」というC自身の過去における発言を併記することによって、Cの過去の発言と現在の姿のミスマッチを際だたせようとしたものである。また、仏教を信仰する人間であればそれらしい姿があるはずなのであって、あのローブ姿の写真が仏教者としてふさわしい姿ではなく「西洋かぶれ」と感じられたことからその旨を書き加えたものである。被告ホームページの被告写真の掲載及びその上下の書き込みは、Cの姿勢を批評、批判する意味で記載されたものであり、被告ホームページ全体の趣旨からして被告写真が従で、Cを批判する上下の記載が主であることは一読して明らかである。被告の当該行為は憲法21条の保障する表現の自由の範囲内であって、社会通念に照らして正当な範囲内の利用であり、公正な慣行に合致するものである。宗教的権威であり、政治的権力も有しているCについて多少揶揄した言葉を用いたからといって、そのことをもって正当な引用であることを否定すべきではない。さらに、被告写真及びその上下の書き込みは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に当たることも明らかである。
(2) 原告
 著作権法32条1項の趣旨は、新しい著作物を創作する上で、既存の著作物の表現を引用して利用しなければならない場合があることから、所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばないものとすることにあると解されるから、利用する側に著作物性、創作性が認められない場合は、引用に該当せず、本条項の適用はないというべきである(東京地裁平成10年2月20日判決。「バーンズ・コレクション展」事件)。
 被告ホームページにおいては、被告写真を指示して「西洋かぶれの出来そこない!(笑)」との記載があるが、当該表現方法はありふれた表現にすぎず、何ら創作的な要素が認められないから著作物であるということはできない。
 また、著作権法32条1項の「引用」に当たるというためには引用著作物と被引用著作物との間に主従関係がなければならない。これを本件についてみると、本件ホームページには、被告写真の上下に「西洋かぶれの出来そこない!(笑)」、「名誉も地位も要りません。そのような人間が世界に一人ぐらいいてもいいでしょう。(D博士との対談から)」との言葉が記載されているが、上記記述と被告写真との対応関係が不明確である。また、被告ホームページは、無断転載の写真や編集された写真の寄せ集めで構成されていることは一目瞭然である。これに、被告写真の出典が明示されていないことを併せ考えると、被告ホームページにおいては、被告写真が主であり、「西洋かぶれの出来そこない!(笑)」との表現方法が従であるといえる。
 さらに、著作権法32条1項の「引用」に当たるというためには、被引用著作物の著作意図を損なわないよう忠実に引用した上で批評・批判すべきである。本件において、被告写真は、本件写真を白黒にして、背景のゴブラン織の額やローブの模様などが不鮮明になっているとともに、ゴブラン織の額が大幅にトリミングされ、本件写真の著作意図である「品格と格調」が減殺されている。さらに、被告は、被告写真について、Cが名誉や地位を追求していることを端的に示すものであるとして、被告写真を指す矢印と「西洋かぶれの出来そこない!(笑)」との嘲笑した言葉を殊更に赤字で記載し、「名誉も地位も要りません。そのような人間が世界に一人ぐらいいてもいいでしょう(D博士との対談から)」との揶揄した言葉を記しているのであり、こうした引用の態様が公正な慣行に合致した正当な範囲内の引用であるとは到底いえない。
 したがって、被告写真の掲載が正当な引用であるとの被告の主張は失当である。
6 損害の額(争点6)
(1) 原告
 原告は、被告の不法行為による複製権及び公衆送信権の侵害によって損害を被っており、本件写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は200万円である。また、被告の著作者人格権侵害による慰謝料としては200万円が相当である。被告の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は40万円である。
 被告は、インターネット上の被告ホームページに被告写真を掲載していた。ホームページは、ビラ等の印刷物とは比較にならないほど多数の人が容易に閲覧することができる表現媒体である。このような事情を考慮すれば、本件写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は200万円とするのが相当である。
 なお、本件写真を改変した上ビラ100万部を作成し、そのうちの一部を配布したという事実関係において、本件写真の著作権を利用したことによって受けるべき金額を50万円とした裁判例が存在する(東京地方裁判所平成13年(ワ)第12339号損害賠償等請求事件。甲5の1)。
(2) 被告
 原告は、本件写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は200万円である旨主張するが、全く証拠に基づかない暴論である。実際には、被告ホームページを閲覧する者は、日蓮正宗の信徒や創価学会会員の中でも限られた少人数だけで、これは、「創価学会からの脱会」といういわば特別なテーマを扱っていることからして当然のことである(乙19)。原告に実質的な損害は発生していないのである。
 したがって、仮に被告に損害賠償義務が存在するとしても、「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」は、皆無か名目的な金額をもって足りるとすべきものである。別件訴訟の高裁判決には「写真の使用についての使用料は、一般に、葉書、チラシ等への使用の場合で5ないし6万円前後、PR誌等への使用で20万円前後、新聞記事写真の使用料は数万円程度であることが認められる」としており(甲5の2の41頁)、営利目的のPR誌が高額であることは別として、非営利目的である本件ホームページ上の写真についてはせいぜい数万円が相当である。
 なお、本件写真を改変した上ビラ100万部を作成し、そのうちの一部を配布したという事実関係において、本件写真の著作権を利用したことによって受けるべき金額を50万円とした裁判例が存在するが、当該別件においては「複製したものに吹き出しを付加するなど、撮影者の創作意図に反することを殊更に意図した形態」で本件写真が利用されていることから、「著作権者が受けるべき金銭の額は、常識的な範囲内の利用行為を想定して行われる通常の許諾の場合における金額と同一に論じることはできない」として、著作権法114条3項による損害額を50万円をもって相当と認めると判示しているものである。したがって、当該別件と本件では写真の利用形態が全く異なっており、別件訴訟における50万円は甚だしく高額であるといえ、本件における額の算定においては参考にならないものである。
第4 当裁判所の判断
1 本件写真の著作物性とその著作者(争点1)
(1) 証拠(甲1、7、8)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件写真は、縦長のカラー写真で、ほぼ中央に身体を左斜め前に向け、顔のみを正面に向けた姿勢で、スーツの上に、黒色及び紫色の地に金色の刺繍等をあしらったローブをまとい、黒色に金色の縁取り等が施された式帽をかぶって直立しているCの全身を撮影したものであり、その背景には壁と床、及び、壁に掛けられたゴブラン織りの絵が配されている(甲1)。
イ 本件写真を撮影したBは、昭和43年4月、原告に就職し、原告の中の、機関誌その他出版物の出版・販売を行う部門である聖教新聞社に配属され、その後、昭和50年6月の原告の機構改編により編集総局写真局写真部の配属となった。Bの職務は、昭和46年から今日まで、Cが出席する行事や会合の模様、その際のCの表情等の写真撮影であった。
ウ Cは、平成元年11月に行われた創価大学等の卒業生の集まりである「創価教育同窓の集い」において、創価大学の卒業生から、創価大学創立20周年を記念してローブを贈呈される予定であった。
 そこで、Bは、平成元年11月4日、職務の一環として、当該ローブを着用したCの姿を撮影することにした。
 Bは、撮影場所について、背景には何らかの装飾品があった方が人物が引き立つこと、撮影機材の関係である程度広さが必要であること等の理由から、絵画や花瓶がある創価女子短期大学内応接室で撮影することとした。また、Bは、背景について、上記ローブが英国王室ご用達のエーデ・アンド・レーベンスクロフト社製であったことから、ゴブラン織りの絵を背景にすると調和が取れるのではないかと考え、当該絵を背景として本件写真を撮影することにした。Bは、照明について、移動用のライティング・アンブレラセットというストロボを用意した上で、Cの立ち位置を決め、人物の影が濃くなりすぎないように、また、逆に影を消しすぎて薄っぺらな仕上がりにならないように、ストロボを置く角度、高さ、光量を考慮して、露光計で背景の壁などの露光を計り、また、事前にテスト用ポラロイドフィルムで撮影を繰り返し、シャッター・絞りを決めた。Bは、以上のような事前準備によって、Cの表情、衣服、ローブの生地と錦糸の模様の質感を豊かにし、自然で柔らかい写真に仕上がるよう工夫した。さらに、Bは、Cのポーズについて、ローブの腕の部分の刺繍がよく写るよう半身のポーズとし、顔の表情と向きについて、唇を閉じた厳粛な表情で、正面向きとし、式帽の全体がよく写るようにした。Bは、百数十カットの写真を撮影し、その中から選ばれた1枚が本件写真である。
エ 原告は、Cの平和行動や創価学会員とのふれ合いの場面の写真を掲載する特集「創立60周年記念企画虹かける日々」(全41回)の25回目の企画として、本件写真を機関誌「聖教グラフ」1990年7月11日号に掲載し、原告の一部門である聖教新聞社の著作の名義の下に、本件写真を公表した。
(2) 上記認定事実によれば、Bは、本件写真の撮影に当たり、背景、構図、照明、被写体であるCの表情等に工夫を加えて撮影していることが認められるから、本件写真にはBの個性が表現されている。したがって、本件写真は、Bの思想又は感情を創作的に表現したものということができ、著作物性を有する。
 また、上記認定事実及び前記前提となる事実によれば、本件写真は、Bが原告の発意に基づき、職務上作成した上、原告の名義で公表したものといえるから、著作権法15条1項の職務著作の要件を満たし、その著作者は原告と認められる。
2 被告写真が本件写真の複製物といえるか(争点2)。
(1) 被告写真は、縦長の白黒写真で、ほぼ中央に身体を左斜め前に向け、顔のみを正面に向けた姿勢で、スーツの上に、刺繍等をあしらったローブをまとい、式帽をかぶって直立するCが撮影されているものであり、その背景には壁及び壁に掛けられた絵が配されている(甲2)。
(2) 本件写真を40%に縮小印刷した上で、上下左右を一部切除すると、被告写真とほぼ一致する(甲6)。
(3) 本件写真と被告写真とを詳しく対比すると、被告写真は、カラーではなく白黒であるため、ローブや式帽の色彩が不明であること、また、本件写真と比べると写真の鮮明度がやや低いため、Cの表情、ゴブラン織りの絵の模様、ローブの刺繍の模様などがやや不鮮明であること、Cの膝から下の部分と上下左右の背景の一部が切除されていることなどにおいて本件写真と異なる。しかし、被告写真は、絵を背景として、Cがほぼ中央に身体を左斜め前に向け、顔のみを正面に向けた姿勢で、スーツの上に、刺繍等をあしらったローブをまとい、式帽をかぶって直立している姿において、本件写真と同じである。また、ローブの腕の部分に写っている模様が同一の形状であることからすれば、両写真の被写体であるローブは同一のものであり、また、背景のうち重要部分を占めるゴブラン織りの絵も、その模様から同一のものであることが認められる。
(4) 以上によれば、被告写真は、本件写真を白黒にし、やや不鮮明な態様で再製した上で、その上下左右の一部を切除したものであり、本件写真の複製物であると認められる。
3 被告写真を被告ホームページに掲載した行為が同一性保持権侵害行為に当たるか(争点3)。
(1) 被告は、第三者によって既に作成されていた被告写真をそのまま被告ホームページに貼り付けたと主張する。
 被告写真は、上記認定のとおり、本件写真と比べると、写真の鮮明度がやや低い。一方、証拠(乙1ないし17、18の1ないし3)によれば、原告やCを批判する様々な雑誌、機関誌、ホームページ等において、たびたびやや不鮮明な態様で本件写真の複製物と思料されるものが掲載されていることが認められる。これらの事実と証拠(乙19)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告がこれらのやや不鮮明な複製物から被告写真をコピーし、そのまま被告ホームページに掲載したと解するのが合理的であり、被告は、インターネット上のホームページ「自由の砦」に掲載されていた被告写真をコピーして被告ホームページに貼り付けたものと認めるのが相当である。原告は、被告が、本件写真を改変して被告写真を作製した旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) 前記認定のとおり、被告は、何人かが本件写真を白黒にし、上下左右の一部を切除して作成された被告写真をそのまま複製したものである。しかし、著作物を一部改変して作成された同一性保持権を侵害する複製物をそのまま複製し、本件のように、自らのホームページに掲載する行為も、客観的には、著作物の改変行為であり、著作権法20条1項の同一性保持権侵害行為に当たるというべきである。この場合、複製者が、当該複製対象について、他人の著作物を改変して作成されたものであることを認識していたかどうかについては、同一性保持権侵害行為についての故意又は過失の有無の問題として検討されるべきことである。
 被告写真は、前記認定のとおり、本件写真のうち、Cの膝から下の部分及び上下左右の背景部分の一部を切除し、白黒で複製したものであるから、本件写真を改変して作成されたものであり、これをそのまま複製した被告の行為は、原告が有する同一性保持権を侵害する行為に当たるというべきである。
4 故意又は過失の有無(争点4)
(1) 著作権侵害(複製権侵害及び公衆送信権侵害)についての故意又は過失の有無
 弁論の全趣旨によれば、被告は、その著作権が誰に帰属するか等を確認することなく被告写真をコピーして被告ホームページに貼り付けたものと認められるから、本件写真の著作権侵害(複製権侵害及び公衆送信権侵害)について少なくとも過失があることは明らかである。
(2) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)についての故意又は過失の有無
ア 証拠(乙1ないし17、乙18の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、平成2年ころから平成13年ころにかけて、本件写真は、様々な雑誌、機関誌等に掲載され、中には、カラーで本件写真をほぼそのままに近い態様で掲載したもの(乙1ないし4)もあったことが認められる。
 証拠(甲2、乙5ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、被告が被告写真をコピーしたホームページ「自由の砦」は、原告やCを批判する内容の記事等を掲載したものであったと認められる。そして、被告写真は、前記認定のとおり、鮮明度がやや低い白黒写真であり、その内容は、Cがローブ及び式帽を着用して壁に飾られた絵の前に立ってポーズを取っている姿を撮影したものである。
イ 上記認定事実によれば「、 自由の砦」に掲載された被告写真は、Cが自らの意思に基づいて積極的に撮影を許した写真を、Cないし原告に批判的な者がこれを無断でコピーして用いていることが一見して明らかである。そして、このような使用形態においては、元の写真を一部切除したりするなどの何らかの改変が加えられることはままあることであり、実際、本件写真は、平成2年から平成13年にかけて、改変を加えられた様々な態様で用いられており、被告もこのことを認識し得たはずである。それにもかかわらず、被告は、「自由の砦」に掲載された被告写真が、元の著作物に改変が加えられているものか否かを確認することなく漫然と被告ホームページにコピーしてこれを掲載したのであるから、本件写真の同一性保持権侵害について、少なくとも過失があるものと認められる。
(3) よって、被告には、複製権侵害、公衆送信権侵害及び同一性保持権侵害について過失があったものと認められる。
5 被告写真を被告ホームページに掲載した行為が著作権法32条1項の引用に当たるか(争点5)。
(1) 証拠(甲2、乙19)によれば、次の事実が認められる。
 被告は、もともとは原告の会員であったものの、原告が日蓮正宗とその僧侶を強く誹謗中傷したことから、原告を脱会し、日蓮正宗の信徒となったものであり、平成11年ころ、原告の邪義を検証し、日蓮正宗の正義を高揚するという目的で、「創価学会からの脱会を考える会」という被告ホームページを開設した。
 被告は、Cが、過去に勲章や位を否定する発言をしており、昭和42年ころ、E伯から、ノーベル賞をもらえると激励を受けた際に、「そのような名誉はほしくもありません。また、くださるといっても、受け取ることもありません。そのような人間が世界に一人ぐらい、いてもよいでしょう。」と述べていたにもかかわらず、現在は名誉欲を露わにした行動が多いと考えていた。そこで、被告は、Cの過去の発言と現在の姿のミスマッチを指摘するとの考えから、被告ホームページにおいて、「Cの御尊体アルバム」との表題の下に、まず「↓西洋かぶれの出来そこない!(笑)↓」と記載し、その下に、被告写真を掲載して、同写真に「名誉も地位も要りません。そのような人間が世界に一人ぐらいいてもいいでしょう。(D博士との対談から)」との引用形式のコメントを記載した。なお、被告ホームページにおいては、その下に、Cを被写体とした写真を合計3枚掲載し、例えば、「どこの組織のチンピラか」、「日本の破壊的カルトの代表者達」などのコメントを各写真の下に掲載している。
(2) 以上の被告ホームページの掲載内容からすれば、被告による被告写真の掲載行為を、著作権法32条1項の「引用」すなわち「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」引用と認めることはできない。その理由は、次のとおりである。
 著作権法32条1項における「公正な慣行に合致」し、かつ、「引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」引用とは、健全な社会通念に従って相当と判断されるべき態様のものでなければならず、かつ、報道、批評、研究その他の目的で、引用すべき必要性ないし必然性があり、自己の著作物の中に、他人の著作物の原則として一部を採録するか、絵画、写真等の場合には鑑賞の対象となり得ない程度に縮小してこれを表示すべきものであって、引用する著作物の表現上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに、両著作物間に、引用する側の著作物が「主」であり、引用される側の著作物が「従」である関係が存する場合をいうものと解すべきである。
 被告は、前記認定のとおり、Cが名誉欲を露わにした行動が多いと考え、これを強く非難する目的で、被告ホームページに被告写真を掲載し、上記コメントを掲載したものである。しかし、被告がCの宗教者としての上記行動を非難する記事を創作するために、他人の著作物である本件写真を使用しなければならない必然性はなく、宗教者としてのCの上記行動を非難するのであれば、ほかにさまざまな表現方法によることが可能なはずである。また、本件写真は、上記認定のようなものであり、本件写真を被告ホームページにおけるように、Cを揶揄するような態様において使用することは、本件写真の著作者の制作意図にも強く反し、本件写真の著作者が正当な引用として許容するとは到底考えがたいところのものである。
 また、被告ホームページは、前記のような構成であり、被告が記載したものは、わずかに「Cの御尊体アルバム」という表題と「↓西洋かぶれの出来そこない!(笑)↓」との記載及び引用形式の上記記載だけであるにすぎず、被告ホームページにおけるこの表現方法は、これらの表題や記載と共に、被告写真を掲載することにその主眼があるといえるものである。被告ホームページにおけるこれらの表題や上記記載部分と被告写真とは、前者が「主」で、後者が「従」であるという関係にあるということができないことは明らかである。
 したがって、被告ホームページにおける被告写真の掲載行為は、健全な社会通念に照らし許容し得る引用ということはできず、これを「公正な慣行に合致」し、かつ、「引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」ものということはできない。
 よって、被告ホームページにおける被告写真の掲載行為は、これを著作権法32条1項の「引用」に当たるということはできない。
6 小括
 以上によれば、原告は、本件写真の著作権及び著作者人格権を有しており、被告は、本件写真の複製物である被告写真を複製して被告ホームページに掲載して公衆送信(送信可能化)を行ったものと認められ(著作権法2条1項九の五、十五、また、被告写真は、) 本件写真を白黒にし、その上下左右を一部切除したものであるから、かかる被告の行為は原告の上記著作権(複製権、公衆送信権)、同一性保持権を侵害するものと認められる(同法20条1項、21条、23条1項)。
7 損害の額(争点6)
(1) 実施料相当額について
ア 証拠(甲2、10の1・2、乙19)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a) 被告ホームページは、「創価学会からの脱会を考える会」と題し、原告ないしはCの活動を批判する内容のホームページである(乙19)。被告写真は、平成16年2月27日から平成18年4月28日ころまでの約2年2か月間、被告ホームページの中の「Cの御尊体アルバム」という表題の下に、前記5認定の態様で掲載されたものである(甲2)。
b) NATURE PRODUCTIONがインターネット上で公開している写真国内使用標準料金表においては、インターネットの中ページにおける写真の使用料金は3か月で4万円、6か月で6万円、1年間で8万円である(甲10の1)。
 また、同料金表の利用規約には、「無断使用、目的外使用につきましては、当該使用料の10倍を申し受けます。」と記載されている(甲10の2)。
イ 上記アb)の認定事実から、原告が本件写真をインターネットの中ページに2年2か月掲載する場合に受けるべき通常の使用料相当額を計算すると20万円となる(8万円×2年間+4万円)。
 しかし、被告は、前記認定のとおり、原告及びCの活動を批判する被告ホームページにおいて、本件写真の著作者である原告の制作意図に反することを、殊更に意図した形態で、本件写真の複製物である被告写真を掲載したものであり、このような場合、著作権行使につき受けるべき金銭の額は、常識的な範囲での利用行為を想定して行われる通常の許諾の場合における金額と同一に論じることはできない。
 以上の事実を総合すれば、原告が本件写真の著作権行使につき受けるべき金銭の額は、本件の被告の著作権侵害行為については30万円と認めるのが相当である。
 原告は、被告写真が掲載されたインターネット上のホームページは、ビラ等の印刷物とは比較にならないほど多数の者が容易に閲覧することができる表現媒体であるから実施料相当額は200万円である旨主張する。しかし、原告が提出する甲10の1・2によれば、インターネット上のホームページにおける掲載であっても、使用料は前記のとおりであるにすぎないことが認められるから、原告の上記主張は理由がないことが明らかである。
(2) 著作者人格権侵害に基づく慰謝料について
 証拠(甲1、2)及び弁論の全趣旨によれば、被告写真は、本件写真のうち、ローブを着て直立しているCの膝から下の部分とその背景のうちの上下左右の一部を切除し、白黒で複製したものであると認められる。
 上記のうち切除された部分は、本件写真において特に重要な部分であるとはいえず、また、カラー写真を白黒で複製するという改変態様は、改変の態様として特に悪性が強い態様ともいえない。そうすると、本件写真が商業用に撮影された写真ではないこと、約2年2か月の間、インターネット上に掲載されていたことを考慮しても、同一性保持権侵害による慰謝料は5万円と認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用について
 原告が、本訴の提起、追行を代理人弁護士に依頼したことは当裁判所に顕著である。原告の請求の内容、本件事案の性質、訴訟追行の難易度等を考慮すれば、弁護士費用5万円は、被告の侵害行為と相当因果関係のある損害と認められる。
(4) 小括
 以上によれば、原告が被告の行為により被った損害の額は、合計40万円と認められるから、原告の損害賠償金支払請求は40万円の支払を求める限度で理由がある。
第5 結論
 以上によれば、原告の請求は、損害賠償金40万円及びこれに対する平成16年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 古河謙一
 裁判官 吉川泉は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 設樂隆一


(別紙写真省略)
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