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【事件名】ツイート引用事件
【年月日】令和3年5月26日
 東京地裁 令和2年(ワ)第19351号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年3月19日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 小沢一仁
Y´こと被告 Y1(以下「被告Y」という。)
被告株式会社 現代書館(以下「被告会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 神原元
同 太田啓子


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して220万3300円及びこれに対する令和元年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、別紙書籍目録記載の書籍を複製し、頒布してはならない。
3 被告らは、別紙書籍目録記載の書籍を廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 第1項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「Twitter」(以下「ツイッター」という。)に原告が投稿した別紙「原告ツイート」記載のツイート(以下「本件ツイート」という。)について、被告Yが、その全文を複製した上で、これを批判する文章を執筆し、被告会社が別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)に同文章を掲載して出版した行為が、原告の著作権(複製権又は翻案権)、著作者人格権(同一性保持権)及び名誉感情を侵害すると主張し、原告が、被告らに対し、民法719条、709条、著作権法114条3項に基づく損害賠償として220万3300円及びこれに対する不法行為の日(出版日)である令和元年11月12日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、著作権法112条1項に基づく本件書籍の複製及び頒布の差止め並びに同条2項に基づく本件書籍の廃棄を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、ツイッターにおいて、ユーザー名「@●省略●」を使用して投稿等を行っている。(甲1)
イ 被告Yは、平成31年1月24日、ツイッターに、「職場でハイヒールやパンプスの着用を女性に義務付けることは許容されるべきでない」旨の投稿をし、多数の賛同を得たことをきっかけに、「靴」と「苦痛」に「#MeToo」を掛け合わせた「#KuToo」(クートゥー)と称する活動(以下「本件活動」という。)を行っている。
ウ 被告会社は、図書出版及び販売等を目的とする出版社である。(甲7)
(2)ツイッターについて(乙26〜32)
ア 概要
 ツイッターは、日本語の場合全角140字の短文をインターネットに投稿(ツイート)することができる短文投稿サイトである。ツイッターにアカウントを登録し、ログインすると、自分専用のページ「ホーム」の「タイムライン」に、自分の投稿と、あらかじめフォローしたユーザーの投稿が時系列順に表示される。投稿は、画面上部のボックスに投稿内容を入力し、「ツイート」ボタンを押すことで完了する。ツイートには、自由に設定できる表示名(以下「アカウント名」という。)、半角英数字等を用いたユーザー名(先頭に「@」が付される。)が表示される。
イ 投稿の種類等
(ア)「ツイート」とは、ユーザーから投稿される140字以内の文章のことをいい、それぞれのツイートに固有のURLが割り当てられる。投稿を投稿者とそのフォロワーのみの限定公開とする設定(プロテクト)をしない限り、ツイートした内容は、全てのアカウントに公開される。
(イ)「リプライ」とは、他のユーザーに宛てた投稿のことをいい、「@ユーザー名(投稿したい内容)」の書式で投稿すると、そのユーザー宛ての返信扱いとなる。自分宛ての投稿は、一覧ページで確認することができる。
(ウ)「リツイート」とは、他のユーザーの投稿を再投稿することをいう。単純な再投稿のほか、他のユーザーの投稿にリツイートするユーザー独自のコメントを付けてのリツイートもでき、これは引用ツイート、引用リツイートなどといわれる。
ウ ハッシュタグ
 ハッシュタグは、ツイッターでキーワードやトピックを分類するために使われるもので、ツイートの関連キーワード又はフレーズの前にハッシュタグ記号(#)を付して投稿すると、ツイートが分類され、ツイッター検索に表示されやすくなる。公開アカウント(非公開設定をしていないアカウント)でハッシュタグ付きのツイートをすると、そのハッシュタグを検索した利用者が当該ツイートを閲覧する可能性がある。
 ハッシュタグは、ツイートのどこにでも付けることができるが、ハッシュタグの機能を使用するためには、ハッシュタグ化したいキーワード等(#記号を付したキーワード等)の前後に半角スペースを入れる必要がある。ハッシュタグ化された部分は青く表示される。
 ハッシュタグを付するキーワード等に大文字と小文字の区別や仕様上の差異はなく、例えば、「#KuToo」で検索すると、「#kutoo」も検索対象に含まれる。
(3)本件ツイートに至る経緯及び被告Yの引用ツイート
ア アカウント名「A…」(以下「A」という。なお、同アカウント名中の「…」は、冒頭の「A」以下の記載を省略したことを意味する。以下、他のアカウントについて同じ。)は、令和元年6月6日、日経ビジネス電子版の「反パンプス運動『痛い靴で働くのは嫌』は当たり前」と題する記事にリンクを張った上で、「#KuTooに反発する人へ」と題する引用ツイートをツイッター上に掲載した。
イ これを端緒として、本件活動に批判的なアカウント名「B…」(以下「B」という。)及び原告(アカウント名「はるかちゃん…」)並びに本件活動に賛同するアカウント名「ゴリラ…」(以下「ゴリラ」という。)が参加し、別紙「スレッド上の投稿一覧」記載のスレッド(以下「本件スレッド」という。)において、同別紙掲記の一連のツイートのやりとりが行われた。
 原告は、令和元年6月7日午後1時3分、ゴリラのツイートに対する返信として、「逆に言いますが男性が海パンで出勤しても#kutooの賛同者はそれを容認するということでよろしいですか?」とのツイート(本件ツイート)をした。
ウ 被告Yは、同日午後1時14分、本件ツイートを引用し、別紙「被告Yの引用ツイート」記載のとおり、「そんな話はしてないですね。もしも#KuTooが「女性に職場に水着で出勤する権利を!」ならば容認するかも知れませんが、#KuTooは「男性の履いている革靴も選択肢にいれて」なので。」とのツイートをした。(甲8、9、乙4)
(4)本件書籍の発行及びその内容等
ア 本件書籍の発行
 出版社である被告会社は、令和元年11月20日、被告Yの執筆した「#KuToo(クートゥー)靴から考える本気のフェミニズム」(本件書籍)を発行し、その販売を開始した。(甲5)
イ 本件書籍の内容(甲5、乙5)
(ア)本件書籍の第2章には、「2#KuTooバックラッシュ実録140字の闘い」との表題の下、「2019年6月3日、Y´はChange.orgの#KuTooキャンペーンで集まった署名を厚生労働省に提出し、賛同者へツイッターとブログで報告した。それと同時に、彼女へのリプライや引用リツイート機能による誹謗中傷、#KuTooのハッシュタグをわざわざつけたバッシングツイート――いわゆる“クソリプ”が数えきれないほど投稿された。…ハンドルネームの見ず知らずの人びとは「たかが靴ごときで」「男性だって辛いんだ」などの言葉で女性の苦痛を蔑み、…彼女を傷つけた。…この章では、Yを攻撃したクソリプをツイッターの中から引っ張り出し、…「物言う女」に嫌悪を抱くメンタリティーの危うさを読者とともに考えていきたい。(編集部)」との記載がある(58〜59頁)。
 なお、本件書籍には、「クソリプ」との語句について、「クソみたいなリプライ(ツイッターの返信機能を使って、見当はずれな内容や中傷的な言葉を投稿すること)」と注記されている(7頁)。
(イ)本件書籍の第2章は、見開きの左頁上段に本件活動に批判的な他人のツイート(アカウント名及びユーザー名と、ツイートのURLの記載を含む。)、同頁下段にこれに反論する被告Yのツイートを掲載し、見開き右頁に、当該他人のツイートの分類名を表題として付した上で、その下に、同ツイートに対する被告Yの批判的なコメントを掲載する、という形で構成されている。
(ウ)別紙「対象著作物」記載のとおり、本件書籍の72及び73頁から構成される見開き(以下、両頁の記載全体を「本件批評」という。)のうち、その左頁(72頁)上段には本件ツイートが原告のアカウント名、ユーザー名及びツイートのURLとともに掲載され、その下に被告Yの引用ツイートが掲載されている。また、同見開きの右頁(73頁)には、本件ツイートを「逆が全然逆じゃない系」と分類した上で、本件ツイートに関する被告Yの批判的な批評が掲載されている。被告らは、本件書籍に本件ツイートを掲載することにつき、原告の承諾を得ていない。
3 争点
(1)本件批評における本件ツイートの複製が著作権法32条1項の引用に当たるか否か(争点1)
(2)同一性保持権侵害の成否(争点2)
(3)名誉感情毀損による不法行為の成否(争点3)
(4)原告の損害額(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件批評における本件ツイートの複製が著作権法32条1項の引用に当たるか否か)について
(被告らの主張)
 本件批評における本件ツイートの複製は著作権法32条1項の引用に当たるから、被告らに著作権(複製権又は翻案権)侵害は成立しない。
(1)他人の著作物の引用が著作権法32条1項の規定により適法となる要件は、@公表された著作物であること、A公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること、B引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する著作物と、引用されて利用される著作物を明瞭に区別して認識することができること(明瞭区別性)、C両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があること(付従性)の4つである。
(2)これを本件につきみると、被告Yによる本件批評における本件ツイートの引用(以下「本件引用」という。)は、上記各要件をいずれも満たすので、適法な引用に当たる。
ア 公表された著作物であること
 本件ツイートは、インターネットに接続しさえすれば誰でも閲覧できるツイッターに投稿されたものであるから、この要件は当然充足する。
イ 公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること
(ア)引用の目的
 本件書籍59頁には、「この章では、Yを攻撃したクソリプをツイッターの中から引っ張り出し、…「物言う女」に嫌悪を抱くメンタリティーの危うさを読者とともに考えていきたい。」との記載があるから、本件引用の目的は、被告Yや本件活動に対する批判的なツイートを引用して批評を加えることである。
 本件ツイートは、「#kutooの賛同者」を主語として、「男性が海パンで出勤しても…容認するということでよろしいですか?」と述べるものであったから、単にゴリラに向けたものではなく、本件活動の賛同者に向けた批判であった。
 そして、本件ツイートは、「#kutooの賛同者は、男性が海パンで出勤しても容認するであろうか?いや、そのようなはずがない。」という趣旨を反語的に述べるものであるから、本件活動について否定的な印象を読者に与える。
 また、本件スレッドにおいて、原告が、職場の服装のTPOは「KuTooには直接関係ない」と述べていること自体が本件活動の趣旨を誤解したものであり、被告Yとしては、そのような誤解が広がることがないよう、原告のこのような投稿が的外れであるということを指摘する必要があった。
 このように、被告Yが本件ツイートを引用した目的は、原告の記述の背景にある理解が根本的に誤っていることを指摘するとともに、これに批評を加えることにあり、かかる目的は正当なものである。
(イ)引用の目的上正当な範囲であること
 本件ツイートは短い1文で構成されており、一部引用は不可能であるから、被告Yが本件ツイートの全文を引用したことは、引用の目的の正当な範囲内で行われたものである。
 また、ツイッターの機能(引用ツイート)を利用すれば、他人の1ツイート全文を引用してコメントを投稿することができるのであり、そのような引用は日常的に行われているから、被告Yの引用は公正な慣行にも合致している。
ウ 明瞭区別性
 本件批評における本件ツイートの引用箇所には、原告のアカウント名とツイートのURLが記載されている。一方、同頁下段には、冒頭にゴシック体で「Y´」と記載した上で、本件ツイートに対して被告Yが送った反論のツイートが掲載されている。このように、著作物の表現形式上、引用されて利用される本件ツイートは、本件批評の他の部分と明瞭に区別して認識することができるから、明瞭区別性の要件を充足する。
エ 付従性
 本件書籍の72頁に引用された本件ツイートは、1文で短いうえ、同頁下段には被告Yの反論のツイートが引用され、73頁全体に本件ツイートに対する批評が記載されているのであるから、本件ツイートの引用部分は、分量的にも内容的にも被告Yの著作物に対して従たる関係にあり、付従性の要件を充足する。
(3)したがって、本件ツイートの複製は著作権法32条1項の引用に当たる。
(原告の主張)
 本件書籍における本件ツイートの引用は、著作権法32条1項の要件を満たさないから、引用の抗弁は理由がなく、被告らには複製権侵害が成立する。
(1)著作権法32条1項の引用該当性の判断においては、他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならないところ、本件引用は、以下のとおり、公正な慣行に合致せず、引用の目的上正当な範囲内においてされたものではないことから、同項の引用の要件を充足しない。
ア 本件引用が公正な慣行に合致しないこと
 公正な慣行に合致するか否かは、世の中で著作物の引用行為として実態的に行われており、かつ、社会通念として妥当かどうかによって判断されるべきであるところ、本件引用は、本件ツイートの趣旨を意図的に歪めるものであって、このような利用態様は、世の中で著作物の引用行為として実態的に行われているとも、社会通念として妥当とも認められない。
(ア)本件ツイートの趣旨が歪められて本件書籍に掲載されたこと
a 本件ツイートの本来の趣旨は、会話の相手方であるゴリラに対し、職場における服装のTPOを理解させるために、極端な例を用いて説明を試みたものである。すなわち、本件ツイートは、本件スレッドにおけるやりとりの過程において、ゴリラが、「男は革靴を履いてもいいけど、女は革靴を履いちゃダメなんてTPOは間違ってますね。」との意見を述べたことに対し、原告が、「そもそも女が革靴を履いちゃダメな認識って女の人が広めてる認識デスヨネ」と意見を述べたことに端を発する。なお、本件活動は、職場で女性がハイヒールやパンプスの着用を強制されないことを主張するものであり(甲3)、ゴリラの上記意見とは直接関係しない。
 その後、原告とゴリラの間では、職場における服装規定(就業規則等により、特定の服装を義務付けられること)と、服装のTPO(強制はされないものの、時と所と場合に応じた服装を選ぶこと)に関する会話がされたが、原告は、ゴリラが原告のTPOに関する主張を理解していないと考え、「あなたが山へ登る時あなたは裸足に海パンで山へ登りますか?」と「登山」における服装のTPOに関する質問をしたところ、ゴリラが、女性が「職場に水着で入ってきても、男性は女性の服装に文句を言わないんですか?」と、「職場」において女性が水着を着ることの是非について質問をしてきたため、その流れで本件ツイートをするに至ったのである。
 原告が、ここで、「#kutooの賛同者」との語を用いたのは、ゴリラが最初に「KuTooに賛同します」と述べたからであり、「#kutooの賛同者」とはゴリラを指すものである。
b ところが、本件批評上の本件ツイートの趣旨は、原告が、被告Yに対し、唐突に、男性が海パンで職場に出勤することの是非を問いつつ、「#KuToo」のハッシュタグを付けて本件活動を批判したというものになっている。
 すなわち、本件書籍第2章のタイトルは、「2#KuTooバックラッシュ実録140字の闘い」であり、本件ツイートは、同章で取り上げられているから、本件ツイートが「バックラッシュ」(ジェンダー運動などの流れに反対する運動・勢力。甲14)に該当することが前提となっているが、同章の前書きに当たる58〜59頁には「バックラッシュ」との記載がない反面、専ら「クソリプ」について記載がされていることからすれば、本件書籍は、第2章において、「バックラッシュ」を「クソリプ」に置き換えている。
 そして、本件書籍7頁によれば、「クソリプ」とは、「ツイッターの返信機能を使って、見当はずれな内容や中傷的な言葉を投稿すること」と定義されているが(一般的定義)、本件書籍58頁では、「クソリプ」を「リプライや引用リツイート機能による誹謗中傷、#KuTooのハッシュタグをわざわざつけたバッシングツイート」とするような記載もあり(拡張的定義)、本書がいずれの定義を採用するのかは、本書の記載からは明らかではない。
 本件ツイートは、ゴリラとの会話の一部であり、「#kutooの賛同者」はゴリラを指すものであるため、「#kutoo」の部分はハッシュタグ化しておらず(当時の原告がハッシュタグの付け方を正確に理解していなかったこともあるが、いずれにせよ、二者間の会話であり、原告に、わざわざハッシュタグを付けて本件活動をバッシングしようとする意図など全くなかった。)、本件ツイートは、本来、上記の拡張的定義に当たらない。
 しかるに、本件批評上では、本件ツイートの「#kutoo」が「#KuToo」とハッシュタグ化されており、本件ツイートが拡張的定義に当たるよう変更されているし(このように、そもそも、本件批評は、本件ツイートを正確に掲載していない。)、また、本件批評は、全体として、ツイッターのスレッドの形式を模倣しており、原告のアカウントアイコンの上部には、一連のスレッドであることを示す縦線が引かれており、さらに、本件ツイートが被告Yに対する「クソリプ」(返信)とされていることからすると、本件ツイートは、被告Yに対する直接の返信の趣旨で本件書籍に掲載されている。
 したがって、本件書籍上の本件ツイートの趣旨は、原告が、被告Yに対し、唐突に男性が海パンで職場に出勤することの是非を問いつつ、「#KuToo」のハッシュタグを付けて本件活動を批判したというものになっている。
(イ)被告Yの行為が意図的であること
 被告Yは、意図的に本件ツイートの趣旨を歪めたものである。
a 本件ツイートは、原告がゴリラのツイートにリプライしたものであり、被告Yに対するリプライではない。本件書籍73頁では、本件ツイートが本件活動を批判するものであることを前提とした記載となっているが、これは、原告が被告Yに直接リプライしたことを強調するものである。
 原告は、被告Yの引用リツイート後、直ちに、被告Yに対し、「あぁ、あなたとはそんな話はしていませんよ?ゴリラさんが無茶なことを仰るのでそう返したのです」と指摘したが(甲9)、本件批評ではこの原告のツイートが無視されている。これは、原告の上記ツイートの指摘を含めて掲載してしまうと、本件ツイートが被告Yに対するリプライでないことが、読者に判明してしまうからである。
b 本件書籍では、合計57のツイートが「クソリプ」として掲載されているが、本件ツイート以外にも、「クソリプ」に該当しないものを掲載したり、掲載の際にツイートの一部を削除したりして趣旨を歪めたりするものが複数存在する(本件書籍70〜71頁、76頁、114〜115頁、124〜125頁)。
c 被告Yは、本件ツイートが投稿された頃、本件活動に批判的なツイートをいくらでも探すことができたはずであるが、同じような類型の「クソリプ」ばかりを集めていては単調な内容になって書籍としての魅力が失われるため、被告Yは、本件書籍において、様々な類型の「クソリプ」を扱おうとしていた。被告Yは、検索したツイートの中から特定の類型に振り分けられそうなツイートを探していたが(甲29)、その中には、特定の類型に当てはめるために、内容を変更する必要があるものもあった。
 本件ツイートについては、ハッシュタグ化されていない「#kutoo」のままでは原告とゴリラとの間の二者間の会話にしかならず、本件批評の「逆が全然逆じゃない系」の類型に当てはまらず、同批評における批判が成り立たないため、本件ツイートを本件活動に向けたツイートの趣旨に変える必要から、意図的に「#kutoo」をハッシュタグである「#KuToo」に変更したものである。
 このように、被告Yには本件ツイートの趣旨をゆがめる動機があった。
イ 本件ツイートの利用が引用の目的上正当な範囲内ではないこと
 本件書籍第2章の目的は、被告Yを「攻撃したクソリプをツイッターの中から引っ張り出し」「『物言う女』に嫌悪を抱くメンタリティーの危うさを読者とともに考えて」いくというものであったが、本件ツイートは、被告Yや本件活動に対するものではなかったから、本件書籍に本件ツイートを利用すること自体がそもそも誤りであって、本件書籍において本件ツイートを利用することに合理性は全くない。
 また、本件書籍によれば、原告は、被告Yに対し、「クソリプ」をする者であるから、本件書籍の読者は、原告に対し、批判的な感情を持つが、本件書籍に本件ツイートを掲載されることは原告の真意に反するものであるから、本件書籍の読者に批判的な感情を持たれること自体、原告としては耐え難いものである。また、書籍では、ツイッターのように、発信された情報に対し直接反論することができないため、誤った認識が広められるとこれを正すことが極めて困難である。加えて、本件書籍に本件ツイートを掲載した行為は、後記のとおり、原告の名誉感情を違法に侵害するものである。
 したがって、本件ツイートの利用は、引用の目的上正当な範囲内であるということはできない。
(2)被告らの主張について
ア 被告らは、被告Yが本件ツイートを本件批評に引用した目的につき、原告とゴリラとのやり取りを踏まえ、原告の的外れな批判を紹介し、本件活動への誤解を正すとともに、そのような誤解の背景にある社会構造を分析することにあったなどと主張する。
 しかし、被告Yが、本件スレッド中の原告の「ではまずTPOについて説明しましょうあなたが山へ登る時あなたは裸足に海パンで山へ登りますか?」というツイートを本件書籍の出版後に初めて見たと明言していることからすると(甲37の3)、同被告は、本件書籍の執筆に際し、原告とゴリラとのやり取り全体を把握していなかったことが明らかである。
 したがって、被告Yの引用目的が、被告らの主張するとおりとは考えられない。
イ 被告らは、「#KuToo」がハッシュタグ化した記載であることを否定する。
 しかし、「#KuToo」は、ハッシュタグを通じツイッターを始めとするインターネット上で認識が広まったという本件活動の経緯や、「クソリプ」の拡張的定義でも「#KuTooのハッシュタグをわざわざつけた」との記載があること、さらに、本件書籍の55頁以下(1章のまとめ部分)でも、小見出しの「最後に、私や#KuTooに対してクソリプしてくれたみなさん」を受けて、「みなさんがハッシュタグをつけてツイートをたくさんしてくれたおかげで、この運動がすごく盛り上がった」と記載されていること(甲39)といった本件書籍における記載ぶりからしても、本件書籍上でハッシュタグの意味を持つものとして扱われているということができる。
ウ 被告らは、本件ツイートが本件活動の賛同者に向けた批判であると主張する。
 しかし、「#kutoo」はハッシュタグ化されておらず、本件ツイートの文脈上も「#kutooの賛同者」はゴリラのことを指すとしか読み取れないこと、本件ツイートに対する被告Yの引用リツイートに対する原告のリプライの内容(甲9)からすれば、本件ツイートが本件活動の賛同者一般に向けた批判と評価される余地はない。
 また、被告らは、原告が「#kutoo」をハッシュタグ化する意思があったから、本件ツイートは本件活動に向けたものであると主張する。
 しかし、「#kutoo」はハッシュタグの意味を持たないし、原告にハッシュタグ化しようという意思もなかった(甲41)。原告にその意思があったとすれば、ハッシュタグの付け方を調べた上で、「#KuToo」でハッシュタグ化していたと考えられるが、原告がそのような対応をしていないことは、原告に本件活動に向けた発信をする意思がなかったことを示している。
2 争点2(同一性保持権侵害の成否)について
(原告の主張)
 本件批評中において、本件ツイートのハッシュタグ化されていない「#kutoo」を、ハッシュタグの意味で用いられている「#KuToo」に改変した行為は、原告の意に反して本件ツイートに係る原告の思想又は感情の創作的表現を改変する行為であるから、原告の同一性保持権を侵害する。
(被告らの主張)
 本件批評において、本件ツイートにおける「#kutoo」が「#KuToo」と表示されたのは、単なる誤植であるから、原告の同一性保持権を侵害しない。
3 争点3(名誉感情毀損による不法行為の成否)について
(原告の主張)
 本件批評は、原告の名誉感情を侵害するものであり、その侵害の程度は社会通念上許容される範囲を超えるものであるから、原告に対する不法行為を構成する。
(1)本件批評が原告の名誉感情を侵害すること
 被告Yは、本件批評において、本件ツイートの「#kutoo」を「#KuToo」に改変し、本件ツイートの趣旨を、被告Yに対する「クソリプ」となるように歪めた上、「#KuTooを男性が海パンで出勤する話に繋げるこの人の思考回路、どうなっているんだろう。この人が海パンで出勤したい願望あるのかな?」、「こういう人たちって、リアルな会話はどうなってるんだろうか…。リアルでもこんなに会話が噛み合わないのかなぁ。でもさすがに対面でこんなへんてこりんな人に会ったことないしな…。Twitterになると急にバグるとか?」などと、原告が現実社会では存在しないほど特異な人物であるとの印象を与える意見を述べた。
 被告Yの上記意見は、前提となる本件ツイートの趣旨を歪めたものであり、全体として全く的外れであり、本来とは異なる趣旨に歪められたツイートを、あたかも原告の真意に基づくツイートであるかのような体裁で掲載したものである。このような被告Yの批判が、さも正当なもののように広められることは、原告にとってこの上ない屈辱である。
(2)名誉感情の侵害の程度が社会通念上許容される範囲を超えること
 被告Yは、社会的影響力が極めて強い人物である上、本件書籍を宣伝するツイートを固定しており(甲6)、毎日のように本件書籍を宣伝するツイートをしているから(甲31)、本件書籍の新たな購入者が増えれば、本件ツイートは世の中に更に広まることになる。このような形で、的外れな被告Yの批判が正当なものであるかのように広められることは、社会通念上許容される範囲を超えて、原告の名誉感情を侵害するものである。
 なお、原告は、ツイッター上で匿名アカウントとして活動しているが、匿名アカウントであることを理由に、原告の名誉感情の侵害が、社会通念上許容される範囲を超えないとされる理由はない。
(被告らの主張)
 本件批評は、原告に対し、社会生活上受忍すべき限度を超えた侮辱をするものではないから、名誉感情の毀損による不法行為を構成するものではない。
 名誉感情侵害につき、最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁は、「このような記述は、『気違い』といった侮辱的な表現を含むとはいえ、被上告人の人格的価値に関し、具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく、被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって、これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない」とし、東京地裁平成8年12月24日判決・判タ955号195頁は、「人の人格的価値その他の法的保護に値するものに対する名誉感情を害する行為が不法行為を構成するのは、…誰であっても名誉感情を害されることになるような、看過し難い、明確、かつ、程度の甚だしい侵害行為がされた場合…換言すれば、当該行為がされた状況下においてそれが持つ客観的な意味が、相手方の人格的価値等を全く無価値なものであるとしてこれを否定するものであるか、その程度が著しいなど、違法性が強度で、社会通念上到底容認しえないものである場合であり、実際上は加害の意思を持って甚だしい人格攻撃を行ったような場合に限られるものと解される」とする。
 本件批評中には、「逆が全然逆じゃない系」、「へんてこりんな人」と評する部分はあるが、かかる表現が、上記判例等の摘示する要件に該当するということはできない。
4 争点4(原告の損害額)について
(原告の主張)
 被告Y及び同被告と客観的に関連共同して本件書籍の出版・販売等をした被告会社の共同不法行為により、原告には、以下のとおり、合計220万3300円の損害が生じたから、被告らは、原告に対し、これを連帯して支払う義務がある。
(1)財産的損害3000円
 本件書籍の販売価格は1300円(税抜き)であり、本件ツイートが複製されたのは、全222頁中の約2分の1頁であるから、被告Yが得た本件書籍1冊当たりの利益のうち、本件ツイートに相当する部分の額は、2円(=1300円÷222頁÷2≒2.927円。小数点以下切捨て)である。
 そして、被告Yのツイッターのフォロワー数が3万を超えることや、被告Yがツイッター上で本件書籍を頻繁に宣伝していることからすると、本件書籍の発行部数は少なくとも1万部に達したものと思われ、被告Yの印税率は15%と想定される。
 したがって、著作権法114条3項に基づく原告の財産的損害額は、3000円(=2円×10、000部×0.15)である。
(2)精神的損害計200万円
ア 同一性保持権侵害50万円
 被告Yは社会的影響力の大きい人物であるところ、本件書籍に本件ツイートの趣旨を歪められて掲載されたことにより原告が受けた精神的苦痛を金銭に評価すると、その額は50万円を下らない。
イ 名誉感情侵害150万円
 原告は、本件批評により的外れな批判を受け、本件書籍の出版によりこの批判が正当なものであるかのように広められた上、被告Yが訂正等を一切しないまま本件書籍の宣伝を毎日のように行っていることを併せ考えると、被告Yの行為により原告が受けた精神的損害は著しく、これを金銭に評価すると、その額は150万円を下らない。
(3)弁護士費用相当損害金20万0300円
 弁護士費用相当損害金としては、(1)及び(2)の合計額の10%相当額である20万0300円が相当である。
(被告らの主張)
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件批評における本件ツイートの複製が著作権法32条1項の引用に当たるか否か)について
(1)著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定する。同項の規定によれば、著作物の全部又は一部を著作権者の承諾を得ることなく自己の著作物に含めて利用するためには、@利用されるのが公表された著作物であること、A当該著作物の利用が引用に該当すること、B当該引用が公正な慣行に合致すること、C当該引用が報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであることの各要件を満たすことが必要であると解するのが相当である。
 本件ツイートは、ツイッター上に公開されたものであり、公開された著作物に当たると認められるので、以下、上記要件AないしCについて検討する。
(2)引用該当性(上記要件A)について
ア 著作物が「引用」されたというためには、当該著作物に接した一般人が引用されている部分を特定し、判別し得ることが前提となるので、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とが明瞭に区別されることが必要である。同様に、「引用」は他者の著作物の全部又は一部を自己の著作物に含めて利用する行為であるので、両著作物のうち、いずれが引用する側であり、いずれが引用される側であるかを一般人が判別し得ることが必要となる。そのためには、引用する側の著作物と引用される側の著作物に主従の関係があることを要するというべきである。
 そうすると、@引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること、及び、A引用する著作物と引用される著作物の間に、引用する側が主、引用される側が従の関係があることは、「引用」の基本的な要件を構成すると解するのが相当である(最高裁判所昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第3小法廷判決・民集34巻3号244頁参照。なお、同判決は、旧著作権法〔明治32年法律第29号〕30条1項2号(「自己の著作物中に正当の範囲内に於て節録引用すること」)に関する判断であるが、「引用」の概念は現行法下においても妥当すると解される。)。
イ 本件ツイートは、前提事実(4)イ(ウ)のとおり、本件書籍の72及び73頁から構成される見開きのうち、その左頁上段に、原告のアカウント名、ユーザー名及びツイートのURLとともにその全文が掲載され、その下の少し離れた位置に被告Yの引用ツイートが掲載されているものであり、その記載事項、掲載形式、外観からして、利用される側の本件ツイートと、その他の部分とを明瞭に区別して認識することができる。
 また、本件ツイートに係る記載部分は見開き2頁のうちの左頁上段の5行(本文部分は3行)にすぎず、同頁の他の部分には、本件ツイートに反論する被告Yのツイート6行(本文部分5行)が、右頁には、その全体にわたって被告Yの批評が記載されていることからすれば、形式的にも内容的にも、被告Yのツイートやコメント部分が主であり、原告の本件ツイート部分が従であると認められる。
ウ したがって、本件批評に本件ツイートを複製して掲載した行為は、著作権法32条1項の「引用」に該当する。
(3)公正な慣行と合致するかどうか(上記要件B)について
ア 著作権法32条1項は、引用が「公正な慣行に合致すること」を要件としている。ここにいう「公正な慣行」は、著作物の属する分野や公表される媒体等によって異なり得るものであり、証拠に照らして、当該分野や公表媒体等における引用に関する公正な慣行の存否を認定した上で、引用が当該慣行に合致するかを認定・判断することとなると考えられる。
 そして、当該著作物の属する分野や公表される媒体等において引用に関する公正な慣行が確立していない場合であっても、当該引用が社会通念上相当と認められる方法等によると認められるときは「公正な慣行に合致する」というべきである。
イ 書籍において他人のツイートを引用する場合については、特に確立した慣行が存在するとは認められないが、本件批評は、原告のアカウント名、ユーザー名及びツイートのURLとともに、その全文を掲載されているものであり、その掲載形式や外観からしても、一見して他人のツイートを引用していると看取することができる。
 また、掲載された本件ツイートの本文は3行であり、後記(4)のとおり、読者がその趣旨を理解するためにはその全文を掲載することが必要であったと認められる。
 したがって、本件ツイートの引用方法は社会通念上相当であり、「公正な慣行に合致する」ということができる。
ウ なお、本件ツイートにおける「#kutoo」との表記は、本件批評においては「#KuToo」と表記されているが、本件引用は、その記載内容や掲載形式によると、本件ツイートをそのまま複製しようとしたものであると考えられ、ハッシュタグを意味する「#kutoo」との表記を、書籍において「#KuToo」と変更することに特段の意味があるとも考え難い上、本件書籍の他の箇所では元のツイートが「#kutoo」である場合にはそのまま表示されていると認められる(乙5)ことによれば、本件批評における「#KuToo」との表記は、「#kutoo」の誤記であると認めるのが相当である。
 そうすると、「#kutoo」と「#KuToo」の表記の差異は、本件ツイートの引用方法が「公正な慣行に合致する」との上記判断を左右するものではないというべきである。
(4)引用の目的上正当な範囲内であるかどうか(上記要件C)について
ア 著作権法32条1項は、引用が「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であることを要件としている。同要件は、引用部分を明瞭に区分し得ることを前提とした上で、当該引用部分が、認定された「引用の目的」との関係において「正当な範囲内」であることを求めるものであり、引用が「正当な範囲内」で行われたかどうかは、@引用の目的の内容及び正当性、A引用の目的と引用された著作物との関連性、B引用された著作物の範囲及び分量、C引用の方法及び態様、D引用により著作権者が得る利益及び引用された側が被る不利益の程度などを総合的に考慮して判断するのが相当である。
イ 本件批評の目的は、本件書籍の第2章序文の記載(前提事実(4)イ(ア))によれば、被告Yのツイートに対する返信リプライ、同被告のツイートを引用するリツイート、「#KuToo」のハッシュタグをわざわざ付したツイートなど、様々な形で投稿される本件活動を非難、中傷等するツイッターに対し、実際のツイートを個別に引用し、これを批評することにより、本件活動の意義や真意について読者に伝えることにあると認められる。
 そして、本件批評における「なんで女性の靴問題の逆が水着になるんだょ…。女性のみ水着での勤務が許されていて、男性はサウナスーツです、という状況だったら「俺たちにも水着を着る権利を!」ってなるんじゃないかな。…#KuTooっていうのはそういう感じの運動です。」との記載によれば、本件批評の目的も、本件ツイートを批評することにより、本件活動の意義や真意について読者に伝えることにあり、上記序文に記載された目的に沿うものであるということができる。
 そうすると、本件引用の目的は、本件活動を非難、中傷等するツイートを批評するという点にあり、その目的に不相当・不適切な点はないというべきである。
ウ 本件ツイートは、前提事実(3)ア〜ウのとおり、Aが「#KuTooに反発する人へ」と題する引用ツイートをツイッター上に投稿したことから始まった本件活動に関する一連のやりとりの中において、本件活動に賛同する旨を表明するゴリラの主張に対する原告の批判、反論として行われたものであると認められる。
 そして、本件ツイートの「男性が海パンで出勤しても#kutooの賛同者はそれを容認するということでよろしいですか?」との記載は、「本件活動の賛同者の主張によれば、男性が海水パンツで出勤することを容認するという非常識な結論に至ることになる」という主張を含意するものと理解することができるが、これは本件活動に対する批判、非難にほかならない。
 以上のとおりの本件スレッドにおいてやり取りが開始された経緯、本件スレッドにおける一連のやりとりの状況、本件ツイートの内容等に照らすと、本件ツイートは本件活動への批判等をその内容とするものであって、同ツイートは本件引用の目的の対象となる「本件活動を非難、中傷等するツイート」に該当するものである。
 そうすると、引用された著作物である本件ツイートは、本件引用の目的と関連するものであるということができる。
エ 本件批評には、一つのツイートである本件ツイートの全文が掲載されているが、本件ツイートは50字程度の一文から成るものであり、その内容を理解するためには、その全部を掲載することが必要かつ相当であるので、本件引用により利用された著作物の範囲及び分量は相当であったということができる。
 また、本件ツイートの引用部分には、本件ツイートにおける「#KuToo」との表記が「#kutoo」と表記されているが、前記(3)ウで判示したとおり、これは誤記であると認めるのが相当であり、これをもって引用の方法又は態様が不適切であるということはできない。
オ 本件批評は、公開された本件ツイートに対する批評であるが、原告は、これに対してツイッター上で反論・批評することは容易であり、原告が本件批評により経済的な不利益を被ったと認める証拠もない。
カ 以上によれば、本件批評における本件ツイートの引用は、「引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であると認められる。
 したがって、本件引用は、上記要件@〜Cの各要件を満たし、著作権法32条1項の適法な引用に当たるというべきである。
(5)原告の主張について
ア 原告は、本件ツイートの本来の趣旨は、会話の相手方であるゴリラに対し、職場における服装のTPOを理解させるために、極端な例を用いて説明を試みたものであり、「#kutooの賛同者」とはゴリラを指すのであって、本件活動を批判するものではないと主張する。
 しかし、前記判示のとおり、本件スレッド上のやりとりは、「#KuTooに反発する人へ」と題する引用ツイートがツイッター上に投稿されたことから始まったものであり、原告は本件活動に賛同する旨を表明したゴリラの主張を批判、反論するツイートを繰り返した上で、本件ツイートにおいて「#kutooの賛同者は」と記載しているのであり、これによれば、本件ツイートの趣旨が本件活動への批判・非難にあることは明らかである。
 したがって、本件ツイートが本件活動を批判するものではないとの原告主張は採用し得ない。
イ 原告は、本件ツイートは、被告Yのツイートに対するリプライではないので、本件書籍の批評の対象である「クソリプ」に該当しないにもかかわらず、被告Yは、意図的に、本件ツイートが被告Yに対する直接の返信であると理解されるように本件書籍に掲載していると主張する。
 しかし、そもそも「クソリプ」という言葉には定まった定義があるわけではなく、本件書籍7頁には「クソリプ」を「ツイッターの返信機能を使って、見当はずれな内容や中傷的な言葉を投稿すること」という注記はあるものの、本件活動の意義や真意を読者に伝えるという本件書籍の目的に照らすと、同書籍で取り上げるツイートを被告Yに対するリプライに限定する合理的な理由は見出し難い。
 また、本件書籍第2章の序文(58頁等)の記載によれば、被告Yは、同被告に対する返信リプライ、同被告のツイートを引用するリツイート、「#KuToo」のハッシュタグをわざわざ付したツイートなど、本件活動に対する非難、中傷等を内容とするツイートを「クソリプ」と称して、批評の対象としていると解するのが相当である。
 そして、本件批評の左頁には、上部に引用された他者のツイートが掲載され、その下に被告Yのツイートが掲載されているところ、このような形式にしたのは、本件活動を批判等するツイートと被告Yのツイートを対比し、その主張の違いを読者が理解しやすいように並べたものにすぎないと解するのが相当である。実際上、本件批評の左頁下部に掲載された被告Yのツイートは本件ツイートを引用してされたツイートであり、本件批評において本件ツイートと対比して掲載することが相当性を欠くということもできない。
 以上のとおり、本件書籍が対象とする他者のツイートが被告Yへのリプライに限定していると解することはできず、被告Yが、本件批評において、意図的に、被告Yに対するリプライとして本件ツイートがされたかのような体裁を作出したとも解することはできない。
 したがって、被告Yが、意図的に、本件ツイートが被告Yに対する直接の返信であると理解されるように本件書籍に掲載したとの原告主張は採用し得ない。
(6)以上のとおり、被告Yが本件ツイートを本件書籍の本件批評中に引用した行為は、著作権法32条1項の引用に当たるから、被告Yの著作権(複製権又は翻案権)侵害に基づく原告の請求は、いずれも理由がない。
2 争点2(同一性保持権侵害の成否)について
 原告は、本件批評中において、本件ツイートのハッシュタグ化されていない「#kutoo」を、本件書籍内でハッシュタグの意味で用いられている「#KuToo」に改変した行為は、原告の意に反して本件ツイートに係る原告の思想又は感情の創作的表現を改変する行為であるから、原告の同一性保持権を侵害すると主張する。
 しかし、前記1(3)ウで判示したとおり、本件批評における「#KuToo」との表記は「#kutoo」の誤記であると認めるのが相当であり、その意味に実質的な変更はない上、本件書籍の読者も「#KuToo」を「#kutoo」と表記することにより、本件ツイートの意味内容を誤解することはないというべきである。
 したがって、被告Yが原告の同一性保持権を侵害したとは認めることはできない。
3 争点3(名誉感情毀損による不法行為の成否)について
(1)原告は、被告Yは、本件ツイートの「#kutoo」を「#KuToo」に改変し、本件ツイートの趣旨を、被告Yに対する「クソリプ」となるように歪めた上、原告が現実社会では存在しないほど特異な人物であるとの印象を読者に与えるなどしたものであり、同被告の係る行為は、社会通念上許容される範囲を超えて、原告の名誉感情を侵害するものであり、不法行為を構成すると主張する。
(2)そこで検討するに、侮辱的な表現が、人の人格的価値に関し、具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく、同人の名誉感情を侵害するにとどまるものである場合には、これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて人の人格的利益の侵害が認められ得るものと解される(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。
(3)原告は、本件批評において、本件ツイートの「#kutoo」を「#KuToo」に改変し、本件ツイートの趣旨を、被告Yに対する「クソリプ」となるように歪めたと主張する。
 しかし、本件批評における「#KuToo」との表記は「#kutoo」の誤記であると認められることは、前記1(3)ウで判示したとおりであり、被告Yが本件ツイートの趣旨を同被告に対する「クソリプ」となるように歪めたということができないことは、前記1(5)イで判示したとおりである。
(4)原告は、本件批評の「#KuTooを男性が海パンで出勤する話に繋げるこの人の思考回路、どうなっているんだろう。この人が海パンで出勤したい願望あるのかな?」、「こういう人たちって、リアルな会話はどうなってるんだろうか…。リアルでもこんなに会話が噛み合わないのかなぁ。でもさすがに対面でこんなへんてこりんな人に会ったことないしな…。Twitterになると急にバグるとか?」などの表現が、社会通念上許容される範囲を超えて、原告の名誉感情を侵害すると主張する。
 しかし、上記記載は、具体的事実を摘示して原告の社会的評価を低下させるものには該当しないところ、「へんてこりんな人」、「Twitterになると急にバグる」などの表現が原告の名誉感情を侵害するものに当たるとしても、これらの記載の趣旨は、本件活動が女性の靴問題にあるにもかかわらず、本件ツイートが海水パンツで男性が出勤するという女性の靴問題とはかけ離れた極端な状況を例として本件活動を批判していることについて、「逆に」という表現の使い方も含め、その趣旨が通常人の感覚や認識と乖離しており、その発想が理解し難いという点にあるものと考えられる。
 そうすると、上記記載には、原告の名誉感情を侵害する部分があるとしても、これらの表現が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に該当するということはできない。
(5)したがって、被告Yに原告の名誉感情侵害による不法行為が成立するとは認められず、これに基づく原告の損害賠償請求は理由がない。
4 結論
 原告の請求は、その余の争点について検討するまでもなく、全て理由がないので、これらをいずれも棄却することとして、よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 齊藤敦
 裁判官三井大有は、転補につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 佐藤達文


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