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【事件名】CADプログラムの著作権譲渡事件 【年月日】平成22年3月31日 東京地裁 平成18年(ワ)第5689号 著作権侵害差止等請求事件(第1事件)、 平成18年(ワ)第24994号 著作権侵害差止等請求事件(第2事件) (口頭弁論終結日 平成21年10月7日) 判決 第1事件原告・第2事件被告 コンセプト・テクノロジー株式会社 同訴訟代理人弁護士 藤田謹也 同 小林豊 同訴訟復代理人弁護士 鵜澤亜紀子 同補佐人弁理士 小林正治 同 小林正英 第1事件被告 コムネット株式会社 同訴訟代理人弁護士 藤原誠 同 木口充 同 山川良知 同 安田嘉太郎 同 野口晋司 同 島田荘子 同 伊藤知佐 同 宇田川春菜 同 黒田勇樹 同 矢根俊治 同 平野和宏 第2事件原告 アシュラ・インコーポレイテッド 同訴訟代理人弁護士 山口孝司 同 松岡伸晃 同 堀井昭暢 同 岩崎浩平 同 大瀬戸豪志 主文 1 第1事件被告は、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のCADソフトウェアを複製、頒布してはならない。 2 第1事件被告は、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のCADソフトウェアを廃棄せよ。 3 第1事件被告は、第1事件原告・第2事件被告に対し、454万5079円及びこれに対する平成21年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 第1事件原告・第2事件被告は、別紙「原告コンセプト商品目録」記載3のCADソフトウェアを複製、頒布、自動公衆送信又は送信可能化してはならない。 5 第1事件原告・第2事件被告は、別紙「原告コンセプト商品目録」記載3のCADソフトウェアを廃棄せよ。 6 第1事件原告・第2事件被告は、第2事件原告に対し、5826万0284円及びうち2602万9612円に対する平成18年11月1日から、うち2562万3000円に対する平成21年7月17日から、うち660万7672円に対する平成17年7月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 第1事件原告・第2事件被告及び第2事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。 8 訴訟費用は、第1事件原告・第2事件被告と第1事件被告との間においては、これを10分し、その1を第1事件被告の負担とし、その余は第1事件原告・第2事件被告の負担とし、第1事件原告・第2事件被告と第2事件原告との間においては、これを2分し、その1を第2事件原告の負担とし、その余は第1事件原告・第2事件被告の負担とする。 9 この判決の第1、第3、第4、第6項は、仮に執行することができる。 10 第2事件原告のために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 第1事件 (1) 請求の趣旨 ア 第1事件被告は、別紙「被告コムネット商品目録」記載1のCADソフトウェア及びそのマニュアル(使用説明書)を複製、販売、頒布、展示してはならない。 イ 第1事件被告は、別紙「被告コムネット商品目録」記載1のCADソフトウェア及びそのマニュアル(使用説明書)を自動公衆送信又は送信可能化してはならない。 ウ 第1事件被告は、別紙「被告コムネット商品目録」記載2のCADソフトウェア及びそのマニュアル(使用説明書)を複製、販売、頒布、展示してはならない。 エ 第1事件被告は、別紙「被告コムネット商品目録」記載2のCADソフトウェア及びそのマニュアル(使用説明書)を自動公衆送信又は送信可能化してはならない。 オ 第1事件被告は、別紙標章目録記載2の標章を付した別紙「被告コムネット商品目録」記載1のCADソフトウェア、その包装箱その他の印刷物を販売し又は販売のために展示してはならない。 カ 第1事件被告は、別紙標章目録記載1、2の標章を付した別紙「被告コムネット商品目録」記載2のCADソフトウェア、その包装箱その他の印刷物を販売し又は販売のために展示してはならない。 キ 第1事件被告は、前記ア〜カ項の商品に関する宣伝用カタログ、パンフレットその他の広告に別紙標章目録記載1、2の標章を付して展示若しくは頒布し、又は、前記ア〜カ項の商品に関する情報に別紙標章目録記載1、2の標章を付してインターネット・ホームページ上で提供してはならない。 ク 第1事件被告は、前記ア〜キ項のソフトウェア複製物、印刷物及び広告物を廃棄し、インターネットのホームページにおける前記ア〜キ項の商品に関する情報から別紙標章目録記載1、2の標章を削除せよ。 ケ 第1事件被告は、第1事件原告・第2事件被告に対し、1億2264万2447円及びこれに対する平成21年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 コ 訴訟費用は第1事件被告の負担とする。 サ 仮執行宣言 (2) 請求の趣旨に対する答弁 ア 第1事件原告・第2事件被告の請求をいずれも棄却する。 イ 訴訟費用は第1事件原告・第2事件被告の負担とする。 2 第2事件 (1) 請求の趣旨 ア 第1事件原告・第2事件被告は、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のCADソフトウェア及びそれらのマニュアルを複製、頒布してはならない。 イ 第1事件原告・第2事件被告は、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のCADソフトウェア及びそれらのマニュアルを廃棄せよ。 ウ 第1事件原告・第2事件被告は、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のCADソフトウェアを自動公衆送信又は送信可能化してはならない。 エ 第1事件原告・第2事件被告は、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のCADソフトウェアの販売に当たり、「VELLUM」、「vellum」、「ベラム」又はこれらの文字を含む標章を付した広告を頒布してはならない。 オ 第1事件原告・第2事件被告は、「VELLUM」、「vellum」、「ベラム」又はこれらの文字を含む標章を付した前項の広告を廃棄せよ。 カ 第1事件原告・第2事件被告は、「VELLUM」、「vellum」、「ベラム」又はこれらの文字を含む標章を付したエ項の広告をインターネット(電気通信回線)を通じて提供してはならない。 キ 第1事件原告・第2事件被告は、前記エ項の広告を第1事件原告・第2事件被告のホームページから削除せよ。 ク 第1事件原告・第2事件被告は、第2事件原告に対し、7326万6893円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ケ 第1事件原告・第2事件被告は、第2事件原告に対し、7160万2704円及びこれに対する平成21年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 コ 第1事件原告・第2事件被告は、第2事件原告に対し、1700万円及びこれに対する平成17年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 サ 訴訟費用は第1事件原告・第2事件被告の負担とする。 シ 仮執行宣言 (2) 請求の趣旨に対する答弁 ア 本案前の答弁 (ア) 本件訴えを却下する。 (イ) 訴訟費用は第2事件原告の負担とする。 イ 本案の答弁 (ア) 第2事件原告の請求をいずれも棄却する。 (イ) 訴訟費用は第2事件原告の負担とする。 第2 事案の概要 1(1) 第1事件は、第1事件原告・第2事件被告(以下「原告コンセプト」という。)が、CAD(コンピュータ支援デザイン)ソフトウェア(32ビットアプリケーションソフトウェア) であるAshlar-Vellum3.0( 以下「Vellum3.0」という。)のプログラム(以下、そのソースコードを「Vellum3.0コード」ともいう。)に係る著作権及びマニュアル(使用説明書)の著作権並びに別紙商標目録記載1、2の商標権に基づき、第1事件被告(以下「被告コムネット」という。)が販売する製品(別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェア)、マニュアルの販売等の差止め、廃棄等を求めるとともに、不法行為(著作権侵害、商標権侵害)による損害賠償請求権に基づき、被告コムネットに対し、原告コンセプトに発生した損害の一部請求として、1億2264万2447円及びこれに対する不法行為の後である平成21年7月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 (2) 第2事件は、第2事件原告(以下「原告アシュラ」という。)が、CADソフトウェア(英語版の16ビットアプリケーションソフトウェア)であるAshlar-Vellum2.7(以下「Vellum2.7」という。)及びこれを32ビット化(32ビットOS環境に搭載できるようにソースコードを書き換えること)する際に作成されたVellum Extensions(以下「Extensions」という。)のプログラム(以下、そのソースコードを順に「Vellum2.7 コード」、「Extensionsコード」ともいう。)に係る著作権並びに別紙商標目録記載3の商標権に基づき、原告コンセプトが販売する製品(別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェア)、マニュアルの販売等の差止め、廃棄等を求めるとともに、不法行為(著作権侵害、商標権侵害)による損害賠償請求又は不当利得(原告アシュラの著作権、商標権の使用料相当額の不当利得)返還請求として、原告コンセプトに対し、@平成16年9月1日から平成18年10月31日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの販売によるVellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権並びに平成16年5月18日から平成18年10月31日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売による原告アシュラの商標権侵害の不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき、損害又は不当利得として、7326万6893円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息、A平成18年11月1日から平成21年7月15日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの販売によるVellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権並びに平成18年11月1日から平成21年7月15日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの販売による原告アシュラの商標権侵害の不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき、損害又は不当利得として、7160万2704円及びこれに対する平成21年7月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息、B平成16年5月18日から平成17年6月30日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアの販売によるVellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき、損害又は不当利得として、1700万円及びこれに対する平成17年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息の各支払を求める事案である。 (3) 原告コンセプトは、第1事件について、平成21年7月29日付け準備書面(17)及び同日付け準備書面(18)で訴えの追加的変更の申立てをし(ただし、その後、同年8月31日付け準備書面(19)及び口頭で請求の一部を減縮し、被告コムネットもこれに同意したため、上記のとおりの請求となった。)、原告アシュラは、第2事件について、同年7月14日付け「訴えの変更申立書」により、上記請求のとおりに訴えの追加的変更の申立てをしたが、第1事件の被告である被告コムネット、第2事件の被告である原告コンセプトは、上記各訴えの変更は民事訴訟法143条1項ただし書により許されないとの申立てをした。 2 前提となる事実(証拠を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告コンセプトは、コンピュータソフトウェアの開発及び販売等を目的として平成16年5月18日に設立された株式会社である。 イ 被告コムネットは、コンピュータソフトウェアの研究開発、制作販売及び指導並びにこれらに附帯関連する一切の事業等を目的として平成3年6月18日に設立された株式会社である。 ウ 原告アシュラは、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)カリフォルニア州法に基づいて設立され、肩書地に主たる事務所を有し、コンピュータソフトウェアの制作、販売等を業とする会社である。 (2) 原告アシュラは、Vellum(ベラム)の名称で知られるCADソフトウェア(英語版)のプログラムの著作者であり(なお、我が国及び米国は文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に加盟しているから、同プログラムは、同条約3条(1)及び著作権法6条3号により、我が国の著作権法による保護を受ける。)、同ソフトウェアについて、平成3年(1991年)8月30日付けで、ファモティク株式会社(コンピュータソフトウェアの開発及び販売等を目的とする日本法人。以下「ファモティク」という。)との間で、以下のとおり(抄訳)、販売代理店契約(Distribution Agreement)を締結した。(甲1、100、乙16) ア 指名(Appointment)(1条) 原告アシュラは、ファモティクを日本におけるVellumの独占代理店(排他的)として指名し、ファモティクは、その指名を受託する。 イ ファモティクの責務(Obligations of Famotik)(2条) ファモティクは、自己の資金と技術を用いて、日本市場向けに翻訳形式・文書を含みこの製品(Vellum)の地域化(日本化)を責任を持って行う。(2条(b)) ファモティクは、 英語版を日本語に翻訳するためにのみ、 この製品(Vellum)を修正する権利を有する。日本語版は英語版の機能のすべてを持つものとする。(2条(d)) 翻訳されたテキストファイル及びファモティク提供のすべてのフォント(コンピュータ上で表示される文字)作成技術は、すべてファモティクに帰属し、修正ソースコードは、原告アシュラに帰属する。ファモティクは日本国以外において当製品(Vellum)を販売しない。(2条(d)) ウ 知的財産権(Intellectual Property Rights)(6条) (ア) 製品の知的財産権(Product Intellectual Property Rights)(6条(a)) この製品(Vellum)のすべての権利(特許権、著作権、商標権を含む。)は、原告アシュラの独占的財産権である。 (イ) ファモティクの権利(Famotik Rights)(6条(b)) 当製品(Vellum)で容認されている翻訳において作成した知的財産はファモティクに帰属する。 (判決注:6条(b)の翻訳について争いがあるが、その原文に照らし、上記訳が相当と認める。) エ 各種(Miscellaneous)(12条) 両当事者のいずれもこの契約を譲渡する権利を有しない。(12条(d)) (3) 原告アシュラは、遅くとも平成6年(1994年)12月ころまでに、Vellumのバージョンアップ版(2.7版)であるVellum2.7(英語版の16ビットアプリケーションソフトウェア)のプログラム(ソースコード)を創作した。 Vellum2.7の機能上の特徴は、@シンプルな分かりやすい画面(複雑なコマンドを入力する必要がなく、画面のアイコンを選択するだけでほとんどの作図が可能である。)、Aドラフティングアシスタント(マウスポインタを図形に近づけるだけで、その図形の制御点や補助線などが自動表示され、作図にたくさんの補助線を作成する必要がない。)、B図形の編集ウィンドウ(線を選択して「図形の編集」を開けば、線の長さ、始点・終点の座標、線種、線幅、色等あらゆる情報の確認、編集が可能であり、マスク機能を利用すれば、更に「あるレイヤー上の青の円の線種を変更」という特定条件上の一括変換も可能である。)、Cパラメトリック編集(図形と寸法線が完全に連動し、作図後に図形の大きさを変更すると、既に記入されている寸法値も自動変更できる。逆に、寸法値の指定により図形の変形も可能である。)であり、そのプログラムは、上記特徴を16ビットアプリケーションソフトウェアのプログラムとして表現したものである。 Vellum2.7の日本語版(16ビットアプリケーションソフトウェア)は、アシュラジャパン株式会社(ファモティクの100%子会社で、以下「アシュラジャパン」という。)によって、平成7年6月に販売が開始された。(甲27、乙11の8、丙1、弁論の全趣旨) (4) 原告アシュラとファモティクは、平成7年(1995年)7月14日付けで、次のとおり(抄訳)、Vellumソフトウェアに係るソースコードライセンス契約(Source Code License Agreement)を締結した。(乙5の1、2) ア 原告アシュラは、原告アシュラのために派生品を新開発するため、Vellumソフトウェアのソースコードを使用する権利をライセンシー(判決注:ファモティク)に付与し、ライセンシーはそれを借り受けることを望む。(Recitals B.) イ 「Vellum Extensions」とは、この契約条項に従ってライセンシーによって新たに開発される、Vellumソフトウェア性能を拡張したものを意味するものとする。(1.1条) ウ 原告アシュラは、販売代理店契約(Distribution Agreement)でライセンスが付与されることを条件として本契約によりライセンシーに提供されるソースコードその他の品目(items)について、そのすべての特許、著作権、営業秘密及びその他あらゆる知的財産権を単独で有し、今後も依然としてそうあり続ける。ライセンシーは、 原告アシュラに対し、 Vellum Extensions に関するすべての権利、権限及び権益を譲渡する。この契約期間中、ライセンシーは、特許、著作権、営業秘密の譲渡又は申請など、Vellum Extensions に関するあらゆる文書に署名して原告アシュラに交付する。(2.6条) エ この契約及びその契約条件は、法選択の規定を除いて、カリフォルニア州法及び米国法に準拠し、同法に従って解釈される。この契約に基づくいかなる訴訟も、カリフォルニア州の連邦又は州裁判所に起こされるものとし、ライセンシーは、この契約により対人裁判管轄権に服する。この契約は英語で作成され、英語は、その意味を解釈又は解する場合の唯一かつ支配言語であるものとする。(5.4条) オ この契約は、原告アシュラの書面による事前同意なしに、ライセンシーによって譲渡することはできない。この契約条項は、両当事者、その継承者及び認められた譲受人に対して拘束力があり、その利益のために効力を生じるものとする。(5.8条) (5) 原告アシュラとファモティクは、上記(2)の販売代理店契約及び上記(4)のソースコードライセンス契約を修正するため、平成8年(1996年)2月13日、次のとおり(抄訳)、修正契約(Amendment to Agreements、以下「本件修正契約」という。)を締結した。(甲2、18) ア Vellum2.7は、現在、原告アシュラ及びファモティクによって販売されている。ファモティクは、 Vellum2.7の16ビットの基本コード(basecode)を32ビットに書き換え、32ビットのWindows95、WindowsNT、PowerMac 上の環境に搭載する作業を行っている。これらの開発成果をVellum Extensions として認識する。 かかる開発努力のために、原告アシュラは、以下のVellumのモジュールに関するソースコードの原型(prototype)をファモティクに提供する。: Surfaces( 表面表現ライン) , Rendering( 色彩加工) , Hidden Line Removal(陰影処理)とInterface(ハードウェアや各種ファイルとの交信ソフトウェア)(2.1条) イ ファモティクは、Surfaces及びInterfaceのプログラムコードを独自に開発済みであり、またLightworksとの互換性のあるRendering及びHidden Line Removalのモジュールを独自に開発中である。 ファモティクによって独自に開発され、又は開発中のこれらのモジュールを、この修正契約では「Additions」という。(2.2条) (判決注:翻訳について争いがあるが、その原文に照らし、上記訳が相当と認める。) ウ 上記開発作業が完成すれば、AdditionsはVellum2.7の基本コード(basecode)及びVellum Extensions に混合合体され、新たなVellumとなり、それをVellum3.0と称する。 エ 両当事者は、Vellum2.7を32ビットのWindows95、WindowsNT、PowerMacのOS環境に変換させることで生じる成果は(代理店契約に準拠して)ソースコード契約によるものであることを確認する。(3.1条) (判決注:翻訳について争いがあるが、その原文に照らし、上記訳が相当と認める。) オ ファモティクは、Additionsを独占的に所有するが、原告アシュラにその使用と販売を認める。(3.2条) カ ファモティクは、原告アシュラに対して、Additionsのライセンスを供与する。(4.1条) キ ファモティクは、更に、原告アシュラがAdditionsをVellum3.0に一体化した部分として使用し、製造し、販売し、使用ライセンスの頒布を顧客に対して行うことを許諾する。両当事者は、Vellum3.0について、原告アシュラが世界市場に独占的に販売する権利を有する(ただし、日本市場については、例外として、ファモティクが独占販売権を有する。)ことを確認する。(4.2条) (判決注:第1文の翻訳について争いがあるが、その原文に照らし、上記訳が相当と認める。) ク 原告アシュラは、Vellum3.0製品を販売するに当たり、ファモティクに対し、ユニットごとに、顧客と代理店から得た純収益のうちのある割合をロイヤリティとして支払う。純収益に対して適用される割合は、次のとおりである。(5.1条) PowerMac版 6% Windows95 版12% WindowsNT 版12% ケ ファモティクは、Vellum3.0製品を日本において販売するに当たり、原告アシュラに対し、ユニットごとに、顧客と代理店から得た純収益のうちのある割合をロイヤリティとして支払う。純収益に対して適用される割合は、次のとおりである。(5.2条) PowerMac 版12% Windows95 版12% WindowsNT 版12% (6) Vellum3.0コードの制作 ファモティクは、平成8年3月31日ころ、Vellum3.0(32ビットアプリケーションソフトウェア)のプログラム(ソースコード)を制作し(ただし、Vellum3.0コードが本件修正契約に基づきVellum2.7コードに依拠して制作されたか否かについては争いがある。)、同年6月11日、そのプログラム著作物について創作年月日の登録を受け、これを「VellumPro」等の商品名で販売していた。(甲4、弁論の全趣旨) Vellum3.0は、2次元及び3次元の形状データを作成し、そのデータを工業製品を設計、製造、販売、運用等の各種過程の中で活用するためのソフトウェアであり、基本機構部分とアプリケーション部分とに分類される。そのアプリケーション部分は、基本機構部分に用意された各種関数によって作成されており、利用者は、一般公開された基本機構部分のインターフェース構造に準拠して、独自のアプリケーションを作成することが可能である。 なお、32ビットアプリケーションソフトウェア(32ビットマイクロプロセッサや32ビットOS上で動作するように設計されたアプリケーションソフトウェア)が16ビットアプリケーションソフトウェアと大きく異なる点は、メモリアドレスの管理単位が16MBから4GBに拡大したことで容量の大きなソフトウェアや大規模なデータの処理速度が大幅に向上したことであり、現在のパソコン用アプリケーションソフトウェアのほとんどは、32ビットアプリケーションソフトウェアである。16ビットと32ビットの実際上の違いとしては、コンピュータの動作をさせるオペレーティングシステム(OS)の変更や図形表示のためのグラフィック機能の向上、表現するデータの精度の向上などが挙げられる。 (7) 被告コムネットは、その後、ファモティクとの間でVellum3.0コードに係る使用許諾契約を締結し、ファモティクから提供を受けたVellum3.0コードを基盤ソフトウェアとし、これに被告コムネット開発に係る包装設計用のプログラムを組み合わせて「BOX-Vellum」というソフトウェア名で販売しており、原告コンセプトが設立された平成16年5月18日以降は、別紙「被告コムネット商品目録」記載3、5、6のソフトウェアとして(なお、同目録記載4のソフトウェアについては販売されていたか否か争いがある。)、ファモティクが作成したマニュアル(日本語の使用説明書をCD−ROMに記録したもの)とともに販売した。(甲5、6、乙29、32、34) また、被告コムネットは、平成17年9月9日以降別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェア(日本語版)を、平成19年12月以降(ただし、試作版は同年5月以降)同目録記載1のソフトウェア(包装設計用CADソフトウェア)を販売している。(乙29、32、乙42の1〜31、乙43の1〜10) なお、別紙「被告コムネット商品目録」記載3、5、6のソフトウェアについては、少なくとも平成20年10月以降販売されておらず、被告コムネットが現在販売しているのは、同目録記載1、2のソフトウェアのみである。(乙66、乙67の1〜15、乙68の1〜15) (8) ファモティクは、フューテックエレクトロニクス株式会社(以下「フューテック」という。)に対し、平成15年12月20日付けで、Vellumに関する事業(Vellumに関する全資産〈技術資産、ユーザベースを含む営業資産、売掛・受取金勘定のすべてを含む。〉及び全責任〈Vellumのみに関する下請支払等すべて〉)を譲渡し、さらに、フューテックは、平成16年5月18日、フューテックが資本金の過半数を出資して同日に設立した原告コンセプトに対し、Vellum事業のすべて(フューテックがファモティクから譲り受けたすべての資産)を譲渡した。(甲4、12、13、乙17。ただし、上記譲渡の効力や「資産」の範囲について、争いがある。) なお、ファモティクは、その間の同年4月9日午後5時、東京地方裁判所において破産宣告を受け、同年8月26日、破産廃止(異時廃止)決定が確定した。(乙16) (9) 原告コンセプトは、平成16年5月18日(設立の日)から平成17年6月30日まで別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアの販売(ただし、平成17年3月1日から同年6月30日までは返品のみ)による売上げを計上した。(甲65、甲66の1〜8、甲67の1〜12、丙3〜5、9、弁論の全趣旨) また、原告コンセプトは、平成16年9月1日以降別紙「原告コンセプト商品目録」記載1のソフトウェア(Macintosh用の32ビットアプリケーションソフトウェア)を、平成17年1月1日以降同目録記載2のソフトウェア(Windows用の32ビットアプリケーションソフトウェア)を、同年9月15日以降同目録記載3のソフトウェア(Macintosh及びWindows用のソフトウェア)をそれぞれ複製して、販売、自動公衆送信していた。(甲65、甲66の1〜8、甲67の1〜12。なお、同目録記載1、2のソフトウェアについては、現在も原告コンセプトが販売、自動公衆送信しているか争いがある。) (10)ア 原告コンセプトは、別紙商標目録記載1、2の各商標権(以下、この商標権を順に「コンセプト商標権1」、「コンセプト商標権2」といい、その登録商標を順に「コンセプト商標1」、「コンセプト商標2」という。)を有している。 イ 原告アシュラは、別紙商標目録記載3の商標権(以下、この商標権を「アシュラ商標権」といい、 その登録商標を「アシュラ商標」という。)を有している。 3 争点 (1) 国際裁判管轄の有無(第2事件) (2) 訴え変更の許否 ア 原告コンセプトによる訴え変更の許否(第1事件) イ 原告アシュラによる訴え変更の許否(第2事件) (3) Vellum3.0コードのプログラム著作権の帰属 ア Vellum3.0コードの制作経緯(第1事件、第2事件) イ 原告コンセプトはVellum3.0コードのプログラム著作権を取得したか(第1事件) ウ 原告コンセプトはAdditionsのプログラム著作権を取得したか(第1事件) (4) Vellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権の帰属(第2事件) (5) 被告コムネットが使用するマニュアルの著作権及びその侵害の有無(第1事件) (6) 別紙「被告コムネット商品目録」記載の各ソフトウェアは、Vellum3.0コードのプログラム著作権を侵害するものであるか(第1事件) ア 別紙「被告コムネット商品目録」記載4のソフトウェアは販売されていたか イ 別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアはVellum3.0コードに依拠したものか ウ 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアにはAdditionsが搭載されているか エ 侵害の態様 オ 差止めの必要性、許容性 カ 被告コムネットに過失があったか (7) 別紙「原告コンセプト商品目録」記載の各ソフトウェア及びそのマニュアルは、Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権を侵害するものであるか(第2事件) ア 侵害の成否 イ 差止めの必要性 (8) 商標権侵害 ア コンセプト商標権1、2の侵害(第1事件) イ アシュラ商標権の侵害(第2事件) (9) 原告コンセプトの損害(第1事件) ア 原告コンセプトの損害額 イ 消滅時効の成否 (10) 原告アシュラの損害又は損失(第2事件) ア 原告アシュラの損害又は損失額 イ 相殺の抗弁の成否 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(国際裁判管轄の有無)について ア 原告コンセプト ソースコードライセンス契約(乙5の1、2)には、「本契約に基づくいかなる訴訟も、カリフォルニア州の連邦又は州裁判所に起こされるものとし、ライセンシーは、本契約により対人裁判管轄権に服する。」と規定されている(5.4条)。 第2事件は、上記規定に違反して、管轄のない日本国の裁判所に提訴されたものであるから、却下されるべきである。 イ 原告アシュラ 原告コンセプトは、既に第2事件の本案について弁論をし、又は弁論準備手続で申述しているのであるから、今になって管轄違いの抗弁を主張することは、訴訟上の信義則に反するものであり、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。 また、ソースコードライセンス契約(乙5の1、2)の当事者は、原告アシュラとファモティクであって、原告アシュラと原告コンセプトではない上、原告アシュラは、上記契約に基づいて第2事件に係る訴訟を提起しているのではなく、原告コンセプトの不法行為に基づいて第2事件に係る訴訟を提起しているのであるから、第2事件について上記契約により日本国の裁判所に管轄がないとされる理由はない。 (2) 争点(2)(訴え変更の許否)について ア 原告コンセプトによる訴え変更の許否 (ア) 被告コムネット 原告コンセプトは、追加した請求について、これまで適切な主張、立証をしておらず、その審理のために更に主張、立証を要するから、原告コンセプトによる訴えの変更を許せば、訴訟手続が著しく遅滞することになる。 したがって、原告コンセプトによる訴えの変更は、民事訴訟法143条1項ただし書により許されない。 (イ) 原告コンセプト 原告コンセプトによる訴えの追加的変更の申立ては、民事訴訟法143条1項ただし書に該当しない。 イ 原告アシュラによる訴え変更の許否 (ア) 原告コンセプト 原告アシュラによる訴えの追加的変更の申立ては、多数回の期日を重ねて争点整理を経た上でのことであり、原告アシュラがその申立てを早期に行うことができなかった事情も認められない。 しかも、原告アシュラは、上記訴えの変更によって、Extensionsコードのプログラム著作権に基づく差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求等を追加しているところ、原告コンセプトはVellum3.0コードの中にExtensionsコードが存在しないとしてExtensionsコードの存在を争っているのであるから、この申立てによってExtensionsコードの存在に関する新たな立証を要することになる。 したがって、原告アシュラによる訴えの変更は、これによって著しく訴訟手続を遅滞させることになるから、民事訴訟法143条1項ただし書により許されない (イ) 原告アシュラ 原告アシュラの請求は、訴え変更の前後を通じて、原告コンセプトがVellum3.0コードを利用してVellum2.7コード及びExtensionsコードに係る原告アシュラのプログラム著作権を侵害し、また、アシュラ商標権を侵害したという事実関係に基づくものであって、請求の基礎は同一である。 また、Vellum3.0コードが本件修正契約に基づき開発されたもので、Vellum2.7基本コード, Extensionsコード及びAdditionsで構成されることは従前の訴訟資料、証拠資料から明らかであり、Extensionsコードの存在について新たな立証は不要である。この点に関する原告コンセプトの防御も既に尽くされているから、原告アシュラによる訴えの変更を認めても、原告コンセプトに対する不意打ちにはならず、著しく訴訟手続を遅滞させることにもならない。 したがって、原告アシュラによる訴えの変更は、民事訴訟法143条1項ただし書に該当するものではない。 (3) 争点(3)(Vellum3.0コードのプログラム著作権の帰属)について ア Vellum3.0コードの制作経緯 (ア) 原告コンセプト a Vellum2.7(16ビットアプリケーションソフトウェア)は、32ビットOS上で一応の動作はするが、扱えるデータの容量も処理速度も大きく制限されるとともに、32ビットOSが提供している開発ツールも機能も利用できず、32ビットOSが一般化されている環境において、商品価値が著しく低いものとなっていた。 ファモティクは、32ビット技術を持っていなかった原告アシュラの要請を受けて、平成4年(1992年)から、膨大なデータを高速に扱えるように32ビットに対応したVellum製品の開発に着手したが、16ビットのVellum2.7を基にして32ビットのWindows95、WindowsNT及びPowerMac上のOS環境に搭載可能な32ビットのアプリケーションソフトウェアを開発すること(16ビットのVellum2.7コードを32ビットのアプリケーションソフトウェアに書き換えることによって、Extensionsコードを作り出すこと)は、@Vellum2.7コードには数年にわたる原告アシュラの複数の別々なプログラマーによる修正用パッチワークが各所に存在していたこと、Aそれらの状況と内容を理解できる原告アシュラの技術者の多くが既に退社しており、また元の16ビットソースコード本体の開発手順文書(開発仕様書)も原告アシュラには存在していなかったこと、B原告アシュラには32ビットを十分修得した現場技術者もいなかったことから、技術的にも時間的にもほとんど不可能な状態であった。 そこで、ファモティクは、原告アシュラとも協議の上、Extensionsコードの開発に拘泥することを放棄し、Vellum2.7のソフトウェア資産を活用するためにファイル互換性を保持させながらも、すべての記述コードを初めから32ビットで開発することとして、Vellum3.0(32ビットアプリケーションソフトウェア)のソースコードを創作し、平成8年6月11日にその著作権登録を受けた。 Vellum3.0は、外部のプリンターや通信などとの接続が飛躍的に容易にされており、また、Surfaces(表面表現ライン)及びInterface(ハードウェアや各種ファイルとの交信ソフトウェア)の付加機能と相まって、 Vellum2.7とは全く異なった製品として認識されており、Vellum2.7と同様の機能についても、ファモティクによって新たに作成し直されて装備されたもので、Vellum2.7オリジナル英語版ソースコードに依拠しているものではない。 以上のとおり、Vellum2.7の基本コードを32ビット環境に変換しようとするExtensionsコードは実現されず、 Vellum3.0コードにはExtensionsコードが搭載されていない。ファモティクがVellumという同一名称を継承し、かつ、操作手順の同一化を図ったのは、単にマーケティング上の考慮に基づくものにすぎない。 b 被告コムネット及び原告アシュラは、Vellum2.7コードとVellum3.0コードとを比較した結果(乙21の1〜7)について主張しているが、その比較の対象とされたVellum2.7 コード(丙15)は、16ビットVellum2.7 オリジナル英語版ソースコードではなく、原告コンセプトが著作権を有する16ビットVellum2.7 日本語版ソースコードであるから、被告コムネット及び原告アシュラの主張は、その前提において失当である。 (イ) 被告コムネット Vellum3.0コードは、本件修正契約に基づき、Vellum2.7コードに依拠し、これを32ビット化することによって得られたものであり、ファモティクが独自に開発したものではない。このことは、Vellum3.0コードとVellum2.7コードを比較した結果、そのほとんどが一致したこと(乙21の1〜7)からも明らかである。 なお、Vellum3.0コード(甲41)にある「Vellum.exe」を起動したときのファイルログ情報(乙55)に「Developed by Armonicos」と記載されていること、被告コムネットの販売するソフトウェア(Graphite)のソースコードに存在するとされるAdditions のファイル(120ファイル)中、41ファイルにアルモニコスの名称又はその従業員の氏名と思われるアルファベット文字(armo等)が記載されていることから、Vellum2.7コードの32ビット化を実際に行ったのは、ファモティクではなく、株式会社アルモニコス(以下「アルモニコス」という。)であったと考えられる。 (ウ) 原告アシュラ Vellum3.0コードは、本件修正契約に基づき、Vellum2.7コードを複製、翻案して開発されたものである。このことは、次の事実から明らかである。 a ソースコードの一致 ソースコードの記述についてはいくつもの選択肢が存在するのであって、既存のソースコードに依拠せずに開発されたソースコードの記述が、既存のソースコードの記述と偶然に一致するというようなことは通常あり得ない。それにもかかわらず、Vellum3.0コードは、次のとおり、Vellum2.7コードと多くの点で完全に一致している。 @ Vellum3.0コード同一ファイル内のソースコードとVellum2.7コード同一ファイル内のソースコードとの一致行数 25万5623行 A Vellum3.0コード同一ファイル内のソースコードのうち、Vellum2.7コード同一ファイル内のソースコードとの一致行が占める割合 約92.3%(25万5623行/27万6987行) B Vellum3.0コードとVellum2.7コードとの一致率 少なくとも約63.9%(25万5623行/40万行) さらに、Vellum2.7コードには、FE言語で記述された部分が多数存在しているところ、Vellum3.0コード同一ファイル内にも、FE言語で記述されたソースコードが数万行も存在している。FE言語は、プログラミングの専門家にも、記述の方法はもとより、その存在さえもあまり知られていないプログラミング言語であり、殊にVellum3.0コードで記述されているFE言語は、原告アシュラの創始者によって、Vellumソフトウェア開発のために考案されたものであるから、Vellum3.0コード以前のVellumソフトウェアに依拠しない限り、一般のプログラマーが開発に利用することは、通常あり得ない。 b ディレクトリ名やファイル名の共通 Vellum3.0コード及びVellum2.7コードのディレクトリやファイルの名称について比較すると、ディレクトリの名称については、Vellum3.0コードのディレクトリ55個のうち40個(約72 .7 %)がVellum2.7コードのそれと名称が共通であり、さらに、ファイルの名称については、極めて多数のものが共通である。 ディレクトリやファイルの名称は、マイクロソフト社が既に使用している名称等、ごく一部の例外を除き、プログラマーが自己の分類及び整理のため自由に選択、決定することができるのであるから、偶然に一致するということは通常あり得ない。また、ファイルの名称は、当該ファイル内に存在するソースコード及び当該ソースコードが実現する機能と密接な関連性を有するのであるから、ファイルの名称が共通するということは、当該ファイル内に存在するソースコード及び当該ソースコードが実現する機能が一致することを端的に示している。 c Vellum3.0コード内の著作権表示 Vellum3.0コード内には、原告アシュラが著作権者である旨を明らかにする表示が数百か所も存在している。 d ロイヤリティの支払 ファモティクは、平成8年6月以降、原告アシュラに対し、Vellum3.0コードがVellum2.7コードに依拠して複製、翻案されたものであることを明確に示した上、Vellum3.0製品を販売するに当たり、本件修正契約5.2条に基づくロイヤリティを支払っていた。 e 本件修正契約記載文言との一致 ファモティクは、平成8年ころには「Vellum3.0」という名称の使用を継続し、「Ashlar Vellum」Ver.3.0というプログラムについて、創作年月日を平成8年3月31日とする登録を受けているが、これらの名称は、いずれも本件修正契約に記載された「Vellum3.0」という文言と一致するものである。これらの名称が使用される著作物が本件修正契約に基づかないものであるとすれば、ファモティク及び原告コンセプトが「Vellum3.0」という名称を使用する理由はないから、この事実によっても、Vellum3.0コードが本件修正契約に基づきVellum2.7コードを利用して開発されたことが明らかである。 f 国際OEM販売に関する合意 原告コンセプトは、16ビットVellumの国際OEM販売に関するファモティクと原告アシュラの合意(甲77)が32ビットVellumに関しても承継されたと明確に主張しているが、これは、原告コンセプトにおいて、Vellum3.0コードがVellum2.7コードに依拠して複製又は翻案されたものであることを自認するものにほかならない。 イ 原告コンセプトはVellum3.0コードのプログラム著作権を取得したか (ア) 原告コンセプト ファモティクは、平成15年12月20日、Vellum3.0コードのプログラム著作権(及びそのマニュアルの著作権)を含むVellum事業の全資産をフューテックに営業譲渡し、フューテックは、平成16年5月18日、Vellum3.0コードのプログラム著作権(及びそのマニュアルの著作権)を含む上記Vellum事業の全資産を原告コンセプトに営業譲渡した。 原告コンセプトは、これによりVellum3.0コードのプログラム著作権(及びそのマニュアルの著作権)を取得した。 (イ) 被告コムネット a 前記のとおり、Vellum3.0コードは、16ビットのVellum2.7コードに依拠し、これを32ビット化することによって得られたプログラムであるが、16ビットのソフトウェアを32ビットに変更することは専用のソフトウェアによって容易に達成される単純な作業であり、知的な創造を伴うものではない(創作性がない)から、Vellum2.7コードとは別の新たな著作物には当たらない。 b Vellum3.0コードの制作に何らかの創作性があるとして著作物性が認められるとしても、前記ア(イ)のとおり、Vellum3.0コードを開発したのはファモティクではなく、アルモニコスであるから、原告コンセプトが、フューテックを介して、ファモティクからVellum3.0コードのプログラム著作権を取得することはない。 仮に、ファモティクがアルモニコスと共同でVellum3.0コードを開発したとしても、Vellum3.0コードのプログラム著作権はファモティクとアルモニコスの共有ということになるところ、原告コンセプトは、アルモニコスの同意がなければ、Vellum3.0コードのプログラム著作権に係るファモティクの持分を取得することができない(著作権法65条1項)。 c また、原告コンセプトは、以下のとおり、フューテックを介して、ファモティクからVellum3.0コードのプログラム著作権を取得することはできない。 (a) 甲12には、ファモティクがフューテックに対し「VELLUM事業を、その全資産(技術資産、ユーザベースを含む営業資産、売掛・受取金勘定のすべてを含む)及び全責任(VELLUMのみに関する下請支払等のすべて)を弊社よりお譲り受けくださり度お願い申し上げます。」との申出をし、フューテックがこれに同意した旨が記載されているが、「全資産」の具体的内容としてプログラムやマニュアルの著作権が掲げられていないから、譲渡対象にこれらの著作権が含まれていると解することはできない。このことは、ファモティクからフューテックに対するVellum3.0コードの譲渡について、プログラム著作権の移転登録が経由されていないことからも明らかである。 なお、日本における原告アシュラの代理店として、日本国内でVellum製品を販売する事業を行うためには、必ずしも著作権の譲渡を受ける必要はない(著作権者の許諾を受ければ足りる)から、甲12に著作権を譲渡する旨の記載がないということは、ファモティクにその意思がなかったことを意味している。 (b) 「VELLUM事業」について、ファモティクが原告アシュラの代理店として行う事業のことであるとすれば、その譲渡には原告アシュラの承諾が必要であるにもかかわらず、本件において、その承諾はなかったから、原告コンセプトがVellum3.0コード及びそのマニュアルの著作権を取得することはできない。 また、Vellum3.0コード及びそのマニュアルは、Vellum2.7コード及びそのマニュアルの二次的著作物であり、これを利用するには原著作物(Vellum2.7コード)の著作権者である原告アシュラの許諾が必要であるから、この観点からしても、原告アシュラの同意がない本件において、原告コンセプトがVellum3.0コード及びそのマニュアルの著作権を取得することはできない。 (c) 「VELLUM事業」の譲渡は、ファモティクにとって「営業ノ・・・重要ナル一部ノ譲渡」に該当するから、ファモティクの株主総会の特別決議を経る必要があった(平成17年法律第87号による改正前の商法245条1項1号)にもかかわらず、本件においてはこれを経ていない。 したがって、ファモティクからフューテックに対する「VELLUM事業」の譲渡は無効であるから、原告コンセプトは、Vellum3.0コードのプログラム著作権やそのマニュアルの著作権を取得することができない。 d なお、@Vellum3.0コードの制作をしたのがファモティクであり、その制作に創作性が認められ、A「VELLUM事業」にVellum3.0コードのプログラム著作権及びそのマニュアルの著作権が含まれ、 B「VELLUM事業」の譲渡の効力が認められたとしても、ソースコードライセンス契約(乙5の1、2)及び本件修正契約(甲2、18)の定めによれば、Vellum3.0コードのうち、少なくともVellum2.7の基本コード(base code)及びExtensionsコードのプログラム著作権は原告アシュラが有しているから、これを原告コンセプトが取得することはできない。 ウ 原告コンセプトはAdditionsのプログラム著作権を取得したか (ア) 原告コンセプト Vellum3.0コードが本件修正契約に基づきVellum2.7コードに依拠して開発されたとしても、 本件修正契約の定めにより、 ファモティクはAdditionsのプログラム著作権を取得しているから、原告コンセプトは、前記イ(ア) のとおり、 フューテックを介して、 ファモティクからのプロAdditionsグラム著作権を取得したというべきである。 なお、ファモティクは、Additionsの中の「Autoface」(3次元図形表現ソフトウェア)については、アルモニコスが開発したものを改変して使用しているが、アルモニコス及びアルモニコスから平成11年11月1日に「Autoface」のプログラム著作権(関連するプログラムの著作権を含む。)の譲渡を受けた株式会社エリジオン(以下「エリジオン」という。)の両社から、Vellum3.0用に改変された「Autoface」及びこれに関連するプログラムの二次的著作権がファモティクに帰属していることの確認を受けている。 (イ) 被告コムネット 前記ア(イ)のとおり、Vellum3.0コードを開発したのはファモティクではなく、アルモニコスであると考えられるから、原告コンセプトが、フューテックを介して、ファモティクからAdditionsのプログラム著作権を取得することはない。 仮に、ファモティクがアルモニコスと共同でVellum3.0コードを開発したとしても、Additionsのプログラム著作権は、ファモティクとアルモニコス(又はエリジオン)の共有ということになる。そして、原告コンセプトがファモティクからその共有持分の譲渡を受けるためには、アルモニコス(又はエリジオン)の同意が必要であるところ(著作権法65条1項)、かかる同意があったことについて何ら立証がされていないから、原告コンセプトは、Additionsのプログラム著作権に係るファモティクの共有持分を取得することはできない。 また、前記イ(イ)のとおり、ファモティクからフューテックへのプログラム著作権の譲渡は存在しないか、効力を生じないものであるから、フューテックから原告コンセプトにAdditionsのプログラム著作権が譲渡されたということもできない。 なお、原告コンセプトが、Autofaceを原著作物とする二次的著作物について、エリジオンから利用許諾を受けているとしても、債権的なものにすぎず、被告コムネットに対し、プログラム著作権侵害を理由とする権利行使をすることはできない。 (4) 争点(4)(Vellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権の帰属)について ア 原告コンセプト (ア) 本件修正契約に基づき、ファモティクによってExtensionsコードが開発されたとしても、著作権法61条2項により、同法27条(翻訳権、翻案権等)、28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に規定する権利はファモティクに留保され、ソースコードライセンス契約(乙5の1、2)2.6条の規定によっても、原告アシュラに譲渡されない。 したがって、原告アシュラは、Extensionsコードのプログラム著作権(翻案権)侵害を主張することができない。 (イ) 原告アシュラは、平成20年12月、Vellum2.7コード及びExtensionsコードに係るプログラム著作権をVellum Investment Partners LLC に譲渡した。 イ 原告アシュラ (ア) ソースコードライセンス契約(乙5の1、2)5.4条によれば、同契約に係る準拠法は、カリフォルニア州法及び米国法であり、我が国の著作権法61条2項の規定が適用される余地はない。しかるところ、米国著作権法には我が国の著作権法61条2項のような規定は存在しないから、原告アシュラは、米国著作権法201条(d)(1)、(2)及び204条の規定に基づき、Extensionsコードに係る翻案権を含む著作権のすべてを取得する。 仮に、 コードExtensionsのプログラム著作権の譲渡について、我が国の著作権法61条2項の規定が適用されるとしても、ファモティクは、原告アシュラに対し、Extensionsコードの翻案権を含む著作権のすべてが原告アシュラに帰属することを前提として、その利用に係るロイヤリティの支払をしてきたのであるから、ファモティクに翻案権等が留保されなかったことは明らかである。 さらに、仮に我が国の著作権法61条2項の規定によりファモティクにExtensionsコードに係る翻案権等が留保されたとしても、原告アシュラは、少なくともVellum2.7コードに係る複製権、翻案権及びExtensionsコードに係る複製権を取得しているから、これらの権利の行使は妨げられない。 (イ) 原告アシュラがVellum2.7コード及びExtensionsコードに係るプログラム著作権(著作権に基づく差止請求権、損害賠償請求権、不当利得返還請求権を含む。)をVellum Investment Partners LLC に譲渡した事実はない。 (5) 争点(5)(被告コムネットが使用するマニュアルの著作権及びその侵害の有無)について ア 原告コンセプト 別紙「被告コムネット商品目録」記載1、3〜6のソフトウェアの使用マニュアル(甲6)は、ファモティクのソフトウェアである「VellumProV2.01」のそれ(甲5)と同一のものであるところ、両マニュアルには「すべての権利はファモティク株式会社が保有しており、本マニュアルの一部、あるいは全部について(ソフトウェアおよびプログラムを含む)、ファモティク株式会社から文書による許諾を得ずに、いかなる方法においても無断で複写、 複製することは法律により禁じられています。」、「Copyright(C)1998 by FAMOTIK, Ltd. ALL RIGHTS RESERVED」と記載されていることから、ファモティクがその著作権者であったことが明らかである。 また、別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェアの使用マニュアル(乙28)は、Vellum3.0の機能をそのまま使用している内容であり、しかも、日本語表示は、ファモティク及び原告コンセプトの日本語表示そのままである。 被告コムネットは、原告コンセプトが前記(3)イ(ア)のとおり平成16年5月18日にVellum3.0のマニュアルの著作権の譲渡を受けた後も、原告コンセプトに無断で、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェアのマニュアルを複製し、これを販売したのであるから、原告コンセプトが有するマニュアルの著作権を侵害したことは明らかである。 イ 被告コムネット (ア) 前記(3)イ(イ)のとおり、原告コンセプトは、そもそもVellum3.0のマニュアルの著作権を取得していない。 また、被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載4のソフトウェア及びそのマニュアルを複製、販売していない。 (イ) マニュアルは、プログラムの操作等の説明のため、表現形式に制約があり、マニュアルの記載すべてに創作性があるわけではないところ、原告コンセプトは、マニュアルの創作部分がどこか、当該部分の表現と被告コムネットのマニュアルの表現との同一部分がどこかについて何ら主張、立証していない。 (ウ) 別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェアに使用されているマニュアル(乙28)は、原告アシュラから提供を受けた「Getting Started」という英語のマニュアルを基に被告コムネットが新たに作成した(翻訳は有限会社ディーマックスが行った。)もので、ファモティクの「VellumPro 2.01」のマニュアル(甲5)とは全く別の著作物である。 また、同目録記載1のソフトウェアには、同目録記載2のソフトウェアと同一のマニュアル(乙28)のほか、被告コムネットが開発した包装設計用のプログラムに関するマニュアル(乙36、37)が使用されているが、このマニュアルも、被告コムネットが独自に作成したもので、ファモティクの「VellumPro V2.01」のマニュアル(甲5)とは別の著作物である。 なお、同目録記載3、5、6のソフトウェアには、ファモティク作成のマニュアル(日本語の使用説明書をCDに記録したもの。乙34)のほか、被告コムネットが開発した包装設計用のプログラムに関するマニュアル(乙33、35)が使用されていたが、後者のマニュアルは、被告コムネットが独自に作成したもので、ファモティク作成のマニュアル(甲5)に依拠したものではない。 (6) 争点(6)(別紙「被告コムネット商品目録」記載の各ソフトウェアは、Vellum3.0コードのプログラム著作権を侵害するものであるか)について ア 別紙「被告コムネット商品目録」記載4のソフトウェアは販売されていたか (ア) 原告コンセプト 被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載4のソフトウェアを販売していた。 (イ) 被告コムネット 否認する。 被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載5、6のソフトウェアについて、帳簿(乙41の1〜47)上、あるいは被告コムネットのホームページ(甲102) 上、 「BOX-Vellum Ver.4.0」、「BOX-Vellum Ver4.0」などと表記したことはあったが、別紙「被告コムネット商品目録」記載4の名称のソフトウェアを販売したことはない。 イ 別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアはVellum3.0コードに依拠したものか (ア) 原告コンセプト 被告コムネットは、Vellum3.0コードを基盤ソフトウェアとし、その上に段ボール、紙器の形成用に特化したパッケージ製作用ソフトウェアを組み合わせて、別紙「被告コムネット商品目録」記載3〜6のソフトウェアを製品化したが、これらのソフトウェアには、Vellum3.0コードのすべての技術、機能が用いられている。 その後、被告コムネットは、Vellum3.0の基本コードのまま、別紙「被告コムネット商品目録」記載3〜6のソフトウェアを同目録記載1の名称に変更して販売し、平成17年10月から、Vellum3.0 コードの機能をそのまま複製したCADソフトウェアとして、同目録記載2のソフトウェアの製造、販売を開始した。 以上のとおり、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアは、いずれもVellum3.0 コードに依拠したソフトウェアである。 (イ) 被告コムネット 被告コムネットは、ファモティクの経営が悪化したことを受け、平成14年(2002年)8月ないし9月、原告アシュラとソフトウェア開発のための代理店契約を締結し(乙1)、平成17年2月付けでソースコードライセンス契約を締結して、原告アシュラからソースコードの提供を受け、これを日本語ローカライゼーション及び翻訳することによって、別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェアを開発した。したがって、原告アシュラから提供を受けたソースコード並びに当該ソースコードの日本語ローカライゼーション及び翻訳については、Vellum3.0コードに依拠していないから、Vellum3.0のプログラム著作権を侵害するものではない。 また、同目録記載1のソフトウェアは、同目録記載2のソフトウェアを被告コムネットの仕様(包装設計用)にカスタマイズしたもので、Vellum3.0コードに依拠したものではないから、Vellum3.0コードのプログラム著作権を侵害するものではない。 ウ 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアにはAdditionsが搭載されているか (ア) 原告コンセプト a Additionsの範囲 原告アシュラは、1995年(平成7年)5月26日、新たに出現した32ビットOSを装備したPower Macintosh及びWindowsNT等のハードウェアの上での本格的CAD機能を持つ製品を求めて、Vellum3.0 Marketing Requirements(市場での要望事項。以下「要望事項書」という。)を作成し(甲43)、これをファモティクに提供した。 ファモティクは、この要望事項書を受けて32ビットVellum3.0を開発、完成したもので、この要望事項書こそがAdditions機能の根拠となるものである。 したがって、Additionsに該当するのは、「Surfaces」、「Interface」「Rendering」(色彩加工)及び「Hidden Line Removal」(隠線処理)の各機能のみならず、要望事項書に記載されている「新Vellum製品の機能」(New Vellum Features)である@DWGインターフェース、A円の中心マーク、Bミリ/インチ併用表記、C256色、Dマルチ・レイヤー用ウォール(壁)作成ツール、E速度の改善、Fパスに沿った押出し図形の作成機能、Gオブジェクト・ラベル、H塗りつぶしとハッチングのコントロール、I各種機能間のインターフェース、Jヘルプ・ファイルの改訂、Kマニュアル文書の改訂等を含む広範囲の開発コードを指すものである。そして、Vellum3.0コードが一体型ソフトウェアとして開発されたため、これらの機能に関連するファイルは、他の機能との関係においても横断的に関連するものと考えられる。 また、漢字フォントは、Vellum2.7(英語版)には存在せず、日本語製品に継承されているものであるから、これもAdditionsに分類される。 b 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアからAdditionsが削除されているか (a) 同目録記載1、2のソフトウェアからAdditionsの部分は削除されていない。 被告コムネットは、Vellum3.0コードで使用しているAdditionsの一部である「Autoface」という単一の三次元ツール部品のみをマスキング処理して画像を見えなくしているにすぎないのであり、そのソースコードには、当該独立部品とVellum3.0コード全体との連結コードがそのまま残されている。 そもそも「Autoface」という単一の三次元ツールとの連結コードを外したら、Vellum3.0自体が機能しなくなり、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアも機能しなくなる。 (b)同目録記載3〜6のソフトウェアについては、Surfacesメニューの存在が明示されて販売されていた。 (c) よって、同目録記載1〜6のソフトウェアの販売によって、原告コンセプトのAdditions に係るプログラム著作権が侵害されたことは明らかである。 (イ) 被告コムネット a Additionsの範囲について Additionsは、本件修正契約2.2条に定められているとおり、ファモティク( 又はアルモニコス) によって独自に開発された「Surfaces」及び「Interface」のモジュール並びに「Rendering」(色彩加工)及び「Hidden Line Removal」(隠線処理)」の各モジュール(プログラム又はハードウェア機能における交換可能な単位)に限られる。 b 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアからAdditionsが削除されているか (a) 同目録記載1 、2 のソフトウェアについては、 発売当初からAdditionsの部分がすべて削除されており、Additionsの部分は存在しない。 この点、原告コンセプトは、同目録記載1、2のソフトウェアについて、 Additionsの部分がすべて削除されているのではなく、Vellum3.0で使用している「Autoface」という単一の三次元ツール部品のみが削除されているのであり、同目録記載1、2のソフトウェアのソースコードには、その独立部品とVellum3.0全体との連結コードが残されている旨主張するが、仮にその主張が事実であったとしても、残存している連結コード自体には創作性がないから、何ら原告コンセプトのプログラム著作権を侵害するものではない。 なお、万が一Additionsの一部が同目録記載1、2のソフトウェアに含まれていたとしても、これらのソフトウェアにおいては、Vellum3.0コードで別途作成したSurfaceデータを用いても、Additionsに係る機能のいずれも使用することができない。著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することであり、プログラムの著作物の複製に当たるといえるためには、一般人の通常の注意力を基準として、プログラムの著作物としてのAdditionsの表現上の本質的な特徴(思想、感情の創作的な表現部分)を直接感得することができる程度に再現されていることを要するが、一般人の通常の注意力を基準とすると、同目録記載1、2のソフトウェアについてはAdditionsの表現上の本質的な特徴(思想、感情の創作的な表現部分)が何ら再現されていないから、同目録記載1、2のソフトウェアの複製物を作成する行為は、Additions の複製や翻案には該当しない。 (b) 別紙「被告コムネット商品目録」記載3、5、6のソフトウェアについて、被告コムネットはファモティクからソースコードの開示を受けていないため、Additionsの部分が含まれているか不明であるが、これらのソフトウェアは、2次元ないし2.5次元機能対応のソフトウェアであり、3次元機能に関するAdditionsは不要なものである。 エ 侵害の態様 (ア) 原告コンセプト 被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアを複製した上、これを自動公衆送信又は送信可能化して販売している。 (イ) 被告コムネット 被告コムネットによる別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアの販売態様は、同ソフトウェアを記録媒体(CD−ROM)に複製し、マニュアルを同梱して、購入者宛に宅配便で送付するという方法のみであり、これらのソフトウェアのプログラムを自動公衆送信、送信可能化したこともなければ、その予定もない。 オ 差止めの必要性、許容性 (ア) 被告コムネット a 仮に、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアが原告コンセプトのプログラム著作権を侵害するとしても、その侵害部分は、Additionsというプログラムのごく一部にすぎない。しかも、同目録記載1、2のソフトウェアにおいては、Additionsのソースコードが存在するとしても、わずか(120ファイル)である上、実際にAdditionsの機能を利用することはできないのであるから、Additionsの侵害を理由として、同目録記載1、2のソフトウェア全体の差止めを認めることは、被告コムネットに過大な不利益を与え、正義、公平に反する結果となる。 したがって、仮に同目録記載1、2のソフトウェアが原告コンセプトのプログラム著作権を侵害するとしても、侵害部分(Additions)を削除することがないまま記録した同目録記載1、2のプログラムの複製等に限って差止めが認められるべきである。 b また、原告コンセプトが二次的著作物であるAdditionsに関するプログラム著作権を有するとしても、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないのであるから(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)、原告コンセプトによるAdditionsに係る著作権に基づく権利行使においては、上記創作的部分がどの部分であるか特定した上、原告コンセプトが侵害対象物件と主張するプログラムにおいて、上記創作的部分の複製、翻案が認められるのでなければならない。この点、原告コンセプトは、Additionsのうち新たに付与された創作的部分がどの部分か特定しておらず、プログラム著作権侵害に基づき被告コムネットに対して権利行使することは許されない。 さらに、原告コンセプトがVellum3.0コードのプログラム著作権及びマニュアルの著作権を譲り受けていたとしても、 少なくともVellum3.0コード及びそのマニュアルは、Vellum2.7コード及びそのマニュアルの二次的著作物であり、原著作物の著作権者である原告アシュラの同意がなければ、Vellum3.0コード及びそのマニュアルの著作権を行使することができないものである。したがって、原告アシュラの許諾を得てソフトウェア及びマニュアルの販売をしている被告コムネットに対し、著作権に基づく権利行使をすることは、権利の濫用として許されない。 (イ) 原告コンセプト 争う。 カ 被告コムネットに過失があったか (ア) 原告コンセプト 本件において、被告コムネットは、@ファモティクとの間でVellum3.0コードの修正作業を行うなど、Vellum3.0コードの内容に精通していたこと、Aその後、原告アシュラからGraphiteのソースコードを入手して、Graphiteのソースコードから開発者のFamotik名及びファモティク技術者日本名を削除するなど、積極的にGraphiteソースコードの改変行為を行っていたことから、Vellum3.0コードないしAdditionsのプログラム著作権を侵害したことに過失があったことは明らかである。 (イ) 被告コムネット 原告コンセプトが主張するような事実は否認する。 被告コムネットは、ファモティクのライセンサーであった原告アシュラの許諾を得て、プログラムの複製物の販売を行っており、原告アシュラから、Ashlar-Vellum GraphiteからAdditions部分が削除されている旨の説明を受けている。 実際、Ashlar-Vellum Graphite のメニュー画面にはサーフェスがない上、既存のソフトウェアの実行環境では、サーフェス(表面加工用)機能の呼出しはできない。また、被告コムネットが原告アシュラから提供を受けたAshlar-Vellum Graphite の英文マニュアルにも、これを基に被告コムネットが作成した日本語のマニュアルにも、サーフェス機能の説明は記載されていない。 さらに、被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載3、5、6のソフトウェアの複製について、ファモティクの許諾を得ていたところ、その後、Vellum3.0コードのプログラム著作権がファモティクから第三者に移転されるような合意がされたこと等について、何ら知らされていなかった。 以上のとおりであり、仮に、ファモティクがVellum3.0コードについてプログラム著作権及びそのマニュアルの著作権を有しており、かつ、原告コンセプトがそれらの著作権を譲り受けたため、被告コムネットによる同目録記載1〜3、5、6のソフトウェアの複製等が原告コンセプトの著作権を侵害するとしても、被告コムネットに過失はない。 (7) 争点(7)(別紙「原告コンセプト商品目録」記載の各ソフトウェア及びそのマニュアルは、Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権を侵害するものであるか)について ア 侵害の成否 (ア) 原告アシュラ a 前記(3)ア(ウ)のとおり、Vellum3.0コードは、本件修正契約に基づき、Vellum2.7コードに依拠して、これを32ビット化することによって開発されたプログラムであるから、Vellum2.7コード(Vellum2.7base code)及びExtensionsコードは、Vellum3.0コードからAdditionsを除外したものとして特定される。 別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、いずれもコードVellum3.0を複製又は翻案して制作されたものであり、原告アシュラが著作権を有するVellum2.7コード、Extensionsコードも利用されているから、Vellum2.7コード、Extensionsコードに係る原告アシュラのプログラム著作権を侵害するものである。 b また、原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアを販売するに際し、そのマニュアル(丙14等)を作成して、これを上記ソフトウェアに添付して頒布している。 上記マニュアルは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの使用説明書であるから、上記ソフトウェアに搭載されたVellum3.0コードに依拠してこれを改変したものであり、また、Vellum3.0コードは、Vellum2.7コード及びExtensionsコードを複製、翻案したものであるから、結局、上記マニュアルは、Vellum2.7コード及びExtensionsコードを翻案したものである。 したがって、原告アシュラの許諾を得ることなく、原告コンセプトが上記マニュアルを作成して、これを頒布することは、原告アシュラがVellum2.7コード、Extensionsコードについて有する複製権、翻案権や、上記マニュアルについて有する二次的著作物利用権(複製物譲渡権)を侵害する。 (イ) 原告コンセプト 前記(3)ア(ア)のとおり、Vellum3.0コードは、16ビットVellum2.7オリジナルコードとは全く異なる32ビットアプリケーションソフトウェアであり、Vellum2.7コードに依拠して開発されたものではないから、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜 6 のソフトウェアには、Vellum2.7コードもExtensionsコードも搭載されていない。 また、仮にVellum3.0コードがVellum2.7コードに依拠して開発されていたとしても、Vellum3.0コードは平成8年に開発されたプログラムであり、その後、現在までに基本的な内容プログラムコードが大きく創作的に改変された結果、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアは、既にVellum3.0とは同一性の範囲を超えた別個の製品として認識されるに至っている。したがって、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアは、Vellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権を侵害するものではない。 イ 差止めの必要性 (ア) 原告コンセプト 原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載3のソフトウェアの販売を平成17年9月15日に開始したことから、同目録記載1、2のソフトウェア及びそれらのマニュアルについては、その前日(同月14日)に販売を中止しており、その後、同目録記載1、2のソフトウェア及びそれらのマニュアルを販売していない。 したがって、同目録記載1、2のソフトウェア及びそれらのマニュアルについて、販売等の差止請求は認められない。 (イ) 原告アシュラ 原告コンセプトのホームページ(丙2)上の販売履歴を見ても、平成17年9月14日に別紙「原告コンセプト商品目録」記載1、2のソフトウェア及びそれらのマニュアルの販売等を中止した旨の記載はなく、原告コンセプトが主張するとおり、実際にこれらの販売を中止したのか確認することができない。 (8) 争点(8)(商標権侵害)について ア コンセプト商標権1、2の侵害 (ア) 原告コンセプト a 被告コムネットは、原告コンセプトに無断で、別紙「被告コムネット商品目録」記載1の商品に別紙標章目録記載2の標章を、別紙「被告コムネット商品目録」記載2の商品に別紙標章目録記載1、2の標章をそれぞれ付して販売し、電気通信回線を通じて提供している。 b 別紙標章目録記載1の標章は、「ASHLAR」と「VELLUM」の英文字から成る標章とその英文字の間の「−」記号から構成されているところ、これにより一連に「アシュラベラム」の自然的称呼が生じる。他方、コンセプト商標1からも「アシュラベラム」の自然的称呼が生じるから、両者は「アシュラベラム」の称呼を同一にする類似の商標である。 よって、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6の商品及びそのマニュアル(使用説明書)、パンフレットに別紙標章目録記載1の標章を使用することは、コンセプト商標権1を侵害するものである。 c 別紙標章目録記載2の標章は、「ドラフティング」と「アシスタント」の文字から成る標章とその文字の間の「・」記号から構成されているところ、これにより一連に「ドラフティングアシスタント」の自然的称呼が生じる。 他方、コンセプト商標2からも「ドラフティングアシスタント」の自然的称呼が生じるから、両者は「ドラフティングアシスタント」の称呼を同一にする類似の商標である。 よって、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6の商品及びそのマニュアル(使用説明書)、パンフレットに別紙標章目録記載2の標章を使用することは、コンセプト商標権2を侵害するものである。 d 被告コムネットの主張に対する反論 (a) 別紙標章目録記載2の標章は、ソフトウェアの機能を指すものではなく、被告コムネットも、同標章を「製図」、「補助者」の意味で使用しているものではない。被告コムネットによる同標章の使用は、商標としての使用にほかならない。 (b) 先使用権について Vellum3.0については、ファモティクが日本国内での独占的販売権を与えられていたため、原告アシュラにはVellum3.0の販売実績が存在しない。したがって、原告アシュラが別紙標章目録記載1、2の各標章について先使用権を有することはあり得ない。 (c) 商標法39条による特許法104条の3の準用について @ 商標法3条1項3号、4条1項16号について CADソフトウェアの機能表示として、一般に「製図」、「補助者」という用語が使用されている事実はないから、コンセプト商標2が機能表示であるとか、商品の品質を表示するものであるということはできない。 A 商標法4条1項10号、15号について 原告アシュラは我が国において「Ashlar」、「Vellum」、「Ashlar Vellum」、「Ashlar・Vellum」、「ASHLARVELLUM」などの標章を使用したことがないから、これらの標章が原告アシュラの商品、役務を表示するものとして周知になっていたということはできないし、コンセプト商標1が原告アシュラの業務に係る商品又は役務と混同を生じさせるおそれがあるということもできない。 B 商標法4条1項11号について コンセプト商標1は、アシュラ商標と類似しない。 C 商標法4条1項15号について 原告アシュラは、我が国において「ASHLARVELLUM」という標章を用いた商品販売をしていなかったのであるから、原告コンセプトがコンセプト商標1を使用して商品販売をしても、原告アシュラの製品と混同を生じるおそれはない。 D 商標法4条1項7号、19号について 原告コンセプトは、コンセプト商標1について、原告アシュラの信用にただ乗りするなどの不正な目的をもって取得したものではない。 (イ) 被告コムネット a 被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアについて、これを記録媒体(CD−ROM)に複製し、マニュアルを同梱して購入者宛に宅配便で送付するという方法で販売しているのみであり、これらのプログラムを自動公衆送信したことはないし、また、その予定もない。 b(a) 被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載2の商品を販売しており、ホームページ上でも「Ashlar-Vellum Graphite」という標章を使用しているが、別紙標章目録記載1の標章を単独で付したCADソフトウェアは販売していない。 (b) 被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載3のソフトウェアのマニュアル(乙33)中、「BOX-Vellum Reference Manual」において、「当製品は、Ashlar-Vellumを核に作成されています。」、「Ashlar, VellumはAshlar Inc.の登録商標です。」などの態様で別紙標章目録記載1の標章を使用していたが、現在、同マニュアルは使用していない。 (c) 別紙「被告コムネット商品目録」記載5、6のソフトウェアのマニュアル(乙35)において、追加アイコンマニュアルの説明文中に、画面のコピーとして「Ashlar Vellum」の表記がされている箇所が一つだけ存在したが、被告コムネットは、現在、同マニュアルを使用していない。 c 被告コムネットは、ソフトウェアの機能(「ドラフティング」は「製図」、「アシスタント」は「補助者」の意味をそれぞれ有するものである。)を表示するものとして、別紙標章目録記載2の標章を使用しており、商標として使用しているのではない。 d その他、以下の理由から、被告コムネットによるコンセプト商標権1、2の侵害は認められない。 (a) 先使用権 原告アシュラは、コンセプト商標権1、2の登録出願(平成16年11月2日)前から、代理店であるファモティクを通じて、日本国内において、CADソフトウェアに関し、「Ashlar・Vellum」、「Ashlar-Vellum」、「ASHLAR-VELLUM」、「アシュラ・べラム」、「DraftingAssistant」、「ドラフティング・アシスタント」等のコンセプト商標1、2と同一又は類似の標章(以下、これらの標章をまとめて「原告アシュラ使用標章」という。)を使用してきた。 原告コンセプトによるコンセプト商標権1、2の出願(平成16年11月2日)当時、原告アシュラが日本国内においてアシュラ・ベラム製品を販売し始めてから既に約13年を経過しており、原告アシュラ使用標章は、原告アシュラが販売する商品を表すものとして、ソフトウェア業界において広く認識されていた。 したがって、原告アシュラは、原告アシュラ使用標章(別紙標章目録記載1、2の標章を含む。)について先使用権(商標法32条1項)を有しているところ、被告コムネットは、原告アシュラの輸入・販売代理店であるから、原告アシュラの先使用権を援用する。 (b) 商標法39条による特許法104条の3の準用 コンセプト商標権1、2は、次のとおり、商標法3条1項3号、4条1項7号、10号、11号、15号、16号、19号に違反する無効理由があり、商標法39条による特許法104条の3の準用により、原告コンセプトは、被告コムネットに対し、その権利を行使することができない。 @ 商標法3条1項3号 コンセプト商標2は、「製図」及び「補助者」の各意味を有する「Drafting」及び「Assistant」の各文字及びこれらの表音を「ドラフティングアシスタント」、「DraftingAssistant」と普通に用いられる方法で書して成るもので、「製図するときの補助となるもの」の意味合いを容易に認識させるものである。また、コンピュータを利用して行う設計用ソフトウェアにおいて有する機能として、設計製図の助けとなるものを「ドラフティングアシスタント機能」と称して使用されていることから、このような商標を「コンピュータを利用して行う設計用ソフトウェア」に使用しても、単に商品の品質を表示するにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たすものとはいえない。 したがって、コンセプト商標権2は、商標法3条1項3号、46条1項1号に該当し、商標登録無効審判により無効にされるべきものである。 A 商標法4条1項10号 前記(a)のとおり、コンセプト商標1、2は、その出願(平成16年11月2日)前から我が国において周知性を有していた原告アシュラ使用標章と同一又は類似のものであり、また、原告アシュラ使用標章と同様、CADソフトウェアに関して使用されるものである。 したがって、コンセプト商標権1、2は、商標法4条1項10号、46条1項1号に該当し、商標登録無効審判により無効にされるべきものである。 B 商標法4条1項11号 アシュラ商標権は、コンセプト商標権1、2の出願日(平成16年11月2日)より前である平成8年7月31日に登録査定(登録番号3174407号)を受けている(乙7)。 コンセプト商標1は、原告アシュラを示す固有名詞「アシュラ/ASHLAR」と、原告アシュラがCADソフトウェアに付して使用し、かつ、日本国内において登録を受けているアシュラ商標と同一又は極めて類似する「ベラム/VELLUM」から成る。 上記のとおり、「アシュラ/ASHLAR」は固有名詞であり、それ自体では商標登録の要件を満たさないから、コンセプト商標1においては、「アシュラ/ASHLAR」よりも「ベラム/VELLUM」の方が識別力を持つ部分である。 しかるところ、「ベラム/VELLUM」とアシュラ商標は、片仮名部分については全く同一であり、英文字部分も一部が大文字か全部が大文字かが異なるのみで、それ以外のスペル(外観)、称呼ともに同一であるから、コンセプト商標1はアシュラ商標に類似するというべきである。 そして、コンセプト商標1とアシュラ商標は、いずれも第9類を指定商品とするものであり、同一であるから、コンセプト商標権1は、商標法4条1項11号、46条1項1号に該当し、商標登録無効審判により無効にされるべきものである。 C 商標法4条1項15号 コンセプト商標1は、原告アシュラを示す「ASHLAR/アシュラ」とアシュラ商標と類似の「VELLUM/ベラム」から成るから、「原告アシュラのVellumソフトウェア」を示すものにほかならず、少なくとも需要者が原告アシュラの商品であると受け取るおそれがあることは明白である。 また、コンセプト商標2は、その出願(平成16年11月2日)前から、原告アシュラが継続して使用していた標章であり、正確な図面を引くのに必要な補助線とスナップの種類がリアルタイムに画面上に表示されるという原告アシュラの商品の機能を示すものとして定着していた。したがって、原告コンセプトの商品にこの標章が用いられた場合、需要者が原告アシュラの商品と誤認するおそれがあることは明白である。 以上のとおり、コンセプト商標1、2は、いずれも原告アシュラの業務に係る商品と混同を生じるおそれのある商標に該当するから、商標法4条1項15号、46条1項1号に該当し、商標登録無効審判により無効にされるべきものである。 D 商標法4条1項16号 前記@のとおり、コンセプト商標2は、単に商品の品質、機能を表示するにすぎないものであるところ、これが「コンピュータを利用して行う設計用ソフトウェア」以外の商品に使用されるときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法4条1項16号、46条1項1号に該当し、商標登録無効審判により無効にされるべきものである。 E 商標法4条1項7号、19号 コンセプト商標1、2がいずれも原告アシュラ使用標章と同一又は類似であること、原告アシュラ使用標章がコンセプト商標権、1、2の出願(平成16年11月2日)前に既に我が国において周知性を有していたことは前記のとおりである。 原告コンセプトは、上記の事情を知りながら、既に周知性を得ている原告アシュラの商品と混同させ、不正に利益を得る目的で、コンセプト商標権1、2の出願をしたものである。 したがって、コンセプト商標権1、2は、商標法4条1項7号、19号、46条1項1号に該当し、商標登録無効審判により無効にされるべきものである。 (c) 権利濫用 アシュラジャパンは、コンセプト商標1、2と同一の構成の商標(乙22、23)について、平成8年に商標権(順に登録番号第3174405号、第3219965号)を取得し、これをファモティクに譲渡していたが、この商標権は、原告アシュラの代理店ないしその100%子会社としての立場において取得されたもので、原告アシュラとファモティクとの間の販売代理店契約(甲1)6条(a)によれば原告アシュラに帰属すべきものであるから、販売代理店契約が終了すれば、当然、原告アシュラに返還(抹消登録に代えて移転登録)されるべきものであった。 それにもかかわらず、原告コンセプトは、上記の事情を知りながら、上記各商標権について、破産廃止決定の確定により清算手続中(ただし、清算人は不在)であったファモティクを相手方として不使用取消審判請求をし(乙24の1、乙25の1)、その取消しの審決(乙24の7、乙25の6)を得た上、上記各商標と構成を同一にするコンセプト商標1、2について商標登録出願をし、その登録を受けたものである。 上記のようなコンセプト商標権1、2の取得経緯に照らせば、原告コンセプトが被告コムネット(原告アシュラのライセンシー)に対し、コンセプト商標権1、2を行使することは、権利の濫用として許されないというべきである。 e 被告コムネットの無過失 仮に、被告コムネットにおいて、コンセプト商標権1、2を侵害した事実が認められるとしても、コンセプト商標権1、2の商標公報が発行されたのはいずれも平成17年11月29日であり、少なくともそれ以前の被告コムネットの行為については過失が推定されないし、実際にも、被告コムネットには過失がなかったというべきである。 イ アシュラ商標権の侵害 (ア) 原告アシュラ a 原告コンセプトによるアシュラ商標権の侵害 (a) 原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェア又はその包装、 広告に「VellumCAD」、 「MacVellum」等のように「Vellum」の文字を含む標章(以下「原告コンセプト標章1」という。)及び「ASHLARVELLUM」の標章(以下「原告コンセプト標章2」という。)を付して頒布し、その情報をインターネット(電磁的方法)で提供している。 (b) 別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、いずれも電子計算機用プログラムであるから、アシュラ商標権の指定商品(電子応用機械器具及びその部品)に属する。 (c) 原告コンセプト標章1は、「Vellum」の文字を含む標章であるところ、その標章としての要部は「Vellum」の部分にあり、これから「ベラム」の称呼が生じるから、アシュラ商標とは外観、称呼、観念のすべてにおいて類似する。したがって、原告コンセプト標章1は、アシュラ商標に類似するものである。 原告コンセプト標章2(「ASHLARVELLUM」)は、「切石」、「張付け石」等の意味を有する「ASHLAR」という語と、「ベラム革」、「ベラム紙(子牛・子羊などの皮をなめして作った上質の皮紙)」等の意味を有する「VELLUM」という語から成る結合標章であり、前半の「ASHLAR」の部分からは「アシュラ」の称呼が生じ、かつ、「切石」、「張付け石」等のほか、「阿修羅」という観念が生じる。また、後半の「VELLUM」という部分からは「ベラム」という称呼が生じ、かつ、「ベラム革」、「ベラム紙(子牛・子羊などの皮をなめして作った上質の皮紙)」等の観念が生じる。 そして、「ASHLARVELLUM」の語がCADソフトウェア業界で使用される場合、「ASHLAR」の部分からは、CADソフトウェアメーカーとして広く知られている原告アシュラの商号の略称である「Ashlar」,「ASHLAR」(アシュラ)の観念が生じ、「VELLUM」(ベラム)の部分からは、原告アシュラのCADソフトウェアに使用される商標(アシュラ商標)として広く知られている「Vellum」、「VELLUM」(ベラム)の観念が生じるから、原告コンセプト標章2の要部は、「VELLUM」(ベラム)の部分である。 アシュラ商標(「ベラム」と「Vellum」の文字を上下2段に横書きして成るもの)と原告コンセプト標章2の要部のいずれからも「ベラム」の称呼が生じるから、称呼上は全く同一である。また、「VELLUM」と「Vellum」とでは、第2文字以下が大文字か小文字かという相違があるだけで、その他の点はすべて同一であるから、両者は、外観上も酷似する。さらに、上記のとおり、「VELLUM」という標章から、原告アシュラの商品(CADソフトウェア)に使用する商標としての「Vellum」の観念が生じる。 以上のとおり、原告コンセプト標章2(「ASHLARVELLUM」)とアシュラ商標は、外観、称呼、観念のすべての点において酷似する。 (d) したがって、原告コンセプトが、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの広告に原告コンセプト標章1及び2を付して頒布し、その情報をインターネット(電磁的方法)で提供する行為は、アシュラ商標権の侵害行為に該当する(商標法37条1号)。 よって、原告アシュラは、商標法36条1項、2項に基づき、原告コンセプトに対し、上記侵害行為の差止め並びに原告コンセプト標章1、2を付した広告の廃棄及び原告コンセプトのホームページからの削除を求める。 また、原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアにアシュラ商標に類似する標章を付した広告等をしてアシュラ商標権を侵害したものであるところ、原告コンセプトがアシュラ商標権の侵害行為を行うにつき、少なくとも過失があることは明らかであるから、原告コンセプトは、これによって原告アシュラが受けた後記の損害を賠償する責任を負う。 b 原告コンセプトは、原告コンセプト標章2について、コンセプト商標1を使用したものである旨主張するが、コンセプト商標権1は、次のとおり、無効審判により無効とされるべきものであり、正当な商標権の行使ということはできないから、原告コンセプトの上記主張は失当である。 (a) 商標法4条1項11号該当 コンセプト商標権1(平成16年11月2日出願)は、アシュラ商標権(平成5年9月16日出願)の後願に該当するところ、上記のとおり、コンセプト商標1はアシュラ商標に類似し、両商標の指定商品も同一であるから、コンセプト商標権1は、商標法4条1項11号に該当するものとして、同法46条1項1号により無効にされるべきである。 (b) 商標法4条1項8号、10号該当又は15号該当 「Ashlar」、「Vellum」の各標章及びこれらの標章の結合から成る「Ashlar・Vellum」、「Ashlar Vellum」という標章は、コンセプト商標権1の登録出願日(平成16年11月2日)以前において既に原告アシュラの開発に係るCADソフトウェアに使用する商標として、諸外国のみならず我が国においても周知ないし著名となっていた。 このことは、コンセプト商標権1の登録出願に対する特許庁審査官の拒絶理由通知において、「この商標登録出願に係る商標は、米国アシュラ社(テキサス州オースティン リサーチ・ブルバード所在)がソフトウエアに使用して著名な商標の「アシュラベラム」「ASHLARVELLUM」の文字を書してなるものですから、これをその指定商品に使用するときは、恰も前記会社の生産、販売または取扱に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものと認めます。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項第15号に該当します。」と記載されていること(乙19の1)に照らしても明らかである。 したがって、原告コンセプト商標権1は、商標法4条1項15号に該当するほか、上記拒絶理由で述べられているとおり、「アシュラベラム」、「ASHLARVELLUM」の文字を書して成る商標が原告アシュラの商標として著名である以上、同項10号にも該当する。また、原告アシュラの略称である「ASHLAR」、「Ashlar」が著名である以上、この略称を含む「ASHLARVELLUM」、「アシュラベラム」の文字を書して成る商標が同項8号に該当することは明らかである。 したがって、コンセプト商標権1は、商標法46条1項1号により無効にされるべきものである。 (c) 商標法4条1項7号、19号該当 ファモティクは、Vellum製品の我が国における販売代理店にすぎず、我が国において、自らVellum製品に関する商標権を取得し、又はその子会社(アシュラジャパン)にこれを取得させる権限がなかったにもかかわらず、平成8年7月31日、コンセプト商標1と全く同一の構成の商標(片仮名「アシュラベラム」とアルファベット「ASHLARVELLUM」とを上下2段に横書きして成る、登録第3174405号商標)を原告アシュラに無断でアシュラジャパンに不正に取得させ、その後(平成9年4月ころ)、アシュラジャパンからその商標権の譲渡を受けた。 ファモティクは、破産宣告(平成16年4月9日)の際、破産管財人や原告アシュラに登録第3174405号商標の存在を告知し、これを原告アシュラに譲渡する義務があった(パリ条約6条の7(1)、商標法53条の2参照)にもかかわらず、これを怠ったため、原告アシュラは、ファモティクから、同商標権の移転を受ける機会を奪われた。 さらに、原告コンセプトは、ファモティクの事業の承継者として、上記の事情を知悉しながら、ファモティクが破産宣告を受けて間もない平成16年11月2日、登録第3174405号商標と構成を同一にするコンセプト商標権1について登録出願に及んだ上、その出願の直後(同月9日)、登録第3174405号商標の不使用取消審判を請求し(取消2004−31434)、特許庁を欺いて送達制度を悪用して(不適法な送達場所で、送達受領権限のない者に審判請求書、審決等の送達を受けさせて)、同商標の不使用取消審決(平成17年2月22日)を得ている。 原告コンセプトが上記の経緯でコンセプト商標権1の出願(平成16年11月2日)に及んだのは、その当時、我が国のみならず米国、ドイツ、スイス、フランス、オランダ、ベルギー等の諸外国でも広く知られ、名声を確立していた「Ashlar・Vellum」、「アシュラ・ベラム」、「Ashlar Vellum」、「アシュラベラム」の標章の信用にただ乗りしようとしたためであり、このような行為に基づくコンセプト商標権1は、国際商道徳に反するもので、公正な取引秩序を乱すのみならず、国際信義に反し、公の秩序を害するものである。 以上のとおり、コンセプト商標権1は、公序良俗を害する商標として、商標法4条1項7号に違反して登録されたものであり、また、原告アシュラの信用にただ乗りするという不正の目的をもって使用することを意図して出願され、登録されたものであるから、同項19号にも該当する。したがって、コンセプト商標権1については、商標法46条1項1号により無効にされるべきである。 c 原告アシュラがアシュラ商標権をVellum Investment Partners LLC に譲渡した事実は否認する。 また、原告アシュラ及び被告コムネット(アシュラ商標の通常使用権者)は、日本国内においてアシュラ商標を継続的に使用しており、アシュラ商標の登録が不使用取消審判請求により取り消されるおそれはない。 (イ) 原告コンセプト a 原告アシュラは、平成20年12月、アシュラ商標権をVellum Investment Partners LLC に譲渡した。 b 原告アシュラは、平成16年9月10日にアシュラ商標権を取得したが、その後、日本国内においてアシュラ商標を使用していないため、原告コンセプトは、平成21年4月27日、アシュラ商標権について、不使用取消審判の請求をしており、今後、アシュラ商標権の登録が取り消される可能性が高い。 このような商標権に基づく原告アシュラの請求は、権利の濫用として許されない。 c 原告コンセプトは、「Vellum」の文字を含む標章(原告コンセプト標章1)を使用して原告コンセプトの製品の広告をしたことはない。 d 原告コンセプト標章2 (ASHLARVELLUM) を「ASHLAR」と「VELLUM」に分けることはできないから、アシュラ商標と原告コンセプト標章2が類似しているということはできない。 (9) 争点(9)(原告コンセプトの損害)について ア 原告コンセプトの損害額 (ア) 原告コンセプト a 著作権侵害による損害(著作権法114条2項) (a) 被告コムネットは、Vellum3.0コード及びそのマニュアルの無断複製をして利益を上げていることから、被告コムネットの売上げを基礎に原告コンセプトの損害額を算定する。 (b) 原告コンセプトがVellum3.0コードのプログラム著作権及びマニュアルの著作権の譲渡を受けた平成16年5月18日から平成20年3月31日までの別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げは、以下のとおり、合計8112万9355円である。 @ 同目録記載1のソフトウェア(平成19年12月以降) 806万8724円 A 同目録記載2のソフトウェア(平成17年9月以降) 2404万8687円 B 同目録記載3のソフトウェア(平成16年5月以降) 2733万4954円 C 同目録記載4〜6のソフトウェア(平成16年10月以降) 2167万6990円 また、上記の売上額及び販売期間を参考にして、平成20年4月1日から平成21年6月30日まで(15か月間)の別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げを推計すると、以下のとおり、合計5835万9855円となる。 @ 同目録記載1のソフトウェア 3025万7715円 A 同目録記載2のソフトウェア 1163万6460円 B 同目録記載3のソフトウェア 872万3910円 C 同目録記載4〜6のソフトウェア 774万1770円 以上を合計すると、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げ(平成16年5月1日から平成21年6月30日まで)は、合計1億3948万9210円となる。 (c) 被告コムネットの売上げのうち70%程度が利益になっていると考えられるから、被告コムネットが上記ソフトウェアの販売により得た利益は、上記売上額に70%を乗じた9764万2447円であり、これが原告コンセプトの損害と推定される。 よって、原告コンセプトは、被告コムネットに対し、上記損害9764万2447円及びこれに対する不法行為の後である平成21年7月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 b 商標権侵害による損害(商標法38条1項、3項) (a) 商標法38条1項による損害額 被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェア及びそのマニュアル、パンフレットにコンセプト商標1、2に類似する別紙標章目録記載1、2の標章を付して販売したことによって、原告コンセプトの市場での地位を脅かし、原告コンセプトのブランド価値の低下や、需要者の間に誤認混同が惹起されることによる原告コンセプトの商品の販売数の減少をもたらし、更には多額の費用と労力を投入して市場で獲得した原告コンセプトの商品のブランド力を損耗ないし希釈させたから、原告コンセプトの損害額は、被告コムネットの売上げを基礎に算定する。 コンセプト商標1、2が登録された平成17年10月28日の後である同年11月1日から平成20年3月31日までの別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げは、合計5354万5511円であり、平成20年4月1日から平成21年6月30日まで(15か月間)の別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェアの推定売上額は、上記a(b)のとおり、合計5835万9855円である。したがって、平成17年11月1日から平成21年6月30日までの別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げは、合計1億1190万5366円となる。 平成18年5月1日から平成20年3月31日までの原告コンセプトの利益率は、平均して68.30%であるから、原告コンセプトの損害は、商標法38条1項により、上記売上額に利益率68.30%を乗じた7643万1364円と推定される。 原告コンセプトは、被告コムネットに対し、上記損害の一部請求として、2000万円及びこれに対する不法行為の後である平成21年7月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (b) 商標法38条3項による損害額 仮に、商標法38条1項に基づく損害額の主張が認められないとしても、原告コンセプトは、予備的に商標法38条3項に基づく損害額の主張をする。 コンセプト商標1、2は、原告コンセプトの開発した2次元あるいは3次元CADソフトウェアを示すものとして著名であり、自他識別力が強いものである。また、ソフトウェアの性能や機能は、通常、購入時に使用して確認することができないため、口コミ、ブランドなどを頼りに購入するのが一般的であるから、商品の売上げに占めるブランド力は高く評価することができる。 したがって、本件におけるコンセプト商標1、2の使用料率は、少なく見積もっても15%を下ることはないから、平成17年11月1日から平成21年6月30日までの別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売(商標権侵害)による原告コンセプトの損害額は、以下のとおり1678万5804円と推定される。 1億1190万5366円×15%=1678万5804円 c 弁護士費用 本件著作権に基づく差止請求事件並びに本件著作権侵害及び本件商標権侵害に基づく損害賠償請求事件と相当因果関係のある弁護士費用は、少なくとも500万円を下ることはない。 よって、原告コンセプトは、被告コムネットに対し、500万円及びこれに対する不法行為の後である平成21年7月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (イ) 被告コムネット a 著作権侵害、商標権侵害による損害 (a) 平成16年5月18日から平成20年3月31日までの期間における別紙「被告コムネット商品目録」記載1のソフトウェアの売上げが806万8724円、同目録記載2のソフトウェアの売上げが2404万8687円、同目録記載3のソフトウェアの売上げが2733万4954円、同目録記載5、6のソフトウェアの売上げが合計2167万6990円であったこと(なお、被告コムネットは、同目録記載4のソフトウェアは販売していない。)は認める。 なお、前記(8)ア(イ)eのとおり、コンセプト商標権1、2の商標公報が発行された平成17年11月29日以前については被告コムネットの過失が推定されず、実際、被告コムネットには過失がなかったというべきであるから、同日までの商標権侵害に基づく損害賠償請求をすることはできない。そして、平成17年10月28日(コンセプト商標権1、2の登録日)から同年11月29日までの別紙「被告コムネット商品目録」記載1のソフトウェアの売上げは4本(税込み27万4260円)、同目録記載2のソフトウェアの売上げは26本(税込み114万7912円)である。 平成20年4月1日から平成21年6月30日まで(15か月間)の上記各ソフトウェア(ただし、同目録記載4のソフトウェアを除く。)の売上げが合計5835万9855円であったことは否認する。同期間における同目録記載1のソフトウェアの売上げは1680万7800円、同目録記載2のソフトウェアの売上げは592万3250円、同目録記載3、5、6のソフトウェアの売上げは合計38万9000円である。 (b) 別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアについて、仮にAdditionsに係るプログラム著作権の侵害が認められるとしても、これらのソフトウェアは、いずれも3次元に関するAdditionsを利用することができないものであるから、Additionsの存在とこれらのソフトウェアの購入動機との間に何ら関係がない。 また、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、3、5、6のソフトウェアは、いずれも包装設計用プログラムであり、原告コンセプトの販売するソフトウェアとは競合関係になく、被告コムネットの上記各ソフトウェアの販売によって、原告コンセプトによるソフトウェア販売の機会を喪失させたわけではない。 したがって、本件において、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアの販売による損害について、著作権法114条2項の推定は覆滅される。 (c) 仮に、本件において別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアの販売による損害に著作権法114条2項が適用されるとしても、原告コンセプトが主張する被告コムネットの利益率(約70%)は過大である。すなわち、著作権法114条2項に規定する「利益」は粗利益ではなく、それ以外の経費(包装費、運送費、保管費、保険費用等やそれ以外の販売費及び売上額に応じて増減する性質を有する一般管理費等)も控除されるべきであり、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェア1本当たりの実際の平均販売価格及び販売利益は、次のとおりである。 @ 別紙「被告コムネット商品目録」記載1のソフトウェア 平成16年5月18日から平成20年3月31日まで 平均販売価格25万2148円、販売利益9万8731円 平成20年4月1日から平成21年6月30日まで 平均販売価格27万5538円、販売利益3万0809円 A 同目録記載2のソフトウェア 平成16年5月18日から平成20年3月31日まで 平均販売価格3万9815円、販売利益8315円 平成20年4月1日から平成21年6月30日まで 平均販売価格4万4873円、販売利益9732円 B 同目録記載3、5、6のソフトウェア 平成16年5月18日から平成20年3月31日まで 平均販売価格18万8507円、販売利益2万6252円 平成20年4月1日から平成21年6月30日まで 平均販売価格19万4500円、販売利益8万3475円 また、損害額の算定に当たっては、Additionsの寄与度として上記(b)のような事情が斟酌されるべきであるほか、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェア1本当たりの粗利益が2万2302円であるから(甲65)、これを超えることになるような損害額を著作権法114条2項の規定により請求することはできないというべきである。 (d) 別紙標章目録記載1、2の標章に原告コンセプトを出所とする顧客吸引力はなく、同標章は被告コムネットの売上げに全く寄与していないから、仮に商標権侵害が認められたとしても、商標法38条3項を適用すべきではない。 また、商標法38条3項を適用するとしても、別紙標章目録記載1、2の標章に原告コンセプトを出所とする顧客吸引力がないことや、被告コムネットの使用態様を考慮すれば、使用料は極めて低額とされるべきである。 (e) 仮に著作権侵害と商標権侵害の双方が成立するとしても、著作権法114条2項による損害額と商標法38条1項、3項による損害額は、いずれも同一の製品の製造販売行為に起因するものであるから、両者の損害額を合算すべきではない。 b 弁護士費用 否認ないし争う。 原告コンセプトの請求は過大である。 イ 消滅時効の成否 (ア) 被告コムネット 平成18年2月18日(原告コンセプトによる訴えの変更前の不法行為の終期の翌日)から同年7月21日(原告コンセプトが請求の変更を記載した書面を裁判所に提出した平成21年7月22日の3年前の日)までの被告コムネットの行為については、仮に著作権又は商標権の侵害になるとしても、原告コンセプトが損害及び加害者を知った時から3年以上を経過しているから、その損害賠償請求権は、民法724条前段の規定により、時効により消滅している。被告コムネットは、本訴において、上記時効を援用する。 なお、被告コムネットが消滅時効を援用した平成18年2月18日から同年7月21日までの間に被告コムネットが販売したプログラムの複製物は、別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェアが88本(売上高362万4000円)、同目録記載3、5、6のソフトウェアが合計42本(売上高593万2650円)である。 (イ) 原告コンセプト 争う。 (10) 争点(10)(原告アシュラの損害又は損失)について ア 原告アシュラの損害又は損失額 (ア) 原告アシュラ a 著作権侵害による損害(著作権法114条2項〜4項)又は損失(同条3項) (a) 平成16年9月1日から平成18年10月31日までの原告コンセプトのソフトウェア(別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェア)の販売によるVellum2.7 コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害による損害又は損失 @ 著作権法114条2項 原告コンセプトは、上記期間(平成16年9月1日から平成18年10月31日まで)中、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの販売により、合計7459万3016円の税抜純売上げ(以下、単に「売上げ」という。)を得ている。 ソフトウェアは、一たん開発された後はCD−ROMに複製して製造することが容易であり、部材費や輸送費も小さい(インターネットを通じた販売等の態様によれば部材費や輸送費が不要となる。)から、その製造及び販売に要する経費は少なく、利益率が高くなる。原告コンセプトも、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売(平成16年5月18日から平成20年3月31日まで)に係る粗利益率について、売上げの68.30%であると主張しており、当該粗利益率をもって原告アシュラの損害額を算定すべきである。 そして、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアにおいて、ドラフティング・アシスタント機能その他のVellum2.7コードに備わる機能及び操作性こそが重要であるところ、同目録記載1〜6のソフトウェアは、これらの各種機能及び操作性をVellum2.7コードから承継しており、Vellum2.7コードがなければ上記の各種機能及び操作性を実現することができないこと、Vellum3.0のソースコードのうち少なくとも約63.9%がVellum2.7のソースコードと同一であり、また、Vellum3.0のソースコードに係るファイル1070個のうち、Vellum2.7コード及びコードExtensionsに係るものが786個(約73%)も存在することなどからすれば、 原告コンセプトの売上げに対するVellum2.7コード及びExtensionsコードの寄与率は極めて高いものである。 したがって、著作権法114条2項に基づき算定される原告アシュラの損害額は、6500万円を下らないというべきである。 A 著作権法114条3項 原告コンセプトは、上記期間(平成16年9月1日から平成18年10月31日まで)中、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアを2242本販売しているところ、上記ソフトウェア1本当たりの使用料相当額(著作権法114条3項)は、侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間の具体的な事情を参酌して認定されるべきである。 本件において、Vellum2.7コード及びExtensionsコードはソースコードであり、原告アシュラのようなソフトウェアの開発及び販売会社がその事業活動を維持するためには、数々の営業秘密の中でも特に厳しく管理、保護されなければならない性質のものである。また、Vellum2.7コード及びExtensionsコードは、原告アシュラがその開発に多大な費用及び時間を投じたもので、各種ソフトウェアへの発展可能性を有しており、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアを貫く各種機能及び操作性を基礎づけるものとして大きな顧客誘引力を有するから、その価値が高いことは明らかである。 さらに、Vellum2.7コード及びExtensionsコードは、原告アシュラが従前利用してきたもので、現在も原告アシュラ及び被告コムネットが事業活動において利用しているため、原告コンセプトがVellum2.7コード及びExtensionsコードに係るプログラム著作権を侵害し、Vellumシリーズのソフトウェアを貫く各種機能及び操作性を承継するソフトウェアを販売することによって、原告アシュラ及び被告コムネットの事業活動に大きな悪影響が生じ、市場に混乱が生じている。加えて、原告コンセプトは、ファモティクから人的資源を承継した会社として、 Vellum2.7コード及びExtensionsコードに係る著作権が原告アシュラに帰属することや、原告アシュラからVellum2.7コード及びExtensionsコードが適法に開示されておらず、何らの使用許諾も得ていないことを認識しながら著作権侵害行為に及んでおり、原告コンセプトの行為が極めて悪質であることは明らかである。 以上からすれば、Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権について、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェア1本当たりの使用料相当額は、2万5000円を下らない。 したがって、著作権法114条3項に基づき算定される原告アシュラの損害又は損失額は5605万円(=2万5000円/本×2242本)である。 また、これに弁護士費用相当額(原告コンセプトによる侵害行為の悪質性、事案の性質、内容、審理の経過、難易度等を総合的に考慮すれば、弁護士費用相当額を除く損害額の1割として、560万5000円を下らない。)を加算した損害額(同条4項)は、合計6165万5000円となる。 (b) 平成18年11月1日から平成21年7月15日までの原告コンセプトのソフトウェア(別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェア)の販売によるVellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害による損害又は損失 @ 著作権法114条2項 原告コンセプトは、平成18年11月1日から平成20年3月31日まで、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの販売により、合計3633万4948円の売上げを得ている。 また、原告コンセプトは、平成20年4月1日から平成21年7月15日まで、少なくとも3869万5800円(1か月平均257万9720円)の売上げを得ていると推定できる。 したがって、原告コンセプトは、平成18年11月1日から平成21年7月15日までの間に、少なくとも7503万0748円の売上げを得ている。 原告コンセプトの利益率やVellum2.7コード及びExtensionsコードの寄与率が高いことは上記のとおりであり、著作権法114条2項に基づき算定される原告アシュラの損害額は、6500万円を下らない。 A 著作権法114条3項 原告コンセプトは、平成18年11月1日から平成20年3月31日まで、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアを合計1076本販売している。 また、原告コンセプトは、平成20年4月1日から平成21年7月15日まで、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアを少なくとも1155本(1か月平均77本)販売していると推定できる。 したがって、原告コンセプトは、平成18年11月1日から平成21年7月15日までの間に、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアを少なくとも2231本販売している。 上記のとおり、Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権について、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェア1本当たりの使用料相当額は、2万5000円を下らないから、著作権法114条3項に基づき算定される原告アシュラの損害又は損失額は5577万5000円(=2万5000円/本×2231本)である。 また、これに弁護士費用相当額(557万7500円)を加算した損害額(同条4項)は、合計6135万2500円となる。 (c) 平成16年5月18日から平成17年6月30日までの原告コンセプトのソフトウェア(別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェア)の販売によるVellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害による損害又は損失 @ 著作権法114条2項 原告コンセプトは、上記期間(平成16年5月18日から平成17年6月30日まで)中、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアの販売により、合計1934万8969円の売上げを得た。 原告コンセプトの利益率やVellum2.7コード及びExtensionsコードの寄与率が高いことは上記のとおりであり、著作権法114条2項に基づき算定される原告アシュラの損害額は、1700万円を下らない。 A 著作権法114条3項 原告コンセプトは、上記期間(平成16年5月18日から平成17年6月30日まで)中、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアを合計605本販売している。 上記のとおり、Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権について、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェア1本当たりの使用料相当額は、2万5000円を下らないから、著作権法114条3項に基づき算定される原告アシュラの損害又は損失額は1512万5000円(=2万5000円/本×605本)である。 また、これに弁護士費用相当額(151万2500円)を加算した損害額(同条4項)は、合計1663万7500円となる。 b 商標権侵害による損害(商標法38条3項、4項)又は損失(同条3項) 原告アシュラは、原告コンセプトに対し、アシュラ商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する金銭を原告アシュラが受けた損害又は損失の額として、その賠償又は不当利得の返還を請求することができるところ(商標法38条3項)、その損害又は損失額は、次のとおりである。 (a) 平成16年5月18日から平成18年10月31日までのアシュラ商標権侵害による損害又は損失 原告コンセプトは、上記期間(平成16年5月18日から平成18年10月31日まで)中、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売により、合計9394万1985円の売上げを得た。 商標法38条3項に基づく損害又は損失額の算定においても、使用料相当額は、侵害行為の対象となった商標の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間の具体的な事情を参酌して認定されるべきである。 Vellum2.7コード及びExtensionsコードは、原告アシュラに係るVellumシリーズのソフトウェアを貫く各種機能及び操作性を基礎づけるものとして高い価値及び顧客誘引力を有するところ、アシュラ商標は、このようなVellumシリーズのソフトウェアであることを端的かつ明確に示すものとして高い価値及び顧客誘引力を有する。また、アシュラ商標は、国内外において、原告アシュラを出所として表示する周知ないし著名な商標であり、現在も、原告アシュラ及び被告コムネットが事業活動において利用しているため、原告コンセプトがアシュラ商標権を侵害して、原告アシュラから許諾を得てVellumシリーズに属するソフトウェアを適法に販売しているかのような表示をすることにより、原告アシュラ及び被告コムネットの事業活動に大きな悪影響が生じ、市場に混乱が生じている。原告コンセプトは、ファモティクから人的資源を承継した会社として、アシュラ商標権が原告アシュラに帰属することや、原告アシュラから何らの許諾も得ていないことを認識していたのであるから、原告コンセプトによるアシュラ商標権の侵害行為は極めて悪質である。 したがって、本件において、原告アシュラがアシュラ商標の使用に対し受けるべき金銭の額は、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売価格の8%を下らないとするのが相当である。 以上のとおり、上記期間(平成16年5月18日から平成18年10月31日まで)におけるアシュラ商標権の侵害に基づく損害又は損失額は、751万5358円(=9394万1985円×8%)である。 また、これに弁護士費用相当額(75万1535円)を加算した損害額(商標法38条4項前段)は、合計826万6893円となる。 (b) 平成18年11月1日から平成21年7月15日までのアシュラ商標権侵害による損害又は損失 原告コンセプトは、上記期間(平成18年11月1日から平成21年7月15日まで)中、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売により、少なくとも7503万0748円の売上げを得ている。 本件において、商標法38条3項に基づく損害又は損失額を算定するに当たって適用される使用料率は、上記のとおり8%を下らない。 よって、上記期間(平成18年11月1日から平成21年7月15日まで)におけるアシュラ商標権の侵害に基づく損害又は損失額は、600万2459円(=7503万0748円×8%)である。 また、これに弁護士費用相当額(60万0245円)を加算した損害額(商標法38条4項前段)は、合計660万2704円となる。 (イ) 原告コンセプト 否認ないし争う。 なお、アシュラ商標は、日本国内において、原告アシュラによってもそのライセンシーによっても一切使用されていなかったから、顧客吸引力が全く認められない。したがって、仮に原告コンセプトがアシュラ商標に類似する標章を使用していたとしても、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げに全く寄与していないことが明らかであるから、原告アシュラには、得べかりし利益としての使用料相当額の損害も損失も生じていない。 イ 相殺の抗弁の成否 (ア) 原告コンセプト a 仮に、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアがVellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権を利用するものであり、原告コンセプトが原告アシュラに対して不当利得返還債務を負うとしても、原告アシュラは、原告コンセプトがプログラム著作権を有するAdditionsを不正使用していたのであるから、原告コンセプトに対し、不法行為による損害賠償債務を負う。 原告コンセプトは、上記損害賠償請求権を自働債権として、原告アシュラの原告コンセプトに対する不当利得返還請求権と対当額で相殺する。 b 仮に、原告コンセプト標章1、2の使用がアシュラ商標権を侵害するとして、原告コンセプトが原告アシュラに対し不当利得返還債務を負うとしても、原告アシュラは、上記のとおり、原告コンセプトがプログラム著作権を有するAdditionsを不正使用していたのであるから、原告コンセプトに対し、不法行為による損害賠償債務を負う。 原告コンセプトは、上記損害賠償請求権を自働債権として、原告アシュラの原告コンセプトに対する不当利得返還請求権と対当額で相殺する。 (イ) 原告アシュラ 原告コンセプトが自働債権として主張する損害賠償請求権は、前提とするAdditionsの範囲が不当に広すぎる上、原告アシュラと被告コムネットとの共同不法行為に関する抗弁事実(主要事実)の主張、立証が全くされていない。 したがって、原告コンセプトによる上記相殺の主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(国際裁判管轄の有無)について 原告コンセプトは、第2事件について、ソースコードライセンス契約(乙5の1、2)5.4条の定めを根拠として、我が国に国際裁判管轄が認められないと主張し、訴えの却下を求めている。 原告アシュラは、この主張に対し、時機に後れた防御方法であり、民事訴訟法157条1項により却下されるべきである旨の申立てをするが、国際裁判管轄の有無は裁判所が職権で調査すべき事項であるから、その主張が時機に後れたことを理由として、これを却下することはできない。 そこで、第2事件について我が国の国際裁判管轄を検討する。第2事件は、前記第2の1(2)のとおり、原告アシュラが、原告コンセプトに対し、プログラム著作権及び商標権に基づき、原告コンセプトが販売する製品、マニュアルの販売等の差止め、廃棄等を求めるとともに、不法行為(著作権侵害、商標権侵害)による損害賠償又は不当利得返還を求める事案である。原告アシュラとファモティクとの間に締結されたソースコードライセンス契約(乙5の1、2)5.4条には「この契約に基づくいかなる訴訟も、カリフォルニア州の連邦又は州裁判所に起こされるものとし、ライセンシーは、この契約により対人裁判管轄権に服する。」旨の規定があるが、同契約の当事者は原告アシュラとファモティクであるから、上記規定は、原告アシュラがファモティクに対し、又はファモティクが原告アシュラに対し、同契約上の紛争に基づく訴訟を提起する場合の裁判管轄について合意したものであって、契約当事者以外の第三者との間に係属すべき訴訟の管轄について定めたものであるとは解されない。そして、同契約5.8条によれば、ファモティクは、原告アシュラの書面による事前同意なしに同契約上の地位を譲渡することができないものとされているから、原告コンセプトが同契約上のライセンシーとしての地位をファモティクから適法に譲り受けたものということはできず、原告コンセプトとファモティクを同視することはできない以上、上記5.4条の規定を理由として、第2事件について我が国の国際裁判管轄が否定されるということはできない。 ところで、国際裁判管轄については、これを直接規定する法規もなく、また、よるべき条約も、一般に承認された明確な国際法上の原則も、いまだ確立していないのが現状であるから、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である(最高裁昭和56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁参照)。そして、我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則として、我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁平成9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁参照)。 これを第2事件についてみると、同事件は、外国法人である原告アシュラが進んで我が国の裁判権に服するとして我が国の裁判所に提起した訴訟であるところ、他方、被告である原告コンセプトは東京都千代田区を本店の所在地とする日本法人であるから、我が国に普通裁判籍(民事訴訟法4条4項)があるが、我が国の国際裁判管轄を否定すべき上記特段の事情があるとは認められない。 したがって、第2事件に係る訴えについては、我が国に国際裁判管轄を認めるのが相当であり、原告コンセプトの上記本案前の主張は理由がない。 2 争点(2)(訴え変更の許否)について (1) 原告コンセプトによる訴え変更の許否について ア 本件記録によれば、第1事件について、原告コンセプトが平成21年7月29日付け準備書面(17)で訴えの追加的変更を申し立てる前の請求は、次のとおりである。 (ア) コードのプロVellum3.0グラム著作権及びそのマニュアルの著作権に基づく、被告コムネットの販売するソフトウェア(別紙「被告コムネット商品目録」記載2〜4のソフトウェアのほか、「BOX-Vellum5.0」、「BOX-Vellum Graphite」という名称のソフトウェア)及びそのマニュアルの複製、販売、頒布、展示の差止め及び廃棄請求 (イ) コンセプト商標権1、2に基づく、別紙標章目録記載1、2の標章の使用(被告コムネットのソフトウェアやその包装箱等に付して販売し、又は販売のために展示すること)の差止め及び廃棄請求 (ウ) 「BOX-Vellum Graphite」及び別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェア並びにそれらのマニュアルの販売等によるVellum3.0コードのプログラム著作権及びそのマニュアルの著作権の侵害(不法行為)に基づく損害(3977万5500円及びこれに対する平成18年4月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)賠償請求(請求期間は平成16年5月18日から平成18年2月17日まで) (エ) 「BOX-Vellum Graphite」及び別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェアの販売等によるコンセプト商標権1、2の侵害(不法行為)に基づく損害(損害の一部である2000万円及びこれに対する平成18年4月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)賠償請求(請求期間は平成16年5月18日から平成18年2月17日まで) (オ) 不法行為(著作権侵害、商標権侵害)による弁護士費用相当額の損害(500万円及びこれに対する平成18年4月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)賠償請求 イ 本件記録によれば、原告コンセプトが平成21年7月29日付け準備書面(17)及び同日付け準備書面(18)で追加することを申し立てた請求(ただし、その後、取り下げられたものを除く。)は、次のとおりである。 (ア) コードのプロVellum3.0グラム著作権及びそのマニュアルの著作権に基づく、被告コムネットの販売するソフトウェア(別紙「被告コムネット商品目録」記載1のソフトウェア)及びそのマニュアルの複製、販売、頒布、展示の差止め及び廃棄請求 (イ) Vellum3.0コードのプログラム著作権及びそのマニュアルの著作権に基づく、被告コムネットの販売するソフトウェア(別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェア)及びそのマニュアルの自動公衆送信及び送信可能化の差止請求 (ウ) コンセプト商標権1、2に基づく、別紙標章目録記載1、2の標章の使用(被告コムネットの販売するソフトウェアの広告に付して展示、頒布し、又はインターネット上で提供すること)の差止め及び廃棄請求 (エ) Vellum3.0コードのプログラム著作権及びそのマニュアルの著作権の侵害(不法行為)に基づく損害賠償請求について、対象製品の追加(別紙「被告コムネット商品目録」記載1、3〜6のソフトウェアを追加)、期間の伸張(平成16年5月18日から平成21年6月30日までに伸張)による請求額の拡張 (オ) コンセプト商標権1、2の侵害(不法行為)に基づく損害賠償請求について、対象製品の追加(別紙「被告コムネット商品目録」記載1、3〜6のソフトウェアを追加)、期間の伸張(平成16年5月18日から平成21年6月30日までに伸張)による請求額の拡張 ウ 上記イにより原告コンセプトが追加した請求は、いずれも従前の請求の基礎となっていた著作権及び商標権に基づくものであり、また、差止め、損害賠償の対象として追加された被告コムネットの製品や行為態様も、従前のものと密接に関連するものである。したがって、原告コンセプトが上記訴えの追加によって実現しようとする利益は、従前のそれと共通するものであり、追加された請求の審理のために、従前の訴訟資料を相当程度利用することが可能であるということができる。 また、原告コンセプトは、上記訴えの変更に係る平成21年7月29日付け準備書面(17)(被告コムネットには同月24日に送達)及び同月29日付け準備書面(18)(被告コムネットには同月29日に送達)を第32回弁論準備手続期日(同月29日)において陳述し、実質的にその次回期日に当たる第3回口頭弁論期日(平成21年10月7日)までに必要な立証を終えて、弁論を終結しているから、上記訴えの変更によって、著しく訴訟手続を遅滞させることになるということもできない。 したがって、原告コンセプトによる上記訴えの追加的変更については、これを許すのが相当である。 (2) 原告アシュラによる訴え変更の許否について ア 第2事件について、原告アシュラが平成21年7月14日付け「訴えの変更申立書」により訴えの追加的変更を申し立てる前の請求は、次のとおりである。 (ア) 基本Vellum2.7コード(base code)のプログラム著作権に基づく、原告コンセプトの販売するソフトウェア(別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェア)及びそのマニュアルの複製、頒布、自動公衆送信、送信可能化の差止め及び廃棄請求 (イ) アシュラ商標権に基づく、原告コンセプト標章1(「Vellum」の文字を含む標章)、2(「ASHLARVELLUM」)の使用(別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの広告に付すこと、その広告をインターネットを通じて提供すること)の差止め及び廃棄請求 (ウ) 別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの販売によるVellum2.7基本コードのプログラム著作権の侵害(不法行為)に基づく損害(1億8000万円のうちの7000万円及びこれに対する平成18年11月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)賠償請求(請求期間は平成16年10月1日から平成18年9月30日まで) (エ) 別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの販売によるアシュラ商標権の侵害(不法行為)に基づく損害(3024万円のうち3000万円及びこれに対する平成18年11月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)賠償請求(請求期間は平成16年10月1日から平成18年9月30日まで) イ 原告アシュラが平成21年7月14日付け「訴えの変更申立書」により追加することを申し立てた請求は、次のとおりである。 (ア) Extensionsコードのプログラム著作権に基づく、原告コンセプトの販売するソフトウェア(別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェア)及びそのマニュアルの複製、頒布、自動公衆送信、送信可能化の差止め及び廃棄請求 (イ) 不法行為(著作権侵害)による損害賠償請求について、被侵害権利の追加(Extensionsコードのプログラム著作権を追加)、対象製品の追加(別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアを追加)、期間の伸張(平成16年5月18日から平成21年7月15日までに伸張)による請求額の拡張 (ウ) 不法行為(商標権侵害)による損害賠償請求について、対象製品の追加(別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアを追加)、期間の伸張(平成16年5月18日から平成21年7月15日までに伸張)による請求額の拡張 (エ) Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害並びにアシュラ商標権侵害による損失について、上記(イ)、(ウ)の損害賠償請求と選択的に不当利得返還請求 ウ 上記イにより原告アシュラが追加した請求は、Extensionsコードのプログラム著作権に基づくものを除き、いずれも従前の請求の基礎となっていたプログラム著作権及び商標権に基づくものであり、また、損害賠償の対象として追加された原告コンセプトの製品(別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェア)も、それまで差止め等の対象となっていたソフトウェア(同目録記載1〜3のソフトウェア)と密接に関連するものとして、従前の証拠資料(甲61、甲66の1〜8、甲67の1〜12、丙2〜5)にも現れていたものである。 なお、Extensionsコードのプログラム著作権の存否に争いがあるが、この点については、Vellum3.0コードの制作経緯(争点(3)ア)として、これまで当事者双方が主張、立証を尽くしてきたところであり、その審理のために新たな証拠調べを必要とするということもない上、本件修正契約(甲2、18)に基づきVellum3.0コードが開発されたとする原告アシュラの主張を前提とする限り、Extensionsコードは、Vellum2.7基本コードと密接不可分の関係にあるということになる。 以上のとおり、原告アシュラが上記訴えの追加によって実現しようとする利益は、従前のそれと共通するものであり、追加された請求の審理のために、従前の訴訟資料を相当程度利用することが可能であるということができる。 また、原告アシュラは、平成21年7月14日付け「訴えの変更申立書」(原告コンセプトには同月16日に送達)を第32回弁論準備手続期日(同月29日)において陳述し、実質的にその次回期日に当たる第3回口頭弁論期日(平成21年10月7日)までに必要な立証を終えて、弁論を終結しているから、上記訴えの変更によって、著しく訴訟手続を遅滞させることになるということもできない。 したがって、原告アシュラによる上記訴えの追加的変更についても、これを許すのが相当である。 3 争点(3)(Vellum3.0コードのプログラム著作権の帰属)について (1) Vellum3.0コードの制作経緯 ア Vellum3.0コード(甲41)のディレクトリ(コンピュータ内においてファイルを階層構造で分類、整理するための保管場所)中、ソースコードが含まれる「Granite」という名称のディレクトリについてみると、その下層ディレクトリ55個のうち40個(約72.7%)がVellum2.7コード(丙15)のディレクトリと名称が同一であり、さらに、この同一ディレクトリ内のファイルを相互に対照すると、多数のものが名称を同一にしていることが認められる。(甲31、丙16、29、30) また、Vellum2.7コードのファイルと名称を同一にするVellum3.0コードのファイル内のソースコードの総行数は27万6987行であるが、そのうち25万5623行(約92.3%)がVellum2.7コードのファイル内のソースコードと完全に一致しており、Vellum3.0の全ソースコード(原告コンセプトの主張によれば約40万行)のうち少なくとも約63.9%(=25万5623行/40万行)がVellum2.7コードと完全に一致していることが認められる。(乙21の1〜7、丙29、30) イ ところで、原告コンセプトは、16ビットVellum2.7オリジナル英語版のソースコードとして提出されたCD−ROM(丙15)に記録されているのは、原告コンセプトが著作権を有する16ビットVellum2.7日本語版のソースコードであり、これとVellum3.0コードを対比するのは前提において誤りである旨の主張をする。 しかしながら、上記CD−ROM(丙15)に記録されているコードは、@一部ヘッダーのコメント記載等を除き、16ビットVellum2.7オリジナル英語版のソースコードが記録されたOntrackと題するCD−ROM(丙38)のコードとほぼ同一であること、Aバージョンアップ前のVellum2.14コード(丙17)ともよく一致していること、B英語には完全に対応するのに対し、日本語その他の2 byte 言語には完全には対応していないことなどの事実から、16ビットVellum2.7オリジナル英語版のソースコードであると認めるのが相当であり、原告コンセプトの上記主張は採用することができない。 ウ ディレクトリ構成やファイル名は、プログラムを作成する際にプログラムを機能ごとにモジュール分割する作業を反映するものであるから、偶然に一致するということは通常は考え難い。同様に、ソースコードの記述には多数の選択肢が存在するのであるから、既存のソースコードに依拠せずに開発されたソースコードの記述が、既存のソースコードの記述と偶然に一致するということも通常は考え難い。そして、一般に、16ビット環境のプログラムを32ビット環境に移行させる場合には、ビット長を意識したデータについては修正が必要であるものの、多くはコンパイラが処理するので、修正が必要な部分はごく一部に限定されること、本件において、ファモティクは、Vellum3.0コードを開発するに際し、Vellum2.7コードを解析、検証していたという経緯があることも併せ考慮すれば、Vellum3.0コードは、本件修正契約に基づき、Vellum2.7コードを一部改変して作成されたものと認めることができる。 これに対し、原告コンセプトは、Vellum2.7コードに依拠することなく、ファモティクがすべての記述コードを初めから32ビットで開発することとしてVellum3.0コードを創作したと主張し、A(原告アシュラの元執行副社長)、B(原告コンセプト取締役。以下「B」という。)、C(アルモニコスの元開発担当取締役)作成の各陳述書(上記の順に甲20、25、103)にはこの主張に沿う記載があるが、上記アに認定した客観的事実と整合しないものであり、これを採用することはできない。 エ なお、被告コムネットは、Vellum2.7コードの32ビット化を実際に行ったのはファモティクではなく、アルモニコスであったと主張する。 確かに、アルモニコスは、Vellum3.0コードの開発に当たり、Autoface(3次元図形表現ソフトウェア)のプログラムを提供し、ファモティクは、これをVellum3.0コード用に改変して使用したことは認められるが、Vellumソフトウェアに関して原告アシュラとソースコードライセンス契約(乙5の1、2)を締結したのはファモティクであること、本件修正契約(甲2、18)においても、原告アシュラとの間で、「ファモティクは、Vellum2.7の16ビットの基本コード(base code)を32ビットに書き換え、32ビットのWindows95、WindowsNT、PowerMac 上の環境に搭載する作業を行っている」こと(2.1条)、「ファモティクは、Surfaces及びInterfaceのプログラムコードを独自に開発済みであり、またLightworksとの互換性のあるRendering及びHidden Line Removalのモジュールを独自に開発中である」こと(2.2条)、「ファモティクは、Additionsを独占的に所有する」こと(3.2条)などが確認されていることに照らせば、Vellum3.0コードの開発を主体的に行ったのはファモティクであったと認めるのが相当であるから、被告コムネットの上記主張は採用し難い。 (2) 原告コンセプトはVellum3.0コードのプログラム著作権を取得したか 上記(1)のとおり、Vellum3.0コードは、本件修正契約に基づき、ファモティクがVellum2.7コードに依拠して開発したものである。 なお、被告コムネットは、16ビットのソフトウェアを32ビットに変更することは専用のソフトウェアによって容易に達成される単純な作業であり、知的な創造を伴うものではない(創作性がない)と主張するが、16ビットのソフトウェアを32ビット化する場合、データ構造を再設計し、データの並び替え、最適化等を行うのが通常であり、単純な作業にとどまるということはできないから、被告コムネットの上記主張を採用することはできない。 したがって、Vellum3.0コードは、Vellum2.7コードとは別の著作物というべきであるが、本件修正契約(甲2、18)及びソースコードライセンス契約(乙5の1、2)の規定によれば、ファモティクが取得するのは、Vellum3.0 コードのうち、Additionsのプログラム著作権であり、その余のプログラム(Vellum2.7基本コード、Extensionsコード)の著作権は、原告アシュラにおいて取得することになるから、原告コンセプトが、フューテックを介して、ファモティクからVellum3.0コード全体のプログラム著作権を取得することはできない。 (3) 原告コンセプトはAdditions のプログラム著作権を取得したか 上記(1)、(2)のとおり、ファモティクは、本件修正契約及びソースコードライセンス契約に基づき、Vellum3.0コードのうちAdditionsのプログラム著作権(ただし、Autofaceの部分については、二次的著作権)を取得した。証拠(甲12、13)によれば、ファモティクは、フューテックに対し、平成15年12月20日付けでVellumに関する事業(Vellumに関する全資産〈技術資産、ユーザベースを含む営業資産、売掛・受取金勘定のすべてを含む。〉及び全責任〈Vellumのみに関する下請支払等すべて〉)を譲渡し、さらに、フューテックは、平成16年5月18日、同日に設立された原告コンセプトに対し、Vellum事業のすべて(フューテックがファモティクから譲り受けたすべての資産)を譲渡したことが認められる。 被告コムネットが指摘するように、上記「全資産」の中にVellum3.0コードに係るプログラム著作権やそのマニュアルの著作権が含まれることについて明示的に言及されてはいないが、これらの著作権もVellumに関する全資産に該当することは明らかであるから、当事者間で特にこれを除外する旨の反対合意がない限り、上記「全資産」の中にはVellum3.0コードに係るプログラム著作権やそのマニュアルの著作権が含まれるものと解するのが相当である。 ところで、原告アシュラとファモティクとの間で締結された販売代理店契約(甲1)によれば、当事者のいずれも契約上の地位を譲渡する権利を有しないものとされているから(12条)、ファモティクがフューテックに対して行ったVellum事業の譲渡は、原告アシュラに対抗することができないものと解される。もっとも、同契約において禁止されているのは、契約当事者としての地位の移転であり、Vellum事業で用いられる資産を個別に譲渡することは必ずしも禁止されているわけではないと解されるから、上記事業譲渡契約の当事者間においてはもとより、原告アシュラに対する関係においても、Vellum3.0コードのうちAdditionsのプログラム著作権及びそのマニュアルの著作権の譲渡の効力が直ちに否定されることにはならないというべきである。また、被告コムネットは、Vellum事業はファモティクの営業の重要な一部であったから、それを譲渡するにはファモティクの株主総会特別決議を経る必要があった(平成17年法律第87号による改正前の商法245条1項1号)などと主張するが、ファモティクの営業の全ぼうが明らかでないことに加え、ファモティク自身はVellum事業を「弊社(判決注:ファモティク)全事業に於いては比較的マイナーなもの」と位置付けていたこと(甲12)を考慮すれば、本件において、Vellum事業がファモティクにとって営業の重要な一部に該当することについて十分な立証はないといわざるを得ない。 以上検討したところによれば、原告コンセプトは、フューテックを介して、ファモティクから、平成16年5月18日にAdditionsのプログラム著作権(ただし、Autofaceについては、二次的著作権)及びマニュアルの著作権の譲渡を受けたものと認められる。 4 争点(4)(Vellum2.7コード、Extensionsコードのプログラム著作権の帰属)について (1) 前示のとおり、Vellum3.0コードは、本件修正契約に基づき、ファモティクがVellum2.7コードに依拠して開発したものであるから、本件修正契約(甲2、18)及びソースコードライセンス契約(乙5の1、2)の規定により、 基本Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権は、原告アシュラにおいて取得することになる。 この点、原告コンセプトは、著作権法61条2項により、Extensionsコードのプログラム著作権のうち、同法27条(翻訳権、翻案権等)、28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に規定する権利はファモティクに留保され、 原告アシュラに譲渡されないと主張する。しかし、Extensionsコードに係るプログラム著作権の譲渡を定めたソースコードライセンス契約は、その準拠法をカリフォルニア州法及び米国法と定めているから、我が国の著作権法61条2項の規定が適用されることはなく、また、カリフォルニア州法及び米国法に我が国の著作権法61条2項に相当する規定が存在するとは認められない。さらに、本件において、仮に我が国の著作権法の規定が適用されるとしても、上記ソースコードライセンス契約(乙5の1、2)2.6条には「原告アシュラは、・・ライセンシーに提供されるソースコードその他の品目(items)について、そのすべての特許、著作権、営業秘密及びその他あらゆる知的財産権を単独で有し、今後も依然としてそうあり続ける。」、「ライセンシー(判決注・ファモティク)は、原告アシュラに対し、Vellum Extensionsに関するすべての権利、権限及び権益を譲渡する。」、「この契約期間中、ライセンシーは、特許、著作権、営業秘密の譲渡又は申請など、Vellum Extensionsに関するあらゆる文書に署名して原告アシュラに交付する。」旨の規定があるところ、これらの条項は、原告アシュラにおいて、Extensionsコードに係る翻案権等を含めた著作権を全面的に保有することを当然の前提とする趣旨と解されるから、著作権法61条2項の推定は覆され、Extensionsコードに係る著作権法27条、28条所定の権利についても、ファモティクに留保されることなく、原告アシュラに譲渡されたものと認めるのが相当である。 したがって、いずれにしても、原告コンセプトの上記主張は採用することができない。 (2) 原告コンセプトは、原告アシュラが平成20年12月にVellum2.7コード及びExtensionsコードに係るプログラム著作権をVellum Investment Partners LLC に譲渡したと主張する。 確かに、Vellum Investment Partners LLC のホームページ(甲98)には「Vellum Investment Partnersは、2008年12月に取得手続を完了し、現在、Ashlar Vellum として事業をしている」旨の記載があるが、Ashlar-Vellumの提携先(channel partner)に送付されたニューズレター(甲99)によれば、原告アシュラは「選択された資産及び負債」(selected assets and liabilities)のみをVellum Investment Partners LLC に移転するものとされており、その資産の中にVellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権が含まれているかは不明である。また、上記ニューズレターには、「当方の銀行口座と振込送金に係る情報はすぐに変更される予定で、著作権表示も間もなく変更される予定です。」(原文:our bank accounts and wire transfer information will change immediately and copyright notices will change soon.) という記載があることからすると、原告アシュラがVellum2.7コード及びExtensionsコードに係るプログラム著作権をVellum Investment Partners LLC に移転する予定があったことはうかがわれるものの、実際に譲渡が実行されたことを認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告コンセプトの上記主張は理由がない。 (3) 以上のとおり、原告アシュラは、Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権を取得し、現在もその著作権を有していると認められる。 5 争点(5)(被告コムネットが使用するマニュアルの著作権及びその侵害の有無)について 証拠(乙32)及び弁論の全趣旨によれば、被告コムネットが使用している マニュアルに関して、次の事実を認めることができる。 (1) 別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェアに使用されているマニュアル(乙28)は、被告コムネットが原告アシュラから提供を受けた「Getting Started」という英語のマニュアルを基に、有限会社ディーマックスに翻訳させて(乙54の1〜5)新たに作成したものであり、その内容、形式に照らし、ファモティクが作成した「VellumPro V2.01」のマニュアル(甲5)と同一又は類似の著作物であるとは認められない。 (2) 別紙「被告コムネット商品目録」記載1のソフトウェアには、同目録記載2のソフトウェアと同一のマニュアル(乙28)のほか、被告コムネットが開発した包装設計用のプログラムに関するマニュアル(乙36、37)が使用されているが、このマニュアルも、被告コムネットが包装設計用に独自に作成したものであり、その内容、形式に照らしても、ファモティクが作成した「VellumPro V2.01」のマニュアル(甲5)と同一又は類似の著作物であるとは認められない。 (3) 別紙「被告コムネット商品目録」記載3、5、6のソフトウェアには、ファモティク作成のマニュアル(日本語の使用説明書をCDに記録したもの。乙34)のほか、被告コムネットが開発した包装設計用のプログラムに関するマニュアルが使用されていた。 このうち、後者のマニュアル(乙33、35)については、被告コムネットが独自に作成したものであり、その内容、形式に照らしても、ファモティクが作成したマニュアル(甲5)と同一又は類似の著作物であるとはいえない。 他方、前者のマニュアル(乙34)は、ファモティクが作成したものをそのまま複製、頒布していたものであり、また、その内容に照らし、思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作物性を有しているということができるから、前示のとおり、原告コンセプトがそのマニュアルの著作権を取得した平成16年5月18日以降は原告コンセプトの著作権を侵害することになる。 6 争点(6)( 別紙「被告コムネット商品目録」記載の各ソフトウェアは、Vellum3.0コードのプログラム著作権を侵害するものであるか)について (1) 別紙「被告コムネット商品目録」記載4のソフトウェアは販売されていたか 証拠(甲102、乙41の1〜47)及び弁論の全趣旨によれば、被告コムネットは、その帳簿上、あるいはホームページ上において、別紙「被告コムネット商品目録」記載5、6のソフトウェアの表示として「BOX-Vellum Ver.4.0」、「BOX-Vellum Ver4.0」などの表記を用いていたことが認められるものの、被告コムネットが同目録記載5、6のソフトウェアとは別に同目録記載4の名称のソフトウェアを実際に販売していたことを認めるに足りる証拠はない。 (2) 別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアはVellum3.0コードに依拠したものか 証拠(甲7、8、乙1〜3、29)及び弁論の全趣旨によれば、被告コムネットは、原告アシュラとの間で平成14年(2002年)8月ないし9月に締結した原告アシュラの販売するソフトウェア(Graphite v6, Graphite Custom v6, Graphite Share v6)に関する日本語ローカライゼーション契約(Japanese Localization Contract for Graphite v6) 及び原告アシュラとの間で平成17年(2005年)2月に締結したVellumのソースコードのライセンスに関する契約(Software Source Code License Agreement)に基づき、原告アシュラから提供を受けたソースコードを用いて、別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェア(日本語版)を開発し、これを原告アシュラとの間で締結した随時再販売業者契約(Occasional Reseller Agreement)に基づいて、平成17年9月9日以降販売していたこと、その後、同目録記載2のソフトウェアを被告コムネットの仕様にカスタマイズ(パッケージ作成用に特化)して、同目録記載1のソフトウェア(包装設計用CADソフトウェア)を開発したことが認められる。 上記のとおり、被告コムネットは、原告アシュラから開示を受けたソースコードに依拠して、別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェア(日本語版)を開発したものであるが、原告アシュラが被告コムネットに提供したソースコードがVellum3.0のものであったことは、別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェアとVellum3.0の機能がほとんど共通していること(甲35)からも明らかである。したがって、同目録記載2のソフトウェアを被告コムネット仕様にカスタマイズした同目録記載1のソフトウェアも、Vellum3.0コードに依拠しているものと認められる。これに反する被告コムネットの主張は採用することができない。 (3) 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアにはAdditionsが搭載されているか ア 上記(2)のとおり、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアは、Vellum3.0コードに依拠して制作されたものであるが、被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアには当初からAdditionsが搭載されていないと主張するので、以下検討する。 イ Additionsの範囲について 本件修正契約(甲2、18)2.2条、3.2条によれば、ファモティクは「Surfaces及びInterfaceのプログラムコードを独自に開発済みであり、またLightworksとの互換性のあるRendering及びHidden Line Removalのモジュールを独自に開発中」であり、「ファモティクによって独自に開発され、又は開発中のこれらのモジュール」のことを「Additions」といい、ファモティクが独占的に所有するものとされている。 上記各規定によれば、 ファモティクに権利が帰属することになる「Additions」とは、@ Surfacesモジュール、A Interfaceモジュール、B Renderingモジュール、C Hidden Line Removalモジュールに限られることになる。そして、@ Surfaces、A Interface、B Rendering、C Hidden Line Removalの各意味については、本件修正契約2.1条において、「かかる開発努力のために、原告アシュラは、以下のVellumのモジュールに関するソースコードの原型(prototype)をファモティクに提供する:Surfaces(表面表現ライン), Rendering(色彩加工), Hidden Line Removal(陰影処理) とInterface( ハードウェアや各種ファイルとの交信ソフトウェア)」と規定されていることから、原告アシュラの提供した原型を発展させたものであると解される。本件において、原告アシュラがどのような原型を提供したのか不明であるが、Vellum製品がCADソフトウェアであることを前提とすると、CADソフトウェアが有し得る機能を実現するモジュールとして、その機能を名称として用いたと考えるのが自然であるから、@ Surfacesは、サーフェスデータを自動作成する機能を有するモジュール、B Renderingは、サーフェスデータを視覚化する機能を有するモジュール、C Hidden Line Removalは、陰線処理の機能を有するモジュールを意味するものと解される。また、Aインターフェース(Interface)の用語は広い意味を持つものであるが、本件修正契約の文脈によれば「新たにサーフェスデータを扱うために必要となるモジュール」のことであり、さらに、本件修正契約に規定されたモジュールを実際に開発するために作成されたと推認される「Vellum3.0 Basic Design Sheets」(甲30)の内容を参酌すると、「サーフェスデータについて各種ファイルと入出力する機能を有するモジュール」のことであると解される。 次に「モジュール」の意味が問題となるが、本件修正契約1条によれば、「本修正契約で用いられる大文字の用語は、本修正契約で他に特別の定義や引用がされない限り、Agreementsで規定される意味を持つ。」旨規定されているところ、本件修正契約において、モジュール(module)は小文字の用語となっているから、コンピュータ業界における一般的な用語である「プログラムにおける交換可能な構成単位」であると解するのが相当である。 Vellum3.0コードは、ファイル及びその格納場所であるディレクトリで構成されているから(甲31)、上記構成単位であるモジュールは、ファイル又はその集合を指すものと考えられる。そして、モジュールは、ファイル又はその集合ごとに作成されて一定の機能を実現するプログラムの単位という意味で独立性を有するが、ソースコードがオブジェクトコードに変換された後には一体として実行されるから、複数のモジュールが整合して様々な機能を実現するためには、新規モジュールだけでなくVellum2.7コードの既存モジュールにも相応の改変が必要になるものと考えられる。本件修正契約は、上記の事情を前提とした上で、上記4つのモジュールのみを「Additions」として、「原型」も含めて、その権利をファモティクに帰属させることとし、権利関係を単純化、明確化したものと考えられる。したがって、ファモティクが「Additions」のために既存のモジュールに何らかの改変を加えたとしても、その権利はファモティクに帰属しないということになる。 以上のとおりであるから、「Additions」とは、@サーフェスデータを自動作成する機能を有するモジュール、Aサーフェスデータを視覚化する機能を有するモジュール、B陰線処理の機能を有するモジュール、Cサーフェスデータを各種ファイルと入出力する機能を有するモジュールであって、ソースファイル又はその集合からなるプログラムであると考えられる。 これに反する原告コンセプトの主張は、本件修正契約や、その基礎となったTERM SHEET(乙51の1、2添付資料)の明文の規定に反するもので、採用することができない。また、被告コムネットは、Additionsの範囲が不特定であるとも主張するが、上記のように特定することが可能であるから、被告コムネットの主張も理由がない。 ウ Vellum3.0コードを含む79のディレクトリ中、上記Additionsの機能を有するものは、原告コンセプト作成の一覧表(甲64)中、次のとおりであると認められる。
したがって、被告コムネットの主張は、理由がない。 エ また、同目録記載3、5、6のソフトウェアがVellum3.0コードを基盤ソフトウェアとして使用していることは争いがなく、被告コムネットは、これらのソフトウェアからAdditionsの部分を削除していないのであるから、これらのソフトウェアの中にはAdditionsの部分が含まれていると認められる。 (4) 侵害の態様 被告コムネットが、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアを記録媒体(CD−ROM)に複製し、これをマニュアルと共に購入者あてに宅配便で送付するという方法で販売していることは争いがない。 原告コンセプトは、上記に加え、被告コムネットが同目録記載1、2のソフトウェアの複製物を自動公衆送信又は送信可能化している(又はそのおそれがある)と主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。 また、原告コンセプトは、被告コムネットに対し、Vellum3.0コードのうちAdditionsのプログラム著作権及びそのマニュアルの著作権に基づき、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のCADソフトウェア及びそれらのマニュアル(使用説明書)の展示の差止めも求めているが、著作権法上、展示権とは、美術の著作物又は未発行の写真の著作物を原作品により公に展示する権利であり(同法25条)、Additions及びVellum3.0のマニュアルはこれらの著作物には該当しないから、その展示権は認められず、これに対する侵害を観念することはできない。 (5) 差止めの必要性、許容性 前示のとおり、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアは、Additionsを含むものであり、原告コンセプトがAdditionsについて有するプログラム著作権を侵害するものであるから、Additionsのプログラム著作権を有する原告コンセプトは、被告コムネットに対し、著作権法112条の規定に基づき、その侵害行為の差止めを求めることができる。 この点、被告コムネットは、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアに含まれるAdditionsの部分はわずかであり、しかも、実際にAdditionsの機能を利用することはできないとして、同目録記載1、2のソフトウェア全体の差止めを認めることは被告コムネットに過大な不利益を与えるものであると主張するが、仮に被告コムネットが侵害するAdditionsの部分がわずかであり、また、実際にAdditionsの機能を利用することができないとしても、ソースコードの具体的記述を同一にする部分が現に存在する以上、複製権、翻案権を侵害するものということを妨げないし、また、本件において、Vellum3.0コードからAdditionsの部分が可分であることについて適切な立証がされていないから、Additionsの侵害部分がわずかであったとしても、これを利用するソフトウェア全体の使用を差し止めざるを得ないというべきである。 また、被告コムネットは、Vellum2.7コードの二次的著作物であるVellum3.0コードに係るプログラム著作権に基づき、原著作権者(原告アシュラ)から適法に許諾を受けている被告コムネットに対して権利行使をするのは権利の濫用であるとも主張するが、二次的著作物であっても、原著作物とは独立した著作権の保護を受けるものであるから、被告コムネットの上記主張は失当である。 (6) 被告コムネットに過失があったか 被告コムネットは、コンピュータソフトウェアの研究開発、制作販売等を業とする会社であるから、自己の開発、制作するソフトウェアが他者のプログラム著作権を侵害することがないように注意すべき義務を負っているということができる。 この点、被告コムネットは、原告アシュラからAshlar-Vellum Graphite(英語版)のソースコードの提供を受けた際、Additions部分が削除されている旨の説明を受けていたから、仮にAdditionsに係る原告コンセプトのプログラム著作権を侵害したとしても過失がないと主張するが、被告コムネットが原告アシュラから上記のような説明を受けたことについて、これを認めるに足りる的確な証拠はない。また、被告コムネットは、Vellum3.0コードのプログラム著作権がファモティクから第三者に移転されたことを知らなかったから、原告コンセプトが有するAdditionsのプログラム著作権侵害について無過失であるとも主張するが、ファモティクが平成16年4月9日に破産宣告を受けたことは破産手続上公告されており、これによってVellum3.0コードに係る権利関係に変動があり得べきことは被告コムネットにも知り得たことというべきであり、また、Vellum3.0コードのプログラム著作権が原告コンセプトに譲渡されたことはプログラム登録原簿に登録され、公示されていること(甲4)が認められるから、上記主張も採用することができない。 本件において、被告コムネットは、上記注意義務を尽くしていれば、Additionsに係る原告コンセプトのプログラム著作権の侵害を回避することができたというべきであり、これを覆すような事情は認められない。 7 争点(7)(別紙「原告コンセプト商品目録」記載の各ソフトウェア及びマニュアルは、Vellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権を侵害するものであるか)について (1) 侵害の成否 ア 前示のとおり、Vellum3.0コードは、本件修正契約に基づき、Vellum2.7コードに依拠して開発されたものであり、そのうちExtensionsコードの部分は、Vellum2.7基本コードを32ビット化するに当たって改変された部分で(本件修正契約2.1条、2.3条)、Vellum2.7基本コードと一体となって32ビットOS上のプログラムとして機能する。そして、Additionsは、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードと統合されてVellum3.0コードとして構成されること(本件修正契約2.3条)から、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードは、Vellum3.0コードからAdditionsモジュールを除外した部分として特定される。 Vellum3.0コードの上記構成からすると、 Vellum3.0の機能のうち、Additionsに係る機能(@サーフェスデータを自動作成する機能、Aサーフェスデータを視覚化する機能、B陰線処理の機能、Cサーフェスデータを各種ファイルと入出力する機能)を除くCAD機能は、すべてVellum2.7 基本コード及びExtensionsコードにより実現されることになる。 イ 別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、上記のCAD機能をすべて共有し、又は改良したものを共有していること(甲24、63、丙3)、また、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、近接する時間で順次制作販売されたものである(丙4)ところ、Vellum3.0コード(平成8年制作)は、Vellum2.7コードから改変されたものであり、別紙「原告コンセプト商品目録」記載3のソフトウェア(平成17年販売開始)は、同目録記載4のソフトウェアから改変されたものであること(丙9)、原告コンセプトにとって、直感的なユーザ・インターフェイス「ドラフティング・アシスタント」というCAD製品の特徴と機能、操作性(丙5、6、8)を維持し、その操作に慣れたユーザを囲い込むこと(丙7、8)で事業を継続する必要があったことからみて、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、いずれも平成8年に制作されたVellum3.0コードの基本的部分を維持しつつ、機能の拡張や不具合を修正するために改変を重ねて制作されたものであり、コーディング上もVellum3.0コードと類似しているものと認められる。 したがって、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、いずれも原告アシュラがプログラム著作権を有するVellum2.7基本コード及びコードExtensionsを複製、翻案したものであるということができる。 これに対し、原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアはVellum3.0 とは全く異なる製品である旨主張するが、そもそもVellum3.0 コードに依拠せずに各製品をどのようにして制作、開発したのかを明らかにしておらず、その主張の根拠がないというほかなく、上記主張を採用することはできない。 ウ なお、原告アシュラは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアのマニュアルについても、Vellum2.7コード及びExtensionsコードに係るプログラムを複製、翻案したものであると主張するが、上記マニュアルは、いずれも別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの使用方法等について解説したものであり、上記プログラムとは全く別の思想又は感情を創作的に表現したもの(著作物)であるから、原告コンセプトにおいて上記各マニュアルを複製、 頒布したとしても、Vellum2.7コード及びExtensionsコードに係る原告アシュラのプログラム著作権を侵害するものとはいえない。 したがって、原告アシュラの上記主張は採用することができない。 (2) 差止めの必要性 別紙「原告コンセプト商品目録」記載1、2のソフトウェア及びそのマニュアルが少なくとも平成17年9月14日まで販売されていたことは当事者間に争いがない。 原告アシュラは、原告コンセプトが同月15日以降も別紙「原告コンセプト商品目録」記載1、2のソフトウェア及びそのマニュアルを複製、頒布していると主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はない。 なお、同目録記載3のソフトウェアは、Windows及びMacintoshの双方のOS上で稼動するものであるから、その販売開始(平成17年9月15日)に伴い、同目録記載1のソフトウェア(Macintosh 用)及び同目録記載2のソフトウェア(Windows 用)の販売を中止することは合理的なことであり、今後、原告コンセプトにおいて、同目録記載1、2のソフトウェアの販売を再開するおそれがあるとも認められない。 したがって、同目録記載1、2のソフトウェア及びそのマニュアルについては、その複製、頒布等の差止めを認める必要性があるとはいえない。 8 争点(8)(商標権侵害)について (1) コンセプト商標権1、2の侵害 ア 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告コンセプトがコンセプト商標権1、2を取得した経緯について、次の事実を認めることができる。 (ア) アシュラジャパンは、平成5年9月16日、@アシュラ商標、及びAコンセプト商標1と同一の構成を有する商標(「アシュラベラム」及び「ASHLARVELLUM」の文字を上下2段に横書きして成る商標)について、商品及び役務の区分を「第9類」、指定商品を「電子応用機械器具及びその部品」として、商標登録出願した。(丙11、丙12の1)また、アシュラジャパンは、平成6年1月11日、Bコンセプト商標2と同一の構成を有する商標(「ドラフティングアシスタント」及び「DraftingAssistant」の文字を上下2段に横書きして成る商標)について、商品及び役務の区分を「第9類」、指定商品を「電子応用機械器具及びその部品」として、商標登録出願した。(乙23) (イ) 上記@、Aの商標は、平成8年7月31日に設定登録(登録番号は、順に@第3174407号、A第3174405号)がされ、上記Bの商標は、平成8年11月29日に設定登録(登録番号は第3219965号)がされた。(丙10、丙12の2、乙20の2・13頁) (ウ) アシュラジャパンは、平成9年4月ころ、ファモティクに対し、アシュラ商標権(@)及び上記A、Bの商標権を譲渡し、同年6月9日、その移転登録がされた。(丙10、丙12の2、乙20の2・13頁) (エ) ファモティクは、平成16年4月9日午後5時、東京地方裁判所において破産宣告を受け、同年8月26日、破産廃止(異時廃止)決定が確定した。(乙16) (オ) ファモティクは、平成16年8月27日ころ、アシュラ商標権を原告アシュラに譲渡し、同年9月10日、その移転登録がされた。(丙10) (カ) 原告コンセプトは、平成16年11月2日、上記A、Bの商標権について、不使用取消審判請求をするとともに、同日、コンセプト商標1、2について、商品及び役務の区分を「第9類」、指定商品を「電子応用機械器具及びその部品」等として、商標登録出願した。(甲16の1、2、甲17の1、2、乙24の1、乙25の1) (キ) 上記A、Bの商標権に係る不使用取消審判は、いずれも被請求人であるファモティクの答弁がなかったことから、上記Bの商標権については平成17年2月21日付けで、上記Aの商標権については同月22日付けで、その登録を取り消す旨の審決がされた。(乙24の7、乙25の6) なお、ファモティクは、当時、上記(エのとおり破産廃止決定を受け、清算会社として存続したが、残余財産の清算事務を行う清算人の選任はされていなかった。(乙24の4) (ク) コンセプト商標権1、2は、平成17年10月28日、設定登録された。(甲16の1、甲17の1、乙58、59) イ 上記認定事実によれば、コンセプト商標1、2は、先願に係る上記A、Bの商標(A登録第3174405号、B登録第3219965号)と同一であるが、上記A、Bの商標に係る商標権は、もともとファモティクないしアシュラジャパン(ファモティクの100%子会社)が、我が国における原告アシュラの代理店として、Vellumに関する事業を遂行するために取得したものであると認められる。 原告アシュラとファモティクとの間で締結された販売代理店契約(甲1)によれば、Vellumに関するすべての権利(特許権、著作権、商標権を含む。)は原告アシュラの独占的財産権であると定められており(6条(a))、同規定の趣旨からすれば、ファモティクは、破産によりVellum事業の継続をすることができなくなった以上、アシュラ商標権(上記@)とともに、上記A、Bの商標権を原告アシュラに移転する義務を負っていたものというべきである。そして、ファモティクの代表取締役であったBは、ファモティクの破産後、原告コンセプトの取締役に就任しているのであるから(乙18、乙24の4)、原告コンセプトは、上記経緯を当然認識していたことが認められる。すなわち、Bはファモティクの代表者として上記A、Bの商標権の原告アシュラへの移転を履行すべきであったのにあえてこれを履行せず、他方、Bが取締役を務める原告コンセプトは、上記移転が履行されていないことに乗じて、これらの商標について不使用取消審判請求をし、その取消審決(なお、上記ア(キのとおり、当時、ファモティクには代表者が欠けていたのであるから、その審判手続の適法性には疑問があるといわざるを得ない。)を得た上、コンセプト商標権1、2の取得に及んだものであり、原告コンセプトのコンセプト商標権1、2取得に至る経緯は、原告アシュラとの関係において著しく信義に反するものと認められる。したがって、原告コンセプトが、上記のような経緯で取得したコンセプト商標権1、2に基づき、原告アシュラの代理店である被告コムネットに対して、別紙標章目録記載1、2の標章の使用の差止めや、その使用(不法行為)による損害賠償を求めることは、著しく信義に反するものであり、権利の濫用として許されないというべきである。 (2) アシュラ商標権の侵害 ア 原告コンセプトは、原告アシュラがアシュラ商標権をVellum Investment Partners LLC に譲渡した旨主張するが、かかる事実を認めることができないことは、前記4(2)においてVellum2.7コード及びExtensionsコードのプログラム著作権について説示したところと同様である。 イ アシュラ商標は、別紙商標目録記載3のとおり、片仮名の「ベラム」とアルファベットの「Vellum」とを上下2段に横書きして成る商標であり、同商標から「ベラム」の称呼を生じる。なお、「ベラム」、「Vellum」とは、「子牛・子羊・子山羊などの皮を薄く剥いで鞣(なめ)し、筆記用としたもの。羊皮紙」の意味を有するが(広辞苑第6版2537頁)、我が国において広く定着しているものとはいい難いから、アシュラ商標から特段の観念が生じるとまでは認められない。 ウ(ア) 原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のとおり、原告コンセプト標章1(「Vellum」)を付して、「VellumCAD Professional edition」、 「VellumCAD standard 6.0J」、 「Mac Vellum V1.0」の名称でCADソフトウェアを販売していたものであるが(丙3〜5、9)、これらの名称のうち、CAD(Computer Aided Design)は「コンピュータ支援デザイン」を表す普通名詞であり、「Mac」は、コンピュータの分野においては、固有名詞である「Macintosh」の略称であることは顕著である。また、「Professional edition」、「standard 6.0J」、「V1.0」は、いずれも当該ソフトウェアのグレードやバージョン(版)を表すものであると理解されるから、上記各ソフトウェア名の要部は、いずれも「Vellum」の部分であると認められる。 そして、この要部はアシュラ商標のアルファベット部分(Vellum)と同一であり、また、この要部からは、アシュラ商標と同様、「ベラム」の称呼を生じる。 したがって、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6の名称(標章)は、アシュラ商標と類似するということができるから、同目録記載4〜6の名称でCADソフトウェア(電子応用機械器具)を販売することは、アシュラ商標権を侵害する。 (イ) なお、原告アシュラは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアについても、原告コンセプトが「Vellum」を含む標章を付した広告を展示していると主張し、その証拠として、原告コンセプト作成に係るホームページ上の広告やパンフレット等(丙2〜9)を提出する。 しかし、丙2の文書は、原告コンセプトが得意先や関係者に対して発信した業務報告の履歴であり、「Vellum」を含む標章を商標として使用しているとは認められない。 また、丙3〜6は、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアを含む製品の案内のために原告コンセプトが作成した文書ないし記事であり、その一覧表中あるいは文中に「Vellum」という表記が用いられている箇所が存在するが、いずれも従来品である別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6の製品名等に言及するために記述されているにすぎないものであり、「Vellum」を含む標章を商標として使用しているものとは認められない。 同様に、丙7〜9は別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの広告であり、文中に「VellumCAD p.e.」、「Mac Vellum」等の記載があることが認められるが、これらの記載も、同目録記載1〜3のソフトウェアと「VellumCAD p.e.」、「Mac Vellum」等の異同について言及するために用いられているにすぎないもので、「Vellum」を含む標章を商標として使用しているものとは認められない。 したがって、原告アシュラの上記主張は理由がない。 エ 次に、原告アシュラは、原告コンセプトが別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの広告に「ASHLARVELLUM」の標章(原告コンセプト標章2)を付して頒布し、インターネットで提供していると主張する。 しかし、 原告コンセプトが作成したホームページ上の「VellumCAD/DraftBoard年表」と題する年表(丙4)には「Ashlar Vellum」についての言及がされているが、これはCADソフトウェアの変遷について記載したにすぎないもので、「ASHLARVELLUM」の標章を商標として使用しているものとは認められない。 また、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアに関するパンフレット(丙7、8)には「あのASHLARVELLUMを継承!」、「ASHLARVELLUM継承」等の表記が存在することが認められるが、これについても、同目録記載1〜3のソフトウェアと「ASHLARVELLUM」とを比較するために用いられているものであり、同目録記載1〜3のソフトウェアが「ASHLARVELLUM」であるとして販売するものではなく、「ASHLARVELLUM」の標章を商標として使用しているものとは認められない。 したがって、原告コンセプトが原告コンセプト標章2の使用によってアシュラ商標権を侵害しているとは認められない。 オ なお、原告コンセプトは、アシュラ商標権について、不使用による商標登録の取消審判の請求(商標法50条)をしており、今後、アシュラ商標権の登録が取り消される可能性が高いから、原告アシュラによるアシュラ商標権の行使は権利の濫用として許されないと主張する。しかしながら、上記ウ(ア)においてアシュラ商標権の侵害が認められたのは、平成17年6月30日まで(別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のCADソフトウェアの販売期間の終期)であるところ(甲65、甲66の1〜8、甲67の1〜12)、本件において、アシュラ商標権の不使用取消審判の請求がされたのは平成21年4月27日付けであるから(甲101)、仮に、今後、アシュラ商標権について不使用取消審決がされたとしても、アシュラ商標権が上記期間に遡って消滅することにはならない(商標法54条2項)。したがって、原告アシュラによるアシュラ商標権の行使について、権利の濫用に当たるものと解すべき事情は認められないから、原告コンセプトの上記主張は理由がない。 9 争点(9)(原告コンセプトの損害)について (1) 別紙「被告コムネット商品目録」記載2のソフトウェアは、平成17年9月9日に販売が開始されたCADソフトウェアであり(乙28)、原告コンセプトが販売していた別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアと市場において競合するものである。 また、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、3、5、6のソフトウェアは、包装設計用CADソフトウェアであり、パッケージの設計を支援するという用途に特化しているものであるが、基盤ソフトウェアにVellum3.0コードを利用していることから、その限度において、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアと市場で競合するものである。 したがって、原告コンセプトの損害については、同原告の主張に従い著作権法114条2項の規定により推定することとするが、前示のとおり、原告コンセプトが著作権を有しているのは、Vellum3.0コードのうちAdditionsの部分に限られること、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、3、5、6の各ソフトウェアは包装設計用であり、Vellum3.0に機能を追加して付加価値を生み出したものであることから、以下において、所要の補正を行うこととする。 (2) 原告コンセプトがVellum3.0コードのプログラム著作権及びマニュアルの著作権の譲渡を受けた平成16年5月18日以降の別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアの売上げは次のとおりである(なお、原告コンセプトが有するマニュアルの著作権を侵害する同目録記載3、5、6のマニュアル〈乙34〉の売上げもこれに含まれる。)。 ア 平成16年5月18日から平成20年3月31日までの売上額(争いがない) @ 同目録記載1のソフトウェア 806万8724円 A 同目録記載2のソフトウェア 2404万8687円 B 同目録記載3のソフトウェア 2733万4954円 C 同目録記載5、6のソフトウェア 2167万6990円 イ 平成20年4月1日から平成21年6月30日までの売上額(乙66〜68) @ 同目録記載1のソフトウェア 1680万7800円 A 同目録記載2のソフトウェア 592万3250円 B 同目録記載3、5、6のソフトウェア 38万9000円 ウ 上記ア、イの合計は、次のとおりである。 @ 同目録記載1のソフトウェア 2487万6524円 A 同目録記載2のソフトウェア 2997万1937円 B 同目録記載3、5、6のソフトウェア 4940万0944円 (3)ア ところで、平成18年2月18日(原告コンセプトが第1事件について 平成21年7月29日付け準備書面(17)により請求を拡張する前の不法行為の終期の翌日)から平成18年7月21日(原告コンセプトが第1事件について上記準備書面を当裁判所に提出した日〈平成21年7月22日〉の3年前の日)までの被告コムネットの行為については、仮に原告コンセプトの著作権及び商標権を侵害するとしても、その損害賠償請求権については、時効(民法724条前段)により消滅することになるとして、被告コムネットは、本訴において、この時効を援用している。 継続的な不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、当該行為により日々発生する損害につき被害者がこれを知ったときから各別に進行する(最高裁平成8年1月20日第一小法廷判決・裁判集民事171号1頁参照)。そして、原告コンセプトは、上記請求の拡張前から、前記2(1)アのとおり、被告コムネットの行為が原告コンセプトの著作権及び商標権を侵害するとして、平成16年5月18日から平成18年2月17日までの期間の損害賠償を求めていたものであり、かつ、同期間後も被告コムネットが同様の行為を継続していたことを認識していた、すなわち、継続的に損害が発生していたことを知っていたものと認められるから、損害発生の都度、その損害賠償請求権につき消滅時効が進行したものということができる。そして、訴え変更による時効中断の効力は、訴え変更の書面を裁判所に提出した時にその効力を生じる(民事訴訟法147条)から、平成18年2月18日から訴え変更の書面を裁判所に提出した日の3年前の日である同年7月21日までの期間に生じた損害については、民法724条前段の時効期間が経過し、被告コムネットがこの時効を援用したことにより、消滅したこととなる。 イ 上記期間(平成18年2月18日から同年7月21日まで)における別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアの売上げは、同目録記載2のソフトウェアが362万4000円(88本)、同目録記載3、5、6のソフトウェアが593万2650円(42本)であり、その分の損害賠償請求権は上記のとおり時効により消滅したから、計算上、この売上げを便宜ここで控除しておくと、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアの売上げは、次のとおりとなる。 @ 同目録記載1のソフトウェア 2487万6524円 A 同目録記載2のソフトウェア 2634万7937円 B 同目録記載3、5、6のソフトウェア 4346万8294円 (4)ア 別紙「被告コムネット商品目録」記載1のソフトウェアについて、証拠(乙66)によれば、上記の製造、販売に要した経費は合計1983万7752円(=153,417円/本×32本+244,728円/本×61本)であるから(原告コンセプトは、この点について何ら反論をしない。)、同目録記載1のソフトウェアの販売による利益は503万8772円となる。 同目録記載2のソフトウェアについて、証拠(乙64、66)によれば、上記の製造、販売に要した経費は合計2089万2612円(=31,500円/本×516本+35,141 円/本×132本)であるから(原告コンセプトは、この点について何ら反論をしない。)、同目録記載2のソフトウェアの販売による利益は545万5325円となる。 同目録記載3、5、6のソフトウェアについて、証拠(乙64、66)によれば、上記の製造、販売に要した経費は合計3559万3640円(=162,255円/本×218本+111,025 円/本×2本)であるから(原告コンセプトは、この点について何ら反論をしない。)、同目録記載3、5、6のソフトウェアの販売による利益は787万4654円となる。 イ 別紙「被告コムネット商品目録」記載2が一般のCADソフトウェアであるのに対し、同目録記載1、3、5、6は包装設計用CADソフトウェアであり、一般のCADソフトウェアに包装設計用プログラムを付加したものであるから、この付加部分の販売による利益については、Additionsには関係がないものとして、被告コムネットの利益から控除する必要があるというべきである。そして、一般のCADソフトウェアである同目録記載2のソフトウェアの1本当たりの利益額が8418円(=5,455,325円/(516本+132本))であることから、同目録記載1、3、5、6のソフトウェアの販売による利益のうち、この額を超える部分については、包装設計用プログラムが寄与しているものと推認することができる。 また、原告コンセプトが有するのはVellum3.0コードのうちAdditionsに係るプログラム著作権であるところ、原告アシュラとファモティクとの間で締結されたソースコードライセンス契約(乙5の1、2)において、原告アシュラがファモティクに対して支払うべきロイヤリティと、ファモティクが原告アシュラに対して支払うべきロイヤリティとがほぼ同率と定められていること(5.1条、5.2条)を考慮すると、Vellum3.0コードにおいて、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードの寄与率とAdditionsの寄与率はほぼ等しいと考えるのが相当である。 ウ 以上を前提として、Additionsのプログラム著作権侵害により被告コム ネットが得た利益額を計算すると、次のとおり、合計404万5079円 であり、これが原告コンセプトの損害額と推定される。 @ 同目録記載1のソフトウェアの販売による利益 39万1437円(=8,418円/本×93本/2) A 同目録記載2のソフトウェアの販売による利益 272万7662円(=5,455,325 円/2) B 同目録記載3、5、6のソフトウェアの販売による利益 92万5980円(=8,418 円/本×220本/2) (5) 原告コンセプトは、弁護士を選任して本件訴訟を追行しているところ、本件事案の難易、上記認容額その他諸般の事情を考慮すれば、被告コムネットの不法行為による損害賠償と相当因果関係の認められる弁護士費用の額は、50万円と認めるのが相当である。 (6) 以上のとおり、原告コンセプトの損害額は、合計454万5079円と認められる。 10 争点(10)(原告アシュラの損害又は損失)について (1) 著作権侵害による損害額(著作権法114条2項) ア 前示のとおり、原告コンセプトが販売する別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、原告アシュラが代理店である被告コムネットを通じて販売する別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアと市場において競合し得るものであるから、原告アシュラの損害額については、必要な補正を加えた上で、著作権法114条2項の規定により推定することとする。 イ(ア) 原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアについて、@平成16年9月1日から平成18年10月31日まで合計7459万3016円を販売し、A同年11月1日から平成20年3月31日まで、合計3633万4948円を販売した。(甲66の5〜8、甲67の1〜12、甲68の1〜12、甲69の1〜21、甲70の1〜3) 上記@、A(合計43か月)の販売合計額は1億1092万7964円であり、1か月当たりの平均販売額は257万9720円であるから、原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアについて、B平成20年4月1日から平成21年7月15日まで、少なくとも3869万5800円の売上げを得ているものと推認することができる。 上記@〜Bを合計すると、原告コンセプトが平成16年9月1日から平成21年7月15日までに販売した別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの売上げは、合計1億4962万3764円であると認められる。 (イ) また、原告コンセプトは、C平成16年5月18日から平成17年6月30日まで、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアの販売により、合計1934万8969円の売上げを得ている。(甲66の1〜8、甲67の1〜6) (ウ) 上記(ア)、(イ)によれば、原告コンセプトが別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売により得た売上げは、合計1億6897万2733円となる。 ウ 原告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの経費として「部材費」及び「開発費」を挙げ、平均粗利益率が68.30%であるとしているところ(甲65)、売上げから更に控除されるべき費用の存在について何ら主張、立証しない。そこで、原告コンセプトの利益については、上記利益率によって算定することとする。 また、原告アシュラが有しているのは、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードに係るプログラム著作権であるところ、Vellum3.0コードにおいて、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードの寄与率とAdditionsの寄与率がほぼ等しいと考えられることは前示のとおりである。 エ 以上を前提として、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害により、原告コンセプトが得た利益額を計算すると、次のとおり、合計5770万4186円となる。 (ア) 上記@の売上げによる利益 2547万3514円 (=74,593,016円×0.683×0.5) (イ) 上記A、Bの売上げによる利益 2562万3000円 (=〈36,334,948円+38,695,800円〉×0.683×0.5) (ウ) 上記Cの売上げによる利益 660万7672円 (= 19,348,969円×0.683×0.5) オ なお、原告アシュラは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアについて、Vellum2.7コード及びExtensionsコードの使用料相当額が1本当たり2万5000円であることを前提として、著作権法114条3項に基づく損害又は損失額についても主張している。 しかしながら、本件修正契約(甲2、18)において、ファモティクがVellum3.0の販売により原告アシュラに支払うべきロイヤリティの額は純収益の12%とされているのであるから、Vellum2.7コード及びExtensionsコードに係る「著作権の・・行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法114条3項)については、この定めを一応の基準とするのが相当であり、原告アシュラの主張する使用料の額(ソフトウェア1本当たり2万5000円)は過大というべきである。 そして、上記使用料率によって算定した損害額が上記エの損害額を下回ることは明らかであるから、著作権法114条3項に基づく損害又は損失額については判断の限りでない。 (2) 商標権侵害による損害額(商標法38条3項、4項) ア 前示のとおり、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6の名称でCADソフトウェア(電子応用機械器具)を販売することは、アシュラ商標権を侵害する。 イ 前記8(1)ア(オ)のとおり、原告アシュラがアシュラ商標権を取得したのは平成16年9月10日であるところ(丙10)、同日から平成17年6月30日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアの売上げは、少なくとも1012万1969円である。(甲65、甲66の5〜8、甲67の1〜6) 商標法38条3項の「登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額」は、当該商標の価値(自他識別力、顧客吸引力の強弱)やその侵害の態様、侵害者の得た利益、当事者間の競合関係その他の具体的事情を考慮して定められるべきであるが、本件において、アシュラ商標は、一定の知名度を有しており、それなりの自他識別力、顧客吸引力を有していること、原告アシュラと原告コンセプトは競合関係にあること、原告コンセプトによるアシュラ商標権の侵害期間が1年間にも満たないこと、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、原告コンセプトが別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6の名称でCADソフトウェア(電子応用機械器具)を販売したことによって原告アシュラに支払うべきアシュラ商標の使用料相当額は、上記売上額(1012万1969円)に5%を乗じた額(50万6098円)と認めるのが相当である。 また、原告アシュラは、弁護士を選任して、第2事件において、アシュラ商標権侵害(不法行為)による損害賠償請求をしているところ、当該事案の難易、上記認容額等諸般の事情を考慮すれば、上記弁護士費用のうち5万円が上記不法行為と相当因果関係のある原告アシュラの損害であると認められる。 (3) 上記(1)、(2)の合計は、5826万0284円であり、これが原告アシュラの受けた損害額であると認められる。 (4) なお、原告コンセプトは、原告アシュラに対して有する損害賠償請求権(Additionsの不正使用による損害賠償請求権)を自働債権とし、原告アシュラが原告コンセプトに対して有する不当利得返還請求権(Vellum2.7コード、Extensionsコードの不正使用及びアシュラ商標の不正使用による不当利得返還請求権)を受働債権として、両者を対当額で相殺する旨の意思表示をしているが(争点(10)イ)、前記第2の1(2)のとおり、原告アシュラは、原告コンセプトに対し、不法行為による損害賠償請求権と不当利得返還請求権を選択的に主張しているところ、上記(1)、(2)において認容されたのはいずれも不法行為(著作権侵害、商標権侵害)による損害賠償請求権であるから、上記相殺の抗弁については判断の限りでない。 第4 総括 以上判示したところによれば、原告コンセプトの請求は、主文第1〜第3項の限度で、原告アシュラの請求は、主文第4〜第6項の限度で、それぞれ理由があるから、その限度で認容し、その余はいずれも理由がないから、これをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 中村恭 裁判官 鈴木和典 別紙 被告コムネット商品目録 次の名称を有するCADソフトウェア(ただし、マニュアルを含まない) 1 BOX-Vellum Graphite 5 2 Ashlar-Vellum Graphite 3 BOX-Vellum 3.5 4 BOX-Vellum 4.0 5 BOX-Vellum 4.01 6 BOX-Vellum 4.03 別紙 原告コンセプト商品目録 次の名称を有するCADソフトウェア(ただし、マニュアルを含まない) 1 DraftBoard Unlimited V1.0 for Mac OS X 2 DraftBoard Unlimited V1.0 for Windows 3 DraftBoard Ver.2.0 Hybrid 2D/3D CAD 4 VellumCAD Professional edition 5 VellumCAD standard 6.0J 6 Mac Vellum V1.0 別紙 標章目録 1 ASHLAR−VELLUM 2 ドラフティング・アシスタント 別紙 商標目録 1 登録番号 第4904754号 出願年月日 平成16年11月2日 登録年月日 平成17年10月28日 商品及び役務の区分 第9類 指定商品 写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、測定機械器具、電線及びケーブル、電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品、家庭用テレビゲームおもちゃ、携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM、レコード、メトロノーム、電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、電子出版物 登録商標 アシュラベラム ASHLARVELLUM(商標イメージ略) 2 登録番号 第4904753号 出願年月日 平成16年11月2日 登録年月日 平成17年10月28日 商品及び役務の区分 第9類 指定商品 写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、測定機械器具、電線及びケーブル、電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品、家庭用テレビゲームおもちゃ、携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM、レコード、メトロノーム、電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、電子出版物 登録商標 ドラフティングアシスタント DraftingAssistant(商標イメージ略) 3 登録番号 第3174407号 出願年月日 平成5年9月16日 登録年月日 平成8年7月31日 商品及び役務の区分 第9類 指定商品 電子応用機械器具及びその部品 更新登録年月日 平成18年5月2日 登録商標 ベラム Vellum(商標イメージ略) |
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